Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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書きたい絡みが書けるとテンションが上がる。



第二十一話

放課後、私は担任の先生に頼まれ、雑用を行っていた。

以前の私なら表情には出さずとも面倒だという感情で支配されていただろうけど、今ではすっかり頼まれ事に対しても従順になった。

意識したつもりはなかった。でも、自然とそうなっていった。

……私って、根っからの小間使いタイプなのかな。

しかも、それを嫌じゃないと思っている自分がいることも理解してしまっている辺り、もう手遅れなのかもしれない。

これがレイの頼み事だって言うなら、悩む必要性は欠片もないんだけど。

 

レイはどうやらオカルト研究部の面々と何やら出掛けていったらしく、どこにいるかも分からない。

やることも終わってしまった今、所在なく校内をぶらつくぐらいしかやることがない。

レイの姿を探すにしても、虱潰しになってしまう以上、流れに大きな変化はないだろう。

取り敢えず、テンプレではあるけれどオカルト研究部に顔を出してみよう。

――そう思っていた時、視界に影が映る。

 

「あれは――小猫?」

 

何やら無表情ながらに真剣さを孕んだ様子の小猫が、中庭を走る姿があった。

というか、意識すると周囲が妙に騒がしい。

訳が分からないけど、知り合いがいるのならば好都合。

合流すればつまらない時間からもおさらばできる。あわよくば他のメンバーとの合流も図れるだろう。

そう思って軽く駆け足をしたら、突然曲がり角から何かが現れ、ぶつかってしまう。

反射的に手を伸ばす。右手が細く柔らかい何かを掴むと、こっちの倒れる勢いが勝ったのか、自然と掴んだ何かが私の方へと引き寄せられていく。

遂には、私の胸の中にそれは収まった。

 

「あ、あわわわわ……」

 

私よりも頭ひとつ小さい背丈を持つそれは、どこか慌てた様子で私の胸の中で暴れている。

軽く下を向くと、こちらを涙目で見上げている女の子――いや、男の子がいた。

見た目は完全に美少女だけど、抱き心地で分かる。女性特有の起伏が感じられない。

 

「どうしたの?そんなに慌てて」

 

「あ、あの!は、離して――」

 

「見つけたぞ!ギャスパー!」

 

女装少年の言葉が、突如として現れた兵藤一誠の叫びに遮られる。

それに続く形で、他のメンバーも集合している。でも、レイはその中には見当たらない。

 

「ひいいいぃぃ!!」

 

「ミッテルト、良くやった!」

 

「いや、訳が分からないんスけど」

 

怯える女装少年、それに迫る男女複数人。

事情をまるで把握していない自分からすれば、犯罪臭しか感じられない。

 

「えっとな、ソイツはギャスパー・ヴラディっていう人間とヴァンパイアのハーフで……そんなナリをしているけど、男なんだ」

 

兵藤一誠が私の中の疑問を氷解していく。

 

「彼が男の子だってのは、すぐに分かったッスよ」

 

「うっそ、まじかよ!――いやいや、それは今は関係ないな。それで、ギャスパーには凄い《神器》が宿っていて、制御出来ないって理由で今まで封印されていたんだけど、どうにも引きこもり根性が染みついてるんだよ。だから、俺達がそれを矯正しようと逃げるギャスパーを追いかけて、今に至るって訳だよ」

 

「ふぅん……」

 

「まぁ、そう言うわけだから、捕まえてくれて助かった」

 

兵藤一誠とギャスパーと呼ばれた女装少年を交互に見比べる。

一方は見た目は麗しい少女、一方はそれを追いかけるエロの権化。

胸の中で明らかな恐怖で震えているギャスパー。

親に捨てられるかもしれないという恐怖に怯えるかのような、少年の機微を私は無意識に感じ取っていた。

知人はすべからく自分に害を為そうとする(ように見える)存在。

そんな中、私が彼の処遇を決める最後の砦となっている。縋るのも無理はないのかもしれない。

 

「……ねえ、この子怯えているじゃない」

 

「だって、折角出してやっても、すぐに引き籠もろうとするんだぜ?こんなの、放っておいたら一生このままだって!」

 

「ううう……お外怖いです……」

 

