右手の三本指だけが世界最強で、『剣士』なのに刃物を握れない呪いをかけられた俺が、変態少女達と大陸の『覇王』を目指すだけの伝記   作:おま風

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15 遠い遠い、遥かに遠い『現在』への旅路

「おーい。起きろ小僧」

 

 ごんっ

 

 トンカチで後頭部を強打されたような衝撃により、俺は覚醒した。と、同時にふぅーっと顔面に吹きかけられる毒ガスの煙。

 

「ごほっごほっ何しやがる! くそばばぁ!」

 

 俺は、すぐさま飛び起きて、こちらを見下ろす長身の老婆を睨みつけた。

 

「やっとで起きたかい。随分とお寝坊さんだね」

 

「ってあれ? 何で、マーゴットがここに? 俺は、確か・・・・」

 

 そこで俺は、辺りを見渡した。

 

「よーく見ておくんだ。これが、一つの結末だよ」

 

「う、そだろ?」

 

 俺は唖然とした。そこには、何も無かったのだ。

 

 果てしなく続く地面。所々に転がる瓦礫の屑が、申し訳程度に、そこで確かな文明が存在していたことを物語っていた。

 

「ここは、俺の知らない土地だよな?」

 

「馬鹿かい。ここは、あんたの良く知る土地だよ」

 

「そんな、あり得ないだろ・・・・」

 

「これでも、手加減しているのだろうさ。奴が本気を出せば、被害はこの何十倍にも及ぶだろうからね。はぁ。予定していたよりも遥かに早く気付かれちまった。本当は、あんたがもっと立派になってから、邂逅するはずだったのに・・・・」

 

「人間にできる芸当じゃあない・・・・街を丸ごと吹き飛ばしちまうなんて・・・・」

 

 そう、ここはまごうことなく、アンサルヘイブンがあった場所だった。あの堅牢な監獄も、冒険者ギルドも、外壁も月亭も武具屋も、何もかもが跡形もなく消滅していたのだ。

 

「現実を見るんだよ。これは、たった一人の人間が放った、たった一つの魔法による惨状だ」

 

 あり得ない。『覇王』は、いとも容易く、こんなことができてしまうというのか? 恐れ多くも俺は、そんな化物に喧嘩を売ったというのか?

 

 全身に悪寒が走り抜けた。

 

 と、あることが頭に引っ掛かった。

 

「なぁ、エトナは? ラビは? メアリーは? ドロシーは? 他の皆はどうなったんだ!!」

 

「・・・・死んだよ」

 

「は?」

 

「奴の魔法は、効果範囲内に生きる全ての生物を蒸発させたのさ」

 

「・・・・はは。なら、蘇らせてやらねぇとな」

 

「はぁ、蘇生薬も無いのにかい?」

 

「くっ、でも、マーゴット! お前ならっ」

 

「・・・・残念だけど、あたしは死者に干渉する権限を持っていないんだよ」

 

「じゃあ、何で俺だけ生きてるんだよ!?」

 

「あんたは、別に蘇ったわけじゃあないよ。『第七界魔王』の称号は、体力を大幅に上昇させる。奴の魔法を食らってもぎりぎり生きていただけのことさ。と言っても、あたしが駆けつけた頃には見るも無残な状態だったけどね。死んでなければ、体の時間を弄り回して、元気な状態に戻すことができる・・・・でも、死んだ人間は別だよ。現世の時間から切り離された魂に、あたしは干渉できないのさ」

 

「そ、んな・・・・」

 

 がくっと膝を折る。拳を強く握った。心が腐敗していくような感覚。

 

 また、これだ。また、絶望だ。俺は、絶望してばかりだ。

 

「俺の、せいだ・・・・」

 

 大切な仲間は、もう二度と帰ってこない。奴らの笑顔を見ることはもう決してできない。触れることも、声を聞くことも、一緒に冒険をすることも、もう二度と叶わないのだ。

 

「あぁ、そうだね」

 

「全部、俺のせいだ・・・・」

 

