サクラ大戦~もう一つの視点   作:アマゾンズ

21 / 44
公演後の稽古の軽いアクシデント

話せなかった以前の二つの華撃団が揃った経緯を話す。

隊長として、必要な心得を説く。


第十八話 中欧より来たる花

シンデレラの公演が終わった後、次の公演をどうするか悩んでいる中、直仁は花組へ基礎指導を行っていた。基本をキッチリ固めておく事でどんな役にも対応できるからだ。そんな中、小さなアクシデントが起こってしまった。

 

「あうっ!?」

 

「どうしたの!?初穂!?」

 

「初穂?いきなり倒れこむなんて」

 

「初穂さん!」

 

「初穂?」

 

天宮を始めとするメンバー達が初穂の周りへ集まる。彼女はいきなり倒れこむようにして蹲ってしまったのだ。

 

「どうした?初穂!」

 

「し、支配人・・・あ、足が!」

 

「練習を一旦ストップだ!天宮とクラリスは氷のうを作って持ってきてくれ!」

 

「「はい!」」

 

「他の皆は初穂が横になれるように準備してくれ!」

 

「「「はい!」」」

 

「支配人・・・ごめん、練習が」

 

「良いから横になって痛い方の足を見せてみろ」

 

「うう・・・わかった」

 

アナスタシア、あざみ、誠十郎の三人が簡易だが横になれるようにタオルなどを敷いてくれた。直仁は痛がっている左足を看ている。

 

「コイツは・・・肉離れか?初穂、お前・・・足の柔軟体操しなかったな?」

 

「う・・・」

 

「バカ野郎、練習前にはキチンと柔軟体操しておけって言っただろうが・・!」

 

「いや・・・それは」

 

肉離れに対する処置を直仁自身が行う。あくまでも応急治療の為に効果は薄いがやっておいたほうが多少はマシになる。

 

「あ痛っったたたたた!!!」

 

「我慢しろ、少しはマシになる」

 

「支配人!」

 

「氷のうを持ってきました!」

 

「ああ、ありがとうな。近くに置いといてくれ」

 

持ってきた氷のうを二人は直仁の近くに置き、直仁は初穂が痛がっていた部分を氷のうを使って冷やし始めた。

 

「う・・・・」

 

「待てよ、それなら他のメンバーが注意するはずだな。柔軟体操を忘れたとは思えねえ・・・そうか、お前・・・巫女舞の練習と俺の指導が重なって足に限界が来てたんだな!?」

 

「ごめんなさい・・・」

 

「謝る事はねえよ。けどな?無茶すんなって言ったろ、練習も大切だが自分の身体の方がもっと大切だ、今回は軽い肉離れだったから良かったが、下手したら舞台ができなくなる可能性のケガだって有り得たんだぞ?」

 

「はい・・・」

 

「まぁ、今日は動きの稽古は出来なくとも滑舌とかは出来るだろ?軽い稽古にしておけ。それと、練習は足が良くなるまで軽くする事、良いな?」

 

「わかった・・・」

 

「気を落とすなよ、お前ならすぐに復帰できるさ。霊力治療は極力控えねえと使った奴が疲れが出るからな、悪い」

 

その後の稽古は初穂を除いた、全員が基礎指導を受け初穂は直仁が直々に指導し、発声などの指導を行った。幸いにも歩けないという訳ではなかったので、キチンと休めばすぐに復帰できるだろう。

 

 

 

 

その後、初穂が「オアシス」の料理を食べたいとの事で直仁は全員を連れて行くことにしたのだが・・・。

 

「これは一体・・・どういった状況だ?」

 

なんと日本に滞在していた伯林華撃団の面々まで着いて来てしまったのだ。どうやら隊長達だけズルいと言われてしまったそうで、大帝国劇場に行こうとした矢先にバッタリ出会ってしまい、連れて行くことになってしまった。

 

「申し訳ない・・・皆の勢いに負けて」

 

「いや・・・別に構いはしないが・・・ん?」

 

よく見るとエリスの唇には薄らと紅が引かれていた。恐らく直仁とのデートでプレゼントされた物を引いた物なのだろう。

 

「エリス・・・綺麗だ。紅、使ってくれたんだな」

 

「あ・・・」

 

小声だったが直仁は、エリスの変化を見逃していない事を伝えたのだ。エリスからすれば紅を引くなど勇気を振り絞った変化だったのだろうが、それに想い人が気づいてくれた事こそが何よりも嬉しかった。

