サクラ大戦~もう一つの視点   作:アマゾンズ

39 / 45
それは帝国歌劇団の舞台の中で伝説であり、幻と評されている歌劇。

その演目を観る事が出来た観客は皆が口を揃えてこう言う。

「あれは史上最高の舞台」であったと。

その演目の名は海神別荘。


間幕 伝説の歌劇 導入編

その日、直仁は必要以上に華撃団の面々へ激を飛ばしていた。稽古場の空気が普段よりも一段重い。

 

「天宮、感情を押し殺すな。相手を愛しているが憎くもあり、自身の帰郷への想いが全く感じられないぞ」

 

「す、すみません!もう一度お願いします!」

 

此処まで激を飛ばす直仁も珍しい、誠十郎は眉をひそめる。出番待ちをしている歌劇団のメンバー達も同様であった。

 

こういった経緯は二日前に遡る。それは直仁が倉庫に用があり、目的の物を探している時だ。

 

「……なんだ?演目の映像フィルム?」

 

それは映写機で再生する事の出来る映像フィルム。表面に埃が被っているが包装されている為にフィルムそのものは無事だ。指先で擦ると乾いた紙が軽く鳴った。

 

「みんなで一緒に観てみるか」

 

何気なくフィルムを手に直仁は新・歌劇団のメンバーや誠十郎を呼び寄せ、映画館のような暗部屋を作り、スクリーンを下ろした。

 

「何を魅せてくれるんです?」

 

「倉庫で演目の映像フィルムを見つけてな?参考になるかもしれねえと思ってよ」

 

「なるほどね」

 

「以前の帝国歌劇団の舞台映像が残ってたなんてな」

 

「すごく楽しみです」

 

天宮、アナスタシア、初穂、クラリスが直仁の言葉に反応し、あざみは少し退屈そうに黙っている。

 

映像フィルムがスクリーンに映し出され、カウントダウン後に舞台が映し出される。

 

「海神別荘・・・」

 

直仁は帰郷しても帝国歌劇団の舞台の情報だけは常に入れていた。その当時に観客として最前列で観た演目、それがこの海神別荘だった。小声で呟いた演目名を誰にも聞かれてはいなかった。初めて見た演目であり花組史上最高傑作、一観客として演目の時間を知っており、その事実が痛みとして胸に疼きを与えた。演目の濃密な時間と現実から剥離させられた瞬間が今でも身体に刻まれたままだ。まるで、海の波を全身に浴びてしまった時と同じように。

 

映像の中の舞台が動き出す。その瞬間に全員が引き込まれたかのような感覚に陥る。

 

鈴の音、その効果音だけで歌劇団全員に緊張が走りだす。先ほどまで退屈そうにしていたあざみまでもが映像に見入っている。

 

冒頭、美女が女房に手を引かれ公子と対面するシーン。直仁以外の全員が息を忘れたかのように黙っている。

 

『青玉殿でございます』

 

「(すみれさん・・・)」

 

脇役の女房・・・その一言で海底の殿が浮かんでくる。まさに舞台が現実化していた。美女と公子の間、映像であるはずなのに息遣いが聞こえてくる。

 

『よく見えた』

 

「(マリアさん・・・)」

 

公子、美女の手を取ろうと手を伸ばして近づこうとするも美女は崩れ落ちるように床に伏す。

 

美女、その姿は正に海の底を知らぬ陸の美しき女。その女が恐ろしさを口にする。

 

「(さくらさん・・・)」

 

『あ・・ああっ!』

 

たった一つの流れだった。

 

公子が手を伸ばし、美女が崩れる。その一連が引き込まれるように美しい。

 

美しくあるのに息が詰まる。美しいから逃げ場がない。

 

更には公子の腰。下げられている刀が視界に刺さる。海の恐ろしさを形にしたような刃。

 

確かに恐怖がある。

 

だが、その恐怖を安易に出してはいない。恐ろしくあるはずなのに美女はただ怯えるだけではない、心だけが生きている。

 

好奇心。生きているから得られる僅かな安心感。それが僅かな言葉と動きだけで見せている。

 

『どうなさいました貴女、どうなさいました』

 

『はい・・・、覚悟しては来ましたけれど、余りと言えば、恐ろしゅうございますもの』

 

時間にしてほんの数十秒、だがその密度が高すぎる。新・花組のメンバーはまるで飲食と睡眠を忘れて集中し続ける研究者のように映像を凝視している。

 

映像が終わると直仁が現実に引き戻すかのように手をパンパンと叩いた。

 

「戻ってこい、お前ら」

 

現実に引き戻された新・花組のメンバー達は自分の心臓の鼓動を聞いていた。映像だったはずなのに興奮が抑え切れない。胸の中に確かに海の底の冷たさがある。誠十郎も演目を実際に見た事はないのに、胸の鼓動がうるさい。

 

「次回の公演はこれをやる」

 

「え?」

 

天宮が沈黙を破った。呆気に取られた声ではあったが確かに沈黙を破ったのだ。

 

「この演目は海神別荘。花組史上、最高傑作とも言われている演目だ」

 

花組史上最高傑作の演目と聞いて、新・花組のメンバー達が喉を鳴らした。初穂は喉が鳴り、クラリスは指を強く握り、あざみは言葉を発さない。

 

「前回シンデレラによって観客に熱を与え、お前達も熱を得る事が出来た。だが、輝かしい光を魅せるだけでは本当の歌劇団とは言えない」

 

直仁は今まで以上に厳しく、冷徹な目を見せ話を続ける。

 

「海神別荘は暗闇の中にある僅かな輝きを見せる演目だ。非常に難しい演目になるだろう。ましてや、花組史上最高傑作の演目の復活ともなれば旧・花組のファンも必ず観に来る」

 

緊張が高まる。旧・花組のファンが観に来る。それは旧・花組の十年間の歴史をその眼で観て来た証人が来るという事。

 

「今までは輝きを魅せればよかった。だが、今回からは違う・・・暗闇を輝きと同等にみせなくちゃならない」

 

暗闇を輝きと同等に見せる。ある意味、矛盾した言葉にも聞こえる。だが、舞台とは矛盾を美しく見せる場でもある。

 

同時にそれは、舞台に立つ意味を改めて認識させられる前兆にすぎなかった。




最近、種火にすらならないくらい鎮火していました。偶然、海神別荘の『すべては海へ・・・』を聞いて戻ってきた次第です。

やはりサクラ大戦が私の原点であると再認識しました。

リハビリも兼ねて新・サクラ大戦の花組のメンバーで海神別荘を公演するなら?

このお話を稽古編、公演編と別けて書くつもりです。

サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)

  • 倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
  • 上海華撃団 ホワン・ユイ
  • 新・帝国華撃団の誰か
  • 風組or月組メンバー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。