鬼滅の刃~胡蝶家の鬼~   作:くずたまご

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誤字報告ありがとうございます。
いつもお手数をおかけしております。

長くなりましたので、分割します。
それではお楽しみください。

あと、キメツ学園のカナエ先生とカナヲがカワイイです。最高。


第6話 別れ・前編

 ――その日は最悪だった。

 

 

 鬼になったのは、一人の少女だった。

 彼女は生まれた村を襲い、村人を次々と殺害した。そして、残された唯一の家族である姉をも襲った。

 姉は健気だった。自身の妹を正気に戻そうと、村人が襲われている間も、何度も何度も声を張り上げた。だが、それは通じる事なく、姉もまた襲われ――そこをカナエが助けた。いや……正確には、妹だった鬼をカナエが討った。

 ――何で、どうして。

 ――なぜ妹を殺した。

 ――この人殺し。

 消えていく亡骸を見て、姉はカナエを詰り罵った。鬼狩りをしていれば、何度も遭遇したありふれた出来事だ。しかし、柱となってからは、ほとんど未然に防いでいた事態だった。なのに、この時は間に合わなかった。

 自身の境遇と、知らず重ねてしまったのだろうか。そのまま最悪な気分で帰宅した。

 

 

「おかえり」

 

 

 そう言って、弦司だけがカナエを迎え入れた。日の出が近づいた時刻だ、睡眠のいらない弦司以外はみんな眠っている。出迎えがあるだけ有り難かった。

 だが、この日のカナエに余裕はなく「いいから、早く寝させて」と冷たく当たってしまった。

 弦司は嫌な顔一つせず、夜食を用意してお風呂も温めなおした。

 

 

「おやすみ」

 

 

 こんなに暖かい言葉をかけてくれたのに、食事は残し、体を綺麗にしたらお礼の一つも言わず。それどころか、返事もせずに無視して寝てしまった。

 翌朝、目覚めるなりカナエは自己嫌悪に陥った。家事に鬼殺に陰日向に……人の役に立とうと努力している彼を、他でもないカナエがぞんざいに扱った。前日に引き続き、最悪な気分だった。

 

 

「おはよう」

 

 

 弦司は笑顔で言ってくれた。

 すぐに謝った。昨日の任務が辛かった。でも、弦司に当たるのは間違いだった。全て正直に話した。

 

 

「頑張ったな」

 

 

 怒るでもなく、何か尤もらしい理屈を説くわけでもなく。それだけを、弦司はカナエに与えてくれた。それで十分だった。

 ――今日は昨日より、ちょっとだけ良い日になる。

 

 

 

 

 鬼殺隊の任務は過酷だ。最前線の剣士は言わずもがな、後方支援である隠も時に命の危険がある。目の部分だけ開いた黒子のような衣装。隠である彼は今、命の危機にあった。

 

 

「こっち来るんじゃねえっ!!」

「待てよ、人間!」

 

 

 追いかけてくるのは、異形の鬼だった。八尺を超える巨体に、大人の胴ほど太い頚。すでに人だった時の面影は失く、本能のまま人を襲い掛かる鬼となっていた。

 彼は山間部で隊士の事後処理を行っていた所、運悪く鬼に遭遇してしまった。追いかけてくる鬼から、今は必死の形相で逃げている。

 彼には剣の才能はなかった。それでも隠となるからには、体力は一般人を遥かに超えている。彼は巧みに木々の合間を縫って鬼から逃げていた。

 

 

「はぁっ、はぁっ」

 

 

 しかし、彼は人間だ。体力はあっても、いつかは必ず尽きる。

 対して、鬼の体力はほぼ無尽蔵。次第に彼我の距離は縮められていく。

 すぐそこに、鬼の気配を感じる。もうダメだ、追いつかれる。

 彼が諦めかけたその瞬間──。

 

 

「だあぁっ!!」

 

 

 鬼を横合いから、一人の男が殴り飛ばした。鬼は木々をなぎ倒しながら、吹き飛んでいく。

 殴り飛ばした男は、彼と同じ黒子のような衣装だった。ただし男の場合、目元は開いておらず表情は窺い知れず、声だけが性別を男性だと伝える。

 

