鬼滅の刃~胡蝶家の鬼~   作:くずたまご

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引き続きよろしくお願いします。


第2話 激動

 ――胡蝶しのぶの激務は終わらない。

 

 

 鬼が暴れる度に負傷した隊士は増え、治療に追われ。

 人々が血鬼術を受ければ、やっぱりその治療に追われ。

 柱として、夕闇に紛れた鬼を討つために今度は追って。

 一度使った毒は何度も使えないため、毒の研究に追われ。

 日々、体質が変わる禰豆子の観察に追われ。

 合間に姉と義兄の訓練に追われ。

 

 

 追われて追われて追って追われて、追われに追われた最中に()()は起きた。

 

 

 ――上弦の陸の撃破。

 鬼となった姉・カナエでさえ成し遂げられなかった上弦の鬼の撃破を炭治郎たちがとうとう成し遂げたのだ――!

 その途上、音柱・宇随天元が神崎アオイを拉致しようとしたりなど、業腹な事もあったがそれは一先ず置いておき。

 ――炭治郎が上弦の鬼の毒に侵された。

 禰豆子の血鬼術により毒自体は除去されたが、並の人間が受ければ即死してもおかしくない毒で、炭治郎は昏睡状態に陥ってしまった。

 ただでさえ業務でパンク寸前にも関わらず炭治郎の重体が重なってしまい、しのぶは堪らず珠世に手紙で助けを求めていた。

 

 

『私でできる事なら何でもするから

 助けて珠世さん』

 

 

『禰豆子さんの血鬼術で上弦の鬼の毒は消えています。

 しのぶさんの処置も的確で適切です。

 何も問題ありませんから落ち着きなさい。

 何でもするから、なんて女の子が気軽に書いてはいけません。』

 

 

『仰っている事は分かりますが、些細な事でもいいんです。

 他にできる事はありませんか。

 炭治郎君にはこれから先も生きて欲しいんです。

 できる事は何でもしたい。

 

 

 それと私は落ち着いています。

 私でできる事、とちゃんと頭に書いています。

 無責任な事は書いていません。

 あなただから頼み込んだんです。

 それに気軽でもありません。』

 

 

『できない事を書くなという意味ではありません。

 あなたの弱さを認められる所は美点ですが、誰彼構わず隙を曝すのは駄目だと指摘しているのです。

 弱みに付け込まれて、変な事を求められたらどうするつもりですか。

 それとも、狙ってやっているんですか。

 たくさんの人をそうやって勘違いさせるのは感心しません。』

 

 

『珠世さんがそれを指摘しますか。

 この前の手紙に紅茶の染みが付いていたの気づいていなかったくせに。

 隙だらけなのは、あなたです。

 それとも、狙ってやっているんですか。

 あざとかわいい。

 せっかくだから()()()()って呼んで差し上げます。』

 

 

『落ち着きましょう。

 しのぶさん、落ち着きましょう。

 落ち着いたら、前の手紙は処分しませんか。

 処分して下さいね。』

 

 

「いや、そうはならんやろ。つーか、後半に真面目な俺たちの考察がついてて温度差がエグい」

「!? 義兄さん!? いつの間に!?」

 

 

 気づけば診察室に義兄・弦司がいて、しのぶの背後から手紙を覗き込んでいた。

 

 

「だって……二カ月以上も文通してたら気安くもなるわよ!」

「弦司さん、勝手に覗かないの」

「むー」

 

 

 弦司の後ろには姉・カナエに禰豆子もいた。

 いつの間にか、診察室の密度は「人<鬼」になっていた。昔のしのぶであれば卒倒、もしくは激怒する光景であるがいつの間にか慣れてしまった。

 

 

「何か用?」

 

 

 しのぶは手紙を隠しながら、三人と向き合う。

 

 

「義兄さん、姉さん、禰豆子さん。私、割と本気で忙しいんだけど。定期診察は明日なんだから、特に何もないなら後にしてくれない?」

「ごめんね、しのぶ。忙しいのは知っていたんだけど、しのぶが心配で様子を見に来ちゃった。でも……」

「……何よ」

「私なんかより、よっぽど()()()()()()()()わね……」

 

