帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest25 帰還する銀狼

 空を滑空する様に飛ぶのは、ソウルバードの人間体こころ。

 陽が単身で、オルグ達の迎撃に向かったと聞いて全速力で現場に向かっていた。

 僅かに残されたガオゴールドの気を探り追跡する。先程、テトムの発した不吉な言葉が、こころの胸に突き刺さったのだ。

 

 

『ガオゴールドに心境の変化?』

 

 ガオズロック内で、テトムと佐熊が会話していた。その意味を尋ねる佐熊に、テトムは応える。

 

『ここ最近の、ガオゴールドの戦い方は変わったわ。ガオレンジャーとしての使命に目覚めると同時に妹を守らなくては、と言う使命感が強くなっているわ。

 ましてや、妹が巫女の生まれ変わりであり、オルグに狙われる恐れが強いとなれば尚更ね』

 

 テトムは心配げに顔を曇らせた。

 

『でも、それは裏を返せば、大切な存在を失う事を極端に恐れる気持ちの現れでもあるわ。

 恐れる気持ちは時に、それを守る為の執念を生み、更には大切なものを奪う者達に対する怒りに変わる。

 怒りは強大な力を与えるけど、過ぎたる怒りは、その者の身を滅ぼす諸刃の剣でもある……。

 陽は、ガオレンジャーとして経験を積んだけど、戦士としては未熟だわ……』

『それは一理あるのゥ……』

 

 テトムの不安は、戦士として未だに発展途上……若さ故の向こう見ずさと弱さと兼ね備える陽が気掛かりだったのだ。

 

『もし、そう言った弱点を自覚しないままにガオゴールドが猛進してしまえば……オルグ達に付け入られる隙を与えてしまう……力丸。そうならない様に、陽を注意深く見ていて欲しいの……』

『任せィ!』

 

 佐熊は力強く頷く。2人の会話を耳に挟んだこころは単身、ガオズロックから飛び出した……。

 

 

 こころは飛翔しながら、飛び続ける。嫌な予感がするのだ……確かに最近の陽は、戦い方が以前と違って来ている。

 それは、ガオレンジャーとしての責務もあり、祈を守る為でもあり……何れにしても、後先を考えない戦い方が目立って来ている。このままでは、取り返しの付かない事態となってしまうのでは? そんな予感が胸を過ぎる。

 ふと、こころは前方から凄まじい轟音が響くのを聞いた。音の方角を見ると、濛々と黒煙が立ち昇るのが見える。辺りは森らしいが、内一部から煙が出ているのを確認した。

 

「陽……‼︎」

 

 こころの嫌な予感が的中してしまった。慌てて煙の中に降り立つこころ。森周辺は半径6mに渡り爆炎にて焼き払われ、煙が晴れて来ると樹々が倒壊しているのが見えてきた。

 余程に凄まじいエネルギーの爆発により、こうならない。その際、頭上からガオズロックが降り立って来た。

 ガオズロックの中より、テトムと佐熊が現れた。

 

「こころ! これは一体⁉︎」

 

 テトムは、目の前の惨状に驚愕した。木は倒れ伏し、草花は焼け焦げ、地面は抉られている。まるで、戦火に晒された跡地だ。一体、何があったんだろう?

 

「おい! これを見てみろ‼︎」

 

 佐熊は叫ぶ。その先には、半径3m弱のクレーターが出来ていた。どうやら、此処で爆発が起こったらしい。

 その時、クレーターの中央から手が突き出しているのが見えた。

 

「な、イカン‼︎ 」

 

 佐熊は慌てて、クレーターに飛び込んで土を掘り始めた。すると土に埋もれる様に、陽の上体が露わになった。

 

「あ、陽⁉︎」

 

 テトムは青褪める。陽は爆風に晒されたのか、学校の制服はズダボロに擦り切れ、土に汚れ、破れた服から覗く素肌から生傷が見える痛々しい姿だった。

 

「陽! しっかりして!」

 

 佐熊により、クレーターから運び出された陽をテトムは声を掛ける。目は固く閉ざされ、指先をピクリと動かさない。

 

 

「陽! 目を覚まさんかァ、陽ァ‼︎」

 

