大切なものを馬鹿にされ、逆鱗に触れる一言を聞いてしまう。
翌日、降魔の動きがあったと朝に連絡があったが上級降魔に対する警戒を解いておらず、森川からも定期的に連絡が来るため、ある程度は把握している。
そんな中、華撃団大戦の日時が近づいている事を誠十郎と直仁は花組メンバーから聞かされていた。
「そうか、もうそんな時期か・・・」
「はい、今の目標は優勝です!」
伯林華撃団の面々は日本に自分達の拠点場所を構えたそうで、そちらで華撃団大戦の準備をすると言っていた。例え、好いた人が居ても手加減しないと言っていたが、愛と試合は別だと答えた時、エリスは笑顔で楽しみにしていると言った。
「天宮、優勝は楽じゃねえぞ?」
「う・・・わ、わかっていますよ。支配人」
「このままじゃ・・・支配人代理としては不安だな。誠十郎!」
「は、はい!」
「仕事が終わったら中庭へ来い。お前に話があるからな」
「分かりました」
その後、仕事が終わった誠十郎は約束通り、中庭に来た。そこには以前のように稽古用の道着に着替えた直仁が木刀と鍛錬用の模造刀を用意し、正座で待っていた。気配を感じ、直仁は目を開けて声をかけた。
「来たか」
「はい、それでお話というのは?」
「楽にして良いから正座で座れ」
「へ?」
「早く座れ・・・!」
「は、はい」
誠十郎は言われた通り、直仁の対面になるように正座で座った。洋服なので繊維が少しだけ違和感を持たせるが、気を引き締める。直仁は模造刀を一本手に取ると刀身を少しだけ見せ、質問をした。
「誠十郎、お前は力をどのような形で極めたい?」
「え?」
「力ってのは大雑把だが簡単に分けると三種類ある。剛力、神速、鉄壁だ」
「・・・・」
「圧倒的な力の強さ、何者も追いつけない速さ、そして堅牢な防御だ。お前はどれを極めたい?華撃団大戦に挑むなら今のお前じゃ、初戦で確実に負ける」
「!」
「確かに雑魚の降魔や霊子戦闘機に乗っている一般隊員相手なら絶対にお前は負けないだろう。だが、今のお前には突出した物がない。簡単に言えば技がないんだよ、相手を確実に仕留める必殺の技がな」
「でも、俺には技なんて・・・どうすれば」
「俺がお前を鍛えてやる、時間の許す出来る限りな。だが、華撃団大戦まで後三ヶ月程度しかない・・・それならお前が極めたいものを教えるのが一番手っ取り早い。特に自分で最初に直感で選んだものは、お前自身に最も合っているからな。それで、どれを最初に鍛え上げるか、そう言われても迷うだろう、俺がそれぞれ見本の技を見せるから参考にしろ」
直仁は太く堅そうな木を地面に固定するように立てると、木刀とは言えないユスの木の太い木の棒を手にし構えた。
「これは剛力の技の一つだ。海軍の演習で鹿児島に行った時に覚えた剣術でな、よく見ておけ」
「はい・・!」
「キィエエエエエイ!チェストォォーー!」
猿叫(えんきょう)と呼ばれる叫びと共に直仁が打ち込んだ一撃は立木をいとも簡単に割ってしまった。その威力に誠十郎は思い当たる剣術が一つだけあった。
「今のが鹿児島の剣術・・・ま、まさか!?に、二の太刀要らずと言われた。薩摩・示現流!?」
「剣をやっているだけあって名前は知っていたか。そう、これは薩摩・示現流だ。これを極めるとどんな堅牢な防御だろうと破れる」
「支配人・・・実戦の剣術まで身に付けていたなんて」
「次行くぞ?次は速さの技だ。速さと防御は俺自身が生み出したものだという事を念頭に置いてくれ」
再び立木を準備するが今度は枝があり葉が生い茂っているものだ。今度は普通の木刀を構え、黙って連撃を打ち込み始めた、その連撃の速さに誠十郎は目を見開く。
「しゅうううう・・・・まだ、遅いか」
