帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

25 / 74
quest24 卑劣なる罠

 ヒヤータは珍しく、苛立った様子だった。鬼棋の駒を動かす手は心無しか乱暴で、冷静な彼女に似つかわしく無い張り詰めた面持ちだ。

 

「あのォ…お姉様?」

 

 ニーコは、コソコソとヒヤータの顔を覗き込む。すると、ヒヤータは笑顔を見せた。

 

「あら? どうかしまして、ニーコ?」

 

 穏やかな口調、貼り付けた様な笑み、だが醸し出されるオーラだけは彼女の苛立ちを募らせていた。

 

「あ…あの…ツエツエちゃん達が、魏羅鮫がやられたって報告してきたんですけどォ…?」

「それで?」

 

 ヒヤータは話の続きを聞かせろ、と言わんばかりに求めた。

 その彼女の顔を見た瞬間、ヒヤータは「ヒッ」と小さく悲鳴を上げる。笑みも穏やかな口調も消え去り、無表情で冷徹な顔となっていたからだ。

 

「…え…ですからァ、次はどうするべきかって…」

「ハァ……策士も楽じゃ無いわね……特に無能な部下を持つと苦労しか無いわ……ウラ様は、よく我慢出来た物ですわね……」

 

 そう言いながら、ヒヤータはわなわなと腕が震えた。

 

「あッ? これは拙いかしらァ?」

 

 身の危険を察知したニーコは、自分の身体を消失させた。

 残されたヒヤータは、何時もの冷静さが何処にやら、髪を逆立てオルグの証たる角を露わにした。

 表情も、昔話に登場する山姥や鬼婆と言った具合の形相となっていた。

 ヒヤータは瞬く間に、鋭く鋭利な爪で鬼棋の台座毎を切り刻んだ。しかし、それでも物足りないとしてテーブルに拳を打ち付け、叩き壊してしまう。更には、部屋に飾ってあったタペストリー等をビリビリに破り、まさに鬼の様に暴れ回った。

 

 漸く静かになり、ニーコは姿を現すと室内は台風でも追加した様な荒れ果てた姿となっていた。

 

「…ハァ…ハァ…」

 

 ヒヤータは肩で息をしていた。ニーコは恐る恐る、ヒヤータの顔を覗き見る。すると、ヒヤータはニコッと笑った。

 

「大丈夫よ、もう落ち着いたわ…」

 

 此れが、ヒヤータの本質だ。冷静で合理的な、オルグには珍しい知能犯タイプの彼女だが、やはり内面はオルグ。凶暴かつ激情的な本性を持っている。

 普段は抑え込んでいるが、自身の算段やプランを乱されると激昂し、この様に周囲に当たり散らす悪癖を持っていた。

 漸く苛立ちを発散され、落ち着きを取り戻す。ヒヤータは椅子に座り、散らかした部屋を片付けるニーコに言った。

 

「ねェ、ニーコ?」

「はい?」

 

 ニーコは振り返ると、ヒヤータの目は悪巧みを思案する妖しい輝きを見せていた。

 

「……ガオゴールドは度重なる精神的な攻めを受けて、かなり疲弊しているわ。落とすなら、今ね」

「お姉様? 今度は何を企むつもりですかァ?」

 

 また、陰湿な罠を仕掛けるつもりだろう。自分も相当だが、ヒヤータもかなり他者を甚振る事を好む下卑た性質を持っている。そう言った意味では、ニーコとヒヤータは上司、部下としての関係は良好だった。

 

「狼鬼と鏡オルグを遣わせなさい。ニーコ、貴方も同行してね?」

「へ? 私もですかァ?」

 

 何故、自分が現場に? と、言わんばかりにニーコを首を傾げる。すると、ヒヤータは紅い石の様な物を彼女に渡した。

 

「これは?」

 

 ニーコの質問に、ヒヤータはクスリと笑う。

 

「鬼の結晶よ。それと同じ物を狼鬼の中に埋め込んであるわ。其れが在る限り、狼鬼は私に逆らう事は出来ない……つまり、そう言う事よ…。それと……」

 

 ヒヤータは冷たい笑みを浮かべ、こっそりと耳打ちした。ニーコは成る程、と納得した様だ。

 