 俺を信用し、協力してくれたエイベルたちとも、まだありがとうと伝えられていないギルドの荒くれ共とも、もう二度と酒を交わすことができない。

 

 俺が、脱獄なんてしたせいで。俺が、『魔王』なんかになってしまったせいで。俺と、出会ってしまったせいで。

 

「全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部・・・・」

 

 俺が死ねばよかったのだ! 俺だけが、俺だけが死ねば、彼らは皆今も笑っていられたのだろう。

 

「全部、俺のせいだ!!」

 

 がつんっと、地面を叩きつける。何度も、何度も、何度も、手の皮が破れ、骨が砕け、拳が形を失ってもなお。何回も、何十回も、何百回も。

 

 どれだけ力を込めても、腕が上がらなくなるその時まで。

 

 ぼたぼたと零れ落ちる大粒の涙が、地面を濡らした。

 

「全部、俺の、せいだ・・・・」

 

 ぐちゃぐちゃにひしゃげた右手を胸に当てて、うずくまる。もう、何をする気力も湧いてこなかった。

 

 このままここで、息を引き取るまでじっとしていよう。

 

――――きっと、それが、一番楽だ。

 

「あぁ。全部、あんたのせいだ。あんたの弱さと、あたしたち管理者の愚かでくそったれな幻想のせいだ」

 

「・・・・」

 

「だから、あんたに託したんだ。勝手すぎるのは百も承知さ。でも、もうこれしか方法がないんだよ」

 

「・・・・」

 

「ふぅ、煙の数ももう残り少ないねぇ。ここまで大規模な『奇跡』を起こせるのは、これが最後になるだろうよ・・・・」

 

「・・・・」

 

「ったく、いつまでめそめそしているんだい。女々しい小僧だね。さっさと顔を上げな。あんたの仲間と再会した時に、そんな腑抜けた顔してたら、みっともないだろう?」

 

「・・・・え?」

 

 再開? 仲間と?

 

 消えかかっていた心の灯がゆらりと揺れた。ゆっくりと、視線を上昇させる。

 

 マーゴットが口の端を吊り上げていた。

 

「良いかい小僧。強くなるんだ。シグルスよりも、あたしよりも、他の何者よりも・・・・その為の布石は打ってある。『覇王』になる為の布石をね。後は、あんた次第だよ」

 

 そう言って、ぷっと口から葉巻を吐き出した。回転しながら弧を描き、地面をめがけて落下していく。

 

「マーゴット! 待ってくれ! 俺にそんな事、できっ」

 

「できるかできないかは関係ないよ。できなかったら、世界が滅ぶ。それだけさ」

 

 マーゴットが、俺の言葉を途中で遮る。葉巻は、地面に触れるか触れないかという位置で静止していた。

 

「あんたは、これから『現在』に仮止めされる。その状態で『未来』を生きるんだ。その先で、あんたは幾つかの過ちを犯すだろう。それが、いつどの状況でのものになるのかは、あたしでさえ見当がつかない・・・・残されたあたしの力でその過ちを正すチャンスを与えてやろう。ただし、各機会についてチャンスは一回だけだ。既にあんたが犯した過ちが一つ・・・・覚えておくことだよ。いずれ、精算の刻が訪れる」

 

「意味が分からねぇよ!」

 

「今は、それで良いさ」

 

「情報が少なすぎる! マーゴット! お前は、俺に一体何をさせたいんだ?」

 

「言っただろう? あんたは『覇王』になるんだ。そして、シグルスを殺して、あたしたちも・・・・そうだねぇ。まずは、強力な武器が必要だね。と言っても、すでにむこうさんはあんたのことを見つけているみたいだけど。急いで探しな! その剣の名は、『シロツメクサ』。幸福と約束と、そして復讐の魔剣だよ」

 

 その瞬間、空中で静止していた葉巻が地面に落下した。ばちっと火花が散る。

 

「また、遠い遠い『現在』で会おうかね。頼んだよ。シャーロット・レッドメイン」

 




マーゴットの描くシナリオとは、一体、どんなものなのでしょうか・・・・
そして、シグルスの目的とは?

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