サクラ大戦~もう一つの視点   作:アマゾンズ

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直仁の霊力が目覚める(第一段階)。

わらしべイベント攻略。


第三話 暴走!実験機!

体験入隊から二週間弱となり、自身の稽古と隊員達の訓練によって直仁自身もそれなりに変わってきていた。

 

仕事はモギリの手伝い、事務所の伝票整理、ファンレターの届け、売店の手伝い、時には特別サービスとして桜餅を作って販売する事を企画・提案したりもした。

 

無論、ずっと公演がある訳ではないので、小道具を作ったり、整理をしたりなど帝劇としての手伝いも忘れず、訓練も欠かさない。

 

「さくらさん、稽古を付けて貰えますか?」

 

「はい、良いですよ。中庭に移動しましょうか」

 

中庭に移動すると無銘の刀を用意され、準備を終える。直仁は刀を置き、さくらにその場で正座するように言われ、正座した。

 

「・・・・」

 

「・・・・行きます!」

 

さくらが木片を投げつけると、直人は自分の間合いに入ってきた木片を四分割にしてしまった。さくらに教わった通りの型で納刀をし、静かに刀身が鞘へと収められ、軽くキンと音が鳴った。

 

「すごいです・・・!直仁さん!」

 

「いえ、さくらさんの指導のおかげですよ」

 

「ふふ、直仁さんが真面目に稽古していた成果ですよ。それじゃ稽古を終えますね」

 

刀を返却し、直仁は自室に戻ると、さくらに渡されたサボテンの世話をする。

 

「あれ?このサボテン、そろそろ花が咲きそうだな・・・って、何でそんな事が分かるんだろ?サボテンの世話も終わったし、カンナさんから貰った板割りに挑戦してみるかな」

 

サボテンを日当たりの良い場所に置き、板割りの準備をする。準備が完了すると呼吸を整え、自分の拳に気を集中するイメージをし、それを何度も繰り返す。

 

「!!」

 

思い切り、板へと拳を打ち込むとヒビが少し入り、亀裂が走ったが割るまでは至らなかった。

 

「もう少しかな?また明日にして、午後の訓練に行かないと」

 

午後は紅蘭の下での科学調合、及び勉強だ。彼自身、技術者としての知識と技術も興味があったのだ。

 

「(直仁はんは光武を動かせる最低限の霊力しか無いと思っとったけど、特訓する度に霊力が少しずつ目覚め始めとる・・・花やしきと帝劇の技術者を総動員かつ、光武の余剰パーツで専用機を組み上げんとアカンかもしれんなぁ)」

 

紅蘭も直仁の成長に気づき始めている。直仁は親方や技術者の面々と楽しそうに話し込みつつ、整備の方法などを教わっている様子だ。紅蘭はその考えを一旦、頭の隅に置き、話の輪に加わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「支配人って、その時から雑務をこなしていたんですね。道理で手際が良いわけです」

 

「褒めてんのか?それ」

 

「もちろん褒めているんですよ!」

 

「あんまり嬉しくねえな・・・」

 

天宮からの言葉に苦笑しながら、一息入れる為に茶を飲む直仁。だが、誠十郎だけは別の視点から直仁の話を聞いていた。

 

「(確か、読んだ事のある軍の記録の中で十年前・・・銀座で正体不明機の暴走事件があったって。それを鎮圧したのは帝国華撃団だとしか記録されていなかった・・・)」

 

誠十郎は直仁の話を聞き続ける中で記録されていない戦闘や、偉業がある事に気づき始めていた。彼自身も帝国華撃団へ来る前にある程度の記録から情報を仕入れていた。

 

「支配人、もしかして・・・貴方は?」

 

「あー、誠十郎。聞きたい事が山ほど有るだろうが、俺が自分から話してやっから」

 

「・・・分かりました」

 

先手を打たれてしまい、誠十郎は言葉を止めた。直人の性格を理解している故に強引には聞き出すべきではないと考えたからだ。そこへ天宮が当然の疑問として質問する。

 