「はいは〜い! 了解致しましたァ‼︎」

 

 ニーコは再び姿を消した。残されたヒヤータは、破壊された盤上の上に散らばる鬼棋の駒を持ち上げる。駒には、オルグ文字でガオゴールドと記されている。

 

「ガオゴールドを落としさえすれば…後は、どうとでもなるわ。この私の邪魔をする者は、何人たりとも容赦しない….そして、原初の巫女も……。ふふ、私の計画は絶対に狂わない…」

 

 そう言うと、ヒヤータは駒を握りしめる。暫くしてから掌を開けると、粉々になって居た。

 

 

 

 魏羅鮫の騒ぎから三日経ち……陽は、再び訪れた間隙の平和を過ごしていた。だが、平和を享受する様な暇は無い。

 魏羅鮫の前列もあり、オルグ達はいつ何処から仕掛けて来るか分からない。常に神経を昂らせて居なければならない。

 祈には注意を促す様に、言っておいた。家から学校へ行く迄は自分と一緒だったし、一人で行動しない様に言いつけておいた。それでも、陽は気が昂りピリピリとしてしまう。

 

「…い、陽‼︎ 陽ってばよ‼︎」

 

 ふと声がした為、陽は顔を上げた。目の前で猛は不機嫌な様子で睨んでいた。

 

「さっきから呼んでんの聴いてねェのかよ⁉︎ 返事くらいしろよな‼︎」

 

 猛は苛々しながら言った。昇は横に立ち、腕を組みながら黙っているが陽を心配しながら見ていた。

 

「陽…最近、疲れてるみたいだな。大丈夫か?」

「あ…うん…。ちょっとな……」

「ヘェ、そんなに疲れるくらい楽しんでんのかよ?」

 

 嫌に噛み付いてくる猛に、陽はムッとした様に言い返す。

 

「何が良いたいんだよ?」

「お前、最近、付き合い悪いぜ? 俺達に隠れて、女の子と遊んでんじゃねェのか?」

 

 急に検討外れな事を言い出す猛に、陽は呆気に取られた顔となる。

 

「別に猛達に隠れて付き合ってないし、僕には彼女なんか居ない。知ってるだろ?」

「ヘェ? じゃあ、何で祈ちゃんが泣いてんだよ? この前だって、そうだ! 泣きながら学校に来てて、理由は何だって聞けば、お前と喧嘩したからだって舞花から聞いたぜ?」

 

 猛は感情を抑える様に、静かに言った。

 

「お前が誰と付き合おうが、お前の勝手だけどよ! もう少し、祈ちゃんの気持ちを考えてやれよな‼︎」

「…おい、落ち着けよ……」

 

 険悪な空気となる2人に対し、昇はストッパーに入った。

 猛は、昇をキッと睨む。

 

「お前は黙ってろ! 祈ちゃんはな…お前の事ばかり考えてるんだ‼︎ それなのに、当のお前は他の女とイチャイチャしやがって……」

「イチャイチャなんかしてないって、言ってるだろ‼︎」

 

 とうとう我慢が限界に達した陽は、声を荒ながら立ち上がる。何事か、とクラスメイトは遠巻きに見守っていた。

 

「何に苛々してるのか知らないけど、僕に当たるな‼︎」

 

 その言葉に、猛は頭に血が上ったらしく、頬を赤く染めながら立ち上がって陽の胸倉を掴んだ。

 

「テメェ…マジで分からねェのか⁉︎ 一体、誰の為に苛々してるのか……‼︎」

「猛、止めろ‼︎」

 

 昇は驚いて、猛の背後に回り陽と引き離そうとした。だが、2人の喧嘩は益々、ヒートアップして行く。

 

「隠れて付き合って無いなら、理由を言えよ‼︎ お前、何か俺等に隠してんの、見え見えなんだよ‼︎」

 

 猛は激しく激昂し、陽を捲し立てた。

 陽は言葉を濁してしまう。ガオレンジャーの事を猛達に話した所で理解を得られる筈が無いし、ガオレンジャーの非情な戦いに彼等を巻き込む訳には行かない。

 そうしていると、猛は益々、怒鳴り散らした。

 

「なんとか言えよ‼︎ 何もやましい事がねェなら、話せるだろ⁉︎ 俺達は、お前にとって友達じゃねェのかよ⁉︎」

 