「……アンタの言い分も分かるけど、だからって大勢で対人恐怖症の相手を追いかけ回すとか、馬鹿じゃないの?そんなにまた引き籠もらせたいの?」

 

「うっ……」

 

紛れもない正論を前に、兵藤一誠は一歩たじろぐ。

 

「それと、小猫。その手の中にあるにんにく、完全にこの子のためとかじゃないわよね」

 

小猫は伏し目がちに私から視線を逸らす。図星か、コラ。

 

「アーシアも、貴方がストッパーにならないでどうするの」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

申し訳なさそうに頭を垂れるアーシア。

彼女は何も悪くないんだけど、連帯責任であることに変わりはない。

ここは心を鬼にして、叱っておかないと。そうなればいつかはただのイエスマンになってしまう。

 

「この子の《神器》が危険だから、制御してもらわないといけない。危険性を考慮すれば、ある程度の強攻策はやむを得ない。大いに結構な理由ッスね。でも、だからって無理強いしたところでこの子の為にはならないじゃないの。それとも何?この子のことを強力な《神器》を所有している都合の良い人形にしたい訳?」

 

「そ、そんなことはない!」

 

「だったら、とっとと行動を改めることッスね」

 

レイのような説教になっちゃったけど、どうやら効果はあったらしい。

メンバーは肩の力を抜いて、落ち着きを取り戻す。

 

「あーっと……すまん、ギャスパー」

 

「ひっ――」

 

兵藤一誠が謝罪の言葉と共に一歩前に出ると、小さな悲鳴と共にギャスパーの手に力がこもる。

完全に怯えられているわね、これ。

 

「……自業自得ね」

 

「面目ない……」

 

「この様子だと、他のみんなにも同じ感じだろうし、この子のことは私に任せてくれないッスか?」

 

私の提案に誰よりも反応したのは、当事者のギャスパーだった。

涙目で見上げるその姿は、まさしく藁にも縋る気持ちを如実に現していた。

元より裏切るつもりはないけど、こうして頼られる立場になると、その責任感と喜びというものが理解できるようになるものね。

 

「取り敢えず、今のままじゃあまともな会話だって期待出来そうにないのは火を見るよりも明らかなんだし、選択の余地なんかないと思うけど」

 

「……そうだな。部長にはそう伝えておくよ」

 

「懸命な判断ね。――ほら、行くわよ」

 

胸に抱いていたギャスパーの頭を一撫でし、身体を離す。

 

「あ――」

 

一瞬名残惜しそうな声を上げるギャスパー。

しかし、すぐにその小さな手を握ると、明らかに嬉しそうな笑顔を浮かべる。

……あー、何て言うか、今更だけど恥ずかしい。

信頼されているという事実が、とてもこそばゆい。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はミッテルト。しがない下級堕天使よ」

 

「堕天使……?」

 

「ああ、不安にならなくてもいいッスよ。堕天使だけど、今じゃオカ研の一員だから」

 

「そ、そうなんですか……」

 

堕天使だという事実を知っても尚、手を離さなかった辺り、彼の私への依存度が窺い知れる。

嬉しいと思う反面、この刷り込みのような状況をどうにかしないと、彼の引きこもり体質は治らないだろうとも理解していた。

 

「えっと、僕はギャスパー・ヴラディって言います。兵藤先輩が説明していたと思いますが、吸血鬼と人間のハーフで、デイライトウォーカーって奴らしいです」

 

そう語るギャスパーの口元の露骨に尖った犬歯が光る。

デイライトウォーカー――端的に言えば、太陽の光を克服した吸血鬼の呼称である。

弱点のひとつを克服している、という点では彼の持つアドバンテージはかなり大きなものだ。

 

「そう言えば、貴方の《神器》は危険なものだって言っていたけど、出来ればどういうものか聞かせてもらえる?」

 

私の問いかけを前に、ギャスパーが足を止める。

躊躇うような素振りを一瞬見せるも、ぽつぽつと語り出した。

 

「……僕の《神器》は、停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)って言います。僕の視界に映したものをすべからく停止させる力を持っています」

 

「時間停止……それは確かに凄いッスね」

 

