Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
納得行かない出来でありながら、納得行く出来に出来る未来が見えないのは、著しい小説執筆能力の劣化にあるって、ハッキリわかんだね。
後、どうにかして一話一話を短くしたいのに出来ない。冗長になるせいでテンポ悪いし、投稿遅くなるしで、最近は本当に駄目な部分が顕著に現れている気がします。
これが新年初投稿とか……はー、つっかえ……辞めたら執筆するの。
変化は二柱の閃光を伴って起こった。
その中心には、アーシアとミッテルトの二人がいた。
アーシアを拘束していた物体は、閃光と共に吹き荒れた力の奔流によって呆気なく破壊される。
天を貫くような光の柱に包まれて宙を浮く姿は幻想的で、侵しがたい神聖さを放っていた。
そして、光の柱の外周を回りながら降りてくる白い鳥が、彼女の頭の上に停まった瞬間、アーシアの服装に変化が起こった。
ローブは失われ、白銀の西洋軽鎧と純白のロングスカートを身に纏い、花の象ったサークレットを被っている。
そして、その中でも目を惹くのは、女性の祈る姿が刺繍された焼けたようにボロボロなマント、そして身の丈の倍近くある長さの十字架の刻まれた旗。
儚げでありながら、その出で立ちはどこか力強さを感じる。
そんな矛盾が生み出す神秘性は、アーシア=アルジェントを知る者からすればあまりにも異質であった。
「さあ、行きましょう。
鈴の音のように、小さく、しかしとても良く通る声が紡がれる。
悪魔となったアーシアから感じられる神聖な雰囲気に、一同は戦慄する。
否。それは決して、気のせいで留まるものではない。
今の彼女は、紛れもなく神聖な力を宿している。
確証はない。しかし、彼女が纏っている武具が、悪魔という器を覆い隠しているのでは?と無意識に理解させられる。
それほどまでに、今のアーシアは悪魔とは無縁の存在へと昇華していた。
時を同じくして、ミッテルトを中心に噴出していた蒼炎は、彼女の肉体へと侵食していく。
ゴシックドレスに始まり、遂には顔にまでも至ったそれは、次第にひとつの形を象っていく。
その姿は、一言で表すならば、マジシャン。
特徴的な黒のシルクハットに、バーテンダーユニフォームと手に持つステッキは、普段見慣れないカッチリとした着付けながらも、色合いも相まってとてもマッチしている。
服装の変化が終わり、続くようにミッテルトの背後に現れる巨大な人影。
宝石箱のようなものに座る女性は、紫色のウェディングドレスに身を包み、しかし純白のベールで表情は覆われて伺えない。
そしてその背中には、ペルソナの身体と同じぐらいの大きさの虹色の蝶の羽がはためていており、美しさを際立たせている。
神秘的であり、蠱惑的もあるそれは、ミッテルトの白と黒で統一した服装との対比となっている。
ペルソナとは、心の底に潜むもう一人の自分。故に、端から見て限りなく遠い繋がりは、実は背中合わせの存在である。
「これが、ペルソナ。私の、私だけの――力」
ミッテルトは、己がペルソナを見上げながら、噛み締めるように言葉を紡ぐ。
ペルソナという力を間接的に使っていた時とはまるで違う力の感覚を前に、感動すら覚えていた。
しかし、その浮かれた心は流水の如く穏やかになっていく。
理論的かつ理性的な彼女に不足していた、純粋な個人での強さが加わったことで、今まで以上に精神的に落ち着いていられるようになっていた。
それこそ、一度無様に敗北を喫したディオドラを前にしても、その心は微塵も揺るがない。
「アーシア……ミッテルト……?」
誰が呟いたか分からない呆然とした呟きは、轟々とはためく力の奔流によって掻き消される。
突然の変化は、当事者以外の全員の思考を停止させるには十分な要素だった。
