VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達IF  Never Give Up~   作:蒼海空河

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前半部分はちょっとふざけすぎたかも……(-_-;)


団長として

 今を戦えない者に、次とか来年とかを言う資格は無い――――そんな名言があるが、しかし、どうしたって戦えない者もいるはずだ。

 

 命の危機に対し背を向けるのは罪だろうか?

 きっとそれは仕方無いことだ。

 だから人は求めるのだろう、全てを打ち払う英雄を。手を伸ばしても届かない存在を。

 だが……偶像の神ではなく、天敵に救いを求めても無駄だろう。アイツらきっと無邪気な顔で人を喰らうのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラガラガラガラ

 

 夕暮れ時。シガンシナ区の一日が平和に終わろうとしている。

 ややザワついた空気は俺達の所為か、それともいつもの風景か。

 今の俺が推測しても詮無きことだった。

 

 街の各所で夕ご飯の準備をしている雰囲気を感じる。

 パン屋ならお馴染の、焼き立てパン特有の涎がでそうな芳醇(ほうじゅん)な薫りに腹が鳴るのを必死で抑えていた。

 

(いやーそういえば昼からまったく食事をしてなかったなぁ……。缶詰とかチーズが無いか後で聞いてみるかな……?)

 

 いやホント俺は何考えてるんだろうね。

 でも人類が絶対絶望状態で団長といえど支給される食べ物は野菜スープばかり。

 腹に溜まるわけがない。

 焼き立てのパンやこんがり焼かれたベーコンなんてもう何年も食べていない。

 

 実は調査兵団団長という肩書のおかげで貴重な肉や川魚なんてものも入らないわけではなかったが……そんなのみんな部下達にあげてしまっていた。

 日本なんて飽食の極みにある国にいた記憶がある所為か、空腹がどんなに辛いものかをこれでもかってくらい味わった。

 頭はぼうっとするし、減量中のボクサーよろしくラーメンやらハンバーグやらを思い出してそれだけでキツイ。

 でも部下達はそれ以上で生まれてこのかた肉や魚を食べたこともない奴らもいたんだ。

 苦難を共にする仲間達を尻目に腹を一杯になど出来ない。

 俺は食べたから余ってるんだ、といいながら壁外調査の前日に全ての肉等を振舞っていた。

 

 後でいつも配給物品を輸送してくる補給担当の兵士から聞いた話だが、リヴァイ兵士長も団長になってから支給された肉類を一度も口にしなかったらしい。

 全て部下に振舞ったり、飢えた人々の炊き出しに使え、と言って。

 言わなかったのは口止めされていたとか。

 「……調査兵団の団長は、みんな素晴らしい方ですね」と兵士から聞いたときは思わず泣いてしまった…………。

 

 

 

 ――はむ――

 

 ――とまあ言う話をしながらも腹がぐぅぐぅ鳴るので全然締まらないのだけど。

 明らかに美味しそうな匂いが荷馬車の中にも充満していて精神修養の様相になってきたぞ……。

 じゃがいも(生)でもいいから齧りたいくらいだ……いや! それじゃサシャになっちまう。

 あいつは普段は馬鹿な癖に食べ物に関する執着が恐ろしくあった。

 他兵団の食糧庫に忍び込んで肉を盗ってくる上に、他の仲間を共犯に引き摺りこむからな。

 取り返して元に戻すミッションまでする羽目になった。当然アイツは拗ねるが蒸かしたジャガイモ1つで機嫌が直るから問題ない。

 

 ぐぅ~~~~

 

(…………やめよう……腹減っている所為か、食べ物に関するエピソードばかり思い浮かぶ…………無だ、無の境地に達するのだ)

 

 しばらく馬車の片隅で変な異音が鳴ったとか鳴らないとか。

 

 

 

 

 

 

 さて現在俺は何処にいるかといえば勿論、荷馬車の中にいるわけだが。

 その更に死体袋に包まっている。あれだアニメなら女型の巨人にしこたまやられた調査兵団が使っていた黒い寝袋っぽいもの。

 

 ――んちゅ――

 

 隠れなくてもいいんじゃないか、という指摘があるかもしれないが駄目だ。

 どうもこの時代、調査兵団本部はシガンシナ区の外れにあるらしい。

 調査兵団の人数は少ない上に、壁外調査はちょっとしたお祭り的な扱いで市民達が門の前に集う。

 とはいえ3万人の人口の内、来るのは300人前後らしいが……。

 

