帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest22 刃がギラめく‼︎ 後編

 放課後……陽は、久しぶりにバイト先へ電話を掛けた。

 ガオレンジャーとしての活動を始めてから殆ど、バイトに通えなくなっていた。恐らく今のままでは、まともにバイトを続ける事もままなら無い。バイト先の店長には「勉強が忙しくなった為、暫く休みを貰いたい」と話した。

 幸い、店長は話の解る人だった為、深くは追求して来なかった。そもそも「ガオレンジャーとして闘わなければならないから、バイトを休みたい」なんて話した所で、理解して貰えないだろう。

 携帯を切った後、陽は夕焼けに染まる小道を見つめる。

 朝、祈からぶつけられた言葉が、陽の耳から離れてくれないのだ。

 

 ーもう、ガオレンジャーとして戦うのを止めてー

 

 祈からしてみれば、辛い戦いに身を投じる兄を気遣って言ったのだろう。何より……兄を失いたく無い、と言う想いが強くなり過ぎて、あんな形でぶつけてしまったのだと思う。

 例え、そうだとしても自分は今更、戦いから手を引く訳には行かない。ガオレンジャーとして戦い抜く……そう決意した。自分が戦いから手を引けば、祈達にオルグ達の魔手が及ぶ事になる。そうならない為には、ガオゴールドとして戦わねばならない。だが……。

 

 同時に陽は不安となって来る。風のゴーゴとの戦いにて、初の敗北を味わって思い知った。自分も戦いの中で死ぬ事がある、と……。戦い抜く覚悟は決まっても、死ぬ事への恐怖は払拭出来ない。死は怖い。自分、他人に関わらず……。

 あの時、ガオネメシスの発した台詞が脳裏にこびり付いて離れない。

 

 ーもし、目の前で妹が同じ目に遭わされていれば、そいつを同じ目に遭わせてやりたいと願うだろう……ー

 

 万が一、祈が自分の目の前でオルグに殺されたら……自分は正常を保つ事は出来るだろうか…?

 そんな風に考えて居ると……陽は後ろから気配を感じた。

 

「‼︎」

 

 陽は気配と同時に身体を逸らす。すると、拳が自身の横を通り抜けた。続け様に蹴りが来るが、再び躱す。

 奇襲してきた者の正体を見極めんと、陽は目を凝らす。

 

「! お前は……‼︎」

 

 奇襲して来たのは、メランだった。陽の前に立ち、挑発気味に笑っている。

 

「久しぶりだな、ガオゴールド」

 

「何時の間に…全く、邪気を感じなかった⁉︎」

 

「我は、邪気を消す事が出来るのでな」

 

 メランは、ニヤリとほくそ笑む。陽は、G -ブレスフォンに手を伸ばした。

 このメランとは自分が最初期に戦い、二度に渡り決着が付かなかった謂わば、ライバルの様な関係にあった。

 

「戦いに来たのか⁉︎」

 

「馬鹿な。今、貴様に手を出せば、我はゲームから失格になる」

 

 身構える陽を尻目に、メランは肩を竦めて見せた。

 

「ゲーム?」

 

「オルグ同士で決まった事だ。誰が最初に貴様を倒すか……今、貴様の相手をしているのはヒヤータだ。だから、俺は手は出さん。そう言うゲームだ」

 

「人の命をゲームだと……! ふざけるな!」

 

 メランの命を軽視した発言に、陽は憤りを見せる。

 オルグに人間の価値観等、紙屑同然……相容れぬ対極にあるのだ。自分1人に的とするなら、まだしも……コイツ等は、無関係な人間の命さえも、ゴミ屑の様に扱う。そんな非道な行為を許す事は出来ない。

 

「ふ……怒るな。我も、弱い人間を狩る事に興味は無い。飽くまで、強者との闘い……それが、我の目的だ……」

 

「信じられるか……‼︎」

 

 陽は警戒心を解く事はしない。所詮、相手はオルグ……敵なのだ。信用出来た試しは無い。

 

「それならば、それでも良い。貴様が強くさえなってくれればな……」

 

「僕が強くなる事が、お前に何のメリットがある…⁉︎」

 

「大いにある。我は卵の殻を被った雛鳥の首を締める様な勿体ない真似はせぬ。貴様が充分に成長し、成熟した頃に喰らう……だが、今はまだ、その時期では無い」

 

「じゃあ、何をしに来た⁉︎」

 

 メランは、ガオゴールドである陽が強くなる事を望み、強くなった彼と闘う事を目的だと語る。

 だが、陽からすれば彼の行動は不可解だ。態々、敵に塩を送る様な真似をする彼の行動が……?