「でも、僕には宝の持ち腐れなんです。まともに制御できないせいで、ちょっと油断したら能力を発動させちゃって……。いつか、僕の力が暴走して、僕が止めた人達が永遠に元に戻らなくなっちゃったら、そう考えると怖くて――だから、引き籠もっていたんです」

 

ギャスパーの告白を、私は静かに聞き届ける。

……ああ、そうか。そういうことだったんだ。

何で私がこんな見ず知らずの子を躊躇いなく助けようと思ったのか。

彼は、私だ。

他者を傷つけることを恐れ、自らの全てを封じ込めようとする。

そうすることでしか、力の律する方法が分からない。

そうしなければ、より苦しい思いをしてしまう。自分も、相手も。

そして、それ以上に不器用なのだ。だから殻に閉じこもり、外界を恐れる。

少しだけ視点を変えてみさえすれば、手を差し伸べてくれる人がいることに気づけないから、いつまでも世界を恐れなければならない。

自分以外が全て敵だと勘違いしたまま生きていくなんて、そんな悲しい因果は断ち切らなければならない。

同じ痛みを知る者として、私は彼を導く義務がある。

痛みを知るからこそ、それを繰り返させたくないという想いが生まれる。

痛みを乗り越えられたからこそ、道を示すことが出来る。

この役目は、私にしか担えない。

 

「……ウチもね、最近凄い力を手に入れたんだ。まだまだ使いこなせる自信はないけど、使い方次第ではとんでもない効果を発揮するって確信してる。それこそ、毒にも薬にもなり得る万能の力と言っても差し支えないぐらいのものよ。今まではただのしがない下級堕天使だったから、そんな《特別》に振り回されないかって気が気じゃないのよ。――でもね、その力で大事な人を護れるなら、それは素晴らしいことだと思わない?」

 

「大事な人を、護る……」

 

「それに限った話じゃないけど、自分の力の指向性を定めれば、自ずと頑張ろうと思えるようになるッスよ。純粋に強くなりたいと思うも良し、その力でしか出来ない何かを見出すも良し」

 

「ミッテルトさんは、大事な人がいるんですか?」

 

「……いるわ。ウチを縛っていた鎖を微塵に砕き、閉鎖的な世界から解放してくれた恩人がいる」

 

「それって、リアス部長ですか?」

 

「いいえ、違うわ。悪魔でも天使でも、ましてや堕天使でもない。ただの人間よ」

 

「人間――?」

 

「まぁ、ただの、ってのは語弊があるかもね。彼は規格外の存在よ。圧倒的な力を有しているにも関わらず、その力に呑み込まれることのない、強靱な精神力。誰かを護るためという純粋な力の指向性を持って、他者に貢献できる優しい心の持ち主。そんな人が、ウチの恩人なのよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「私が貴方を助けたのも、そんな彼の在り方を倣ったに過ぎない。二番煎じの乱造品なのよ、私の意思なんて。失望した?」

 

「……そんなことはありません。僕はミッテルトさんの恩人のことは知りませんし、僕にとっては貴方が初めてなんです。だから、そんなこと言われても困ります」

 

「そっか」

 

ギャスパーのいじらしい台詞に、思わず頭を撫でてしまう。

ズルいなぁ、と思う。これで男の子だって言うんだから。

まぁ、似合っている以上私がとやかく言うつもりはない。

仮に男装したところで、男子の服に着させられている女子の図としか思えないだろうし、それならば似合っている格好をすればいいと思う。

こういう考えも、先入観に囚われないレイの思考に影響されてのことかな。

 

「おうおう、仲の良さそうなこって」

 

そんな聞き覚えのある声に、無意識に身体がすくむ。

 

「アザゼル、様――」

 

そこには、元私の上司で、堕天使の総督を務めていた所謂トップの座に座るお方。

遠巻きにしか存在を知らなかったお方が、二日前からレイを中心に集まり始めている気がする。

サーゼクス・ルシファーを皮切りに、レヴィアタンを名乗る魔王にも会ったと聞いた。

更にはアザゼル様本人から教えてもらった、トップ会談の件。そして、レイの懸念。

コカビエルの時以上の何かが起ころうとしているのかもしれない。

 