 

「・・・・//」

 

エリスは直仁から視線を逸らし、歩こうとするが直仁の後ろで歩いているので花組にはバレバレだ。それを見ているマルガレーテは直仁を睨み続けている。

 

 

 

 

 

 

「オアシス」へ入ると森川は驚いた様子でこちらを見た。無理もない、帝国華撃団・花組のメンバーと伯林華撃団のメンバー全員が入ってきたのだから。

 

「おいおい、今日は大人数だな?」

 

「仕方ないだろ・・・バッタリであって卑下にする訳にはいかなかったんだからさ」

 

「そりゃあ、そうだな。で?今日は?」

 

「オススメで頼む」

 

「あいよ」

 

森川は料理の支度に入り、直仁は指定席に近い状態になっているカウンターに座る。右隣にはエリス、左には誠十郎が座る。

 

「支配人、以前のお話の続きを聞かせてくれませんか?」

 

「あ?」

 

「帝国華撃団と巴里華撃団、一同が揃った話です」

 

「そのことか、エリスも聞きたいのか?」

 

「はい」

 

「はぁ・・・仕方ねえな。本当は酒を交えて話したかったんだが、それだと誠十郎しか無理だからな」

 

帝国華撃団と巴里華撃団という双璧をなす二つの華撃団が集まった経緯、その言葉を聞いた途端に全員が耳を傾ける。

 

「あれは、帝都が・・・いや、帝劇がある銀座で最大規模の大災害と言っていい程の出来事が背景にあったんだよ」

 

「なんです?それは」

 

「黄金蒸気事件だ。聞いた事ぐらいはあるだろう?」

 

「え、銀座全体・・・いや、帝都そのものである蒸気機関が暴走して起こった、帝都最大の大事件の事ですよね!?たしか、戦艦ミカサが」

 

「そうだ、あの大久保長安が引き起こした事件。その事件で帝都・巴里・・・二つの華撃団が揃う事になったのさ」

 

誠十郎や花組は驚いているものの、森川は黙って料理しており伯林華撃団の面々は首を傾げている。この事件は降魔大戦よりも少し前に起こった事件だ。その事件は日本でしか記録にない、ましてや世界中の華撃団が発足されたのは降魔大戦以降だ。伯林華撃団や次世代の花組が知らないのも無理はない。だが、記録には残っているため、文献を調べれば出てくるがそんなモノ好きはいないだろう。

 

「黄金の蒸気は内部に侵入されたら光武の蒸気機関を停止させる代物でな?光武二式がそいつにやられた矢先だった」

 

 

 

 

 

 

「ダメだ!動かない!!」

 

「くそぉ・・・黄金の蒸気に対して村正の影響がマイナスに働いて、侵食が速すぎて光武が・・・!」

 

第二の敵、ハクシキが放った黄金の蒸気が帝国華撃団、参戦していた巴里華撃団・副隊長である花火の光武F2の動きが止められてしまったのだ。逆に黄金の蒸気が動力となっている蒸鬼達は活性化し、攻撃を仕掛けてくる。花火の光武F2は黄金の蒸気に対するフィルターが搭載されているが、そのフィルターによる浄化さえ追いつかない程の濃度に達している。

 

「大神さん、諦めるのはまだ早いです!」

 

「!」

 

「大神さんには・・・私達が、巴里華撃団がいるじゃないですか・・・!」

 

「パ、巴里華撃団?みんなは今・・・巴里にいるんだぞ?」

 

「大神さんが命令して下されば、みんなは何処へでも出撃します!それが巴里華撃団なのです!!」

 

「あ、ありえない。巴里と帝都までどのぐらい離れて・・・おわっ!」

 

直仁は現実的な視点で不可能だということを考えていた。だが、大神は大声で命令を下した。

 

「巴里華撃団、出撃せよ!!目標、帝都!帝国華撃団のサポートだ!」

 

 

 

 

 

 

 

その命令は副隊長である花火の光武F2を通じて、遠く巴里にまで届けられた。そして、巴里では隊長である大神の命令を確認していた。

 

「大神隊長の出撃命令を確認!!」

 

「リボルバーカノン、セットアップ!」

 

異国、巴里の名所である凱旋門。そこに巴里華撃団の支部があった。凱旋門が変形し、巨大なリボルバー式拳銃のような巨大なユニットが現れる。角度調整及び弾道計算をしているのは巴里華撃団司令グラン・マの秘書であり、シャノワールの司会の二人組であるメル・レゾンとシー・カプリスの二人だ。

