Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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今回の話を端的に表すAA


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_______|
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|  | ∧_∧| 
|  |(´∀`)つミ
|  |/ ⊃ ノ|   プロット
[二二二二二]|
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新作ポケモン、アドバンスのルビー以降手掛けてなかったからあまりの育成の最適化に驚く。
あ、あとプロットの大幅改変で内容にハチャメチャが押し寄せてきているけど、気にするな!


第三十四話

アーシアの悲鳴が響くのと、リアス達がディオドラの眷属を倒したのは、ほぼ同時だった。

 

「――ッ、アーシア!!」

 

一誠が我先にと悲鳴の先へと飛び出す。

 

「私達も行くわよ!」

 

それに続いて、リアス達も走り出す。

この場には、グレモリー眷属以外にも、有斗零の身内――つまり、ミッテルト、ゼノヴィア、イリナの三人も同伴していた。

 

事の経緯は、ディオドラがレーティングゲームを利用し、アーシアを攫う計画を実行したことが始まり。

リアス達も、今回のレーティングゲームは一筋縄ではいかない事は覚悟していたが、まさかゲームそのものが囮とまでは予想できなかった。

その油断を突かれ、まんまとアーシアを連れて行かれたのだ。

しかし、三陣営のトップには今回の襲撃は読まれており、彼らもまたリアス達を餌にディオドラが決定的な行動を起こす瞬間を待っていた。

だが此方にとってもアーシアが奪われたことは予想外だった。

予定では、ディオドラが本性を露わにすると共に、待機させていた兵士達をけしかけ、一気に制圧する目論見であった。

だが結果として予定は狂う羽目となり、リアス達はアーシア奪還のために強行軍を強いる事を決意する。

そこにアザゼルが待ったをかけた。

アザゼルの傍には、零、ミッテルト、ゼノヴィア、イリナの四人も居た。

何か起こった場合の保険、そういった意味合いで同伴させてきたのである。

アーシアが攫われたと聞き、女子三人は騒然とする。

零も少なからず反応を示しては居たが、すぐにいつも通りの様子で冷静に状況を分析し始めていた。

アザゼルの提案で、零以外の三人はリアス達と合流。彼女らと協力してアーシアの奪還を行う作戦を実行することになった。

零はアザゼルの下でテロリスト達の迎撃に当たる。それは、彼に万が一のことが起きないようにとアザゼルが配慮した結果である。

零は意外にもアザゼルの言葉に素直に従った。アザゼルの真意を呑んだのか、自分が出る幕はないと判断したのか。

何にせよ、彼らは今まで頼ってきた心強い味方に頼ることが出来ないという、ハンディキャップを背負うことになったのだ。

それに最初は嘆いた者いた。しかし、ミッテルトが――

 

「甘ったれんじゃないわよ!!」

 

自分達が零に頼り切りだったこと。それをいつしか当たり前のように受け入れていたこと。

いない人間にまで縋ろうとした自分自身への甘え、それがこのような結果を生んだのではないか?そう言い放った。

皆、一同に押し黙る。

心当たりがある故に、そうせざるを得ない。

一方的な信頼の押しつけ。その自覚はあっても、抗おうとはしなかった自らの心の弱さに向き合うときが来ていた。

零を抜きにしてこの状況を切り抜けなければならない。

今回ばかりは援軍には期待できない。故に、一切の甘えは許されない。

心の隅に残っていた甘さを拭い去り、気持ちを新たにする。

後は、ディオドラを倒しアーシアを救い出すだけ。

 

そうして、敵陣に突入。

そこに待ち構えていたのは、多数のディオドラの眷属。

ここで、リアスとミッテルトの派閥でチームを分ける。

ディオドラの眷属は数量で一番迫るリアスチームに。ミッテルトチームは隙を見て先にディオドラの方へと向かうこととなった。

手堅くいくのであれば、全員で眷属を打倒するのがベターなのだが、それがディオドラの狙いだとすれば、時間を稼がれている間にアーシアに何かをする可能性が高い。

故に、多少強引ではあるがそのような作戦で行くこととなった。

三人を突破させるための道を切り開いた後は、数の差に押し切られそうになりながらに何とか勝利を掴むことに成功したが、この戦いを経て自分達がどれだけ研鑽を怠っていたのかをようやく実感させられる。

確かに訓練はしていたが、それこそ死ぬ気で努力をしてきたか?と問われれば、否と答えるしかない。

蒼那とのレーティングゲームの敗北以外に、これと言って黒星を付けられるような失態がなかったが故に、慢心していた。

その黒星も、零がいたからこそ付けられなかったのであって、そうでなければ今こうして五体満足でメンバーの誰一人欠けずにいられたかどうかさえ怪しい。それ程の激戦を潜り抜けている筈なのだ、本来は。

