帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者 作:竜の蹄
鬼ヶ島の一室……ヒヤータは一人、鬼棋を指していた。
口元を扇子で隠し、駒を進める。
「思いの外、やるわね……でも、此処までは全て計算済み……」
ヒヤータはクスクスと、ほくそ笑む。
「問題なのは、ガオネメシスね……あの男は得体が知れないわ……」
そう言って、鬼棋の駒の一つを持ち上げる。
「けど問題無いわ。ガオレンジャーもガオネメシスも……テンマ様でさえも、私の棋盤の上の駒同然……駒を活かすも殺すも私の采配次第……」
ヒヤータは妖しく微笑む。そして、駒を置くと……。
「……狼鬼は此方側にあり、後はガオゴールドだけ……彼を如何するか……」
彼女の言葉に反応して突如、思い付いた様にクスクスと笑った。
「ならば……’’地獄の歌姫’’に任せましょうか…」
そう呟き、ヒヤータは後ろに控える狼鬼を語り掛ける。
「狼鬼、仕事よ。地獄の歌姫に同行し、彼女を補佐しなさい。ガオレンジャーが現れれば、闘うのよ。勿論、本気でね?」
「…御意…」
狼鬼は感情の無い声で了承し、鬼門の中へと消えて行った。
残されたヒヤータは立ち上がる。
「…さて…私も、そろそろ行動に移しましょう……」
場所は変わり、とある一室では……。
「さァ、時間だ」
スーツを纏った眼鏡の青年が、鏡の前に腰を下ろす少女に言った。だが、少女は浮かない顔で首を振る。
「私、もう嫌だよ……こんな事……」
「今更、何を言ってるんだ。君が此処まで売れっ子になったのは誰のお陰だ?」
青年は厳しい口調で叱責する。少女は拳をギュッと握る。
「それとも昔の様な暮らしに戻りたいか? 周りの人間から罵声を浴びされ石を投げつけられる惨めな暮らしに……」
「………」
少女は黙ったまま、涙を流す。
「君の歌を待ってくれている人が居る……それを裏切る訳には行かないんじゃ無いか?」
「分かってるよ……でも……」
「今や君の人気は右肩上がり……このまま流れに乗って、ファンを増やしていくんだ。君の歌に心奪われて、それこそ’’何でも従う’’忠実なファンをね……」
眼鏡の青年は邪悪に笑う。少女は息が詰まりそうになるのを、必死に耐えている様子だ。だが、遂に少女は立ち上がる。
「分かったよ……行こう……」
「よし、それでこそ’’アイドル’’だ。さァ、ライブが始まる。今宵も君の歌で人々を酔わせてやるんだ」
青年に急かされ、少女は部屋から出ていく。ドアに貼られたポスターには豪奢な衣装、煌めくばかりに満面の笑顔で歌う少女の姿が写し出されていた。
「ほら早く早く‼︎」
竜胆市にあるライブ会場……其処で急かす様に、舞花は叫ぶ。
「……もう、舞花……はしゃぎ過ぎだよ‼︎」
祈は息を切らしながら走って来る。
「だって待ち切れないよ‼︎ 今、大人気の少女シンガーアイドル『真魅』の単独ライブ! 倍率高過ぎて中々、チケット手に入らないんだから‼︎」
舞花は興奮した様にチケットを見せる。
「でも、よく手に入ったね……それ、ネットオークションで買おうと思うなら目玉が飛び出るくらい、高額なんでしょう?」
「ふふ…昇さんがくれたんだ! 」
舞花はぴょんぴょんと跳ねる様に話した。
「でも良いかな? 昇さんや猛さんも一緒に来る筈だったんでしょう? 今日のライブだって、猛さんが楽しみにしてたんじゃない」
「良いの良いの! 昇さんはバイトだし、バカ兄貴はテストで赤点だったから追試受けなきゃだし……折角、3枚あるチケットを無駄にしちゃったら勿体ないでしょ!」
「それで僕達を誘ったのかい?」
祈の後ろから、陽がやって来た。
