Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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明けましておめでとうございます。
なんとかこのタイミングには間に合いましたが、本来想定していた長さの半分になってしまった。
と言うか、FATE大晦日スペシャルで集中できなかったってのもある。

今年もこんな適当なノリでやっていくつもりなので、それに付いてこれる人だけでも、どうかこれからもよろしくお願いします。


第四十話

退出したゴウトを追いかけるべく、小猫達は気配を頼りに進む。

自分達以外の気配を一切感じないままに歩みを進めていくと、薄い膜のような結界が張られている空間を視認する。

確信する。ここで、彼女が待ち構えているのだと。

小さく深呼吸をし、結界内へと踏み出す。

 

「ここは……」

 

視界一杯に広がる砂利が敷き詰められた庭と、鯉の泳ぐ大きな池。

この光景を見て、ここが九重がライドウとゴウトと出会った場所だと思い至る。

そして、その池の際で静かに水面を見つめるゴウトを発見する。

砂利の擦れる音と共にその背中に近付くも、小さな耳を微かに震わせるだけで此方に振り向く気配さえ無い。

 

「――ここが、私達ライドウとゴウトの始まりの場所。静かで、良いところだと思わない?」

 

「……あくまで、貴女は――」

 

池の水面に視線を向けながらの言葉は、どこまでも小猫の心をすり抜けていく。

自分が何を言いたいかなんて、とうの昔に分かっているくせに、どこまでもはぐらかそうとする。

 

そんなに拒絶すると言うのならば、今だけは貴女をゴウトとして話を進めよう。

どうせ、押した所で暖簾に腕押し。ならば、搦手で真意を探るまで。

 

「――ゴウトさん。貴女はライドウさんが何者なのか、ご存知なのですよね。是非、お聞かせ願いたいのですが」

 

「それは、どうして?」

 

「先程聞いていた通りです。彼は、数か月前に行方を眩ました人物とあまりにも共通点が多すぎる。彼自身、記憶喪失であると言った以上、別人であると切って捨てるには難しい。だからこそ、彼が記憶を失う以前に共に居たである貴女の話を聞きたいと思った。これでは不満ですか?」

 

「いいえ、至極当然の理由ね。その人は、貴方達にとってとても大事な人なんでしょうね。何せ、その為に色々と無茶をしたようだし」

 

「はい。とても――大事な仲間です」

 

「ふうん、そう――」

 

小猫の主張を聞き終え、おもむろに振り返るゴウト。

振り返った先に向けられた視線に、小猫は軽く身震いする。

その視線に、好意の色が一切存在しなかったことが、とても恐ろしく感じた。

 

如何に他人であると突き放そうとも、過去に育んだ絆が途絶えることは無い。

SSランクの賞金首であるはぐれ悪魔となったという事実があれど、そこに絶対的な悪意を向ける道理にはならない。

……昔ならば、そうではなかった。

その考えを変えさせてくれたのが、他ならぬ零先輩だった。

 

最初は、絆なんて言葉を軽々と口にする先輩に対し、良い感情は持っていなかった。

陳腐で、空気のように軽いとさえ内心考え、嫌悪さえしていた。

だけど――人間であるにも関わらず、自らの信念を曲げることなく突き進む彼の強さを前にして、その考えは成りを潜めていく。

そしてそれを期に、その嫌悪の正体がひたむきな彼の在り方に対する嫉妬であると気付くのに、そう時間は掛からなかった。

自分には、それが出来なかったから。

 

幼き日の姉が、どれだけ悲惨な環境に身を置こうとも、私を常に労り、私の身の安全を優先してくれていたというのに。

私は、その優しさを又聞きの情報を真に受け、自分の知る黒歌はもう居ないのだと決め付けてしまっていた。

妹である自分こそ、誰よりも彼女を信じるべきだったのに、真っ先に目を逸らしてしまった。

ハッキリ言って、愛想を尽かされたとしても納得出来てしまうレベルの愚行だ。

先程の視線の真意がまさしくその通りだったとして、ならばそれを受け入れる覚悟はある。

……いや、そんなものはない。そんなもの、あってたまるか。

だとしても、今更情けなく追いすがるのは余りにも都合が良すぎる。

 

