帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest23 登竜門を征く!

 オルグ魔人と化した魏羅鮫……右腕の刀を妖しく輝かせ、佇んでいる。その様子を遠方より眺めているのは、ヒヤータだ。

 

「あ〜あ、遂になっちゃいましたねェ。ツエツエちゃん達、死んじゃうかも知れませんよォ?」

 

 ヒヤータの横で、ニーコがクスクスと笑う。ヒヤータは、薄く微笑を浮かべる。

 

「あの2人も、腐ってもオルグだから自分の身くらい守れるわ。それに、言ったでしょう? 『私の、お腹は痛まない』って」

 

 他人事、と言った具合に、ヒヤータは言い放つ。

 

「あの娘が巫女の生まれ変わりを殺しても良し、オルグと化した魏羅鮫が殺しても尚良し…計画は、不確定要素に合わせて二重に采配しておくものよ……」

 

 そう言い残すと、ヒヤータは鬼門の中に消えて行った。ニーコも後に続く。

 

 

 

 魏羅鮫は刀を構え、ゆらりと歩み寄る。その様は落ち武者に霊の如く物々しく、険しい表情に青白い顔が不気味さを引き立てていた。

 

「嗚呼、嬉しや……もう2度と、人を斬る楽しみを味わえぬと思っていた。あの皮を裂き、肉を刻み、骨を断つ至高の感覚……それを再び、我が手で味わう事が出来ようとは……今日は、なんと良きよ……!」

 

 物騒極まりない発言を垂れ流しながら、魏羅鮫はゆらりゆらりと近づいて来た。美羽はただならない様子に戦慄した。

 肩には、グッタリとした祈を抱き寄せている。トランス状態から脱した彼女は、意識を手放していた。

 魏羅鮫は右腕の刀を振り上げ、斬り掛かってくる。美羽は辛うじて躱すが、先程に受けた傷と祈を庇うと言うハンデ故に、苦戦を強いられてしまう。

 

「オホホホ‼︎ 良いわよ良いわよ‼︎ 早く、その娘達を斬り捨てちゃいなさい‼︎」

 

 ツエツエは調子付いて、魏羅鮫に命令する。だが、魏羅鮫は恐ろしい形相で、ツエツエ達を睨み付けた。

 

「黙れ。拙者は誰の命令も受けぬ。己の斬りたい様に、斬るだけだ」

 

「え…⁉︎」

 

「おいおい、ツエツエ⁉︎ 話が違うぞ⁉︎」

 

 ツエツエとヤバイバは焦り始めた。ヒヤータの弁では、自分達に忠実に従う筈なのに……。途端に、魏羅鮫はオルゲット達を手当たり次第に斬り捨て始めた。

 

「ゲットォォォォ⁉︎⁉︎」

 

 オルゲット達は斬られ、泡となり消えていく。ツエツエは杖を構えて呪術を唱えた。

 

『現世に迷いし邪なる鬼の魂……今、荒ぶる魂を……』

 

「ふぅん‼︎」

 

 ツエツエの呪術を遮る様に、魏羅鮫は刃で杖を弾き飛ばした。

 

「邪魔をするな! 拙者は、ただ斬る‼︎』

 

「ヒィ……‼︎」

 

 ツエツエは恐怖に慄く。ヤバイバも同様である。

 

「クソ……反逆してくるなんて、知らなかったぞ‼︎ ヒヤータの奴、俺達まで騙しやがったな‼︎」

 

 漸く、ヤバイバはヒヤータに一杯、食わされた事に気が付いた。魏羅鮫は構う事なく、目に映る者全てを斬り始めた。

 

「……ヤバイバ、逃げるわよ‼︎」

 

「……おう‼︎」

 

 2人は後は知らない、と言った具合に逃走した。残された魏羅鮫は、美羽に狙いを定める。

 美羽は祈を庇いながら、魏羅鮫と対峙しなければならなかった。武器らしい武器は無い。極め付けには、意識の無い祈と千鶴を連れていると言うハンデ付きだ。

 追い詰められた美羽は歯軋りする。

 

「(今、力を解放すれば……でも……‼︎)」

 

 そう考えながら、美羽は意味深に左腕を撫でた。

 

 

 