「そ、だって私も祈も中学生だもん。保護者同伴じゃ無いと、入れて貰えないのよ」
「成る程ね……でも、猛は気の毒だな。アイツが追っかけしてた子だし……」
そう言いながら、猛の顔を思い出す陽。今日も、しきりにライブに行きたがったが昇に
「追試をサボったら、留年になるぞ」
と一蹴され、泣く泣く諦めたのだ。
「ふふふ! だから、今日は目一杯楽しんでやるの! 兄貴には、後でライブの動画を見せてやれば良いし」
「もう、舞花ったら……」
「舞花ちゃんらしいね……」
きっと今頃、悔し涙を流しながら追試を受けているであろう猛を若干、気の毒に思いながら陽は苦笑する。
陽本人も元々、アイドル等には興味が無かったが、祈と舞花に「偶には息抜きしなきゃ」と誘われ、参加したのだ。
思えば、ここ最近はガオレンジャーとして戦い続けていた為、骨休みには丁度良いかも知れない。
陽としては、オルグや大神の事が気掛かりだったが、テトムからも「楽しんで来れば良い」と言われた。
パンフレットに写し出された少女の写真と挿入された見出しを、陽は何気無く眺めた。
ー天才少女シンガー、始まりは動画投稿からだった
人生の苦境から立ち上がった奇跡のアイドル、真魅‼︎ー
随分とデカデカ持ち上げた見出しだ。写真には満面の笑顔が眩しく楽しそうに歌う少女……年齢は自分と同年代か少し下か……。
だが、陽に写真の少女から妙な違和感を感じずに居られなかった。理由は不明瞭だが……。
「ほら、もうライブ始まっちゃう‼︎」
舞花に促された為、祈も陽の手を取って
「兄さん、今日は楽しもう?」
と、声掛けた。久しく見る彼女の笑顔に陽も、今日くらいは戦いを忘れる事にした。
3人が会場に入ると既に人が足の踏み場なしと言わんばかりに、ひしめき合っていた。
暗いライブ会場内に、ライブが早く始まらないかと言う小声がヒソヒソと聞こえて来る。
「祈、大丈夫か?」
足場が悪い為、祈が転ばないように気に掛ける陽。
「平気よ…兄さんこそ大丈夫なの?」
「うん……まぁね……」
もう祈には、ガオレンジャーの事を隠す必要が無い為、包み隠さず話す様にしていた。
陽が大神の事を気掛かりとしている事は祈も周知だった。
だが、それ以上に陽の事を祈は心配していた。
なるべく心配掛けない様に陽は気丈に振る舞うが、無理をしているのは祈にも察している。
今日のライブに陽を誘う様に舞花に頼んだのも、祈が陽の気晴らしになれば、と考えた末だ。
「それでは、お待たせしました! ティーンズ世代から絶大な指示を受けるシンガーアイドル、真魅の登場です‼︎
盛大な拍手で、迎えてあげて下さい‼︎」
アナウンサーの言葉が響き渡る。すると薄暗い室内にてライトが舞台を照らす。幕が上がり、舞台の上に佇む小柄で可憐な少女が現れた。
「みんな〜‼︎ 今日は真魅のコンサートに来てくれてありがとう〜‼︎ 今日は最後まで帰らないでね〜‼︎」
「真魅ちゃーん‼︎」
「素敵〜‼︎」
「可愛い〜‼︎」
「こっち見て〜‼︎」
観客スタンドから黄色い声援が轟いた。
アナウンサーの言葉通り、観客は10代の男女、ちらほらと20代と思しき姿もある。幅広い、と迄は行かなくとも多くのファンから親しまれていると見える。
現に舞花も真魅の姿に狂喜していた。
「真魅ちゃん、素敵〜‼︎ 」
その姿は普段のボーイッシュな彼女とは思えない。陽は、驚いた様に舞花を見た。
「舞花ちゃんって、あのアイドルの事がそんなに好きだったんだ……」
陽のポツリと漏らした言葉に、隣にいた祈も困惑していた。
「……私も初耳。舞花って、アイドルとか全く興味ない娘なのに……」
「どう言う事?」
祈の不可解な言葉に陽は眉を潜めた。