「それで、その仲間を取り戻したとして、貴方達はどうしたいの?」

 

「どう、とは」

 

「人間である彼を、悪魔の膝下に引き入れてどうするつもり?……また、彼を危険な目に遭わせるつもり?」

 

「また……?もしかして、先輩に何かまたあったんですか?」

 

「それを聞いて、どうするつもり?心配するだけ?慰めるだけ?そして、喉元過ぎれば再び死地へと向かわせるつもり?」

 

静かなる怒気を孕んだ声色が響く。

ゴウトの気迫に怯んだ三人を尻目に、言葉は続く。

 

「……ライドウはね、今時の人間とは思えない程誠実で、他者の為に命を懸けることにさえ躊躇いの無い、そんなお人好しよ。神様だとか、違う誰かに褒められたいとか、そういう欲望もなく、ただひたすらに己の答えでそれを為そうとする。人はそれを、狂人だと忌避し、異端のように扱うんでしょうね。自分が出来ない事を棚に上げて、マイノリティを否定して、その癖に都合良く利用しようとする。汚泥で膨らんだ脂肪を揺らし、下卑た嘲笑を浮かべながら」

 

深く、深く、昏い感情が湧き上がっていくのが見える。

ゴウトが自分達の知らない時に、一体何を見て生きてきたのか。目の前の別人のように呪詛を振りまく姿の超えたが、そこにあるのか。

それを理解するには、互いの心の距離はあまりにも遠い。

手を伸ばせば身体に触れられるとしても、その先には何もない。本当に理解したいものは、そこにはない。

 

「それでも、彼は笑ってそれを受け入れるでしょう。それが、誰かのためになるならば。例え、自分が死んだとしても」

 

「――そんなこと」

 

「無い、と言える?他ならぬ、利用してきた貴方達自身が」

 

「そんなつもりなんて……!!」

 

「無かったと言うなら、なんで貴方達は彼を放っておかないの?彼は頑張った、苦しんだ、よくやった!ライドウが記憶を失った貴方達の先輩だと言うなら、なんでそこで終わらせてあげないの!?」

 

膨大な殺気が、三人の首を締める。

呼吸さえままならない程の重圧を前に、思わず膝をついてしまう。

 

「私は貴方達の馴れ初めは知らない。きっと、彼のことだから彼の方から貴方達に手を差し伸べようとしたんでしょうけれど、だったらそこで終わっていれば良かったのよ。人外に対抗できる強さを持っているから、彼の方から率先して手伝ってくれるから、そんな大義名分を盾にして、ズルズルといつまでも彼を利用しようとした。彼なら大丈夫、彼ならなんとかしてくれる、そんな一切保証の利かない安っぽい理論で倫理観まで丸め込んでまで、力以外はただのヒトでしかない彼に、重荷を背負わせようとしている!」

 

「心から彼の安否を気にするのであれば、幾らでもやりようはあった筈!なのに、それをしてこなかった貴方達が、今更どの面下げて彼を心配しているだと言えるの?巫山戯んじゃないわよ!!」

 

黒猫の姿が、徐々に人型を形成していく。

最早、茶番によって覆われたゴウトという皮はそこにはない。

ただ一人、心の底からの慟哭と憤怒を以て糾弾する女の姿がそこにあるだけ。

零とゴウト――否、黒歌の関係は分からない。

空白の期間に、二人にどのような出来事があったのかは定かではない。

だけど――少なくとも、目の前の彼女の豹変ぶりが、生半可な密度によって構成された関係ではないと告げているのは確かである。

 

「――さっきから、言いたい放題言いやがって」

 

だが、それでも。

他人にどれだけ糾弾されるような事をしてきていたのだとしても。

ただそれだけの事実で、自分達の紡いできた絆を否定されるのは、看過出来ない――!!

