サクラ大戦~もう一つの視点   作:アマゾンズ

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帝国華撃団に伯林華撃団が伯林歌劇団としてオペラの歌声を披露。

次世代の帝国華撃団・花組と伯林華撃団に初穂が日本の舞を見せる。



第十二・五話 戦乙女の歌声と日の本の舞

伯林華撃団が出発して三日が経過し、日本へと上陸した。エリスとマルガレーテは何度か訪れているために慣れているが、グラーフを始めとした他のメンバーはどこか緊張している様子だ。

 

「テイト、というのは賑やかなのだな・・・」

 

「人々が行き交う街並みは美しいぞ、グラーフ」

 

「慰安も兼ねているけど、まずは大帝国劇場へ向かうべき。それと緊張しすぎよ」

 

「う・・・」

 

「(狛江梨・・・また出会えるのか・・・?)

 

エリスはまた、右手を唇に持っていく例のクセを行っていた。その真意を見抜いているマルガレーテとグラーフは額に手を軽く当てている。他のメンバー達は不思議そうに見ているだけで何も言葉を返さない。

 

伯林華撃団の面々は宿となるホテルの予約や、帝国華撃団との会合のスケジュールを確認し、帝都へと向かっていった。

 

 

 

 

 

伯林華撃団が移動を開始した時刻と同時刻。花組と直仁は公演予定の「シンデレラ」の打ち合わせを行っていた。今回は配役に関してだ。

 

「シンデレラ役には天宮、お前を抜擢する」

 

「わ、私ですか!?」

 

「そうだ。王子様役にはアナスタシアだ」

 

「わかったわ」

 

「継母、義姉妹役には初穂、クラリス、あざみだ。問題は魔女役を誰が兼任するかだが・・・」

 

「あ、あの・・支配人」

 

「ん?」

 

「わ、私が兼任します!」

 

意外な事に声を上げたのはクラリスだった。積極的に声を上げることのなかったクラリスに対し、直仁は少しだけ笑みを浮かべて挑戦的な言葉を出す。

 

「やれるのか?一人で二人分の役だぞ?」

 

「やります!やってみせます!セリフはさほど多くありませんし、練習する時間もまだまだありますから!」

 

こんな積極的なクラリスは見た事がない、といった表情を花組のメンバー達はしている。厳しい練習と指導に耐えてきているのが、彼女の積極性を目覚めさせたのだろう。

 

「そうだな・・・じゃあ、練習の時は天宮とアナスタシアの二人と一緒に行う事、いいな?」

 

「はい!」

 

「あ、あのよ・・・支配人。アタシからも良いか?」

 

「どうした?初穂」

 

「アタシの家でさ、巫女舞をやらなくちゃならなくなったんだ。だから、練習のために舞台を使いたいんだよ」

 

「そうか、なら全体練習や指導がない時に使うといい。帝劇は基本的に自由意思を束縛することはしないからな」

 

「ありがてえ、助かる!舞台の上のような場所で練習しないと意味がなかったんだ!」

 

初穂の喜びように少しだけ、笑みを浮かべる直仁。だが、伯林華撃団が本日到着予定との連絡を受けていたため、パンパン!と手を二回叩き、注目させ言葉を発する。

 

「前にも言っていたが、今日から伯林華撃団の面々がこの大帝国劇場に来る事になっている。かといってお前達がやる事は変わらない、稽古をキチンとやる事だ。なんと言われようと自分達のやっていることを貫け!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「それと初穂、お前の巫女舞の練習中に伯林華撃団の面々が来るかもしれない。その時の見学は大丈夫か?」

 

「ああ、静かにしていてもらえれば大丈夫だぜ!」

 

「わかった。じゃあ・・・今日の次の稽古は午後からにしよう。解散だ!」

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

昼前に解散となってそれぞれが散っていく。直仁も準備を済ませ支配人室で伯林華撃団を待つことにした。

 

 

 

 

 

「此処がダイテーコクゲキジョウか、この街の中でかなり大きいな」

 

