VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達IF  Never Give Up~   作:蒼海空河

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アオイ君の企みが気になる読者様申し訳ありません。
今回もアンヘルさんです。
ちょっとした説明回も兼ねているのでつまらなかったらすいません(-_-;)


2人の発明王

 怪しい――――。

 

 今の心情を表すならその一言に尽きた。

 かしこい人間なら近寄ろうともしないだろう。

 怪しいとは即ち先の見えない“暗闇“であり、中身の判らない不確定な存在だ。

 手を突っ込んだが最後、引き抜いた先には己の腕はおろか、命まで抜けている可能性とてある。

 己の身の安全を第一とするなら。今すぐ歩みを始めた2本の足を大地に縫い止めた方がいいだろう。

 明るい街で黒く纏わり付いた疑念の心は別の感情へと変換される。

 

 好奇心――――。

 

 俊敏な街の狩猟者(ハンター)として君臨するかの動物も、この感情だけは抑えきれないとか。 

 無邪気な子供なら進む。世の中を知る大人なら戻る。

 歩みは止まらない。

 元は食糧を搭載する為の馬車なのだろう、風雨避けの(ホロ)が張っており、薄布1枚先の様子は窺えない。

 エレナ・マンセルが馬車の中に入っていった。

 第一印象は真冬に咲く一輪の花のようで儚さが先行していた。

 だが今見えた横顔には春の雪解け水をふんだんに吸収した新緑の力強さを感じる。

 

 ドクンッと心臓の音が高鳴る。

 

 恋? 

 否――胸の中で燃え盛る感情に人というものは存在していない。

 発明王などと大層な賞賛を受けてはいるが、職人の世界に足を踏み込んで3年しか経っていない18の餓鬼だ。

 もっと世界を知りたい。あの先に何が待ち受けているかを知りたい。

 そして誰もが想像も創造もしていない“何か”をこの手で作り上げたい――全てはそれだけの為に。

 

(あれは何かがある。俺の心がそう訴えている!)

 

 まるで人の目を避ける荷馬車。

 巨人を殺したという前代未聞の大発見にその場からゆっくりと去っていく違和感。

 荷馬車の轍を追うように俺は“闇”へと手を伸ばした――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーーーっ! こんなところで油売ってたんですかぁアンヘルさぁん!!」

「ああ?」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるように作務衣(さむえ)を着た少女がこちらへと向かってきた。

 

 コリーナ・イルマリ……今年15歳になる元気娘。ウチの工房で働く新米職人であり、俺の助手も務めている工房のマスコット的存在だ。男性には厳しい職人連中も小動物みたいにちょこちょこ動き回る女の子には弱いって奴なんだろう。

 

 俺が籍を置いている工房では100名程度が働いていているが、本来なら助手を持つことは許されないらしい。

 職人になって3年程度の俺が彼女を助手にしているのはひとえに発明王などというけったいな肩書のお陰と言えるだろう。

 綺麗好きでよく工房内を掃除してくれるので非常に助かっているが――

 

「……チッ(荷馬車が行っちまうがコイツを振りきるのも面倒があるんだよな)」

「ええぇっ!? 何で開口一番舌打ちされるんですか!?」

「なんでもねえよ」

 

 正直適当なところで話を切り上げ、荷馬車を追いたい気持ちで一杯だった。

 だがコイツが呼びに来た内容如何によってはそちらを優先しなくてはならない。

 

「む~~~何か腑に落ちないものがあるんですけどっ」

「いいから要件を言えって。俺だって暇じゃないんだ」

「職人のアンヘルさんが工房以外の場所で忙しいわけないじゃないですかー」

「俺だって街に出る用事くらいあるって、の!」

「あうあうあうあぁ~~!? 頭をぐらぐらしないでくらさいぃぃー!」

 

 酷い言われようだ。

 腹いせにガックンガックンと頭をシェイクしてやった。

 俺が苛めているようだが、コイツも口が減らないところがある。適度な躾けが必要だ。

 前はソルムが壁外調査から帰ってくるときに「惜しい人を亡くしました、くすん」とワザとらしい泣き真似までやっていた。

 ソルムの恋人であるマリアがいるのに大した勇気だ。コリーナの背後にマリアがいたのだから気づく訳ないが。

 彼女からお礼のアイアンクローを貰って泣く程喜んでいたのはいい思い出だろう。俺にとっては。

 