 猛は口調こそ荒々しかったが、最近の態度がおかしい陽を心配しているのだ。だからこそ、陽の口から真実を知りたかった。でも、陽も陽で抱え込んでいる事の大きさが違う。

 自分はガオレンジャーです、と打ち明けられる訳には行かないのだ。

 

「……話すことなんか……無い……」

 

 冷たい様だが、ハッキリと言い放つ。その瞬間、猛の中で抑えていた感情が弾け飛んだ。感情に任せ、陽の頬を殴り飛ばした。周囲で傍観していた女子が「キャアッ!」と、悲鳴を上げる。不意に殴られて尻餅付いた陽を、猛は強引に立たせた。

 

「…話す事は無いだと⁉︎ ざけんな‼︎ テメェ……1人で何でもかんでも抱え込みやがって‼︎ そんなに、俺達が信用出来ねェのかよ‼︎」

「もう止めろ‼︎」

 

 とうとう見ていられなくなった、昇は暴れる猛を羽交い締めにして止めた。手を離され、よろめいた陽を駆け付けた美羽が支えた。

 

「竜崎、大丈夫⁉︎ 乾も頭冷やしなよ‼︎ これ以上、やったら許さないから‼︎」

 

 美羽は、陽を支えながら猛を一喝した。猛は、昇の手を払い除け大股で教室を飛び出した。出て行き際に、恨めしげに陽を一瞥した。

 残された昇は、陽に近付いた。

 

「…すまん、陽。立てるか?」

 

 まだ、フラフラしている陽に昇は尋ねる。陽は、バツが悪そうに……。

 

「平気だよ……僕が悪いんだ……」

 

 陽は先程の発言を悔やんだ。いくら、ピリピリしていたからとは言え、あの発言は無遠慮だったのかも知れない。 

 昇は何か言いたげだが、飛び出して行った猛も気掛かりの為、後を追った。

 残された陽を、クラスメイト達は遠巻きに見ていたが、美羽が保健室に行こう、と言い出した。

 さしたる怪我では無いが、美羽が「学級委員だし、保健委員の子が休みだから」と、ぶっきらぼうに言って聞かない為、渋々、同行して貰う事にした。

 2人は無言のまま、廊下を歩く。猛に殴られた頬が、じんじんと痛んで来る。喧嘩をするつもりは無かった……思えば、自分がガオレンジャーとなってから、周囲との関係が悪くなった気がする。祈とは曲折経て、秘密を打ち明け和解はしたが、今でも自分がガオレンジャーとして戦い続ける事には抵抗を感じているらしく、先日もぶつかったばかりだ。

 今度は猛とである。このまま、戦い続ければ自分は孤独となってしまうのでは? たった1人となり、自分が倒れそうになった時、誰も支えてくれる人間が居なくなるのでは?

 そう言った漠然とした不安に囚われていると、不意に後ろを歩いていた美羽が声を掛けて来た。

 

「竜崎……この前、聞いたよね? ヒーローって居ると思うって」

「えッ?」

 

 振り返ると、美羽が深刻な顔で見ている。

 

「私はね……居ると思うんだ。ヒーロー……でも、実際にヒーローが居たら、漫画やテレビみたいな綺麗事だけじゃ回らないよね? 辛い事ばかりが自分にのし掛かって来て、他の皆が青春したり恋したりと、人生を謳歌してる間に自分は戦わなくちゃならない。誰かに褒めて貰える訳じゃ無いし、給料を貰える訳じゃ無い……それでも戦わなきゃ、ならない……」

「鷲尾さん……何言って……?」

 

 一体、何の話をしているんだ? 陽には理解出来なかった。

 

「竜崎はさ、耐えれる? 例え、戦いの為に全てを失ったとしても……皆の理想のヒーローとして居続けれる……?

