Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
その瞬間が訪れるまでの時間の流れは、果たして永遠か須臾か。
まるで自分自身が死の間際にいるのでは?と錯覚するほどに、体感する時の流れに惑わされる。
意識をひとつ切り替えるだけで、永遠に等しき一は、零となる。
「あ――――、」
気が付けば。
夢は覚め、現実に引き戻され。
その現実はとても残酷で、救いがなくて。
「いや――いやっ」
糸が切れたように遙か彼方まで吹き飛ばされた有斗零の姿が、紛れもなくそこにはあって。
それを認められなくて。信じたくなくて。
しかし、どんなに目を背けても、現実は変わらなくて。
だから、見据えなければならない。そうしなければ、いつまで経っても何も変わらない。
どんなに停止を望んでも、歯車は軋みながら回る。
世界は、自分の都合の良いようには回ってくれないのだから。
「些かやり過ぎたか……。あの龍と同じ尺度でつい測ってしまった」
「お――――前えええええええ!!」
ミッテルトは叫んだ。
自らの及んだ行為の意味に何の感慨も浮かべず、ただ壊れた玩具を勿体なさげに眺めるヴァーリのその尊大な在り方に、例えようのない怒りを抱いた。
「落ち着け、ミッテルト」
「アザゼル様、離して下さい!アイツは、アイツだけはぁ!!」
怒り心頭の私を、残った片腕で押さえつけるアザゼル様。
普段ならば一歩引き下がるような状態さえ、今の私には煩わしくてたまらない。
可能ならば、その残った腕も切り落としてやろうかとさえ思う程に、私は我を失っていた。
「――アイツは生きてる」
「――――え?」
たった一言。
されど、その一言が、狂気に身を染める一歩手前の彼女を、正気に至らせる。
「かなりヤバイ状態であることは確かだが、死んじゃいねぇ。僅かにだが、確かに鼓動がある」
倒れた零の姿を再度観察する。
アザゼルの言葉通り、零の胸元は上下しており、呼吸をしていた。
それは、確かな生存の証明だった。
「アーシアを連れて、行ってやりな。アイツは俺達がどうにかする」
「は――はい!」
「行きましょう、ミッテルトさん!」
ミッテルトはアーシアと手を取り合い、零の下へと一目散に向かう。
一分一秒でも早く、辿り着かなければ。そんな思いに駆られ、アーシアの都合も考えず、一心不乱に走る。
そして、距離半ばと言ったところで、異変は起こった。
「な――――これ、は、どういう、ことだ。力が、放出しきれ、な――」
突如、依然として調子を崩さなかったヴァーリ・ルシファーが、もがき苦しみ出した。
自らを抱き締めるような体勢を取ったかと思うと、白銀の鎧が跡形もなく砕け散った。
そのあまりにも異質な光景に、足を止めてしまう。
「ど、どういうことだ!?」
「分からないわ。だけど、あのヴァーリがあそこまで苦しむだなんて、ただごとではないのは確かね」
そんな兵藤一誠とリアスのやり取りに呼応するように、次なる異変が起こった。
微動だにしなかった零が、操り人形が如く胎動する。
零の肉体を中心に、魔法陣が展開される。
しかし、それはいつもの召喚陣ではなかった。
見る者をすべからく惹きつけるような光は、禍々しい漆黒に染まっており、そこから放たれる力もまた、邪悪だった。
ホヤウカムイとなど、比べるだけでも烏滸がましい。
地獄の底から溢れ出る瘴気、と比喩しても相違ないであろうものが、零から溢れ出ていた。
「なに、これ――――」
口にせずにはいられなかった。
立て続けに起こる未知の出来事を前に、思考が追い付かない。
そして、そんな私達に追い打ちを掛けるように、それは這い上がってきた。
ずるり、という音が脳髄に響く。
陣の中からまるで這い出るかのように、漆黒の腕が伸びる。
虚空を手探りするその姿は、まるで空気を求める魚のようであり、太陽を引き摺り降ろそうとする夜の使者のようでもある。
「あ、あ――」
呼吸が漏れる。
心臓が爆発するように鼓動を止めない。
おぞましい、なんて表現など生温い。
絶対悪。森羅万象を蹂躙して尚、満足することのない。究極の破壊者。
それが今、この大地に降臨した。
「――おいおい、なんだよ。あのバケモン」
アザゼルの余裕が、初めて崩れる。
堕天使の総督を持ってしても、化け物と形容されるそれは、まさに異形。