それをあたかも自分達の手柄だと錯覚し増長した皺寄せが、今現実として襲い掛かってきている。

眷属を相手にこの体たらくで、ディオドラを打倒することが出来るのか。そんな一抹の不安を心の奥に仕舞い込むことしか出来ない。

ここまで来たからには、引くなんて事は出来ない。ならば、不安を抱くだけ無駄なのだと自分に言い聞かせ、各々は走り出す。

悩むことも後悔することも後回し。全てはアーシアを助けてから考えるべき、未来の話。

 

「――あれは」

 

石柱並び立つ一室、その中央に見るも醜悪な死体がひとつ転がっていた。

木場はその容姿にとある人物の面影を感じ取り、警戒しながら歩み寄る。

 

「まさか、フリード・セルゼンなのか?」

 

「醜いわね……言えた義理じゃないけど、まさに悪魔に魂を売ったって末路ね」

 

吐き捨てるようにリアスは呟く。

人間だった頃の面影は皆無で、纏う服装と銀髪で辛うじて判断できるかどうかだろう。

そんな見た目の醜悪さを加速させているのは、その無残な死骸の状態が主な原因だ。

容赦の無い無数の刃の痕。これでもかという程に感情の乗ったそれは、どう見ても怒りから来るもの。

 

「何を言ったかは知らないけど、三人の逆鱗に触れたのでしょう。同情するつもりはないけどね」

 

「部長、そんなことよりも!」

 

「ええ、急ぎましょう」

 

フリードの死体に見切りをつけ、再び走り出し、今度こそ目的の場所へと辿り着いた。

 

「ゼノヴィア、イリナ!」

 

ゼノヴィア達の表情を覗き込み、言葉を失う。

表情は蒼白で、呼吸も引きつったように呻いている。

二人の尋常ならざる様子に、何事かと思い、その視線の先を追う。

 

「一体、何があったという……の………?」

 

リアスの問いかけの言葉尻が弱くなる。

二人の視線の先にあるものを認識するのに、脳が必死に動こうと過重労働を強いているのが、第三者的な感覚で伝わってくる。

だが、それでも。肉体とは別に、意識はそれを理解したくないと、必死に抵抗していた。

そんな事をしている時点で、全て理解しているも同然なのに。

目の前の現実を視認したくなくて、必死に目を背けたくて。

それでも――現実はどこまでも残酷に自分達を嘲笑う。

 

「う……嘘……です、よね」

 

ギャスパーの震え声が、静謐な空間に響き渡る。

 

「嘘じゃあ、ないんだよなぁ」

 

最奥から響いた声に、一同は反射的に顔を上げる。

ライトアップされた先には、怨敵ディオドラ=アスタロトと拘束された状態で気絶しているアーシアの姿があった。

 

「ディオドラ、テメェ……!!」

 

一誠の拳と声が、尋常じゃない怒りで震えているのが分かる。

現実を認識した上で、ディオドラへの殺意が限界を超えて高まっていた。

 

「落ち着けよ、赤龍帝。たかだか羽虫が無様に死んでいるだけだろう?しかも、自分達の眷属でも無い他人。気にすることがあるかい?」

 

悪意をふんだんに乗せたおどけた口調は、放心状態だった者達をも現実に戻す。

悲壮感よりも、犯人であるディオドラへの殺意が遥かに上回る。

 

「ふっ――ざけんじゃねええええええええええええ!!」

 

大地を割らんとする咆哮とともに、一誠の身体に炎が纏わり付く。

それは形を変え、真紅の鎧へと変貌する。

ディオドラへの怒りを糧に、赤龍帝は禁手へと至る。

 

「アイツは――アイツは!!俺には憎まれ口ばかり叩いて、突き放すような態度を取る奴だったけど、人一倍思いやりがあって、優しくて、俺からすれば眩しすぎる奴だった!それを――よくも……よくもミッテルトを殺したなぁあああああああああ!!」

 

部屋の中央で血塗れで倒れている少女――ミッテルトの姿が、初めて明確な形を映し出す。

一誠の言葉が、抗えない現実を確かなものとしたことで、直視せざるを得なくなってしまった。

ピクリとも動く様子もなければ、呼吸もしていない。――生存は、絶望的だった。

 

「あ、ああ……!!」

 

ギャスパーは膝から崩れ落ち、大粒の涙を零す。

涙こそ流さないものの、何気に交流の多かった小猫の心の中には影が落ちていた。

姫島も、木場も、ゼノヴィアもイリナも。ミッテルトという少女の人柄を理解し、短いながらも時間を共有し、助け合ってきた関係故に、その現実は例外なく彼らの動揺を誘った。