 まあ兎に角だ。

 調査兵団は地元密着型の企業なのか、市民達から顔を知られている。

 そうじゃなくても駐屯兵団は仕事仲間ということもあり、調査兵団人達の大半は顔見知り。

 俺がのこのこいると高確率でばれる。

 門で一度切り抜けたら別々行動で本部に向かえばいいのに、というのも駄目だ。

 ヒースさん達は俺を信頼しているが端から見たら俺という人間は不審者そのもの。

 彼らも兵士である以上、俺を遠くに生かせなくないしバレたらそれこそお互いに不利益を被る。

 隠れたまま調査兵団本部に行くしかないのだ。

 

 ――ふぅ―― 

 

 巨人化できるエレンを監視及び管理する為に使われた旧調査兵団本部さえウォールローゼにあったのにな……。

 リヴァイ兵士長がお掃除兵長として大活躍したあの場所は本当に汚かった。舐めてかかってた。

 お化け城の様相で蜘蛛の巣は張り放題、埃の海が出来ているわ、触っただけで崩れそうなテーブルとか。

 まあ今それを言っても仕方がない。

 我慢して荷馬車が本部に着くのを待つ。

 

 

 

 我慢、我慢だ……。

 

「ああ……ヒース、ヒース! 無事でよかったわ……ん、んちゅっ、はぁ、はむ!」

「お、おい! ん、エレナ……まだここでは、ちゅ!? あ、おまえ、耳とかやめ――――あっ!」 

 

 ………………。

 

 いい加減にしてくれませんかねぇっっっ!!??

 お隣でアニ系のすんごい美人さんが情熱的なキスやらそれ以上やっちゃいそうな雰囲気でいちゃこらしてんですけど。ですけどっ!

 

 誰だエレナさんが儚そうな女性って言ったやつぁ!

 出てこいっ、立体機動恐怖の空中大車輪かましてやる!

 

 腹減ったとか回想入れてたけど、そのしんみりする心情に入った異音は全てキス音ですよ。

 一生懸命別のこと考えて無視してたけどいい加減やめてほしい……。

 爆発すればいいのに。

 俺? 誰にもモテなかったっすよ、ええ!

 途中からリヴァイ兵士長と鬼神のごとく戦ってた所為か、色恋以前に畏怖とかの感情が優先されてまっっっったく浮いた話が無かった。

 

 ミカサはエレンとの仲を順調に育んでたし、クリスタはユミルと百合っぽい空気を形成してたし、何故かサシャとコニーがワンセットで行動しているし、アルミンは女型の巨人捕獲作戦でちゃっかり貴族の娘とフラグを建ててたしな!

 生死を賭けた戦いは男女仲を促進させるらしい。

 吊り橋効果だね! やったねみんな! 俺の側には誰も居なかったけどな!

 

 104期で浮いた話がなかったのは我らが盟友ジャン・キルシュタイン殿と俺だけだった…………。

 

「なあダチとの信頼って……」

「んなの拭うものなんじゃねえの……?」

 

 いちゃいちゃ

 いちゃいちゃ

 いちゃいちゃ

 

「「………………(ぷちん)」」

「「だらっしゃぁぁぁぁぁっ! 目の前でいちゃこらすんじゃねえゴラぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 兵団の食堂で大暴れしたのはいい……思い出じゃないっす……。

 

 

 結局このあと30分間、俺は死体袋の中で空腹と隣の桃色オーラに耐えながら本部へと向かった……。

 到着しておもむろに死体袋から出た俺が目撃したのは、妖精と見まごう色白の美人さんがヒースさんに馬乗りになってキスしている姿だった。

 情熱過ぎるにも程がある。

 外国ってどこもこんな感じなのかね……。け!

 

「ヒース……ああっ、ヒースぅ!!」

「ちょアオイ、助け――――」

「ああ、はいはいリア充オツオツ~」

「おお~~~い!?」

 

 俺の存在ガン無視で仲睦まじい姿を見せられたら、ねえ?