全てを呑み込む漆黒の鎧と表情の違う仮面を頭部に四つ、そして胴・背中・両腕・両脚に魚・亀・猪・といった一貫性の無い動物の仮面を身に付けた、歪な存在。
「アレも、零のペルソナなの……?」
信じられなかったが、そう思わざるを得ない条件が揃いすぎていた。
今までのペルソナとは一線を画した、まるでアレ自体が意思を持っているような――そんな錯覚。
ペルソナが、掌を掲げる。
あまりにも生物じみた、ゆったりとした挙動。
それは、断頭台を降ろす処刑人のようで――
「――何、あの力」
誰が呟いたのか分からないその言葉は、この場にいる全員の疑問と一致していた。
ペルソナの掌に集束していく、形容しがたい程の力。
大地が揺れ、空が悲鳴を上げ、私達は立っているのもやっとな力の波の前に竦むしか出来ない。
「アレは――マズイ」
サーゼクスが冷や汗を流す。
「マズイって、お兄様がそう思うぐらいやっぱりアレは危険なの?」
不安そうな声のリアスに、サーゼクスは無慈悲な追い込みを掛ける。
「あの力が何なのかは分からない。だけど、今集まっているだけの力でも、この街全体を灰にするぐらい容易いだろうね」
「灰って、そんな――どうにかならないの?」
「……難しいね。現段階でのあの力に対抗する力をぶつけることは簡単だけど、それでもこの街の被害はとんでもないことになるだろうね。灰か瓦礫か、消滅か最大限の被害か、その程度の違いしかないよ」
「そんな……」
リアスから視線を逸らすサーゼクス。
絶望に染まった妹を見ていられなかったからだ。
曲がりなりにも魔王の名を襲名した者が、事実上の打つ手無しと宣言したようなものなのだ。絶望しないほうがおかしい。
ミカエルもアザゼルも、節々から漏れる態度から、同じ答えに至ったことは明白だった。
そして、今もなお異形と化したペルソナは力を集めている。
更には、都合が悪いことに転移に制限が掛けられた結界内での出来事ということもあり、逃げることさえままならない。
最早これまで――そう誰もが思ったとき、一人だけ諦めない者の声が響いた。
「兵藤一誠!レイに《赤龍帝からの贈り物》を使いなさい!」
声の主は、ミッテルトだった。
「な、何言ってるんだ!そんなことしたら、余計に――」
「いいからやれ!どのみちこのままじゃ同じよ!だから、信じて!」
必死に説得をするミッテルトの瞳の中に、諦めの色はない。
むしろ、何か手はあると言わんばかりに、それは力強く見開かれていた。
「――やりなさい、イッセー」
それでもなお躊躇いを見せる一誠の背中を押したのは、リアスだった。
「部長……」
「どのみち、このままじゃアレは止まらないわ。この街を捨てるなんて選択は、私には出来ない。それはお兄様も然りでしょう。なら、無謀とも狂言とも思える言葉に縋って希望を見出すぐらいしか、私達にはやれることがないわ」
「……分かりました。行くぞ、ドライグ!!」
篭手に込められた相棒の名を呼び、一誠はブーストを開始する。
いつ爆発するかも定かではない爆弾を前に、皆に緊張が走る。
「どれぐらい溜めれば良いんだ!?」
「出来るだけ沢山よ!」
「無茶言うぜ、本当にさぁ!!」
だが、無茶だろうが何だろうが、誘いに乗ったからには全力で応えるだけ。
二倍、四倍、八倍――十秒ごとに倍化するそれは、本来ならば圧倒的に優れた性能である筈なのに、現状ではそれでも遅く感じる。
チキンレース同然の――しかも賭けるは想像を絶する数のヒトの命ともなれば、その緊張感たるや、尋常ではない。
「もっと、もっと速くならねぇのか!?」
誰にでもなく投げかけた悲痛な願望は、届かない。
こんな時、自分の弱さが嫌になる。
倍化の力も、地盤が脆弱では効果も薄い。
何か、今だけでもいいから、潜在能力を底上げするような何かがあれば――そんな都合の良い力を求めたその時、視界の端に何かが映る。
それは、紫色に輝く宝玉だった。
「あれは――よしっ!」
見切り発車が如く、その宝玉を手に取る。
この宝玉は、ヴァーリの鎧が破壊された際にこぼれたものだ。
即ち、これは白き龍アルビオンの力の一端。これ自身に含まれる力もまた、膨大であることは想像に難くなかった。
一誠はその力をは我が物としようと考えたのだ。
本来交わらざる力。水と油なそれらを融合させようと言うのだ。
それが如何に無謀なことかなど、考える余裕なんて無い。
リスクを天秤に掛けたところで、失敗すればそれで全てが終わるというのなら、何を躊躇う道理がある?