 ガオゴールドは必死になって走った。さっき迄、感じなかった邪気が、ひしひしと伝わって来る。

 きっと強力なオルグが姿を現したのだ。メラン曰く、祈が危ないとの事だ。

 その際、アスファルトに付着している赤い液体に目が止まった。

 

「これは……血痕⁉︎」

 

 嫌な予感が胸を過ぎる。祈の物でなければ良いが……心臓が早鐘に様に鳴るのを抑えつつ、ガオゴールドは血痕を辿る。

 血痕は辿れば、辿る程に量と濃さが多くなっていた。かなりの深傷を負っているに違いない。

 ふと、血痕は右角を曲がって落ちているのに気付き、ガオゴールドは右折した。すると、壁にもたれ掛かる人物が居た。

 

「佐熊さん⁉︎」

 

 血痕の主は、佐熊力丸だった。服の上から分かるくらいに血が滲んでいるのが見える。壁を見ると、もたれ掛かった際に付着した多量の血痕が、彼の重篤さを物語っていた。

 

「佐熊さん! しっかりして下さい‼︎」

 

 彼の体を揺すって呼び掛けるが気を失っているらしく、佐熊は微動だにしない。血を流しすぎたらしく、肌は石の様に冷たい。

 ガオゴールドは、仲間の危機に気付かずに居た己の浅はかさを呪った。

 と、その際に佐熊は激しく咳き込みながら目を覚ました。

 

「さ、佐熊さん! 気が付いたんですね‼︎」

 

 安堵した様に、ガオゴールドは言った。佐熊は苦しげに顔を歪ませつつも、ゴールドを見た。

 

「ご…ゴールド…。スマン…油断した…」

 

「オルグにやられたんですか?」

 

 ゴールドの問いかけに、佐熊は首を振った。

 

「違う…人間の娘に……」

 

「に、人間……?」

 

 何を言ってるのか? ガオゴールドは首を傾げる。すると、彼の側に生徒手帳が落ちているのに気付いた。

 拾い上げ読むと……。

 

「峯岸……千鶴?」

 

 自分は知らない生徒だ。だが、中学校と制服は祈と同じ学校の物だ。

 

「ぐゥ……‼︎」

 

 佐熊は呻く。良く見れば血は未だに流れ続けており、足元には真新しく血溜まりが出来上がっていた。

 このまま放っておけば、佐熊は失血死してしまうかもしれない。

 

「‼︎ とにかく、佐熊さんを病院に……‼︎」

 

 ガオゴールドは先に、佐熊の傷を手当てする方が先決だとし、佐熊の傷口の止血に掛かる。だが、佐熊は……

 

「わ、ワシの事は心配するな……それよりも、オルグの方を….」

 

 寄り掛かろうとするガオゴールドの手を、佐熊は振り払う。

 

「何言ってるんですか⁉︎ 仲間を見捨てる訳に行かないよ‼︎」

 

 尚も食い下がろうとするガオゴールドだが、佐熊はゴールドの胸倉を掴んで怒鳴る。

 

「何時迄、甘い事を言っとる⁉︎ これは遊びじゃ無い‼︎ 命を賭けた戦いじゃ‼︎ 戦いの中で命を落とす事など当然……そんな覚悟も無く、ガオの戦士になったんか⁉︎」

 

「さ、佐熊さん……‼︎」

 

 ガオゴールドを睨む佐熊の目は、長きに渡る戦いを切り抜けてきた歴戦の戦士、加えては経験豊富な先輩としての厳しさに満ちていた。

 

「オルグをのさばらせておけば、罪の無い人間達の血が流れる……それを未然に防ぐのが、ワシらの務めじゃ…!

 ガオゴールド、行け……‼︎ 例え、ワシが死んでも……ワシの屍を越えて行けェェ……‼︎」

 

 強く、そして激励する様に佐熊は言った。

 ガオゴールドは、突然に起こった大神の脱退から仲間を失う事に恐怖を覚えていた。

 それ迄は自分を含め、他者の死を受け入れるには精神的に未成熟だった陽。だが、ガオゴールドとしての戦い、ガオレンジャーの使命、そして佐熊の叱責が、未だに一般人と戦士の狭間にて揺れ動いていた不安定な陽の足場を、固めつつあった。

 

「分かりました‼︎ 佐熊さん……どうか死なないで……!」

 

