命懸けの追加装備の完成。
突然、エリスから頼まれ事をされてしまい直仁は戸惑っていた。一緒に出かけると言ってしまったが、デートとなんの変わりがない。
「とりあえず、金は多めに持っていくか。荒れていた時期は喧嘩でゴロツキから奪った金でしか博打も酒も買ってなかったしな・・・」
そう、意外にも直仁は自分が真っ当に働いて貯めていたお金には、一切手をつけていなかったのだ。彼が荒れに荒れる前、自分で手の届かない場所に隠してあった為だが、それがこんな形で帰ってくるとは思ってもみなかったのだ。更生した後は記憶と霊力を頼りに自分の隠し金庫を発見し、今は手元に有る。
「溜めに溜めてて、学生時代は最低限しか使わなかったし体験入隊時も帝劇ともう一つの働き先で働いてたから・・・700円も溜まってんだよなぁ(※現在の貨幣価値に直すと約700万円)」
「デートには100円持っていけばいいか?いや、食事代とかを鑑みて後10円足しておこう」
隠し金庫からお金を準備し、財布に入れ直仁はシャワーを浴びる事にした。翌日とはいえど女性と出会うのだから身なりはキチンとしておくべきだろうと考えた上の行動だ。その後、直仁は就寝し、翌日に備えた。
◇
直仁がシャワーを浴びている時刻、帝国ホテルでエリスもシャワーを浴びていた。肌を泡で磨き、髪も磨き、それを温水で流していく。日本の入浴事情に合わせているのだが、綺麗に磨かれていく己を見て日本の風呂というものを気に入ってしまっている。そのため、日本に来た時は一時間以上も入浴しているのだ。
シャワーを止め、その珠のような肌に水滴が付いており、下へと流れていく。今のエリスは裸体であり、ドイツ出身では珍しく白色に近い肌をしており、ブロンド色の髪も相まって非常に美しく映っている。彼女が華撃団であるなど信じられないほどだ。
湯船にしばらく使った後にバスタオルで身体の水滴を拭き、バスローブを纏い浴室を出る。マルガレーテもグラーフもそれぞれの部屋にいる為、今は一人だ。
「・・・・・」
窓際に立ち、胸元で軽く握り拳を作る。一年ぶりに直仁との再会、まるでようやく探し求めていた相手が見つかったような気持ちにエリスは混乱していた。
「初めて会った訳ではない・・・だが、一体これは・・・この気持ちはなんなのだ?」
共に帝都を周る約束をしただけで、気持ちが嬉しいと感じてしまう。このような感情は初めてだった。
「明日になればわかるか・・・」
そうつぶやいて寝間着に着替えると、エリスはベッドへと入り就寝した。
◇
時刻は朝の七時。直仁は目を覚まし、準備を始める。気取った姿はしなくいつも通りの服装に着替え、身だしなみを整え、朝食などを取り帝劇を九時に出る。待ち合わせは十時だが早めに出ておくのがマナーだ。出かけようとする姿を誠十郎、天宮、初穂の三人が目撃していた。
「直仁支配人・・・?」
「エリスさんとデートですね・・・!きっと!」
「まさかと思ってたけどよぉ・・・支配人が伯林華撃団の隊長と出かけるなんて」
「後を着けましょう・・・!」
「さくら・・・はぁ・・・」
「アタシも気になるな・・・一緒に行くぜ」
「初穂・・君まで」
誠十郎は二人に呆れていたが、直仁とエリスの関係が知りたいのも事実だ。二人の勢いに押されて、誠十郎もついていく事になってしまった。
◇
帝都、時刻は九時五十分。直仁は十五分前に来ており、エリスを待っていた。だが、そこで偶然にも森川に出会ってしまう。
「ん?直仁じゃねえか、どうした?」
「あ、森川さん。ちょっと待ち合わせがありましてね」
「待ち合わせだァ?へぇ・・・おっと、店の仕込みがあったんだ。よかったら来いよ?」
「ああ、寄らせてもらうよ」
そういって森川は去っていった。それと同時にエリスがキョロキョロと何かを探しているように歩いている。それを見た直仁は近づいていき声をかけた。
「エリスさん」
「!な、直仁支配人!」
「今は支配人じゃありませんよ。好きに呼んでください」
「では、直仁と呼ばせてもらいたい。それと・・・言葉遣いも出会った時と同じで構わない」
「ん?そっか。じゃあ、これでいいか?」
「ああ、それで今日はどこを案内してくれるんだ?」
「歌舞伎は観ているようだし、先ずは服だな。しばらく滞在するんだから流石に戦闘服はマズイだろ」