「って違う。こんなことしてる場合じゃねえっ。おい目を回してないでさっさと要件を言えっ」

「アンヘルさんがやったのに~」

「い・い・か・らっ!!」

 

 ぶうと頬を膨らませたコリーナを両サイドから潰してやる。

 

「ぶひゃう!? 乙女の扱いじゃないです……。要件は工房長からの呼びだしです……ってどうして天を仰いでるんですか? あ、小鳥さんかわいー」

「終わった……最悪の部類だ…………」

 

 工房長カスパル・クリスティアン……工場内で俺が唯一恐れる男だ。40代半ばのベテラン職人で下手な兵士より筋肉質な褐色肌の大男。頭部が輝くナイスガイ……というより熊男って言った方がしっくりくる。殺されかねないから言わないが。

 

 そんな男の呼びだしを無視できる訳が無い。

 折角、好奇心惹かれる事があったのにな……。

 これほど心が震えたことは早々ない。

 あの中には職人の本能を震わせると不思議と確信できた。

 

 名残惜しい気持ちで米粒程度になった荷馬車をしばらく見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シガンシナ区の外れにあるこの工房はとにかく汚い。

 鍛造用のハンマーや脱ぎ捨てられた作務衣、炉に使う炭のカスなどいろんなものが転がっている。

 さすがに作業場にあるとドヤされるが通路の角や個人の部屋は無法地帯だ。

 発明品という名の粗大ゴミなど部屋のオブジェと化している。

 せかせかと働くマスコット少女がいなければ更に混沌とした異空間を形成したことだろう。

 彼女が好かれる理由でもある。

 口の減らなさも子犬がきゃんきゃん喚くようで可愛いとか。

 俺にはよく判らない世界だ。

 

 まあそれは置いておこう。

 カスパル工房長に呼ばれ戦々恐々としながら、彼の部屋を叩いたのがつい先ほどの事だ。

 ヘマをやらかした覚えはないが、誰だって苦手な人の1人くらいいるだろう。

 そいつが地位も年齢も上の奴なら萎縮の1つもするもんだ。

 結果としてそれは杞憂に終わったわけだが。

 

 最初の言葉は意外にも賞賛だった。

 新兵器『大砲』について上層部が満足しているという話題だ。

 調査兵団の一団――ソルムを含めた一団が来た折には大砲で巨人を追い散らすことに成功したらしい。

 だがアレはまだ完成にはほど遠い代物というのが俺の意見だ。

 工房長も精度が甘いと言っていた。

 それでも上が満足なのは巨人討伐に乗り気じゃないのだろう。

 適度に市民が満足すればいい、というふざけたものだ。

 命中精度は当たれたラッキー、銃のように連射も効かない――――なにより巨人を殺すに至らない。

 これで発明王なのだから笑い草だ。

 それに気になることがある。

 

(巨人を殺したという話題の方がインパクトがあるはずだが……まだ情報が十分行きわたっていないのか?)

 

 俺個人の興味としては巨人の殺し方についてだ。

 是が非でも調査兵団に聞きたいところ。

 他の新兵器が登場したのか、それとも現兵装でも打ち倒せる弱点とも存在したのか?

 疑問に思った俺は工房長に聞くことにした。

 

「工房長」

「あん? どうした」

「俺の大砲のことより、巨人を殺したって話、なにか聞いてませんかね」

「それか……俺もいまいち情報を掴みきれてないからなあ」

「職人としては巨人を殺す新兵器があるのかが気になるところでして」

「だったら大々的に宣伝するだろうが。成果主義の俺達の世界じゃあ確かに情報の秘匿ってはあるが、知り合いの調査兵も知らないっていう次第だ。お前の友人は?」

「ソルムは……後で聞いてみます」

「まあ巨人の事は兵士の専門だ。後で探るかしかないな」

 

 俺のふとももはあろう太い腕を組みながら唸る工房長。

 成果は無し、か。

 