「な――なんだと言うんだ、一体!?」
ディオドラは狼狽する。
その言葉は、当事者二人を除いた者達の代弁でもあった。
一瞬の内にあまりにも状況が変化しすぎていた故に、この反応は無理もない事。
しかし、それを見逃すほど、今の二人は甘くはない。
「アーシア!」
「はい!ヒートライザ!!」
ミッテルトがその名を呼ぶと、間髪入れずにアーシアが旗を地面に突き立てる。
すると、ミッテルトの周囲に虹色の螺旋が巻き起こり、彼女から溢れる魔力量が爆発的に増していく。
「パンドラ、マハエイガ!」
ステッキをディオドラへと向けると、パンドラと呼ばれたペルソナが下にしていた宝石箱が開き、呪いの塊と形容できる邪悪な魔力が迸る。
「この程度―――ォォアアアアアッ!!」
退路を断つように展開された呪いの弾丸を前に、防御で迎え撃とうとするディオドラ。
未知の力であろうとも、己が身にはオーフィスの蛇が宿っている。万が一のことなど起こり得ない――そんな驕りが産んだ選択でもあり、最適解だった。
呪いが障壁に豪雨の如く着弾した瞬間、ディオドラの肉体へと内蔵を抉るような苦痛と負担が襲いかかる。
障壁越しに得られる衝撃は、彼にとって予想を遥かに上回るものであった。
何せ、一度ミッテルトとは対峙し、刃を交えている。故に、力の差は歴然であると、自他共認めていた筈だ。
しかし、その常識は一変して覆る。
拮抗は刹那。五秒にも満たない連撃の中で、呪いは障壁に亀裂を入れ、そのままディオドラごと食い破った。
悲鳴は聞こえない。着弾によって起こった轟音が、慈悲深くそれを掻き消していた。
それでも、現実は残酷なまでにディオドラを侵していく。
悪魔にとって神聖な力が弱点であるように、その逆である邪悪な力に対しては抵抗を持っている。
ミッテルトのペルソナによって放たれた力は、紛れもない呪いの力。悪魔であり、かつオーフィスの蛇を宿しているディオドラにとっては、本来ならば問題となるようなダメージは受けない筈だった。
しかし、そうではなかった。
ディオドラの肉体は呪いによって所々が腐ったように黒に侵食されており、先程までの五体満足な姿はどこにもない。
単純な理屈だ。抵抗があるとは言ったが、一切効かない訳ではない。
ならば――その抵抗を抜くほどの強烈な一撃を見舞えば良いだけの話。
「き、さま……何をしたぁ!!そのような力を隠し持っていたとでも言うのか!?」
血反吐を吐きながら、ディオドラは吠える。
虚を突かれたことで負った傷への憎悪は、主犯であるミッテルトへと向けられる。
しかし、そんな事はどこ吹く風と言わんばかりに、ミッテルトは杖を再び構える。
「そうね、隠し持っていた……確かに、理屈では間違っちゃいないわね。尤も、その事実を今の今まで知らなかった訳だけど」
「何……?」
「お喋りはここまで。さて――此度の騒動の主犯であるアンタには、相応の罰をタップリ受けてもらうわ。特に、アーシアに負わせた精神的な傷は、利子をタップリ付けてね」
「調子に――乗るなよ下級堕天使風情が!!」
殺意の篭った魔力弾が放たれる。
ミッテルトは、眼前に迫るそれを避けようとはしない。
避けられないのではない。避ける必要がないと分かっていたから、そうしているだけに過ぎない。
「な、に――?」
パシュン、と。まるで空気が抜けるような音とともに、魔力弾は着弾とともに消滅していく。
そのあまりにも現実離れした光景に、ディオドラだけではなくリアス達もまた同じく動揺する。
「やはり、ね」
確信と納得を孕んだ呟きが響く。
その言葉の意味が明かされることはなく、ミッテルトは信じられない言葉を吐き出す。
「ディオドラ、アンタの攻撃はもう私には届かない。何千、何万発放とうとも、絶対にね」