 微笑ましくスルーするのが大人ってものじゃないでしょうか。

 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえーってありますし。

 

 俺は壁外で同じ荷馬車に乗っていたアレンさん(27歳独身男性)とリックさん(28歳独身男性)と一緒に本部の裏口から入っていった。

 ちなみにこの2人、シガンシナ区に入ってエレナさんに声を掛けて荷馬車に入れた後、さりげなく馬車から降りている。

 ヒース&エレナのバカップル&年中新婚夫婦は割と有名らしい。

 両手を合わせて謝っていた。

 俺も逆の立場ならそうしているから怒るわけない。

 

「お互い……1人身はきついっすね……」

「アンタも苦労してんだな……」

「俺、このまえ酒場の娘に告って振られたんすよ。同い年のイケメンと付き合うからって……金持ちだって…………5年も付き合ってたのに……」

 

 アレンさん…………(ぶあっ)。

 

「今度酒飲みましょう! 浴びるくらい一杯」

「いいなそれ! アレンもいいだろう」

「……こんちくしょーーー! 顔がなんだ! 金持ちがなんだー! 俺だって必死に生きてんだよォ……」

 

 この過去の世界に来て初めて真の親友(とも)を得られた瞬間だった。まる。

 

「お、うぷ、おまえら、先輩おいていくな――」

「ヒースぅぅぅ♪」

 

 黙れ滅殺しろっっ独身の敵めっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調査兵団本部の一室。

 暗くなり初めていたこともあり、木窓は閉じられローソクでぼんやりと室内は照らされている。

 中にいるのは俺とヒース、エレナ…………そして調査兵団団長であるホルヘ・ピケ―ルその人だ。

 

 ホルヘ・ピケ―ル……調査兵団団長であり後にアンヘルと協力して巨人が殺せることを証明することになる偉人の1人。

 威風堂々とした武人然とした人物。壁外調査任務が永遠に凍結されそうになったときは命令違反覚悟で壁外調査を断行し巨人殺しの一助となる。

 市民からは英雄視されたが、命令違反には違いなく団長の地位を辞することとなり、後任に息子のカルロ・ピケ―ルが就任する。

 彼自身もその後巨人に関するある事件を担当することとなり、ピケ―ル親子は2代に渡って巨人と関わる因果な一族だ。

 

 彼は中央の椅子にどっかりと座り、ヒースさんから報告された内容を吟味しているのか瞑目し、口を開く兆しはない。

 報告内容は、俺が巨人を殺したこと。

 巨人の弱点と立体機動による討伐方法。

 ある腹案がありヒースさんに死んだ事にしてもらったこと。

 そして――俺が未来から来たことだ。

 

 正面には俺が座り、両サイドをヒースさんとエレナさんがいる。

 部屋の外にも気配を感じるので誰かいるのだろう。

 不審人物の俺に対応するには兵の数が少ないのは、信頼してくれているのか、それともいつでも捕まえられるという自身の表れかは判らない。

 

 団長が考えている間にエレナさんがお礼を言ってきた。

 

「すみません夫を助けていただいた方なのに……愛する人を失った悲しみで打ちひしがれていましたのに、ヒースが生きてるって、聞いていてもたってもいられなくなって……」

「いえいえいえいえ、こちらこそヒースさんの件では悲しませてしまった責任がありますので気にしなくていいですよエレナさん」

「……おまえな……覚えていろよ……」

「ヒースさんは独身男性の悲哀を知らないからそう言えるんですよ! それに愛する奥さんの愛情たっぷりのキスを拒むんですか?」

「ヒース……私、やっぱり重い女なのかしら……(うるうる)」

 

 綺麗な顔に悲しみの色を浮かばせるエレナさん。

 

「そんなことないじゃないかあ! 俺の愛するエレナはこの世で一番美しい女性だ! 壁の3女神より綺麗だと断言する!」

「ヒース……」

「エレナ……」

「……済まないがそれは家でやってくれ」

「あ、はっ! 失礼しましたホルヘ団長!」

「すいません」

 

 重々しい口調で割って入ったのはホルヘ団長だった。

 俺も煽ったようなものなので謝罪する。

 ゴホンと空気を変えるように咳を入れたあと彼の眼光が俺を射抜く。

 俺も真剣な表情で彼を見つめ続ける。

 

「…………」

「…………」

 

