帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者 作:竜の蹄
陽はガオズロックに拾って貰い、テトムに事の顛末を話した。新たなデュークオルグ、ヒヤータ…そして狼鬼…。
「…シロガネが…」
テトムもショックを隠せない様子だ。陽は悔しそうに俯く。
「…まさか大神さんが…オルグに操られてしまうなんて…」
未だに信じられない。あの大神が、オルグの術中に囚われたなんて……テトムは力無く、首を振った。
「……シロガネが狼鬼となるのは、此れが二度目……一度は1000年前に、オルグを倒す為に自ら鬼面を被り、狼鬼と化してしまった。だから、シロガネは……」
陽は知った。何故、1000年前の人間である大神が現代に生きているのかを……彼は1000年前、当時、最強と謳われたハイネスデューク・百鬼丸を倒す為に自ら、オルグに身を堕とした。その結果、人としての自我を無くした彼は、かつての仲間達により封印を望み、1000年間も眠り続けていたのだ。
「おい、ちょっと待て! 今、シロガネって言ったか⁉︎」
黙り込んでいた男は驚いた様に尋ねる。さっきの戦いの後、彼もまた、ガオズロックに連れて来たのだ。
「何という事じゃ……まさか、シロガネが……!」
「……貴方、紫色の布を巻いた小刀を持っていたわね…それを見せて下さい」
テトムは男に言った。すると男は懐より、小さな刀を取り出し、テトムに手渡した。
「これは…やっぱり、おばあちゃんの……‼︎」
「おばあちゃん? それは、ワシが昔、ムラサキから貰ったもんじゃ」
「……ムラサキ……私は先代ガオの巫女ムラサキの孫よ……」
テトムの言葉に男は驚いた様に見て来た。
「孫ォ⁉︎ お前さん、ムラサキの孫なんか⁉︎ ……言われて見れば、ムラサキに生き写しじゃァ⁉︎
ムラサキ、何時の間に子を成した⁉︎ いや、それ以前に、こんな大きな孫が居たとは⁉︎」
男は興奮の余り、テトムの肩を掴み揺さぶる。テトムは痛そうに顔をしかめた。
「そ…そうですから、落ち着いて……‼︎ ひょっとして、貴方も1000年前のガオの戦士なんですか⁉︎」
今度は、テトムが聞き返す。
「1000年前? ……そうか、もう1000年も経っていたんか……通りで周りの景色が変わっとる筈じゃ。
時に、ムラサキの孫よ……ムラサキは元気か? お前さんが、こんなに育っとると言う事は、もう相当な婆さんに成っとる筈じゃが……」
男の言葉に、テトムは俯いた。
「………おばあちゃんは死んでしまったわ……もう200年になるかしら……」
「し…死んだ…? ムラサキが…?」
男はフラフラと、よろめいた。
「なら……他の皆は?」
男の問いかけに対し、テトムは首を振りばかりだ。それを見れば、男は彼女が何を言いたいか否応無く理解した。
「……そうか……皆、居らん様になってしもうたか……。
1000年……人が変わるには充分過ぎる時間じゃァ……」
「あ…あの…」
話の輪に入り込めなかった陽は、思い切って会話に参加を試みた。
「貴方が、1000年前の人間なら……貴方は一体……」
そもそも、この男の素性が知れない。
突然、現れてガオレンジャーとなって圧倒的な力を見せつけた戦士ガオグレー。そして話を聞いて見れば彼も、1000年前に戦っていたガオの戦士だと言う。
男は、陽を見ながら応える。
「ワシか? そうじゃったな……まだ名乗っとらんかったな。
ワシは……ウーム、これはイカンのォ……何しろ、1000年前の事じゃからな。思い出せん……まァ、良いじゃろう。
名無しと言う訳にイカンから、取り敢えず周りの人間に合わせて『佐熊力丸』と名乗って置こう」
謎の男改め、佐熊力丸は名乗った。
「佐熊……力丸? どうして、その名を?」
陽の問いに対し、佐熊は肩を竦ませる。
「サァての……ふと頭を浮かんだ名前じゃ……ま、何にせよ宜しくな……えっと、陽じゃったか? お前さん以外の、ガオの戦士は皆、やられたのか?」
「え、ええ…オルグ達の奇襲を受けて……」
実際の所、陽がガオレンジャーに加わったのは、ガオレンジャーが敗北した後なので、陽は厳密に他のガオレンジャーと関わりがある訳では無い。
「…でも、仲間が居てくれたのは心強いです‼︎ これで大神さんさえ居てくれたら……」
陽は気落ちした様に俯く。その沈んだ様子に見兼ね、佐熊は慰めて来た。
「辛気臭い顔をするな! シロガネは、オルグなんぞに操られたままで居る様な弱輩じゃ無い! 奴を正気に戻す方法は、きっとある筈じゃ‼︎」
そう佐熊は陽気に励まして来た。大神は寡黙でロンリーウルフのイメージが強いが、佐熊は豪快な兄貴分といった具合だ。どちらも陽には非常に頼りになる存在だ。
「ねェ、一つ聞きたいんだけど……」
テトムは佐熊に話し掛けた。
「貴方が1000年前の人間なら……貴方は1000年間の間、一体何を? 」
テトムの疑問も至極最もである。前回のガオレンジャーとオルグの戦いの際、ガオグレーは居なかった。
それが何故、今になって現れたのか?
