右手の三本指だけが世界最強で、『剣士』なのに刃物を握れない呪いをかけられた俺が、変態少女達と大陸の『覇王』を目指すだけの伝記   作:おま風

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第一章
01 自称女神との再会


「なぜ、そこまでして冒険者になりたいのだ? お前には、王宮事務官として都で勤めることのできる貴重な権利があるというのに・・・・」

 

 代々王家に仕える由緒正しき大貴族、レッドメイン家の当主である父に問われた言葉であった。

 

 確かあの時は、「お父様。わたくしは世界をこの目で見たいのです! 人を知り、文化を知り、弱きを知り、貧しきを知り、そして、正しきことを成し遂げたいと、そう切望しているのです!」などと、中々に立派な言葉を並べ立てて、渋る父を必死に説得したのだが、実際のところは違った。

 

 

『もう仕事に縛られる生活は御免だ! せっかく異世界に転生したのだから、冒険者となって気の置けない仲間たちと、自由に楽しく暮らすんだ!』

 

 

 レッドメイン家の九女『シャーロット・レッドメイン』として産まれ、上に八人もの兄姉がいるため、跡取り問題とも無縁で、何不自由なく裕福な生活を送っていた俺が、こんな『大それた思い』を抱くようになったのは、十六歳の誕生日に起きたある出来事がきっかけであった。

 

――――――――――――

~牢獄に収監される約二年前。シャーロット十六歳の誕生日の夜~

 

 黄金色のシャンデリアから煌々と降り注ぐ光が、我が家のダイニングを照らしていた。純白のテーブルクロス上に並び立つ銀食器たちも華やかに輝いている。まるで、豪華絢爛を絵に描いたような装いであった。

 

 その日は、年に一度の祝事のため、巨大な長方形のテーブルを囲んで、日頃は多忙を極める家族が久方ぶりに一堂に会していた。

 

「はい。シャーロットお嬢様。本日の主役分でございますよ」と、九女専属メイド『エトナ・オズボーン』が、レッドメイン邸の形を模した特注のケーキを俺の席に運んできた。屋根の上に配置された板チョコレートには、『お誕生日おめでとう』という文字が施されていた。

 

 皆がその作品の出来栄えに称賛の声をあげる。

 

「素敵! 食べるのがもったいないわね」と、向かい側に座る三女が手を合わせる。

 

 直ぐにそれぞれの席へ、俺のより一回り小さな甘味が各自の専属メイドから運ばれてくると、いよいよ雰囲気が弾んだ。

 

「ありがとう、エトナ。とても美味しそうね」

 

 当時のエトナには、現在のような『異常性』はさして見受けられなかった。年齢も近く、幼いころから姉妹のように接してきたので、気づかなかっただけなのかもしれないが・・・・

 まぁ、今になって思い返すと、時折お気に入りの下着が紛失していたのは彼女の仕業であったに違いない。周囲の目もあったため、表立って劣情を解放していなかったのだろう。

 

「どういたしまして」

 

 互いに笑顔を交わし、早速フォークを手に取った。父が王都でも有名な一流シェフに依頼して、調理させた至極のデザートを前に、ごくりと唾液を飲み込む。

 

 ちょうどその瞬間だった。

 

「っ!?」

 

 突如として、激しい頭痛が襲い掛かり、視界が明暗した。頭が割れてしまいそうな痛みに嘔吐感も催し、全身からとめどなく汗が噴き出す。そのまま平衡感覚を失い、倒れ込むように机上へ突っ伏した。

 

――――と、同時に、脳内に流れ込んでくる『シャーロット』のものとは異なる記憶。

 

 独り身で孤独な生活を送り、某ゲーム会社にてキャラクターデザインの業務に忙殺され、ついには『過労死』してしまった悲しき男性の生涯。

 

 そう、俺だった。

 

 その瞬間、俺の自我は「わたくし」から「おれ」へと変化したのだ。

 

「え? わたくし? あれ? 違う? 俺? 何が、どうなって?」

 

 十六年もの歳月を『シャーロット・レッドメイン』として生きてきた。それ故に混乱していた。

 自分は誰なのか? どちらが本当の自分なのか? それとも、両方とも自分なのか?