「話を聞いていると支配人は光武を動かせる位、最低限の霊力しか無いって、おっしゃってますよね?でも、それは変ですよ。今でも現役で通用するくらいの霊力があるのに」

 

「今の俺は次世代への礎だ。現役は十年前で終わってんだよ」

 

「でも・・・やっぱり」

 

「俺がこうして霊力を保っていられるのは瞑想を欠かさないからだ。霊力ってのは使い続ければ、いつかは無くなる・・・突然な。それに俺は光武で戦うのに制限時間がある。だから、長時間の戦いは出来ねえのさ・・・」

 

「制限時間?」

 

「長時間乗っているとな、腕に震えが来て動かなくなるんだよ。恐怖のあまり動けなくなるって状態があるだろ?それが持病のようになっちまってな、痺れが走り始める。操縦者ならば持病持ちは致命的だ、最高で七分しか、今の俺は光武に乗れん。それを過ぎると腕が痺れて使い物にならない」

 

「たったの七分しか・・・乗れないなんて」

 

「支配人は確か、俺と同じ海軍士官学校に入学していますよね?それは何故?」

 

「え?」

 

話題を変えてきた誠十郎の言葉に天宮が目を見開く、もしそれが事実なら直仁は誠十郎の先輩という事になるからだ。

 

「やっぱり、そこを突っ込んできたな。いいぜ、話してやる・・・俺の霊力が目覚めるきっかけになった出来事となぜ俺が海軍士官学校へ入学したのかをな」

 

 

 

 

 

 

 

体験入隊から約二十日まで日数が経過し、朝の鍛錬をする前に、さくらから預かったサボテンを世話していた時だった。

 

「ん?あ・・・!」

 

直仁の愛情を込めた世話か、もしくは霊力か、サボテンは花を咲かせたのだ。まるでその花はありがとうと言わんばかりに綺麗に咲いている。

 

「花が咲いたぞ!さくらさんに見せに行かなきゃ!」

 

直仁はサボテンを持つと急いで、さくらの部屋に行き、扉をノックした。

 

「さくらさん、いらっしゃいますか?」

 

「はい」

 

さくらが扉を開けると、少し慌てて来た様子の直仁に声をかける。

 

「どうしたんですか?直仁さん、そんなに慌てて」

 

「さくらさんから預かったサボテンが花を咲かせたので、お見せしたくて」

 

サボテンに咲いた花を見せるとさくらは驚いた様子だ。

 

「わああ!すごいですよ!直仁さん!私、嬉しいです!」

 

「い、いえ」

 

「何か、ご褒美に・・そうだ!中庭へ行きましょうか。少し待っててください」

 

「?」

 

さくらに連れられ、中庭へ行くとさくらは愛刀の霊剣・荒鷹を手にしている。直仁は何が起こるかが分からずにいた。

 

「私の必殺技、破邪剣征・桜花放神を見せてあげますね。一度しかやりませんからよく見ていてください」

 

そういってさくらは刀を構え、鯉口を切って刀身を見せると集中するように目を閉じた。

 

「破邪剣征・・・・!桜花放神!!」

 

叫んだ瞬間、刀身から桜色の光が放出され、消えていった。無論建物を破壊しないように加減したのだろう。

 

「この技は何よりも精神力。精神の統一が大切なのです。直仁さんもこの体験入隊の期間に精神を正しく鍛えてくださいね。では、後で・・・」

 

さくらは中庭から去り、直仁だけが残された。だが、直仁は先ほど見せられた破邪剣征・桜花放神の凄まじさに固まっていた。

 

「あれが・・・さくらさんの技。すごいな」

 

直仁も自室に戻って朝の鍛錬の準備をする事にする。今日はすみれの薙刀術の稽古が訓練だ。

 

「すみれさん、稽古をお願いします」

 

「ええ、構いませんわ。では、早速参りますわよ?今日は手合わせの稽古ですわ」

 

薙刀の流派、神崎風塵流免許皆伝であるすみれからすれば、直仁の薙刀術は初心者から脱却が出来た程度のものだ。しかし、身体の柔軟さと素早さが身に付いており、更には石鎚を使っての切り返しに驚かせられた。