佐熊は急にシリアスな面持ちとなった。
「お前さんの言いたい事は分かる……ワシが何故、今になって現れたか…それには事情があった…ワシは1000年間、地上には居なかったからな」
「地上に居なかった?」
突然の言葉に、陽もテトムも理解が出来なかった。佐熊に岩で出来た椅子に腰を下ろす。
「1000年前……ワシはシロガネや他の仲間達と、オルグ相手に戦っていた。しかし……突如、オルグの王を名乗る奴が現れてから戦況は一変した」
「百鬼丸ね…?」
テトムの言葉に、佐熊はコクリと頷く。
「そうじゃ。ワシ等は、百鬼丸を倒す為に策を練らねばならなんだが……それと同時に、もう1人現れたのよ…オルグの王がな」
「オルグの王が……もう1人⁉︎」
思わず、テトムは絶句する。陽は百鬼丸を知らないが、テトムや佐熊の様子を見れば如何に強大なオルグだったか分かる。
「そいつは……オルグが死んだ後に辿り着くとされる場所……ワシ等は『鬼地獄』と呼んどるが……百鬼丸が地上で暴れ回るのに呼応し地上に姿を現した。名を『ヤマラージャ』…又の名を『閻魔オルグ』と呼ばれる厄介な奴じゃ……」
「閻魔……オルグ……‼︎」
テトムは戦慄しながら呟く。陽も、その大層な異名に不安を隠し切れない。
「閻魔オルグなら知ってる……鬼地獄、鬼霊界を統括する最強のヘル・ハイネスデュークだよ」
それ迄、沈黙を貫いていたこころが口を開く。佐熊も厳しい表情で話を続けた。
「奴は鬼地獄の支配だけじゃ飽き足らず、地上の支配にまで手を伸ばした……奴等、ヘル・オルグは死ぬ事が無い。故に悠久の時を有している。奴からすれば、地上の支配は暇潰しの延長、ただの遊戯でしか無い訳じゃ…!」
「暇潰しの為だけに地上の侵略? 馬鹿げてる‼︎」
陽は声を荒げながら叫んだ。オルグ達からすれば、人間の蹂躙など取るに足らない事なのかも知れない……しかし、人間からすれば傍迷惑この上無い話だ。
「お前さんの気持ちは分かる……当時はワシ等も、そう思った。しかしの……所詮、オルグにとって人間なぞ、その程度の存在でしか無い……兎にも角にも、ワシ等は地上で暴れ回る百鬼丸、地下から迫る閻魔オルグを二重に相手にせねばならなくなった。百鬼丸と閻魔オルグの間では互いに’’不可侵’’が決められて居た。先手が地上の支配を達成した場合は後手は其れに従う……ムラサキは多いに悩んだ。百鬼丸と対峙すれば、閻魔オルグが攻めてくる。閻魔オルグを対峙すれば、百鬼丸が地上を征服する……八方塞がりじゃ」
佐熊の顔から苦悩が滲み出ていた。余程の辛酸を飲まされる事態だったと容易に理解出来る。
「悩み抜いた末に、閻魔オルグを封じる作戦に打って出た。さっきも言ったが、鬼地獄のオルグは殺す事が出来ん。
だが、奴の力さえ封じてしまえば閻魔オルグは、鬼地獄より身動きが取れなくなる。しかし、それには誰かが鬼地獄に残る必要がある……そこで、ワシはその役を買って出た」
「それって……貴方が’’人柱’’になったと言う事⁉︎」
テトムは驚いた。閻魔オルグが動き出さない様に自身も鬼地獄に残り封じられる……その最も損な役回りを彼は自ら志願したと言うのだ。
「勿論、仲間には猛反対された。ムラサキやシロガネからもな……しかし、他に方法が無い。何より……百鬼丸が地上に残る以上、それを撃退する人間も必要じゃ。
計画は上手く行った。ワシは生きたまま鬼地獄に堕ち自身の魂を使って、ムラサキが強力な結界を張る事で閻魔オルグを鎮める事に成功した。