「大丈夫……伊達に1000年、生きとる訳じゃ無い……これ位でくたばらんわ……」

 

 佐熊は、ガオゴールドを追い払う様に急かした。

 知っている仲間は皆、死に絶えて孤独となった佐熊力丸……だから、それ以上に彼の内には戦士としての信念、矜恃が残されている。今尚、未練に足をすくわれているガオゴールドを奮い立たせるに至った。

 意を決したガオゴールドは、佐熊に背を向けて走り去っていく。覚悟を決めたであろう若き戦士の背に、佐熊は心の中で語りかける。

 

「(ゴールド……繰り返すぞ? ワシの屍と共に、己の甘さを乗り越えて行け……。これから先の戦いは流れ落ちる滝を登りきれん’’鯉’’では、耐えられん。

 滝を登り切れ….‼︎ 滝を登り切って……竜門に入り……本物の’’竜’’となれ……‼︎)」

 

 そう言い残すと、佐熊は静かに目を閉じて意識を手放した。

 

 

 

 魏羅鮫は刃に血を滴らせながら、壁を背にしてもたれ掛かる美羽を見下ろしていた。

 祈を庇いながら逃げ切っていたが、その間に複数回、斬られてしまった。最早、立っている事も精一杯だ。

 

「ふふふ、良いな……人を斬り付ける感触は、何とも甘美な物よ……事に女子供の柔肌が、刃に斬り刻まれていく感触……これ以上の快楽等、考え付かぬ……」

 

 下衆な感想を漏らしつつ、魏羅鮫は呟く。

 本来の持ち主の邪悪な一面に当てられた影響か、はたまた長きに渡り蓄積された怨念が、そうさせたのか……。

 兎にも角にも、魏羅鮫から滲み出る邪気は尋常じゃ無い迄の殺意、そして狂気を醸し出していた。

 

「脆弱な人間は、ただ黙ったまま斬られて居れば良いのだ……」

 

 その言葉に対し、美羽はキッと魏羅鮫を見据えた。

 

「邪気に操られるだけの操り人形が……人間を舐めるな……」

 

 虫の息になりながらも、オルグに対する敵意を絶やさない美羽に対し魏羅鮫の顔は憤怒に満ちた。

 

「虫ケラが……この魏羅鮫を侮辱するか……。

 じわじわ、殺してやろうとするのが望まぬなら、それも良かろう。ならば、人思いに一刀の下、地獄に堕としてくれる」

 

 そう言い放つと、魏羅鮫は右腕の刃を振り上げる。美羽は悔しそうに顔を歪ませた。

 せめて、ガオレンジャー達が来るまでの間、時を稼ぎたかった。祈を確実に守れるだけの時間を……。

 

「そうだ……その顔……! 絶望と苦悶に歪ませ、苦しみ足掻く末に見せる顔……その顔に刃を突き付ければ……これ以上に至福はあるまい……‼︎」

 

 そうして、魏羅鮫は刃を美羽の顔に目掛け勢い良く振り下ろす。美羽は最早、これまでか……と目を閉じた。

 だが、その腕に必死にしがみ付く影があった。

 

「斬らせない……絶対に斬らせないから‼︎」

 

 祈だ。丸腰のまま、魏羅鮫の腕に縋り付き動きを止めたのだ。

 

「い、祈⁉︎ 無茶よ、離れて‼︎」

 

 美羽は傷の痛みを忘れ、叫ぶ。だが、祈は魏羅鮫から離れない。

 

「……もう嫌なの! 私を守る為に、誰かが傷付くなんて……‼︎ それを指をくわえたまま見ている事しか出来ないなんて……もう沢山なの‼︎」

 

 祈は決死の思いで叫ぶ。何時も、自分は守られてばかりだ。

 その為に、陽や自分以外の人間が傷を負い苦しむ羽目となる。そんな事は、祈には耐えられない。

 彼女の悲痛な考えが、無駄だと分かりつつも行動させた。

 

「く……‼︎ 離さぬか、この小娘が‼︎」

 

 魏羅鮫は刀を腕ごと押さえつけられ、振り下ろす事が出来ない。だが、残った片腕で強引に祈の首を掴み引き離した。

 

「がァ…ァ……‼︎」

 

 オルグの握力で首を絞められ、祈は抵抗も出来ずに締め上げられてしまう。魏羅鮫は自由となった刀のある右腕を、祈に向けた。

 