 

「(やはり、直仁さんは成長が早いですわね。華撃団の環境だけではなく・・・わたくし達との訓練の他に鍛錬も怠ってもいませんわ。無論、このわたくしが直々に指導しているのですから当たり前でしょうけど)はぁ、はぁ、・・・此処までにしましょう。直仁さん」

 

「はぁ、はぁ・・・はい。ありがとうございました」

 

「直仁さん、お聞きしたい事があります。薙刀の石鎚を使う事をどうやって知ったのです?」

 

「え?ああ・・・あれは薙刀の長さを考えていたら思いついたんです。刃にだけ集中する相手が多いから逆ならどうだろうと」

 

「そうでしたか・・・(普通の人では思いつきませんわ、やはりこの方の力は眠ったままなのですね)」

 

「それじゃ、すみれさん。失礼します」

 

「ええ、午後の訓練も頑張りなさい」

 

去っていく直仁の背中を見つめた後、すみれは直仁に眠る力に対してヤキモキしていた。あれほどの才が有るというのに、何故・・磨かなかったのかと。

 

彼にも事情はあったのだろう、それでもと思わずにはいられない。否、勿体無いという言葉が的確だろう。

 

そんな風に想いながら、すみれは汗を流すためにシャワー室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

訓練の合間の自由時間に直人はカンナから貰った割り板を前にしていた。気を集中し、拳へと集めるようにイメージする。

 

「!」

 

気合と共に振り下ろされた拳は割り板を見事に真っ二つにしたのだ。一枚とはいえ、厚みのある板だ。これが割れた事は大きい。

 

「つ、ついに割れた!よし、カンナさんに見せに行こう!」

 

ダッシュでカンナの部屋の前に行き、すごい勢いでノックする。カンナは何事だと思い切りドアを開けてしまい、それが直人のオデコにぶつかる。

 

「(痛ってええ)!ぐっ・・!倒れてたまるか・・・・!」

 

「今のガンって手応えなんだ?あ、直仁!大丈夫か!?まさか居るとは思わなくてさ。悪い!」

 

カンナも悪気はなかったのだろう。必死に謝っているのを見て直仁は額を押さえながら大丈夫といった。

 

「にしてもアタイの力で開いたのに倒れなかったな。スゲエ根性だぜ・・・それと、一体、アタイに何の用だ?」

 

「ああ・・・カンナさんから貰った板が割れたのでそれを見せに」

 

真っ二つになった板を見せると、カンナは驚きながらも笑っていた。

 

「おお~!本当に割れてるじゃねえか!一枚でも困難だって言われてるのに。こりゃあ、何か返さなきゃな・・・そうだ!直仁、少し時間あるか?」

 

「え?ええ、ありますよ」

 

「おし、なら・・・アタイの必殺技、一百林牌をみせてやるよ。中庭に行くぜ!」

 

中庭に到着すると同時に、桜と同じようにカンナが必殺技を披露してくれ、それを見取り、カンナは使うには気合が必要だと言って去っていった。

 

「一百林牌・・・自分なりに変えられないかな」

 

さくらの時と同じように必殺技を見た直仁は、考え事をしながら中庭から去った。

 

 

 

 

 

午後は光武のシュミレーターを使い訓練の成果を見せる日だ。今回はより実戦に近いプログラムを用意したとの事。

 

「大神さん」

 

「やぁ、直仁くん、それじゃ早速、テストを始めようか?光武を選んで・・・」

 

その時、突然、警報が鳴り響いた。穏やかだった大神の表情が真剣になり、直仁を見る。

 

「警報!?」

 

「直仁くん!」

 

「出撃ですか!?」

 

「そうだ、司令室に急ぐんだ!」

 

大神と直仁は走り出し、急いで戦闘服に着替え、作戦司令室に趣いた。そこには米田が険しい表情でふたりを待っていた。他の隊員は全員揃っている。

 

「遅いぞ!何やってたんだ!」

 