「それより面白い話に移ろう。これだ」

「これは……黒い竹?」

「山岳部を中心に自生している黒金竹(くろがねたけ)という代物だ。軽くて丈夫、しかも竹の性質上どんどん生えてくる魔法のような素材だ。どうだ、興味深いだろう?」

 

 黒金竹は地中の金属を吸いあげる性質があるらしい。

 調査すればいろいろわかるかもしれない。

 手に持って見ると想像以上に軽い。黒光した幹はどんなものでも跳ね返しそうな硬質さを兼ね備えている。

 竹らしく中は空洞のようだ。繊維を取り出せれば強靭な縄も作れそうだ。

 

「ちょっと失礼します――フンッ!」

 

 俺は兵士達が使っている鉄のナイフを逆手に持ち振り卸す。だが――――

 

 カキン!

 

「な――」

「どうだ、凄いだろう。数十本以上もナイフを駄目にしてようやく採れたらしい」

「傷1つない……これは面白いな」

 

 黒金竹の表面はつるりとしてナイフの下ろした場所は検討もつかない。

 好奇心を刺激された俺は上に下にと観察を始めたのだがその作業は間もなく中止された。

 工房長の話しはまだ終わっていなかったのだ。

 

「実はまだまだ面白い素材はある」

「本当ですか! 次は一体――」

「まあ待て。物がないんだ。お前……工場都市に行ってみないか? あそこには氷爆石という面白い物があるとか。お前が良ければ1週間程度過ごしてみるといい」

「……! あの噂の都市ですか。…………判りました。行ってみます」

 

 荷馬車を逃した時はどうなるかと思ったが。

 

 怪我の功名――いや地獄に仏か。

 

 捨てる神あれば拾う神というのが脳裏に浮かんだ。

 

 2つ返事でこの申し出を受け入れた。

 拒否する理由などないからだ。

 

 工場都市……職人達の間では公然の秘密となっている文字通り工場の街。いずれは全ての職人がそこに集める予定らしい。

 ただ予定の馬車が明後日出発らしい。

 1日空いてはいるが早めに準備をしなくてはならないだろう。

 

 工房長からその話を聞いたあと、俺は早々に部屋を退出することにした。

 彼が俺を呼んだ理由もそのことのようだった。

 部屋を出ようとしたところ呼びとめられる。

 

「アンヘル」

「なんですか」

「工場都市の案内人はお前の幼馴染のソルムらしい」

「ああ、ソルムか……でも一体それがなにか?」

「いや……本来なら兵士を付けないらしい。だが最近不穏な噂も聞く。護衛役がいる意味を考えてくれ」

 

 なるほど……最近王政府に対し過激な行動をとるグループがいるとも聞いている。そのことだろう。

 

「……判りました。気を付けておきます」

「おう」

 

 部屋を出る。

 さっきの話は気になるが荒事は本職じゃない。

 何かあったらソルムの背中に隠れるしか出来ないしな。

 

「考えても仕方が無いな。しかしソルムか」

 

(ん……? これは使えるんじゃないか?)

 

 先ほどの荷馬車の脳裏を掠める。

 調査兵団の紋章が刻まれていた以上彼らはそこにいるはず。

 総数が80名と数の少ない調査兵団はシガンシナ区の外れ――――つまり工房とさして遠くない位置に本拠地を構えている。

 予算も少ないから費用をできるだけ抑えようとした結果だ。

 まだ日が沈み始めていない今なら遅くはないだろう。

 捕まったらソルムに用事があると言えばあいつを巻き込める。

 おお、良い案だな!