「くくく……自分から死にに来るとはな……‼︎ そんなに死にたければ、貴様から殺してやる‼︎」

 

「や、止めろ……‼︎」

 

 美羽は傷の為、動く事が出来ない。だが、か細い声で魏羅鮫に制止を呼び掛けた。

 

「其処で見ていろ‼︎ この娘の次は貴様だ…‼︎」

 

 魏羅鮫は残酷な笑みを浮かべ、祈を見上げる。右腕の刃は逆光を受け妖しげに輝く。刃先に付着した美羽の返り血が、獲物を狙う猛獣の涎の如く、たらりと流れ落ちた。

 

「心の臓を、肋骨や脊椎と共に刺し貫いてやろう。

 痛みは一瞬だ。直ぐに何も感じなくなる……」

 

「う……ぐゥ……‼︎」

 

 祈は激しくもがくが、首を絞められている為、指先に力が入らない。意識を手放してしまいそうだ。

 

「(に……兄……さん……助け……て……‼︎)」

 

 意識が途切れそうになりながらも、祈は兄の顔が浮かぶ。

 何時も、そうだった。自分が辛い時や苦しい時は、側に居てくれた。陽が、自分に吹き付ける向かい風を払っていてくれた。だが、現実は正直かつ無情だ。今まさに、自分の命が尽きようとする現実しか無い。

 

「さァ……死ぬる最後の一瞬に見せる血の花を……撒き散らせ‼︎」

 

 遂に、魏羅鮫を凶刃が祈の胸を捉えた。

 

 

「止めろォォォォ!!!!!!」

 

 

 美羽は力のあらん限りに叫んだ。だが……その刃は祈の華奢な身体を柔肌の上から刺し貫いた……。

 

 

「ぐあァァァッ!!?」

 

 

 木霊する悲鳴。だが、それは祈のものでは無い。他ならぬ、魏羅鮫のものだ。魏羅鮫は祈を掴んでいた左手を離した。

 

「ゲホッ…ゲホッ‼︎」

 

 漸く自由にされた祈は首を抑えながら、咳き込む。当の魏羅鮫は左手を振り回していた。

 

「左手が……左手がァァァ……⁉︎」

 

 魏羅鮫の左手は、まるで茹で滾った熱湯の中に浸けたかの様に焼け爛れていた。じゅうじゅう…と肉が焼ける様な擬音が響き、溢れ出す緑色の体液が地面を汚した。

 

「な、何で…?」

 

 祈は薄目を開けながら、苦しみもがく魏羅鮫を凝視した。

 何故、魏羅鮫の手が焼け爛れたのか? 何が、彼に傷を負わせたのか? 祈は理解出来なかった。

 

「小娘がァァ……何をしたァァァ!⁉︎」

 

 悪鬼の如し形相で、魏羅鮫は憎悪に吠える。痛みに耐えながら、尚も刃を振り下ろそうと迫るが……。

 

 

 

 

 …ゴキィッ!!

 

 

 

 

 骨を砕く様な鈍い音が響き渡る。それと同時に、魏羅鮫は弾かれた様に2m程も、吹き飛ばされた。その先にあるコンクリートの石壁に衝突し、小規模なクレーターが出来る程だ。

 倒れ伏す魏羅鮫を見下ろす様に立つのは、金色に輝くスーツと竜を模したマスクを着用した戦士……ガオゴールドだ。

 

 

「に、兄…さん…」

 

 直ぐに、其れが兄だと祈には理解った。涙で視界がぼやけるが、間違いない。紛れも無い陽だ。

 

「祈‼︎」

 

 ガオゴールドは振り返り、倒れている祈を抱き寄せた。

 

「来て…くれた…」

 

「ッ…‼︎ 当たり前だ…‼︎」

 

 ガオゴールドはマスクの下で、激しく後悔した。

 奴等の狙いは自分じゃ無い、祈だった……。思えば、自分と祈の接点を見出したオルグ達は、祈に狙いを定める事くらい容易に想像出来た筈……それなのに……。

 

「ごめん…ごめんな、祈……僕がしっかりしていれば、こんな事には……‼︎」

 

