帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest21 刃がギラめく‼︎ 中編

 〜斬りたい…斬りたい…〜

 

 

 その昔、一振りの刀があった。それは水底を思わせる暗い青の鞘、鮫の牙を思わせる鋭利な鍔、魚の鱗の様なザラザラの柄をしていた。

 かつては名のある銘刀として名を馳せたが、数多の人の血を吸い、いつしか人斬り刀と恐れられた。

 それからも高名な剣客が腰に差し自身の得物としたが、剣客達は尽く不慮の死を遂げたり無念の最後に終わったりと、刀の持ち主達に災いをもたらした。

 刀は斬り捨てた人間達の怨念を吸収し何時しか妖刀と化して居たのだ。更には、持ち主となった剣客達の怨念をも吸収し妖刀の呪いは膨れ上がるばかりだ。

 それに比例し、妖刀の斬れ味は益々、高まっていった。

 妖刀に宿るのは斬られ命を落とした者達の無念、苦痛、そして最初に妖刀を腰に差した者の、狂おしいばかりの執念だった。その男は、人を斬る事に快感を覚えて刀が血を吸えば吸う程、己の力が高まっていくと信じて疑わなかった。

 何世代もの間に人から人の手に渡り、星の数程の人間の命を食い潰した妖刀は遂に封印され、人の目が届かぬ場所へと密閉された。

 だが、既に妖刀の中に巣食う怨念は自我を持ち始めた。

 かつての主人の狂気に沿ったかの様な自我は、人斬りの妖刀を何時しか、文字通りに’’人を斬る鬼”と化したのだ。

 特に妖刀は、穢れを知らぬ純情な生娘の生き血を好むと言う……。その呪われし妖刀の銘は……鬼羅刹の如し鮫の意味を込められ『魏羅鮫』と言う……。

 

 

「ふん……人の血を吸って鬼となった妖刀……か」

 

 竜胆市から外れた場所にある小さな祠……辺りには濃密な邪気が満ちており、明らかに尋常じゃ無い程の禍々しさが漂っていた。

 その祠の前に立つ異形の鬼…デュークオルグ『焔のメラン』だ。祠の横に立てかけてある看板には

 

 〜桐雨武獰斎(きりさめぶどうさい)、此処に眠る也〜

 

 と、記されていた。

 

「人を斬る欲求を抑え切れずに、目に映る者全てを斬り捨てられ挙げ句には、捕らえられ末に腹を切らされ斬首された。

 クク……人の身ながら、内に鬼が棲んでいた男……か。この男が生きている時に、是非とも手合わせてみたかったものだな……」

 

 メランは、ニヤリとほくそ笑んだ。

 彼は、オルグの本能とも言える凶暴さに加え、生粋の武人としての高潔さの二面性を併せ持つ。

 強者と闘いたいと言う欲求、己を高めんとする欲求が彼の本質であり、弱者を甚振る行為や策を弄する行為には一切、興味を持たない。ひいては支配欲も無い。

 目下、メランの狙いはガオゴールドとの決着。だが、発展途上のゴールドと闘っても詰まらない。今以上に強さを身に付けた彼と闘いたいのだ。 

 修羅の道を行く彼は、敵であるガオゴールドの成長を密かに楽しみにしていた。ふと、メランは祠の中を覗き見た。

 祠の扉は封印を破られ、中は乱雑に荒らされた跡があった。

 中には刀置きが置かれていたが、肝心の刀が無い。どうやら、何者かが刀を盗み出していった様だ。

 

「フン……誰の仕業かは、概ね見当が付くが……相変わらず手の掛かる茶番を好む女よ……」

 

 メランは、刀を盗み出した者は大方、オルグ達の仕業だと察した。しかも、こんな曰く付きの刀を利用する様な者など、世界広しと言えど、1人しか居ない。

 

「……ヒヤータめ……今度は何を企む気だ? だが、あの女に手柄を奪われるのもシャクな話だ……」

 