 耐えれないなら、今の内に止めた方が良い。それでも、針のムシロに座り続ける覚悟があるなら話は別だけど……」

「???」

 

 一体全体、何を言ってるんだろう? そう言えば、この前、祈と一緒に彼女は居た。あの時は、オルグに対しての憎しみに我を忘れ、気に掛ける余裕が無かった。

 更に、祈から美羽に助けられたばかりか、ガオレンジャーの事を知っている様な素振りさえ見せたと言う……。

 ひょっとして、彼女はガオレンジャーに付いて何か知っているんじゃ無いか……陽の中で、疑惑が核心に変わった。

 

「鷲尾さん……君は、まさか……⁉︎」

 

 真意を知ろうと美羽に尋ねるが、美羽は踵を返して歩いて行った。

 

「保健室、付いてるよ。早く行って来たら?」

 

 背中越しに、素っ気なく返す美羽。これ以上の質問は無理だ、と陽は悟り、そのまま保健室の扉を開いた。

 陽の姿が消えた事を見届けた美羽は、制服の袖を捲る。

 其処には、デザインこそやや異なるが、陽の持つG -ブレスフォンが装着されていた。

 

「……分かってる……まだ、私が戦うのは時期が早い……だって、貴方が目を醒ましてないから……」

 

 誰に語り掛けるかの様に美羽は一人、呟いた。

 

「……でも….貴方が目を醒ましたら……復活したら、私もガオの戦士『ガオプラチナ』として戦うから……そして、走さんや岳叔父さん達を助けるから……」

 

 一人、決心した様に美羽はツカツカと廊下を歩いて行った……。

 

 

 

 中学校の昼休み……祈は、中庭にて誰かを待っていた。

 そこへ、やって来たのは千鶴だ。何時もの気の強い一面は何処へやら、頬を染めもじもじとする様は年相応な幼さが見えた。

 

「祈先輩…」

「あ、千鶴」

 

 数日前迄、敵視し合っていた、もとい千鶴が一方的に敵視していた関係だったのだが、今に至っては互いに名前で呼び合う仲となっていた。千鶴は祈の隣に座る。

 

「……えっと……」

「どうしたの、千鶴? 話があるって……」

 

 中々、本題に入らない千鶴に、祈は話掛けた。

 

「……あの……ごめんなさい! 私、先輩に失礼な事ばかり……!」

 

 突然、千鶴は頭を下げた。祈は、キョトンとした顔になる。

 

「……そんな事、もう良いッて……」

 

「だって……私、先輩を傷つけそうになって……!」

 

 途端に、千鶴はポロポロと涙を流し始める。

 

「……あの日、先輩に負けた後、悔しくて腹が立って……先輩に対して憎しみしか湧いて来なかったんです……。それで、刀を手にしてから急に記憶が無くなって……でも、先輩に怪我をさせようとした事だけは鮮明に覚えてて……私、何であんな恐ろしい事をしたのか、自分でも分からないんです……!」

 

 千鶴はブルブル震えながら、さめざめと泣き続ける。

 

「……先輩が私を止めようとする声は聴こえていました。目を覚ました時、先輩の姿を見て私……大変な事をしたって後悔と自己嫌悪でグシャグシャになって……‼︎」

 

 千鶴は祈にしてしまった行動に対する懺悔を続ける。

 幸か不幸か、千鶴はオルグの現れた瞬間に気を失った為、ガオレンジャーやオルグの存在を知る事は無かった。

 だが、祈に対し斬り掛かろうとした事は、漠然としながらも覚えている。更に、その直前に千鶴は祈に剣道で負かされ恥をかいた、と言う動機がある。其れ等の事が、彼女にこんな凶行を働いた、と言う記憶として千鶴に残ってしまったのだ。プライドの高い彼女の心をズタズタに苛めてしまう程に……。

 祈は、千鶴の懺悔を黙したまま耳を傾けた。大粒の涙を流しながら謝る千鶴に、祈は優しく微笑み肩に手を置く。

 

「もう良いの……それなら、私だって、謝らなきゃ行けないわ……」

 

 ふと彼女の零した言葉に、千鶴は涙で汚れた顔を上げた。

 

「……あの後、貴方のお父さんから謝罪の電話が来たの。その時に聞いたわ。貴方が強くなる事に固執する理由を……」

 

 祈は淡々としつつ、労わる様に続けた。

 

