ガンプラ物の短編集   作:ノイラーテム

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スペードの女王

●大規模戦闘

 そこは雪に閉ざされた寒い国だった。

雪国にはちょっとした噂と真実が混在する。

 

例えば出歩けないからこそ、冬場に可能な趣味にはお金を掛けるという。

集会所の類も雪の重みと寒さに耐えるため、堅牢でセントラルヒーティングも充実して居る。

 

他にも寒い国では、畑で兵隊が獲れるという。

それはガンプラに置いても同様だった。

 

「K! 全レーザーリンク、同期しました!」

 ピコーン!

闇の中でジェガンの頭部装甲が開かれ、バイザーが明滅を開始する。

指向性レーザー通信機がむき出しになっており、味方機との情報リンクを行っているのだろう。

見えない位置に居る筈のフォース全機のマーカーを捉えた。

 

「おっぱじめるよ! 我らがツアーマスターに勝利を!」

「「「我らがツアーマスターに勝利を!」」」

 照明を灯して居ない民の中……工場かドックらしき場所。

そこで無数の明滅が起きる。

闇の中で一つ目巨人が唱和したかのように。

 

ドン! と爆音が聞こえたかと思うと巨人の群が飛び出した。

それらは全てジェガンで構成されており、識別用にスペードの紋章がある。

更にその全てが、不整地用のダッシュローラーで高速機動を行っていた。

 

戦闘で砕けたアスファルトを物ともせず、町中を進軍し始めた。

 

「敵機来襲! 先方はタイヤ付きです!」

「よりにもよってアインラッドか!?」

 望遠カメラで捉えられた画像が指向性レーザー通信で配布された。

タイヤ型のSFSに搭乗したモビルスーツが町を目指して疾走して居る。

 

「うろたえんじゃないよ! 空から降ってくるビルゴよりもマシさ!」

「HAHAHA! 確かにあの程度!」

「それは傑作だ。インフレに感謝しましょう!!」

 同じNPC軍団でも能力傾向に差が存在する。

 

移動力と防御力を兼ね備えたアインラッド。

数が増えることで強化される特性を持つ、絶大な防御のプラネイト・ディフェンサー。

どちらが手に負えないかといえば、精鋭であるジェガン部隊にとって後者の方が厄介だった。

 

「当らなければ良いって事は、当てれば倒すのは可能って訳だ。B1とB2をサポートしな!」

「「了解!!」」

 大女のアバターが指示を出すと、ジェガン隊が数機一組で射撃戦を開始した。

回避を重視した軌道で移動し続け、相手の動きを阻害しつつ味方への経路を邪魔しに掛る。

 

彼ら歩兵役のPナンバーに変わって、突破役を担うのはBを記した二機。

 

「俺がヴェズバーで道を拓く! てめえは突喊しな!」

 アインラッドは強固だが、それでも昨今のインフレ火力ならば上回れるし、横合いは弱い。

側面を守るビームシールドは飛行用のビームローターよりも厚いが、突破できない程ではない。

 

それをプログラムされているからこそ、敵も編隊移動で互いの死角を補い合っていた。

前後を守るタイヤ部分は、それこそ火力特化ではないと破壊できないからだ。

 

「B2からの砲撃を確認。B1、突撃しまーす!!」

 F91をモデルにしたジェガンが分厚いビームを斜めに放つ。

流石に正面は貫けないが、側面に振れた瞬間にビームシールドを叩き割った。

 

それで倒し切れる訳ではないが、その隙をついてクロスボーン系をモデルにしたジェガンが突撃を掛けた。強烈なランスチャージで移動力を攻撃力に変換。圧倒的な攻撃力で貫通したのだ。

 

「B1の後退を援護する! 全機弾幕を張りな!」

「統制射撃を開始します!」

 濃密な飽和攻撃がアインラッドに見舞われた。

損傷して足を止めている事もあり、むき出しになった中のモビルスーツへと火力が集中される。

 

次々に叩き込まれる攻撃で二機が大破し、その間にB1は悠々と後退を果たした。

 

「B1、今の内に穂先を変更しときな。アインラッドは壊れた刃で何度も倒せる相手じゃないよ」

「了解です! ランサー脱槍!」

 バンと音を立てて、B1が持って居たランスが弾ける。

ヒビの入った穂先が外され、中から真新しい部分が顔を出した。

 

アインラッドは他にも居るし、数で押し込むには彼らの活躍はまだ必要なのだ。

 

「R2! 他の部隊はどうなってる!!」

「以前として通信は途絶した場所が多いですが、一部で回復して居ます!」

 他の部隊……。

おそろしい事にソレは別のフォースではなかった。

 