 つくづく自分の愚かさに腹が立ってくる。祈を守る筈が、その守るべき彼女を危険に晒してしまった。

 何が、地球を守るだ。何が、ガオレンジャーだ。妹一人、守れなくて何が……。陽は、マスクの下で涙を流す。

 

「泣かな…いで……兄さんの…せいじゃ無いよ……」

 

「もう良い…喋るな…」

 

 兄を気遣う様に、祈は気丈に振る舞う。だが、その健気ささえ、陽には苦しかった。

 

「信じ…てたから…兄さんが…きっと助けに…来てくれるって…」

 

「もう良いって…言ってるだろ…‼︎」

 

「兄さん…」

 

 マスクの下で泣き続ける陽。そのマスクの口元にあたる部分に、祈はキスをした。まるで泣きじゃくる子供を母が慰める様に…。

 

「兄さん…大好き…」

 

 祈は陽への自身の想いを打ち明けた。兄として…そして一人の男性として…陽に抱き続けた想いを込めて…そうして、祈は気を失った。

 

「…祈…‼︎」

 

 陽/ガオゴールドは、祈を優しく寝かせた。其処へ這う這うの体で美羽が近付く。

 

「…ガオゴールド…祈は私が…」

 

 どうして、この場に美羽が居るのか? ガオゴールドは、そんな些細な疑問を、かなぐり捨てた。

 

「ああ…頼むよ…」

 

 それより、今のガオゴールドの中には…大切な人を傷付けたオルグに対する明確な怒り…ただ、それしか湧いて来なかった。

 

 

 

「ぐッ….貴様ァ…‼︎」

 

 ガオゴールドに盛大に殴り倒された魏羅鮫は立ち上がる。

 目はギラギラと血走り、爛れて使い物にならなくなった左腕を右腕の刀で斬り落とした。すると、腕の中から生える様に刀が出現した。

 ガオゴールドは、スクッと立ち上がる。

 胸中は、目の前に居るオルグへの憎しみの炎がメラメラと燃え上がる。コイツは、何処から湧いて来たんだ?

 何で、こんな奴に祈を傷付ける権利がある?

 様々な自問自答が繰り返される。だが、それも束の間….ガオゴールドの中で、何かが切れる音がした。

 そう…理性の切れる音が…。

 

 

「ガアァァァァァッ!!!!!」

 

 

 ガオゴールドは獣に似た雄叫びを上げ、魏羅鮫に向かっていく。ドラグーンウィングもガオサモナーバレットも要らない。拳のみで……それで充分だ。

 

 魏羅鮫は迎え撃つ敵の放つ凄まじい闘気、ひいては殺気に気圧された。両腕の刀で斬り掛かろうと振り下ろすが、ガオゴールドは腕を斬られた事も介せず、魏羅鮫の首を押さえつけると地べたに押し倒し、馬乗りになった。

 

「ガアァッ! ガアアァッ‼︎ ガアアアァッ!!!」

 

 怒りに我を忘れ痛覚さえも遮断してしまう。右拳を振り上げ、魏羅鮫の顔面に叩き込む。次は左拳、続いては右拳を……。

 狂った様に吠えながら、ガオゴールドは魏羅鮫の顔面を幾多と殴打した。バキッ…ビキッ…と、嫌な音が砕ける音と、ゴールドの咆哮だけが響いた。

 

「殺してやる‼︎ お前を殺してやる!!!」

 

 明確な殺意を剥き出しにし、呪詛の言葉を吐き散らしながら、ガオゴールドは魏羅鮫に拳を叩き続けた。

 ガオスーツの恩恵が有るとは言え、強固なオルグの皮膚を叩き続ける内に、手袋が裂け血が吹き出した。赤と緑の血が混ざり合い、アスファルトに散り飛ぶ。

 それでも尚、ガオゴールドは我武者羅に殴り続けた。

 これ迄の、オルグに対する怒り、大神を奪ったガオネメシスへの怒りをぶつける様に……やり場の無い怒りを、拳に乗せてぶつけた。

 やがて、魏羅鮫は動かなくなる。だが、辛うじて生きている様だ。顔は、度重なる暴行を受けて見る影も無い位、潰れていた。

 しかし、ガオゴールドは許さなかった。立ち上がり、ドラグーンウィングを取り出した。足は、魏羅鮫の腕を刀の有る腕を踏み付け、ドラグーンウィングでもう片方の腕を縫い付けた。