 

 万感の思いを込めてカナエは呟いた。

 ()()()()()()()

 それはかつて、カナエが持っていた夢だった。

 ――だが、現実はどうだ。

 カナエは鬼になった弦司と仲良くなれたが、カナエも鬼になってしまった。弦司以外の鬼と、仲良くなろうとしなくなった。

 ――対してしのぶは。

 カナエとは今まで通りの姉妹仲良く過ごし。

 弦司とは気の置けない友人となり。

 禰豆子とは小さな妹と接するように面倒を見て。

 今は手紙を通して珠世と交流を深めている――。

 

 

「しのぶはすごいなぁ」

「もうしのぶには追い付けないかな」

「むー!」 

 

 

 口々に皆が賞賛を上げ、禰豆子が抱き着いてくる。

 正直、しのぶは素直に受け取れなかった。己がすごいのではない。鬼の過酷な運命に打ち克った彼らこそが、すごいだけなのだ。

 だから、褒められるような事では――。

 

 

「炭治郎の意識戻ったぜぇぇっ!!」

 

 

 そうやって雑談をしていると、廊下から腹から上げた男性の声が響き渡った。隠の後藤だ。

 彼は隊士としての才はなかったかもしれないが、その人柄は誠実だ。こんな事で、嘘を吐く男ではない。

 同日に運ばれた炭治郎の同僚、我妻善逸と嘴平伊之助はすでに目覚めている。炭治郎だけが目覚めていなかった。

 四人は瞬間目配せをすると、一斉に診察室から飛び出す。

 彼が目覚めない事で、自分たちがどれだけ心配した事か。一分一秒でも早く彼に会い、心配を晴らさねば――。

 

 

 

 

 目覚めてから一週間で炭治郎は日常生活を送れるようになった。

 欠かさず続けた鍛錬と全集中・常中の成果で、鬼殺隊の中でも上澄みの回復能力を手に入れていたようだ。

 これでしのぶは、一番の心配事がなくなった。

 後は通常激務に戻るだけ……。

 

 

 何て事はなかった!

 

 

 ――刀鍛冶の里が()()の上弦の鬼に襲われた。

 ――そしてまたまた、炭治郎が上弦の鬼たちと戦い。

 ――霞柱・時透無一郎と恋柱・甘露寺蜜璃、不死川玄弥の奮闘もあり全てを撃破。

 

 

(そう! ここまではいい! ここまでは嬉しい事ばかり!!)

 

 

 問題はそこから後。

 上弦の鬼から鍛冶師を守る代償に、禰豆子が太陽の光を浴びてしまった。

 そのまま消滅してしまうと思われた――その瞬間。

 禰豆子は()()()()()()()

 それ自体は嬉しい。きっと、カナエに太陽を浴びせる参考になる。

 だけど――。

 

 

(まずは禰豆子さんの経過観察と検査! それと並行してお館様と珠ちゃん向けに報告書を作って送る! すぐに姉さんと義兄さんを呼び寄せて禰豆子さんの警護を万全にする! 善逸君の訓練を見る約束してたっけ? 無茶した炭治郎君と玄弥君の体調を見ないと……! 時透君と蜜璃ちゃんの傷が早く治って良かった……早すぎるのは気になるけど。 それとそれと――!)

 

 

 やる事が……やる事が多い……!

 やる事が多いのに――。

 

 

「き、緊急柱合会議!?」

 

 

 鎹鴉から届いた手紙に書かれていたのは緊急招集の指令。こんな異常事態が起きたのだ、当たり前である。当たり前であるのだが……。

 

 

「こんな事やってたら、体がいくつあっても足りなぁい……!」

 

 

 さすがのしのぶも、事ここにいたって泣き言を言いだした。

 とりあえず柱合会議に出てから事案を整理……とかも考えたが、どう考えても太陽克服なんて大事変にそんな悠長な時間はなく、どれも手を抜けない事案だ。

 いくら何でも、夢のためとはいえ何から何までしのぶは手を出し過ぎていたのだ。もう手も頭も回らなくなってくる。

 

 

(睡眠時間がちょっとでこの業務量はまずいって……! 完全に医者の不養生――!)