「そ、そんな訳が……」
「試してみる?」
両手を大きく広げ、無防備な懐を晒す。
紛れもない挑発。プライドの塊であるディオドラにとっては、見下される立場となった現状は憤慨の一言に尽きた。
「ふ、ざけるなああああああああ!!」
怒号と共に放たれる無尽蔵の魔力弾。
オーフィスの蛇を宿しているというのは伊達ではなく、その質と量は並の上級悪魔を遥かに凌ぐ。
しかし――それでも、彼女には届かない。
彼は知らない。ペルソナを宿した者は、その性質によって絶対の耐性を得られることを。
地獄の業火であろうとも、絶対零度の氷結であろうとも、神々の放つ雷であろうとも、ペルソナが対応した耐性を宿していれば、無害な概念へと成り下がる。そんな理不尽とも呼べる性質を持つことを。
そして、ディオドラにとって運が悪いことに、ミッテルトが宿したペルソナは闇の性質に対して絶対的な耐性を持つものだった。
その事実は同時に、闇の力を操ることの出来る悪魔にとって、恐怖すべきことでもあった。
「ハァ、ハァ、ハ―――!!」
肩で息をする程に消耗したディオドラの表情には、未知に対しての恐怖が張り付いていた。
先程まで対峙していた存在とはまるで違う。オーフィスの蛇を宿す自分が、まるで子供扱い。
人間であれ、悪魔であれ、理解できないものに怖れを抱くのは自然なこと。
そして、その理解できないものが目の前にある。
プライドをボロボロにされたディオドラにとって、ミッテルトは最早十把一絡げの下級堕天使ではない。もっと別のナニかへと変貌していた。
「――もう、終わりにしませんか?」
ふと、ディオドラの近くにアーシアが歩み寄っていく姿が見える。
「アーシア、何をしてるんだ!!」
「近づいちゃ駄目!ディオドラはまだ――」
リアス達の静止の声は、突き出された掌によって遮られる。
アーシアの瞳の中に宿る、強い光。それを前に、リアス達は僅かばかりにたじろいでしまう。
彼女達の知るアーシアは、そのような瞳をする少女ではなかった事から来る動揺は、ディオドラとアーシアの距離を縮めるには十分な時間稼ぎとなった。
「あ、アーシア……!!た、助けてくれ!!」
みっともなく、アーシアの足に縋り付き無様に懇願するディオドラ。
その様子を見つめるアーシアの眼の色には、暖かさと冷たさの二種の色が宿っている。
「それは、罪を認めて大人しく投降するということで宜しいのでしょうか」
「ああ、認める!だから、彼女を止めてくれ!!」
「――ミッテルトさん」
「……いいの?」
「私は今一度だけ、彼を信じたいです。改心してくれると言うのであれば、私からは何も言うことはありません」
その甘い発言に反抗したのは、一誠だった。
「駄目だ、アーシア。ソイツが改心する訳がない!!」
「そうだ。奴が無垢なる少女達を謀り、己が欲望の赴くままに振る舞ってきた事実を鑑みれば、同情の余地はない」
口々に語られる、正論の嵐。
しかし、アーシアは揺るがない。
「それでもです。私は、彼の中にある善性を信じたい」
曇りの無い、真っ直ぐな瞳。
本気でディオドラの可能性を信じて疑わない、真水のような視線に二の句を告げることが出来ない。
「さぁ――」
アーシアはディオドラへと手を差し伸べる。
彼はその手を掴み――思い切りアーシアを引っ張り、胸元に抱いた。
「――ハハハ!!甘い、甘いなぁアーシア!!だけど、その甘さが心地よいよ!!」
一転して勝ち誇った表情で高笑いするディオドラ。
彼の選択は――アーシアの救いの手を振り払い、仇で返すように彼女を人質に取るという、非道極まりないものだった。
「アーシア!!ディオドラテメェ、アーシアの優しさを何だと思ってやがる!!」
怒りのままに踏み込もうとすると、ディオドラはアーシアの首元に魔力の刃を宛がう。