 佐熊も揺さぶりながら呼び掛けた。だが、陽は目を覚さない。

 

 

「陽ァァァ!!!!」

 

 

 

 一方、鬼ヶ島では、ヒヤータは上機嫌な様子で佇んで居た。

 自身の策謀を持って見事、ガオゴールドを倒す事に成功した。正に自分の描いた通りの絵に仕上がったのだ。

 

「でかした、ヒヤータ! ガオゴールドを倒したのだな…!」

 

 鬼棋の対面相手である主君のテンマも、部下の手柄を讃えた。ヒヤータは涼しい顔だ。

 

「これ位、お安い御用ですわ」

 

 自身の知謀、狡猾、忍耐さが有れば、時間さえ掛ければガオゴールドを倒せる自負があった。

 しかし、テンマは厳しい口調のままだ。

 

「だが、ガオグレーとガオの巫女、ひいてはレジェンド・パワーアニマルは生きているだろう? 其奴ら、如何にして始末するのだ?」

 

 テンマの質問に対し、ヒヤータはニコリと微笑む。

 

「ご心配無く。既に計画は立てていますわ。ガオレンジャー、パワーアニマルを含め全てを倒し我等、オルグの天下として御覧に入れましょう」

「…ほう、大した自信だな……ならば、やって見せよ。全てを成し遂げ、オルグによる世界掌握が成された時は、貴様にも最高の栄誉をくれてやろう……」

「……御意」

 

 扇子を広げ、ヒヤータは応える。隠した口元は邪悪な程に口角を吊り上げ、ほくそ笑んで居た。

 

 

 

 一方、ガオズロックにて……陽は丁寧に手当てをされ、寝かされていた。だが、依然と死んだ様に眠っている。

 

「全く…無茶な真似をしおって……‼︎」

 

 佐熊は険しい表情で、陽を見た。自分が付いていれば、こんな事には……そんな後悔が、佐熊を苛める。

 

「力丸……自分を責めては駄目よ。オルグの策謀を見抜けなかった私にも責任があるわ……」

 

 佐熊1人に責任を負わせまい、と励ますテトム。そんな彼女に、彼は苦笑した。

 

「やっぱり、孫なんじゃな……励まし方まで、ムラサキに瓜二つじゃ……」

 

 2人が話す傍ら、こころは無言で陽を看病している。

 

「…祈…祈…!」

 

 時折、陽はうわ言の様に呟く。目の前で妹を拐われたばかりか、罠に嵌められてしまったのだ。無理もない……。

 その際、泉がボコボコッと激しく泡立ち始める。テトムは目を見開いた。

 

「何なの、この反応! ただ事では無いわ‼︎」

 

 テトムの言葉に佐熊は立ち上がる。

 

「ワシが行く‼︎」

「力丸! 貴方だって怪我はまだ……!」

 

 行こうとする佐熊に、テトムは呼び止める。

 

「他に行く奴が居らんじゃろうが‼︎ 陽の怪我に比べれば、擦り傷じゃ‼︎」

 

 そう言って、佐熊は飛び出して行った。こころも後に続く。

 

「テトムは此処に居てあげて」

 

 佐熊と、こころが出て行って1人残されたテトムは、陽の前に膝を突いて祈り始める。

 

「おばあちゃん…荒神様…どうか、陽をお守り下さい…‼︎」

 

 ガオの巫女と言えど、自分にはどうする事もできない。頼みの綱である陽は負傷し、大神を救える可能性を持つとされる祈も、オルグの手に落ちてしまった。四面楚歌である。

 テトムの流した涙が、陽の手に当たる。その際、彼の手が僅かにピクリと動く。

 この時、陽の身体で新たな力が芽吹こうとしている……それに呼応するかの様に、G−ブレスフォンの竜の目が輝き始めた。

 

 

 街中では、パニックが起こっていた。人々は逃げ惑いながら、叫び声を上げる。虚ろな目となった人間同士が、互いに互いを傷付け合っているのだ。男が女を殴り、親が子供を蹴飛ばし……さながら地獄絵図の有り様だ。

 高いビルの上では、摩魅が歌っていた。自身の歌に合わせ、町中に呪われた曲が染み渡っていく。

 曲に侵された人間達は、操られた様に自我を奪われて行く。辛うじて逃げ延びた人間達も、オルゲット達に叩き伏せられていく……!