 

 そんな疑問を吹き飛ばすように、更なる痛みが頬に走った。

 

バチィィン

 

 首が取れるのではないかと思うほどの衝撃に体が浮きあがり、「ぶえっ」と汚い声を発して、椅子ごと数メートル後方へと吹き飛ばされた。

 

「よお! 最高にハッピーかい? 小僧。いや、今はお嬢ちゃんかな?」

 

 何が起こったのか理解できず、とりあえず倒れたままの状態で声のした方へと顔を向ける。

 

 そこに居たのは、赤紫色のサングラスをかけて、口に極太の葉巻を咥えた白髪の老婆であった。細身だが、身長が二メートル近くあり、その威圧感は半端ではない。赤と黒を基調としたド派手なローブを纏い、じゃらじゃらと大量の装飾品を着飾っている。

 

 俺は、強烈な個性を放つこの人物を知っていた。口の隙間から絶え間なく白煙を生産するこの独特過ぎる老人を忘れるはずもない。

 いい歳こいて『女神』を自称する、世界の管理者が一人、『マーゴット・アシュベリー』。過労死した俺をこの世界に転生させた張本人であった。

 

「マーゴット? どうしてここに? というか、お姉さまたちが驚い、て? あれ?」

 

 そこで、ようやく自身の置かれている状況を把握した。

 周囲の『時間』が、停止していたのだ。おそらく、マーゴットの力によるものだろう。俺と彼女以外の全てがぴたりとその動きを止めていた。一緒に吹き飛んだはずの椅子も、いつの間にか元の位置に戻っていた。

 

「十六年ぶりだねぇ。思い出したかい? これが、一つ目の特典だよ」

 

「あぁ。そうだったな」

 

 殺人ビンタを食らったせいで、ひりひりと痛む頬をさすりながら体を起こした。

 

 十六年前の初めての邂逅時、彼女は、俺の事を『退職前の最後の来客』と呼び、現役引退記念として『三つの特典』を授けた。

 

 その内の一つがこれである。

 

『十六歳の誕生日に、前世の記憶が蘇る』というものだ。通常、記憶の引継ぎはご法度らしいのだが、特別サービスとのことだった。なぜ、十六歳の誕生日なのかは不明だ。

 残りの二つについては、転生前には教えてもらえなかった。

 

「せっかくだから、再会の喜びを分かち合いたいんだけどねぇ。残念ながら、あまり時間が無いんだよ。管理業務から手を引いた今、好き勝手この世界に干渉する権利がなくてね。手っ取り早く要件だけ伝えて、帰るとするよ」

 

 そう言って、ぷはぁと煙を吐き出す。そして、にやりと口の端を歪めると、俺に見せつけるように右手を自らの顔の前に掲げた。

 

「ほらよ」

 

 そこには、先程まであったはずのものがなくなっていた。

 

「お前! 指が・・・・」

 

「そうさ。これが、二つ目の特典だ。あたしの右手の親指、人差し指、中指の三本だけ、お前にやるよ。ちなみに、取り扱いは厳重注意だからね」

 

「なっ!?」

 

 咄嗟に、自分の右手に視線を落とす。が、特にしわしわになった様子はなかった。

 

「安心しな。見た目は変わらないよ。そんな可愛らしい容姿で、指だけクソババアなんて、みっともないだろ。なーはっはっは」

 

 高らかに笑い声をあげて、口から有毒ガスと一緒に葉巻をぷっと吐き出す。くるくると宙を舞う火の点いた葉の塊。

 この光景には見覚えがあった。あの時は、この塊が地面とぶつかるのを合図にして、転生が始まったのだ。

 

「名残惜しいが、お別れだ。最後の特典は、お前が冒険者になった時に分かるだろう。そうだな、お勧めの基本職は『剣士』だよ。忘れないことだね。それじゃあ、しばらくは最高にハッピーな人生を楽しむが良いさ。この特典を授けた本当の意味を知るその日まではね。死んだ目をした元『ニホンジン』の小僧よ。なっはっはー」

 

 ぼすんっと、葉巻が床に落ちる。火花が散り、黒いすすを超高級絨毯に擦り付けた。そして、ぶつんと俺の思考が一度途切れた。

 

 

――――気が付くと、お屋敷の形をしたケーキが目の前に置いてあった。右手にはフォーク。直ぐ隣にはエトナの気配がする。時が、頭痛に襲われる直前に戻っていた。

 

 俺は、一度だけゆっくり深呼吸をしてから、ばんっと机を叩いて勢いよく立ち上がった。

 

「お父様! お母さま! お兄様! お姉さま! わたくしは、『冒険者』になりたいのです!!」

 

 皆が呆気にとられたような表情でこちらを見上げる。握りしめた純銀製のフォークは、人差し指を起点に九十度に折れ曲がっていた。

 




次回、駆け出し冒険者の街へ!

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