秒数にして約11秒足らずで全ての葉を落としてしまった。鍛錬を続けている直仁でもこの秒数をなかなか縮められていない様子だ。
「は・・・速い!」
「これが神速だ、これを極めると周りの動きが全て遅く感じるようになる。最後は鉄壁だ。誠十郎、こいつで思いっきり全力で打ち込んでこい!」
渡したのは示現流の打ち込みをした時に使った野太い棒だった。だが、それを手にした瞬間、誠十郎はさらに驚愕する。
「お、重い!?ただの木の棒のハズなのに!」
「そいつは刀と同じくらいの重さと長さだからな」
「!?」
「さ、そいつで思い切り打ち込んでこい!」
「行きます!いやあああああ!!」
誠十郎は言われた通り、思い切り全力で唐竹を直仁へ打ち込んだ。だが、直仁の構えた木刀とぶつかった瞬間、誠十郎の手にはまるで鉄を思い切り叩いたような反動と痺れが起こった。
「う!ぐううっ!?」
「これが鉄壁の防御だ。これを極めると相手のどんな攻撃にも動じなくなり、平常心が保てる。これらはあくまでも俺が覚えている中で最も強いというだけで、強さはそれぞれ違う。さ、どれにするか決まったか?」
誠十郎は少し悩んだが、深呼吸して自分を落ち着かせ心で感じたものを口にした。
「俺は・・・・速さを極めたいです!」
「何故だ?」
「剛力は俺の性格には向いていません、かと言って出方を伺うほど防御を待つ事も出来ません。俺はすぐにでも行動出来る速さを極めたい、そう思いました!」
「よく言った!なら、速さを追求した稽古をしてやる。俺の先輩でもあり、旧・帝国華撃団司令官だった大神一郎さんの型を俺が覚えているから、二刀流の訓練もできる。だが、その前に一刀で毎日素振りを最低でも1000本だ。1000本こなして息切れが少なくなったら二刀流の稽古をしてやる。覚悟は良いか?」
「はい、よろしくお願いします!」
この日から直仁からの厳しい剣の修行を誠十郎は受ける事になった。直仁の監視の下、素振りを1000本こなした後、薩摩・示現流の稽古の一つである立木打ちを行う事になっている。稽古はこの二つだけだが、それを素早く行うよう、指導している。立木打ちとは土中に埋めて立てられた堅い木に、離れたところから走り寄って、掛け声と共に右、左と打ち込む稽古だが、これを中庭で行っている。
無論、靴など履かせず素足で打ち込んでおり、直仁と同じ道着を着て稽古を行っている。初日はこれを最低でも素振りと同じ1000本打ち込ませている。
「はぁはぁ!はぁはぁ!!」
「ほら!まだ後、200本残ってんぞ!!休むな!!素早く、打ち込め!」
「は、はい!はあああ・・・!」
残りの200本を終えると同時に誠十郎は大の字になって倒れてしまう。稽古を終えると直仁は手を差し出し、起こすと肩を貸した。
「キツいか?」
「はぁ・・はぁ・・はい・・・でも、泣き言は言いません・・・俺だって強くなりたいです・・から」
「ふ・・・先ずはその身体に今の稽古が、日常生活と同じくらいになるまで続けるからな?その後に二刀流の稽古をしてやる」
「はい・・・!」
誠十郎自身も海軍士官学校出身だけあって、根性はあったようで僅か一ヶ月で二刀流の稽古を付けてもらう段階まで登ってきたのだ。直仁は大神一郎の型を使い、誠十郎に稽古を着けている。
「でええええい!」
「甘い!」
右手の獲物で受け流し、直仁は誠十郎に左手の獲物で逆風を繰り出し、誠十郎を退かせた。瞬間、砂時計が落ち切り、蒸気の噴射される音が聞こえ出す。それが稽古終了の合図であった。
「はぁ・・は・・ありがとうございました!」
「ああ、良い意味でまさか・・・一ヶ月たらずで此処まで登ってくるとは思わなかったぞ」
「危ない時もありましたけどね」
「ん?修羅の事か。お前、簡単に飲まれそうになっていたものな?」