 

「アハッ! 人間達が互いを痛めつけるなんて……見ていて良い眺めですねェ!」

 

 摩魅の隣にて世界一、愉快な光景を見るかの様にニーコは下卑た笑みを浮かべた。

 摩魅は歌いながら、涙を流す。それを見たニーコは益々、愉快そうに嗤った。

 

「泣いてるんですかァ? アハッ、おっかしいですねェ? 涙なんか流れないのにィ⁉︎」

 

 摩魅を揶揄う様な言葉を吐き掛けるニーコ。それに対して摩魅は言い返す事もしない。いや、出来ない。

 ニーコは、人でありオルグである。相対する2つの種族の血は、摩魅の心を擦り減らして行き罪悪感に苛めて行く。

 これだって彼女は本心からやっている訳じゃ無い。命令されたから……彼女も不本意でやるしか無い。

 頭で分かって居ても、割り切る事が出来ない。そのジレンマが、涙を流させた。彼女の中に流れる人の血が……。

 

「……貴方も意外に頑固ね。そうまでして、人間に拘って……」

 

 突然、後ろからヒヤータが姿を現す。側には狼鬼と鏡オルグを従えている。

 

「あ、お姉様!」

「首尾は上々ね、ニーコ。さて……ガオレンジャーは何時、現れるかしら?」

 

 自分の仕掛けに満悦したヒヤータは、憐みに満ちた目で摩魅を睨む。

 

「涙を流すなんて…狼鬼共々、感情を消し去った筈なのに……未だに、人としての未練を断ち切れないのかしら?」

 

 ヒヤータは冷たく吐き捨てた。先の作戦以降、狼鬼と共に特殊なオルグ蟲を埋め込み感情そのものを消した筈の摩魅が、未だに人の証たる涙を流す事に、ヒヤータは気に入らないのだ。

 

「でも無駄よ。もう貴方は人間らしく、なんて陳腐な感情は残って居ないのよ。私に従えば悪い様にしないわ…諦めなさい」

 

 冷酷なヒヤータの宣告に、摩魅は歌いながらコクリと頷き……涙を流し続けた。

 

 

「そこまでじゃァ!!!」

 

 

 空を裂く鋭い叫び声がこだました。佐熊が降り立ち、険しい表情を浮かべながらオルグ達を睨んでいる。

 ヒヤータはニヤリと、ほくそ笑む。

 

「待って居たわ、ガオレンジャー……歓迎しましてよ」

「何が歓迎じゃ! こんな非道な真似、今すぐ止めろ‼︎」

「ふふ……非道な真似? 私の主催した宴が、お気に召さないかしら?」

 

 激しい口調で激昂する佐熊を嘲笑う様に、ヒヤータは言った。

 

「人間なんて知性を取り外してしまえば、土中を蠢くミミズと変わらない低俗な生物……それを分かり易い形で、再現して差し上げたのよ?」

 

 ヒヤータの言葉に、ニーコは甲高い声で嗤う。佐熊は拳を握り締め、今にも殴り掛かりたい衝動を抑えるのに精一杯だ。

 突然、ヒヤータは手を振ると狼鬼が前に立った。

 

「シロガネ……‼︎」

 

 変わり果てた友の姿に、佐熊は悲しい表情を浮かべた。それに対して、ヒヤータはクスリと笑う。

 

「もう、貴方の知るシロガネは死んだわ。私は改良した、オルグ蟲を寄生させた上で、より濃厚な邪気を注ぎ込んだよ。

 最早、自分が何者であるかさえ定かでは無いわ…命令を淡々とこなすだけの、戦闘兵器と化しているのよ」

「き、貴様ァ…‼︎」

 

 外道の極みと言ったヒヤータに対し、佐熊は歯をカチカチと鳴らしながら怒る。1000年前、苦楽を共にした親友を道具の様に扱うヒヤータの所業を、許せないのだ。

 

「貴様等は、ワシの友を傷付け踏み躙った…‼︎ 生かしてはおかん‼︎ ガオアクセス‼︎」

 

 佐熊は、G −ブレスフォンを作動させ、ガオスーツを装着する。ガオグレーは、オルグ達と対峙した。

 