 

「ハハハハ!たった一人死んだだけで、そのザマか?聞いていた通り、グレモリー眷属は身内に甘いんだねぇ。あ、身内じゃないか。何にせよ――反吐が出るね」

 

ディオドラは汚物を見るような視線でリアス達を一瞥する。

 

「反吐が出る、ね。お互い様だよ、ディオドラ=アスタロト……!!」

 

ゼノヴィアは一誠に並び立つようにして、デュランダルを構える。

 

「フリードから貴様の目論見は聞いた。お前の眷属は、全てが元々は敬虔なシスターだったそうだな。それを、お前の倒錯的な我欲を満たしたいが故に、彼女達を悪魔に落とす策を弄した。貴様の自作自演によってな!」

 

「どういうことなの、ゼノヴィア」

 

「……奴はシスター達の善性を利用して、自傷による怪我をシスターに治させ、その瞬間を他の信徒に見せつけることで追放させようと目論んだのだ。そして、傷心に漬け込んだ所を――」

 

これ以上は言うも憚れると、苦虫を噛み潰した表情で言葉を閉ざす。

だが、想像はついた。そして、表面でしか理解していなかった、ディオドラの悪意を、真の意味で理解した。

 

「……そうか、そういうことだったのか」

 

ズシン、と重い一歩と共に、倍化の音が鳴る。

 

「テメェが――アーシアが傷を治した悪魔だったってのか」

 

「そうさ、お前達が介入したことであの場で眷属にする計画はご破産になったけど、今こうして彼女を更なる絶望へと落とせたんだ、感謝してもいいぐらいだよ。特にそこのボロ雑巾になった女にはね」

 

「……とことん下衆ですわね。初めてですわ、こんなに不快な感情を抱いたのは」

 

「絶対に、許さない……!」

 

姫島と小猫も、怒りを言葉に乗せてディオドラと対峙する。

 

「ミッテルト、だったっけ?ソイツ一人死んだのを見ただけでアーシアは気絶したものだから、君達が殺される瞬間を見せられないのは残念だな。あ、でも起きた時には全てが手遅れだったって認識させるのも悪くはないかな」

 

「そんなこと、させない。貴方を倒し、アーシアを取り戻す。絶対に!」

 

部屋中が一触即発の空気で満ちる。

限界だと言わんばかりに、一誠が飛び出そうとした、その時。

 

 

 

「……煩いわね、おちおち眠れもしないわ」

 

 

 

「……え?」

 

聞き慣れた、そして二度と聞く事の叶わない筈だった声が、確かに聞こえた。

 

「ミッテルト……さん?」

 

信じられない、と言った風にギャスパーが呟く。

それは、この場に居る全員の総意だった。

 

「まさか、その傷で生きているとは驚いた。しかし、確かに致命傷だった筈なんだけどねぇ」

 

ディオドラの口調こそ平静だが、表情からは動揺が隠しきれていない。

事実、腹に空いた傷は塞がっている訳ではない。

それこそ、少し触れただけで倒れてしまうような儚さは健在。

だが――生きている。それは、これ以上とない希望の欠片。

自然と活力が湧いてくるのが分かる。自失で無気力だった肉体が、在るべき形に戻ろうとしている。

 

「お生憎様……、まだ、死ねないのよ」

 

「ミッテルト!」

 

フラフラな状態で立ち上がろうとしているのを、慌ててリアスが支える。

本当に、何故生きているのかが理解できない。嬉しいとは思えど、その事実に奇妙な感覚を覚えずにはいられない。

 

「兵藤、ミッテルトに《赤龍帝からの贈り物》を!」

 

「あ、ああ!」

 

ゼノヴィアの指示に、咄嗟に《赤龍帝からの贈り物》を発動する。

禁手に至っていたこともすっかり忘れていた一誠。当人の気付かぬ内にタイムリミット直前にまで迫っていた。

ゼノヴィアの機転がなければ、無駄に消費するだけに終わっていた。

しかし、限界まで倍化が高まっていたが為に、それを譲渡した途端、ミッテルトの表情に活力がみるみるうちに戻っていった。

逆に言えば、その程度に収まったのはそれだけ彼女の容態が深刻だったからに他ならない。

まさに、九死に一生。

 

「零と兵藤一誠のおかげで、首の皮一枚ってところね……。本当に、感謝しても足りない」

 

ミッテルトはペルソナ全書を開き、降りてきたタロットカードをそのまま挟み込む。

青髪の妖精――ハイピクシーをペルソナとして召喚した彼女は、自身に回復魔法「メディラマ」を掛ける。

全快とはいかないが、それでも腹の傷を塞ぐには十分で、ようやく一命を取り留めたと言って良い状態にまで落ち着いた。

 