 

「まだ生きているのか……ゴキブリ並、いや…それ以上の…しぶとさ…醜さだな‼︎」

 

 吐き棄てる様に言い放つガオゴールド。右手には、ガオサモナーバレットを握り、銃口を向けた。

 

「貴様みたいな奴は…消えて無くなれ….‼︎」

 

 常軌を逸した様子で、ガオゴールドは引き金に指を掛ける。

 たが、魏羅鮫はニィィ、と口角を吊り上げた。

 

「何が、おかしい⁉︎」

 

「拙者を殺すか……殺せ。憎しみに支配され拙者を殺せば良い……そして、負の連鎖は繰り返されるのだ……」

 

「この期に及んで……‼︎ 望み通り、殺してやるッ‼︎」

 

 感情に任せ、引き金を引こうとした刹那……。

 

 突然、ガオサモナーバレットに小さな火球が衝突し爆発した。手先に痺れが走り、油断したと同時にバレットを手落としてしまった。

 それを見計らった魏羅鮫は、ガオゴールドを足で蹴り飛ばし後退させた。縫い付けてあった腕を強引に外し、ドラグーンウィングを外し叩き付けた。

 

「…ハァ…ハァ…」

 

 ガオゴールドは再び、魏羅鮫と睨み合いながらも今、自分は怒りに囚われ、魏羅鮫に隙を与えていた。

 ガオゴールドの本質は優しさ…だが、それは裏を返せば、大切なものを守る為なら、自ら進んで修羅と化す危うさもある。其れでは、ガオレンジャーとは言えない。オルグと寸分違わなくなる。魏羅鮫は、ニヤリと笑う。

 

「憎しみに囚われていたな? その憎しみで、拙者を殺せば良かったものを……良い事を教えてやる。ほんとうに憎い敵を仕留める術は……そいつを心の底から憎む言葉だ」

 

 挑発する様に、魏羅鮫は言った。その言葉に、ガオゴールドは腹わたが煮え繰り返る様な、身体の芯からザワザワとして来るのを感じた。

 魏羅鮫は自分を怒らせようとしている。乗せられちゃ駄目だ。

 ガオゴールドは隙を探った。魏羅鮫には右も左も、上も下も隙は見当たらない。呼吸だ…オルグの呼吸、己の呼吸…其れを知り、魏羅鮫の動きを探ろうと試みる。

 両腕の刀…例え、剣にて一撃を加えようとも防がれてしまうだろう。ならば……。

 ガオゴールドは連結させたドラグーンウィングを構え、魏羅鮫の懐へと突っ込んで行く。

 

「はははァ‼︎ 自ら死を選ぶかァ⁉︎ 」

 

 魏羅鮫は高笑いしながら、刃を振り上げて来る。

 ガオゴールドが、魏羅鮫の足元に立ち止まった刹那、両腕の刃が斜め十字状に降りて来た。その瞬間、ガオゴールドは大地を蹴って迫り来る刃の間を擦り抜け、飛び上がった。

 

「ヌゥ⁉︎」

 

 魏羅鮫は、ガオゴールドを追って見上げるが遅かった。ドラグーンウィングを両手で握りしめ、重力と共に落下した。

 

 

「竜天……地裂‼︎」

 

 

 ドラグーンウィングの刃が、魏羅鮫の脳天から下半身に迄、達し唐竹割りを行った。

 

「ぐ…が…あァ……‼︎」

 

 魏羅鮫は断末魔を上げながら、身体前半分がパックリと断裂し緑色の血を吹き出しながら、うつ伏せに倒れ伏した。

 アスファルトに緑色の血が流れて、血溜まりとなって行く。

 ガオゴールドは立ち上がり、ドラグーンウィングに付着した血糊を払う。

 一時、感情に呑まれてしまいそうになったが、結果的には思い留まる事が出来た。ガオゴールドは安堵する。

 

【ゴールド⁉︎ 聴こえる⁉︎】

 

 ヘルメット内に、テトムの声が響く。

 

「ああ、何とか倒したよ……」

 

【そう…良かった…。こっちも、力丸と祈ちゃんを保護したわ! 祈ちゃんは気絶しているだけだし、力丸は出血が酷かったけど一命は取り留めたわ!】

 