 

 

 そして、恐る恐る手鏡で自身の顔を見れば――。

 

 

「鬼舞辻無惨を倒す前に過労で倒れるなんて笑えなぁい……!」

 

 

 どうする。こんな時に開発していた徹夜用の栄養液を使うべきか。いや、何を働く前提で考えているのだ。何の解決にもなっていない。

 

 

「とにかく人手……人手を確保しないと……!」

 

 

 根本的な原因に言及するが、そもそも人手が確保できていたらしのぶはこんなに苦労はしてない。

 診察室をうろうろしながら頭を回転させる。

 鬼殺隊にしのぶに替わる人材はいない。ならば、()()()()()から集めるしかない。

 

 

「……やっちゃう? この際、やらかしちゃう?」

 

 

 鬼殺隊以外で突如として降ってわいた業務をこなせる人物……しのぶの頭に一人だけ思い浮かぶ。

 今までなら鬼殺隊外部から人員を呼び出すなんて難しかったが、今は異常事態。どんな素性だろうと呼び寄せる好機だ。

 

 

「……いやいや、落ち着くのよ! 忙しいからって、短絡的になっては駄目よ!」

 

 

 しのぶは一度、部屋の隅に置いた趣味の観賞用金魚鉢を見つめて心を落ち着かせる。

 ()()を呼び寄せる利点は、何といってものその能力と知識だ。鬼に関する事なら、彼女の右に出る者はいない。禰豆子の事を調べるなら、彼女に任せる事こそ最善だ。

 ならば、欠点はなんだ。

 言わずもがな、彼女が()である事だ。研究を本格的に任せるなら、鬼殺隊の本部に呼び寄せるぐらいの対応が必要になる。

 そんな事、今の鬼殺隊に――。

 

 

「ん? 今なら普通にいけそう?」

 

 

 ここ数年、鬼であるカナエも弦司、そして禰豆子も普通に鬼殺隊本部に出入りしている。

 鬼に対する情報漏洩だって、ここ数カ月しのぶが文通しまくっているので今更だ。

 それに柱達の()()()()()()()()に対する隔意も、今となってはほどんどない。

 

 

「やっちゃおうか……珠ちゃんの鬼殺隊招集――!」

 

 

 いつもだったら、ここでさらに慎重になるしのぶだったが今は忙し過ぎた。招集の欠点が見当たらず、しのぶの忙しさが軽減できるなら彼女が鬼なんて()()()()()()と断言しきった。

 何よりこれで――。

 

 

「人を治せる目途と私が生き残る目が出る……かも」

 

 

 ――緊急柱合会議。

 誰もが眼前の事態に目を向けていた時。胡蝶しのぶだけが自身の安寧と、事態のずっとその先……鬼を治す手段と未来を考えていた。

 

 

 

 

 産屋敷邸。

 ――岩柱・悲鳴嶼 行冥。

 ――風柱・不死川 実弥。

 ――蛇柱・伊黒 小芭内。

 ――恋柱・甘露寺 蜜璃。

 ――霞柱・時透 無一郎。

 ――水柱・冨岡 義勇。

 ――蟲柱・胡蝶 しのぶ。

 今、鬼殺隊で()()()()()()()()()の柱が全員集合していた。

 産屋敷耀哉が病状の悪化で出席できないという想定外はあったものの、会議自体は滞りなく進んだ。

 鬼舞辻無惨は今後、日の光を克服するため鬼殺隊に猛攻をしかけると予想を立て、鬼殺隊を強化する事で意見が一致した。

 その中で最も注目されたのが()