 

「発射準備!」

 

「ブースターユニット、準備完了!」

 

「弾頭弾、装填!!」

 

銃弾を模した射出カプセルが装填されると同時に、銃身に当たるユニットが接続され完全な形となる。

 

「照準セット!目標、大帝国劇場!」

 

「「ウイ!オーナー!!」」

 

「照準、補正!各部限界、超えます!」

 

「照準セット、完了!」

 

「リボルバーカノン、発射!!」

 

グラン・マがトリガーを引き、射出カプセルが銃弾を打ち出すかのように4発のカプセルが空へ向かって放たれた。祈るような仕草をしているシーにメルが肩に手を優しく置いた。

 

「ああ、やってくれるさ。巴里華撃団の力、見せておやり!」

 

射出されたユニットは僅かに大気圏を超え、マザーユニットから切り離された四つのカプセルが日本へと落下していく。太陽を背に四つの物体が着地した。

 

「あ、あれは!?」

 

直仁が驚きながら目撃したのは花火と同じ光武F2だが、隊員に合わせてカスタマイズが施されており、天使の羽根を模したユニットを持ち、ガトリングを装備した赤色の機体、バイキングのような突撃斧と盾を装備した海を思わせる青の機体、更には手品師をイメージさせるバトンと華やかなサーモンピンク色の機体、そして凶悪なシザーハンズとシャークペイントを施された深緑の機体であった。

 

「「「「巴里華撃団、参上!!」」」」

 

「あれが・・・異国、巴里の窮地を救ったとされる第二の華撃団、巴里華撃団なのか!」

 

直仁は初めて見る巴里華撃団の勇姿に目を奪われていた。青の機体はハクシキに攻撃を仕掛け、牽制しており赤色の機体は天使の羽根を模したユニットの推進力で飛行し、ガトリングガンを蒸鬼に撃ち込み、倒していく。

 

「ほら、しっかりしてイチロー、どこも怪我してない?」

 

「ああ、俺は大丈夫だ。後はこの蒸気さえ・・・なんとかできれば」

 

サーモンピンクの機体は大神の光武二式を支えており、直仁自身も刀を支えに立ち上がろうとしているが踏ん張りが利かない状態だ。

 

「立ち・・・上がれねえ」

 

その目の前に立ったのは赤色の光武F2であった。その背中は神々しく映る。

 

「大神さん達に、ひどい事をしましたね。あなた達の事は決して許しません!!」

 

その瞬間、赤色の光武F2からの輝きが強くなっていく。光武だけでは隠しきれない程の霊力の輝きだ。

 

「この地に遣わされし、加護の天使よ・・!御姿を、此処に!光、あれ!!」

 

聖書にも記されていそうな言葉が紡がれた瞬間、黄金の蒸気に囚われていた帝国華撃団の光武二式が光に包まれた。

 

「天使の・・・輝き?うっ・・・!?地脈の龍の侵食が・・・止まった!?」

 

赤色の光武F2、その後ろに天使の姿が見えたような気がした直仁は、かつて目撃した大天使ミカエルを思い浮かべた。それと同時に直仁に巣食っていた地脈の龍の侵食が止まったのだ。今まで何をしても止められなかった侵食が止まった事に直仁は驚きと喜びが同時に起こっていた。

 

「貴方も大丈夫ですか?」

 

「え、ええ・・・貴女は?」

 

「エリカ・フォンティーヌです。もしかして、貴方は狛江梨直仁さんですか?」

 

「!どうして俺の名前を!?」

 

「大神さんから聞いていたんです!大神さんが頼もしい後輩さんトーキョーに居るって話していましたので!」

 

「あ、ああ・・そうでしたか・・・。大神さん・・・・!」

 

「す、すまない。直仁くん」

 

エリカのテンションに直仁は若干引き気味であったが、大神の巴里華撃団に対する紹介に少しだけ膨れた様子で怒った。最も心から怒っている訳ではなく、エリカのテンションについていけず、混乱しているからだ。

 

「でも、感謝します!これで動ける。皆さん、退いてください!アレを使います!!」

 

「!帝国華撃団・巴里華撃団の皆、下がるんだ!」

 

大神からの指示に帝国華撃団の花組は何かを察したように下がり、巴里華撃団の花組は予想外の言葉に混乱しつつも下がった。

 

