VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達IF Never Give Up~ 作:蒼海空河
カランカランカラン!
シガンシナ区の空に甲高い鐘の音が響く。
兵士が市民達に親しまれている
「開門! 開門! かいもーん!」
どうやら調査兵団が帰ってきたようだ。
「どうしたのアンヘル?」
「ああ、マリアか。サボってんのか?」
「アンタみたいなだらしないのと一緒にしないで。それよりなに? ぼさぼさ髪に無精ひげも生えているわよ?」
「毎日毎日、工房暮らしなんだからいいだろう?」
「いいわけないでしょ。ほら来なさいって。整えてあげるから」
「お前は俺の母親かっての……」
「子供が出来たらまずシャンとしなさいって躾けるわね」
マリアは幼馴染だ。
三つ編みに編んだ黒髪をカチューシャのように結んでいる。
キレ長のすらっとした体型で可愛いより美人系。
内の工房で働いている新米職人のコリーナは初対面で「アンヘルさんの嫁ですか」などと言って爆笑されたのはいい思い出……じゃねえな。
こういう美人が嫁なら羨ましがられるが、残念ながら開発一筋の俺からすると幼馴染以上の感情はない。
そもそももう1人の幼馴染であるソルム・ヒューメが彼女のお相手なのだから。
ま、売約済ってわけだ――
ガスッ
「~~~ったーなにすんだよマリア!」
「なにやら失礼なこと考えてたようだからね」
「なんにも言ってないだろうが……」
「ふ~ん、本当に?」
「う…………」
幼馴染の勘か?
これ以上口論しても勝ち目が無さそうなので適当に口笛を吹きながら目を逸らす。
咎めるような視線を感じるがそれ以上追及するのをやめたようだ。
わあわあと目を逸らした先で騒ぐ市民達。
彼女の将来の旦那さんが帰ってきたからだろう。
マリアは駐屯兵団だが、ソルムは調査兵団だからな。
愛する恋人を探すのに必死なのだろう。
「あ、いた」
マリアが小さく手を振っている。
お目当ての彼氏さんがいたのだろう。
アイツは目つきは悪いけどイケメンだからなぁ。
青瓢箪の俺と違って180cm越えの偉丈夫のアイツは期待の新人。
女からしたらどっちが魅力的なんて比べるべくもない。
ま、いっか。
友の幸せは素直に喜ばないとな。
だったら調査兵団はやめて転属届をだした方がいいと思うが、マリアが言っても聞かないらしい。
兵士でない俺にはその心中を察することは出来ない。
気を取り直して様子を見てみると、
(少ない、な)
適当に観察していた調査兵団だったが数が足りない事に気づく。
80人だったのに50人程度に減っている。
半日前に出発したばっかりなのに、早すぎる……市民の中にも兵士達を詰問する人がいるようだ。
(……? 誰だ?)
市民達の中からふらふらと危なっかし足取りで出てきた女性がいた。
20歳前後、だろうか?
妊婦服を着ているがあまり健康的とは思えないほど真っ青だった。
この世の全てを絶望したかのように力無い足取りで周囲を徘徊する。
「ヒース……あぁ……ヒース……どこ? 何処に行ったの……?」
うわ言のように男の名を呟きながら女性が彷徨っていた。
「あの人は……」
「知っているのか?」
「確か調査兵団のヒース班長の奥さんね。……あの様子じゃあ……」
「……なるほど」
人ごとじゃないと思ったのか途中で口を噤むマリア。
今回は帰ってきたがソルムが帰ってこない可能性もあるのだ。
80名50名程度が帰還。
つまり約30名は帰ってきていない……死んだのだろう。
生存率60%――――逆を言えば40%は死亡。
少なくない確率だ。
マリアが黙るのも仕方が無いだろう。
しばらくして調査兵団が帰っていった。
市民達もちりじりになって街の方へ戻っていっている。
数人はその場に泣き崩れているが声をかけるのも憚られたので近寄ることは出来ない。
幼馴染のソルムは仕事の整理でもあるのだろう、こちらには来ないで去っていった。
マリアも仕事があるとかで門の方へと帰っていった。
俺も帰ろうと思ったのだが――――
(ウォールマリアか。この扉の向こうはどうなっているのだろうか?)