「俺は――部長達を、護るんだぁぁぁぁあああああああああ!!」
真摯な願望が、一誠の口から咆吼する。
《神器》は、所有者の想いに答えて進化する。
その意味が、今ここで現実となった。
「――はは、やってやったぜ、畜生」
激痛にまみれながらも、想いを通した結果。
その右手は、白龍皇のそれとまったく同じ白銀を宿していた。
「こりゃあ、寿命削れたかな……だが、そんなの知ったこっちゃねぇ!これなら、いける!」
最早ペルソナの集めた力は、臨界点は突破寸前だった。
滅びという名の創世を待ちわびるかのように、世界が胎動している。
終わりは、近い。
停滞か、破滅か。どちらに転ぶとしても、すべてはこれで決着する。
「先輩、受け取ってくれええええええ!!」
一誠が溜めに溜めた力は、遂に零へと譲渡された。
緑色の粒子が零へと吸収されていくのを、固唾を呑んで見守る。
粒子の全てが零の中へ至り、一瞬の静寂。
瞬間、零の身体が跳ねる。
「――っ、レイ!!」
その様子に思わず声を上げるミッテルト。
そして、それに続くように、異変が起こった。
漆黒の魔法陣が再び零を中心に展開され、そこから影で出来た手のような物が現れ、無数にペルソナへと延びていく。
影はペルソナをがんじがらめに拘束したかと思うと、無理矢理魔法陣の中へと引きずり込んでいく。
抵抗虚しく、ペルソナは徐々に魔法陣の中に沈んでいき、遂にはその姿を完全に失った。
「――――はは、やった」
一誠の呟きが、ミッテルトの提示した作戦の成功を告げた。
この場にいる殆どの者が、その場にへたり込む。
一秒前まで絶対的な死の淵にいたのだから、それが失われた今、最早気を張る必要などどこにもない。
「それにしても、よく思いついたな。アレを止める方法」
「……正直、賭けだったわ。アレがレイの中から出てきた条件で考えられたのは、二つ。レイが瀕死に追い込まれたからか、白龍皇の半減効果によってアレを抑える為の力がなくなったかね。どっちも確証に至らせる材料は無かったけど、瀕死に追い込まれることが条件だとすれば、人間のレイにとってそれに近しい状況は何度かあったにも関わらず、兆候が一切見られなかったことと、仮に瀕死が条件だったとしても、アレに近づいて回復なんて絶対無理ってことで、実質選択肢はひとつしか無かったってだけの話よ」
あひる座りで虚空を見上げながら、ミッテルトは告白する。
「あの状況で、良くそんなこと考えられたな……。俺なんて部長達の盾になることぐらいしか思いつかなかったぞ」
「魔王様も言ってたけど、アレが発動してたらアンタの肉盾なんて紙切れ以下ってレベルの被害が出てたんだから、もう少し別のことに頭使いなさいよ」
「まぁまぁ、私も恥ずかしながらあの時は君の出した発想には至らなかったのだから、彼ばかり責めないでやってくれ」
一誠を責めるミッテルトの間に割って入るサーゼクス。
事実、これはミッテルトをたしなめるための方便でもなんでもなく、真実だった。
零に最も近しい立場にいるとはいえ、それだけでは説明できない頭の回転の良さと冷静さにサーゼクスだけに限らず、ミカエルもアザゼルも注目していた。
特にアザゼルは、面識がなかったとはいえ元部下の功績に、少しだけ手放すに至った現実を悲観した。
「って、零の回復!」
「そ、そうでした!」
慌ててミッテルトとアーシアが零の下に近づく。
《聖母の微笑》による効果か、零の血色が徐々に良くなっていく。
その光景を前に改めて一様に一息吐く。
「――結局、アレもアイツの《神器》の力ってことでいいのか?ていうか、ペルソナっつてたけどよ、何なんだよアレ。あんなんがただの《神器》で召喚されるなんざ、ありえねぇだろ」
アザゼルの疑問は、この場にいる全員の思いを代弁したものだった。