「はは・・面目ないです。さくらと初穂が止めてくれなかったら、どうなっていたか」
「だから言ったろ?修羅は誰でも成り易いってな・・・近くに居てくれる人間のありがたみってやつが分かっただろ?」
「ええ、感謝しないと・・ですね」
そう、誠十郎は稽古を続けていた中で己の中の修羅を目覚めさせてしまったのだ。誠十郎の中の修羅は冷酷無比、能面のように表情が動かず、ただ淡々と敵を倒し続ける機械のようであった。直仁は誠十郎の攻撃を全て受け返していたが、表情が無いという点が非常に厄介であった。表情が無いという事は剣気も殺気も無いという事である。それは先読みさせ無いという事だ。更には速さを極めようとしている為に、動きがさらに加速しているように相手は感じる事になる。偶然にも天宮と初穂が中庭に来て、直仁に刃を突き立てようとした寸前に大声で呼びかけられ、己を取り戻すことができたのだ。
「速さを極めようとしている状態で、表情を欠落させる修羅になりやがって・・・正直危なかったわ」
「すみません・・・」
「謝んな。その修羅を自分の中に落とし込めば、お前の剣は誰も見切れなくなる。その域を目指せ!」
「!はい・・!」
誠十郎は直仁からの激励に対して、力強く頷いた。
◇
そして翌日、何やらサロンで言い争いに近い事が起こっていたようだ。そこへ偶然、直仁が通りかかると次世代の帝国華撃団と上海華撃団の二人が言い合いをしていた。近づいて来る人物が見覚えのある人物であったシャオロンは僅かに表情に怒りが篭っている。
「お前・・・あの時の!」
「ん?ああ・・・上海華撃団の隊長か」
「そうだ。まさか本当に帝国華撃団に居たとはな」
「あの時に嘘偽りなく話していただろう?」
シャオロンから漏れる怒気とそれを受け流し続ける直仁。二人の言葉の探り合いに言い合いをしていたユイと天宮も思わず、二人の方を見ていた。
「どうかな?確かに過去は凄かったようだが、今はどうだ?防衛すら出来ない程に落ちぶれてるじゃねえか」
シャオロンとしては今の帝国華撃団の現実を口にしただけだろう。天宮もそれを受け止めており、俯いてしまっていた。
「あ?お前今・・・なんて言った?」
「再建なんて夢なんか見てねえで、帝国華撃団はさっさと解散したほうが良いんじゃないかって言ったんだよ」
「・・・ほう?一丁前な口を聞くじゃねえか・・・青臭いガキが・・!!」
あれから直仁も精神的に成長しており、すぐに刀を抜く事は無くなったが、旧・帝国華撃団や帝劇を馬鹿にされて怒りを露にする事だけは抑えきれなかったようだ。今の直仁は本気で怒っており、その怒りのオーラが龍の姿を形作り、周りに殺気を撒き散らし圧倒している。
「う・・・っ・・・な、何?コイツの後ろに・・・青い龍が見える・・?」
「な・・直仁・・・支配・・・人?」
「う・・っ・・い、息が・・・?」
「息が・・・苦しい・・!?」
「な・・なんだよ。事実だろうが!今や栄光は失われて、俺達が帝都を守ってやっているんだろう!?」
「そうだな・・・それが事実なのは認めるが、旧・帝国華撃団をも馬鹿にしているようにも聞こえてな・・・?あの人達を馬鹿にするようなら・・・本気で殺すぞ?一年前の初対面の時にも言ったよな?俺の家を悪く言ったら…その首、胴体から離すぞ・・・って!!」
直仁の殺気は益々濃くなり、シャオロンへと向けられる。それはまるで逆鱗に触れられた龍は怒り狂うのだと思わせるもので、直仁の霊気が龍の咆哮を聞かせている。
「ぐ・・・うっ!(な、なんだよ・・・この男の殺気、以前に出会った時とは比べ物にならない程濃密になっていやがる!まるで見えない手が、俺の首を絞めているみたいに息が出来ねえ!それに・・コイツの霊気から本物の龍が見えるなんて!)」