「…狼鬼…ガオグレーを殺しなさい」

 

 ヒヤータが、狼鬼を顎で促した。狼鬼は無言のまま、ガオグレーの前に立ち、三日月刀を構える。

 ガオグレーは悲しそうに項垂れ、頭を振った。

 

「……そうか……もう全てを失ってしまったか……来い、狼鬼‼︎ 貴様が、ガオの戦士の矜恃を捨てて地球に仇成すならば、この豪放の大熊ガオグレーが貴様を倒す‼︎」

 

 ガオグレーは覚悟を決めた。友と戦う覚悟を……友を手に掛ける覚悟を……このまま、非道の限りを尽くさせるのは友として忍びない。ならば、自分の手で友に引導を渡してやる……それが、かつての戦友シロガネに対する礼儀であり友情、だと割り切った。

 

 

「うおォォォォッ!!!!」

 

 

 ガオグレーは悲しみを耐えつつ雄叫びを上げ、グリズリーハンマーを振り下ろす。対して狼鬼も、三日月刀を振り上げながら走る。

 遥か1000年の時を経て、現代の地を踏んだ熊と狼による悲壮なる戦いが今、幕を開けた。

 

 

 

 陽は闇の中にて漂っていた。目を覚ますと、右も左も暗闇で自分が何処に居るかも分からない。

 思い出してみた……そうだ、自分はオルグの罠に嵌められて負けたんだ……詰まる所、死んだんだ……ならば、自分は闇に呑まれていくだけだ……そう悟った陽は再び、目を閉ざすが……。

 

 〜諦めては行けません……貴方は未だ、成すべき事があるでしょう?〜

 

 突然、頭に響いた声に陽は再び目を開ける。目の前には、光に包まれた女性が立っている。服装は以前、歴史の授業で習った弥生時代の女性が着る様な衣装を身に纏い、頭には日輪を模した冠を付けている。そして、その顔立ちは……。

 

「い…祈?」

 

 背丈や雰囲気は異なるが、顔立ちは妹の祈に酷似…ひいては瓜二つだ。恐らく彼女が成長すれば、こうなるであろうと感じた。

 

 〜私は、祈ではありません……私の名はアマテラス……。かつて、ガオの巫女としてパワーアニマルと人の架け橋となった者です……〜

 

 アマテラスと名乗った女性に対し、陽は目を丸くする。彼女の名前には、陽は聞き覚えがある……。

 アマテラス…又の名を、天照大御神…。神話では、古代日本の神として名を連ねる存在だ。ギリシャ神話のゼウス、聖書のキリスト、仏教の仏陀同様に主神として崇められ、現代において語り継がれる……彼女が、そうだと言うのか?

 

「あ、貴方が神話に出て来る神様だと?」

 

 陽の質問に対して、アマテラスは微笑む。

 

 〜それは一つの例えです。パワーアニマルと対話し、オルグを封じた過去の私を見た人々が遺した言葉に尾鰭が付き、何時しか神として、神格化されていった……ただ、それだけの事です…〜

 

 アマテラスの言葉に、陽は妙に納得した。確かに大昔の偉人は存在自体が曖昧であり、キリストや仏陀等も実在を疑われているのが常だ。恐らく彼女も、当時の人々からすれば普通であった超常的な力を神と同一視して、一種の御伽噺として伝えられて来た結果なのだろう…。

 

 〜私は、その様な話をする為に来た訳ではありません……今代のガオの戦士よ……貴方の昨今の戦い方は、自身の命を縮める結果となっています…〜

 

 急に厳しい口調となった彼女に、陽はたじろいだ。

 

「僕の命を…?」

 

 〜貴方は、オルグの非道なやり口にばかり目をやり、彼等を倒す事に力を使っています……〜

 

 アマテラスの非難する様な言い草に、陽は反論する。

 

「それの何が悪いんですか⁉︎ 地球を守る為に、オルグと戦うのが、ガオの戦士でしょう⁉︎ だったら……⁉︎」

 

 〜貴方は、目的と手段が入れ替わってしまっているのです〜

 

 陽の言葉を遮る様に、ピシャリと言い放った。

 