「元々、真魅ってアイドルのファンだったのは猛さんだったの。舞花は最初は歯牙にも掛けない態度だったのに突然「真魅のライブに行きたい!」って言い出したのよ」
「突然?」
「そう。昇さんも、舞花が今日のライブに行きたいって言い出した時は驚いたって……」
陽は周囲を見て回した。確かに言われてみれば、このライブ会場全体が妙な違和感を感じる。
ファンに統一性が無い。あたかも、手当たり次第に真魅を好きになった様な……言い方を変えれば、にわかの集まりに見える。だが、誰も彼も彼女に対し熱狂的な声援を送る。まるで、何かに取り憑かれた様に……。
陽は何か嫌な予感がした。そんな彼を尻目に。ライブは始まる。
「じゃあ、行くよ〜‼︎ 真魅のファーストデビューシングル『おにLOVEセンセーション』‼︎」
真魅は歌い始める。そんな彼女に合わせ、ファンの皆は一糸乱れぬ応援を始めた。真魅は気持ち良さそうに歌い続け、ファンもそれに応えて合いの手を入れたり、声を裂ける程に金切り声を上げたりと、会場は騒音の渦だ。
だが不思議な事に、陽は彼女の歌がまるで心に響かない。例えるなら、雑音を聴かされている様な不快感を感じる位だ。
そして、祈も同様に歌を聴く度に、今にも吐きそうになる迄に青ざめていた。
「祈、大丈夫⁉︎」
ただならない妹の様子に陽は語り掛けた。祈は気持ち悪そうに見た。
「兄さん……私、なんか気持ち悪い……」
陽は祈の肩を抱いてやると、一先ず会場から出る事にした。
舞花には「祈を医務室に連れて行く」と告げたが、熱中している彼女は上の空だ。
一体感になりつつあるファンの間を潜り抜け、祈を連れて外に出た。
「どうしたんだ?」
そう陽は、祈をベンチに座らせた。
「……分からない……ただ、会場に入る前から少し気持ち悪くなったの……歌を聴いていたら益々、酷くなって……」
祈は不調の原因を訴えた。冷や汗をかきながら肩で息をする様子は急病なんかじゃ無い。
何か別の……。とにかく、こんな所から一刻も早く出なくては! 陽がそう考えた直後……。
「お客様、困りますね。まだライブは始まったばかりですよ?」
突然、声を掛けて来る眼鏡の青年。穏やかな様子だが、彼からも違和感を感じる。
「すいません、妹が体調を崩して…‼︎ 一先ず、此処から出してくれませんか⁉︎」
「それは困ります。ライブが終わる迄は誰一人と出す訳には参りません」
キッパリと断言する青年に、陽はムッとした様に叫んだ。
「料金は要りません! それより其処を退いて下さい‼︎」
「やれやれ……分からない人ですね、貴方は……」
青年は顔を両手で覆いながら言った。
「しかし……彼女の歌を聴いて不快感を感じると言う事は……どうやら、貴方達に歌の”支配”は効かない様ですね……」
「歌の……支配?」
言ってる意味が分からない。だが、青年はニタァッと笑う。
「ククク……直接、聴いて頂きましょうかネェ‼︎‼︎」
そう叫ぶと、青年の顔は歪みだし眼鏡がズレ落ちた。祈は悲鳴を上げて後ずさる。
するとスーツが破れて身体が大柄になって行き、肩がせり上がって肥大化した。やがて人間の顔が鬼の様な形相となり、頭から二本の角が生えてきた。
せり上がった肩は、スピーカーの様な形となった。
「オルグだったのか⁉︎」
「ヒヒヒ、その通り! ヒヤータ様の仰った通りだナ、ガオゴールド‼︎ このライブ会場そのものは別の意図があっての事だったんだが、本当に貴様も罠に掛かったネズミの如く引っ掛かって来るとは‼︎」
「クッ‼︎」
このライブから発せられる違和感の正体は邪気だった。だから、陽は憂鬱な気持ちになったし祈も体調が悪くなったのか……!