「貴方は、お父さんに認めて貰いたかった……でも、お父さんの不用意な優しさのせいで、結果的に貴方を追い詰めてしまった……お父さんは深く後悔していたわ。

 その時、お父さんに言われたの。『娘のした事は許せないかも知れない……でも、それ以上に娘を苦しめた自分を責めて欲しい…』って。

 だから、千鶴。もう自分を卑下にしないで。貴方に剣道の実力があるのは事実だし、私が貴方に勝ったのは本当にまぐれだった……これからは一人、強さを求めるんじゃなくて皆で力を琢磨して行く関係で居たいな……」

 

 祈の深い労りに満ちた言葉は、千鶴のささくれだった心を癒すには十分だった。涙を流しながら、千鶴は祈に手を握る。

 

「せ、先輩……」

 

 千鶴は幾ら剣の腕が長けてようが、強くなろうが……自分は、この人には敵わないと悟った。

 

 

「あーあー、胸糞悪いですねぇ?」

 

 

 突然、声が聞こえてくる。2人は辺りを見回すと、学校な屋上から見慣れない少女が降り立つ。

 

「あ、貴方…誰⁉︎」

 

 祈は恐る恐る尋ねた。

 

「お初目にお目にかかりまァす。私、ニーコと申します。以後、お見知り置きを」

 

 ゴスロリ調のメイド服、ツインテールにした少女の顔立ち、見た目こそ人間に近いが、祈は彼女の頭から突き出た長い一本角を見て確信した。

 

「貴方…オルグね?」

「ええ、ええ。そうですよォ、話が早くて助かりますねェ。と言う訳で…一緒に来て貰いますよォ‼︎」

 

 ニーコが指をパチンとならすと、何処からともなく鏡台に似た姿を持つオルグ魔人が現れ、祈の身体を吸い込んだ。

 

「先輩⁉︎」

 

 千鶴は叫ぶも遅く、祈は鏡に中に囚われてしまった。その際、何かを投げて寄越したが、千鶴は何が起きたのか分からずに、戸惑っている。

 

「アハッ! 原初の巫女、召し取ったり‼︎ サァ、引き上げるわよ‼︎」

 

 ニーコの指示に、鏡オルグと共に姿を消す。祈は消える最中に、千鶴に

 

「兄さんを呼んで‼︎」

 

 と、叫んだ。目の前で起きた事に暫く、呆然としていた千鶴だが漸く我に返り、足元に落ちていた彼女の生徒帳を見つけ開いた。生徒帳の電話番号欄の一番上には「兄さん」と書かれ、電話番号が記してある。

 千鶴は、すかさず自分の携帯を取り出して電話をかけ始めた。

 

 

 

 一方、陽は屋上で1人、物思いに耽っていた。考えているのは、先の猛との喧嘩に加え、美羽の発した台詞についてだ。

 間違い無く、彼女はガオレンジャーに付いて何か知っている。だが、其れを知ろうにも彼女は話してくれる雰囲気では無かった。当の猛も、陽の事を避けている様子で先程も担任に喧嘩の原因を聞かれた際に呼び出されても、陽と一言も口を聞かなかった。バツが悪いのか、未だに怒っているのかは不明だが、担任から厳重注意を受け解放された後も、陽とは別方面から帰って行った。陽も敢えて呼び止めなかったが、やはり気に病んでしまう。

 このまま、ガオレンジャーの事を話すまいと考えて来た。

 テトムから会したガオゴッドによる巧みな記憶操作で、多くの町の住人はガオレンジャーやオルグについてを知る事は無い。だが、ガオレンジャーの関係者や事件に深く関わると効果が無くなり、認知されてしまうと……。

 遅かれ早かれ、自分がガオレンジャーであると知れ渡るのは時間の問題である。今や、陽の精神は疲弊し切っていた。

 その際、陽の携帯が鳴る。携帯を開くと、知らない番号からだったが、それを取った。

 

「もしもし…?」

『あの…私、竜崎祈さんの後輩で峯岸と言います…‼︎ 祈さんのお兄さんですか⁉︎』

 

 陽は声と名前を聞いて思い出した。つい先日、オルグ事件に巻き込まれた子だ。

 

「そうだけど……どうして、僕の番号が?」

 

 陽は彼女とは直接、話してないし関わり合いにもならなかった。なのに何故、自分の番号を知っているのか? 陽は怪訝に感じた。

 