以前よりペルソナの存在を知り、その性能を直に見続けてきたオカルト研究部のメンバーも、それらの何倍も強大で、異質で、おぞましい存在を前に、同じ感想を抱かずにはいられなかった。
「新たに出現した《神滅具》という可能性は否めませんが、それにしたって異常ですね」
「……ペルソナなら、ミッテルトも使ってた」
そんな可能性に、更に小猫が爆弾を落とした。
「えっ――それ、本当なの?」
その驚きは、零の中から出た異質なペルソナを前にした時以上のものである。
無理もない。ペルソナという圧倒的性能を見せつけてきた力を、知らない内にまさかミッテルトが所有していたなどと、誰が予想出来たであろうか。
「……そうよ。隠すつもりはなかったけど、今言われるのは流石に空気読めって感じね」
諦めたように溜息を吐き、掌にペルソナ全書が顕現される。
「私のコレは、零の《神器》の力を間借りしているだけで、ワンオフの《神器》であることに変わりはないわよ。私自身の能力も低いから、零ほどのものは出せないしね」
予防線を張りつつ、説明をする。
そして証拠として、ジャックフロストを召喚する。
「可愛いです……!」
アーシアがジャックフロストを思わず抱き締める。
冷たそうな身体に似合わず、ペルソナだから温度が存在しないこともあり、アーシアも遠慮がない。
「ミッテルトが魔術師達を倒せたのも、これのお陰ってこと。納得がいったわ」
「その言い方は酌に障るけど、まぁ事実だから反論はしないわ」
「……っていうか、流しそうになったが、他人の《神器》の能力に同調する《神器》なんて、それにしたってとんでもねぇじゃねぇか!だいたい、それどうやって手に入れたんだよ」
「……零の伝手で、としか」
ベルベットルームなどという訳の分からない場所の住人から利害の一致で入手した、なんて荒唐無稽なことを話したところで、信じてもらえないだろうと思ったミッテルトは、当たり障りのない真実だけを告げる。
しかし、それがより一層零という青年の謎を増長させる羽目になってしまうことに、言ってから気付いた。
「俺みたいに《神器》を作れる奴が知り合いにいるってのか?それとも、零が作ってるのか?どうなんだ?ミッテルト」
「え、と。あの、えっと」
ずい、と皆の視線がミッテルトに集中する。
そんな状況に慣れていない上に、答えられないことも多すぎることも相まって、しどろもどろになる。
「――そうだ!ヴァーリ、ヴァーリはどこ!?」
咄嗟に思いついた逃げ道に、誰もが意識が逸れる。
実際、今の今まで存在を忘れていたのだから、それも仕方のないこと。
ヴァーリが悪いのではない。全ては零のインパクトが強すぎたせいだ。
瞬間、硝子の砕けるような音と共に、赤紫色の世界が崩壊する。
そして、上空から降り注ぐ人影。
それは倒れ伏すヴァーリを抱え、陽気な笑顔を向ける。
「おっす、俺美猴!なんてな」
「だ、誰だお前!」
「ソイツは美猴、闘戦勝仏の末裔。有り体に言えば、西遊記の孫悟空だ」
一誠の疑問にアザゼルが間髪入れず答える。
「そういうこと。何か結界の外からも分かるぐらい馬鹿みたいな力を感じたから急いで馳せ参じたら、まさかヴァーリが気絶してるなんて、一体何したんだおたくら」
「答える義理はねえな。それにしても、白龍皇に孫悟空たぁ、禍の団も色物がお好きなんだな」
「アクが強い分、戦力は申し分ないぜ?俺を筆頭にな」
「自分で言うな、馬鹿が。んで、お前の目的はヴァーリの回収と宣戦布告か?」
「どっちもハズレだ。そもそもヴァーリがやられるなんて想定してなかったし、俺がここに来たのは別の用事があるからコイツの力が必要ってだけで、言えば勝手に来るだろうって分かってたからこれは回収にあらず!」