 

「大丈夫か、後藤!?」

 

 

 殴り飛ばした男は、彼──後藤の名を呼ぶ。男の顔は見えないが、後藤はここ数週間、彼と任務を頻繁に共にしており、素性を知っている。

 

 

「すまん! 助かった!」

「俺は足止めするから、お前は──」

「前!!」

 

 

 後藤が男に注意を促す。鬼はすでに立ち上がり、男の眼前にいた。

 

 

「死ねっ!!」

 

 

 鬼が振りかぶった巨腕を男へ振り下ろす。男は舌打ちし、防御のために咄嗟に左腕を差し出す。

 しかし、防御は能わず。巨腕の攻撃に弦司の左腕は文字通り吹き飛び、さらには心臓を刺し貫いた。

 男の背中から飛び出た腕は拳ではなく、鋭利に尖っていた。鬼の腕は一つの巨大な杭となり、男の腕ごと貫いたのである。

 

 

「へっへっへ。馬鹿な男だ。邪魔しなければ、串刺しにならずに済んだのによ」

 

 

 嘲笑を浮かべる鬼。この男はもう死んだ、次はさっきから逃げてばかりのあの男である――。そう考えていた鬼は、次の瞬間、驚愕に目を見開く。

 

 

「~~~~っ、いってーな、おい!! 心臓と腕の代金は命だ、覚悟しろ!!」

「何っ!?」

 

 

 男は吐血しながら刺し貫いた鬼の腕を、残った右腕で掴む。決して逃がさないと、万力を思わせる剛力で鬼を拘束した。

 

 

「この気配、まさか鬼か!? なぜ、人間の味方をする!?」

「不破!! 大丈夫か!?」

「腕一本、心臓一個で済んだぞ!!」

「全然大丈夫じゃねぇ!?」

「この……! 俺を無視するなっ!!」

 

 

 鬼は懸命に弦司から腕を抜こうとするが、弦司は全身に力を込めて妨害する。弦司には日輪刀もなければ、剣の才能もない。弦司一人では鬼を討ち滅ぼす事はできない。

 だからこそ、一分一秒でもこの場に鬼を縫い留め、鬼を討つことができる剣士の到着を待つ。

 助けはすぐに来た。

 

 

「水の呼吸壱ノ型・水面斬り」

 

 

 木々の間から飛び出した剣士は、水面を想起させる流麗な剣筋で日輪刀を真横に薙ぐ。寸分違わず鬼の太い頚に吸い込まれ――甲高い金属音と共に、刃は止まる。

 

 

「馬鹿が。俺の頚は鋼より硬いんだよ。お前ら鬼狩りに俺の頚は、斬れやしねえよ」

「だったら毒はどう?」

 

 

 鈴の音のような綺麗な声とほぼ同時。

 蝶の髪飾りが特徴的な小柄な少女の剣士が現れ、鬼の全身に複数回、細剣のような日輪刀を刺突。

 大量の鮮血が辺りに舞う。

 鬼の頚は繋がっている。やはり、この鬼狩りも自身の頚を斬れなかった。

 鬼は嘲笑おうと口を開こうとして、ぐらりとその巨体が揺れる。少女に刺された箇所が爛れて、さらには灰となり崩れ始める。

 

 

「な……ぜ……」

「新しい毒です。苦しんで死になさい」

 

 

 鬼は一際苦悶の表情を浮かべると、全身を痙攣させながら大量の血を吐いて死んだ。もう鬼は動かない。少女の毒が鬼を討った。

 それを見て、後藤はようやく勝利を確信し脱力をした。

 

 

「た……助かった」

 

 

 これを合図に、剣士達は刀を鞘に納め、弦司は鬼の腕を引っこ抜く。

 

 

「本当にありがとうな、不破。隊士の方々も、ありがとうございます」

「げほっ! ……良いよ。討ったのは、しのぶと雨ヶ崎(あまがさき)だし。それより、服を貸してくれ。俺の乳房がこぼれる」

「俺は全然役に立ってないけどね。刃毀れしたし、これは怒られるなぁ……」

「良いですよ、これが剣士の役割ですから。それよりも、無茶するなっていつも言ってますよね、不破さん! 姉さんが心配するからやめてって! 何で学習しないんですか!」

 