「先程も見たが、その力――面白いな。おい、女。その力を寄越せば、命だけは助けてやらんこともないぞ」

 

「お断りよ、死ね」

 

ミッテルトは返す刀で答えを吐き出す。

ミッテルトにとって、この力は命よりも大事なもの。例え死んでも、誰かに渡す気など毛頭なかった。

そもそも、ディオドラが素直に約束を守るだなどと、ハナから信用していない。故に、当然の解答だった。

ディオドラはそんなミッテルトの反応に、鼻を鳴らす。

 

「まぁいい、半殺しにして解析するだけのことだ。為す術もなく死に体を晒した奴が一人復活したところで、オーフィスの蛇を宿した僕には敵わない」

 

「虎の威を借る狐の癖に、小物臭いのよ。自分に魅力がないから、シスター達をあんな方法でしか籠絡出来なかったんだって、バレバレなのよ」

 

「……何、調子付いている訳?生き残ったから、自分と僕の間には決定的な差が無いとでも勘違いしているのかな?」

 

青筋を立てつつも、声色は冷静に留めようとするディオドラ。

対して、ミッテルトはどこまでも冷静。気のせいか、リアス達から見ても、今のミッテルトはどこか以前とは違うと感じられる。

言うなれば――そう、雰囲気。形容し難い微小な差異だが、確かにミッテルトの中で何かが変わったことだけは分かる。

 

「そんな訳ないじゃない。今の私とアンタじゃあ、天と地がひっくり返っても勝てない。身を以て思い知らされたわ」

 

「なら、援軍が来たからだとすればお生憎様。そんなもの無意味だ」

 

「理解できないんだったら黙ってろ、カス野郎。ま、独り善がりな生き方しか出来ないアンタには、絶対に分かりっこないけどね」

 

今まで見たことも無い、強さを内包した瞳がディオドラを射抜く。

 

「気に入らないなぁ、その目付き。僕の好みとは対極にある目だよ。やはり女は、淑やかでなければならない。それこそ、アーシアのような――」

 

「――――分際を弁えろ、ディオドラ=アスタロト!!お前如きが、アーシアの名を口にするなぁ!!」

 

アーシアの名を口にした途端、咆哮とともにミッテルトを中心に衝撃波が発生する。

近くに居たリアス達は為す術もなく吹き飛ばされ、ディオドラの頬を余波で飛んだ小石が薙ぎ、紅の線を残す。

誰もが、その豹変を前に注目する。

ミッテルトの足元から、青白い炎のようなものが噴出している。

それが魔力の奔流だと分かるのに、そう時間は掛からなかった。

 

「ミッテルト……?」

 

呆然とした様子で、リアスが呟く。

ミッテルトを中心に観測される、膨大なまでの魔力量。

アレはミッテルトの偽物だと言っても、知る者が知れば納得してしまうであろう。それぐらいの変貌。

流石のディオドラも面食らった様子で、ミッテルトの変化を傍観する。

 

「アーシアァァァアアアアアア!!」

 

その叫びに、部屋一帯が震撼した。

しかし、名を呼ばれた少女は目を覚まさない。

それでも構わない、と言わんばかりにミッテルトは叫ぶのを止めない。

まるで、堰き止めていたもの全てを吐き出さんとするように。

 

「私は、貴方が羨ましかった!どんな過酷な環境に置かれても、理不尽な境遇に晒されても、貴方は変わらず純粋なままだった。自分勝手な欲望で堕天使となった私と違って、貴方はずっと真っ直ぐだった!」

 

それは、この場に居る誰よりもアーシアを近くで見てきたからこその言葉だった。

かつて悪魔となる以前、協会に属していた頃から、二人の関係は小さな縁ながらも、確かに始まっていた。

 

「綺麗だと思った、眩しいって、思った!自分もそんな風に生きられたらって、ずっと思ってた!そんな貴方が友達になろうって言ってくれた時、本当は凄く嬉しかった。だけど言えなかった!私の存在が、貴方の光明に影を落とすんじゃないかって、勝手に判断して逃げていた!」

 

懇願するように、贖罪するように、祈るように。あらん限りの言葉で、叫ぶ。

彼女の言葉を後押しするもの――それは、後悔。

痛ましいとさえ思える後ろ姿だが、それと同時に溢れんばかりの力を感じる。

 

「その結果、私は貴方を傷付けた!今、こうして負う必要のない苦しみを味わわせているんだって考えたら、胸が張り裂けそうでたまらなかった!」

 