「・・・行くぞ。グラーフ、マルガレーテ」

 

Jawohl(了解)

 

エリス、マルガレーテ、グラーフの三人以外のメンバーは宿で、伯林華撃団の本部へ日本に到着した事や今後の支持をまとめる為に宿のホテルに残っている。三人は大帝国劇場の中へ入り、案内と共に支配人室へと向かい部屋へと入った。

 

「伯林華撃団、到着いたしました・・・!」

 

「おう、歓迎するぜ。済まないな・・・神崎すみれさんは午前中だけ、どうしても外せない用事があって、この場を欠席している。自己紹介がまだだったな?俺が支配人代理を勤めている、狛江梨 直仁だ。すみれさんは午後には戻ってくる」

 

「!」

 

「!」

 

「(なかなかの男だな・・・戦場をくぐってきているようだが)」

 

「貴方が・・・一年前に私達を助けてくれた・・・あの時の」

 

「降魔の群れによる華撃団大戦襲撃事件の事か?そうか・・・あの時の二人か、一人は知らないが、あの時は世話になったな」

 

「それはこちらのセリフです。貴方が居なかったら私達はどうなっていたか!」

 

珍しく饒舌に喋るエリスにマルガレーテが目を見開く。それを見た直仁は苦笑しながら制した。

 

「あの時は俺一人だったからな。上海華撃団も居たとはいえど、なるべく自分の家は自分で守りたかったんだよ・・・」

 

頭を掻きながら話す直仁にマルガレーテとグラーフは少しだけ怪訝そうな顔をしたが、すぐに元に戻った。特にマルガレーテは言葉に気をつけるように思考を巡らせている。

 

「(だらし無さそうに見えて・・・隙がない。それに一言でも帝国華撃団を悪く言うようなら。手元に有る日本の刀で・・・あの時のように斬られる可能性が高い)」

 

マルガレーテは直仁の状態を観察していた。刀は二本有り、一本は壁に掛けられるようにして飾られているが直仁の近くにもう一本、禍々しさと神々しさが感じられる日本刀が手元近くに置いてあるのだ。

 

更には上海華撃団のシャオロンが帝国華撃団を悪く言った際、刀の刃を周りに気づかれないうちに彼へ突き付けていた事を目撃した事も思い出していた。

 

「とにかく、歌劇団を見たいとの事だからな。見学する時は俺に言ってくれ。稽古の邪魔にならないようにもして欲しい」

 

「わかりました・・・」

 

そう言いつつ、直仁は時計に目をやる。時間はあるようで今は皆、稽古をしている最中だろう。

 

「よかったら稽古を見学するか?今の時間、これから午後の稽古の指導をするからな」

 

「え・・・?直仁さん自らが指導を!?」

 

「ああ、これでも以前の帝国華撃団で歌劇の勉強させてもらってたからな」

 

「な・・・なんと!貴方は以前の帝国華撃団に所属していたというのですか!?」

 

これには流石に伯林華撃団全員が度肝を抜かれた。自分達の華撃団が結成される前に何度も魔の手から帝都を守り続け、降魔大戦で消滅した伝説の部隊、帝国華撃団。その帝国華撃団に所属していたという事は、降魔大戦の生き残りだと言っているようなものだからだ。

 

「そうだ。聞きたいなら帝国華撃団と伯林華撃団が揃った時に話してやるよ。じゃあ、行くぞ」

 

直仁は立ち上がると伯林華撃団の三人を伴って舞台へと向かっていった。

 

 

 

 

 

舞台の上ではちょうど「シンデレラ」の見せ場の一つであるガラスの靴を落とすキッカケの階段を駆け下りるシーンの練習の準備が行われていた。

 

「あ、支配人!それに・・・伯林華撃団の皆さん!?」

 

「ああ・・・お邪魔している」

 

「天宮、気にせず稽古をしろって言っただろ!これから俺も指導に入る、準備はできてるのか?」

 