大女がKを務めるこの部隊とは別に、同胞たちだけでチームを組んで居るのだ。

ヌーベルGMⅢやハイザック……それも関節部を共通規格された、恐るべき大集団である。

識別用にクローバー・ダイヤ・ハートの紋章が記され、トランプにちなんでいると思われた。

 

「ピピニーデンが出る前に落としたんですかね?」

「知るか! こっちもチンタラしてられないよ! さっさと片付けて母艦のモトラッドを叩く!」

「「了解です!!」」

 Vガンダムのキャンペーンを同胞だけでこなして行く。

NPC部隊が補修ルーチンを開始する前に、彼女達は損傷パーツを融通し合って進撃して居た。

 

それはNPCのタシロやクロノクルが補正できるペースではない。

このフォースは二個一、三個一を繰り返し……。

弾薬補充以外で一度も補給に戻ること無く、補修タイム無しでキャンペーンを乗り切ったのである。

 

●集団戦対策

 その記録画像を見た時、さしものトップエース達も絶句した。

ましてや今売出し中の少年少女にとって、脅威以外の何物でもない。

 

「どうかね? 彼女達の実力は」

「おっかねー。数もスゲーが、オッサンらと同じくらい強い奴らも居たぞ?」

 チャップマンを思わせる髭の紳士が画像を閉じた。

画面に表示し続けなくとも、それがどれだけの強さだったのか、少年は良く覚えている。

 

雑魚ならば無視しても気にならない。

だが彼をして、戦って見たいと思う強者が何人も居たのだ。

 

あの戦場だけではない、ジムⅢが、マラサイが、あるいは鹵獲品仕様のゲルググが居た。

雪原で、湿原で、海岸で、砂漠で。その多くの戦場を駆け抜けていたのだ。

仮にもV2ガンダムを操る少年にとって、NPCとはいえあのステージに出て来る敵の強さは知っている。

 

「個々で倒すのは苦労しませんけれど、大規模ミッションとなると面倒すわね」

「そう。倒しても倒しても立ち塞がり続けるのが厄介だ」

「ジオンも連邦相手にこんな気分だったのかね」

 ヅダを操る少女はピンポイントで襲撃が出来る。

だから大駒を落としに向かったり、逆に引き離すのは難しくは無い。

 

だが倒しても本体さえ無事ならば、倒された仲間のパーツを使って立ち上がるなどラチの外だ。

普通のガンプラであれば、大破させただけでゲーム終了なのである。

 

「我々の知っているロンド・ヘルはジェガン・ベースだが、見ての通り他の部隊も関節部など共有しているのが特徴だ」

「GMⅢと共有までならまだしも、マラサイまでというのは悪夢を通り越して笑い話ですわね」

「まさにユニバーサル規格とでも言うしかないな」

 関節部を平らにしたり延長して、同じポリキャンプなどで共有できる様にしている。

そして追加装備はパーツ共有を妨げない様に徹底されており、追加装甲なども大枠で邪魔をしないように成っている。オルフェンズ以降のフレーム構成でも参考にしたのだろうか?

 

もちろんそんな事をすれば耐久値は下がるだろう。

しかし全部隊がパーツを共有出来るのであれば、総合的な耐久値が上回るに違いない。

そして共有部分を繰り返し作ることで、ガンプラ改造のテクニックなども向上して居るだろう。

 

「ひとまず倒す事よりも、ミッション目的を攻略するしかありませんわね。当然想定して居るでしょうけれど」

「そうだね。君達に対応してもらう事に成る特務機だが……」

 まともに消耗戦をやると絶対に……ではないが勝てないだろう。

だから相手の構成を理解し、その都度、ミッション目的を先に攻略することになる。

 

しかしそれは、相手も予想している事なので難しいのは確かだ。

 

「このフォースの特徴は知っての通り、チェスの駒に成る」

「Pナンバーは前衛担当で基本的に継戦重視。機動戦のNナンバー、突撃役のBナンバー、防御役のRナンバーがミッションに応じて入れ替えられる」

「そして指揮官のキングだよな。こないだは何故かクイーンもやってたけど」

 知って居るのはジェガン・ベースのロンドヘルなので、映し出されたのはジェガンの集団だ。

 

ポーンは全てが同じ姿で、ビームライフルとシールド、ミサイル・グレネード・ビームサーベルを完全共有した歩兵群。

ナイトは縦横無尽に移動し続け、ビショップは切り込み役として機能して居る。

最後にルックが防御および、予備指揮官を兼ねているらしい。

 