 その言葉を聴いて、改めてガオゴールドは胸を撫で下ろした。

 祈も佐熊も無事だった……ガオゴールドも、仲間達と合流しようと歩き出すが……。

 

 

 ー……まだ……斬り足りぬ……ー

 

 

 突如、響き渡る禍々しい声に、ガオゴールドは振り返る。

 倒した筈の魏羅鮫が立ち上がっていた。顔は真っ二つに両断され夥しい量の血が流れるが、魏羅鮫は立っていた。

 

「……生きていたのか⁉︎」

 

 ガオゴールドの叫びに応えるかの如く、魏羅鮫は片腕の刀で自身の腹を裂いた。

 

「ぐげッ‼︎」

 

 呻き声と同時に裂かれた腹から、血の代わりに目に見える程の濃密な邪気が溢れ出した。邪気はもうもうと舞い上がり、魏羅鮫の身体を覆い尽くして行く。やがて、量の増えた邪気は更に肥大化して行き、遂には人の形を成していった。

 

 

「ハアァァ……‼︎」

 

 

 やがて、邪気が晴れると巨大なオルグ魔人と化した魏羅鮫が出現した。魏羅鮫は両腕の刀をギラつかせ、笑う。

 

「全てを斬る‼︎ 斬って捨てる‼︎」

 

 最凶にして最悪の剣豪は高らかに宣言する。ガオゴールドも、拾い上げたガオサモナーバレットを構える。

 

「魏羅鮫‼︎ お前の好きにはさせない‼︎ 今度こそ、決着を付けてやる‼︎

 幻獣召喚‼︎」

 

 そう叫ぶと、銃口から放たれる3つの宝珠。召喚されたガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが舞い上がり、合体していく。そこへ、ソウルバードに搭乗したガオゴールドが吸収されれば…。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン‼︎」

 

 ユニコーンランス、グリフシールドを装備した聖騎士ガオパラディンが、魏羅鮫の前に対峙する。

 魏羅鮫の刀による斬撃をグリフシールドで受け止め、ユニコーンランスを突き出す。

 だが、邪気が堅牢な鎧と化している為、ダメージを与えられない。反対に、もう片方の刀でガオパラディンを斬り付けて来た。

 

「ぐッ⁉︎」

 

 非常に重く鋭い斬撃を受け、コクピット内のガオゴールドは仰反る。悔しいが、一発一発の攻撃による威力は魏羅鮫の方が上だ。しかも、邪気に守られている以上、必殺のホーリーハートも通用しないだろう。

 邪気による守りの上から、強力な一撃を叩き込めれば……。

 

 

【ゴールド‼︎ 聴こえるか⁉︎】

 

 

 コクピット内に、佐熊の声が響いた。

 

【ワシは怪我のせいで戦闘に加われんが、コイツ等の力を使え‼︎】

 

【ゴールド、送るわよ‼︎】

 

 テトムの声と共に、台座の上に宝珠が2つ、転送された。

 

「分かりました‼︎ 百獣武装‼︎」

 

 すぐ様、ガオゴールドは台座に宝珠をセットした。すると、ガオユニコーン、ガオグリフィンが分離し右腕にガオボアー、左腕にガオリンクスが合体した。

 

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・ストロングアーム」

 

 

 〜剛の力を持つパワーアニマルを武装する事で、パワーに特化した聖騎士が誕生します〜

 

 

「今更、無駄だァ‼︎ この刃の錆としてくれる‼︎」

 

 魏羅鮫は刀を振りかざし、ガオゴールド・ストロングアームに斬りかかる。だが、ガオボアーの右腕で繰り出したパンチが刃を打ち、叩き折ってしまった。

 

「な、なんだ…と…⁉︎」

 

「凄いパワーだ‼︎」

 

 ガオゴールドは驚愕する。続け様に、ガオリンクスの左腕でボディーブローを繰り出し、魏羅鮫にダメージを与えた。

 

「ぬぐ…ァァ⁉︎」

 

 思い寄らない奇襲に、魏羅鮫は怯む。残った刃で、ガオパラディンに斬りかかるも、ガオリンクスで受け止め、魏羅鮫の腕を捻じ上げた。

 そのまま、ガオリンクスの顔が回転し刀を捻り切り、両方の刀を破壊するに至った。

 

