右手の三本指だけが世界最強で、『剣士』なのに刃物を握れない呪いをかけられた俺が、変態少女達と大陸の『覇王』を目指すだけの伝記   作:おま風

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06 刃物に嫌われた剣士

「んあ?」

 

 目を覚ますと、ごつごつと寝心地の悪い硬めのベッド上で横たわっていた。

 頭が朦朧とする。全身が岩のように重く感じた。ずきずきと頭部が痛むのは、アルコールによるものか・・・・

 

 低い天井をぼーっと見つめながら、記憶に新しいあの感覚を思い出した。体中の血液が沸騰するような激痛。まだ、しっかりと覚えている。トラウマ、という程ではないのかもしれないが、『刃物』に対する恐怖心は確実に植え付けられた。

 

「お、お嬢様ぁ!」

 

「姉御ぉ!」

 

 すると、エトナとラビが俺の胸元に飛びついてきた。二人して瞼を腫らしている。相当心配させてしまったようだ。

 

「いろいろと、ありがとな」

 

「とんでもございません」

 

 エトナはぶんぶんと首を振るが、俺の上着を握る手は小刻みに震えていた。彼女の目尻に溜まる涙に、しみじみと仲間の絆を噛みしめる。

 

「無事に目覚めたことだし、僕はこれで失礼するよ。あ、一応、調合した回復薬を置いておくから、忘れずに飲んでね」

 

 そこで、すぐ傍らの椅子に白衣を着た老人が腰かけていたことに気付いた。

 よっこいせと立ち上がり、背もたれに立掛けられた木製の杖をひろう。「それじゃ、お大事に」と、柔らかく笑い、曲がりきった腰に手を当てて、ゆっくりと扉の方へと歩いていった。おそらく、街の治療師か何かなのだろう。

 

「先生、本当にありがとうございました」

 

「感謝してもしきれないっす! あ、近くまで肩を貸しますよ。エトナ嬢は、姉御の傍に居てあげてください」

 

 そう言って、ラビは俺の胴から離れ、よたよたと歩を進める先生の元へ駆け寄る。

 

「ラビさん、でも・・・・」

 

「良いから、良いから。気にしないでくださいっす! 姉御には、エトナ嬢がついてないとね。はい、先生、寄りかかって良いっすよ」

 

「お嬢ちゃん、悪いね。僕も、数年前までは、ばりばり動けてたんだけどね」

 

「これも、姉御を助けてもらったお礼っすよ。それでは、行ってきます」

 

 ひらひらとこちらに手を振って、部屋の外へと消える。ラビなりにエトナに気を遣ったのだろう。

 

 足音が遠くなっていき、すぐに届かなくなった。

 

 エトナと二人きりの密室。監視する者は誰もいない。いつもであれば、欲望に屈した彼女が何かをしてきそうな状況だ。

 しかし、俺の体から距離を置いた彼女は、両手を腹部の前でぎこちなく合わせ、気まずそうにもじもじと体を揺らした。

 

 俺の心境を悟ってか、珍しく沈んだ表情をしている。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

 互いに、沈黙する。

 しばらくしてから、俺は上体を起こし、ベッドの淵に座り直した。そして、エトナと向かい合う。

 

「なぁ、あの後どうなったんだ?」

 

「はい、お嬢様が気を失ってすぐに、お店の方に治療師を呼んでもらいました。駆けつけた先生が、その場で治癒魔法をかけてくださり、大事には至りませんでした」

 

「そうか・・・・それで、ここは?」

 

「ラビさんが経営する『月亭』の一室です。先生が、近くで安静にできる場所はないかと言われたので、お連れしました」

 

「武具屋の方は大丈夫だったのか?」

 

「それについては、心配なさらないでください。あの雷撃で破壊された装備品は全て買い取らせていただき、店舗の修繕費もきちんとお渡ししておきましたので。お店の方も、これだけあれば、以前より立派な内装に建て替えられると逆に喜んでおられました」

 

 エトナの口ぶりからすると、あの呪いは俺以外にも影響を与えてしまうようだ。他に被害者が出なかったのは不幸中の幸いか。右指に加え、また私生活で注意しなければならない点が増えてしまった。

 

「エトナ、迷惑をかけたな。すまなかった」

 

「いいえ、お嬢様が生きておられるだけで、私は満足でございます。だから、謝らないでください」

 

 そう言って微笑んだ彼女は、ひどく疲れているようであった。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

 再度の沈黙。静寂に包まれた木造の空間に、ぎしっと床が軋む音だけが響いた。静かなエトナは、新鮮ではあるが、少しばかり調子が狂う。

 

 俺は、右手に刻まれた剣の紋章へ視線を落とした。左手でそっと触れ、「刻印展開」と、短く詠唱する。

 

 ぱぁっとそれが赤い光を帯びたかと思うと、すぐ上部の空間へ長方形の画面が映し出された。そこに、次々と俺の情報が印字されていく。

 

《シャーロット・レッドメイン。種族:『人族』、職業:『剣士』、称号:『駆け出し冒険者』『剣士見習い』、称号によるステータス補正:『剣士見習い:剣が扱いやすくなる。斬属性の攻撃の威力が若干増す』、スキル:『ユニーク:装備制限・斬』》

 

 冒険者を志すようになってから、毎日欠かさずに剣技の鍛錬に励んできたが、一度たりとも得物を握れなくなることなどなかった。

 昨晩の稽古時だって、何の問題もなく振り回せていた。どう考えても、このスキルの習得経路は一つしか考えられない。

 

 なぜ、マーゴットは、こんなゴミスキルを俺に与えたのだろうか?

 

 『破天荒』をそのまま体現したような性格の彼女のことだ。ただ単純に『面白そうだったから』と言われれば、それはそれで納得してしまいそうなのではあるが・・・・

 どうも、心の奥で引っ掛かるものがあった。

 

 マーゴットは、俺に何かをやらせようとしているのではないか? ――――と。

 

「『我を見つけよ』・・・・か」

 

 それに、気を失う直前に聞こえた少女の声も気になる。さすがに、聞き間違いではないとは思うが、あの声の主には微塵も心当たりが無かった。

 

「あの、お嬢様。ラビさんに、事情は聞きました。私が言うのもおかしいとは重々承知していますが、あまり気を落とさないでください。お嬢様は、才能に溢れた御方です。『剣士』以外の道も必ず存在するはずです」

 

 真剣に考え事をする俺に、恐る恐るといった雰囲気で励ましの言葉を投げかける。

 

 俺は、顔を上げて、彼女の頭にそっと手を乗せた。

 

「ありがとな。お前が居てくれて本当に助かるよ」と、一言。

 

 そして、さっと立ち上がると、部屋の入口へと移動した。

 

「お、お嬢様。どこへ?」

 

「ちょっと、風にあたってくる」

 

「私もお供しましょうか?」

 

「いや、一人で良い。疲れているようだから、お前はもう体を休めろ」

 

「そう、ですか・・・・」

 

「安心しろ。少し頭の中を整理したいだけだ。すぐ戻ってくるよ」

 

「分かりました。お待ちしておりますね」

 

「あぁ」

 

 ドアノブを回し、部屋の外へと踏み出した。足元は、まだ少しふらついていた。

 

 




ここから物語が、少しずつ動き出します。

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