「よう、ヴァンパイア少年」

 

「ひっ――」

 

アザゼル様の挨拶に、小さな悲鳴を上げて私の背中に隠れる。

三勢力ならば一度は耳にしたことのある大御所が目の前にいて、それが敵勢力のトップともなれば、怯えるのは当然。

 

「アザゼル様、この子が怯えています」

 

「脅かしたつもりはないんだがな……単にソイツが過剰にビビってるだけだと思うぞ」

 

「御身は堕天使の総督という重責を担っているのですから、その立場を弁えての発言をしていただかないと……」

 

「んな堅苦しい言葉に説教はやめてくれ。折角久しぶりに自由の身になれたんだから、少しぐらい羽目を外したっていいだろ?それに、お前だってもう《神の子を見張る者》とは関係無いんだから、俺のことなんか気にしなくていいんだぜ?」

 

「と、申されましても……」

 

そう言われて、はいそうですかと意識が切り替えられれば苦労はしない。

それに、私はアザゼル様にとって吹けば飛ぶ紙のようなもの。粗相をして怒りを買うなんて下手な真似はしたくない。

 

「……ま、敬ってくれるってのは悪い気はしないがな。それにしても、その堕天使の総督に説教するなんざ、度胸あるじゃねぇか」

 

「――ッ、申し訳ありません」

 

「おいおい、冗談だよ。つーか怒ってねーよ。言っただろ?敬ってくれるのは悪い気はしねーって。元とはいえ、まともな部下の忠言を全て受け流すようなことはしねーよ」

 

「そ、そうですか……」

 

「それよりも、だ。俺はそこのヴァンパイア少年の悩みを解決するために助言をしに来たんだった」

 

「ぼ、僕の、ですか?」

 

顔を僅かに背後から覗かせながら、ギャスパーが返す。

 

「一から十までとはいかないがな。時間停止の《神器》のような強力な《神器》は、得てして使用者のキャパシティの要求が高い。制御が難しいのも、それが原因だ。今のお前じゃ、分不相応な力だってことだ」

 

「やっぱり、そうなんですね……」

 

「だから、《神器》に宿る膨大な魔力をどうにかして減らす必要がある。一時的な霧散でも、吸収でもいい。とにかく今のお前の身の丈に合った状態にまで抑える必要がある」

 

「それは、どうやってですか?」

 

「俺が考えるには、ソーナ・シトリーの眷属にヴリトラの力を宿した《神器》使いの助けを借りるのが手っ取り早いだろうな。対象と接続することで、力を散らせることが出来るって代物だ。それを上手く利用してやれば、安定した状況での能力制御が可能だろう」

 

「良く分かりませんが……助言感謝します」

 

「おう。ま、これも一度親の代わりをしたよしみって奴だ。気にすることはないさ」

 

そう言い残し、アザゼル様はどこともなく立ち去っていった。

影が見えなくなった途端、背後のギャスパーの力が緩むのが分かった。

 

「うう……怖かったですぅ……」

 

「もう、情けないわね。萎縮するなとは言わないけど、もう少ししっかりしないと。男の子でしょ?」

 

「むしろ何でそんなにしっかりしていられるんですか……」

 

しっかりしている?そんなことはない。

掌の中は汗でびっしょりだし、喉も微かに渇いている。

それでもしっかりと立っていられるのは、ひとえにギャスパーという護らないといけない存在が背後に存在したからで、そうでなければ……。

 

「それよりも、どうする?アザゼル様の助言は嘘じゃないっぽいし、試しに行くッスか?」

 

ぶんぶん、と大きく横に顔を振る。

まぁ、選択を委ねた時点でそうなるんじゃないかと想像はついてたけど。

 

「――じゃあ、私の家に来るッスか?」

 

「へっ?」

 

「正確には私の、じゃなくてさっき言ってた恩人の、だけどね。彼ならもっと効率の良い方法を知っているかもしれないから、聞いてみようと思って」

 

レイならば何とかしてくれそう、という謎の説得力に期待して、電話を掛ける。

 

「あ、もしもし?今どこにいるの?……そう、ならちょうどいいわね。一緒に帰ろう?一人連れもいるけどいいでしょ?……はい、はい。ええ、そう伝えておくわ」

 