 

「分からんか? 貴様の首をヒヤータに易々と取られては、貴様と引き分けた我の面子に関わる。貴様に一つ、稽古を付けてやろうと言うのだ」

 

「稽古? 余計なお世話だ‼︎ 敵の助け等、受けるか!」

 

 稽古を付ける? どの口が言うんだ、と陽はメランに背を向ける。背後で、メランはクックッと含み笑う。

 

「それならば、それも良い。だが、これだけは言っておく。ヒヤータの策に踊らされている様では、オルグは倒せんぞ?

 我は愚か、ガオネメシスさえもな……‼︎」

 

 そう言うと、メランはパチンと指を鳴らす。すると、陽の行く道を炎が塞がれた。

 

「何の真似だ?」

 

「さっき敵の助け、と言ったが……勘違いするなよ? 貴様の言う通り、我は敵だ。貴様を助ける気など、さらさら無い。

 だがな……我は己と対峙する相手には同等であって貰いたい。今の貴様では、テンマと闘う前に死ぬのが関の山だ。

 貴様の意思など関係無い。我の狙い通りの敵と仕立ててやる……」

 

 そう言うと、メランは炎を剣に換えて陽に迫る。慌てて、陽は変身した。

 

「く……ガオアクセス‼︎」

 

 ガオゴールドへ変身し、メランの剣をドラグーンウィングで受け止めた。

 

「ほう……反応が鋭くなったな。だが……まだまだ温い‼︎」

 

 メランは満足そうに言った。しかし、メランは休む間も与えずに、ガオゴールドを斬り付けて来た。辛うじて、ガオゴールドは後退して躱す。

 

「技を受け止めただけで、安心するな。実戦では、剣道と違い敵は待ってくれん。

 それより、防御した敵の技を何倍にして隙のある敵を斬り付ける。それが’’返し技’’だ」

 

「か…返し技…」

 

 ガオゴールドは、メランを見ながら呟く。一方、メランは楽しそうに笑っていた。まるで、最高の玩具を手にした子供の様に……。

 

 

 

「み、峯岸さ…ん?」

 

 祈は、豹変した千鶴に壁際まで追い詰められていた。千鶴は手に持った魏羅鮫を、祈に突き付けて来た。

 

「斬りたい…もっと斬りたい…‼︎」

 

 千鶴の顔は明らかに異常だ。無表情だが、明確な殺意を感じる。ゆらりゆらり、と糸に操られた人形の様に魏羅鮫を振り上げる。

 

「斬り…たいィ‼︎」

 

 そう叫ぶと、千鶴は魏羅鮫を振り下ろした。間一髪、千鶴は横へ躱し、魏羅鮫は木で出来た柵に深々と突き刺さる。

 

「チッ……‼︎」

 

 千鶴は魏羅鮫を引き抜こうと万力を込め、引っ張る。祈は今の内に、と逃げだす。だが、刀を抜き終わった千鶴は魏羅鮫を振り回しながら追い掛けて来た。

 

「た、助けて……兄さん……‼︎」

 

 祈は携帯を取り出し、陽に助けを求めようとする。だが、走りながらであった為、携帯を取り落としてしまった。

 慌てて、携帯を拾おうとする祈だが、その携帯を刀を串刺しにして破壊してしまった。

 

「‼︎」

 

 祈は慌てて尻餅をつく。千鶴が魏羅鮫の先端に突き刺さった携帯を払い飛ばして立ちはだかる。

 

「や、止めて…峯岸さん…」

 

 ジリジリと迫る千鶴に対し、祈は嘆願した。だが、途端に千鶴の顔は醜悪に歪む。

 

「アンタなんかに……アンタなんかに私の気持ちが……分かる訳無い……‼︎」

 

 千鶴は苦しげに、言葉を吐き出す。同時に両眼からは涙が流れ落ちた。

 

「私はただ……認めてもらいたかった……‼︎ 道場の娘としてじゃなくて……峯岸千鶴として……‼︎」

 