 張りつめる空気。

 外の賑やかさも聞こえない。

 190cmはあろう巨体から放たれる威圧感は半端ではない。

 しかし俺の相手した奴らは有に数m~10mクラスだってざらにいる。

 それに団長として兵を率いてきた長年の経験と()が彼から目を逸らしてはならないと叫ぶ。

 ホルヘ団長は僅かに口を開く。

 

「お前は…………んむ……」

「………………」

 

 睨み合い。

 外の様子も判らない室内で、数秒か数時間かそれ以上か判らない……。

 彫の深い顔立ち。その表情で何を映しているのか。

 

 ローソクの炎は尽きていないなか、折れたのは相手の方だった。

 

「これでも長らく組織の上に立つ者として生きてきた。貴殿の目に嘘は無い…………信じよう」

「…………ありがとうございます」

 

 ゆっくりとしかし深く、頭を下げる。

 最初の難関はクリア出来たようだ。

 彼に認めて貰えなければ、シガンシナ区の悲劇はおろか、自分の身さえどうなるか判らないのだから。

 

 ホルヘ団長は「しかし」と顔を引き締め言う。

 

「全面的に信用したわけではない。巨人殺しの方法、その『立体機動装置』の有用性は認めよう。だが未来云々はどうあっても証明できまい。君自身、事態を把握できていないのだからな。これは万の言葉を尽くしたところで不可能だろう」

「判っています。だから証明したいのです。そうしなければお互いすっきりできないでしょう。味方ともしれない怪しげな男が懐にいる気持ち悪さ……とてもじゃないが看過できないでしょう?」

「君は勘違いをしている」

「勘違い……?」

「君は調査兵団の大切な仲間を救ってくれた恩人だ。我々の組織の者たちは決して大きくない。だがその分結束力ならどの兵団にも負けていないという自負がある」

「…………」

「君の過去や未来の証明などどうでもいいのだ(・・・・・・・・)。今この場にヒースを始めとした友が存在している……ただそれだけでいい。恩を仇で返す者など調査兵団に1兵たりとも存在せん。話せ、君の言葉、態度かの節々から『未来から来た証明』に対する必死さが無い…………だが是が非とも事を行いたいという信念(・・)がある。ヒース達にはいくらか話したのだろう?」

 

 さすがだ……俺とは人生の年季が違う。

 態度ですぐ判るなんてな。

 だからこそ信じれる。相手が信じてくれるなら俺も話そう。

 シガンシナの悲劇を。

 

「参りましたよ。これでも団長を務めていたんですけどね……」

「巨人殺しの腕は一流でも、指揮官としては2流だな。まだまだひよっこには負けんよ」

「そのようで……。では――」

「ああ」

「話します。俺がヒースさんの死を伝えさせた意味を。シガンシナ区を襲う悲劇を」

 

 ヒースさんは悲痛な表情だ。

 余りエレナさんには聞かせたくないのだろう。

 しかしこの作戦には彼女が是非必要なのだ。

 彼女に同席して貰ったのもそのためなのだから。

 俺の雰囲気が変わったのを感じたのか3人は静かに俺の言葉を待っていた。

 

「……シガンシナ区に巨人が襲来します。予定ではおよそ1週間後。被害は死亡者約5000名――人口の約6分の1が死亡する人類を震撼させる歴史的大事件です」

「なんだと……?」

「そんな……」

「…………」

 

 さすがの内容にホルヘ団長も目を開いて驚く。

 エレナさんも絶句している。

 ヒースさんは目を瞑って次の言葉を待っているようだ。

 彼だけはこの次の言葉を知っているからだろう……。

 

「……壁が破られたのか?」

「違います。内側(・・)から開け放たれたんです」

「馬鹿な!? そんな愚かなこと誰がする!」

「……いたんです。その事件を起こした首謀者は『巨人信奉者』。巨人を神と崇める彼らはある人物を筆頭にして勢いを増し、ウォールシーナの役人を人質にして門を開け放ちました。記録ではまるでこの世の地獄だという記載もあるくらいです。その悲劇の首謀者とされたのが――――

 

 

 

 エレナ・マンセル。人類最大の反逆者ともこの世でもっとも愚かな女性とも後世で言われるようになった人です」

 

 俺の言葉にショックを受けたようにエレナさんが2、3歩後ずさる。

 

「……そんな! 私はそんなこと、そんな、こと……ッ!」

「落ちつけエレナ! アオイさんもそんな責めるような口調で言わんでくれ!」

「……すいません。配慮が足りませんでした……」

 