 今回、時透無一郎と甘露寺蜜璃が痣を発現させ身体能力を飛躍的に向上させた事が、上弦の鬼を撃破できた最たる理由だからだ。

 無一郎によって語られた、痣を発現させる条件は『心拍数二百以上』と『体温三十九度以上』。とても並の人間では耐えられない壁の先に、強大な力が得られるのだ。

 ――だが同時に、御内儀・あまねによって力の代償も語られた。

 曰く、痣を発現した者は二十五までしか生きられない。痣は寿命を捧げる事で得られる、力の前借だったのだ。

 とはいえ、上弦の鬼は残り三体もいるのだ。力がなければそもそも上弦の鬼と戦い、生き残れない。痣の発現を躊躇する者はいなかったが、

 

 

(……多分、私には無理ね)

 

 

 しのぶはあくまで冷静に判断を下す。

 しのぶは体が小さい上に女性だ。蜜璃のような特異体質でもない。どれだけ鍛えても『心拍数二百以上』と『体温三十九度以上』が()()()()()()()()()()()()

 ――そうなると、やはりしのぶが戦力になるためにも。

 

 

「私からは以上になります」

「一つ提案があります」

 

 

 あまねの発言の終わりを待って、しのぶは声を上げた。

 

 

「一人、外部から招待したい人物がいます」

「あん? この緊急事態に外部からだとぉ?」

「私を遥かに超える薬学の知識と見識を持っています。この異常事態において、適切に対応できる最善な人物は彼女以外にあり得ない……それほどの人物です」

「へぇ……お前が認める人物か」

 

 

 実弥がしのぶをにらみつけながら、感心のため息を吐く。

 

 

「そんなすげえ奴がいるなら、先に誘っておけよ」

「待て不死川。今の胡蝶の言葉から、鬼殺隊ではないのだろう。いくら緊急事態とはいえ、鬼殺隊以外から招くのは問題ではないか。そもそも鬼に関わらせるのもどうなんだ」

 

 

 小芭内はネチネチしながら優しさを見せる。

 ここまでの反論は想定内だ。問題はここから先――。

 

 

「心配ない……というよりも、彼女はすでに鬼に狙われています。もとより、すでに鬼に関わっています」

「あ? だったら尚更、先に誘って――」

「この緊急事態を任せられるほど知識があり、すでに鬼に関わっているとは、まさか胡蝶――!」

 

 

 疑問を深める実弥に対し、小芭内は思い当たる節があるのか声に緊張感を滲ませる。事ここに至ってただの推薦ではないと察したのか(蜜璃を除いて)柱たちの視線が険しくなった。

 そして、しのぶは告げる。

 

 

「人を喰らわない鬼の()()()・珠世さんの招待をここに提言します」

「何だとぉ!?」

「……もう他にはいないんだな?」

「……弦司以前にいたとは」

「……」

「ええっ!? どういう事しのぶちゃん!?」

「胡蝶……」

 

 

 六者それぞれの反応。だが、全員に共通しているのは――明確な拒絶がない事。

 しのぶはここぞとばかりに捲し立てる。

 

 

「蟲柱となった日にお館様に彼女の存在を知らされていましたが、何の偶然か竈門炭治郎君が彼女と繋がりを持っていました」

「なんと……そんな繋がりが……」

「そこから無理やり彼女と繋がりを持ち数カ月間、文でやり取りをしていましたが……彼女の見識は驚異的です。私を遥かに凌駕しています。その証拠に、禰豆子さんが太陽を克服する事を事前に言い当てていました」

 

 

 しのぶの言葉に目を白黒させる柱たちの前に、それを証明する手紙を差し出す。

 柱の半数以上が専門用語だらけの文字列を呼び飛ばし……最後にそれは書かれていた。

 

 

『近いうちに禰豆子さんは太陽を克服すると思います』

 

 

 確かに書かれていた一文に、一同は驚愕を表すのみだった。手紙の真偽を疑う者も出ない。しのぶの今までの献身があったからこそ、手紙を捏造や嘘と言い募る者は誰も現れない。

 ――ちなみに、最初にこの一文を読んだしのぶは『禰豆子ちゃんが可愛くて目が曇った珠ちゃん』と余計な煽りで赤っ恥をかいた。

 

 