「私は、スピーカーオルグ‼︎ ヒヤータ様の命令で街に潜伏し機会を伺っていたのサ‼︎ 街中で騒ぎを起こせば、目障りなガオゴッドに嗅ぎ付けられてしまうのでね‼︎」
「潜伏していた? 何の為に⁉︎」
「ヒヒヒヒ‼︎ 自分の目で確認してみな‼︎」
スピーカーオルグが嘲笑う様に言った。陽はドアを開けて会場に入ると……。
「な……これは⁉︎」
会場内は異様な空間と化していた。観客達は全員、倒れ伏し舞台上では真魅が一人、歌い続けている。
「皆……倒れてる⁉︎」
「舞花⁉︎」
祈が舞花の下へと駆け寄る。舞花は倒れ、惚けた様な虚ろな目をしていた。
「舞花! 舞花‼︎ しっかりして‼︎」
「ヒィヒヒヒ‼︎ 無駄無駄ァ‼︎ 皆、歌の”毒”が回っている‼︎ オルグの歌がなァ‼︎」
「観客に何をした‼︎」
陽は、スピーカーオルグを睨み付ける。スピーカーオルグは高笑いだ。
「だから言ったろう‼︎ 毒が回っている、ってナ‼︎ 彼女の歌う歌に乗って邪気が流される。並の人間には邪気を感じる事なく、見る見る邪気に身体を侵食されて行き、気付いた頃にはすっかり邪気に毒されてしまう‼︎ しかし、お前達は邪気を感じ取る事が出来た為、助かった様だナ‼︎」
「よくも……‼︎」
あまりに姑息だが非道なやり口に、陽は憤りを見せる。
陽は怒りに任せ、G -ブレスフォンに手を掛けた。だが……。
「無駄だァ‼︎ 此処は我々の張った邪気による結界で、お前達は無力なのだ‼︎ お前達は、自ら餌となる為に皿に乗った鳥だ‼︎」
スピーカーオルグは狂った様に笑う。ガオゴールドに変身出来ないなんて……。これじゃ戦う事も出きない。
「フフフ‼︎ こう言う嗜好はどうかな⁉︎」
突如、スピーカーオルグは自身の肩にあるスピーカー状の器官から、大音量で曲が流された。
すると倒れていた観客達が動き出す。
祈の手の中に居た舞花もだ。
「ま、舞花?」
立ち上がった舞花は虚ろな表情のまま、立ち上がった。
他の観客達も同様だ。
「ハハハハ‼︎ 邪気の毒が念入りに効いた様だナァ‼︎ 今や、こいつらは忠実な兵隊だ‼︎ さァァァ、ガオゴールドを殺せェェ‼︎」
観客達は一斉に陽に襲い掛かる。皆、自我は無く操られるがままとなって、陽に暴行を加える。
「止めてェェェェ‼︎‼︎」
祈は狂うばかりに叫ぶ。だが、その声は虚しく響くだけだ。
歌によって心を狂わされた観客達には、彼女の悲痛な叫びは届かない。
「ハハハハ! 殺せ殺せェェ‼︎ ガオレンジャーを嬲り殺せェェェェ‼︎」
スピーカーオルグは益々、音楽を拡大させた。
陽に暴行を加える観客の中には舞花の姿もあった。
「クッ……‼︎」
暴行されながらも、陽は抵抗する事が出来ない。ガオゴールドにさえ変身出来れば、スピーカーオルグを攻撃出来るが、今の陽はただの人間。ましてや、オルグでさえ無い民間人に攻撃する事は彼に出来ない。
だが、このままでは陽は嬲り殺されてしまう。
「止めて……お願い……」
祈は座り込んだまま呟く。目の前で兄が殴る蹴ると言った仕打ちを受け、其れを見ている事しか出来ないなんて……!