だが……同時に、ワシも鬼地獄より出る事も身動きも取れん様になった。しかし幸か不幸か、ワシの意識は辛うじて保つ事が出来た。それに、鬼地獄には時間と言う概念が存在せん。だから、ワシは老いる事も朽ちる事も無く、閻魔オルグを監視し続けた。じゃが……」
此処に来て、佐熊の顔は曇る。
「力を封じられ、身動きが取れん筈の閻魔オルグが抵抗し始めたのじゃ。1000年も経った影響で、ムラサキの結界が綻びを生じた……だが、この結界は閻魔オルグ専用、奴も完全には封印を解除するに至れん。しかし……ワシも不覚を取った。閻魔オルグの奴、ワシが長きに渡る封印により疲弊していた所を突き……ワシを鬼地獄と人間界の狭間にある’’三途の川'‘と呼ばれる場所へと捨ててしまいおった。
既にワシは、閻魔オルグの封印に力の大半を使い果たしてしまって川から抜け出す力も無かった……そんな時、ワシを川から救い上げてくれた奴が居った……今思えば、あれはムラサキじゃった気がするの……」
「おばあちゃんが⁉︎」
ムラサキの名が出て、テトムは顔色を変えた。
「……ああ。ムラサキが、ワシに言ったんじゃ。『皆を助けて』……とな。ワシは声に導かれ……気が付いたら、何処かの山中に居た。其処でワシは、こいつを貰ったんだじゃ」
そう言いつつ、佐熊は左腕のG -プレスフォンを見せた。
「ワシが気が付くと左腕にこいつが嵌められていた。後は、こいつに導かれて、お前さんの所へやって来たと言う訳じゃ」
「…そうだったんだ…」
佐熊の長い話に、陽達は開いた口が塞がらない。閻魔オルグ、鬼地獄….…。
「ひょっとしたら、オルグの復活やガオネメシスも閻魔オルグを一枚噛んでいる可能性が高いわね……」
「ガオネメシス? 何じゃ、そいつは?」
今度は、佐熊が尋ねる番だった。
「オルグに味方する謎の戦士だ……僕と大神さんが二人掛かりで挑んでも勝てないくらいに……」
「むゥ……1000年も経つ間に、地上もエライ騒ぎになっとるのォ……」
佐熊は深い溜息を吐いた。目醒めたばかりだと言うのに、現状に驚愕する間も無い。
「……とにかく! 私達は、新たに現れたヒヤータを倒す事に専念しましょう。大神の事は、その後ね……」
テトムは言った。大神の事は現状、なす術が無い。陽は大神を思い天を仰ぐ。
その際、泉が荒れ始めた。
「オルグだわ‼︎」
テトムが叫ぶ。だが、陽は茫然としたままで慌てる素振りを見せない。その様子に、佐熊は語り掛けた。
「陽よ…此処で悩んでいても始まらん。オルグを追えば、シロガネに繋がる。行くぞ‼︎」
佐熊に促され漸く、陽は走り出した。その際も、陽の脳裏には思案で埋め尽くされた。
「(大神さん……貴方と戦わなけれならないのか?)」
陽は不安になる。昨日までの仲間が今日は敵……下手をすれば、自分の手で大神を殺さなければならない……そんな言い様の無い不安が、陽を苛め続けた。
場所は人気の無い廃墟……辺りには明治時代頃の建物が墓標の様に立ち並んでいた。
其処に一人で佇むのは狼鬼だ。全く動作なく立ち続けている。すると、後ろからツエツエとヤバイバが現れた。
「なァ……こいつ、ほんと大丈夫なのか? 前みたいに急に元に戻るなんて……」
ヤバイバは不安そうに呟く。だが、ツエツエは自信満々だ。
「心配無いわ! 強力な邪気を注ぎ込まれ、今や私達の忠実な僕と化したのよ‼︎ それより、ヤバイバ! 言われた物は、バッチリ仕掛けて来た?」
「お、おう……コッチは完璧だぜ……だがよ、ツエツエ……お前、なんか大丈夫か?」
「大丈夫? 私は別にどうもしてないわ」