「あ、はい。もう出来ています」

 

「そうか、伯林華撃団の皆はここで見ていてくれ」

 

「わかりました」

 

直仁は舞台袖に伯林華撃団を待機させ、演技指導に入っていく。その厳しさは伯林華撃団の面々はまるで自分達の訓練を見ているようだったが、一つだけ違っていた。

 

「悪くはないが、もう少し急いでる感を出せないか?天宮。12時を過ぎたら絶対にダメという感じが出せないと意味がないぞ?」

 

「はい、もう一度お願いします!!」

 

直仁は厳しくも良く出来た所は褒めており、挑戦させたりしている。怒っている時は本当に危険な真似をした時だけだ。

 

「あ、危ない!」

 

「さくら!」

 

「きゃあああ!」

 

練習している最中、階段を急いで降りる練習時に天宮が足を踏み外して落下してしまった。近くで道具の確認をしていた誠十郎が受け止めた。

 

「せ、誠十郎さん?」

 

「怪我はないか?さくら」

 

「大丈夫です、誠十郎さんが助けてくれたから・・・」

 

「流石だな。だが、稽古中だ。イチャつくのは稽古が終わった後でな?」

 

「だ、誰がイチャついているように見えるんですか!」

 

「そ、そうですよ!俺はただ助けただけで・・・!」

 

「ええ~、ホントにござるかぁ~?」

 

ニヤニヤしながらワザとらしいござる口調で二人をからかう直仁、他の花組のメンバーも二人の仲が良いことは知っているので笑みを浮かべたままだ。舞台袖で見ている伯林華撃団はこの雰囲気が許せないと思うのだが、同時に羨ましくもあった。

 

厳しいのはもちろんだが、上下関係が無きに等しく公私混同に近いはずなのに、弁えがしっかりしており、まるで上下関係は舞台の稽古と戦闘時だけにあるような感じだ。

 

「華撃団と歌劇団・・・以前は二つの顔を使い分けていたと聞いていたが、それも今は健在か」

 

「こんな雰囲気で強くなるはずがない・・・」

 

「・・・・」

 

エリスだけは別の意味でイラつきが溜まっていた。何故か直仁が他の女性と話していると怒りが沸いてくる。不思議とその怒りが収まらない。

 

「さて、初穂。俺から頼みがあるんだが」

 

「なんだ?」

 

「巫女舞を見せてやってくれねえか?伯林華撃団によ」

 

「・・・客用の舞だけだぞ?」

 

「それでいい、頼む」

 

「わかったよ」

 

練習用の舞台を片付け、本来、雅楽を奏でるべきなのだが、それは出来ない。代わりに以前の帝国華撃団が使っていた物の中に残されてあった雅楽の音を鳴らす準備をし、小道具の扇子や神楽鈴を見つけ出しておいた為にあった。恐らくは巫女を演じるために作ったのだろうが、出来は本物と大差はない。初穂は少し着替えさせてくれと言い残し、衣装ではあるが正式な巫女服に着替え舞台に戻ってきた。

 

「・・・・・」

 

いつもの勝気な初穂から一転し、一人で舞台に立っている今の初穂は巫女舞を神々しく舞っている。それを帝国華撃団、伯林華撃団の二つの華撃団が食い入るように見ている。直仁との演技指導で鍛えられた体幹は巫女舞にも役立っており、自分の動きがスムーズになっているのを舞いながら初穂は感じていた。

 

雅楽と似た音楽と神楽鈴の音色、その相乗効果が全員の心に和の美しさを伝えてくる。

 

「美しい・・・」

 

「ha・・・・これが・・・日本の伝統・・」

 

「ああ、美しいとしか言えないな・・・。それに一つ一つの動きに無駄がない・・・」

 

伯林華撃団のメンバーは初めて見る日本の巫女舞に対し素直な感想を述べていた。それは帝劇の花組メンバーも同様であった。

 

「あれが・・・初穂なのか?本当に・・・」

 