自分は、余りに無力だ。操られた親友も人々も、望まれぬままに凶行を課せられているだけだ……。
力が有れば……自分に彼等を救える力が有れば……‼︎
「もう止めてェェェェ‼︎!」
祈は声高く叫ぶ。すると祈の頭の中が、カチッとスイッチが入った様に変わった。
まるで自分の意思とは関係無い者が入ってきたみたいに……。
その刹那、祈は立ち上がり手をかざす。すると彼女の手から光の波動が放出され、陽に殴り掛かる者達を吹き飛ばした。
「な、何だ⁉︎」
スピーカーオルグは突然の事態に慌てふためく。
操られていた観客達は、糸が切れた人形の様にドサドサと倒れた。
「い、祈…?」
様子が違う彼女に、陽も我が目を疑った。
今の祈は、何処となく神聖なオーラが身体を包み立っている様だ。
『下がりなさい、オルグよ。これ以上の狼藉は、私が赦しません‼︎』
祈が発した声は祈の声では無い。まるで第三者が、祈の身体を借りて話しているみたいだ。
「な、何者だ!」
「私は……‼︎」
と名乗ろうとした瞬間、フッと祈は意識を手放し倒れた。
「祈‼︎」
陽は痛みを忘れ立ち上がる。祈に駆け寄るが、彼女は気を失っている様だ。
その時、スピーカーオルグの怒りに震える声が聞こえた。
「何だか分からんが、奇跡は終わりだ‼︎
真魅、歌え‼︎ もう一度、歌うんだ‼︎」
舞台上に居る真魅に命令するスピーカーオルグ。だが、真魅は座り込んでいた。
「何をしている‼︎ 歌え、歌うんダ‼︎」
座したまま動かない彼女に、苛立ちながらスピーカーオルグは怒鳴った。だが、彼女は力無く首を振った。
「もうヤダ……歌いたく……無い……‼︎」
「チッ……何時迄、駄々を捏ねる気だ! さっさとやれ、この”混血鬼”が‼︎」
混血鬼……スピーカーオルグの発した言葉に、陽は訝しがるが、そう言ってられない。
バックバンドや警備員に扮していたオルゲット達が一斉に姿を現した。更には……!
「狼鬼‼︎」
陽は絶句する。狼鬼が、この状況で姿を見せたからだ。
スピーカーオルグは、ニヤリとほくそ笑む。
「こうなりゃ計画変更だ‼︎ 狼鬼、ガオゴールドを殺せ‼︎」
「……御意」
狼鬼は三日月刀を構え、陽に近付く。
「…大神さん…‼︎」
陽は切に願う。狼鬼の中に眠る大神の意思に届く様に、と……。だが、狼鬼は無言のまま、三日月刀を振り上げる。
ー止めなさい! 貴方は仲間に刃を下ろすつもり?ー
突然に響いた声に狼鬼は三日月刀を止めた。
まただ。また、あの声だ。途端に狼鬼は苦しげに呻く。
「俺は……俺は……‼︎」
絞り出す様な声で狼鬼は唸った。大神の意思が蘇ろうとしているのだ。
「何をしている⁉︎ さっさとやらないか、狼鬼‼︎」
スピーカーオルグは喚き立てるが、狼鬼は動かない。
業を煮やし、スピーカーオルグ自らが動き出した。
「ええい、もう良い‼︎ オルゲット共、やれ‼︎」
「ゲット、ゲット‼︎」
スピーカーオルグの命令に従い、オルゲット達が動き出す。
その時……。
「ゴールド、無事かぁァァァ‼︎!」
突然、閉じられていた扉が開かれた。すると、ガオグレーが室内に飛び込んできた。
「ガオグレー⁉︎」
「おお、生きとったか! テトムから邪気が密集しとる場所があると聞いて、飛んで来たんじゃ‼︎」
ガオグレーの姿を見て助かった、と陽は安堵した。
「馬鹿なァ⁉︎ 何故、中に入れる⁉︎ 」