「よし、今だ‼︎」

 

 攻撃する手段を奪い、弱体化した魏羅鮫は悪足掻きとして体当たりを仕掛けるが最早、抵抗する術は無い。

 ガオパラディンは右腕のガオボアーを前に突き出し、左腕のガオリンクスをボアーの横顔に添える様にして構える。

 

「ボアーガトリング‼︎」

 

 ガオゴールドの掛け声に合わせて、ガオボアーの鼻から小型のエネルギー弾が、マシンガンの様に連射した。

 高速で、エネルギー弾は魏羅鮫の身体に直撃し連発して当たる為、逃げる事が出来ない。

 身体がズダボロになり、立っている事がやっとの状態になる魏羅鮫。チャンスとばかりに、ガオボアーの鼻から出るエネルギー弾が止まり、エネルギー弾は集中し始める。

 

 

「轟々獣撃! ストロングショット‼︎」

 

 

 掛け声と共に、エネルギー弾が球状に凝縮、形成され魏羅鮫に撃ち込まれた。

 凝縮されていたエネルギー弾は一気に膨張、爆発した。

 

 

「ぐゥおォォォォッ‼︎ まだ…まだ…斬り足りない…のにィ……‼︎」

 

 

 断末魔を上げながら、今度こそ魏羅鮫は大爆発し炎上、火柱となって灰塵へと消えて行く。

 

 ガオパラディンは灰となって散りゆく魏羅鮫を見ながら、勝利の咆哮を上げた。

 

 

 

 戦いの後、ガオゴールドは爆心地の後に立つ。幸い、戦いの中で民家より離れた場所で爆発した為、周囲の民家は無事だった。ゴールドは、足元に転がっていた魏羅鮫を拾い上げる。既に刃毀れし、刀として死んでいた魏羅鮫は、手に取ると同時に、ボロボロと崩壊した。まるで、刀に積もり積もった怨念から解放された様に……。

 

「兄さん‼︎」

 

 振り返ると、祈が駆けて来る。後ろには、テトムの肩に捕まる佐熊も居た。

 

「兄さん…ごめんなさい‼︎ 私……」

 

「…もう良いんだ、無事で良かった…」

 

 陽は、祈を抱いてやり落ち着かせる。そして、佐熊に宝珠を返した。

 

「佐熊さんも……無事だったんですね…‼︎」

 

「言ったろう? あれくらいでは死なんと……。滝を登り切り、竜に化けた様じゃな」

 

 佐熊は、ニヤリと笑って見せる。すると、テトムは振り返った。

 

「あの娘も無事よ……ほら」

 

 其処には、まだフラフラしている千鶴が居た。慌てて変身を解いた陽は、千鶴を見て悟る。

 彼女も、オルグに利用されたのだと。

 

「峯岸さん、大丈夫?」

 

 祈は千鶴に近付きながら、尋ねる。途端に千鶴は、顔をクシャクシャにしながら泣き出し、祈に頭を下げる。

 

「ごめんなさい、竜崎先輩‼︎ 私……とんでもない事を……‼︎」

 

 千鶴は泣きじゃくりながら、祈に謝罪した。朧げながらも、自分がしでかした事の重大さを分かっている様だ。

 

「…もう良いよ…貴方は悪い夢を見ていただけだから…」

 

「…‼︎ 先輩…‼︎」

 

 優しく語り掛ける祈に、千鶴は抱き付く。その様子を、陽は見ながら改めて、オルグの恐ろしさを再認識する。

 

「…まさか、人の心の闇に付け入るオルグが居たなんて…恐ろしい奴だ。二度と、目に掛かりたく無いな…」

 

 そう言って、陽は崩れ掛けた魏羅鮫の残骸が完全に風化し、風に撒き散らされて消えて行くのを見届けた。

 

 その様子を遠方より、メランは見守っている。陽の姿を見ながら……。

 

「…そうだ。そうやって、強くなれ。我と肩を並べる強さを持って、我の前まで来るが良い…」

 

 そう言い残し、メランは夕焼け空の下、炎に包まれ姿をくらました……。

 

 

 

 〜人の心の闇を喰らい、人を斬る事を望み暴れ回った魏羅鮫オルグ。

 彼は、人間の誰しもが心中に抱く’’狂気”そのものだったかも知れません…〜


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