通話を切り、ギャスパーに向かい合う。

 

「と、言うわけで行くわよ。あ、因みに拒否権はないからね。アレも嫌、コレも嫌って逃げてたら一生そのまんまだもの。貴方の面倒を見ると啖呵を切った手前、投げ出すなんてことはしないから、そのつもりで」

 

ギャスパーの手を取り、レイとの待ち合わせ場所に向かう。

素直についてきてくれたことが、私には意外だった。

 

 

 

 

 

リアスに連れられて、ギャスパーという男の娘が引き籠もっているとか訳の分からない状況を説明され、逃げるギャスパーきゅんを追うのは心が痛むからリアス達と部室で茶をしばいていたら、イッセー達がミッテルトにギャスパーきゅんの人見知り解消を一任したという話を聞かされ、リアスとイッセーとの間でその件で少し一悶着があったが、何とか元の鞘に収まり、それから唐突にミッテルトから電話が掛かってきたかと思ったら、ギャスパーきゅんと一緒に帰る話になり、更には家に上げて何かをやろうとしているとのこと。

 

あらすじはこんな感じか。……長い。

僕の知らないところで色々と話が進んでて、何が何やらという感じだったけど、だいたいは合ってる筈。

 

「え、えっと……先程もお会いしましたね」

 

「そうだな。先程も紹介したが、有斗零という。君は、ギャスパー・ヴラディだったかな?」

 

「は、はい」

 

おどおどした様子が、保護欲をかき立てられる。僕の中での第三の癒し要素だよ、彼?は。

男だろうと可愛ければ正義。それが世界の真理。

 

「えっと、それで相談があるのよ。レイなら何か分かるんじゃないかなーって思って」

 

そう言って、ミッテルトがギャスパーきゅんの置かれている状況を説明し出す。

……成る程、理解できた。そして、なんとかなるかもしれない。

 

「……つまり、彼の中の《神器》に内包した魔力を排出することが出来ればいいのだな?」

 

「ええ」

 

「なら、ひとつだけ思い当たる方法がある」

 

「本当?」

 

「だが、それが出来るのは君しかいない」

 

そう。僕では無理なのだ。

同じペルソナを持つ者でも、汎用性に優れる性質を持った彼女だからこそ出来る方法。

 

「取り敢えず、一旦家に帰ろう。ここでは出来ないからな」

 

僕の提案に二人は頷き、真っ直ぐ帰宅する。

 

「おや、おかえり。――っと、彼女は知り合いか?」

 

「この子はギャスパーって言うの。後、この子は女じゃなくて、男よ」

 

「なん……だと……?」

 

ゼノヴィアはその言葉に一歩たじろぎ、ショックを受ける。

……まぁ、驚いているのは事実なんだろうけど、明らかにわざとオーバーリアクションしてるよね。

 

「えっと、初めまして。ギャスパー・ヴラディと言います」

 

「私はゼノヴィアという。よろしくな」

 

ギャスパーの挨拶が終わるが否や、いつものキリッとした態度に戻る。やっぱりな。

プールの一件から、ゼノヴィアはこういうキャラだって勘づいていたからね。今回の件ではっきりしたけど。

 

「んじゃ、ちょっと私らは三人でやることあるから」

 

「待て。それは構わないが、それは所謂密談という奴か?」

 

「密談、ってほど大層なものじゃないわよ。実験みたいなもの」

 

「そうか。私は仲間はずれか、寂しいものだな……」

 

とぼとぼと自室へ退散するゼノヴィア。

どうせあんまり気に病んでいないだろうけど、少し申し訳なく思う。

だけど反面、彼女が一緒にいたら話が進まないだろうなぁ、とも思ったから、止めることはしなかった。

 

「で、思い当たる方法って何?」

 

僕の部屋に集まり、腰を下ろしたところでミッテルトが話を切り出す。

 

「魔力を吸収するならば、ペルソナのスキルを使えばいい。そのスキルを扱えるペルソナを私は所有していない。だが、君ならば出来る」

 