それは違う、そうリアス達は言いたかった。

あの場で最も近くに居た自分達こそ、その業を背負うべきであって、彼女のそれは全くのお門違いだと。

しかし、言えなかった。否、言うだけ無駄なのだと、理解したから。

自分の過ちは自分のものだと、他人になどくれてやるものかと、言葉の中に確固たる意志が宿っていた。

 

「――だから、もう逃げない。あの日言えなかった想い、今だから……いや、何度だって言ってやる!」

 

一呼吸置いて、一言。

 

「私も、アーシアと友達で良かった!!大好きだ、アーシア!!」

 

思いの丈を吐き出し――瞬間、変化が起こった。

魂を焼くような、力の昂ぶりを感じる。

ミッテルトは叫ぶ。良い慣れた、しかし真の意味で理解していなかった、力の具現の名を。

 

そして、その変化は、もう一人の中にも静かに胎動していた。

 

 

 

 

 

「――……シア?」

 

「へ?」

 

目の前には、机合わせにミッテルトさんが座っていた。

どうやら自分は教室にいるらしい。その辺りの記憶は曖昧だ。

夕日による陰りでよく見えないが、その表情はどこか不満そうだ。

 

「もう、アーシア。勉教を教えて欲しいって言ってた本人がボケッとするなんて、ちょ~っとないんじゃないッスか?」

 

「え、あ、はい。ごめんなさい!」

 

「もう……。まぁ、いいけどね」

 

反射的な謝罪に、仕方ないなと言わんばかりに答える。

 

「時間も時間だし、どこか寄って帰る?ウチおすすめのアイス屋があるんだけど」

 

ミッテルトさんがそう言いつつ片付けを始めたので、自分もそれに倣う。

 

「アイス、ですか?お夕飯も近いのに、よろしいのでしょうか」

 

「何言ってるんスか、甘いものは別腹。これ常識ッスよ」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「そうなの。ほら、ちゃっちゃと行くわよ!」

 

問答無用と手を取られ、前のめりになりながら後ろを走る。

そんな慌ただしさと共に、湧き上がってくる至福の感情。

ああ――幸せだ。この甘美なひと時を、永遠のものとしたい。そう願わずにはいられない。

 

 

『――逃げるつもり?』

 

 

脳髄に響いた声。

それに呼応するように、目の前が光すら通さない暗黒で満たされていく。

手を取っていたミッテルトさんの姿は、影も形もない。

 

「え、え?」

 

『辛い現実から逃げて、それでどうなると言うのかしら?歩みを止めて、それで何が残るというの?彼女は貴方にそうなって欲しくて、命を賭けたのではないわ』

 

目の前に突如として現れる、黒いヴェールを纏った少女。

ヴェールに覆われて表情は見えないが、隙間から垂れ下がる金髪と声で、相手が女性であると辛うじて理解できた。

 

「貴方は――誰、ですか」

 

『それを知る前に、貴方にはやるべきことがある』

 

「やるべき、こと?」

 

『まだ思い出せないというのなら、無理矢理思い出させるだけよ』

 

淡々とした口調で女性は私の頭に手を伸ばす。

掌から溢れる光に身を委ねる。何故か、それを拒否してはならないと無意識に感じ取っていたせいだろう。

 

『忌避すれども、現実は実体を損なうことはない。どこにでも存在し、常に付き纏うもの。決して、逃げられない。逃げることは、許されない』

 

呪文のように呟かれる言葉が、内に染み込んでいく。

それを咀嚼し、呑み込んでいき――全てを思い出した。

 

「あ――あああああああ!!」

 

頭を抱え、うずくまる。

思い出したくなかった現実が、認めたくなかった運命が、暴力のように精神を蹂躙する。

あの暖かな日常は――もう、帰ってこない。

だって、彼女は、ミッテルトさんは、目の前で――

 

『貴方の眼前で、ミッテルトは致命傷を負った。他ならぬ、貴方の背負った運命によって。貴方にとって望んだものではなくとも、彼女が貴方の為にあの場へ赴いたことは紛れもない事実。彼女とて理解していただろう、彼我の実力差。それでも、彼女は懸命に足掻いた。その果てが――』

 

「やめてえええええっ!!」

 

聞きたくない。

耳を塞ぎ、ガチガチに身体を丸めて殻に閉じこもる。

そんな事をしても何も変わりはしないのに。

 

『そんな事をさせる為に、ミッテルトは命を賭けた訳ではないのよ?』

 

「分かっています!……分かって、います。だけど、どうしろと言うんですか!何で、放っておいてくれないんですか!?」

 