 深く謝罪する。

 少し、言葉が過ぎた……だから俺は馬鹿だって怒られるのに……。

 

「いえ……ヒース、責めることではないわ。でも、アオイさん、これでも調査兵団の夫を持つ私が何故そんな愚かなことをしたんですか? そこを知りたいの。教えて、貰えるわね?」

「俺も気になるな」

「はい。とはいっても今ならまず起こりえないでしょう。エレナさんの凶行はヒースさんの死が端を発しています」

「ヒースが……?」

「ああ、俺も初め聞いたときはまさかと思ったんだが…………俺は本来、既に死んでしまっていたかもしれないらしい……」

「でも、ここに生きている! ヒースは生きてるんだから!」

 

 そう言って力一杯エレナさんはヒースさんを抱きしめる。

 もう離すまいと必死な姿…………そこに彼女の弱さが見え隠れしていた。

 思えば荷馬車の中での情熱っぷりもヒースさんが助かった嬉しさや喜びより、ただただ彼に縋りついていたようにも思えるのだ――――まるで幼子が親を求めるような、そんな姿。

 

 運命の相手を“魂の半身”(ツインソウル)というらしいが彼女がそれなのだろう。

 

 情愛の深すぎる彼女は最愛の人の死に耐えられない……だから巨人信奉者に心の隙を突かれたのだ。

 本当は巨人がヒースさんの生首を壁の外から投げ込み、彼女がそれを拾うことでエレナさん精神崩壊を起こすという最悪な出来事をワンクッション挟むが……それはやめておいた。気持ちのいい話じゃないし終わったことだからな……。

 

 調査兵団班長の立場を利用され、エレナという女性は巨人信奉に縋り、巨人に喰われることを願った。

 悲劇の連鎖は止まらずシガンシナ区を巻き込み、後に別の悲劇も生むこととなった。

 

「――――ヒースさんの死に耐えられなかったエレナさんは利用され、シガンシナ区に大被害を被りました。これが俺の知る過去の話で……この世界でも未来の話です」

「「「………………」」」

 

 一通り説明し終わったあと沈黙が支配する。

 最初に破ったのはホルヘ団長だ。

 

「だが、ヒース君は生きているしエレナさんも大丈夫だろう? だったら何故、対外的にヒースの死を触れ回る?」

 

 当然の疑問だ。

 彼が無事ならエレナさんも正気を保てる。

 今の話しを聞いたらやろうという気も起こさないだろう。

 だが――――

 

「巨人信奉者の存在です。何もエレナさんじゃなくとも彼らはいつか同様の事件を起こす可能性が高い。だからこそどうにかしないといけない。どうにかする方法として……ヒースさんの死を利用します」

 

 そうエレナさん達を助ければそれでいいかといえば違う。

 ここは現実の世界、だと思うから。

 ゲームみたいに1つのイベントを避けたなら、はいお終い、などと都合の良い話にはならない。

 エレナさんはでも、と反論する。

 

「でも……事を起こされる前に早く捕まえちゃえばいいんじゃ――――」

「いやそれは難しい」

「え、あの……ホルヘさん、それはどういうことですか? 巨人を信奉するなんて異端じゃ、ないの?」

「……あくまで彼らは“宗教”であって違反ではない。異端ではあるが“犯罪者”ではないのだ。憲兵団でもない我らでは難しい。現時点で憲兵団が動いていないなら彼らも手を焼いているわけだ。……捕まえることはできない……」

「そんな……ッ!」

 

 巨人信奉者は少なくない数がいる。

 巨人信奉という闇は密かに根付き巣くっている。

 しかしそれだけだ。

 祈っているだけの彼らをどうこうするのは難しい。

 ただでさえ市民の中には王政府のやり方を好ましく思わない反政府組織存在もあるのだ。

 下手な弾圧は巨人信奉者と反政府の結び付きを促し、更に厄介な事態になりかねない。

 大義名分でもなければ一斉摘発は厳しい面がある。

 

「……待てよ。奴らは犯罪者ではないから捕まえられない。なら犯罪者にすれば……エレナさんを同席させた理由…………まさか!?」

「ご察しの通りです。あえて(・・・)奴らを暴発させます。だったら……捕まえられますよね?」

「え?」

 