「その上、禰豆子さんと義兄さんの血を参考に、鬼になった人の症状を緩和させたそうです。その方は今では()()()()、もしくは()()で鬼を衝動を抑えられるとか」

『…………』

 

 

 さすがの柱たちも、洪水のような情報量に黙り込む。

 

 

「彼女の目的は我々と同じ鬼舞辻無惨の殺害で一致しています。今回の招待で彼女の研究成果を確かめつつ、禰豆子さんに最新の治療薬を投与する事で鬼舞辻の目的を打ち砕く事が出来ます。さらに、蓄積した知識と私の毒、姉さんと義兄の研究成果を合わせる事で、鬼舞辻を殺害する毒薬を作成する……いえ、殺害までいかなくとも行動を妨害する事は出来るでしょう。いずれにしても、決して鬼殺隊が不利益を被る事はありません。ご検討ください」

 

 

 言い切って、しのぶは長い息と共に頭を深々と下げた。

 しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのは産屋敷あまね。

 

 

「まずは珠世の存在を隠していた事を、当主の耀哉に代わり謝罪いたします」

 

 

 彼女は頭を下げてから続ける。

 

 

「今でこそ鬼殺隊は変化しましたが、当時は伝えられる状態ではなかった事をご理解下さい。そして珠世さんの招待ですが、以前から耀哉も同じく考えていた事です。これについては皆様が反対なされたとしても、続ける所存である事を予めお伝えいたします」

「さすが、お館様。私の考えなど読まれているのですね」

 

 

 しのぶが提案するまでもなく、お館様は動いていたらしい。会議の進行に関係なく、しのぶの願いは叶うようだ。

 ともかく、あまねの説明で議決の方向性も決まった。元々、柱たちは耀哉が大好きだ。彼の決定には基本的に従う上、しのぶが明確な利点を説明した。

 

 

「我々に反対する理由はない。承認しよう」

 

 

 行冥がまとめると他の柱たちも揃って頷き、珠世の招待は全会一致で可決と相成った。

 その後、あまねも退室。

 ――こうして、恙無く会議も終盤に差し掛かったと誰もが思っていた所で。

 

 

「あまね殿も退室された。俺たちも失礼するぞ、胡蝶」

「何を仰ってるんですか!?」

 

 

 何かいきなり義勇が言い始めた。

 全員の視線がしのぶと義勇に集まるが、しのぶは何も聞いてない。

 

 

「説明! 本当に説明してよ、冨岡さん!!」

「お前はこの場にふさわしくない。帰れ」

「こ、こいつ……! 人を巻き込んでおいて、言葉足らずとかふざけないで……!」

 

 

 しのぶが怒りに震えるが、義勇はどこ吹く風と顔色を変えない。それどころか、しのぶの襟首を掴んできた。

 

 

「えっ」

 

 

 そこに敵意は一切ない。だからこそ、しのぶの反応は遅れ困惑で動きを止めてしまった。

 

 

「はっ? いや、ちょっと!? 本当に何!?」

 

 

 そのまま義勇はしのぶを引きずって退室しようとして、実弥が立ち塞がった。

 

 

「失礼すんじゃねぇ。というか、お前が胡蝶に失礼すんな。離してやれ」

「五人で話し合え。俺たちには関係ない」

「勝手に私を冨岡さんと一緒にしないでくれる!? それに離してって、この馬鹿力……!!」

 

 

 抵抗するしのぶに、それでも歩もうとする義勇を止める実弥。

 さらには小芭内も立ち上がり、場が混沌としていく。このままでは会議どころではない、乱闘騒ぎになる。

 最早ここまでと、行冥が動こうとして――。

 

 

「私もしのぶちゃんが早退するのは賛成かな!!」

 

 

 ――一石を投じたのは、意外にも蜜璃であった。

 予想外の人物の意見に、実弥や小芭内だけでなく義勇も行冥も動きを止めた。無一郎だけぼーっと眺めてる。

 蜜璃は一気に耳目を集め恥ずかしさで紅潮しつつも、

 

 

「ちょっとみんな落ち着いて! 落ち着いて、しのぶちゃんを見てよ!」

 