ヤバイバは、ツエツエがいつに無く自信に満ち溢れている姿に違和感を感じた。
「あのヒヤータって女、何かきな臭く無いか? 今回の作戦だって……」
「ふふ……心配無いわ、ヤバイバ。私達が下働きで使われるのも、もう少しの辛抱よ」
そう言いながら、ツエツエは妖しく笑う。だが、ヤバイバからすれば彼女の様子の違いに不安を拭いされずに居られない。
「……それに、狼鬼がこっちに居る限り、ガオゴールドは手も足も出ないわ」
「お…おう」
等と話をしていると……。
「オルグ‼︎ 其処までだ‼︎」
突如、陽と佐熊が駆け付けて来た。その様子に、ツエツエはニヤリと笑う。
「オホホホ‼︎ 鴨がネギ背負ってやって来たわね‼︎
覚悟なさい、ガオレンジャー‼︎ 此処が、あんた達の墓場となるのよ‼︎」
「オルゲット共、出番だ‼︎」
ヤバイバは、そう言うと多数のオルゲット達が出現する。
と同時に、狼鬼も動き出した。
「…ガオレンジャー…殺す‼︎」
敵は迎え撃つ気で満々らしい。ならば、陽達も容赦はしない。
「ガオアクセス‼︎」
2人は同時に光に包まれ変身した。
「天照の竜‼︎ ガオゴールド‼︎」
「豪放の大熊‼︎ ガオグレー‼︎」
2人の戦士が各々に名乗る。すると、オルゲット達が襲いかかって来た。
「ガオグレー‼︎ 迎え撃つぞ‼︎」
「よっしゃ‼︎」
「オホホホ‼︎ それ以上、前に進まない方が身の為よ‼︎」
ツエツエは、そう言うと悪辣に笑う。
「あんた達の周りには既に地雷が仕掛けてあるのよ‼︎ ガオレンジャーに反応して爆発する地雷がねェ‼︎」
「じ、地雷⁉︎」
ガオゴールドは周りを見た。地面には何も変化は無い。
「ハハハハ‼︎ これを見ろ‼︎」
ヤバイバが手に持つ石を握ると突如、左の地面が爆発した。
「一歩でも足を踏み込めば……あんた達はドカーーンよ‼︎
更に……」
そう言って、ツエツエは小さな女の子を連れて来た。
「さァ、この娘の命が惜しければ……」
「ガオサモナーブレット‼︎」
そう言って、ガオゴールドは遠距離からツエツエを狙撃した。すると少女は弾き飛ばされてしまう。
「い、いきなり撃つんじゃ無いわよ‼︎ それより、子供が……」
「悪いけど、二度も同じ手に引っかかる程、馬鹿じゃないんでね」
ガオゴールドは冷たく吐き捨てる。すると、地面に転がる少女はオルゲットに姿を変えた。
「な……バレた⁉︎」
「地雷じゃと? だったら、ワシらは一歩も動かんで良い……ハァ‼︎」
ガオグレーは、そう言うとグリズリーハンマーを振り下ろした。すると衝撃の振動で大地は揺れ、辺りが爆発した。
「な…嘘…」
「もう、バレバレなんだよ……お前達の行動なんか」
「く…く…」
こう何回も戦えば手の内も見えて来る……ハッキリ言って、ツエツエとヤバイバは、ガオゴールド達には脅威では無い。
「ふ、ふん‼︎ 余裕ぶってられるのも今の内よ‼︎ 狼鬼、行くのよ‼︎」
ツエツエは命令を出す。すると、狼鬼は三日月剣を構えて斬り込んで来た。其れをガオゴールドは、ドラグーンウィングで受け止める。
「ガオゴールド‼︎ 雑魚共は、ワシに任せい‼︎」
そう言って、ガオグレーはオルゲット達を次々に叩き潰して行く。ガオゴールドは狼鬼に集中した。
「く…大神さん‼︎ 目を醒まして……‼︎」
諦めずに狼鬼に語り掛けるも、狼鬼には届いていない。
すると、その時、辺りに歌が響き渡る。
其れは澄んだ川のせせらぎの様な優しい歌だ。
「な⁉︎ この歌は⁉︎」
ガオゴールドは思わず耳を傾ける。ガオグレーも戦いながら、歌を聴いていた。