「申し訳ありません!それより状況は?」

 

「例の実験機が格納庫を破壊して出て行きやがった」

 

「誰が乗っているんですか!?」

 

大神の疑問は最もだろう。光武が出て行ったとなれば、誰かが操縦しなければならない。しかし、その常識を覆す言葉があやめから出てきた。

 

「誰も乗っていないわ・・・」

 

「あやめさん?」

 

「誰も乗っていないのよ、あの光武には。新開発の自立システムが暴走しているだけ・・・あの光武は自分で動いているのよ」

 

「!じゃ、じゃあ・・・直仁くんが言っていた光武が自分で動いた、という予測が」

 

「ああ、最悪な形で当たっちまったって事だ。本人は当てずっぽうかもしれねえが・・・な」

 

大神と米田は小声で何かを話しているが、直仁は紅蘭に自立システムに関して質問していた。

 

「紅蘭さん、あやめさんが言っていた自立システムとは一体?」

 

「神崎重工が開発した擬似霊子力によるシステムや、これによって機械だけで光武を動かせるというものだったんや。基礎理論は完璧やったけど、ウチは胡散臭く感じてたんや・・・科学者の勘ってやつやけど」

 

「なるほど・・・勝手に動いているのはそのせいだと」

 

「せや」

 

「けど、どうしてそんなシステムを?」

 

「命がけの戦いに一人でも多くの犠牲を出さない為よ・・・・」

 

「・・・・」

 

直仁の疑問に答えたのはあやめであった。その答えは納得出来るものだ、帝国華撃団の戦いは光武という鎧があるものの、戦うのは生身の人間だ。残されるという気持ちが解るが故の言葉なのだろう。

 

「おしゃべりはそこまでだ。花組全員、出撃の準備をしろ!ただし、直仁。お前は留守番だ」

 

「了解しました」

 

「今回は本格的な戦いになりそうだからな、悪く思うな」

 

米田の指示に直仁自身も納得していた。出撃のみの経験があるだけで戦闘の実戦経験のない人間が出しゃばった所で足でまといになるだけ、その事を理解し直仁は抗議しなかった。

 

「帝国華撃団、出撃!」

 

大神を始めとする帝国華撃団は出撃していき、実験機が暴れている上野公園に到着した。

 

「実験機はどこだ?」

 

「大神さん、あそこです!」

 

「・・・!みんな、実験機を取り囲むんだ!」

 

「「「「「了解!!!」」」」」

 

紫と赤の光武が先行し、緑と黒の光武が後衛、黄色と白の後部が左右、中心に桜色の光武という陣形で、実験機へと向かっていく。

 

「たあああ!」

 

「チェストォーー!」

 

薙刀の薙ぎ払いと上空から叩きつける拳、この攻撃を受ければいかに機械であろうと無事では済まさない。

 

この攻撃で終わる、誰もがそう確信していた時であった。実験機が薙ぎ払いと拳の距離を見極め回避したのだ。

 

「なっ!?」

 

「避けられた!?」

 

「そこ!なっ!?」

 

「あっ!?」

 

マリアの射撃すらも避けられ、実験機はジャンプし、アクロバティックな曲芸で帝国華撃団の背後を取るとそのまま逃走してしまう。

 

その頃、帝劇では何があったか分からない為に米田が状況確認の為、通信を繋ぐ。

 

「大神、どうした?状況報告しろ」

 

『申し訳ありません、実験機を取り逃がしました!』

 

「なんだとぉ!?」

 

『現在目標は、銀座へ向けて逃走中・・・!我々も全力で追撃します!』

 

「銀座だぁ・・?くそっ!帝劇はガラ空きだぞ!」

 

「実験機が銀座まで到達する時間、四十秒しかありません!!」

 

「司令・・・」

 

風組の一人である、かすみからの報告にあやめが意見を言いそうになったが、米田は司令室の椅子に座っている一人の隊員に目を向けた。仮の入隊とはいえ、今現在は立派な花組の一人だ。

 

