※この話の投稿を持って結婚ネタのアンケートを締め切ります。エリスとの結婚ネタは書きます!
しばらくして、直仁は巴里華撃団に対してもう一つの話をした。それは貴族として誇り高く、使命を重んじる相手との邂逅、そして直仁はそんな相手に挑まれた原因となった言葉を教える。
「大神さんが居た時、誠十郎はすみれさんから聞いていると思うが、俺はかつて帝国華撃団で『大神隊長が太陽ならば、狛江梨は月』と言われていた」
「聞いた事があります。二人が並んだ姿は正に龍虎並び立つと称される程であったとか」
「・・・」
「そこまで大げさなモンじゃねえよ。大神さんは二刀使い、俺はその援護に回っていただけさ」
水を飲んで喉を潤し、話を続ける前にもう一度水を注いで準備をする。これは話が長くなるという合図だ。
「さっき話した黄金蒸気の驚異を一時的に退けた後、巴里華撃団の一人であるグリシーヌ・ブルーメールさんに決闘を挑まれてな・・・」
◇
黄金蒸気の驚異を退けた帝国華撃団、巴里華撃団の面々はそれぞれが思うように時間を過ごしていた。そんな中、直仁は地下室にある鍛錬室で一人、日課となった特殊竹刀による素振りをしていた。中庭は巴里華撃団の面々が使っているためだ。
彼は上半身を生身の状態で素振りを行っており、全身が汗だくだ。だが、その鍛え抜かれた肉体は若々しさと相まって野性的な色気を醸し出している。
「ふぅ・・・・汗を流さないとな」
直仁はそのまま汗を軽く拭い、シャワーを浴びて着替えると地下から1階へ上がり、通廊を歩いていると大神が青い服を着た金髪の美女に何やら言われていた。
「グ、グリシーヌ!確かに彼は優秀だけど、それはモノの例えであって」
「隊長!良いからあの者を出せ!実力を見極めねば私の気が済まぬのだ!!」
「あの、何かあったのですか?」
直仁の声に反応した二人がこちらへ振り向く、丁度良いと言った表情で金髪の女性は歩み寄ってきた。
「貴公が太陽と称される隊長と共に並ぶ月と称される、狛江梨直仁に相違ないか?」
「え?月かどうかは知りませんが、確かに俺が狛江梨直仁ですよ」
「丁度良い、貴公に決闘を申し込む!」
「はい?」
グリシーヌと呼ばれていた女性に対し、気の抜けた返事をしてしまったが、却ってそれが挑戦的だと受け取られてしまったようだ。
「準備もあるであろう。10分後に中庭へ来い!ただし、一番得意な物で来るのだぞ!手加減など許さぬ!!」
「?????」
状況が飲み込めない直仁に対し、大神が謝るような形で声をかけてきた。本当に申し訳なさそうで直仁自身も謝りそうになってしまう。
「すまない、直仁くん。彼女がどうしても実力を見極めたいと言って聞かなくて」
「いえ、それは構いませんけど・・・・良いんですかね?相手しても」
「え、それはどういう・・・あっ!」
「思い出したようですね、大神さん」
そう、直仁の恐ろしい所は相手の動きを「見取る」という点だ。見取り稽古と呼ばれる稽古があるように、その見取りによって、直仁は武芸の動きを荒削りながらも自分の物にしてしまうという事を大神は思い出したのだ。
「うーん、大丈夫だとは思うけどなぁ・・・」
「流石に村正は使えないので、別の刀を持ってきますよ。鍛錬用を親方に作ってもらいましたから」
そう言って直仁は師範から渡されていた剣術用の道着に着替え、約束の時間に中庭へと趣いた。決闘を一目見ようと巴里華撃団、帝国華撃団のメンバー達も集まっている。
「約束通りきたか、む?その姿はなんだ?」
「日本の決闘用の格好って言えばいいですかね」
「ほう?国は違えど決闘の心得を弁えているではないか」