「これは響きの調べか⁉︎ 懐かしい……‼︎」
思わず心が洗われる様な穏やかな気持ちになる…そんな歌だ。
「これは、ガオの巫女が歌ってるのね⁉︎」
「おい‼︎ 狼鬼を見ろ‼︎」
ヤバイバは狼鬼を指差す。すると狼鬼は苦しげにのたうち回っていた。
「うおォォ……俺は…俺はァァァ……‼︎」
戦いの最中に関わらず、狼鬼は頭を抱えて苦しんでいる。
「どうして狼鬼は⁉︎」
「きっと、ムラサキの孫が歌ってるんじゃ‼︎ あの歌には魂を癒す力があると、ムラサキから聞いた事がある‼︎」
ガオグレーは推測した。その間も歌は流れ続けた。
テトムの歌は狼鬼の心を揺さぶり掛ける。益々、狼鬼は鬼面を掴んでのたうち回った。
「うおォォォォ‼︎‼︎ 止めろ、その歌を止めろォォォォ‼︎‼︎」
これでは闘いにならない。ツエツエは舌を打つ。
「仕方ない……計画より速いけど……」
そう言って、ツエツエは杖を振りながら呪文を唱えた。
〜鬼面が宿し、鬼の魂……今こそ、その力を解き放て‼︎〜
すると、狼鬼の目は紅く染まる。途端に狼鬼は見境なく暴れ始めた。
「な、どうしたんだ‼︎」
「オホホホ‼︎ その鬼面にはね…邪気を増幅させる術が仕掛けにあったのよ‼︎ 力は増幅されるけど自我は喪失する…ただ目の前にいる敵を倒し尽くすまでね‼︎」
ツエツエの言葉通り、狼鬼は敵味方関係無く攻撃を始めた。
「さァ、ヤバイバ…後は狼鬼に任せて、私達は一時退散よ‼︎」
「ああ…つまり逃げるんだな?」
そう言い残しながら、ツエツエとヤバイバは鬼門の中に消えて行った。残された狼鬼は、ただただ暴れ回るだけだ。
「グアアァァァッ‼︎」
完全に狂戦士と化した狼鬼は激情に任せて攻撃を繰り返す。
「ワシに任せい‼︎」
「‼︎ ガオグレー、危ない‼︎」
ガオゴールドが止める間も無く、ガオグレーは狼鬼に掴みかかる。
「いい加減にせい‼︎ シロガネ、目を覚さんかァァァ‼︎」
そう叫ぶと、ガオグレーは狼鬼の顔を殴り付けた。その際に鬼面の一部が砕けたが、さしてダメージは与えられずに狼鬼が返し様に斬り付けてきた。
「ガァァァァ!」
獣の如き咆哮を上げる姿は、さながら狼だ。ガオグレーは斬撃に下がりながらも、なおも狼鬼に叫ぶ。
「チィ…まだ目が覚めんか…ムラサキの孫‼︎ 歌を‼︎」
ガオグレーは、空に怒鳴った。すると、再び響きの調べが聴こえてきた。
響きの調べは狼鬼の動きを緩めた。ガオグレーは狼鬼を羽交い締めにした。
「ガオゴールド‼︎ 鬼面を叩き壊せ‼︎ 早く!」
必死に抜け出そうともがく狼鬼を抑えつけるガオグレー。
意を決して、ガオゴールドはドラグーンウィングを握る手に力を込める。
「竜翼…日輪斬りィィィ‼︎‼︎」
ドラグーンウィングから放たれる金色の斬撃が円形を描きつつ、狼鬼の仮面に直撃した。
すると、鬼面は粉々に砕け散った。
「やったァ‼︎」
鬼面は砕け地面に落ちて行く……だが、狼鬼の顔は……。
「なに⁉︎ 鬼面が⁉︎」
狼鬼の顔を見て、ガオゴールドとガオグレーは驚愕する。
砕いた筈の鬼面の下に更に鬼面があったのだ。
その隙を突き、狼鬼はガオグレーを突き飛ばし拘束から抜け出した。
「ぬぅ…シロガネェ…‼︎」
悔しげに、ガオグレーは唸る。其れを嘲笑うかの様に、狼鬼は怒りの唸りを上げた。
〜新たな戦士、ガオグレーの力を加えても狼鬼の呪縛を解く事は叶わない。果たして、ガオゴールド達は狼鬼の仮面の洗脳から、ガオシルバーを救い出す事は出来るのでしょうか⁉︎〜