ディオドラに自分が魔女と呼ばれるようになった経緯を聞いた時とは比べ物にならない、感情の爆発。

それは、今まで誰にも見せたことのない、アーシア=アルジェントのもうひとつの姿。

過去の度重なる自身への仕打ちに加え、今回のミッテルトの件がトドメとなった。

 

『放っておける訳、ないじゃない』

 

僅かに怒りを孕んだ声色が響く。

そして、乱暴に腕を掴まれたかと思うと顔を覆っていた腕は引き剥がされ、ヴェールの少女と視線が交差する。

黄金の瞳の奥の先。風が無いのにはためくヴェールは、それを切っ掛けに何処かへと吹き飛んでいく。

 

「あ、あ……」

 

『――だって、私は貴方だから』

 

そこには、アーシア=アルジェントと瓜二つの姿をした少女が居た。

 

「どう、して?」

 

『……?』

 

「貴方が私だと言うのなら、何故あんな事を言うのですか?」

 

アーシアの言葉に、アーシアの姿をした何者かは面を食らった表情になる。

 

『最初に聞くのがソレ?もっと他に聞くことあると思うんだけど』

 

「で、ですが……どう見ても貴方は私ですし」

 

『……ああ、そうだった。貴方は()()()()()だったわね』

 

呆れたと言わんばかりに大きく嘆息するもうひとりの自分。

冷静さを欠いているように見えて、それを超える天然が現状をすんなりと受け入れる緩衝材となっていたのは、不幸中の幸いと言うべきか。

 

『何故、だったわね。それは簡単なことよ。それは無意識に貴方が現状を否定しているからよ。このままではいけないんだと、達観した視点でそう理解している。だから、その思いは私にも届くし、貴方の裏である私にとって、最も色濃い感情ともなる』

 

「裏……ですか?」

 

『貴方が良い子ちゃんで居た所で、それを表にしないだけで欲望は付き纏うもの。生理的欲求に始まり、承認欲求や名誉欲は人間誰しもが持つ、当然の欲求。それ自体は悪ではないけれど、立場や環境がそれを否定してしまえば、自分にとってそれは悪しき欲求として処理されるようになる。断食という宗教行為があるけど、別に何かを食べたいと思う事自体は悪ではないでしょ?』

 

「立場や環境が、そうさせる……」

 

『つまり、私はそう言った貴方が押さえ込んできた感情を司る部分なの。だからこそ、貴方の本心を誰よりも理解している。それこそ、貴方以上に』

 

そう微笑む姿は、アーシア=アルジェントがするような笑みではなく、ミッテルトがするような無邪気な笑みであった。

 

「なら――私は、どうすれば良いのですか?喪ってしまった人を乗り越えて前に進むなんて、私にはとても出来ません……!」

 

『ああ、それだけど――まず、ひとつ訂正。生きてるわよ?あの子』

 

「――――へ?」

 

突拍子もない言葉に、思考がフリーズする。

そんな姿を尻目に、暗闇の一角に光が灯る。

真四角に形取られたそれは、テレビの画面のように見える。

 

「あ――――」

 

そこに映し出された映像に、絶句する。

リアス達に支えられる形ではあるが、確かに彼女は――ミッテルトは、生きていた。

 

「あ、あ、あああ」

 

大粒の涙が溢れる。

もう、二度と取り戻せないと思っていた現実が、灯火となって静かに揺らめいている。

 

『……問うわ。貴方は、どうしたい?立場、環境、思想、そんなもの全部かなぐり捨てた、貴方の本心は何?』

 

「私の、本心、は――」

 

決まっている。それは――

 

『「アーシアァァァアアアアアア!!」』

 

画面越しのミッテルトさんの叫びに、私は反射的に顔を上げる。

ドクン、と。心臓に直接訴えかけるような叫びに気づけば夢中になっていた。

 

『「私は、貴方が羨ましかった!どんな過酷な環境に置かれても、理不尽な境遇に晒されても、貴方は変わらず純粋なままだった。自分勝手な欲望で堕天使となった私と違って、貴方はずっと真っ直ぐだった!」』

 

初めて聞く、彼女の本心。

そんな風に思ってくれていたなんて、考えても居なかった。

だって、その思いを抱くべき立場は、本来自分にこそあるのだから。

 

『――さあ』

 

もう一人の自分に促され、立ち上がる。

今やるべきことは、ただひとつ。封じ込めていた思いの丈を、ぶつけること。

例え声が届かなくても、構わない。

それならば、何度でも繰り返そう。どれだけ自分が、ミッテルトさんを想っていたのかを。

 

「――私も、貴方に憧れていました!自分に正直で、ありのままに振る舞うことが出来るその素直な生き方は、私にとっての理想です!私はただがむしゃらで、流されるように生きていただけ。でも、貴方は貴方の意思で零先輩の傍に寄り添う事を決めた。辛い現実に立ち向かった。私は、自分の意志で現状を変えようとしないで、ただ今の今まで逃げ続けていただけでした!」