 

 ここにいる全員が鬼殺隊の中では、いわゆる下っ端。何となく妙な一体感があり、つい口が軽くなる。

 しかし、今この瞬間も鬼は人を襲っている。きっと山を下りれば、すぐに次の鬼殺が始まるだろう。それまでの僅かな時間、四人は力の抜けた表情で談笑していた。

 

 

 

 

 蝶屋敷の一室。

 しのぶとカナエは向かい合いに座っていた。カナエの後継者……継子であるしのぶは、昨日の鬼との遭遇戦について報告した。

 

 

「任務遂行、お疲れ様。しのぶ達が活躍しているようで嬉しいわ」

「だったら、少しは嬉しそうな顔してよ」

 

 

 言葉とは裏腹に、カナエはぶすっとした顔で言う。

 ――弦司が蝶屋敷に来てから、早くも二か月が過ぎた。

 彼の鬼殺隊での扱いは、役職こそ『特別隊士』などという大仰な名が与えられているが、有体に言えば『雑用』だ。仕事の内容は蝶屋敷の家事全般に加え、夜目を生かした隠の後方支援。さらには、緊急事態には昨日のように体を張って鬼殺隊を守ることもある。しのぶの目から見ても相当頑張っていた。

 姉のカナエも弦司の働きに非常に満足している。お館様に掛け合って弦司の要望に応え、屋敷を増築したぐらい大変満足している。それでも不満顔なのは、全く自身と共に任務をする機会がないからだ。

 しのぶは溜め息を吐くと、よく冷えた茶碗を手に取る。中には、茶碗蒸しと相違ない薄黄色の柔らかい物が入っているが、それは見た目だけだ。弦司が作った『ぷりん』という洋菓子だ。

 ぷりんを匙で口へ運ぶ。口に広がる優しい甘み。茶碗蒸しと近い柔らかい食感も伴って、思わず頬が緩む。

 カナエは唇を尖らせ、空になった自身の茶碗を指で弾く。

 

 

「私と協力するって話だったのに、私とは一度も任務してないじゃない。それなのに、しのぶは家事に訓練に研究にお菓子に……毎日毎日楽しそうに共同作業して。こんなの不公平よ」

「家事は蝶屋敷の差配のため、訓練は私も不破さんも姉さんが強すぎて相手できないから、研究は毒と治療薬の開発のため。お菓子は姉さんだって食べてるじゃない。全部理由があるんだから、不公平とか楽しんでるとか、言いがかりはやめてよね」

「だって~」

「だってじゃない」

「私、柱なのに~」

「柱だからいなくても大丈夫でしょ。こっちは昨日、雨ヶ崎さんでも頚が斬れなかったんだから。不破さんが鬼を拘束してなかったら、ぞっとするわ」

「……そうだけど~。一回だけ、一回だけだから~」

「そんな恨めしそうに見てもできません」

「しのぶのいけず」

 

 

 カナエが半分おふざけ、といった感じにごねる。余裕がある証拠である。

 このように、弦司の鬼殺隊参戦は順風満帆だった。とはいえ、懸念事項もいくつかある。

 まず、弦司自体の戦闘能力と戦術だ。戦闘能力は……はっきり言って、そこまで優れていない。剣の才能はないし拳法は多少光るものがあるが、それだけだ。それにより取れる戦術は……言い方は悪いが『肉壁』だ。

 再生能力と腕力にものを言わせ、鬼の攻撃を受け止め拘束する。それ自体、かなり有効だ。雨ヶ崎――しのぶと同期の剣士で、以前のしのぶの勘違いにも全力で協力してくれた――のような一般剣士にとって、鬼の攻撃を躱し頚に迫るのは毎回命懸けだ。防御を弦司が請け負うのは、負担を相当減らしてくれる。