「神に合っては神を斬り、魔物に合っては魔物を斬る!鏡反相殺斬、五行色・土龍!大地烈破!」

 

直仁は地面に村正の力を分け与えられたダマスカスの太刀を突き刺し、地脈を活性化させた。その影響は蒸鬼達に及び、黄金の蒸気を活性化された地脈の霊力によって伝達していく流れを弱体化させたのだ。退くように注意したのはこれが原因だ。この力はかつて天武を使用していた帝国華撃団の面々なら理解できていた。

 

これは余剰回復と同じで、健康的な肉体を更に回復させていくとどうなるか?答えは治るのではなく、崩壊へと繋がる。光武もそれと同じで地脈という膨大なエネルギーを活性化した状態で受ければ、崩壊し搭乗者もろとも壊してしまう。蒸鬼が僅かに動けるのは体内に蓄積された黄金の蒸気が制御剤になっている為であろう。

 

「よし、巴里華撃団は蒸鬼の殲滅を!帝国華撃団は魔装機兵を倒すぞ!」

 

「「「了解!!!!!」」」

 

大神の号令で一つに纏まった二つの華撃団は敵を殲滅する為に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「それが、二つの華撃団が初めて協力した戦いだった・・・」

 

「すごいとしか言えないですね・・・・」

 

「うむ・・・」

 

次世代の花組、そして伯林華撃団の面々は二つの華撃団の共闘が凄まじい事を話しだけでも感じていた。

 

「それだけの激戦だったって事だ・・・・それとな、隊長である2人に聞きたい」

 

「なんでしょうか?」

 

「?」

 

「お前らは隊長って責務をどんな風に考えている?」

 

直仁は真剣な声色で誠十郎とエリスに訪ねた。二人はしばらく思考し誠十郎から答えた。

 

「隊長は部下を指揮する立場であり、責任を持つべき責務だと思います」

 

「優等生だな。エリスは?」

 

「わたしも殆ど変わりませんが、隊長とは部下を導いていく人間ではないかと」

 

「軍人としては正解だな。だが、二人共・・・華撃団としての隊長の答えではなかったな」

 

直仁の言葉に二人は納得いかないといった様子だが、直仁は落ち着けと言った後、軽くお茶を飲んだ。

 

「華撃団は確かに守るべき街や人を守る任務が重要だ。だがな?それと同時に守る街を愛し、歌劇団としての生活を愛し、命を軽んじない人間こそが華撃団の隊長に相応しい人間なんだよ。華撃団は戦力があっても軍隊じゃねえからな・・・」

 

「命を・・・軽んじない?」

 

「そうだ、命を懸ける覚悟はしても良い。だが、本当に命を失って守ったものなんか意味がねえんだよ。残された奴はその命を背負って生きていかなきゃならない・・・それはどんな拷問よりも拷問だ、死ぬ訳にもいかず、ただただ背負っていかなきゃならない・・・悲しみに暮れる暇もなくな」

 

「・・・・」

 

直仁の雰囲気が悲しみに変わる。それは、すみれが「幻都」の話をした時の顔と似ていた。直仁は唯一と言える前・帝国華撃団の生き残りであり、華撃団として戦える立場にある人間でもある。だからこそ、誰よりも残された側の人間の気持ちが分かるのだ。

 

「誠十郎、エリス・・・華撃団隊長なら決して命を捨てようと思うな、捨てさせようなんて考えるな。そして、着いて来てくれる隊員を駒だなんて考えるな。そんな考えに至ったら俺がぶん殴ってでも止めさせてやる。それが華撃団隊長の心得であり信念だ」

 

二人は黙って頷いた。戦いをこなせても軍隊ではない、命を軽んじる華撃団は無くなってしまえという意味にも取れる言葉を二人は心の内にしっかりと刻み込むのであった。




巴里華撃団との共闘の話でした。直仁はこの話の回想で出てくるまで巴里華撃団との面識はありません。黄金蒸気事件で初めて出会いました。

直仁が最も恐れている事が伝われば良いと思って隊長の心得を説きました。

彼が最も恐れ、怒るのは「命を捨てる事を強要したり、自ら捧げようとする」事です。

次回は巴里華撃団の一人、回想ですが誇り高い貴族のあの人に決闘を挑まれます。

「大神隊長が太陽であるならば、直仁は月」という言葉の真実を確かめるためです。

サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)

  • 倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
  • 上海華撃団 ホワン・ユイ
  • 新・帝国華撃団の誰か
  • 風組or月組メンバー

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。