「む・・・しかし」
「良いから!先ずはデパァトにでも行ってみるか」
帝都デパァトに趣き、直仁はエリスの服を買うことにした。服屋の場所へ行くと洋服もあれば、天宮が着ている和服まで揃っている。エリスにはどれも新鮮に映るらしく子供のように目をキラキラさせていた。
「直仁、服がたくさんあるぞ!」
「そりゃあ、服屋だしな。で、和服と洋服どっちがいいんだ?」
「どちらも欲しいが、洋服を見てみたい」
「わかったよ」
エリスは服選びに時間をかなりかけていた。女性の服選びはそれなりに時間がかかる、それを根気良く付き合えるのも自分を鍛えてきた忍耐力のおかげだろう。
「これがいいな」
エリスが見せてきたのは動きやすさを重視したシンプルな服装だった。直仁は顔色を変えずにその服を預かると会計に持っていく。
「おいくらですか?」
「1円と500銭になります」
「じゃあ、二円でお願いします」
「な!」
「これくらい構わねえさ、店員さん。彼女を着替えさせてあげてください。彼女の着ている服は袋に入れて」
「かしこまりました」
エリスは店員と共に試着室へと入っていき、戦闘服から私服姿となった。戦闘服は凛々しさが際立っていたが、私服のエリスは飾らない美しさを体現していた。
「綺麗だな・・・」
「え?」
「いや、っと・・そろそろ昼だな。何か食べたいものはあるか?」
「日本の食事を堪能してみたい・・・」
「和食か・・・となると、あそこしかねえな」
直仁とエリスはデパァトから出ると、途中でエリスが袋に入った戦闘服を置いて来たいと言ったので、帝都ホテルまで行き、服を置いてくるとエリスは私服姿のままで戻ってきた。
「行こうか」
「ああ」
短い会話を交えながら食事の目的の店を目指し歩き始めた。その後ろで誠十郎、天宮、初穂の三人の他に別の場所でマルガレーテとグラーフも後を付けていた。
「やっぱり、デートしてますよ・・・あの二人!」
「意外すぎるぜ・・・」
「まさか支配人が・・・」
そんな中、伯林華撃団の二人も別の場所で直仁とエリスを見ていた。服装が服装なので外でお茶の出来る喫茶店から見ている。
「エリスが・・・あんなに心を開いているなんて・・・」
「うーん・・・あれは・・・本命かな?」
それぞれが見ている中、直仁とエリスは目的の店「オアシス」へと入っていった。
◇
「いらっしゃい、おや?」
「マスター、お邪魔しますよ」
「失礼する」
「珍しいですね?直仁くんが帝劇以外の女性を連れてくるなんて」
「ま、まぁ・・色々あって。マスター、彼女の口に合う和食をお願いできますか?」
「お任せ下さい」
そう言って、森川は調理に入った。エリスは「お品書き」を見ており心なしか楽しそうにも見える。
「直仁、貴方は何故、一年前のように戦わないのだ?貴方が前線に出れば戦力になるはずだが」
「今の俺は次世代を育てる側なのさ。制限時間のある人間が前線に出たら足でまといだろ?」
「それは・・・」
「霊子甲冑や霊子戦闘機に乗って戦闘するだけが戦いじゃない。補給、戦略、復興、どんな事でも戦いなんだ。前線に出て戦うのは力を持っている奴の役目、力を持てないのなら持っている奴の援護をするのがお互いに戦っているという事になるんじゃないのか?」
「・・・・・」
「それに俺は・・・死なせるような戦いは絶対に許さねえ」
「!!」
エリスは直仁の言葉に驚きで目を見開いた。彼のような人間は死をなんとも思っていないだろうと考えていたからだ。だが、直仁はそれを自分から否定したのだから。
「やはりそれは・・・」
「おまちどうさま。暗い話は後にして今は食事を楽しんでください」
「さすが、マスターだな」
「えっと・・・」
「エリスだ」
「エリスさん、お口に合わなければ遠慮せずに言って下さいね?」
「うむ・・・」
直仁とエリスは食事を始めたが、慣れない箸使いに直仁が教えつつ食事をし続ける。要領を掴むのが上手かったらしくエリスはある程度練習すると箸を自在に使えるようになっていた。
「これが日本の食事か・・・大変な美味であったぞ」
「それは良かったです。作った身としてはそう言って頂けるのが一番嬉しいですからね」
「この店は俺も行きつけにしているからな、また機会があれば一緒に来よう」
「!う・・うん//」
「?」