 初めて、心の中にあった苦悩を千鶴は暴露した。

 自分の周りに集まる人間、自分を嫉妬する人間は何も峯岸千鶴個人を評価していた訳じゃ無い。

 道場の娘だから……女だから……そうやって特別視され、千鶴としての人柄や意志を尊重して貰えなかった。

 そんな不満や悩みが、千鶴の心に強く圧し掛かった。そして何時しか、周囲に認めて貰いたいと言う純粋な思いは、力をひたすらに欲求する悪い方向へと向かってしまった。

 祈は理解した。千鶴が日頃から取っていた傲慢な態度は、強さを求める彼女の精一杯の虚勢だった事を……祈は、涙を流しながら呟く。

 

「ごめんなさい、峯岸さん……私、貴方の苦しみを理解して無かった……今更、手遅れかも知れないけど……私は貴方と一緒に剣道を続けて行きたい……」

 

「ウウウ……‼︎」

 

 千鶴は激しく慟哭した。魏羅鮫に込められた邪気が、千鶴の精神を支配していく。すると、魏羅鮫の刃にまるで生物の様に血管が浮かび上がり、ビクンビクンと脈打つ。

 

「斬りたい…斬りたいィィィ!!!!」

 

 千鶴が叫びながら、魏羅鮫を振り下ろした。刀は祈の頭部を捉えた。祈は目を瞑るが……。

 

 その刹那、祈の腕を強い力で引っ張られた。魏羅鮫の刃は、コンクリートに深々と突き刺さった。

 

「祈……大丈夫⁉︎」

 

「鷲尾…さん…?」

 

 間一髪で、祈を救ったのは陽の同級生である鷲尾美羽だった。美羽は肩で息をしており、走って来たのが伺えた。

 

「どうして……?」

 

「貴方が、刀を振り回した女の子に追い回されてたから、慌てて来たのよ! 怪我は無い⁉︎」

 

 そう言いながら、美羽は祈に怪我がない事を確認すると強引に立たせた。

 

「走るわよ‼︎」

 

「え……でも……‼︎」

 

「良いから! 貴方を死なせる訳に行かないの!」

 

 美羽は戸惑う祈に喝を入れて走らせた。だが、刀を引き抜いた千鶴が追い掛けて来る。

 

「そこまでじゃ‼︎」

 

 千鶴の前に山伏の格好をした大男、佐熊力丸が立ちはだかった。手には六角棒を握り締め、千鶴の行手を阻む。

 

「これ以上、騒ぎを起こさせん! 暴れ足りんなら、ワシが相手じゃ!」

 

 そう言いながら、六角棒を千鶴に向ける。だが、千鶴は殺気を露わにしながら……

 

「邪魔をするなァァァ‼︎ アイツを斬らせろォォ‼︎」

 

 そう叫びながら、魏羅鮫で斬り付けて来た。佐熊は六角棒の受け止める。

 

「ぬぅ……何と言う力じゃ……女の力とは思えん……! この刀のせいか⁉︎」

 

 佐熊は、テトムから僅かな邪気を感じるとして駆け付けたが、敵はオルグでは無く人間。だが、彼女の持つ刀は禍々しい邪気を放っている。ただの刀では無い事は明白だ。

 

「人間であっては、ガオレンジャーとして戦う事も出来ん……! どうすれば……⁉︎」

 

 佐熊は迷いながらも、六角棒で斬り付けて来る魏羅鮫を受け流す。だが、遂に六角棒は真っ二つに切断された。

 

「ク……鉄の六角棒を……⁉︎ 斬れ味が異常じゃ‼︎」

 

「アアアアァァァ!‼︎!」

 

 そう迷っている間に、千鶴は佐熊の腹部を魏羅鮫で刺し貫いた。

 

「ぐふッ⁉︎」

 

「ハハハァァァ‼︎ やっぱり血の味は……堪らんなァァァ‼︎」

 

 千鶴から発せられた言葉は少女の声では無く、野太く荒々しい声だった。腹を刺された佐熊は、壁にもたれ掛かり座り込んでしまう。

 そうして、千鶴は佐熊を捨て置いて祈の追い掛けて行った。

 

「むゥ……ガオレンジャーとなっていれば……こんな怪我なんぞ……‼︎」

 