スピーカーオルグは、ガオグレーの姿に驚愕した。
「貴様、よくもワシの仲間を……‼︎
グリズリーハンマーァァァ‼︎」
怒りに任せ、ガオグレーはグリズリーハンマーを振り下ろす。すると、会場は揺れて亀裂が生じ……崩れ落ちた。
「さァ、ガオゴールド‼︎ これで変身出来るぞ‼︎」
「ああ! ガオアクセス‼︎」
ガオグレーに促され、陽はG -ブレスフォンをかざした。
変身が完了し、ガオゴールドに姿を変える。
「く、クソォ! このままじゃ、ヒヤータ様に合わす顔が無い‼︎ やれ、やるんだ‼︎」
スピーカーオルグは、オルゲット達をけしかけてきた。
だが、ガオレンジャーに変身したならば、思う存分に戦える。向かってくるオルゲット達を敵では無い、とばかりに攻撃した。ガオグレーも、グリズリーハンマーで叩き伏せて行く。
「むゥ、マズイ! このままでは……!」
形成を逆転され、慌てふためくスピーカーオルグ。これと言った攻撃手段を持たない為、戦闘はオルゲット達に任せる事しか出来ないのだ。
「オルゲット、あの娘を人質に取るんだ‼︎」
ガオゴールドの妹を人質に取り、彼の弱体化を図る。それを了承したオルゲットは、気を失っている祈に飛び掛かる。
「祈‼︎」
ガオゴールドは別のオルゲットを対処しながら、祈を助けに入ろうとするが間に合わない。ガオグレーも同様だ。
その瞬間、今迄、不動を貫いていた狼鬼が動き祈に迫るオルゲットを斬り捨てた。
「ゲットォォォォ⁉︎!」
オルゲットは吹き飛ばされてしまい、壁に衝突すると同時に泡となって消滅した。
「狼鬼⁉︎ 何の真似だ、裏切る気か⁉︎」
「………」
狼鬼は黙したままだ。だが、その隙が、ガオゴールドに逆転のチャンスを与えた。
「竜翼……日輪斬りィィィ‼︎」
ガオゴールドが放った斬撃が、スピーカーオルグに直撃した。致命傷には至らなかったものも、両肩のスピーカーを破壊する事には成功した。
「グアァァ⁉︎ クソ、何という事を……‼︎」
スピーカーオルグは忌々しげに言った。だが、もうオルゲットも倒され尽くし、逃げる事は叶わない。
「ええい、かくなる上は……‼︎」
追い詰められたスピーカーオルグは掌に黒い液体の入った容器を持った。
「く……此れが何か分かるか? オルグシードの成分を抽出した薬だ。コレを服用すれば……‼︎」
そう言いながら、スピーカーオルグは飲み干す。
「グググ……グォォォ……‼︎」
オルグシードを用いた時と同じ様に、スピーカーオルグの身体が巨体化して行った。
『グハハァ‼︎ こうなればヤケだ‼︎ 街をメチャメチャにしてやるぜェェ‼︎』
「ガオグレー、パワーアニマルを‼︎」
「よし来た‼︎」
ガオゴールド、ガオグレーは各々、破邪の爪を構えた。
「幻獣
百獣召喚‼︎」
天に打ち上げられた宝珠が光り輝き、パワーアニマル達が召喚された。
「幻獣
百獣合体‼︎」
ガオドラゴンを始めとするレジェンド・パワーアニマル、ガオグリズリーを始めとするパワーアニマルが合体し、ガオパラディンとガオビルダーが誕生した。
「誕生! ガオパラディン‼︎
ガオビルダー‼︎」
二体の精霊王に、スピーカーオルグは再生された両肩のスピーカーから不協和音を流して攻撃するが、さしたるダメージは与えられない。
『ウウ…!何故だ、強化されている筈なのに…‼︎』