「今の初穂、普段と違って・・・とても綺麗・・・」

 

「色々な歌劇を見てきたけど・・・日本の伝統だけは見た事がなかった・・・。星が一つ輝いているように綺麗ね」

 

「すごい・・・すごすぎます・・!これが日本の舞なんですね・・!」

 

巫女舞を終えると初穂は一息だけ吐いた。自分もまだまだ練習中の舞を見せるとは思わなかったが、非常に上手く舞えたと思ったのだ。

 

「直仁支配人・・・私も舞台で歌ってもよろしいだろうか?」

 

「エリス?」

 

「無理な頼み事なのは分かっている。だが、是非ともお願いしたい!」

 

エリスがこのような言葉を発するのは珍しい。グラーフもマルガレーテも同じことを考えていた。何かを伝えたいのか、それとも・・・。

 

「わかった。本来なら断るんだが、なにか必死だったから一回だけなら許可しよう」

 

「ありがとうございます。少しだけ準備しますので」

 

エリスは歌いやすくするために柔軟と頭に乗せていた帽子をマルガレーテに預けるとスポットライトが照らしている舞台へと歩んでいった。曲はグラーフが持っていた蒸気記録装置で流す事が出来るようだ。エリスは深呼吸を一つすると合図を送り、グラーフは曲を流した。

 

「新サクラ大戦より[鉄の星]」

 

 

「今宵も仄暗き壁を伝い♪狼のうめき声 街を彷徨う♫」

 

「・・・っ!?」

 

「これは・・・オペラ!」

 

直仁はエリスの歌声に圧倒されていた。歌というものは曲調と歌詞の意味を読み込む事でその意味が分かる。アナスタシアは歌い方からわかったようだが、直仁を始めとした次世代の帝劇の花組メンバーがオペラなど未知だ。

 

「すごい・・・あの凛々しさを歌声に乗せている。それに誰かに向かって歌っているようにも見えるが・・・・鎧を着た女性達が行進するのが見える」

 

「あんなエリスは・・・初めて見た」

 

「ああ・・・本当だよ」

 

最後まで歌い終えたエリスが戻ってくるとこちらへ一礼した。

 

「私個人のワガママを聞いていただき、感謝します」

 

「いえ、こちらも良いものを見る事が出来ましたので構いませんよ」

 

直仁の砕けていた口調も、この時ばかりは敬語になってしまう。エリスの凛々しさ、力強い歌声、それを聞いて直仁も身体に震えが来たのだから無理もない。

 

「・・・・」

 

「あの・・・何か?」

 

「直仁支配人・・・その、私に歌舞伎以外の日本伝統を教えてはくれないだろうか?」

 

「俺が・・・ですか?」

 

エリスは直仁をまっすぐに見て頼み込んでおり、周りの人間達はというと。

 

誠十郎は天宮に何かを教えられ、なるほどと納得した様子になっており、天宮は何かを察したように誠十郎の背中を押して引き下がった。

 

初穂はマジか?と言いたそうに驚いていて、アナスタシアは隅に置けないわねと言いたげだ。

 

クラリスも天宮と同じように何かを察している様子で、伯林華撃団のマルガレーテは直仁を睨んでおり、グラーフは成る程といった様子だ。

 

「わかりました俺で良ければ、お時間が空いている時に」

 

「!ありがとうございます」

 

この時に一瞬だけ笑みを浮かべたエリスは、一人の女性としての笑みを浮かべていた。本人が気づかないほどごく自然な笑顔で。




ドイツと日本の歌劇の見せ合いでした。

次回はデート回になる予定です。

本編の回想ですが・・・サクラ4をベースにしようかと思っています。

何よりも巴里華撃団との絡みが4じゃないとできませんので。

ちなみにエリスの誘いを受けた為に、サクラ大戦の例の効果音は上昇音が最大で鳴りました。

サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)

  • 倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
  • 上海華撃団 ホワン・ユイ
  • 新・帝国華撃団の誰か
  • 風組or月組メンバー

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