「おっと、動くなよ?動いたら――分かるよなぁ?赤龍帝」
下卑た笑みを浮かべ、そう忠告する。
あの時引き留めておけば――そんな後悔ばかりが募る中、人質となったアーシアには一切の動揺はない。
恐怖も絶望もそこにはない。
あるのはただ、ディオドラに対する悲哀。そして、瞳の奥に宿る決意の炎。
「さぁて……まずは先程の仕返しをたっぷりさせてもらおうか。ミッテルトちゃん?」
加虐心をありありと見せる邪悪な笑みは、先程までの無様な立ち回りも相まって、滑稽に映る。
だってそうだろう。ディオドラは自らの意思で、猛獣の住む檻の中に入ったようなものなのだから。
そして、その事実に気付かぬままにお宝を奪い取れると錯覚しているその姿は、ミッテルトにとってはどこまで行っても道化にしか映らない。
「――ここまで来るといっそ哀れね。猿だってもう少しプライドを持っているものよ」
「黙れェ!!貴様、立場が分かって――」
「分かっていないのはそっちよ、ディオドラ=アスタロト」
ミッテルトの中に、最早戦意はない。
目の前にいるのは打倒すべき敵ではなく、癇癪を起こした子供と化したちっぽけな存在。
ペルソナを得て増長しているからではない。冷静な分析の結果、今のディオドラはチェスで言うところのチェック
――否、もうチェックメイトと言っても過言ではない状態だと判断したからだ。
自らを弱者と定義しているが故に、同じ弱者を嬲るなんてことはしない。
こんな奴に脅威を感じていたのかと、寧ろ過去の自分を叱責してしまう程度に、ミッテルトの中のディオドラの格は下落していた。
ディオドラは、望んで止まなかった存在に寄って滅ぼされる。これは決定事項だ。
イカロスが、太陽に近づきすぎて蝋の翼を溶かし墜落したように。
彼は間違った。望むべきではなかったのだ。
悪魔にとって、どこまでも眩しく明るい太陽は毒でしか無い。
そんなものを胸の中に抱いて、どうして無事でいられようか。
「――残念です。本当に、残念です」
哀しげな、しかしどこか平坦な声色が響いた。
そして、それに呼応するように、二人の身体に光の槍が突き刺さる。
「――――あ?」
誰も気が付かなかった。気付けなかった。
誰しもがアーシアやディオドラを注視していたのもあるが、それを差し引いても早すぎる光の刺突は、まさに回避不可能の必殺となる。
傍から見れば身を挺した捨て身の攻撃。当然だ、誰が見ても二人の身体を貫通しているのだから。
しかし、傷を負うのはただ一人。
「ア、ガァアアアアアアア!!光、光だとぉぉぉぉおお!?」
神聖なる力を宿した光の槍は、ディオドラを内側から焼いていく。
その想像を絶する痛みから、無意識に
「アーシアッ!」
突き放されたアーシアを一誠が抱きとめる。
怪我が無いかを確認するも、貫かれたであろう位置に穴が空いているだけで、顕になる素肌からは血の一滴どころか傷の跡も無い。
「大丈夫です、イッセーさん」
「大丈夫って……」
「それよりも、彼を。――残念ですが、これ以上罪を重ねる前に手を下すぐらいしか出来ることはありません」
幾度と裏切られて尚、アーシアはディオドラに悪意を抱くことはなかった。
甘いのではない、偽善者を気取っているわけでもない。
彼女にとって、誰かに手を差し伸べるということは、呼吸をすることと同じ。
していることが当たり前で、思考と結びつかない自然的行為であり、それを止めるということは、アーシア=アルジェントが死ぬのと同義であるから。
傍から見れば切り捨てたようにも見える決断だが、アーシアにとってはこれこそが救いに最も近い行為だと言う確信があったからこその行動。
彼が何があっても止まらないというのであれば、物理的に止めるしかない。