この世界にはウォールマリア、ウォールローゼ、ウォールシーナの3つの50mの高さを誇る巨大な壁に守られている。
王がいる中心がウォールシーナ。
その次がウォールローゼ。
一番外縁がウォールマリア。
このシガンシナ区はウォールマリアの南端に存在する。
巨人とやらがいるなら真っ先に狙われる外縁だ。
本来なら危険極まりない地域なのだが、税を含めた様々な面で優遇措置を受けており、普段生活するなら逆にウォールマリアの方が過ごしやすい。
それに標高も一番低いので寒くないしな。
外の世界は危険らしく俺自身、一度も出たことはない。
外に興味を持つことは
だがこれでも俺は発明王と言われている。
言われた切っ掛けは新兵器『大砲』を作ったことでそう称されるようになった。
まあ火薬類はライバルであり同僚の神経質そうな眼鏡男、ゼノフォンが担当しているのだが。
大砲を兵団に卸している身としてはその砲弾がどれだけ巨人とやらに効くのかは興味があった。
巨人とはどういう生き物なのか?
調査兵団の武装にしても本気で殺そうとするには軽装過ぎだったし、不死身という噂は本当なのか?
マリアには憲兵団にマークされるから壁外には興味を抱かないほうがいいとは言われてはいるが、職人としての好奇心はやはりある。
それに外の世界には海なるでかい水たまりもある、らしい。
あくまでソルムからの話だから詳細は知らないが、どんなものか一度見てみたいものだ。
「まあごちゃごちゃ考えても仕方ないか、コリーナの奴も待っているだろうし、そろそろ帰って――?」
ん……?
なにやら門の方で騒がしいな。
兵士達があっちこっちに走りだしている。
馬に乗った兵士が調査兵団が去っていった道の方へと走り去っていった。
「……ちょっと行ってみようか」
単純な好奇心だ。
様子からして危険な感じではないし、幼馴染のマリアも門の方へと向かっていたからな。
詳しい事情を聞けるかもしれない。
「あ、アンヘル!」
そう思っていたら彼女の方からやってきた。
はあはあと息を切らしているがどうしたんだ?
「ようさっきぶりだな。どうしたんだよマリア。兵士達が騒いでいるようだけど」
「そう、そうなのよっ。あのね――――」
マリアが口を開こうとしたとき、
カランカランカランカラン!!
さっき鳴ったばかりの
は……?
「おいおい、何だってんだよ。なんで鐘がもう一度鳴ってるんだ? 調査兵団はもう帰ってきたんだろう?」
「それよ! さっき帰ってこれなかった30人のほとんどが帰ってきたらしいのよ!!」
「……なんだって!?」
「済まない調査兵団だ! 通してくれっ」
「ソルムっ!」
幼馴染のソルムが急いだのか、額に汗を流しながら戻ってきた。
息を整えている。
「はぁ、はぁ、はぁ…………。ああ、アンヘルにマリアか。マリア、本当に先輩達が帰ってきたのかっ?」
「え、ええ。駐屯兵はてんわわんやよ」
「まあいいんじゃないか? 生きていたのなら喜ばしことだろう?」
「まあ、そうなんだが……。ここだけの話な、俺達は1体の巨人に追われていたんだ」
「本当なのかソルム!」
巨人がどんなものかは判らないが追われるという事態になったのなら命を狙われてたのだろう。
非常に危険な状況だったのは彼の表情からも伝わる。
「……だが先輩達が身を挺して囮役に回ったんだ。奴らは見た目の鈍重さをは裏腹に俊敏だ……誰かが命を捨てるしか、なかった。俺達じゃあ歯が立たなかったんだ……」
「ソルム……」
ソルムはいつも冷静な男で喜怒哀楽が判りにくい。
だが歯を食いしばり、拳を握った姿は無念だったのだとすぐ判る。
マリアがそっと両手で握り込んだ拳を包んでいた。
「私はその時のことは判らないけど……貴方の悔しさは同じ兵士として判るつもりよ……ごめんね、こんなことしか出来なくて……」
「マリア……いや、君のその言葉だけでも俺の救いになる……ありがとう」
「ソルム……」
「マリア……」
「あーごほんっごほんっ! 2人ともラブロマンスは後にしてくれないか? 今はそれどころじゃないだろう」
「そっ、そうだな!」
「う、うん、そうね! アンヘルにしては良いこと言うわねっ!」