「う・・・ううっ!た、隊長・・?これ以上、帝国華撃団を・・・悪く言うの・・・止めよう?」
ユイは本気で怯えきっており、それは天宮も同様でその場に居た初穂やクラリス、誠十郎までもが息が出来ない様子だ。
「おっと・・・これ以上は全員の心身に負担が掛かるな」
直仁は殺気を抑え込み、呼吸を止めさせるような感じが一瞬で無くなった。上海華撃団の二人は汗をかいており、次世代花組は誠十郎以外は怯えたような目で直仁を見ている。誠十郎に関しては初めて直仁は本気で怒りを剥き出しにした事に驚いていた。
「シャオロン・・・とか言ったな?俺が気に入らねえなら、再建された築地倉庫へ来い。時間は問わねえ・・・戦いたいなら受けて立つ。この誘い受けるか?小さな竜さんよ」
「!その言葉、後で後悔するなよ・・!受けて立ってやる!」
「時間指定はそちらに任せる・・・」
そう言い残すと直仁はその場を去っていった。それと同時に女性陣全員が、その場で座り込んでしまった。
「はぁ・・・はぁ・・あれが、支配人の怒った姿」
「アタシの時以上に・・・怖かった・・・ぜ・・・本気で」
「震えが止まりません・・・・先程までの支配人、本当に・・・怖かった」
「息を止まらせる程の殺気・・・あれが直仁支配人の」
上海華撃団の隊員であるユイは緊張が解け、半ば泣いていた。無理もないだろう、同じ人間の間で呼吸を止められてしまう程の殺気など受けた事がなかったのだから。
「怖かった・・・怖かったよおお!」
「ああ・・俺も恐ろしかった。だが・・・俺が必ず勝つ!」
だが、この時に誠十郎だけがシャオロンに対して哀れみにも似た表情をしていたのを誰も気付かなかった。
「(二刀流の稽古している時、直仁支配人は俺に教えてくれた・・・。俺の得意な事は『見取り』だって・・・そして『無形の形』を使っているとも。不思議に思っていた事があの時に解決できた。直仁支配人は相手の型や技、動きを荒削りながらも習得してしまうって噂は・・・本当だったんだから)」
だが、止める事は出来ない。戦って身を持って知らなければ、直仁の恐ろしさは解らないからだ。誠十郎自身も稽古とはいえど直仁と戦い、その恐ろしさは身に染みている。同時に彼は花組のメンバーを部屋へと戻し、上海華撃団の二人も帰宅するよう促したのだった。
シャオロンは嫌いじゃありません!裏表がないからこそ事実をハッキリ言える態度に好感は持てますが、あのシーンだけはどうも・・・。
次回は直仁とシャオロンが戦います、生身で。
直仁自身も大切なものを馬鹿にされて殺気立ちましたが、それだけ大切だった人達が居なくなってしまった事が辛いのです。
※アンケートを見ているとヒロイン別ルートの次の担当はランスロットが確定しそうです。直仁ってストッパー役に見られてるのかな?というよりも、ランスロットが虎龍王に・・似合いそうと作者の私は思っていますww
サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)
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倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
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上海華撃団 ホワン・ユイ
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新・帝国華撃団の誰か
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風組or月組メンバー