 そう悔しげに呻きながら、佐熊はヨロヨロと立ち上がり千鶴を追い掛けようとする……だが……。

 

「い…イカン…血を流し……過ぎたか……」

 

 佐熊は、そのまま足元に出来た血溜まりに倒れ伏した。

 

 

 

「ハァ…ハァ…‼︎」

 

 祈は美羽に手を引かれ、必死になって走った。千鶴は追い掛けて来ないのを見て、漸く美雨は手を離す。

 

「もう大丈夫ね……ごめんなさい、私のミスだね……もっと注意深く見張っておくべきだった……」

 

「わ…鷲尾さん…?」

 

 隣に立って謝罪する美羽を凝視しながら、祈は目を丸くした。

 

「貴方の’’力’’が目覚め切る迄は、私が守る……其れが、私の使命よ……‼︎」

 

「力……? 使命……? 何を言ってるの……?」

 

「貴方の中には’’ガオの巫女’’の力が眠っているの……其れを死守するのが私の務め……‼︎」

 

 美羽は、そう言いながら美羽の前に跪く。

 

「ちょ…鷲尾さん⁉︎」

 

「オルグに気付かれない為とは言え今迄、助ける事が出来ずに申し訳ありませんでした。貴方の兄、竜崎陽の力に甘えてしまっていた……‼︎」

 

 祈は耳を疑った。何故、美羽はガオレンジャーに関する情報を知っているのか? それを尋ねようとした時……。

 

 

「あらあらあら、逃げられちゃ困るのよ‼︎」

 

 

 その際、祈達の行手を阻む様に、ツエツエとヤバイバ、そして多数のオルゲット達が姿を現した。

 

「オルグ…⁉︎」

 

「待ち伏せしてたか…‼︎」

 

 美羽は、祈を庇いながらツエツエを睨む。

 

「オホホホ! ただの人間に何が出来るのかしら‼︎ 命が惜しければ、その娘を置いて逃げなさい‼︎ 逃げられれば、の話だけど⁉︎」

 

「ギャハハハ‼︎ このオルゲットの数、突破出来ねえだろ‼︎」

 

「ゲットゲット‼︎」

 

 確かに、祈を守りながらでは大軍であるオルグを躱すのは困難を極める。その際、千鶴が魏羅鮫を振り回しながら現れた。

 

「見つけタァァ‼︎ 」

 

 千鶴は、そう叫びながら、祈に迫る。前には、オルゲット達……後ろは、千鶴だ。正に『前門に虎、後門に狼』だ。

 美羽は庇う祈に耳打ちする。

 

「私の側から離れないで……命に換えても貴方を護るから……‼︎」

 

 そう言って、美羽は祈を護る為にオルグ達を果敢に睨む。

 祈は突然の事に混乱していたが、この瞬間、彼女の中にて’’とある力’’が目覚めようとしていた。

 

 

 

 ガオゴールドは、メランの繰り出す攻撃を防ぎつつも隙を見つけ出そうと躍起になっていた。

 だが、メランは一切の隙を見せず、ガオゴールドの攻撃を簡単に防いでは、反撃してくる。

 

「隙の無い敵に隙を探そうとしても無駄だ。敵に隙を作らせるんだ。この様に!」

 

 そう言いながら、メランは防御に徹していたガオゴールドの剣に重い一撃を与える。手が痺れ、危うくドラグーンウィングを取り落としそうになるが、辛うじてキャッチした。

 だが、その一瞬の隙を見せたガオゴールドに、メランは首筋目掛けて突きを浴びせる。

 何とか、身体を反り返して躱すガオゴールドだが、防御を崩されてしまった為、剣で連戟を繰り出して来る。

 

「どうだ! 防御に徹していた為、一度、崩されれば瞬く間に、攻撃を受けてしまう! 返し技を極めれば一見、勝機の無い戦いに於いても、負ける事は無い!