 

 今度は視線がしのぶに集まる。

 

 

「な、何ですか?」

「最近眠れてる? 顔色悪いよ?」

「……バレてましたか」

「っ、バレてましたじゃないよ!」

 

 

 白状するしのぶに、さすがの蜜璃も叱責の声を上げた。

 この場に無一郎と蜜璃という重傷者がいたからこそ中々気づかれなかったが、普通にしのぶの顔色は悪かった。

 

 

「いつか言おうかと思っていたけど、この際だからはっきり言うよ! しのぶちゃんは働きすぎ! これ以上は働いちゃダメ! 少なくとも、柱のお仕事はしばらく禁止!」

「……心配かけてごめんなさい」

 

 

 多忙をどうにかしようと対策を打とうとしていたが、結局間に合わず体調を崩して蜜璃に心配をかけてしまった。彼女にらしくない叱責をさせてしまった。正直、怒られるよりもしのぶには堪えた。

 

 

()()に言わせるとは、どれだけ罪深いか分かっているのか胡蝶」

「私は仕事を減らすよう何度か注意したはずだが?」

「お前馬鹿だろぉ」

「体調管理は柱の基本でしょ」

「うぅっ……」

 

 

 残りの柱にも針の筵にされ、しのぶは申す訳なさやら罪悪感で唸るしかできない。

 

 

「だから言っただろう。帰れ」

 

 

 義勇はさも自分は最初から指摘していたと顔で語る。

 

 

「冨岡さんのは絶対違うと思うっ!」

 

 

 しのぶはキレながら体を素早く翻し、義勇の拘束から抜け出した。

 そして柱たちに背を向ける。

 

 

「それでは、お言葉に甘えさせていただいて、珠世さんの協力に集中します」

「ほどほどに頑張ってね」

「とっとと帰れ」

「いいから帰れぇ」

「帰りなさい」

「君がいると会議が進まないんだけど」

「帰れ」

「あなたたち、疲れてる女性には優しい言葉をかけてもいいでしょうが……!」

 

 

 しのぶが青筋立てて去ろうとすると、隣に男が立つ。義勇だ。

 

 

「何で冨岡さんが帰ろうとしてるんですか?」

「俺には関係ない」

「いや、私が抜けるんですから、代わりに入ってもらわないと困るんですけど?」

「……俺はお前たちとは違う」

(こいつ、本気でぶん殴ってやろうか……)

 

 

 後悔を滲ませて義勇が呟いた。この面倒くさい男にも色々あるんだろうが、今は彼に抜けられる方が面倒くさい。

 

 

「あーあ。冨岡さんも抜けたら私が働かなくちゃいけないんですけどー? 私がまた忙しくなってもいいんですねー?」

「――っ!」

(この一言で躊躇するんですから、善人ではあるんですよね)

 

 

 一瞬の硬直を見逃さず、しのぶはさっきの仕返しとばかりに義勇を蹴り飛ばして部屋に戻す。

 

 

「っ、胡蝶、なぜ蹴る――」

「蹴られるような事しかしてないでしょ。それじゃあ、後は頼みますよ」

 

 

 何か言いたそうな義勇を残し、襖をピシャリと締める。嫌われ者の義勇が残り、会議が余計遅延しそうな気もするが、それはしのぶが考えてもしょうがない。

 

 

(あー……何かやる事やったら、急に疲れが出てきた)

 

 

 しのぶの中で一段落着いたせいか、疲れがどっと出てきた気がする。

 

 

「ふぁっ――」

 

 

 あくびも出た。緊張感も途切れてる。これでは何も手に着きそうにない。

 

 

(あくびって、最後にいつしたっけ……って、もうこの思考がダメだ)

 

 

 久々に何も考えないで寝よう。そう決めて、しのぶはゆっくりと歩きだした。

 

 

 

 

 

 ちなみに、蝶屋敷ではなぜか嘴平伊之助が窓をぶち破っていた。眠気が吹き飛んだ。

 

 

「…………」

「!?!?」




伊之助「オレ シノブ オコラセナイ」
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