 

『「綺麗だと思った、眩しいって、思った!自分もそんな風に生きられたらって、ずっと思ってた!そんな貴方が友達になろうって言ってくれた時、本当は凄く嬉しかった。だけど言えなかった!私の存在が、貴方の光明に影を落とすんじゃないかって、勝手に判断して逃げていた!」』

 

「私は綺麗なんかじゃありません!暗い世界に閉じこもって、誰かが自分を引っ張り上げる事を待ち続けるだけしか出来ない、灰塗れの見窄らしい女です!それに比べて、貴方はまるで太陽のようで、そんな風になれたらといつも夢見ていました!」

 

互いが互いに一方通行だと想っている叫びが木霊する。

暴力的なまでに褒めちぎり合う姿は、滑稽の一言に尽きる。

しかし、二人が言葉に乗せた意思に嘘偽りはない。

だからこそ、否定してしまう。その言葉は自分には相応しく無いと、反発してしまう。

 

『「その結果、私は貴方を傷付けた!今、こうして負う必要のない苦しみを味わわせているんだって考えたら、胸が張り裂けそうでたまらなかった!」』

 

「貴方は何も悪くない!私が弱いから、護られることしか出来ない弱者だから、皆さんに迷惑をかけながら何一つ恩を返せない愚か者だからいけないんです!謝るのは私の方です。私の浅はかさが招いた負債を、皆さんに背負わせてしまった私こそ、その痛みを背負うべきなんです!」

 

何が正しくて、何が間違いなのか。答えはきっと、どこにもない。

きっとどちらも正しいし、どちらも間違いなのだ。

ひとつの解に収束する事のない、相反する意思。交わる時が訪れるとすれば、それはどちらかの意志が折れた時だけだろう。

だけど、それは起こり得ない。

相手を尊重するが故に、その意志は決して曲がらない。

受け取る側からすれば、子供の癇癪と同じレベルの不条理だろう。

互いに一貫して「自分が悪い」と思い込んでいるが故の、すれ違い。

だが、悪いことばかりではない。

なあなあな関係を築いていたならば、このような本音の晒し合いなどすることもなかった。

本気で相手の事が大事で、強く想っているからこそ、どんな言葉に対しても真正面からぶつかり合える。

このような危機的状況が、彼女達の心の距離を縮めるに至ったのだから、皮肉としか言いようがない。

 

そして、ようやく気付かされる。

どうして、こんなにも惹かれ合っているのか。

 

『「――だから、もう逃げない。あの日言えなかった想い、今だから……いや、何度だって言ってやる!私も、アーシアと友達で良かった!!」』

 

「私だって、何度でも言います!ミッテルトさんとお友達になれて、とても幸せだって!!」

 

彼女達は、似た者同士なのだ。

互いが互いの足りないものを持ち、故にそれを補い合うかのように寄り添おうとする。無意識に、まるで磁石のように。

それは肉体的接触に始まり、次第に心の距離にまで影響を及ぼしていく。

じわり、じわりと。水のように、病のように。

狂おしいまでに自制の利かない身体も、決して不快ではない。

何せ、それは自らの殻を破る行為に他ならない。

窮屈な服を取っ払い、生まれたままの姿になることを本能的に不快に感じる者など、存在しないのだから。

 

アーシアにとって、ここまで感情を曝け出すことは人生においても初のことで、その身を支配する未知の感覚は恐ろしくあったが、それ以上に開放感が快楽となって脳を焼くその感覚に陶酔している。

それはまさしく、限界まで水を堰き止めていたダムそのもの。

一度決壊すれば、自然に収まるまで一切の干渉を跳ね除ける濁流となる。その破壊力は、貯めた量に比例する。

アーシアという少女の性格もあったのだろうが、彼女の卑屈な態度を固着させたのが裏切りや謂れのない悪感情に晒されてきた事であることは、疑いようもない。

正しいと信じてきた行動が、他者の悪意によって歪められ続けていれば、自らの正しさに信用を置けなくなるのも無理はないこと。

そうして自意識の薄まる中、流れに流れ、はみ出し者の集団の居る寂れた協会に身を落とすこととなった。

 

そして、ミッテルトもまた、悪意によって歪められてきたひとりである。

自業自得という部分があることは否定出来ないが、彼女は彼女なりに生き方を検討し、決断しただけに過ぎない。

その決断が、天使という種族の思想に反するものだったことが、彼女の最大の不幸だった。

敷かれたレールの上から一度脱線してしまえば、その扱いは同類から敵以上の何かへと成り下がる。

それを跳ね除けて生きていける程の強さを持ち合わせていれば違った未来があったのかもしれないが、人外としても年若い分類に入る彼女は、例に漏れず弱者のカテゴリーに入る存在だった。