「先に言っておきますが、俺は大神さんのように優しくはありませんよ」
「それで良い、遠慮せずに来るがよい!」
「是非も無し・・!お相手仕る!!」
「勝負!!」
グリシーヌは戦斧を取り出し構え、直仁は刀を抜かず居合抜きの構えを取った。グリシーヌは馬鹿にされていると一瞬考えが過ぎったが、直仁の目つきでそれが誤りであると気付く、踏み込もうにも踏み込めないのだ。どんなに攻撃するイメージをしても彼の間合いに入った瞬間に一撃で斬られる、そんな光景が頭の中に浮かぶほど直仁の居合の構えは威圧感があるのだ。
「あれは動けないね・・・下手に動けば、あの直仁って奴の剣で斬られる」
ロベリアは直仁の間合いを見抜いた上で語った。大神以外の帝国華撃団のメンバー達は直仁を黙って見守っており、巴里華撃団のメンバー達はそれぞれが会話しながら見ていた。
「グリシーヌさん、動きませんね」
「動かないんじゃなくて、動けないんだよエリカ。ロベリアが言ってたじゃないか」
「確かに直仁さんから、静かなようで山のような力強さがあります・・・」
それに対し、帝国華撃団・花組のうち武術や銃撃を修めているメンバーは直仁の判断を冷静に見ている。
「居合の構え、確かにあれは正解ですね・・・」
「間合いは確かにグリシーヌが上だ。だが・・・懐に入る速さは直仁が上だな」
「薙刀であれば打ち合いに持ち込むでしょうけど・・・相手は居合いの構えです。これは下手に打ち込めませんわ」
「どちらも先に動くと不利なのは変わらない、忍耐の勝負ね・・・」
◇
グリシーヌは直仁と対峙した瞬間、彼の実力が高い位置にあるというのは予測できていた。だが・・・。
「(この私が・・・打ち込めぬ!だが、引く訳にはいかぬ)たあああ!」
戦斧を手に走りだし、刀の斬り付けてくる方向から攻撃したのだ。すぐに攻撃の意味を察した直仁は上体を後ろへ逸らし、攻撃を避け改めて鞘に収めていた刀の刀身を抜いた。
「Épées japonaises(日本刀)・・・隊長と同じ武器か」
「型は違いますがね・・・居合いは使いませんよ。今度は行きます」
柳生新陰流を学んだ直仁は開祖である柳生但馬守宗矩が得意とした攻撃の型、それに対応する防御の型を身に付けている。直仁の性格上、得意とするのは防御の型だ。後の先を読み、制する戦い方。だが敢えて、直仁は攻撃の型の構えをとった。左手を峰に触れるようにして構えるとそのまま滑らせ、両腕を広げ大振りの唐竹の構えを取る。
「お?直仁の奴、今回は攻めに行く気か?」
「見物ですわね・・・いつもは柳のように受け流す戦いをする彼が攻めに転じたらどうなるか」
直仁の唐竹は振り下ろしが早く、グリシーヌは何とか戦斧で受け止めたが、嫌な予感が自分の中でよぎり、すぐ弾き返した後に戦斧の刃を見た。
「!(私の戦斧にヒビが!)」
「・・・・」
直仁の目は正に剣鬼そのもの、鬼であると同時に修羅でもあった。刀は所詮、生き物を殺す道具になってしまう。剣は抜かずに済めば無事太平、と言われるように直仁は刀を振り回す事などはしない。だが、敵であったり、勝負であったり、必ず戦わねばならなくなった時のみ刀を抜くのだ。
「これが、隊長と並び立ち・・・月に例えられたそなたの実力か。だが・・・まだ終わってはおらぬ!!」
「・・・・仕方ありませんね。その斧、壊れても知りませんよ」
普段は優しい直仁だが、刀を握った時のみ修羅へと変わる。それが例え模擬であったとしても、刀を握っている以上は扱いに厳しく、敵を冷酷に排除する修羅へと変わらなければ刀を持つ資格はないと、自ら戒めているからだ。