 一つ、コツを教えてやろう。敵の隙を作り出すには’’呼吸’’を知る事だ」

 

 メランは、あたかもガオゴールドに教えを授ける様に言い放つ。呼吸……これ迄、ガオゴールドとして戦う際、陽は付け焼き刃の我流にて戦って来た。人知を超えるガオレンジャーの力さえ使い熟せれば、オルグとも渡り合える…そう信じて来た。

 だが、実際にはメランやガオネメシス等の格上の戦士、ヒヤータの様な策謀に長けた知将、と言った者達を相手にすれば、ガオレンジャーの力さえも通用しない事が思い知らされた。

 ガオゴールドは、メランの言葉から敵の隙を見出す法を学んだ。確かに、メランは隙を見せない。ならば……。

 ガオゴールドは、ドラグーンウィングを下ろし防御を解いた。

 

「どうした⁉︎ 来ないならば、こちらから行くぞ‼︎」

 

 メランは防御を解き、無防備となったガオゴールドにトドメを刺さんとばかりに、剣を振りかぶり突進して来た。

 

「(隙が無いなら…隙を作り出す!)」

 

 ガオゴールドは、振り下ろされたメランの剣を二刀流とした右手のドラグーンウィングで受け流す。

 そして、左手のドラグーンウィングで、メランの首筋に突き付けた。

 ほう…と、メランは感心した様に、ガオゴールドを見た。

 

「どうやら、コツは掴んだ様だな。それが呼吸だ。敵の呼吸を知り、次にどう仕掛けるか先に読む。

 熟練すれば、腹に一物を抱える者を相手にしても、まず負ける事は無いだろう。後は、お前の鍛錬次第だ」

 

 そう言って、メランは剣を炎に戻す。ガオゴールドは、メランに尋ねた。

 

「何故だ、メラン? お前は、僕達の敵なのに……」

 

「勘違いするな、ガオゴールド……。貴様を倒すのは我だ。

 さっきも言ったが、貴様をヒヤータに倒されてしまっては、貴様と引き分けた我の誇りが傷付く。それだけは、何としても避けたい……それだけの事だ」

 

 メランは吐き捨てるに言った。彼にとって、ガオゴールドとの決着は、非常に重要な事なのだ。そもそも馴れ合いを好まず他者の下に付く事も嫌う彼が、テンマの傘下に入ったのは、ガオゴールドとの決着の為だ。

 ガオゴールドは、やはりメランとは分かり合う事は到底、有り得ないと理解した。

 

「だったら……次は敵として、お前と戦うさ」

 

「ふふ……そうで無くては困る。それよりも……お前の大切な者が危機に立たされているぞ……早く行ってやったらどうだ?」

 

「大切な者……?」

 

「……では、また逢おう……‼︎」

 

 それだけ言い残すと、メランは炎の中に消えていった。残された、ガオゴールドは再び路地に立っていた。その際、ヘルメットの中に、テトムの声が響く。

 

『ガオゴールド‼︎ 街中に、オルグが現れたわ‼︎ 急いで‼︎』

 

 その言葉を聞いたガオゴールドを察した。大切な者が危機に……祈の顔が浮かび上がる。

 ガオゴールドは一目散に走り出す。祈が危ない!

 それを遠方の屋根の上に立ち、一部始終を観察していたのはメランだ。

 

「強くなれ、ガオゴールド……。今より更に高みへ、我と対峙する場所まで昇って来い……」

 

 それは敵に対する挑戦とも……ライバルに対する激励にも似ていた。そうして、メランは炎に包まれ姿を消した。

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

 美羽は息も絶え絶えとなりながら、襲い掛かる敵を必死に退けていた。魏羅鮫を構えた千鶴、オルゲット大多数、ツエツエとヤバイバ……戦闘力を持たない美羽や祈には強大な相手だ。

 ツエツエは不敵に笑いながら、美羽に迫る。   

 

「ほらほらァ! さっさと観念しなさいよ‼︎」

 

 杖を美羽に突き付けながら、ツエツエは言った。しかし、美羽は祈を庇い、決して動こうとしない。

 

「鷲尾さん‼︎ 私を置いて逃げて‼︎」

 

 祈は懇願した。自分を庇い続けた為、彼女は傷だらけだ。

 

「貴方を…死なせる訳に行かないの…‼︎」

 

 強い意志を持って、美羽は叫ぶ。そんな様子を、ヤバイバは嘲る。

 

「美しい友情かよ? 泣かせるじゃねェか。だが、ガオレンジャーですら無い、お前に何が出来る?」

 

「だ、黙れ……」

 

 美羽は、ヤバイバを睨み付ける。

 

「わ、私は……彼女を護る使命がある……‼︎ 彼女に指一本だって触れさせるものか……‼︎」

 