 そう言い残すと、メランは炎に包まれていき姿を消した。 

 

 

 

 竜胆中学の体育館では、防具に身を包んだ祈と千鶴が構えあっていた。祈に対し、反抗的な態度を取った千鶴が彼女に次大会に於けるレギュラーの座を掛けて、模擬試合を行う事になったのだ。

 

「いい? 先に一本取った方が勝ち! では始め!」

 

 小手川先生が立会人を務める。千鶴は先程の舐め切った態度はなりを潜め、真剣そのものな目付きで挑んでいた。

 

「(フン……剣道は遊び感覚でやる様な物じゃないのよ! 私が本気の剣道の技を教えてあげるわ…‼︎)」

 

 千鶴は見下した様に、祈を見据える。幼い頃から父親に剣道の手解きを受けていた千鶴は同年代は愚か、年上の門下生にさえも勝てる程の実力を有していた。当然、恵まれた環境下に置いての優れた指導も理由であったが、彼女には生まれついてからの剣道に対する天賦の才も持ち合わせていた。

 その為か、周囲から持ち上げられ特別視されて育った千鶴は、自身の実力に対し絶対の自信を持ち、やや高飛車で傲慢な性格となって行った。

 中学生の剣道部だって、自分にはレベルが低い。お遊び感覚でしか無く、遥かに実力が劣る部員達を千鶴は見下し蔑んでいた。

 にも関わらず、一年時に少ししか参加していない幽霊部員に等しい祈が、県大会のレギュラー陣に選ばれ、自分が外されたなんて侮辱でしか無い。

 だから、教えてやるんだ。真に相応しいのは自分1人だけだと言う事を。圧倒的な実力で叩き伏せてやれば、否応も無く理解するだろう……千鶴は、竹刀を握る手が強まった。

 対する祈は落ち着き払い、内心穏やかでは無い千鶴の前に対峙していた。その様子を見た千鶴は冷たく嘲笑う。

 

「(内心は私を前にビクビクしてる癖に……その生意気な態度、二度と取れない様にしてやる‼︎)」

 

 入学して剣道部の門を叩いた日から今日に至る迄、千鶴は祈に対し一方的な敵意を抱いていた。

 自分が入部する前から所属していた祈は大会に出場経験こそ無いが、部員から絶大な信頼を得ていた。

 聞けば彼女は休部する迄、一日たりとも練習を欠かさず先輩、後輩部員に対する気配りも完璧だった。

 顧問の小手川先生も祈の事を悪く言わず、寧ろ「あんな出来た生徒は居ない」と誇らしげに言っていた。

 ー馬鹿にしてる!ー 千鶴は、それを聞いた刹那、1人で噴気した。確かに認めるのはシャクだが、竜崎祈は誰に対しても優しいし優等生だ。先生や先輩が贔屓するのは分かる。

 だが、それだけじゃ無いか。剣道の実力なら、自分が優っている。にも関わらず、自分は周りから敬遠され、部活動も練習も疎かにしている祈が周りからチヤホヤされるなんて…。

 今日こそ、自分が彼女より上であると認めさせてやる! 千鶴は、そう決意していた。

 

「始めッ‼︎」

 

 小手川先生が声を張り上げた。千鶴は先手必勝、と言わんばかりに祈に攻めていく。祈は竹刀を動かさずに不動のままだ。千鶴は隙だらけである祈の面を狙い、竹刀を振り下ろす。だが、祈は彼女の竹刀を見切り弾いた。

 

「なッ⁉︎」

 

 千鶴は何が起きたか全く理解出来ない。今迄、大抵の相手はこれで決着が付いた。相手が動き出す前に行動し、面に一本入れる。それが千鶴の得意技だ。

 しかし、祈には自身の必殺の奇襲を防がれてしまった。

 

「ク‼︎」

 