「あら……同じナンバーでも装備は違いますのね」

「さすがに昇格した連中まで統制させるとエースが育たないと言う事だろうね」

「駒の機能通りの能力で構築されているのが1、解釈の範囲で違う武装なのが2と言ったところか」

 ポーンが1だろうが8だろうが同じ姿なのに対して……。

ビショップは1がランス持ち、ルックはIフィールドと能力そのものを純強化して居る。

対して2の方は、ビショップは狙撃力であり、ルックはレーダーや指揮能力を強化して居た。

 

「予想し易いってのは敵も味方もお互いに把握し易いって事だよな。んーこいつらと戦う感じか」

 少年は自分のV2でランス持ちのジェガンや、ヴェスバー持ちのジェガンとの戦いを思い浮かべる。自分ひとりで切り込んだり、ここに居るメンバーに合わせて戦い方を切り替える姿を想定して居るに違いない。

 

「と色々と彼女たちの脅威を示して来た訳だが、次の『ゼダンの門』では協力してもらえるかな?」

 大規模戦闘ミッション、ゼダンの門。

それは小さな部隊を複数登録する事が出来、一定数まで好きな陣営に集合できる乱戦だった。

 

シロッコ隊やバスク隊、連邦軍本隊。あるいはエウーゴにアクシズ。

そういった陣営の間の移動が可能で、場合によっては味方を倒してもポイントが入ると言う混線だった。

これに対してロンドヘルが参加すると聞いて、今回の会合に成ったと言う訳である。

 

「あいつらだけをフルボッコにするなら断ってたかもだが、あいつらの方が多いなら構わねえぜ」

「わたくし達がエウーゴということかしらね」

 こうして彼らは集団戦の専門チームと大規模戦闘を行うことになる。




 と言う訳で集団戦用のフォースの解説会です。

 ロシアン・ビューティだった(過去形)の大女さん率いるロンドヘル。
彼女の御仲間である他の部隊。全員がロシアなど寒い国のプレイヤー。
ちなみにツアーマスターというのは別に皇帝と呼ばれるチャンピオンではなく、私有の筐体とサーバーを提供してくれた御爺ちゃんらしいです。まあ本当にチャンプが居て「まさか皇帝!?」とかやても良いのですが。

●構成
 作中でも述べて居ますが基本的にチェスの駒を元にして居ます。
規格統一しているのは慣れるためと、普段は身内サーバーで遊んでる訓練中メンバーだから。
一人で遊びに行きたい時は、ナンバー無しで普通に遊んでいるそうです。

『ポーン』
 戦闘の練習とガンプラの練習を兼ね、一緒にワイワイやってるメンバー。
慣れて来ると卒業して、他のメンバーにプロモーションできます。
このPナンバーは普段、身内サーバーで愉しんでる層です。

・他のメンバー
 規格統一され戦術さえできれば、改造パーツは何でも良い。
ただしモチーフが何なのか、などの説明は求められる。
基本はイメージ通りの戦闘が1、そうでない物が2の番号を割り振られる。

『ナイト』
 機動戦主体の改造。
フライングパーツやデンドロビウム、シュツルムブースターやSFSまで広範囲。

『ビショップ』
 突撃戦仕様のメンバー。
高速機動を掛けて突っ込む者が1に成る可能性があり、普段はナイトを割り振られている者も多い。
狙撃やファンネルなど、広範囲の攻撃を持つ者も居るとか。

『ルック』
 防御を主体として、指揮官候補になっている。
重防御が1で、レーダーや指揮力強化などが2に成る事が多い。
消耗戦・大規模戦闘主体のフォースゆえに、ルックを経験してキングへと昇格する者も多いとか。
(機動戦闘主体のフォースだと、ナイトやビショップ上がりも居おるが)

『クイーン』
 万能型のことを指すが、チェスで昇格すると大抵はクイーンになるので、判別できない物はとりあえずクイーンとも言われる。
器用貧乏だとかその他扱いされる事もあるが、万能では収まらないトップエースである場合も稀にある。
1話と今話でキングを務める大女の人は、このタイプであった。

『キング』
 言わずと知れた指揮官。
全体把握と指揮が出来ない人はキングになれないので、指揮官ポイ事をしたいだけの人は、ルックのまま昇格せず分隊指揮官をやっているらしい。
なお大女さんがそうであるように、指揮さえできていれば、他のナンバーを兼ねて居ても問題は無い。
(というよりも、普通のミッションでは同じフォースに十機までしか出れないし)

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