『えっと……どう説明して良いのか……先輩が、変な人達に拐われたんです‼︎ 上手く言えないけど……とにかく、祈先輩が、お兄さんを呼べって私に……‼︎」

 

 切羽詰ってるのか、支離滅裂な説明を繰り返す千鶴。

 だが、陽には彼女が何を言いたいのか……祈に何が起こったのか手に取る様に分かった。

 オルグが現れたのだ。

 

「分かった…ありがとう…! 祈は僕に任せて…! 君は、そのまま授業に戻って…!」

『で、でも……!』

「良いから‼︎」

 

 彼女に、オルグ関連の事件に巻き込ませる訳には行かない。納得行かない様子の千鶴を強引に納得させて、陽は携帯を切った。そして、G−ブレスフォンで、テトムに連絡を取った。

 

「テトム、オルグが現れた!」

『え⁉︎ 此方は、何にも反応していないのに⁉︎』

「説明している暇は無いんだ‼︎ 僕は後を追うから‼︎ 佐熊さんは怪我もあるから……」

『要らぬ心配はするな、陽‼︎ 傷なんぞ、とうに癒えとる‼︎ ワシも直ぐに向かう‼︎』

 

 テトムを遮り、佐熊の声がした。陽は小さく溜め息を吐くが…落ち着いてる場合では無い。すかさずに、G−ブレスフォンを構えた。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 こうして、ガオゴールドに変身し学校の屋上から飛び降りようとする。その時、ガオドラゴンの宝珠が舞い上がる。

 

 〜オルグの匂いがする……我が力を使え…‼︎〜

 

 すると、宝珠は姿を変えて竜の形をしたバイクに変化した。

 

 〜さあ、乗れ‼︎ ドラゴスピーダーに‼︎〜

 

 無言で、ガオゴールドは頷きドラゴスピーダーに乗り込む。すると、バイクは一人でに動き出し空を滑走した。ゴールドは、ハンドルを握り締めた。

 

『待って、ガオゴールド‼︎』

 

 ヘルメット内に、テトムの声が響く。

 

『一人で行くのは危険よ! 私達が迎えに行くまで、待ちなさい!』

「そんな余裕は無い! 祈が、オルグに拐われたんだ! 」

 

 ガオゴールドは叫び、一方的に通信を切るとドラゴスピーダーは飛び上がった。その様子を陰から、美羽はジッと見守っていた……。

 

 

 

 一方、竜胆市より少し外れた場所にある森の中…。。

 

「うふふ……ガオゴールド、こっちに来てるわね……」

 

 ニーコは、ニマニマと笑いながら立っている。側に控えるは、狼鬼と鏡オルグ……体の半分を占める鏡の中には、祈が眠る様に閉じ込められている。後ろには、ツエツエとヒヤータが気に入らないとばかりに立っている。

 

「ツエツエちゃ〜ん、そんな怖い顔しないでェ? 寧ろ、感謝してよねェ? 貴方達の代わりに、巫女を捕まえてあげたんだから。これで、テンマ様に面目も立つでしょ?」

「クッ…!」

 

 悔しいが、一言も言い返せない。確かに今回は、ニーコの手柄だし自分達は、その指示に従っただけだ。

 一方、ツエツエとヤバイバは前回、ヒヤータに嵌められて魏羅鮫オルグに殺されかけた事から、ヒヤータに対する信頼を無くしていた。そもそも、最初から彼女の事を信頼等、してなかったが……。

 ツエツエは、長きに渡りヒヤータに仕えたのは自分の仕掛けた”布石’’が実を結ぶ瞬間まで、敢えて自ら牙を抜き爪を剥ぐ事にしたのだ。しかし、ヤバイバは苛々した様子だ。

 

「(ヤバイバ、もう少しの辛抱よ……!)」

「(…分かってるけどよ…‼︎)」

 

 ヒソヒソと、ヤバイバに促すツエツエ。ニーコは上機嫌で気付かない様子だ。

 

「オルゲット、オルゲット‼︎」

 

 不意に、一体のオルゲットが現れた。彼の言葉により、ニーコは、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。

 

「来ましたねェ、ガオゴールド。オルゲット! ガオゴールドを迎えて差し上げてェ!」

 