腫れ物を扱うような扱いでは、病状そのものを止めることは出来ない。病巣を取り除いて初めて、完治へと繋がる。
その過程で、例え暴力に訴えようとも、精神的に追い詰めようとも、それが彼の悪行を止めることに繋がるのならばそれも辞さないと、以前では考えられない思考の変化がアーシアに訪れていた。
結果だけ見れば何一つ変わっていない。しかし、目に見えない微細な違いは、確かに一誠達には見えていた。
「……アーシアがアイツに対してどんな感情を抱いているのかは、俺には分からない。だけど――俺はアイツを許せない。例えアーシアが許しても、アイツは散々自分勝手な欲望の為に好き勝手してきたことは許されてはいけないと、俺は思う」
「――はい」
「俺には崇高な理念なんてものはない。部長に拾われて、初めはハーレムを目指すなんて考えたりもしたけど、今となってはそれは二の次になっている自分がいる。俺が一番にやりたいことは――アーシア、君を護れるようになりたい、ってことぐらいだな」
「私を――ですか?」
恥ずかしそうに視線を逸し頬を掻く一誠。
直情的な彼らしからぬ、何処か初々しい所作は、彼を深く知る者からすれば異質極まりないものであろう。
「俺は赤龍帝なんて言われてるけどさ、そんな大層な肩書を背負っている自覚なんて無いし、それ相応な振る舞いが出来るとも思っていない。ここまで強くなれたのだって、ドライグと一緒だからであって俺個人はただの下級悪魔でしか無い。ちっぽけで、何処にでもいる雑踏の一人に過ぎない。……そんな俺でも、大切な人のひとりぐらいは護れるぐらいには強くなっていた。……つもりだった」
一誠の握りしめた拳は自らの力によって震えている。
そこに宿る感情は、悔しさと、後悔。
「心の中で、驕りがあったんだと思う。慢心していた、なんて言い訳にもならない。その結果アーシアを攫われて、仲間を傷付けられて……。それが、俺一人の行動でどうにもならない必然によるものだったとしても、それを容認できるほど賢しくはないってことぐらい自分で一番分かってる。だから――今度こそ、護るよ」
瞬間、再び倍加の音が鳴り響く。
幾重にも重ねられていく力の奔流を前に、ディオドラは何も出来ない。
ここに至るまでの間で彼は傷付きすぎた。それこそ、眼前の絶望を前に逃げることさえ出来ない程度には。
「待たせたな、ディオドラ」
「ヒッ――来るな、来るなぁ!!」
「テメェの我儘だけ通して、こっちの意思を無視するなんざ、まかり通る訳ねぇだろうが――!!」
どこまでも自分勝手なディオドラの行動に、一誠の怒りが爆発する。
「砕け散れ、糞野郎がああああああああああ!!」
咆哮と共に、ディオドラの無防備な横っ面に一誠は全力で拳を振り抜いた。
その一撃は、城壁を抜いて尚減退することをせず、その姿を地平線の彼方へと追いやった。
「……終わった、のかしら」
「死んでおらずとも、あの一撃を前にすれば最早死に体も同然でしょう」
固唾を呑んで見守っていたリアスの呟きで、皆に勝利の現実が波及していく。
「当然の報いだ。嫌、これでもまだ足りん。一誠達に任せ切りで、傍観者となっていたせいで、不完全燃焼も良いところだ」
「気持ちは分かるけど、下手に動けばこっちも危なかった可能性もあるし、仕方ないと諦めよう」
そんな今回の功労者の一人であるミッテルトは、ただディオドラの吹き飛んでいった先を見つめるばかりで、微動だにしない。
「……ミッテルトさん?」
アーシアが不安そうに声をかけると、おもむろにその身体は膝から崩れ落ちていった。
「ミッテルト!!」
リアスが慌てて駆け寄り安否を確認する。
幸いにも、彼女の奏でる規則的な寝息がただの疲労による結果であると告げていた。
「そういえば、死の淵から復活したのよね……。あんなに元気だったからつい忘れていたけれど」