「んなことはどうでもいい!このまま大人しく逃がすと思ってるのか!」
どうにも間の抜けた二者の会話に怒号を持って割って入る一誠。
「怖いねぇ、まったく。んじゃ、大人しく逃がさせてもらいますよっと」
如意棒を地面に突き立てると、魔法陣が展開され、そのまま二人は光の中へと消えていった。
「ま、待て!」
「もう行ってしまったわ。……それにしても、ヴァーリは何で倒れたのかしら」
「……それには少しだけ思い当たる節がある。正直あまり信じたくねぇがな」
リアスの何気ない疑問に、アザゼルが答える。
「それって、何なのかしら?」
「白龍皇の半減・吸収能力は、決して無尽蔵に相手の力を我が物にできる訳じゃねぇ。赤龍帝と違ってな。だからアイツは、キャパシティを超える吸収した力を、放出して均衡を保ってるんだ。普通ならそれで問題ない、が――もし、放出が間に合わないほどの力をたった一度で吸収したら、どうなると思う?」
「それって、まさか――」
リアスの瞳の奥が揺れる。
その様子を見て、バツの悪そうにアザゼルは頭を掻く。
「つまり、俺の見立てでは、だ。有斗零にたった一度の半減・吸収を行った。それだけで、キャパを超えて、《禁手》を維持出来なくなったってことさ。だから信じたくねぇって言ったんだよ」
「荒唐無稽にも聞こえる推測ですが……彼があの様なものを無意識とはいえ召喚したという事実がある以上、一笑に伏すことも出来ないですね」
街ひとつを軽く消し飛ばせる力を内包した存在を内に飼っているなんてことは、前例がないぐらいに特殊なケースだ。
普段はただの人間だと錯覚していたのは、彼の持つ力の密度が人間のそれと何ら変化がないことも関係していた。
ミッテルトは言っていた。力を奪われたことによって、あの化け物が解放された可能性があると。
ならば、こう考えられるのではないだろうか。あの化け物を制御する為に、力の殆どを喪失していたと。
だからあれほどの強さを前面に押し出していたにも関わらず、いつまでも自分達が彼を人間として認識出来ていたのかという理由にも、ある程度の説明はつく。
それでも、あれほどの余力を残していられたという事実を前に、彼が果たして全力を解放した場合は如何ほどのものとなるのかと、誰もが思わずにはいられなかった。
「……ま、それはひとまず置いておくとして、だ。問題はこれからのコイツの処遇だよ。どうする?コキュートスにでもぶちこむか?」
「なっ――そんな、それはあまりに無体です!」
零の身体を抱きかかえながら、アザゼルのあまりの提案に反論するミッテルト。
「黙れよ、ミッテルト。これはお前の我が儘が通るような域を超えた問題だ。当然、それはグレモリー達も同じだからな」
アザゼルの辛辣ながらも正論な言葉に、等しく二の句が告げられない。
人間でありながら悪魔・天使・堕天使にも対抗出来る力を持った存在から一転して、とんでもない核爆弾となったのだ。
最早、以前と同じ感覚で接するなんて、不可能だ。
少なくとも、彼に対して友人程度の感情を持ってない者達は、ほぼ例外なくそうなっていた。
「コカビエルのような永久凍結刑にでもするつもりかい?処置としては適当と言えなくはないが、オススメはしないね」
そんな中、冷静にサーゼクスが言葉を返す。
「なんでだよ」