直仁はエリスの様子に首を傾げていたが、森川は察してニヤついていた。エリスが直仁に好意がある事を見抜いていたのだ。
その後、直仁はエリスを連れて呉服屋へと趣いた。彼女に和服の素晴らしさを知ってほしいという思いからだ。
「これが・・・着物か、美しいな」
「だろ?」
直仁はエリスが着物や反物を見ている最中、呉服屋の主人に彼女に合う着物と浴衣を仕立ててくれるように頼んだ。50円の請求があったが、今の彼には余裕で出せる金額だ。
「確かに、承りました。明日明後日には出来上がりますよ」
「ありがとう」
その後は寺を回ったり、出店で簪や紅を買ったりしてエリスとの時間を楽しんだ。紅を買った時、エリスは慌てていた。
「わ、私にこのようなものは似合わない!」
「いや、きっと似合うぞ?だから受け取ってくれ」
「う・・・わ、わかった//」
五重塔を見に行った時に直仁が建てられた経緯などを話すと、エリスは本当に楽しそうだった。
「なるほど・・・日本の先代達の技術はすごいな。それに塔を立てるのにもしっかりと思いが込もっている」
「それだけ、信仰心が高いってことでもあるけどな」
最後はエリスを帝国ホテルの前まで送り、そのドアの前まで歩いてきた。
「今日は楽しかった・・・」
「俺もだ、ありがとうな。エリス」
「・・・・」
「どうした?」
「名残惜しいな・・・」
「また会えるさ、じゃあな」
直仁は背を向けて軽く手を振ると歩いて行った。エリスはその背中を消えるまで見つめ続けていたが彼を見送った後、急激な寂しさに胸が締め付けられた。
「っ・・・部屋に戻ろう」
◇
直仁はデート後に話し相手が欲しくなり、「オアシス」へ向かった。今の時間帯なら食事もお酒を飲む事も出来るからだ。
「よう、マスター」
「今日は頻繁だな?」
「話相手が欲しくなってな。いつもの飲みセットをくれ」
「あいよ。今日は少なめにしておいたからな」
「助かる」
直仁は水割りを頼むと軽く飲んで、一息ついた。森川はつまみを出すと会話を切り出した。
「それで?どうだった?伯林華撃団の隊長さんとの逢引は?」
「楽しかった、それに・・・エリスが俺を好いていてくれてるのも分かった・・・だけど」
「ん?」
「俺・・・彼女を愛していいのかな・・って」
「そんな事を言う理由は・・・花火の事か?」
「・・・・」
「お前さん、さくらと同じくらいに花火と仲が良かったものな?」
「ええ・・・異性として意識してましたけどあの人には・・・」
「皆まで言うな、分かってるよ。けどな・・・エリスは自分では気づいていないだけで、お前さんを好いてんだ。迷ってんだったら断っちまえよ」
「・・・っ」
直仁はグイっと水割りを一気飲みし、また酒を作った。自分でも分かっている・・これは新しい一歩だ、帰ってくるかも分からない相手と今近くにいる相手、どちらを選ぶべきかなど明確だ。
「・・・男なら後悔しないほうを選べ、迷いは男を廃らせるぜ?」
「・・・・・」
グラスをテーブルに置き、森川からの言葉を噛み締める。自分はいつも迷ってばかりだ、だからこそ後悔だけはしたくない。それが直仁自身、必ず考える事であった。
「オアシス」が閉店するまでの間、直仁は軽く飲んで話した後、ある決意を固めて、帰宅するのだった。
◇
その頃、大帝国劇場の地下ではとあるものが開発されていた。それはなにかの強化ユニットのようだ。
「これを使えば、支配人はまた爆発的な力を手に入れられる・・・だが、どうしてこんな物を開発しろだなんて一体」
現技師長の司馬令士は直仁からの依頼に疑問を持っていた。直仁は自分の霊力を糧とした戦闘力向上ユニットを作ってくれと技術部に頼んでいた。だが、なんの為に使うかは教えてはくれなかった。
「まさか、支配人・・・生き急いでねえよな?これが使われることがない事を祈るしかねえな」
令士は開発したユニットを何処かへ封印するように置き、自分も仕事を切り上げて帰宅するのであった。
デートシーン、難しい!
次回は・・・巴里・・・関連?
もしくは森川と直仁の喧嘩・・・かな?
サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)
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