「おい、直仁。格納庫にテスト機としてパーツから組み上げた光武が1機ある。出撃の準備をしろ」

 

「え?」

 

直仁に米田から命令されたのは、光武に乗って戦えという事であった。現在、花組は上野公園から銀座へ全速力で向かっているが計算上、間に合わない。

 

実験機が銀座で暴れれば、帝都の被害はそれこそ甚大になる。更には光武が破壊したという事で帝国華撃団への風当たりが強くなる可能性もある。

 

「そんな、無茶です!」

 

それを咎めたのはあやめであった。彼女も軍人であるが故、実戦経験が皆無で霊力だけある一般人に対し、戦えと命じたのだから無理はない、だが。

 

「仕方ねえだろ、花組を待っているよりもヤツの来る方が圧倒的に速い。直仁、出撃だ」

 

「はい!」

 

直仁も隊員達が出撃の為に走っていった通路を走り出す。その間、華撃団の技術者達はテスト機の光武を僅かな間に実戦で耐えうるレベルまで仕上げ、武装を装備させてはあるが、カラーリングは何も塗装されていないメタリックグレーのままだ。

 

「しっかり、やって来いよ!」

 

「はい、行ってきます!」

 

整備士の服を着ている帝劇の親方に気合を入れられ、直仁は光武を起動させる。武装は太刀と片腕に装着されたクローのみ、完全な接近戦仕様だ。

 

「狛江梨 直仁、行きます!」

 

帝劇がすぐ側であるため、すぐに出撃した。直仁は飛び出した勢いをそのまま、着地すると光武の内部で己の中で思考していた。

 

「まさか、出撃する事になるとは思わなかったな・・・でも」

 

「直仁さん、実験機が来ます!」

 

「!」

 

思考に耽っていた頭を切り替え、直仁は太刀を鞘から抜き、迎撃態勢を整えると刃を下にした舟のような形に見える構えを取った。

 

「来るなら、来い!此処は、僕が守る!」

 

実験機はデータにない相手であるのが不自然になり、そのまま戦闘へ入り牽制の射撃武器に腕を切り替え、ガトリングガンのように放ってきた。

 

「!なんの!」

 

それを避けて、斬撃を繰り出すが実験機は簡単にそれをいなしてしまい、直仁はバランスを崩した。そこへ実験機のパンチが完全に直仁の乗る光武に直撃した。

 

「うぐぁああ!」

 

シミュレーターではない、実戦による初めての痛み。恐怖がせり上がってくるが今ここで自分が逃げればもっと大勢の人間が被害に遭う。

 

「僕は・・・まだやれる!」

 

だが、実験機の恐ろしさを直仁は身体で味わう事になる。自立システム、更に光武という事は霊子甲冑のデータが反映されているという事だ。実験機はふらついた直仁の光武に容赦なく殴りつけ、更には壁に叩きつけた。

 

「ぐあああああ!・・・っう」

 

『直仁!直仁!どうした!?』

 

直仁は気絶してしまい、実験機は容赦なく直仁の光武を殴り続ける。光武はあくまでも霊的な防御を目的とした甲冑であり、物理攻撃には極端に弱い。直仁は通信から入る米田からの僅かな声が遠くなっていくのを感じた。

 

「直仁、直仁!返事をしろ!大神!いつまでモタモタしてんだ!?」

 

『申し訳ありません、銀座まで後10分は掛かります!』

 

通信を切り替え、花組が急いで来るように檄を飛ばすが、到着時間だけはどうにもならない。風組の悲鳴にも似た報告が米田の耳に入る。

 

「直仁さんの光武、ダメージが30パーセントを超えました!」

 

「実験機の攻撃は止まりません!」

 

「直仁さん!起きてください!直仁さん!」

 

かすみが必死に呼びかけるが直仁からの返事はない、それでもと必死になって呼びかける。米田は握りこぶしを握って現状に悔しさを覚えた。

 

「くそ!起きやがれ!直仁!早く、起きやがれ!」

 

 

 

 

 

攻撃を受け続けている振動で直仁はようやく意識を取り戻した。実験機の攻撃が止むことはない。

 