それは、MPを吸収するスキル「吸魔」である。

ダンジョンでMPを節約する、というのが難しいペルソナシリーズでは、数少ない回復要素として重宝するスキルだ。

しかし、使えるペルソナがあまりにも少なく、汎用性に優れているとは言い難い。

有用なスキルである反面、その性質から使いにくくもあるという矛盾したスキル。

僕のペルソナには、吸収系のスキルはひとつもない。継承の際も使う機会はないだろうとハナから視野に入れてなかったからだ。

そこで、ミッテルトの出番である。

ミッテルトの《神器》となった、ペルソナ全書。これを使えば従来のペルソナ全書とだいたい同じ感覚でペルソナを召喚することが出来るのだ。

お金ではなく魔力を消費して召喚するシステムらしいので、燃費は悪いが、それを補って余りある汎用性の高さが魅力である。

 

「んーっと……じゃあ、やってみるわね」

 

おもむろにミッテルトの前にペルソナ全書が顕現される。

 

「これって、ミッテルトさんの《神器》ですか?それに、ペルソナって何ですか?」

 

「ええ、そうよ。ペルソナってのは――また今度教えてあげるわ。今は取り敢えず、当面の課題をどうにかしないと」

 

手をかざすと、淡い発光と共に捲られていくペルソナ全書。

数秒の間を置き、ミッテルトが小さく反応を見せる。

 

「――見つけたわ。ペルソナ!!」

 

叫びと共に魔法陣が展開される。

ミッテルトの背後に悠然と現れたのは、悪魔のアルカナに該当するペルソナ、サキュバスだ。

 

「えっ、な、何ですかぁ!?」

 

「落ち着いて。取り敢えず、今召喚したこの子を使って、実験するわ」

 

「じ、実験って?」

 

「吸い取るのよ、魔力をね」

 

ミッテルトの宣言と共に、サキュバスが妖しく微笑む。

淫靡で蠱惑的な雰囲気は、ギャスパーを惹きつけるどころか逆に怯えさせていた。

 

「いや、いやあああ!!」

 

「ほ~ら、怖くないわよ~」

 

何故か悪ノリし出すミッテルト。いいのか、それで。

 

「たっ、助けて下さい!」

 

僕の方へと逃げ出すギャスパー。

だが、その信用を僕は裏切らなければならない。

 

「へっ――」

 

「済まない。だが、これも君の為なんだ」

 

ギャスパーの身体を両足を使って固定し、停止世界の邪眼対策に両目を手を塞ぐ。

サキュバスの動きさえ停止しなければいいだけなので、この体勢でも問題ない。

犯罪臭しか感じないこの構図。手早くやることやってしまわないと、罪悪感が勝ってしまう。

 

「ひっ、や、やめ――」

 

「サキュバス、吸魔」

 

その瞬間、ギャスパーの女の子にしか聞こえない嬌声が家中に響いた。

 

 

 

 

「ひっぐ……ぐずっ……」

 

「ああ、もう。泣かないの。私も悪かったから、ね?」

 

現在、ミッテルトがギャスパーの頭を抱いてよしよししている。

気の弱い妹をあやす姉みたいだなぁ、なんて場違いなことを考えていた。

 

「やれやれ、身内が淫猥な会合でも開いているのかと勘違いしたではないか」

 

「まさか私も、こんな状況になるとは思わなかった」

 

別室にいたゼノヴィアも、ギャスパーの悲鳴を聞きつけ現在は僕の部屋でくつろいでいる。

 

「それにしても、さっきチラッと見たが、アレが話に聞いていたミッテルトのペルソナか。実際に目にしたのは初めてだが、貴方のと明確な違いはなかったように見えたが……」

 

「実際に違いはない。あるとすれば、能力の差ぐらいか。彼女はまだ強力なペルソナを制御出来るほど洗練されてはいないから、どうしても能力の低いペルソナを扱うことしか出来ないのだよ」

 

「それでも、貴方のペルソナとやらの実力を直に目の当たりにしている身からすれば、彼女は化けると確信を持って言えるな」

 

「それは同感だ。いや、下手をすれば私を超えるのもそう遠い出来事ではないやもしれん」

 

「そこまで言わせるとは、ペルソナとはげに恐ろしき力だな。味方であることがこれほど喜ばしいことはない」

 