 だが、千鶴にはまだ勝算がある。ならば、祈にとことん攻めいる迄だ。千鶴は、竹刀で祈に休む間も与えぬ位の攻撃を繰り出す。しかし、祈は千鶴の攻めに対し反撃せずに受け流すだけだ。体育館内を竹刀の乾いた音が反響した。

 

「やっぱ強いわ、あの子……!」

 

 遠巻きから2人の模擬試合を見ていた他部員は素直に、千鶴の実力を称賛した。

 

「でも、祈も凄いよ。峯岸の攻撃を全部、受け切ってるし……」

 

 部員の言葉に、祈が千鶴に反撃こそ出来ずとも攻撃を全て受け切っている事実を指摘する。

 実際、祈は千鶴に反撃出来ないのでは無い。敢えて反撃しなかった。下手に動いて互いに疲弊するのでは無く、千鶴のみに疲弊させる策に打って出たのだ。

 それには気付かず、千鶴は攻めに攻めて祈を追い詰めに掛かるが、当の祈は静かな動きで千鶴をいなすだけだ。

 いい加減に焦れてきた千鶴は一気にケリを付けに掛かった。小手も胴も面も隙は無い祈。ならば、自ら隙を作らせる!

 そう意を決した千鶴は祈の竹刀を逆に弾いて、その刹那に面を打つ作戦に移行した。幸いにも、祈は竹刀を下ろしたまま大して動作は無い。千鶴は祈の竹刀を横に弾いて、隙のできた面に目掛け、竹刀を振り下ろした。

 しかし、ここへ来て祈は初めて行動に移した。高々に竹刀を振り上げた千鶴の胴が露わになる。その隙を祈は見逃さなかった。

 

「胴ッ‼︎」

 

 千鶴が反応するより早く、祈の竹刀は彼女の胴に入った。祈の声と竹刀が防具を打つ音が反響する。

 

「胴ありッ‼︎」

 

 小手川先生が勝負あり、と告げた。他部員、千鶴は何が起こったか全く理解が追い付かない。一つだけ言える事は祈が勝った、と言う事実だけだ。

 祈は試合後の一礼を交わし竹刀を納めるが、千鶴は呆然としたままだ。

 

 

 

 試合後、小手川先生が面を取った祈に微笑み掛ける。

 

「素晴らしい返しだったわ、竜崎さん。とても、ブランクがあったとは思えない」

 

「うん、凄かった‼︎ やっぱり次の大会には竜崎さんが必要よ‼︎ ね、皆‼︎」

 

 垂水部長の言葉に他の部員も同意した。だが、そこへ面を外した千鶴がズンズンと迫ってきた。

 

「あんなの認めない‼︎ ただ相手の油断を誘った卑怯な騙し討ちじゃない! 正々堂々と戦っていたら、私が勝っていたわ‼︎」

 

 試合前の余裕に満ちた態度から一変、自分の敗北を受け入れ事が出来ない千鶴は取り乱しながら、抗議した。

 その様子に垂水部長は冷ややかに言った。

 

「見苦しいわよ、峯岸さん。誰が見ても竜崎さんの勝ちよ。貴方は敗けたの」

 

 その一言に千鶴は感情が大爆発した。祈に掴みかかり、激しく捲し立てた。

 

「あんな汚い勝ち方、私は認めないわ‼︎ 卑怯者‼︎ アンタ、恥ずかしくない訳? 私に正面から勝てないからって、小細工で勝つなんて剣道を志している人間に在るまじきよ!」

 

「止めなさい、峯岸さん‼︎ 竜崎さんに当たらないで‼︎」

 

 驚いた垂水部長や他部員は千鶴を取り押さえる。しかし、千鶴は顔を赤くしながら喚いた。祈は黙したままだが、千鶴にハッキリと言った。

 

「小細工なんて、してない。貴方の攻撃を受け切って、隙が出来たから胴を打った。それだけじゃ無い」

 

「それを小細工だって言ってるの‼︎ 私は、こんな低俗な試合なんかする為に剣道して来た訳じゃ無い‼︎

 先生、試合のやり直しを要求します‼︎ 正々堂々と戦って、今度こそ……‼︎」

 

 

「いい加減になさい‼︎」

 

 決着が付いて尚も敗けを認めない千鶴に対し、小手川先生は叱責した。

 

「何で貴方が大会のレギュラーに選ばれなかったか…何で貴方が竜崎さんに勝てなかったか…それが分からないの?