「‼︎」

 

 美羽の発した気に、ヤバイバは思わず仰反る。この気を、ヤバイバは覚えがある。かつて戦ったガオレンジャー達…その黄色の戦士に似ていた。

 幾度となく彼と戦ったヤバイバからすれば、オルグから見て”ただの人間’’である筈の彼女に、ガオの戦士が重なるのは異様でしか無い。

 

「ちょっと何を押されてるの、ヤバイバ‼︎ たかが人間でしょ⁉︎」

 

「わ、分かってるけどよ……こいつ……‼︎」

 

 人間相手に狼狽るヤバイバを、ツエツエは叱責する。

 だが、ツエツエも目の前にいる少女には違和感を感じていた。ガオの戦士ですら無い筈の人間……にも関わらず、オルグを前に恐怖する所か気丈な態度を崩さず、祈を守りながら自分達に迎え撃って来る。

 その際、業を煮やした千鶴が魏羅鮫を振り上げて美羽に斬り掛かった。

 

「うッ‼︎」

 

「鷲尾さん⁉︎」

 

 幸い反射良く躱した為、傷は浅いが祈を守っていた美羽は態勢を崩してしまった。

 それを見逃さず、千鶴は魏羅鮫を構え直し祈に刃を突き立てた。

 

「! しまった……‼︎」

 

 美羽は一瞬の油断から招いた不覚に、顔を歪めた。反対に、ツエツエは勝利を確信し、したり顔となる。  

 

「オホホホ‼︎ やったわ、これで初黒星よ‼︎」

 

 狂喜しながら、ツエツエは笑った。これ迄の失敗続きから、漸く脱出出来る。一方、千鶴は魏羅鮫のゆっくりと抜こうとする。

 が、刃は祈の身体から抜けずに微動だにしない。それどころか、祈は魏羅鮫を突き立てられたまま立ち上がり、千鶴の手に触れた。

 

『もう、止めなさい。貴方自身、苦しいでしょう?』

 

 祈は口を開く。だが、その言葉は神秘的で、何処か厳かささえ漂わせる。

 

「さ、触るな‼︎ 離せ‼︎」

 

 千鶴は祈の手を退かせようとするが……祈は手を離そうとはしない。

 

『貴方は刀に蓄積された邪気に操られているだけ……さァ、自分を強く持って……』

 

 祈は、理解出来ない言葉を呪文を発する。その途端、千鶴は魏羅鮫から手を放し、吹き飛ばされた。

 

「ああ…⁉︎」

 

 ツエツエは驚愕した。魏羅鮫を手放した千鶴は気を失ったが、先程迄の常軌を逸した姿では無くなっていた。

 祈は安心した様に、魏羅鮫を身体から抜き取る。彼女の身体には出血は愚か、傷一つ付いていない。その状態で魏羅鮫を再度、封印しようとするが……。

 

 

 〜封印など…されて溜まるか……〜

 

 

 邪悪に満ちた声が木霊する。刹那、祈の手にある魏羅鮫が勢い良く舞い上がる。

 

 

 〜この娘の抱く’’怒り’’は目一杯、吸わせて貰った……お陰で、漸く……この窮屈な刀から出る事が出来る……!〜

 

 

 そうすると、魏羅鮫はグニャグニャとあり得ない方向へ曲がり始める。そして、地上に降り立った魏羅鮫に重なる様に’’何か’’が浮かび上がり……。

 

 ’’それ’’は遂に姿を見せた。落ち武者に似たボロボロの甲冑姿、顔は般若の面の如し険しい表情、両腕は刀の刃と融合していた。

 

「我が名は魏羅鮫‼︎ 斬る為に生まれ、斬る為に存在する者よ‼︎ この刃が血に染まり切る迄、目に映る者全てを斬り捨ててくれよう‼︎」

 

 魏羅鮫に蓄積された邪気は千鶴の怒りを糧にして力を蓄え、オルグ魔人として復活した。

 かつての主、武獰斎の無念を晴らす為に……。

 

 

 ーガオの巫女の力を発現させ、千鶴を解放する事に成功した祈。だが、魏羅鮫は溜まりに溜まった邪気を暴走させて最凶のオルグ魔人となってしまった!

 ガオゴールドは、間に合うのでしょうか⁉︎


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