 

「よし、そうと決まったら早速――――」

「早速……どうしたんですか?」

「あん? ……げ」

「げ、とは何ですげ、とは。まったく発明王の名が聞いてあきれますね」

「煩いなゼノフォン。お前には関係ないだろう」

 

 このイヤミな眼鏡の男はゼノフォン・ハルキモ。

 メタルフレームと神経質そうな出で立ちが特徴的な男だ。

 30代半ばで俺の先輩。そして前発明王の名を冠していた。

 特徴的な薬品臭がするのは火薬でも弄っていたのだろう。

 俺の大砲にもコイツの火薬を使っているしな。

 

「まったく嘆かわしい! 街をふらふらするなら発明の1つでもしたらどうですか?」

「部屋に籠もるだけで閃きが得られればそうしているっての。斬新な発想は常に新しい刺激が無いといけないだろうが」

「なら手を動かした方が効率面でも良いでしょう。頭で浮かんでも作り上げられない職人は必要ないですよ?」

「あーいえばこー言うを地で行きやがって……」

「ただ正論を言っているだけです」

 

 街を歩いていたのも大砲を超える発想が得られないなかなか得られず煮詰まってから街を散策していたのだ。

 だがコイツからすれば適当に過ごしていると見えるのだろう。

 別に本気で嫌い合っているわけじゃない。

 でも部屋で淡々と指を動かし続けるコイツと、外で発明のネタを探す俺のスタンスが決定的なまでに違う。

 必要ならば協力し合うがそれ以外では極力顔を会わせたくないのが正直な感想だった。

 

 お互い話しながら目は合わせない。

 

(……もうさっさと去った方がいいな。時間もない。明日になると荷馬車の中身がどうなるかも判らないし、早く向かわないと)

 

 俺は目を逸らしたままゼノフォンの横を通り過ぎる。

 通せんぼをするような奴じゃないし、何事も無く終わるかと思ったその時。

 

「サボるんですか?」

「てめえな……」

 

 カチンときた。

 兵士に卸す武器を製作する日もあるが、今日は完全なオフ日だ。

 それをサボり呼ばわりされていい気がする訳ない。

 俺は吐き捨てるように返す。

 

「用事だ。ソルムに聞きたいことがあったからな」

「…………なるほど。だったら私も一緒に行きましょう」

「はあ?」

 

 意味が判らない。

 何が悲しくて仲の悪い先輩と一緒に行かなくてはならないのか。

 眉を染めて言外に「何アホなこと言ってるんだ?」と返すが――

 

「私も工場都市に行くんですよ。ついでに彼に聞きたいことがあったのですが知り合いというわけでもないですし。その点アンヘル君は幼馴染らしいじゃないですか。仲介役をして貰おうと思いましてね」

「嫌だって言ったら?」

「無理やり付いてくるだけです。それに君の本当の目的は“巨人殺し”についてでしょう? 私も職人として詳細な話を聞く権利はあると思うんですよね」

「何でそう思うんだよ……」

「よりよい成果を得るために巨人についてやたら知りたがっていたところで今回の騒ぎ。新兵器か弱点かそれとも別の要因か…………君が伝手を使って知ろうとする……まあ平たく言えば“カマ”を掛けたんですよ。その様子じゃ当たっていたようですね」

「……げー……最悪だ……」

「さあ早く行きましょう。時間は有限です」

「仕切るなよ……」 

 

 ゼノフォンの指摘はニアピンで、俺の真の目的は荷馬車に関しての情報。

 とはいえ余計なオマケが付いてくる時点で最悪確定だった。

 

(なにが拾う神だ! 余計なオマケまで拾ってくれるなよっ!)

 

 心の中で愚痴りつつ、しぶしぶ俺はゼノフォンを連れて調査兵団へ赴くことになった。

 

 

 

 

 

 後にして思う。 

 俺の運命の分岐点はここだったのではないかと。

 

 ここで俺がソルムと会わず工場都市へ向かっていたらまた違った人生を歩んでいたのではないか?

 あの装置(・・)を作って楽隠居していたのではないか?

 それとも俺以上に無鉄砲なアイツ(・・・)は何処までも追いかけて引き摺り込んだのだろうか?

 

 神ならぬ俺が知るよしもない。

 ただ俺の人生は今日を境に加速していく。

 この時はそんなことを夢にも思わず暢気にゼノフォンと口論をしながら歩いて行くのだった――――

 

 

 

 

 

 




小説登場人物

ゼノフォン、カスパル、コリーナ。

ネタばれになるので誰とはいいませんが進撃の巨人らしく? 小説版でも問答無用で人が死んでいきます。
しかも結構あっさりと。
そんなことアオイ君が許さないのでいろいろ暴れるとは思いますが。
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