「ぐ・・・気絶して・・たのか・・・僕は・・・此処で膝を折ってなんか、いられないんだよおおおおおお!」

 

直仁の纏う光武が蒼い光に包まれ、実験機に体当りして押していく。その様子を風組が直仁が目覚めた報告と共に霊力の爆発的上昇を報告する。

 

「な、直仁さんが意識を取り戻しました!いえ、待ってください!」

 

「直仁さんの霊力値が爆発的に上昇しています!120、140、180、250、300!ま、まだ上昇しています!」

 

「なんだと!?こいつぁ・・・目覚めやがったか?」

 

「ええ、ようやく・・・彼が目覚めましたね。司令」

 

米田の顔は驚き、口元には笑みが浮かんでいた。ようやく、彼が目覚めたのだと目の前で見たが故に。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

直仁は太刀を握っていない腕で実験機を殴り飛ばしたが、実験機も最大の危険を察知したのか蓄積されたデータを最大限にし、直仁を追い込んでいく。

 

「ぐうう!強い!このままじゃ・・・」

 

『直仁!後、一分時間を稼げ!花組が来る!』

 

「一分・・・!でも、此処で倒さなきゃ・・・意味はない。あの状態で戦ったらまだ被害が拡大する」

 

『無茶をするな!後は花組に!』

 

「なら、こうなったら一か八か。あれをやるしかない・・・!!さくらさん、見ていて下さい・・!行くぞ!!」

 

直仁は太刀を構えると剣道の基本の構えを取った。さくらから指導されていた為に剣の型はしっかりと身体で覚え込んでいる。

 

直仁は精神を集中し、刀身へ込めていき蒼い光が刀身から溢れ出し始める。

 

そこへ桜色と白色の光武が駆けつけた。目の前の光武には直仁が乗っていると連絡を受けている為、あれは直仁だと分かる。

 

「破邪剣征・・・・!!」

 

直仁は霊力の宿した刀身を鞘に収め、構えを取る。これがこの技に対し、最も良い構えであると何かが教えてくれる。

 

大神はその場で固まり驚いていた。直仁が使おうとしている技は今、隣にいる隊員の技そのものだからだ。

 

さくらはその技を一目見ようと動かなかった。発動の型は違うが、その技の名は・・・。

 

「桜花、放神!!」

 

直仁はさくらの必殺技である破邪剣征・桜花放神を実験機に向かって放った。発動の型は居合抜きから霊力を放出するようだ。直撃した実験機は完全に破壊され、機能停止状態になっている。

 

「実験機の破壊に成功・・・目標は完全に沈黙しました」

 

『うむ、良くやった。直仁・・・。帰投しろ!』

 

「はい」

 

司令室から花組のメンバー達も帰投するよう米田が号令を出した。米田は直仁の見せた火事場の馬鹿力の霊力が目覚めた事に笑っていた。

 

「へっ、あんな大技まで出しやがって・・・!」

 

「彼は候補になりますか?司令」

 

「さぁ、どうだかな。後で大神の奴を支配人室に呼んで来い。アイツに書かせなきゃならねえ事が出来たからな」

 

「では、わたしも?」

 

「ああ、頼んだぞ。あやめくん」

 

「はい!」

 

これが後に、霊子甲冑実験機暴走事件として記録される事になった出来事である。その活躍は帝国華撃団によって解決されたと記述され、狛江梨 直仁の名が表に出てくる事は一切無かった。




直仁くんの霊力が目覚めました。この時はまだ一段階で引き出せる容量が増えたに過ぎません。

直仁くんがさくらさんの必殺技である破邪剣征・桜花放神を使えたのには「見取り」の他に激!花組入隊!でのわらしべイベントをクリアしたからです。

ゲームだと実験機は気を貯める→必殺→終了の流れなので。

次回は体験入隊が終わり、士官学校への入学する決意を固めます。

サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)

  • 倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
  • 上海華撃団 ホワン・ユイ
  • 新・帝国華撃団の誰か
  • 風組or月組メンバー

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