 確かに技量だけなら、貴方は竜崎さんや他の部員を優っている。でも、それだけに貴方は基礎とする鍛錬を日頃から疎かにしていた。竜崎さんは部活を休みながらも鍛錬は怠らなかった。それが、貴方の敗因よ‼︎」

 

 小手川先生の厳しくも的確な言葉に千鶴は、プライドをズタズタに傷付けられた。今迄、負けた事など無かった。師範であり師匠でもある父以外なら、千鶴は剣道に於いて黒星を付けられた事は一度も無い。

 だが今日、自分は敗北を喫してしまった。今日に至る迄に培ってきた自身の全てが否定されてしまったのだ。

 千鶴は口惜しさに身を震わせる。それを気遣う様に、祈は千鶴に手を差し出す。

 

「峯岸さん、貴方の実力は高いし私も正直に凄いと思う……でも、剣道は力を求める為じゃ無く心を鍛える為の物だと、私は考えている。だから……」

 

 そう言いかけた祈の手を、千鶴は乱暴に払い除けた。

 

「偉そうに説教しないで‼︎ アンタなんかに私の気持ちが分かる訳ないじゃ無い‼︎ 力を求めて何が悪いの? 私は弱かったら意味なんか無いのよ! 剣道を心を鍛える為とか言ってる甘ちゃんに、慰められたくなんか無い‼︎」

 

 そう叫んだ千鶴の目には涙が浮かんでいた。それを片手で拭うと、千鶴は手に持つ竹刀を叩きつけて逃げる様に体育館から飛び出していった。

 

「ちょっと峯岸さん、待ちなさい‼︎」

 

 垂水部長が、剣道を志す者としては命の次に大切な竹刀を無碍に扱った事に腹を立てるが、後を追おうとはしない。

 突然の事に硬直していた祈は我に帰り、飛び出して行った千鶴を心配して後を追いかけようとしたが、それを小手川先生が止めた。

 

「放っておきなさい。今、頭に血が上っている彼女に何を言っても火に油を注ぐだけよ。後で落ち着いたら私から、彼女に話すから……」

 

 そう言って、小手川先生は他部員に向かって朝練は中止、と言って解散を命じた。その後、片付けをしながら、他の部員は祈に嬉々として話し掛けて来た。

 

「ありがとう、祈! 私、胸がすうっとしちゃった! さっきの、あの子の顔ったら‼︎」

 

「峯岸さんって高飛車だし協調性は無いし、皆も嫌ってたの! 」

 

 千鶴の敗けを見て彼女達は晴れ晴れとしていた。しかし、祈だけは浮かない顔だ。

 

「私…峯岸さんの事、傷付けちゃったかもしれない……さっき泣いてたわ……」

 

 体育館から飛び出して行く千鶴の目には涙が浮かんでいた。

 それに対して、垂水部長は助け船を出す。

 

「竜崎さんが悪い訳じゃ無いわ。たまに居るのよ、自分を天才だと信じていたのに自分より上の人間に敗けて、それを認める事が出来ない人……あの子、道場の娘だからプライドが高くって、貴方に負かされたのが余程、応えたのね。

 でも、峯岸さんには良い薬だわ」

 

 そう締め括ったものの、祈には彼女の事が気掛かりで仕方無かった。ふと、彼女の投げ捨てた竹刀が転がったままになっているのに気付いた千鶴は彼女の竹刀の柄を見た。

 柄は手汗で滲み擦り切れていたが、それ以上に血がこびりついたのが分かった。

 