気付けば、さっきまでのディーラーのような服装も、いつものゴスロリに戻っている。
アレが一時的なものであると言う事実確認をすると共に、今度はアーシアの方に意識を向けた。
「アーシア、貴方は平気?」
「あ……はい。少し疲れてますけど、平気です」
「そう、無理はしないでね。気付いていないだけで、貴方もミッテルトと同じぐらい疲労していてもおかしくないのだから」
そう笑顔を向けるアーシア。
しかし、誰でも分かるぐらいその笑顔には陰りがあった。
自分さえ騙せない嘘の根底にあるものは、疲労だけではない。
恐らくは初であろう他傷行為が、彼女の精神に少なからず影響を与えているのは間違いない。
今でも、そのような行動に及んだ現実が信じられない者が殆どである。
それでも、あの鎧を纏った瞬間から、アーシアに明確な変化が訪れたことも確かで。
結局の所、今暫くは心の整理が皆には必要だということだ。
「随分と派手にやったもんだなぁ、オイ」
突然の声に振り向くと、そこには面倒臭そうに頭を掻くアザゼルの姿があった。
「いつの間に……」
「今しがただよ。ったく、あんなぶっ飛ばして、回収が面倒だろうが」
「……スンマセン、怒りの余りに」
「謝る度量があるなら、それでいいさ。言い訳なんてしてたらお前に回収向かわせてたぜ」
「それは流石に勘弁して欲しいなぁ、なんて」
双方のやり取りによって、緊迫していた空気が弛緩していく。
「それはともかく、だ。お前達のやり取りの一部始終は見ていた。まぁ、気になるところは追々聞くとして、取り敢えず帰るぞ。何かしらの異常が出ていても不思議じゃないしな」
「そう言えば、零は無事なのか?彼一人に後方を任せた手前、気にはなっていたんだ」
「アイツなら無傷だよ。俺達だって居たんだ、万が一も億が一もありえねぇよ。ここに来てねぇのは――まぁ、アイツなりのケジメを付けにってところだな」
瞬間、ディオドラの吹き飛ばされた方向から、轟音が響く。
地平線の彼方には、先程までは無かった黄金の柱が突き立ててあり、アレが轟音の正体であることは、疑いようがなかった。
「……ああ、分かった。シェムハザを向かわせるから、合流し次第お前も帰ってこい」
皆が柱に注目している間に、アザゼルはいつの間にか誰かとの通信をしており、その通信も今しがた終了した様子。
「よーし、撤収だ。転移するぞ」
「分かったわ。ミッテルトを運ぶのは――」
「私がやろう。せめてそれぐらいはさせて欲しい」
「私もやるわ」
ゼノヴィア、イリナと立候補する。
同じ屋根の下で住む者関係というのもあって、家族と言っても差し支えないミッテルトの危機を前に駆けつけられなかった負い目があるのだろう。
「わ、私も――」
「アーシアも似たような状態なんだから、無茶しないの」
結局、ゼノヴィアが背負ってイリナが万が一のフォローということで背中を支えるという形になった。
アーシアは不服そうではあったが、こればかりは譲れないと終ぞ許可することはなかった。
その代わり、一誠がアーシアを支えるようにして歩かせるという一種のご褒美を与えた。
ぎこちなく歩く姿は、疲労によるものではないだろう。
一誠がアーシアに向けた感情。それが真に芽吹くのは先のことではあるが、今はただ殻を破った事を祝福しよう。
「青春だねぇ……」
アザゼルの呟きは、どこか優しかった。
「――――」
一誠の一撃によって遥か彼方へと飛ばされたディオドラ。
その姿は見るも無残で、生きているのが不思議でならないレベルのもの。
虚ろな思考、霞む視界、動かぬ四肢。
ただ仰向けの姿で世界を見上げることしか出来ない、哀れな人形と化していた。
それでも、終わったのだと。
光に焼かれ、赤龍帝の全力を身に受けたとしても、それでもまだ生きている。
