右手の三本指だけが世界最強で、『剣士』なのに刃物を握れない呪いをかけられた俺が、変態少女達と大陸の『覇王』を目指すだけの伝記   作:おま風

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12 そして、序章へ

 冒険者ギルドに関する主要施設は、大陸北部に集中している。

 理由は至ってシンプルだ。

 

 大型のモンスターが少なく、気候も比較的安定している大陸南部から中部までの地域は、都市化が進んでおり、各国の騎士団がその警備にあたる。

 対して、北部は厳しい自然環境により、未開拓の地が多く存在し、貴重な天然資源や未知の生物などの宝庫となっている訳なのだが・・・・

 

 複数体の『魔王』の称号を持つ者と、配下の強力なモンスターが闊歩しており、探索は困難を極めた。

 中、上流階級で構成された騎士団を派遣し、無下にその命を散らすなんてことは言語道断だ。そこで、抜擢されたのが、幾らでも変えのきく無法者共、つまりは『冒険者』である。

 

 彼らの生活拠点とすべく、都心から離れた国境付近に冒険者向けの施設が発展していったのだ。

 

 オズワードヴァンネス王国内の北部国境付近に位置するハンバルト領。俺達がいる『駆け出し冒険者の街アンサルヘイブン』も、その恩恵を受ける街の一つであった。

 

 

――――――――

 

~アンサルヘイブン中央監獄~

 

「俺達が殺されるって、それは、本当なのか? って、そろそろ離れろ!」

 

 薄闇が支配する金属の箱。

 俺は、片足に絡みついた素っ裸のエトナを蹴り飛ばした。そして、床に脱ぎ捨てられた衣服を拾い上げると、彼女に放り投げる。

 

「うぅ、お嬢様、乱暴ですね。もう少し優しくしてください」

 

 エトナは、それをキャッチして、渋々といった様子で袖に腕を通し始めた。

 

「で、どうなんだ?」

 

 とりあえずエトナのことは放っておいて、ラビに尋ねる。

 

「たぶん、間違いないと思うっす。ここに入れられる前に、兵士の方たちが話しているのを盗み聞きしたので・・・・」

 

「そんな事言っていたか?」

 

「姉御たちには聞こえてないと思いますよ。兎人族の耳は特別なんす。よく言うでしょ? 『兎人族に隠し事をしたければ、絶対に口に出さないことだ』って」

 

「いや、聞いたことないが・・・・」

 

「あれ? そうっすか? おかしいなぁ。まぁ、ラビの家系は特に優れた聴力を持っているので、信頼して欲しいっす。なんせ、実の兄はその能力を買われて、かの有名なっ、おっと失敬、これは言ったらいけないやつでした。危ない危ない」

 

「なんだよ。気になるな」

 

「あはは。忘れてください。それより、兵士の話が気になるでしょ?」

 

 俺から視線を外して、斜め上方向を見る。口ぶりからして身内のことではあるようだが、あまり詮索されたくないらしい。この状況下で、無理に聞き出す内容でもないだろうと考えたため、追及はしなかった。

 

「・・・・あぁ、そうだな。今は、そっちの方が重要か。それで、どんな話だったんだ?」

 

 ラビは、安堵の表情を浮かべると、視線を俺に戻した。そして、口を開く。

 

「そうっすねぇ。簡潔に言うと、『ラビたちを殺す』、というよりも『勇者』に『魔王』を討伐させることが目的みたいっす」

 

「・・・・なるほど。『英雄』の誕生か」

 

「そうっす。『勇者』の称号を持つ者が、『魔王』の称号を持つ者を討伐すれば、『勇者』は『英雄』にランクアップするっす。称号によるステータス補正も絶大らしいですよ」

 

「俺たちはその為の生贄っていうことだな」

 

「ここハンバルト領は、大陸でも有名な冒険者の街を抱えているにも関わらず、未だに『英雄』を排出したことがないっすからね。自身の名誉と、領土の繁栄のために、どうにか『英雄』を保有しようと領主も躍起になっているんでしょう」

 

「何か、物騒な話だな。そうまでして、富と名声が欲しいかね」

 

 『勇者』は、各領主が任命し、『勇気の刻印』を授けることで誕生する。

 いわば、領主は『勇者』にとって最大のスポンサーなのである。当然、自身が推薦した者が名をあげれば、その甘い蜜を吸うことができる訳だ。しかし、同時期に任命可能な『勇者』の数は一人だけという縛りが存在する。

 

 二人目以降の任命は、当該者が『英雄』にランクアップするか、死亡するか等して、その席を空ける必要があるのだ。当然、統治者としては前者の方が良いに決まっている。

 

 『勇者』を任命して『英雄』にランクアップさせる、二人目の『勇者』を任命してそいつも『英雄』にランクアップさせる、そして三人目、四人目、五人目・・・・

 その内に『英雄』の上位互換である『大英雄』が誕生すれば、その領地の明るい未来は約束される。

 

 そういった政治的な背景も考慮すると、ラビの述べた内容に疑いの余地はなかった。

 

「この世界で、富と名声に敵うものなんてありませんからね」

 

「まぁ、間違いないな・・・・」

 

 俺は、思い当たる節が多すぎて、腕を組んだまま俯いた。

 

「となると、俺達を殺す大役を務めるのは、エイベルということだな・・・・」

 

「そうっすね」

 

 去り際に頭を下げた、誠実そうな青年の顔が頭に浮かぶ。

 自らの出世の糧とすべく、無抵抗な俺たちの首を落とす。果たして彼に、そんなことができるのだろうか? 

 彼が胸に抱く正義も、やはり権力の前ではその機能を果たさないのだろうか?

 

 色々と、考えを巡らせる。

 

 ――――が、

 

「脱獄が、妥当か・・・・」

 

 最終的に、そこに落ち着いた。そして、顔をあげる。

 

 直後、ラビの耳がぴくりと痙攣するのが見えた。ふいっと、彼女が鉄格子の向こう側、通路の奥に顔を向ける。

 

「どうした?」

 

「あわわわわ」

 

 たちどころに、その表情が青くなった。すると、

 

「さすがですね。ドロシーに気配消しの魔法をかけてもらっていたのですが、貴方の耳には通用しませんでしたか」

 

「なっ! エイベル!!」

 

 つい先刻聞いたばかりの男の声。

 俺はさっと身構えた。エトナも、途中だった着衣行動を急いで完了させると、庇うように俺の斜め前方に立った。

 

「何しに来た? それに、他の二人はどうした?」

 

 眉を寄せて、白金装備に身を包んだエイベルを睨みつける。その腰には、俺が折ったものとは異なる剣が提げられていた。両脇に、二人の連れの姿は見えない。

 

 朝を待たずして、俺達を殺しに来たのか、それとも・・・・

 

「メアリーとドロシーには監獄内の監視魔法の妨害と、兵士への睡眠魔法の行使を依頼しているので、別行動です」

 

「何だと?」

 

「さぁ、急いで脱獄しましょう」

 

 そしてエイベルは、懐からじゃらじゃらと音を立てて鍵の束を取り出し、にこりと微笑んだ。

 

 




やっとで、序章まで追いつきました。
エイベル男前過ぎや。

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