Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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年明けから約4ヶ月。

ハイスクールD×D HEROがもうすぐはじまるけど、作画が柔らかすぎて以前までの力強さがまるっと失われた感じがするせいか、食指が動かない……。話の内容的には現状と近いから、参考になりそうではあるんだけど。

D×2に関しても、マグネタイト消費量にテコ入れが入るようでようやく星4を気兼ねなく作れそうで安心。星5は……ナオキです……。


第四十一話

太陽が沈み始めた頃、空をも覆い隠さんとする程の背丈を持つ林の並ぶ街路樹を、一人静かに歩くミッテルト。

その表情は、些か落ち着きを取り戻してはいるが、依然として翳りを帯びている。

一人孤独に上の空で歩いている姿を周囲に晒しつつも、向けられる奇異の視線には一切気にも留めることはなく、漫然と歩き続ける。

 

不安定な状態だったミッテルトを宿泊先にまで送った木場は、彼女を自室まで案内し部屋で安静にしているよう促した後、アザゼルを探しに直ぐ様出て行った。

例え通信魔法であろうとも、下手に中立地帯で扱おうものなら妖怪達の緊張を煽ることとなってしまう為、手間ではあるが地道に歩いて探すしか出来ない。

時期が時期だけに、人の目もかなりある。少しでも目立つような事をすれば、不審がられるのは明白。

人間を介して騒動が起こるようなことがあれば、今度こそアウトだろう。

上が事情を理解していても、下までがそうだとは限らない。

ただでさえ、妖怪側はピリピリしているのだから、急いで下手を打つ道理はない。

しかし、そんな木場の行動など興味の外。

ミッテルトの思考はただ一点、葛葉ライドウで埋め尽くされていた。

 

脳裏に焼き付くのは、ライドウに刀を突き付けられた時の光景。

服装こと異なれど、手に持つ獲物は初めて敵対した時と同じ刀であった事実は、否が応でもライドウを有斗零と重ねてしまう。

彼女自身、駒王学園に通うになってからの零と最も長く過ごしてきた自負がある以上、あの時感じた既視感が嘘とは到底思えなかった。

だけど、追求するのが怖かった。

感じた既視感が嘘で、本当に似ただけの別人だったとしたらと思うと、怖くてたまらない。

 

実のところ、ペルソナ全書が白紙になってから今に至るまで、自分が狂っていた時期の記憶は、鮮明に残っていた。

たったあれだけの事実を前にしただけで、ミッテルトの心は容易く折れた。

悲観する要素はあれど、諦観するような状況ではなかったと、時間が経った今ではそう思える。

しかし、思えるだけで、いざ同じような局面が訪れた時、果たして今のように冷静でいられるのか。

前例があるだけに、自分自身のことながら一切の保証が利かないという、不甲斐ない精神力。

試してはいないが、この体たらくではまともにペルソナを扱えるとは思えない。

何にせよ、あの場に残ることは足手まとい以外の何物でも無かった。そう思うと、あの時の判断は英断とも言えた。

 

「……あれ?」

 

ふと、俯きがちだった視線を持ち上げる。

そこには、変わらず悠然と佇む街路樹を除いて、全ての生物が消え失せていた。

先程まで感じていた視線も、喧騒も、鳥の囀り、その一切に例外はない。

突然の孤独を前に、慌てて周囲を探し回るも、成果はゼロ。

まるで、自分だけがこの世界に存在しているかのような、絶対の孤独。

風が止めば、静寂が強く耳朶を打つ。

ドクン、ドクン、と。次第に早鐘を打つ心臓の音が、世界中に広げかねないほどに鳴り響いている。

落ち着け、冷静になれ――そう言い聞かせるたびに、余計に精彩を欠く思考。

思考が纏まっているときは冴え渡る頭脳も、一度こうなってしまえば凡俗と化す。

孤独は、彼女にとって最も恐れるべき敵であり、立ち向かうべき壁でもある。

 

「……情けないわね、本当に」

 

突如、背後からそんな言葉が聞こえた。

反射的に振り返るも、そこには誰にもいない。

呆然とした一瞬の間を縫うように、片耳に生暖かい風が入り込んで来た。

 

「んひゃあっ!?」

 

全身に走る悪寒にもがきつつも、風の発生源である背後を睨み付ける。

そこには、今度こそ人が居た。

 

「クスクス……可愛い反応ね」

 

最初に目を惹いたのは、黒という色そのものだった。

お姫様が来ていても不思議ではないレベルの上質なブラックゴシックドレスに、太陽も落ちてきているにも関わらず差している黒い薔薇を連想させるゴシックパラソルが、存在の大半を占めている。

