右手の三本指だけが世界最強で、『剣士』なのに刃物を握れない呪いをかけられた俺が、変態少女達と大陸の『覇王』を目指すだけの伝記   作:おま風

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05 最後の特典

 冒険者になった時の為にこつこつと貯めていた俺の手持金で飲み会の費用を精算した後、ギルド向かいの武具屋にて、旅路用の装備品を物色していた。

 店内の品揃えは非常に豊富で、数百種類にも及ぶ職業に適した装備品が所狭しと陳列されている。革製品から金属製品、中には何の素材で作られているのか見当もつかないようなものまで・・・・

 ただ眺めているだけでも、わくわくして仕方がなかった。

 

「お前、そんな大金どこから持ってきたんだよ」

 

「うっひょお! 純正の金貨っすか! 初めて見たっす! 一枚鑑定させてください! 何でもしますから!」

 

「旅立ちの際に、お父様から頂いたものです。連絡をくれれば、追加で幾らでも送金してやると仰っておられました。美しき親子愛でございますね」

 

 入店してから十数分。

 ふと、この店ごと購入してもお釣りが出る程の金貨が詰まった巾着袋を取り出したエトナに皆の視線が集中した。

 

 これからは、自分たちの力だけで生き抜いていくのだ! 貴族らしい優雅な暮らしは放棄する! と、大口を叩いて自宅を出発し、自分用の財布を作り、必要最低限の資金のみを入れて、いざ浪漫の溢れる世界へと――――

 と、思っていたのだが、あの親ばかめ。あれだけ援助はいらないと口を酸っぱくして言いつけておいたというのに・・・・

 

 しかし、善意で頂いたものは無下にすることもないだろう。ありがとう。父上。正直、とても助かります。

 俺は、複雑な感情を抱きつつ、心の中で親愛なる父親に両手を合わせた。

 

 というか、さっきのお酒代もここから出せば良かったのでは? 格好つけて全額奢ってしまったせいで、財布の中身は、ほとんど残っていないのだが・・・・

 

「物騒だから、さっさと納めろ。盗まれたら大変だぞ」

 

「うふふ。お父様から頂いた大切な御気持ちです。誰にも盗らせませんし、仮に、別の者の手に渡ってしまったとしても、地獄の底まで追いかけてこの手で息の根を止めてみせますよ」

 

 手の甲を下唇に添えながら、上品に笑うエトナ。その姿を見て、ぶるっと凍えるような寒気がした。

 

「あの、ご所望ですので、一枚だけラビさんに差し上げてもよろしいでしょうか?」

 

「あ、あぁ、構わないが」

 

「ありがとうございます。はい、どうぞラビさん。一枚だけですが、鑑定用に使ってください」

 

「ど、どうもっす。あ、あの、これ受け取ったからって、ラビ、息の根止められたりしないっすよね?」

 

 ラビは、がくがくと震える両腕で、必死に受け皿を作る。探究心と恐怖心の狭間で葛藤しているようだ。

 

「そんなことしませんよ。安心してください・・・・お嬢様の命令があれば話は別ですけど」

 

 最後に早口でぼそりと呟く。それを聞いたラビは「ひぃっ」と、引きつった声を上げ、こちらを心配そうに見つめてきた。

 無性に加虐心をくすぐられたのだが、ぐっと抑え込む。

 

「そんな目で見るなよ。仲間を困らせるようなことは絶対にしないから、早くしまってくれ」

 

「姉御。この御恩、一生忘れないっす」

 

 眉毛を八の字に曲げて、そろそろと肩掛けのバッグに金貨を入れる少女。俺は、気を取り直して店内に並ぶ金属製品を漁った。

 入店時は確かに仏頂面であった禿げ気味の店主が、にこにことこちらの様子を伺っているのは、まぁ、そういうことだろう。

 

 つい数分前までは、手持ちの範囲内で購入できる格安の装備を揃えようと考えていたのだが、一転して、現在はなるべく高性能なものを集めようという気持ちになっていた。やはり、どこに行ってもお金というのは偉大である。

 

「ラビは、非戦闘員だから、なるべく動きやすい服装が良いよな?」

 

「はいっす!」

 

「エトナは、後衛職ではあるが、後々のことを考慮すると、ローブよりもアーマーの方が良いかな」

 

「うん? それはどういうことですか?」

 

「俺は、やっぱりフルプレートアーマーに、ロングソード。これ一択だよなぁ・・・・」

 

「あの、お嬢様? なぜ、魔法使いの私が、アーマーを?」

 

「ラビ。この際だから、自分の気に入ったものを選ぶといいぞ」

 

「わーいっす! さっすが姉御! 最高のリーダーっす!」

 

 先刻の怯えた姿はどこへ消えてしまったのか、満面の笑顔を咲かせてぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 

「では、私はこの綺麗な宝石がはめ込まれた両手杖を・・・・」

 

「お前は、こっちの手甲と籠手だ。後、木製の両手杖は接近戦で使いづらいから、殴打しても壊れないように鋼鉄製の片手杖にしとけ」

 

「えー。どうしてですか? 私は白魔導士なのに」

 

「あのなぁ。戦闘中、ろくな魔法も覚えていないやつに後ろをうろちょろされる俺の身にもなってくれよ。街の外に出たら、しばらくは前衛で戦ってもらうからな」

 