ならば、儲けものだ。生きているだけで、生きてさえいれば――
「――ディオドラ=アスタロトだな?」
ビクリ、と。動かない筈の身体がその声によって微かに反応する。
視界には何も映らず、ただ声のみが届く。
淡々とした口調で語られるそれが、希望を手折る呪言であるとも知らないまま、聞き届ける。
「貴様に恨みはない。――いや、あるにはあるが、その感情を向けるのはお門違いだからな。静観を決め込んでいた私が、今更どうこう言える立場にはない」
「――だが、貴様は触れてはいけない領域に足を踏み入れた。私は聖人君子でも何でもない。大切な人をああも傷付けられて、道理や理屈で感情を抑え込めることぐらいは自負している」
「だから――一発だ。一発、全力で殴る。それでチャラだ」
目の前の人物が何を言いたいのかは朦朧とした意識では汲み取れないが、殴るのならば好きにすればいい。
赤龍帝に殴られた手前、あれ以上のものでないのならば、今更どうでもいい。
――そんな気楽な思考は、一瞬で吹き飛ばされるとも知らずに。
「マハタルカジャ」
ぞわり、と。背筋が凍る。
「ヒートライザ」
無意識に身体が震える。
逃げろ、と。全霊を以て身体が喚起している。
「チャージ」
だが、動けない。
重症故に?――否、目の前のソレが放つ重圧を前に、まるで地面に縫い付けられたかのようにピクリとも動けない。
地獄の断頭台に身を置きながら、声を上げることも、抗うことさえ許されない。
彼に出来ることは、閉じた世界の中でいつか訪れるであろう終末の音を聞き届けることだけ。
「彼女達の受けた痛みを思い知れ。――ゴッドハンド」
黒に染まる世界を、光が満たしていく。
文字通り光の速さで広がっていくそれが極点に達した時、ディオドラの意識は再び消失した。
「――さて」
やるべきことは終えた。
無理を言ってアザゼルにディオドラにワンパンだけさせてくれよ~って頼んだら、渋々OKしてくれたのは正直嬉しかった。
レーティングゲームを偽装し、アーシアを攫い、挙げ句の果てにはミッテルトを……。
後方に居ながらも、アザゼルの計らいで事の顛末は把握していた。
その光景を見て、感情が煮え滾った。
それは、ディオドラに対してだけではなく、自分自身にこそ向けられたもの。
本当に大切な場面で、彼女の傍に居られなかった後悔。いざという時に何も出来ない己の無力さ。
とにかく沢山の思いを半八つ当たり的なノリでぶつけたから、これで手打ちにしよう。
これ以上は静観を決め込んでいた自分には過ぎたもの。
それよりも、アーシアに――そして、ミッテルトに謝りたい。
ならば、最早コイツに構っている暇はない。
手早く予め渡されていた通信符で、アザゼルに連絡を取る。
アザゼルの部下が派遣されたことを確認し、通信を終える。
そして――突如零の足元に魔法陣が展開されたかと思うと、瞬く間にその姿を消した。
これは、零の意図した転移ではなく、第三者からの干渉によるもの。
虚を突かれた転移は、彼に一切の反応をさせることなく、役目を果たした。
この誰にも予想し得なかった別離が、彼を中心に取り巻いた環境に更なる波紋を呼び起こすことになると知るのは、まだ先の話。
前書きでネガティブなこと書いた理由が、ここまで来たらきっと分かったことだろうさ。
お披露目会なのに演出地味だし、前話も含めてディオドラ戦が長くなったせいで冗長になった割に特筆した展開もなし、最後の引きも無理矢理だしで……あーもう。
あんまり愚痴言うのもアレなのでこれ以上は言いませんが、本気で文章能力鍛える方法が知りたい。本格的な文学とかも読んだ方がいいのかな、最近はラノベ系や二次創作ばかりでね……。
次の話からは心機一転する気持ちでスッキリした内容を書けたらいいなぁ。