「今度はこちらからだ・・・!」
直仁は走りだし唐竹、袈裟斬り、逆袈裟を連続して撃ち込んでくる。これこそが龍の三爪を模した斬撃による連続攻撃『龍爪』である。
「ぐ、くうぅ!一撃一撃が・・重い!」
「受けているばかりでは勝てませんよ」
直仁の言う通り、グリシーヌは受けているばかりだ。だが、それを押し返すように薙ぎ払った。
「ぐっ!はぁ!はぁ!・・・はぁ!!はぁ!!」
「私を侮るな!!」
グリシーヌが優勢に立っているように見えるが、直仁の呼吸が荒い。それを不振に思ったのがカンナであった。
「直仁の呼吸が荒い・・・。自分が思っている以上の力が出てんのか?」
「はぁ・・はぁ・・・。・・・・」
呼吸が整った直仁がゆっくりと目を開く。その目に帝国華撃団の武術経験者や戦争を経験しているマリアに戦慄が走った。まるで、何かが変わったようなという思いを抱かずにはいられない。
「っ・・・なんだ?この威圧感は?」
「・・・行きます」
刀を両手で持ち、左薙を繰り出しグリシーヌは受けようとした瞬間、右切上に切り替えてきたのだ。
「!うっ!」
最初の斬撃を受けようとした瞬間、別の斬撃が出てくる。まるで腕が四本あるかのように。それをグリシーヌは経験してきた戦闘の観察眼と鍛錬による反応で直仁の刀を弾き、戦斧を振り下ろした。
「貰った!!」
「!」
誰もがグリシーヌの勝ちを思った瞬間、それは起きた。バシイイン!と鉄を叩いたような音が響き渡ったのだ。直仁がグリシーヌの戦斧の刃を両手で挟み込んで押し込むのを止めたのだ。
「し・・・真剣、白刃取り・・!?」
「おお・・・!やるじゃねえか」
「あれが、日本の剣術において見切りの最高峰の一つと言われる技の一つ!」
「直仁さんは、そこにたどり着いていたと言うのですの!?」
「活動写真でしか見た事のない技を・・・この目で見るなんて初めてや・・・」
「・・・今のちい兄ちゃん、怖いよ」
帝国華撃団のメンバーは驚きを隠せず、巴里華撃団のメンバー達も口が開きっぱなしの状態だ。あのロベリアでさえ、驚きを表情に出している。いつもは明るく驚くエリカでさえ静かだ。
「グリシーヌさんの一撃を・・・素手で止めちゃうなんて・・・」
「すごい・・・ナオトはあんな事まで出来るんだ・・・イチローとは違った強さだって聞いてたけど」
「おいおい、アレが出来て。帝国華撃団の連中よりも弱いだって?笑えないジョークだよ・・・」
「日本の本の物語でしか出てこない技・・・確かに見させて頂き、ありがとうございます・・・」
戦っている二人はそのままの体制で会話し始めた。直仁からは呼吸を整えた時に出ていた威圧感がなくなっている。
「貴公が初めてだ・・・私の一撃を素手で止めるなど・・・」
「偶然・・ですよ。間が合ったから止められたんです」
直仁は手を離すと弾かれた刀を拾いに行き、それを拾い上げ刀身を鞘に収め大神に近づいていく。手にした刀を大神に手渡して。
「大神さん、説明してあげてください」
「お、俺が!?」
「大神さんの言葉なら聞くと思いますから・・・それじゃ」
「直仁くん・・・ん、この刀?これは・・・・」
大神は直仁から受け取った刀から感じる違和感を感じ取り、鞘から少しだけ刀身を抜くと刃部分に触れ、違和感に気づいた。刀を鞘へ収めると同時に巴里華撃団と帝国華撃団のメンバー達が大神の近くへとくる。
「隊長・・・あの決闘は、私が負けたのであろうか?」
「いや、結果を見ればグリシーヌの勝ちだよ。でも・・・」
「なんだ?何かあるのか?」
「さくらくん、直仁くんが使っていた刀を見てもらえるかい?」