そこから覗かせる、腰まで伸びた綺羅びやかな金髪と、透き通るような白い肌が対となり、コントラストとなっている。

同じ女が見ても、見惚れてしまう美しさがそこにあった。

 

――でも、何故だろうか。その美しさを、素直に称賛出来ないのは。

何故だろう。目の前の相手に嫌悪しか抱けないのは。

 

「貴方、誰よ」

 

「私?私は――そうね、ルイ・サイファーとでも呼んで頂戴」

 

笑顔でおどけてみせる、ルイ・サイファーを名乗る女性。

巫山戯ているのだろうか。その言い回しでは、その名が偽名であると宣言しているも同然だ。

 

ただ巫山戯ているだけの道化なら、そこまで気に留めることはなかっただろう。

だが――分かる。分かって、しまう。

目の前の存在は、格が違う。存在そのものの格が、あまりにも。

認識した瞬間、汗が止まらなくなる。

優雅に佇むその様からは想像の出来ないプレッシャーが、無意識に肉体を強張らせる。

今ならディオドラと一人で戦えと言われたとしても、鼻で笑えてしまうに違い無い。それ程の差。

 

「ん~……やっぱり、まだまだね。でも骨子はしっかりしてるし、ひとまずは合格かしら」

 

勝手に一人で納得した様子で頷いた後、プレッシャーは一瞬で消え去った。

しかし、緊張は尾を引いたまま、決して警戒を解かない。

下手をすれば現陣営のトップに勝るとも劣らない格を見せつけられて、比べれば小物同然のミッテルトがそうしない道理はない。

だが、その逆で思考は冴え渡っており、この状況を生み出したのがルイ・サイファーならば、此方を害するようなことは今すぐには無いと判断していた。

何せ、こんな大規模な人払いの結界を展開して、自分ひとりだけをターゲットにしたのであれば、何かしらの理由があって然るべき。

そう判断したからこそ、この絶望的な状況でも彼女の心は折れていない。

 

ミッテルトの精神性は、いわば刀に通ずるものがある。

鋭さはあれど、脆い。刀身の横を狙われてしまえば、容易く砕け散る程度の強度しかない。

そして同時に、刀である彼女は使われる立場であり、決して担い手足り得ない。

有斗零という精神の支柱が失われた今の彼女は、鞘から僅かに刀身を覗かせるだけで、少し扱いを心掛ければ容易く制圧出来る。

それを自身でも理解しているからこそ、彼女は決して無茶はしない。

常に思考を巡らせ、最善を探す。それが、自分にできる最良の選択だと信じて疑わない。

 

「真面目な顔してる所アレだけど、別に取って食うなんてしないわよ?」

 

「生憎、臆病者なもので」

 

「貴方の場合、臆病者と言うよりも窮鼠って言った方がいいんじゃない?勝てる筈無いって分かってるくせに、たった一太刀でも報いようと必死に策を練っているんだもの。傍から見れば滑稽よね」

 

「――――!!」

 

完全に思考を見透かされた事実に、強く目を見開く。

当てずっぽうではない。確信めいた声色が、それを証明していた。

 

「あら、怖い顔。そんな顔してたら、百年の恋にも逃げられちゃうわよ?ほら、笑顔笑顔」

 

そうやって、ルイ・サイファーは自らの口元を指で釣り上げ、笑顔を作る。

子供扱いも甚だしい。はっきり言って気に食わない。

内心憤りを覚えるも、決して表情には出さない。

彼我の戦力差は歴然。なればこそ、一分の弱みも握られたくない。

これはただの意地でしかない。

でも、その意地を生み出す根底にあるものは、プライドなどではない。

姿は見えど、その背中には未だ届くことのない男の隣に立ちたい。そんな、乙女の願望でしかない。

 

「……それで、鼠の私に虎の貴方が何か用でしょうか?」

 

「用、ね。ぶっちゃけると、お話がしたかったってだけよ?」

 

「はぁ?」

 

訳のわからない発言に、思わず生返事を返す。

そんな態度を尻目に、ルイ・サイファーは勝手に語り始める。

 

「……ねぇ、貴方は今の世の中をどう思う?」

 

「抽象的過ぎる質問には、返答しかねます」

 

「じゃあ、ハッキリ言うわね。――貴方は、悪魔・天使・堕天使の現状をどう思ってる?」

 

戯けていた態度とは一転、静かな嵐のような空気がルイ・サイファーから発せられる。

 

