サクラ大戦~もう一つの視点   作:アマゾンズ

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今回は新サクラ大戦としての時間が動きます。

仮面の女と直仁の出会い。


第十六話 暗雲

あれから一ヶ月、歌劇団としての稽古を続けていき、本番の公演が始まった。誠十郎は直仁にモギリとしての技能を叩き込まれ、更には直仁自身がモギリの見本を見せていた。

 

「いらっしゃいませ、ようこそ帝劇へ」

 

「いらっしゃいませ、今宵は生まれ変わった帝劇の公演をお楽しみください」

 

誠十郎の接客も直仁の真似をしているものだが、板についており笑顔が自然と出来ている。

 

「しっかし、帝劇も落ちぶれたもんだよな」

 

「ああ、10年前のスタァ達が一斉に居なくなっちまったんだもの。ファンとしては悲しいやな」

 

「あの頃の帝劇スタァは輝いていたもんな。今の女優達は素人の子供が演技を演っているようで観れたもんじゃねえ」

 

「ほんと、ほんと。成長してくれれば良いけどなぁ。ま、今回も崩れオチを観させてもらうか、ハハハ!」

 

「アナスタシアさんは素敵ですけど・・・ねぇ?」

 

「ええ、他の女優さんには輝きがありませんわ。素敵なのはやはり10年前の・・・」

 

直仁の耳に観客の陰口が入る。だが、怒る事は出来ない。実際に観客の言っている事は事実であり、自分も次世代の花組に対して言った事だからだ。そんな中、誠十郎も陰口が耳に入り悔しさを押し殺して肩を震わせていた。

 

直仁はそんな誠十郎へ近づくと肩を叩き、無言で首を横に振った。これは仕方のない事なのだと言いたげに。

 

誠十郎も直仁の考えを理解していた。自分も出来る限り稽古への協力は惜しまなかった。それでも、天宮達が馬鹿にされていると思うと悔しく感じてしまうのだ。

 

客入りはそこそこ入っている中で一人、顔見知りがチケットを渡してきた。それは「オアシス」の店主である森川であった。

 

「よう」

 

「森川さん!?」

 

「誠十郎か?なんだ・・モギリを継いだのかよ?」

 

「い、いえ!支配・・・ゴホン、直仁さんから教わってやっているだけです」

 

「そうか、アイツも前は大神と並ぶモギリだったもんな。今日は次世代の花組の公演って聞いてな。店を早めに閉めて来たんだ。最前列で観させてもらうぜ」

 

「はい」

 

会話していると、館内放送が入り公園が始まるというアナウンスが流れた。

 

『只今より、本日の公演[シンデレラ]を開演致します。心ゆくまでお楽しみください』

 

 

 

 

 

 

演目が始まり、劇場は満員とまではいかないが、かなりの客が入っている。今は天宮が演ずるシンデレラが掃除をしており、初穂、クラリス、あざみが演ずる義母と義姉達がいびるシーンだ。

 

『まだ掃除は終わらないの!?』

 

『は、はい。申し訳ございません!お義母様・・・!』

 

『本当に鈍臭いんだから・・!』

 

『掃除なんて早く終わらせておきなさいよ!』

 

『私達は今夜、お城で行われるパーティに行くから、お前は留守番をしていなさい』

 

『はい・・・お義母様』

 

迫真とも言える演技に、観客達は動揺しつつも見入っていた。今までの花組の演技とはあきらか違う、舞台を壊すのを目撃するために来た観客達も驚いていた。

 

そう、まるで10年前。帝国歌劇団のトップスタァ真宮寺さくらがデビューした時のような舞台だと長年、帝劇を観てきているファンは思った。

 

そして最大の見せ場、男役と娘役の歌だ。この時の為に天宮も厳しい発声練習をこなしてきたのだから。

 

[推奨BGM サクラ大戦TVより{シンデレラ}]

 

『昨日の恋は~忘れましょう♫あれは魔法の時~間♪』

 

『昨日の恋を~思い出して~♫あれは魔法の時~間♪』

 

その歌声に益々、観客達は引き込まれていく。まるでシンデレラと王子様の想いを伝え合っている姿が目に浮かぶようだ。かつての帝国歌劇団が見せてくれた夢の続きのように。

 

『このガラスの靴に~♪』

 

『色づく街に~♪』

 

『足を入れて~ごらん♫』

 

『胸がときめく~♬』

 

男役と娘役が手をつなぎ合い、思いを一つにする。誰もが知っている物語であるはずなのに、以前の帝国歌劇団も演じた演目であるはずなのに現在の花組、天宮のシンデレラは観客を完璧に引きつけていた。

 

『『いつまでも~変わらずに~♬初めての夜を~抱きしめていよう~♪』』

 

『『二人の~夢のような~魔法の時~間♪』』

 

クライマックスが終わり、幕が下りていく。それと同時に盛大な拍手が観客席から嵐のように起こった。中には信じられないものを見たのかのように放けている観客もいる。

 

当然、舞台は昼の部と夜の部に分かれている。以前は余りに余っていた夜の部のチケットを買い求める客が殺到したのは言うまでもない。

 

無論、全て完売となってしまった。昼の部を見終わった観客達がそれぞれ感想を口にしながら帰路に着いたり、ブロマイドを購入したりしている。特に主演を務めた天宮とアナスタシアのブロマイドは在庫切れになってしまう程の売れ行きだった。

 

そんな中、二人の男が帝劇の食堂の奥で話し込んでいた。言わずと知れた直仁と森川の二人だ。

 

「見違える程に成長したな・・・特に天宮の奴は。ま、まだまだアイツ等には及ばねえが」

 

「これでもかなり苦労したんだよ。基礎から叩き直しだったからな」

 