 しのぶにしても、致死量の毒を打ち込まなければならない。鬼が動けば動くほど、当然毒を打ち込む機会は減る。弦司が拘束してくれるのは非常に有難かった。

 しかし、その戦い方は非常に危うい。弦司は自身の身を全く顧みないのだ。

 すぐに治るから、という問題ではない。誰かを守るため、自然と体が動くならまだいい。だが、彼の動きにはどこか自暴自棄な所が見える。おそらく、鬼に対する嫌悪感が心の根底にあり、それが弦司自身にも適用されているのだろう。自身は鬼だから、いくらでも傷ついてもいい……その在り方は、非常に危うい。何か取り返しのつかない事態に陥る前に、改善する必要があるだろう。

 そしてもう一つ――むしろ、しのぶの中で、懸念の九割九厘を占める――問題がある。

 

 

 それはカナエと弦司の関係だ。

 

 

 この二人かなり仲が良い。おっとりしつつも芯の強いカナエには珍しく、弦司に対しては甘えを見せる。弦司もカナエとは会話が弾むのか、蝶屋敷にカナエがいれば必ずと言っていいほど話している。それを見て、周囲は言うのだ。

 

 

 ――この二人、いつから付き合っているの。

 

 

 付き合ってなどおらぬ。付き合ってなどおらぬのだ。

 しのぶは何度も周囲に説明するが、誰もが微笑ましいものを見るような生暖かい目で見てくる。あの音柱・宇随天元、さらには岩柱・悲鳴嶼行冥まで同じような目で見てきた。

 おかしい。こんなの間違っている。

 こんな奴、と弦司の粗を探してみるが、先からの説明の通り彼の功績は悪くない。むしろ、一般隊士よりよほど働いている。特にしのぶは鬼の研究や鬼殺などなど、鬼殺隊一弦司の恩恵を授かっているかもしれない。

 しのぶは危機感を持った。これはまずい。これが所謂、外堀を埋めるというやつなのではないか。

 このままではダメだ。しのぶにも何がダメなのかよく分からないが、とにかくダメだった。

 不機嫌な姉を見ながら何か対策を……と考えていると、部屋の襖が開く。全ての元凶、弦司だった。

 

 

「カナエ、しのぶ。少し時間もらえないか?」

「弦司さん」

 

 

 弦司を見て、カナエが笑顔に変わる。さっきの不機嫌はどこかに行っていた。それがまた、しのぶには不愉快でついつい弦司を冷ややかな目で見てしまう。

 

 

「不破さん、何の用ですか? 今、あなたの無茶ぶりを姉さんに報告していた所ですよ」

「えっ!? いや、あれは鬼が思ったよりも早くてどうしようも――」

「後で二人きりでお話ししましょうね、弦司さん……それで、用件は何?」

「えっ!? だからあれは――」

「ご用件は?」

「……ごめんなさい。それでご用件は、えっと――」

 

 

 自然と正座になった弦司。何やらしばらく目を泳がせた後、

 

 

「拗れてしまいました……」

「? 拗れたって何が?」

「……別れ話が」

「え?」

「恋人……環との別れ話が拗れてしまいました」

「ええ?」

「話し合いの場を設けてもいいでしょうか?」

 

 

 言い、土下座する弦司。

 しのぶはカナエを見る。眉尻を下げて困惑していた。きっとしのぶも同じような表情だろう。

 

 

「事情を伺ってもいいかしら?」

 

 

 カナエが尋ねる。まずは事情を知らなければ、答えようがない。

 弦司は頭を上げる。

 

 

「その……最近の功績で、私信の許可が出たよな」

「ええ、鬼だからって理由で今までどこにも連絡できなかったものね。今回の許可で、ご家族に手紙を出したらって勧めたのは私だもの。覚えているわ。それで、どうしたの?」

 

 

 しのぶもそれは覚えている。手紙の内容の相談もされた。自身の体について、全て話しても問題ないか、と。書く事自体は構わないが、どのような内容にせよ、覚悟を持って伝えるべきと、その時は答えた。

 弦司が俯き、苦悩をその表情に浮かべる。

 

 

「全部、正直に書いた。狂ってると思われてもいいから、今の気持ちも全部書いた。手紙で終わらせようとするのは、不誠実だとは思ったさ。でも、いつ治るか分からない体なんだ。将来を思えば終わらせるべきだと思ったんだ……最後に会ってから八か月も経ってたしな」