まぁ、弱いことはないだろうしね、ペルソナ。

でも、イッセーの《神器》のパワーを知った身としては、今後の成長を鑑みてもヤバさは上だと思う。

木場は聖魔剣とかいう厨二心をくすぐる《禁手》に覚醒したらしいし、人間である僕は例えペルソナが強くても置いてけぼりになるのは簡単に想像出来る。

同じペルソナ使いなら、肉体スペックが高い方が何かと便利なのは自明の理。

それでも茨の道を進もうとしている僕は、大概マゾなのかもしれない。

弟子が師匠を超える、なんてテンプレな展開にまさか自分が参加することになるんじゃないか?と益体もないことが頭に過ぎった。

 

「それよりも、実験とやらは上手くいったのか?」

 

「そうだったな。ギャスパー、今の状態で《神器》を発動してみてくれないか」

 

「だ、大丈夫なんでしょうか……」

 

「やるしかないだろう。君の抱いている懸念も理解出来るが、遅かれ早かれ対面しなければいけない問題である以上、先延ばしはいたずらに心を弱くするだけだぞ」

 

時間停止というチートは、吸血鬼という性質を有して尚制御しきれる代物ではないということだ。スタンド使いのカリスマ吸血鬼は格が違ったということか。

 

「ギャスパー。何事も心の持ちようよ。出来ないって最初から諦めてたら、本当は出来ることも出来なくなっちゃうわ」

 

「……分かりました」

 

ミッテルトの言葉には素直に従う辺り、よっぽど懐かれているんだなぁ。

 

「じゃあ、適当にこの消しゴムでも投げちゃいましょう」

 

そういって消しゴムを軽く上に投げる。

ギャスパーきゅんの瞳が一瞬妖しく光ったかと思うと、消しゴムが空中で静止した。

 

「そして次はこのボールペンを、と……」

 

ギャスパーきゅんの視界に今度はボールペンを投げ入れると、それは止まることなく放物線を描き

床に落ちた。

 

「おお、成功した!」

 

「ほ、本当だ……こんなの、初めてです。普段なら無差別に止めちゃうのに……」

 

「やったじゃない!やればできるのよ!」

 

そう言って我が事のように喜びを露わにするミッテルト。

やはり、心根が優しい彼女は他人の悩みにも親身になって取り組めるのだろう。お兄ちゃん、嬉しいよ。

ミッテルトもギャスパーきゅんも金髪だから、完全に姉妹にしか見えないなぁ。お兄ちゃん、疎外感だよ。

 

「じゃあ、このイメージを維持したまま、次行くわよ!」

 

「はっ、はい!」

 

そんな感じで、ギャスパーきゅんの特訓は始まった。

まだまだ安定性には欠けるけど、本人曰くかなりの進歩だったらしいので、このまま続けていればいずれ誰もが認めるチートキャラになることだろう。

だけど、定期的に吸魔する度に悩ましげな声を上げるのはやめてくれ。色々と辛いから。

 




Q:ミッテルトが主人公かな?
A:そうだよ(迫真)

Q:お姉さん化したミッテルトもいいね。
A:レイナーレと比較するとアレだけど、ミッテルトも決してロリって訳じゃないんだよね。身長とか。個人的にロリでいいかもってぐらいの差だけど。まぁ、胸は言うまでもなくロリだけど――おっと、誰か来たようだ。

Q:ミッテルト×ギャスパーか……下腹部が熱くなるな。
A:ギャー君にキラッ☆を反転させた感じのポーズと笑顔で、もぐ宣言されればいいと思うよ。

Q:零空気だね。
A:ギャスパー編は、ミッテルトとギャスパーがメインのお話になるので、しばらくこんな扱いになるかと。

Q:ゼノヴィアって結局ポジションなんなの?
A:エロス要素が抜けて天然ボケキャラが際立ったスタイル。でも割と常識人。

Q:ミッテルトの使えるペルソナの現状ってどうなってるの?
A:サキュバスの召喚が結構ギリギリのラインだったりします。吸魔を使うという名目で召喚した為、なんとか召喚が維持出来ていた状態。本当はもう少し低レベルのペルソナじゃないと安定しない。
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