 

 

「すっごいじゃ無い、祈‼︎ 私も見たかったな、祈が生意気な一年の鼻柱をへし折る瞬間‼︎」

 

 昼休みに、事の顛末を聞いた舞花は興奮した様にはしゃいだ。今、学校ではちょっとした話題となっていた。

 剣道部の生意気な一年生が二年生に敗けて、体育館から逃げ出した……その二年生が祈の事だと分かると、舞花は興奮したのだ。

 しかし、祈は首を振る。

 

「あの子、ただ生意気な子じゃなかった。あの子の竹刀に血が滲み込んでいたもの……。きっと人知れずに努力していたんだわ……」

 

「でも竹刀を投げ捨てるなんて、最低じゃない! きっと、皆の前で恥をかかされたのが悔しかったんじゃない? 祈は悪くないよ!」

 

 そう言いながら、舞花は祈をフォローする。だが、祈には彼女の気持ちが痛い程、よく分かった。

 自分も同じ……陽の力になりたいのに、何も出来ない自分の弱さを怨んだ。そのやり場の無い怒りを、陽にぶつけてしまった。似て非なるが、祈と千鶴を状況は同じだ。

 

「で? やっぱり、あの子に謝るの? そう言うタイプの子からしたら、自分を負かした相手に謝られるの凄い屈辱的だと思うけど?」

 

「……だからこそ、謝らなくちゃ。峯岸さんには峯岸さんなりの努力があったんだから」

 

「ハァ……アンタって、そう言う所、律儀よね……」

 

 若干、呆れながらも舞花は親友に付き合う事にした。

 一年生に校舎にやって来た2人は歩いて来た一年生に話し掛けた。

 

「あの…峯岸千鶴さんのクラスって何組? 彼女に話したい事が……」

 

「峯岸さんは、ウチのクラスですけど……」

 

 一年生の女学生が、二年生である祈に応えた。だが、少しオズオズと答えた。

 

「でも……峯岸さん、今日、早退したんです。教室に来るなりカバンを持って、そのまま……先生も家に電話したら、まだ帰って来てないって言われたらしく、訝しんでいました……」

 

 それ聞かされた2人は、キョトンと顔を見合わせた。

 

 

 

 数時間前……千鶴は、トボトボと歩いていた。手にはカバンを持ち制服に着替えて……だが、家に帰る気は無い。

 こんな時間に家に帰れば、理由を両親に話さなくちゃならない。だが、それ以上に……彼女の胸中は、メラメラと黒い炎が立ち昇っていた。

 理由は、竜崎祈に対する怒りだ。自分を負かして、屈辱を味合わせた。これ迄、向かう所敵無しと順風満帆だった自分の経歴に傷が付けられた。

 

 ー悔しい……ー

 

 千鶴は溢れ出る涙を止める事が出来なかった。

 そもそも彼女が、此処まで強さに拘るのは理由がある。

 小学5年の時……父親と初めて真剣に勝負をした。剣道の師である父親には、一度も勝負を受けて貰えなかった。

 だからこそ、父親に勝負を受けて貰えた事は自分を認められた、と子供心ながらに千鶴は嬉しかった。例え、その時に負けたなら千鶴は、己を鍛え直す事に専念しただろう。

 だが、勝負は千鶴が勝った。父親に一本を取る事に成功したのだ。その時は単純に父親を超えた事を嬉しかったし、父親にも褒めて貰えた。

 だが、その後……千鶴は聞いてしまったのだ。他の門下生達が話していた言葉を……。

 

 ーさっきの試合、明らかにワザと負けたよな、先生ー

 

 ーやっぱり、自分の娘は可愛いって事だろ?ー

 

 ーどんなに腕が立っても、所詮は’’女’’だしなー

 

 門下生達の心無い言葉に千鶴は心底、傷付いた。手を抜かれた? 自分が、父に?