スピーカーオルグは自身の強さがまるで強化されていない事に慌てた。しかし、すかさずガオビルダーによる強力な一撃がスピーカーオルグに見舞われた。
『グオッ……⁉︎』
最早、勝負にすらなっていない。戦闘に適していないスピーカーオルグでは、巨体化した所で動きが怠慢になり、巨体故に攻撃の格好の的となりやすい。
むしろ状況を悪くする結果に陥ってしまった。
「終わりだ‼︎ 聖霊波動! スーパーホーリーハート‼︎」
ガオパラディンの胸部から放たれた金色の光線が、スピーカーオルグの身体を包み込んだ。
「ギィヤァァァ‼︎ ヒヤータ様ァァァ………‼︎」
断末魔も虚しく、スピーカーオルグはチリも残らずに消滅してしまった。
序盤とは打って変わり、余りに呆気ない最後に、陽は肩を空かした。
「手強い相手かと思えば……戦闘は大した事無かったな……」
今回のオルグの強さは、個人の戦闘力より人間を支配すると言った厄介さにあったのかも知れない。
「油断は禁物じゃ。どうやら、これから戦うオルグは悪知恵の働く連中が多いかも知れん。ワシらも精進せねばな」
「そうですね……」
佐熊の謹言に、陽も頷く。確かに今回は少数の人間だけで済んだが、次は大多数の人間が操られてしまうかも、と言う不安が陽を襲った。
その際、祈達が目を覚ました様子だ。
「祈、大丈夫か?」
「私は大丈夫……オルグ達は?」
祈は辺りを見回しながら、更地になっている……と言うより最初から何も無かった空き地を指して言った。
「ライブ会場も戦いが終わったら消えていたよ。どうやら、オルグ達の生み出した幻だったんだ。それより、祈……さっきのは一体……?」
「え? 何の事?」
何が何だか分からない、と言う具合に祈は首を傾げた。陽は目を丸くする。
「何も…覚えてないのか?」
さっきのは祈の意思じゃ無かった。なら、あの力は一体……。
「ムラサキの孫に聞いてみればどうじゃ? 何か知っとるかも知れん」
「ええ…そうです…ね」
「?」
陽と佐熊の言葉に祈は益々、首を傾げたが、そうも言ってられない。気を失っていた観客達が目を覚ましたのだ。
やはり彼等は何で、こんな空き地で気を失っていたのか分からない様子だ。
取り敢えず、陽達は観客達の無事に胸を撫で下ろした。
一方、鬼ヶ島では、ヒヤータは深い溜息を吐いた。
「やっぱり駄目ね。ま、最初から期待はしてなかったけど……」
ヒヤータは扇子を仰ぎながら、狼鬼と真魅を見る。
「荷が重かったかしらね…。半端者の混血鬼では…」
「……私は……混血鬼じゃ……無い……」
蚊の無く様な声で呟く真魅を、ヒヤータは扇子で頬を叩いた。
「私に口答えする気? 出来損ないの分際で…まぁ、良いわ。ガオゴールド達の気を引いていて貰う事が、今回の作戦の要だったし…一応は、成功した事にしておきましょう」
と、彼女は虚ろな表情のまま立ち竦む真魅を放置して、狼鬼を見た。
「洗脳が切れかけているわね……やっぱり、野放しにしておくのは危険だわ…。あの可愛い顔の娘、何らかの手を打っておきましょう……」
そう言って、ヒヤータは部屋を後にした。狼鬼も無言のまま、後に付いていく。
「私は…混血鬼じゃ…無い…」
誰も居なくなった室内で、真魅はブツブツと念仏の様に繰り返した。
〜ガオレンジャーに悟られない水面下での作戦を推し進めるヒヤータ。そして、祈の中に覚醒しつつある”力”とは?
また、混血鬼とは何を意味するのでしょうか?〜