「……まぁ、以前よりは良くなったんじゃないかしら。好転するかは分からないけど、最悪になることは恐らくない筈――」

 

「ならないわ」

 

「――え?」

 

「好転なんてしないわ」

 

ミッテルトの解を、ルイ・サイファーは容易く切って捨てた。

 

「彼らがやっていることは、所詮は均衡を保とうとするだけの時間稼ぎよ。理想はあれど明確な展望は無く、それ故に起こった事態にしか対処出来ない。組織としての機能は杜撰も良い所で、現に悪魔陣営に関しては、はぐれ悪魔となった存在を被害が出る前に対処出来ていない。天界陣営は、システムが機能せず天使の数が減っている事を理由に、数を増やそうとするあまりアーシア・アルジェントのような信心深い存在を排斥しているのを見ている限り、その対応がお粗末なのは見れば分かる通り。堕天使だって、下っ端の行動ひとつ把握出来なかった結果、悪戯に悪魔陣営との軋轢を生んだ事は貴方にとっても記憶に新しいわよね?何せ、当事者の一人ですもの」

 

「それ、は」

 

「彼らのやっていることは、総じて自己利益のみを考えた傲慢そのものよ。どの陣営にも共通して言えることは、誰も彼も人間のことなんて考えちゃいないってことよ。死に際に甘言を囁いて悪魔となるか、信託と嘯いて天使となるか、その果てに堕天するか。どちらに転んでも、犠牲になっているのは人間或いは人間であったモノ。人間の住まう世界の筈なのに、今や彼らは我が物顔でその土地を支配している。全ては、人間という餌を喰らう為だけに。違うかしら」

 

どこまでも残酷で、どこまでも濁りのない真実が溢れる。

第三者として感情論を挟まずに告げられた言葉を前に、ミッテルトは言葉を失う。

 

「ち、が――」

 

「だから――人間の有斗零は死んだ。都合の良い駒として、最後まで利用されて」

 

必死に絞り出した反抗も、たったひとつの名前を出されたことで、一瞬で塗り潰された。

彼の名を聞いた瞬間、脳裏に彼との思い出がフラッシュバックする。

楽しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと、喜んだこと――その全てが彼女にとっては宝物で。

その宝物が壊れた理由が、自分達人ならざる者達のせいだと告げられたことで、彼女の心に再び罅が入った。

 

「あ、あ、あ」

 

膝から崩れ落ち、地面を前に腕を立てながら涙を流す。

そんなミッテルトを見下ろしながら、ルイ・サイファーはゆっくりと彼女へと近付き、耳元で囁く。

 

「許せないんじゃない?貴方の大切を奪った何もかもが」

 

「奪われた悲しみを、絶望を、贖わせてやりたいと思わない?」

 

「復讐するのよ。彼を否定した世界に、貴方の愛を成就させなかった理不尽に」

 

脳髄を溶かすような言葉が、まるで複数の波のように何度も重なり合って繰り返される。

脳を犯されているような快楽が、ミッテルトを襲う。

何度も、何度も何度も何度も何度も。

何百、何千とアプローチを変えて、ミッテルトを堕さんと繰り返す。

現実の時間にして、凡そ一分。

しかし、ミッテルトにとっては無限に相当する時間の中、快楽に浸らせ続けた。

 

「だから――言いなさい。復讐を誓うと」

 

そうして、トドメの一言と言わんばかりに、究極の慈愛を込めて背中を押す言葉を囁いた。

 

「ア、アァアアアアアアアア――――!!」

 

咆哮が響き、何かの砕ける音がした。

 

「…………」

 

その中心には、ルイ・サイファーの頬を殴りつけるミッテルトの姿があった。

呆気にとられた表情は一瞬。ルイ・サイファーはミッテルトの胸元で魔力の波動を放ち、近くの自動車ごと壁に叩き付けた。

 

「ガッ――!!」

 

「それが、貴方の答えってことでいいのかしら」

 

100メートルは飛ばされたであろう距離を一瞬で詰め、叩き付けられたままのミッテルトの胸ぐらを掴む。

ミッテルトの答えが不快だと言わんばかりに不穏な魔力を漂わせ始める。

この至近距離ぜ全力の魔力を開放されようものならば、文字通り消し飛ばされてしまうだろう。そんな確信めいた予感が虚ろな思考の中でも感じ取れた。

 

「そう……よ」

 

だが、それでも。

命の危機に瀕してなお、彼女は曲がらない。

魂を蝕まんとする狂気に苛まれてなお、瞳の奥は色褪せない。

 