年若いが故に妥協を許さず、他者に迎合する処世術も持ち合わせていなかった。

そんな彼女が得られる協力者は、同じ穴の狢ぐらいのもので、そんな寄せ集めの中でも彼女の地位は低かった。

使い走りに始まり、酷い時はストレス解消のために暴力を振るわれるような、惨めな生活が続いていた。

 

そんな時、二人は出会った。

始発点は違えど、根底なる祈りは同じ。

――『強くなりたい』。

無意識に抱いていた祈りに惹かれ合うように、二人は出会う。

立場も種族も異なる二人は、それらを超越した『絆』で結ばれていた。

心は既に繋がっている。ならば、残りのプロセスはただひとつ。

心の底からの純粋な思いを口にすることだけ。

 

 

『「大好きだ、アーシア!!」』

 

「大好きです、ミッテルトさん!!」

 

 

情熱的な言葉は、まさしく世界を彩る。

瞬間、暗黒で覆われていた世界に罅が入り、音を立てて崩壊した。

辺り一面を満たす色とりどりの花畑。

それは、今のアーシアの心の在り様を端的に表していた。風は、まるで全ての花弁を散らさないように配慮しているかのように、撫でるように

何にも憚れることの無い、裸の心。

この世界は、自由と博愛を尊ぶ、彼女そのものである。

 

『よく出来ました』

 

花畑の中心で、まるでダンスのエスコートをするように、もうひとりのアーシアは手を差し出す。

アーシアはその手をおもむろに取ると、勢い良く引っ張られる。

 

「あ、あの――」

 

『お礼はいらないわ。貴方は私、自分でやったことをいちいち感謝するなんてしないでしょ普通』

 

「……それでも、貴方の後押しがなければこんな結果にはなりませんでした。不思議ですね、自分自身であると理解していながらも、何処か他人のような感じもして」

 

『まぁ、今の私は無意識下における貴方の理想そのものだからね。ちぐはぐになるのも無理はないわ。――それよりも、行くんでしょ?』

 

「はい。えっと、貴方は……」

 

『私も行くわ。ただし――貴方とひとつになって、ね』

 

言うが否や、もうひとりのアーシアの身体が発光する。

眩しさに反射的に目をつぶる。

瞼越しに光が収まったことを確認して、恐る恐る眼を開くと、そこには――

 

「これ……」

 

もうひとりのアーシアの立っていた場所に、それは回転しながら浮いていた。

アーシアはそれに見覚えがあった。何度も見てきた、力の具現そのもの。

何故ここにあるのか。そんなことは思考の埒外に置かれていた。

ただ、手を伸ばす。力を欲するが故に、望んだが故に。

それに触れようとした時、頭の中に直接声が響く。

 

――忘れないで。貴方は私、私は貴方。貴方の理想を叶える為ならば、私は幾らでも力になる。

だから、恐れないで。変化することを。

本当に恐れるべきことは、停止し全てを顧みなくなった瞬間が訪れること。

傷つくこともあるでしょう。だけど、そんな貴方を護ってくれる仲間が居ることも、忘れては駄目。

貴方は貴方らしく、貴方らしくない生き方を目指しなさい――

 

それ以降、声が聴こえることはなかった。

風は止み、静寂が支配する。

誰も見たことであろう、凛々しい視線がそれを射抜く。

 

「私は、皆と共に戦える力が欲しい。癒やすだけではなく、隣に並び立って戦うだけの力が。護られるだけで終わらない、力が!!」

 

願望を叫び、それを祈るように胸に抱き、告げる。

聞き慣れた、しかし真の意味で理解していなかった、その力の名を。

 

 

 

 

 

「「――――ペルソナ!!」」

 

 

 

 

 

世界を隔て、言葉は調和する。

今ここに、二匹の雛鳥は殻を破り、大地を踏みしめた。

 




Q:ディオドラ死んでねーじゃねーか!
A:この作品書いてて一番長くなったせい(最大15,000字中13500字ちょい)。俺は悪くねぇ!もう一人の俺が勝手に!

Q:プロット崩壊したのってどこ?
A:アーシア関連全般。こんなポジションにするつもりなかったんやねんて……。

Q:零が主人公とか、うせやろ?
A:何言ってるんだ。ミッテルトを助けられたのも、ライザーやコカビエルを倒せたのも全部、有斗さんが居たからじゃないか!謝れよ!有斗さんに謝れよ!
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