 

「アンタに、何が分かる!!俺達だって、考えなかった訳じゃない。俺達が弱いせいで、先輩に何度も助けてもらって、その恩を返しきれていないことだって、百も承知だ!」

 

今まで閉口を穿いてきた一誠が、あらん限りの力で砂利を掴みながら、一歩一歩踏みしめるように徐々に身体を持ち上げていく。

重圧は今も続いているが、覚束ない身体を必死に支え、叛逆する。

 

「だからって、先輩が記憶喪失だって言うなら、それをそのままにしておいて良い理由にはならねぇだろ!過去が苦しかったから、辛かったから、これが転機だと言わんばかりな様子だろうが、そうじゃねぇだろ!!先輩にだって、捨てたい記憶があったとしても、捨てたくない記憶だってあるに決まってる。それを十把一絡げにして、全部なくなっても命が無事ならその方がいいなんてこと、間違ってもアンタが言える台詞じゃない!!」

 

この結末が有斗零が望んだものだと言うのであれば、それを否定するのは難しいかもしれない。

だけど、それが偶発的なもので、望まない運命によって失ったものであれば、それを取り戻さんとすることを阻む者を許してはおけない。

 

「……ここは、中立によって支配された領域。記憶を失い、九重の側仕えとなった彼は、今までとは比べ物にならないぐらいに安全が保証されている。本気で彼を想うのであれば、このままにしておくべきでは?」

 

「その保証は、九重の母ちゃんが攫われた今、誰が確約してくれるんだ?」

 

「少なくとも、彼は第一の任を投げ出してまで動くような愚か者ではないわ。決められた役割もなく、人格の尊重と銘打って体良く利用されるだけの日々よりはずっとマシよ」

 

「そのマシ、は誰にとってのだ?そして、その人を手元に置いて一番都合よく利用できるのは、一体誰だ?」

 

互いの主張がぶつかり合う。

言葉によって繰り広げられるインファイトは、どこまでも苛烈で、どちらも一歩も引くことの無い暴力の応酬。

抉るような痛みを前にしても止まらないのは、どちらにも譲れない想いがあるから。

 

正論とは、道理の通った正しい言葉ではない。

自分の正しさを証明するために紡がれる、都合の良い言葉だ。

真に正しい答えが存在するのであれば、争うことも、譲り合うことだって必要ない。皆が一丸となって、理想を共有できる。

それが出来ないならば、自分が正しいことを証明するしか無い。それが例え、粗削りで粗雑な言葉であったとしても。

何かを得たいのであれば、戦うしか無い。その果てに、涙を流す者がいたとしても。それが自分にとっての大切であるならば。

 

「――貴方達がどう吠え立てようとも、今の彼の立場は揺るがない。貴方達は未だに九重の母親を攫った容疑が完全に晴れた訳ではないのよ?ここで下手を打つのは得策ではないと思わない?」

 

「なっ――」

 

そう、このように。立場を利用した脅迫だって、許される。

恋と戦争においてはあらゆる戦術が許される。そんな言葉があるように、結局その尺度を測るのは当事者の問題であって、全てが終わった後は、勝てば官軍負ければ賊軍で済まされる。

いつだって、歴史はそう紡がれて来た。戦争でさえそれなのだから、個人の言い争いの延長程度で、今更な話だ。

 

「――お願い、帰って」

 

先程までの重圧は失われ、追いすがるように黒歌は答える。

何も言えない。いや、言えたとしても、それは決して平行線以上にはならない。ならば、それ以上は徒労でしかない。

 

「……俺達は、諦めないからな。絶対に、いつか――」

 

悔しさを噛み締め、一誠は踵を返す。

終始見ているだけだったアーシア、途中から傍観者となった小猫も、それに続いていく。

三者三様、後ろ髪を思いはあれど、今のままではフェアじゃない。

互いの主義主張が同等の重さになるタイミングこそ、勝負の時。

その為にはまず、九重の母親が助からないことには始まらない。

それを含めて、これからの身の振り方を考える必要が出来た。

 

だから、待っていてくれ。先輩。

これが、俺達が出来る、最初の恩返しだ。




Q:黒歌性格違いすぎへん?
A:女は幾つも顔を持ってるもんやで(適当)

Q:今回ぐだぐだ過ぎない。
A:い つ も の こ と

Q:こんな適当でいいと思ってるの?
A:正直、FGO二部のせいでまたぐだ日記書きたくなったから、そっちの整理してたってのもある……

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