「なら、貴方の価値もこれまでね」

 

ミッテルトの喉元に、紅の槍が突き付けられる。

戯れなど欠片もない。対応を誤れば、躊躇いなくそれを突き刺すことだろう。

 

「……勝手にすれば」

 

それでも、命乞いはしない。答えを変える気もない。

諦めた訳ではない。ただ、譲れないものがあるだけで。

 

「その意地は、貴方の命に賭ける価値のあるものなの?」

 

「……そんなの、知らない」

 

この選択が、正しいかどうかなんて分からない。

そもそも、満身創痍のこの状況。果たして思考がまともに機能しているかさえ怪しいこの状況。

 

「だったら――」

 

「だって、」

 

だからこそ――ミッテルトの本質が浮き彫りになる。

 

「そんなことしたら、零が悲しむから」

 

「――――ッ」

 

きっと、それだけ。

きっと、それだけのことだけど。

彼女にとっては、命よりも大切な答えなのだろう。

 

「彼が大切にしてきた人達の中に、貴方の言う復讐の対象がいると言うのなら。私は、誰にも復讐しないし、するつもりはない」

 

「主体性が無いと嘲るというのなら、勝手にすればいい。もし本当に零がこの世に居ないというのなら、私は彼が護りたかったものを護る為にこの生命を費やしましょう。それが、彼のために出来る最上の弔いだと信じているから」

 

「だから――まだ、死ねないのよ!!」

 

瞬間、ミッテルトの背後からパンドラが現出し、ルイ・サイファーを殴りつけた。

先程とは真逆で、今度はルイ・サイファーが同じように吹き飛ばされる。

しかし、彼女は空中で身を翻し体勢を整えると、油断なく前を見据えた。

 

「――その、姿は」

 

初めて、ルイ・サイファーの表情が驚愕の色に染まった。

視線の先にあるのは、ミッテルト。そしてその衣装に答えはあった。

 

その姿は、例えるならば戦場帰りの花嫁。

オフショルダーのウェディングドレスは鮮血に染まり、本来は引き摺る程長い裾は、膝の当たりまで素手で引き千切ったかのように短くなっている。

彼女の右手に握られているのは、杖ではなく漆黒の装飾銃。

女性が扱うには些か無骨なそれをミッテルトは右腕だけで構え、左腕には得意の魔力で編んだ紅槍を握っている。

 

「私にも分からないけど――なんだか、すごく力がみなぎるのよね。パンドラを初めて扱えるようになった時よりも、ずっと」

 

そう不敵に笑い、同時に拳銃から魔力の弾丸が撃ち出された。

文字通り爆発するように放たれたそれは、ルイ・サイファーの眉間目掛けて一直線に向かう。

 

「クッ――」

 

慌てて回避を試みるも、直ぐ様不可能と判断し、手に持つ紅槍で叩き落とす。

しかし、それはミッテルトにとって予想通りの流れ。

止めた足を必死に縫い付けるべく、相手の一挙動その全てに全神経を集中させ、動く箇所すべてに弾丸を打ち込んでいく。

彼女自身、最早未来予知に等しいレベルでルイ・サイファーの動きが理解出来ていることに驚きを隠せずにいるが、今はその理由を考えている余裕はない。

余分な思考はカット。余剰した分をパンドラの操作に回す。

ルイ・サイファーの背後にパンドラを回し、挟み撃ちの要領でひたすらに攻撃を続ける。

 

「なんで、こんなに――」

 

ルイ・サイファーは不愉快だと言わんばかりに顔を歪める。

防御手段は次第に結界へと変わる。それはミッテルトの攻撃の苛烈さを示していた。

 

「エイガオン!!」

 

ミッテルトの咆哮と共に、背後から呪詛の塊が結界を貫かんと殺到する。

更に、ミッテルトは何十本という紅槍をルイ・サイファーの頭上目掛けて生み出し、腕を振り下ろす動作と共にその切っ先も降り注いだ。

呪詛も、銃弾も、紅槍も、幾度と撃ち出されてなお止まる気配はない。

前後からの一斉掃射に、空からの精密爆撃。

個の思考をトレースすることによる十字砲火は、一切の離脱の猶予をも許さない。

 

突如として爆発的にまで上昇した力。その余す所なく全力で注ぎ込む。

しかし、その理解の及ばない急激な力の上昇は、決してミッテルトにとってすべてがプラスに働いた訳ではなかった。

 

「ぐ、ぅ……!!」

 