「あ、あたしがですか!?分かりました」
大神の頼みを聞いたさくらは直仁が大神に預けた刀を受け取り、刀身を見る為に鞘から引き抜いた。
「あら?この刀・・・何か違和感が?もしや・・・」
さくらは違和感から軽く刀の刃に指を滑らせた後、自分の指を見た。本来なら指に切り傷があるはずだが、それがない。
「!大神さん、これ・・・」
「ああ、模造刀だよ」
「模造刀・・・だと?」
グリシーヌは疑問をぶつけ、大神はすぐに答える。だが、彼女の誇りを傷つけないように注意もしていた。
「鍛錬用の斬れない刀だよ。でも、刀と寸分狂わず重さ、形状すら違わないから、斬れるように処理されていないだけだね」
「なんだと!?では、あの者は私に対して手加減したというのか!?」
「それは違う!直仁くんはグリシーヌを傷をつけたくなかったんだよ」
「何故だ!?」
「それは、君が舞台に立つ人間だからじゃないかな?」
「!」
舞台に立つ人間、そう大神に言われてグリシーヌはハッとした。大神は直仁に巴里華撃団も形は違えど、舞台に立っているのだと教えた事を伝えた。もしも直仁が斬れる刀を使い、グリシーヌの顔などに傷をつけていたら、彼女は舞台に二度と立てなくなってしまう。顔は女優の命とも言われるのだから・・・。それに気がついたグリシーヌは怒りよりも関心といった感情が出てきていた。
「彼は・・・隊長とは違った在り方のサムライなのだな。だが、その志は隊長と全く変わっておらぬ」
「そうだね、俺も彼から学ぶ事は多いよ。グリシーヌ、手合わせして気が済んだかい?」
「隊長が太陽であるならば、あの者が月と言われている理由が少しだけ理解できたかも知れぬ・・・」
グリシーヌは髪を少しだけかきあげ、照れくさそうにしている。巴里華撃団の他のメンバー達も直仁が大神と並び称されるという実力を知って、質問攻めになってしまった。
◇
「そこから広がりまくって、帝劇に龍虎並び立つなんて言われちまったんだよ」
「それ・・・支配人自身が原因ですよね?真剣白刃取りなんて普通、やりませんよ」
「それは・・ごもっともだな」
直仁は誠十郎からの指摘を苦笑しながら受け入れていた。そんな中、エリスが新たな疑問をぶつけてきた。
「直仁・・支配人は帝国華撃団として・・・黄金蒸気以前の戦いで戦わなかったのですか?」
「・・・・エリス、悪いな・・その話は今、出来ねえんだ」
「?何故です?」
「辛すぎてな・・・話せる機会があれば話してやるよ」
直仁は黄金蒸気事件や黒鬼会、サンダーボルト作戦以前の驚異、すなわち悪魔王サタンとの戦いに関しては決して口を割らなかった。今は話せる状態ではないと、はぐらかし続けている。
その後、食事を済ませ伯林華撃団も滞在期間が延長されるという話を本人達から聞いた。どうやら戦闘稼働データを集めろとの事らしい。
「(いよいよ、尻尾の先端を出してきやがったな・・・黒い狼ども)」
はい、ここまでです。
グリシーヌに直仁は結果的に負けていますが、グリシーヌ本人からすれば別の意味で敗北したと考えてしまっているでしょう。
次回は誠十郎の悩みを直仁が聞きます、男同士の話し合いです。
※結婚ネタはエリス以外にお求めでしたら誰が良いか、活動報告のコメントにてお願いします。
新しいアンケートもやりますのでお願いします!
サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)
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