この席は蒸気で動く換気扇が付けられた、いわば喫煙者用の席だ。森川は煙草を取り出し、火を着けようとしたがその前に直仁が火が着いたマッチを持っており、森川の煙草に火を点け、マッチの火を消し処分した。

 

「俺から見てもアイツはトップスタァになれる素質はあるが、まだ肩に力が入ってやがるな」

 

「自然な演技だけは経験しかないからな。今回のような舞台の場数を踏ませれば身に付くさ」

 

森川は紫煙を吐き出すと同時に雰囲気が変わり、話の内容を変えて来た。直仁は切り替えのために敬語になる。

 

「俺を此処に呼び止めたって事は・・・アレがでたのか?」

 

「ええ、間違いなく上級降魔です。今は偵察ですが狙ってくるのは恐らく」

 

「帝剣・・だろ?」

 

「さすがに分かってましたか」

 

「当たり前だ。知った上で俺もすみれに協力している、その理由はわかってんだろ?」

 

「無論です、貴方に任せると俺は言いましたからね。あの人の事を」

 

森川は煙草をもみ消し、仕事の話題に入る二人。直仁は降魔が発生するポイントを森川に探ってもらっては潰してきていたのだが、今回は上級降魔が出てきたとあって、具体的なポイントや今の花組の行動を知りたいと頼んだのだ。

 

「コイツが調査結果だ」

 

「拝見しますよ・・・こ、これは!」

 

「心苦しいだろうが・・・そういうこった。どうする?」

 

「・・・・・アイツが流していたとは。これだと黒幕の中の黒幕である向こうにも流されていますね。獅子身中の虫とはよく言ったものです」

 

「お前がバラすか?」

 

「いえ、今バラした所でシラを切られるのがオチでしょう。泳がせておいて自ら白状させなきゃ意味がない。それに歌劇団の方が纏まってきてるのに、この崩壊要素を入れたら今までの事が全てパアです」

 

「確かにな。白状してきた方が被害は少ない」

 

「この件は俺の胸に閉まっておきます。破棄はそちらで任せますよ」

 

「ああ」

 

森川は調査結果を手にし、帝劇を後にした。その後の夜の部の公演も大盛況であった。

 

「おいおい・・・こりゃあ、帝劇復活か!?」

 

「今までの演技が嘘みてぇだったな、あの時の雰囲気そのものだったぜ」

 

「天宮さくらさん・・・子供っぽいと思っていましたのに、あんなに美しい演技をなさるなんて」

 

「ええ、他の方々も役そのものになっていましたね。まるで10年前の帝劇を思い出しますわ」

 

「アナスタシアさん・・・やっぱりカッコイイ」

 

観客達はそれぞれが感想を言い合いながら帰路に着いていく。ブロマイドも完売し、今までで最も観客動員数が多かった事は間違いない。それを見た直仁は頷き、支配人室に戻ると壁に掛けてある光刀無形を手にし、帝劇からコッソリ出かけて行った。

 

 

 

 

 

向かった先は寛永寺であった、そこに発生した黒い霧を光刀無形で斬り祓ったと同時に直仁は背後に居る相手に話しかける。

 

「まどろっこしい真似しやがって・・・俺を呼ぶなら直接呼べや」

 

「フフッ・・・流石は龍脈の御子、気付いていましたか」

 

光刀無形を鞘に収め、直仁は振り返って声の主と対峙した。仮面をつけた女らしき人物のようだが人間ではないと霊力が教えてくれている。

 

「お前何者だ?」

 

「夜叉・・とだけ名乗っておきましょう」

 

「その声でか・・・」

 

直仁は自身の霊力を集中させ、光刀無形に収束させる。開放せずに相手の出方を見るためだ。だが、夜叉の妖力が高まり、それが刀に収束されていく。

 

「破邪剣征・・・」

 

「!まさか!?それなら・・・!破邪剣征・・・!」

 

「「桜花放神!!」」

 

刀身を抜いて放出される黒く染まりかけた桜色の妖力と、逆手居合い抜きで光刀無形から放出された蒼い霊気がぶつかり合い、両者が相殺されてしまった。

 

「この技を使いますか・・・・意外でした」

 

「お前みたいな上級降魔が、その技を使えるとはな?」

 

「だったらどうしますか?」

 

「その仮面を叩き切って・・・正体を教えてもらう!」

 

直仁は村正ではなく、光刀無形を使って夜叉と剣撃をし始めた。夜叉の剣に直仁は奇妙な懐かしさを覚えていた。

 

「北辰一刀流・・・どこまで俺を小馬鹿にしやがる!夜叉!!」

 

「・・・・」

 

しばらく刃を合わせていたが夜叉は直仁の剣を避けて距離を取ると、寺の屋根に飛び乗った。

 

「また会いましょう・・・龍脈の御子、いえ・・・直仁さん(・・・・)

 

「!!!」

 

そう言い残し、夜叉は居なくなってしまった。光刀無形を鞘に収め、混乱する頭を振るい、木の近くに行くとそれを一発殴った。

 

「いや・・そんな筈がねえ、あってたまるか!あの人は・・・さくらさんはあっちにいる筈だ!!」

 

直仁は必死になって否定する。だが、夜叉の声は紛れもなくかつての想い人であった真宮寺さくら、その人のものだった。

 

「厄介な事になりそうだ・・・・・この事は森川さんには・・・無理か、あの人には全て筒抜けだから意味がねえな」

 

ぼやきながら直仁は寛永寺から大帝国劇場へと帰宅していくのだった。




はい、夜叉との邂逅です。

まだ、帝劇が襲われる前の時に出会ってます。

次回は・・・どうしよう。

サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)

  • 倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
  • 上海華撃団 ホワン・ユイ
  • 新・帝国華撃団の誰か
  • 風組or月組メンバー

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