口内にまで込み上がる鉄の味。その一滴も滴らせまいと、歯が砕けんばかりの力で閉じ込める。

ルイ・サイファーによる一撃に端を発した、内側からの暴力的なまでの力の奔流は、ミッテルトの肉体にダメージを与えていく。

四肢に亀裂が入り、元々血染めだったウェディングドレスが更に紅く染まっていく。

遂には鼻血、果ては眼球の奥からも血が溢れてくる。

しかし、そんなことは気にも留めない。

集中を切らせば、その先にあるのは破滅であると本能で理解しているが故に。

抗うならば、文字通り命を賭けなくてはならない。全身全霊を賭して尚、届くかも分からないのだから、それ以外に割く余裕なんて無い。

 

手に握っていた紅の槍を背後に一本突き刺し、それに背中を預ける。

最早、立つことさえまともに出来ない状態にまで消耗している。

その証拠に、背もたれにしつつも、その姿勢は次第に直立から長座へと形を変えつつある。

肉体も精神も平等に摩耗し、今のミッテルトは一種のルーチンをこなすだけの機械と成り果てている。

攻撃も散発的になり、余波で生まれた土埃も次第に薄まっていく。

 

最初に紅槍の雨が晴れ、その次にペルソナが消えた。

最後に残ったのは、完全に長座の姿勢となったミッテルトの見るも耐えない無残な姿だった。

耐え兼ねた口内の血液は、吐瀉物が如くドレスと地面を汚しており、顔色は白を通り越して青み掛かっている。

彼女の人差し指は、魔力はとうに尽きているにも関わらず無意識にトリガーを引き続ける。

虚しく響き渡る撃鉄の空撃ち音。銃口は明後日の方向を向いているにも関わらず、壊れた機械の如く無意味に引き金を引き続ける。

腕は最早自力で水平を保つことすら叶わず、地面に撓垂れ掛かっている。

その姿は、遠巻きに見れば背徳を感じる美しさを滲み出していた。

 

土埃が完全に晴れるのと、撃鉄の空撃ち音が収まるのはほぼ同時だった。

ルイ・サイファーは、無傷だった。

しかし、その表情は苦虫を噛み潰したかの如く歪んでいる。

対して、死に体となったミッテルトの表情は、どこまでも穏やかだった。

 

「……これが、覚悟の違いだって言うの?」

 

硝子の割れるような音と共に、ルイ・サイファーを囲んでいた結界が砕け散った。

確かに全力ではなかった。魔力を防御にフルで回せば、魔王クラス相手であろうとも傷をつけることは困難な結界を展開することは出来る。

例え加減をしていたとしても、現時点のミッテルトでは、逆立ちしても傷一つつけることが出来ない。その筈だった。

 

だが――ミッテルトはルイ・サイファーの想像の上を行った。

本来ならば有り得ない未来を、ミッテルトは掴み取ったのだ。

それが、不確定要素によって得られた奇跡であろうとも。

それだけで、ルイ・サイファーにとって今回の会合は、試合に勝って勝負に負けたと呼ぶに相応しい結末となった。

 

「ああ――もう、忌々しい」

 

そう毒突くルイ・サイファーの表情は、少しだけ穏やかさを内包している。

ほんの僅かであろうとも、確かにミッテルトはルイ・サイファーに触れることができたのだ。

そうでなくては、光さえ届かなくなった彼女の心の闇に逆に呑み込まれてしまうから。

 

「でも、覚悟だけじゃこの先にある地獄に呑み込まれるだけ」

 

ミッテルトの傍まで近寄り、手をかざす。

細々とした声で何か呟いたかと思うと、瞬時にミッテルトの傷が癒えていく。

呼吸も穏やかなものに戻り、服装の状態を除けば出会う前と同じ状態――否、それ以上にまで快復していた。

 

「貴方が考えているほどこの世界は優しくなんてない」

 

「これからも何度も絶望することでしょう」

 

「でも――もしかしたら、貴方なら」

 

そこまで言いかけて、止める。

余分な感傷を振り払い、ミッテルトの胸元に手をかざすと、光が吸収されていく。

 

「……なら、貴方は変わること無く《支える者》で在り続けなさい。万が一にも《裁く者》になったその時は――今度こそ、全力で殺してあげるから」

 

この宣言を最後に、彼女達の世界は砕け散り、溢れる光に二人は呑み込まれた。

光に呑み込まれる刹那、ルイ・サイファーの眼の奥底からは、確かに光が顔を覗かせていた。




ここから徐々に原作乖離していきます。
原作との整合性考えてるから遅くなるんだよ!!(にわか特有の半端な知識)

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