「理由は二つ。まず、体裁の問題だ。私達は事情を知っているから良いとしても、知らない者達からすれば、悪魔でも天使でも堕天使でもなく、ただの人間を永久凍結刑という極刑に処したようにしか見えないだろう。和平会談は事実上成立したとはいえ、禍の団という反抗勢力が残っている中、私達があたかも人間を恐れているような行動を取ってみたまえ。禍の団がそれにつけ込んでくる可能性もある。そんな脆弱で後ろ向きな思考を持つトップは不要、なんてとってつけた理由を与えるだけだ。それは少なくとも、現状の彼の危険性より先に懸念すべきことだと私は考えるな。そして二つ目に、あの異形の存在が顕現する条件が不明瞭だという点だ。ミッテルト君は先程ヴァーリ・ルシファーの半減・吸収能力によってアレが彼の制御下から離れたと推測していたが、もしかすると瀕死という条件もあながち間違いではなかった可能性だってあるし、他にも条件があるかもしれない。どちらも防衛本能が働いた結果だとすれば、永久凍結刑でもその対象となる可能性は否定出来ない。ましてやこの場で殺すなど、以ての外だ」
「……つまり、封印も駄目、トドメを刺すのも駄目。だから現状維持ってことか?そんなんでいいのかよ」
「これまでの彼を振り返る限り、彼自身はとても誠実な好青年だ。公私分けての見解でも、彼が自分の意思でこちらの脅威となることはまず有り得ないだろう。逆に言えば、彼に被害が出ないようにさえすれば、安全は限りなく約束されていると言ってもいい」
「根拠にもなりゃしねぇ推測だが、そもそも俺達が有斗零のことをあまりにも知らなさすぎるのが問題ってんだから、面倒な話だよ」
「ということは、彼の処遇は保留ということで?」
「保留かはともかく、取り敢えずコイツから聞き出さないことには始まらないんだから、そうせざるを得ないだろうよ」
やれやれと肩をすくめるアザゼル。
「とはいえ、そのまま帰すってのは流石に無理だがな。事情を聞くなり、監視をつけるなり、手回しはしないといけねぇ。それが、上に立つ者としての責任だ。だが、俺達三勢力のトップはこれから色々と忙しくなるだろうし、どんな理由であれコイツ個人に構っていられるほど低い地位にいる訳でもないから、必然的に代役が必要になる」
「監視というよりも、護衛かな。妹によれば、彼は純然たる意思で仲間を助けてきたらしいから、今更彼を危険に晒さないなんてのは不可能だ。それに、禍の団にも零の異質さが伝わるのも最早時間の問題。下手に遠ざけるよりも、徹底した護りに移行する方が余程安全で合理的だ」
「……ぶしつけながら、それは私やミッテルトが頼りない、という解釈でよろしいでしょうか」
無言を貫いていたゼノヴィアが、反抗するようにサーゼクスに問いかける。
「君達の実力を正確に把握していない身としては、どうとも答えられない。だが、今や明確に敵となるであろう、禍の団という組織を相手取るにあたって、零君のストッパーかつ護衛は多いに越したことはない。人海戦術でもされれば、質はともかく量に不安があるこちらは不利になるだろうからね」
「そして、下手に私達が過干渉を行えば、それが戦争への引き金となり、折角の和平も無駄になってしまいます。ですので、出来る限り少人数で、かつ可能な限りの戦力を彼に割かなければいけないのです」
「矛盾してるよな、本当によ。……んじゃあ、その護衛とやらは誰がやるんだ?」
「私の方からは、イリナ――彼女を推薦したいと思います」
「えっ、そんな――。私なんて役者不足も甚だしいです!」
「イリナ。護衛の条件は何も実力だけではありません。いえ、貴方の実力を否定している訳ではありませんよ?護衛として送り出そうと思える相手であること――つまり、信頼できる者であると言うことが絶対条件であり、最重要条件でもあるのです。幾ら強かろうと、もしその者が禍の団の息の掛かった者だったら、その時点でアウトですからね。つまり、そういうことです」
主の不在の今、実質的最高位に属するミカエルからの信頼の言葉。
敬虔な信徒であるイリナが、面と向かってそう言われて嬉しくない筈がない。
イリナは、ゼノヴィアがはぐれエクソシストになったと言う事実を耳にしたとき、敢えて何も聞かずに見送った。