 突然自分の名前が出てきてエレナさんは疑問符を浮かべる。

 そう、俺の狙いは――――

 

「ヒースの死で傷心中であるエレナさんにすり寄ってくる巨人信奉者……あえて彼らの甘言に乗ってもらう。首謀者としてシガンシナ区の悲劇を再現する一歩手前まで行い――――入ってきた巨人もろとも、巨人信奉者を徹底的に叩き潰すことです」

 

 机に両肘を付きながら無表情でそう言った。

 心の中で人類の為に、と静かに付け加える。

 エルヴィン団長ならそれくらい造作もなく敢行するだろうと、思いながら――――――

 

 

 

 

 




アオイ君は団長ですからそれくらいの非情さは持ち合わせています。
巨人信奉者も助けようとか思いません。
利用できるなら生かすことも考えるかもしれませんが……。



《小説版進撃の巨人Before the fallの巨人のキャラクター紹介》
※ネタばれを避けるため説明に死亡に関する内容、他一部の内容は記さないのでご了承ください

アンヘル・アールトネン……主人公。発明王と称され、立体機動装置を完成させる。シガンシナ区に侵入した巨人を自ら囮となって壁外に誘導するなど無鉄砲な面もあるが、1週間ほどで立体機動装置のひな型である《装置》を試作するなどその開発力と発想力には目を見張るものがある。ある事故で目を患い、Before the fall2巻の時点では第1線を退いている。

マリア・カールステッド……アンヘル、ソルムの幼馴染。駐屯兵団所属。ソルムの恋人でもあり、結婚する予定。世話焼きな性格。駐屯兵団で名前が『マリア』ということもあり、壁外へ赴く兵士の中では『彼女の姿を見たものは死なない』というジンクスがあるらしく、出撃前にはマリアの姿を探す兵士もいるとか。後にそれが皮肉な結果を生むこととなる。

ソルム・ヒューム……アンヘル、マリアの幼馴染でマリアの恋人。調査兵団所属。期待の新人でその能力は高い。即興で手榴弾を作成するなど手も器用なようだ。なんだかんだいって良い人。

ホルヘ・ピケ―ル……調査兵団団長。武人然とした人物。アンヘルとともに巨人が殺せる存在だと証明した。命令無視の壁外調査を敢行することから命令をただ聞くだけの人物でもないようだ。
原作のキース団長がそうだったように、訓練兵団の教官としてBefore the fall2&3巻では登場している。

ヒース・マンセル……調査兵団班長。エレナの夫。小説では彼は名前しか出てこないという地味に酷い扱い。

ゼノフォン・ハルキモ……前発明王でアンヘルが籍を置く工房の先輩。立場上はアンヘルの方が上らしい。メタルフレームのメガネが特徴的でなにかとアンヘルにはライバル心を持っている。ただ開発に関してはアンヘルに協力する姿も多くみられ、決して彼を嫌っているわけではないようだ。

コリーナ・イルマリ……15歳の少女。よく掃除している姿がみられ、工房ではマスコット的存在。現実主義者なところがあり、兵団に関わる仕事なら食いっぱぐれないから入ったらしい。発明王のアンヘルにも気さくに話すところから社交面も良いお嬢さん。きっといいお嫁さんになるだろう。


Before the fall2&3巻
※関係しそうな人のみ記載


キュクロ……2&3巻の主人公。ある悲劇から巨人の子(キュクロ)と呼ばれ、見世物にされる。後に引き取られたイノセンシオ家は父の思惑でシャビィにいじめられ片目の視力を奪われる。巨人の子を狙った巨人信奉者の襲撃で、キュクロになにかと便宜を図ったシャルルとともに逃亡。さまざまな偶然が重なりカルロ・ピケ―ルに見出され訓練兵を経て調査兵となる。かつての敵だったシャビィと協力し初の立体機動装置を駆使した巨人討伐を成功させる。

カルロ・ピケ―ル……ホルヘの息子で調査兵団団長。キュクロを見出し、ゼノフォンと引き合わせて立体機動装置の結果を出すことに成功する。彼自身は古い人間と自嘲し、立体機動装置を扱える人間に人類の未来を託そうとしているようだ。

ローザ・カールステッド……マリアとソルムの娘。小柄ながら格闘能力は高く、立体機動装置の扱いを学び10番以内で卒業した。アニっぽいらしい。



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