「あー、そりゃー、どうもー」
まったく嬉しくねえ……。
お互い頬を染めて青春だなあー。
…………俺も恋人探すかなあ……まあ相手がいないんだが。
2人が落ちついたところで門の方が重苦しい音共に開き始めた。
ゴゴゴゴゴ――――
姿を現し始めた調査兵の一団。
だが
「――――なっ!?」
「なに、あれ……?」
「巨大な、頭蓋骨、だと?」
幅3mはあろう巨大な人の頭蓋骨。
どう見てもそこら辺に転がっている岩には見えない。
それが荷馬車のスペースを一杯一杯に使いながら運ばれてきた。
後ろにいた観衆も同様の感想だったのか、
「おいおい……調査兵団は一体なにを拾ってきたんだ?」
「動物の骨?」
「あんなでかい動物が居てたまるかよっ。どうみたって人骨じゃねえか!」
ざわざわ……そして誰かがつぶやいた。
「巨人?」
「ああ、そうだ巨人じゃないのか?」
「巨人って殺せないんじゃなかったのか?」
「どう見たって巨人の頭だろうがっ。あんなでかい頭をした人間他にいねえよ」
少しずつ広がっていく声の輪。
その中を調査兵団の一団が馬に乗ってやってくる。
調査兵団団長ホルヘ・ピケ―ルだ。
「ホルヘ団長……」
「皆、生きていて嬉しいが…………後ろの土産について説明をしれくれるか」
「……はい」
兵士の1人が心臓を捧げる敬礼を行う。
右手の拳は心臓に、左手は背中に当てる兵士達が一般的に行う敬礼だ。
先頭にたった男は敬礼をしつつも、体を震わせていた。
その表情は窺えないが涙をこらえているのかもしれない。
「我々っ! 調査兵団カール以下27名はっ、壁外にて巨人と遭遇しっ! 巨人と戦闘状態に移りましたっ!」
広場に男の声が響く。
その一言一句を逃しまいと俺を含めた全ての人間が静かにその先の言葉を待っていた。
「撤退しつつも巨人との戦いは熾烈を極めっ! 馬も半数以上を失いないましたがっ! 森の中で足を取られた巨人に対し、我々は一斉に捨て身の攻撃を仕掛けましたッッッ!!」
高らかに、しかし男は誇らしげに語る。
「暴れる巨人ッ! しかし巨人に殴られながらものヒース・マンセル調査兵団班長の一撃が巨人のうなじに命中しッ! 巨人は苦しみながら動かなくなりましたッ! すると
今度はなにかをこらえるような仕草をした男は顔を突如あげた。
その顔は涙でいっぱいだった。
「……英雄ヒースの命を賭した一撃で巨人は死にましたッ! そう――――巨人は死んだですっ!! 巨人とは殺せる存在だったのだとッ! ヒース班長は我らに教えてくださったのですっ!!!」
「なん、だと……」
「巨人を……」
「すげえッ! すげええぇぇーー!」
「おお、おおおおおーーーッ!!!」
わッと歓声に沸く市民達。
生還した兵士達は他の調査兵や市民達にあらんばかりの賞賛の声と握手を求められていた。
また別の人達はもっと近くで巨人の頭蓋骨を見ようと押しくらまんじゅうをしながら集まっていた。
止めるべき兵士達もむしろ自分達も見てみたいと騒ぎを助長するだけだったのだが、俺は少し離れた位置にいた。
それは違和感。
さっきの兵士の様子に違和感を感じたのだ。
喜んでいる姿に偽りはないと思う。
ただ泣いているときの表情が……なにかをこらえているように思えたのだ。
それに――――
(奴、
一瞬だったので聞き間違えかもしれない。
言い間違えの可能性もある。
しかし、俺の中でそれは小骨のように残っていたのだった。
よく見ると、もう1つの荷馬車が数人の兵士を連れながら静かに観衆の元から外れた。
付近を彷徨っていたエレナ・マンセルに兵士が声をかけ、一言二言交わすと彼女は両手を抑え驚く仕草をしたあと兵士達と一緒に街の方へと消えて行った。
現在出てきている小説版の方々。
アンヘル、マリア、ソルム、ヒース、エレナ、ホルヘ。
説明は本作中にて後ほど。
本来はマンモンと名付けられた肥満体の巨人がいろいろやっちゃってくれますが、そこは現在は未登場という風に改変しています。たぶんアオイ君あたりに後々切り刻まれるかもしれません。
何故か死んだことになっているヒース。
怪しげな荷馬車は一体なにを運んでいたのやら(笑)