それも全て、零の説教によって大局を見据えるということを学んだからである。
本来ならば裏切りとも取れるその行為を、彼女はゼノヴィアにも何か考えがあると捉えた。
そして、時が流れ、ミカエルの眼鏡に適う功績を残した彼女は、神の不在を知らされる。
同時に理解する。ゼノヴィアがはぐれとなった理由を。
驚きもしたし、軽い絶望さえ覚えた。
だが、それだけだ。
僅かばかりの葛藤などはあったものの、その事実を自分でも意外なほどにすんなり受け入れていた。
イリナは、別に神が不在だからといってそれを期にゼノヴィアと同じ道を辿ろうなどとは微塵も思わなかった。
主が不在であるならば、その次に憧れを抱いていたミカエルに鞍替えをすればいい。
至極単純で、不敬極まりない思考ではあるが、結局のところ何に重きを置いていたかの違いなのだ。
ゼノヴィアは主に絶対の信仰を。イリナは信仰したい相手を信仰する。
見積もり的にゼノヴィアの方が真摯のように見えるが、イリナの在り方は柔軟性を備えており、良くも悪くも人間らしい。
とはいえ、ゼノヴィアもまた、信仰の対象としてではないが、有斗零という存在に何かを見出しているという点では、イリナと何ら変わらないのかもしれない。
とはいえ、主が不在だから信仰を蔑ろにして良いという訳ではないので、その辺りは依然として変わっていない。
主の不在の今、それが不敬に問われるということもなく、ミカエルもその潔さに逆に信頼を置く結果となっていた。
狂信者よりも人間味のある手合いの方が制御しやすい、という打算も確かにあったが、それ以上に彼女自身の明け透けない人柄に共感しており、結果として良き主従関係を築いていた。
「そ、そこまで言われるのでしたら……お断りするなんて出来ません」
「嫌ならば構いません。強要するつもりは毛頭ありません」
「いえ――やります。私は零さんに一度助けられた恩があります。私の護衛程度で返せるかどうかは分かりませんが、やるからには全力でやらせていただきます」
真剣な思いを込めたイリナの言葉に、ミカエルは破顔する。
「まさかこのような形で再び共に過ごすことになるとはな」
「ゼノヴィア……」
「これからまた、よろしく頼む」
「――ええ!」
二人は笑顔で握手を交わす。
以前と変わらない調子で、イリナへと話しかけるゼノヴィア。それを当たり前のように受け入れるイリナ。
思想や立場は変われど、それによって生じる人柄の変化などありはしないのだという、零の言葉に偽りはなかった。
あの時の言葉がなければ、こんなに理想的でスムーズな和解は有り得なかっただろう。
いや、そもそも互いが互いに一度も悪意を持って接していないのだから、和解というのは語弊がある。
言うなれば、知古の友人との久しい再会に近いシチュエーションだ。
元々友人関係にある二人は、当然ながら一切の弊害なくうち解ける。
これが誤解の生じた離別による再会だったならば、こうはいかなかったかもしれない。
「サーゼクス、お前の方はアテはあるのか?」
「ふむ、そうだね。私が指名するよりも、立候補の方が面倒が無くていいだろうし、誰か護衛をしたいって人は――」
サーゼクスが提案した瞬間、どこからか声が上がる。
「私がやります、お兄様。この街を、学園を護る者として、その責務を果たすには都合の良いことかと思われますが」
これは、リアスの弁。
「あらあら、曲がりなりにも《王》である貴方の行動を制限するのは不本意極まりないところ。ですので、副部長である私がその役割を代わりに担いましょう」
これは、朱乃の弁。
「僕のせいで皆さんに迷惑を掛けた分、ここで恩返しがしたいです!」
これは、ギャスパーの弁。