 ニーコの命令を受けたオルゲット達は一斉に、ガオゴールドの元へと向かって行った。

 

 

 森の入り口付近では、ドラゴスピーダーから降り立ったガオゴールドが立っていた。ガオドラゴンの言葉では、この森全体に結界が張られ邪気を隠していると言う。

 ガオドラゴン達は、僅かな邪気の匂いを感知し此処を探り当てたのだ。ガオゴールドは右手にドラグーンウィング、左手にガオサモナーバレットを構え、森の中に突撃した。

 案の定、多数のオルゲット達が迎え撃って来た。しかし、怒りに身を震わせるガオゴールドからすれば、関係ない話だ。

 左右から迫るオルゲット達を、ドラグーンウィングとガオサモナーバレットで次々に撃破して行く。

 

「ウオォォォォ!!!」

 

 怒りの咆哮を上げながら、オルゲット達の死屍累々を築きつつ突き進んで行く。その姿は、さながらオルグと敵対するガオレンジャーとしては皮肉にも、鬼人のそれに近い。

 しかし後から後から、虫の様にオルゲット達は湧き出して来る。だが、そんな事は知った事では無い。オルグへの怒りに燃えるガオゴールドを、止められる者は居ない。

 

「竜翼…日輪斬りィィ‼︎」

 

 オルゲット達は紙の様に斬り裂かれ、地に倒れ伏す。更に立ち塞がったオルゲット達には、ガオサモナーバレットをお見舞いした。

 

 しかし、ガオゴールドは知らなかった。これら全てが、ヒヤータの仕掛けた卑劣なる罠である事を……。

 

 

 

 やがて、森の最深部に辿り着いたガオゴールドは、ニーコ達と対峙する。中央には、鏡オルグに閉じ込められた祈と其れを守る様に狼鬼が立っている。

 

「祈ッ‼︎」

 

 悲痛な叫びを上げるガオゴールド。其れを嘲笑うかの如く、ニーコは笑った。

 

「お初めに、お目に掛かりますゥ。私、デュークオルグのニーコと申しますゥ。以後、宜しく……」

 

「知るかァァ‼︎」

 

 ガオゴールドは、そんな事は興味無いと言わんばかりにガオサモナーバレットを向けた。

 

「あらァ、怖ァい♡ で・も…貴方が悪いんですよォ? 散々、私達の邪魔をしてくれたからァ…。それに……そんな姿で、どう戦うんですかァ?」

「何⁉︎」

 

 ニーコに指摘されて、ガオゴールドは自分の身体を見る。ガオスーツが少しずつ色が薄くなり…しまいには、粒子となって消えていき、竜崎陽の姿に戻ってしまったのだ。

 

「な⁉︎ これは⁉︎」

「ヒヤータお姉様の、仰った通りですねェ。貴方は、怒りに任せて力を使い過ぎちゃったんですよォ? それこそ、ガオソウルの供給が追い付かない速さでね? 特に、怒りに燃えた貴方は、ガオソウルが底を尽く迄、過剰に力を使った。だから、変身が解けちゃったんですよ?」

「そ、そんな……‼︎」

 

 は、嵌められた……! 気が付いた時は手遅れである。最初から、これが狙いだったんだ。自分に力を使わせて、自滅に導く為の……!

 

「あ、それでは……ヒヤータお姉様からの言伝を言いますね。『貴方は邪魔者でしか無いから、ここで死になさい』…ですって♡」

 

 そう言うと、ニーコは手に持っていた拳程のあるオルグシードを投げた。すると、シードは心臓の様に脈打ち始める。

 

「それは……お姉様からのプレゼントです。それでは……チャオ♡」

 

 そう言い残すと、ニーコ達は鬼門に吸い込まれて行った。

 

「ま、待て…‼︎」

 

 陽は駆け出すが、その刹那にオルグシードは膨張を始め……。

 

 

 シードを爆心に、樹々を押し倒していく凄まじい爆風と立ち昇る爆炎……やがて、森全体に響き渡る程の轟音が包み渡った……。

 

 

 〜何と言う事でしょう! 祈は、オルグ達に囚われてしまい、ヒヤータの卑劣な罠の毒牙に掛かり、陽は爆炎に包み込まれてしまいました! 果たして、陽の安否は⁉︎


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。