 何かの間違いだと、千鶴は父親に問い詰めた。すると、父は……。

 

 ー手を抜いた訳じゃ無い。ただ、お前はやはり’’女”だからな……本気を出す訳には行かなかったー

 

 その言葉に、千鶴は自分がとんだ道化だったと否応無く思い知らされた。強いと思っていたのは、自分だけだった。

 周りは、自分の強さに陶酔している自分を見て嘲笑っていたんだ……その時から、千鶴は強さに執着する様になった。

 男も女も関係ない! 自分が強い、と言う事を周りに理解させてやる‼︎

 そう決意した千鶴は、今迄以上に練習に精を出した。大会にも出場して好成績を収めた。強くなる自分を感じていた。

 でも……足りない‼︎ 私は、まだまだ強くなるんだ‼︎

 弱いから、祈なんかに負けた。だったら更に高みを目指してやる‼︎

 

 

「随分、荒れてるわね……」

 

 

 千鶴は、我に帰り声の方を見た。黒い服を着た如何にも怪しい女ーツエツエが愛想笑いを浮かべながら立っている。

 

「誰よ、貴方……」

 

「私、貴方のためになる御守りを……」

 

「押し売りなら、他所でやって」

 

 ツエツエに背を向ける様に、千鶴はスタスタと歩き去ろうとする。

 

「貴方……強さを身につけたいと思いません?」

 

 ツエツエの発した言葉に、千鶴は振り向く。

 

「強さを……身に付ける……?」

 

「ええ……こちらの刀を使えば……」

 

 ツエツエが差し出して来たのは、青い色の鞘にギザギザの鍔、ザラザラとした柄の日本刀だった。

 

「こちら『魏羅鮫』と申しまして、手にした者に絶大な力を与える素晴らしい刀です」

 

「……馬鹿馬鹿しい….…」

 

 何を言い出すかと思えば……刀を持って強くなれば世話無い。だが、ツエツエはニタァと笑いながら刀を差し出して来る。

 

「信じるか信じないかは貴方次第……では、これを貴方に差し上げます……」

 

「要らないわよ……こんな胡散臭い……」

 

 刀を突き返そうとするが、何時の間にか刀は千鶴の左手に握られていた。気が付くと、ツエツエは姿を消している。

 

「な、何よ……これ……‼︎ 気持ち悪い……」

 

 千鶴は刀を持っているだけで、陰鬱な気持ちに襲われた。

 不気味に感じて、刀を投げ捨てようとするが手から離れてくれない。

 

 

 〜……斬りたい……まだ、斬り足りぬ……〜

 

 

 千鶴の脳裏に不気味な言葉が響き渡る。すると、刀から禍々しいオーラが立ち昇り、千鶴の身体を包んでいく。

 

「……斬り……たい……」

 

 千鶴はうわごとの様に呟いた。だが、眼は虚ろになり彼女の意思は、感じられ無い。すると、千鶴の表情は邪悪な迄に歪んだ。

 

 

 

 放課後、祈は帰路に付いていた。今日は部活をする気分じゃ無かったからだ。その際も、千鶴の事ばかりを考えていた。

 途中で帰ってしまい、千鶴とちゃんと話す事が出来なかった。だから、彼女の家に寄るつもりだった。

 そう考えていた刹那、隣にある空き地に千鶴の後ろ姿が見えた。祈は、ホッと息を吐き、彼女に話し掛けた。

 

「峯岸さん‼︎」

 

 祈は声を掛ける。すると振り返った千鶴の目は真っ当な目では無く、ギラギラとまるで異常犯罪者の様な目付きだ。

 

「……き、斬りたい……」

 

 そう言って、千鶴は左手に持つ刀に手を伸ばす。祈は後ずさるが、既に手遅れだった……。

 

 

 〜これは一大事です‼︎ 妖刀に操られってしまった千鶴の凶刃がら、祈に迫る‼︎

 急げ、ガオゴールド‼︎ 祈は救えるのでしょうか⁉︎

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