ゴロねこニャン吉奮闘記 5   作:紫 李鳥

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旅立ち

 

 

 

 サクラとの生活は楽しかった。

 

 俺が盗んできた魚をおいしそうに食べてくれるし、俺のつまらない話を笑顔で聴いてくれる。

 

 そんな楽しい生活が数日続いたときだった。

 

 夕食を物色するために林道に沿った草むらを歩いていると、チャリに乗った二人のおばさんが立ち話をしていた。

 

「奥さん、お昼のニュース、観ました?」

 

「え、観たわよ。ピンクの首輪をした高級猫のニュースでしょ?」

 

(もしかして、サクラのことか?)

 

「そう。見つけた人には、懸賞金100万ですって」

 

(100万?)

 

「スゴいわね。よほど、大金持ちのペットだったんでしょうね」

 

「そうでしょうね。じゃなきゃ、100万なんて大金出せないでしょう」

 

「そうよね。どこにいるのかしら。サクラだっけ?名前」

 

(……やっぱりだ)

 

「この辺にいないかしら。見つけて、100万ほしいわ」

 

「私も」

 

 

 

 ニャン吉は道を戻ると、サクラの元に急ぎました。

 

 

 

 毛繕いをしているサクラに、耳にしたことを伝えました。

 

「……どうしよう。あの家には帰りたくない」

 

 サクラは震えていました。

 

「きみが帰りたくないなら話は早いよ。ここにいたら危険だ。どこか、場所を変えよう。俺らに任せるかい?」

 

「ええ、ニャン吉さんにお任せします」

 

 サクラがクリッとした目で見つめました。

 

「じゃ、まず、首輪を外そう。目立ちすぎる」

 

「でも、どうやって」

 

「うむ……」

 

 グッドアイデアが浮かばないニャン吉は、腕組みをすると首を傾げました。

 

 ところが、あることに気づきました。

 

 首輪をよく見ると、革製ではなく、柔らかいリネン素材だったのです。

 

 首の周りの毛をハゲさせないための飼い主の配慮でしょう。

 

 ニャン吉は、サクラに対する飼い主の深い愛情を感じました。

 

 しかし、「帰りたくない」と、はっきり言ったサクラの気持ちを、ニャン吉は尊重(そんちょう)することにしました。

 

 そして、サクラの首を傷つけないように、ゆっくりと首輪を噛みちぎりました。

 

「フー、外れたよ」

 

「ありがとう」

 

「では、旅に出発だ!」

 

「ええ」

 

 サクラがうれしそうにニャン吉を見つめました。

 

 

 

 日が暮れると、ニャン吉とサクラは山に向かって川沿いを行きました。

 

 登るにつれて人家の明かりが途絶(とだ)え、少し心細くなりましたが、サクラと一緒だと、ニャン吉はなんだか浮き浮き気分でした。

 

 サクラを守るためには、人が住んでいない山しかない。

 

 ニャン吉は、そう決断すると、この先の生き方を考えました。

 

 もう、人様の食べ物は盗めなくなる。カエルや昆虫、トカゲやネズミを獲って生活するしかない。

 

「大丈夫?」

 

 後ろをゆっくりとついてくるサクラに声をかけました。

 

「ええ。……大丈夫」

 

 家で飼われていた猫だから、それほど体力はないはずだ。それでも頑張ってついてくるサクラのことを、いとおしいとニャン吉は思いました。

 

 

 そして、しばらく登ると、小屋が見えました。

 

 こんな所に人は住んでないはずだ。

 

 ニャン吉はそう思いながら、抜き足差し足で小屋に近づきました。

 

 するとそれは、使われていない古い炭焼き小屋でした。

 

 ここなら、雨や風をしのげる。


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