どれも正統な理由であるように聞こえるが、本心は言わずもがなである。
「ギャスパー、貴方の《神器》は暴走状態の時でさえ零を止めることは出来なかった。いずれは出来るかもしれないけれど、今の段階じゃあ頭打ちも良いところよ。だからそんなこと気にしないで、修行してなさい」
「その修行も、零さんやミッテルトさんが使うペルソナを使えば捗るかもしれないんです。部長だって僕の頑張りを知っている筈ですよね。アレは全部お二人の機転が鍵になっていたんですよ。だから、一石二鳥になります!」
「でも、修行は修行で分けることは出来るわ。効率ばかり突き詰めて、肝心な部分を疎かにしてはいけないわ」
「あらあら、それでは《王》としての立場より彼の護衛の方が重要なのかしら?少なくとも、その役目は部長の手を患わせるようなことではありませんわ」
「でも、それは貴方も同じことではなくて?部長の不在をフォローするのも、副部長の役目でしょう?」
「そのフォローをすると言う意味で、零君の護衛を買って出たのですわ。ですので、心おきなく《王》として頑張っていただいてよろしいのですよ」
ああいえばこういう。こういえばああいう。
喧々囂々とした小競り合いは、このままでは頭打ちになってしまうのは、誰の目からも明らかであった。
「三人とも、落ち着きなさい」
それに終止符を打ったのは、サーゼクスだった。
「まず、ギャスパー君は先程言われた通り、修行は何も護衛役を買って出ずとも行えるし、時間停止が効かないのであればそれは君のアドバンテージを限りなく喪失しているのだから、護衛としては不適切だと言えるね」
「……はい」
「リーアに姫島君も、互いの言い分は最もだ。だからこそ、交代制にすればいいのではないかな?そうすればバランスが取れているし、どちらを疎かにするということもないだろう」
「それもそう……なのかしら?」
「私はそれでも構いませんわ」
納得し切れていないリアスとは対照的に、あっさりと承諾する朱乃。
「では、私が先に行かせてもらいますわ。零君の状態が未だにはっきりしていない状態で、部長に万が一があってはなりませんもの」
「そ、それを言うなら私も同じ気持ちよ。眷属を盾にして自分は安全圏内にいるなんて、そんなの私の流儀に反するわ!」
終わったと思った言い争いは、ギャスパーを除いた二人で再び開幕となった。
「……馬鹿ばっかりね」
醜い争いを遠巻きに眺め、嘆息するミッテルト。
そして、膝の上に乗せた零の安らかな寝顔を眺め、これからのことを思う。
強くならなければならない。あの異常なペルソナが再び出現すれば、それは零の命の危機でもある。
物理的にも、立場的にも。零が危険な目に遭わないように、強くなる必要がある。
ただただ、零の隣に立つためにしてきた努力が、明確な目標となって今形となった。
Q:零半端ないな、おい。
A:調べた限りだと、アニメでのイッセーがヴァーリに譲渡する際のブースト回数は2^35に相当するらしく、34359738368倍の力をぶっぱしたことになるんですよね。それでもヴァーリは鎧が砕けるだけで終わったのに、零に一発半減・吸収しただけで気絶までいくんだから、かなりヤバイのは分かる。別に、適当やってる訳じゃないよ?ちゃんと理由はあるよ?
Q:謎のペルソナ……一体何者なんだ。
A:ほんとだよ(すっとぼけ
Q:イリナヒロイン化疑惑?
A:流石に幼馴染み盗ったらイッセーが悲しみ背負って夢想転生を会得しちゃうから、自重します。まぁ、みんながどうしてもって言うならアレですけど。
Q:もうこれ、(零がヒロインかも)わかんねぇな。
A:みんなの総意で護られるポジションは完全にヒロイン。はっきりわかんだね。でも、それで終わらないのが我らが零君だから。