「そんなぁ。お嬢様の雄姿をじっくりと拝もうかと思って、この職を選択したのですが」

 

「その前に、袋叩きにされて死んでしまうわ。俺は、お前みたいに頑丈じゃあないんだよ」

 

 その後も、ぶーぶーと不満をこぼし続けるエトナを無理矢理言いくるめながら、近接戦闘向けの装備を見繕っていく。

 黒龍の上燐と大陸で一番硬いとされるヴィルライト鉱石から作られた籠手及び脛あて。動きやすさを重視したズボンとシューズは、上級危険指定モンスター『ヘルファング』の革で縫われている。これだけは何があっても譲れないと言い張るので、白魔導士用のローブと、木製の片手杖だけは妥協した。

 

 初見の者はおそらく、え? 魔法使い? と、何とも言えない表情を浮かべながら首を傾げることだろう。

 まぁとりあえずは、こんなところか。と、両手を胸の前でぱんぱんとはたく。

 

 ちょうどラビの方もあらかた固まったようで、新コスチュームに身を包み姿見の前で嬉しそうにはしゃいでいた。

 

「残るは、俺だけか・・・・」

 

 そして、エトナの武具を探し回りながら、密かに目星を付けていた剣の前に移動する。金色に輝く柄と鞘。すっと真っ直ぐに伸びた刀身は、まるで命が宿っているかのように美しい。

 一目惚れ、というものだろうか。この剣を構える自分の姿を想像しただけで、鳥肌物だった。

 

「『英雄の一閃シャイニングソード』・・・・か」

 

 剣名を呟く。まるで、輝かしい未来を予期しているかのようではないか。俺は、額から自然発生した汗を拭うと、意を決して運命の相手に手を伸ばした。

 

 が、その瞬間。

 

「え!? 何やってんすか? 正気っすか!」

 

 背後から、ラビの焦ったような声が聞こえて、手を止めた。体を捻って彼女の方を振り向く。

 

「どうしたんだよ? そんなに慌てて」

 

「どうしたもこうしたもないっすよ。どうして、『斬』属性の武器を手に取ろうとしてるんすか?」

 

「いや、この武器が格好いいなって思って・・・・」

 

「姉御。もしかして、自分のスキルにまだ目を通してないんすか?」

 

「は? スキルも何も、俺はまだ冒険者になったばかりで・・・・っ、まさか!!」

 

 瞬時にして、あの自称女神の嘲笑する姿が頭をよぎった。

 

――『最後の特典は、お前が冒険者になった時に分かるだろう。そうだな、お勧めの基本職は『剣士』だよ』――

 

 二年前、確かにあいつはこう言った。

 

 十六歳になるまでは前世の記憶が蘇らなかったり、右手の三本指だけが強靭になったりと、現在までに二度、絶妙に惜しい恩恵ばかりを授けてもらったのだが、もうすでに彼女の言う『最後の特典』とやらが与えられているということか?

 

「握手した時にこっそりスキルを拝見させてもらって、どうして刀物が装備できないのに、『剣士』を選択したんだろうとは思ったんすけど、何か特別な考えでもあるのかと、あえて聞かなかったんすよ」

 

「ちょっと待て、刃物が使えないって、どういう意味だ?」

 

 ざわざわと、胸中がざわめいた。

 

「ユニークスキル『装備制限・斬』。どこでこんな、とんでもないスキルを習得したんすか?」

 

 嘘だろ。心拍間隔が自然と早くなり、大量の脇汗が噴き出してくる。

 

「その効果は?」

 

 掠れた声で尋ねた。

 

「『斬』属性を持つ武器を装備した際に、拒絶反応が生じ、強制的に装備の解除が行われる。と、記され・・・・って、姉御! ご乱心っすか!? 刃物は触っちゃ駄目だって!」

 

 あの婆! ラビが述べたことが嘘偽りないとしたら、それは『特典』ではなく単なる『呪い』だ! 『剣士』の適性値が九十八だと? 未来の『剣聖』だと? 『覇王』シグルス・ゴールドバーグよりも優れた逸材だと? 

 

 これだけ盛り上げておいて、オチはこれか? ふざけるのも大概にしろ!

 

 抑えきれない憤怒の炎が炊き上がる。きっと何かの冗談だろう。こんな現実、受け入れられるか! と、ラビの忠告も聞かずに『シャイニングソード』の柄を握った。

 

「エトナ嬢! 伏せて!」

 

 ラビが叫ぶと同時に、被雷したのかと勘違いしてしまう程の衝撃が俺の体を貫いた。

 

 ばちばちと、全身を焼き尽くす雷撃。焦げ臭い匂いが鼻を通り抜ける。肺が焼け、呼吸もままならなかった。全ての筋肉が痙攣し、少しも制御が効かない。遠くで、エトナたちが俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

 次第に、意識が薄れていく。

 

 やばい。死んだかも。と、怒りに呑まれた自身の、浅はかな行動を今更になって悔いた。

 

 そして、視界が完全に暗闇へ閉ざされる寸前――――

 

「見つけた。我を振るう資格を持つ運命の剣士。次は、お前の番だ・・・・我を見つけよ」

 

 聞き慣れない少女の声が、直接頭の中に響いた。

 




異世界転生したいなと思いながら、毎日を生きてます。皆さんもそうですよね?

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