「……それで、別れの手紙を送ったの?」

「ああ。それで返信が来て……絶対に嫌だって。少なくとも、顔も見せずにそんな話、絶対に受けないって。両親からも似たような内容が来た……」

「……」

「だから、直接会って終わらせたい。ダメか?」

 

 

 しのぶもカナエも、すぐに言葉が出なかった。

 恋愛経験なんてあるわけないので、恋人の気持ちはよく分からない。でも、二十を過ぎて八か月も待たされて、それでも一緒にいたいという気持ち……それは非常に尊いはずだ。

 それに、全てを知って受け入れてくれる家族がいる。それも貴重な事だ。しのぶには弦司が間違っている気がした。

 

 

「困ったわね」

 

 

 カナエがぽつりと呟く。困った……その言葉の真意がしのぶには分からない。弦司がいなくなって、何が困るのだろうか。

 彼が鬼殺隊を抜けたら、恩恵を受けているしのぶは確かに困る。しかし、カナエには何の影響もないはずだ。しのぶにしても、今の状況がおかしいだけ。元に戻るだけである。

 しのぶは首を傾げる。

 

 

「姉さん、何が困るの?」

「えっ……だって弦司さん、やっと鬼殺隊に馴染んできたのよ? いきなり抜けられたら、しのぶも困るでしょ?」

「いや、そういう問題じゃないよね? 今、鬼殺隊にいるのは、不破さんを監視・管理するのが目的でしょ。もし、家族がちゃんと受け入れて管理する意思があるのなら、これまでの功績もあるし、鬼殺隊で縛る必要はないじゃない。もちろん、不破さんの意思も考える必要はあるけど」

「あっ……! そ、そうよね。すっかり馴染んでたから、気づかなかったわ~」

 

 

 気まずそうに、引き攣った笑みを浮かべるカナエ。何かおかしい、と思いしのぶはある推測が思い浮かぶ。

 

 

 ――まさかこの二人、本当に付き合っているのではないか!

 

 

 そう考えればカナエが困るのも、弦司が頑なに別れようとしているのも納得がいく――とまで考えて、さすがに想像が過ぎると思い直す。何より、二か月前はそれで突っ走って大恥をかいたのだ。同じ事態はご免被る。

 そもそも、カナエのような素敵な女性が、二股なんて許すはずがない。そう、はずがないが……それでも万が一、億が一が心配になる。

 それを阻止するには……としのぶはある妙案が思いつき、とある提案をする。

 

 

「別れる、別れないは一先ず脇に置いて、私は会うのは良いと思う。何だったら、私が話し合いの場にいてもいいわ」

「しのぶ?」

「その方が、不破さんの事情も円滑に説明できるでしょ。何を選択するにしても、正しい情報は必要だわ。姉さんはどう思う?」

 

 

 何て言いながら、しのぶは全く別の事を頭の中で思い描く。

 話し合いの場に乗り込んで、別れ話をしようとする弦司。そこをしのぶが、逆にいい感じに取り持ち、そのまま二人をくっ付けさせるのだ。弦司も幸せになれて、しのぶも姉の不純交遊が一掃できる。一石二鳥である。

 カナエはしのぶの心中が分からないのか、困惑気に頬に手を置く。

 

 

「……それは、そうだけど。しのぶはそれでもいいの?」

「不破さんもご家族も、本来なら鬼殺とは無関係の一般人よ。何をするにしても、支援は必要だわ」

「……そう。それじゃあ、そうしようかしら。弦司さんもそれでいい?」

「ありがとう、本当に世話をかける、しのぶ、カナエ……でも、本当にいいのか?」

「いいわよ。困った時はお互い様だし。それに、別に私は不破さんの味方じゃないわよ? 下らない理由なら、ご家族の味方になるから」

「肝に銘じておこう」

 

 

 色々理屈はつけてみたものの。結局はしのぶには、このまま別れさせるのが正解とは思えないのだ。弦司と環は結ばれるべきである。ついでに、変な噂も事実にならないよう、ここで潰させてもらう。

 ――この時のしのぶは、そんな風に簡単に考えていた。

 

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