 〜しかし、それは仕方ありません……孤高に戦いの道を強いられた以上、オルグを倒す事に執着してしまうのは至極当然……ですが、その戦い方は何れに我が身を滅ぼしてしまうでしょう……何時、終わるやも分からぬ戦いに身を置き続け、自身が傷付く事を顧みずに刃を振り続ければ間違いなく、貴方は壊れてしまう……私は、その様な末路を迎えた者達を見て来ました……〜

 

 アマテラスの謹言に、陽は戸惑う。確かに的を射ているからだ。ガオゴールドとして戦い続ける内に、陽は友人との間に確執が出来た…今回だって、やり場の無い怒りをオルグにぶつけた結果、敵の術中に嵌ってしまった…。

 

「ならば……僕は、どうすれば……?」

 

 〜貴方は一人で戦っている訳では無い…それを胸に秘めて置く事です。人一人の力では、どうする事も出来ません……かつて、私もパワーアニマル達や弟達の力を借りて、オルグ達を退けました……貴方にも、苦しい時に支えて来れる者達が居る筈です……それを忘れずに居れば、きっと乗り越えられる筈です……〜

 

 一人で戦っている訳では無い……そうか……陽は、戦いと言う苦難の中で、何時しか頼る事をしなかった。いや、元々の彼の性分故に全てを自身一人で受け入れ様とした結果、溢れ出してしまったのだ……。

 

 〜私の力は今、貴方の妹の中にあります……間も無く、その力は開花し、貴方の大きな助けとなる筈です……。

 さあ、受け取りなさい……若き戦士よ……そして目を覚ますのです……! 貴方を愛する者達を守る為に……!〜

 

 アマテラスが祈る様に手を組むと、光のオーブがG -ブレスフォンに吸収されていった。すると、G -ブレスフォンの形状が金色と赤を模した色合いに変化した。

 

「こ、これは…⁉︎」

 

 〜貴方に更なる力を与えました……ですが、良いですか? 過ぎたる力を与えられた者は、その力に耐え切れずに身を滅ぼしてしまう……ですが、貴方なら大丈夫……貴方には”あの者”が失った心を持っている……。

 天照の竜よ……オルグと言う闇を照らす日輪となりなさい……!〜

 

 そう言い残すと、アマテラスは再び姿を消した。残された陽も意識を失い……そして、浮上して行った……。

 

 

 

「ク……‼︎」

 

 ガオグレーと狼鬼の戦いは、熾烈を極めていた。最早、互いに互いを幾多にぶつけ合っていたが、ガオグレーは蓄積されたダメージと疲労に倒れそうになっていた。

 反対に、狼鬼は全く疲れを感じさせ無い。三日月刀を構え、ガオグレーに向かって来る。

 

「うふふ……もう立っているのも、やっとの様ね……」

 

 ヒヤータは、ニヤリと笑う。ガオゴールドと引き離した今、ガオグレーさえ叩いて仕舞えば、ガオレンジャーは事実上の壊滅……王手は間近だ。

 此処まで外堀を埋める作業に時間を費やしたが、それも漸く報われる瞬間が来る。ヒヤータは勝利を確信していた。

 

 ーパリィィン…ー 何かが割れる様な音がした。

 

「あが……⁉︎」

 

 突然、横にいた鏡オルグが苦しみだす。見れば、彼の腹部にある鏡に亀裂が走っているからだ。

 

「な、何が…⁉︎」

 

 此処に来て、想定外の事態が起きてヒヤータは焦りを見せた。だが、鏡オルグの表面を走る亀裂は広がり、遂に音を立てて割れてしまった。

 すると、鏡オルグの中に閉じ込められていた祈が姿を現したのだ。

 

「な、何故⁉︎ 何が起こったの⁉︎」

 

 ヒヤータは完全にペースを崩されてしまった。祈の解放は計算外だ。自分の立てたプランには無い。

 だが聡明な彼女は直ぐに原因を知り、歌い続ける摩魅を見た。下を見れば、さっきまで操られていた人間達は気を失っている。

 

「……そう……そう言う事……」

 

 凄まじい怒りが、ヒヤータから滲み出る。すると、扇子に水を纏わせて鞭の様に振るった。

 ーバシィッ…と、素早く叩き付ける音が響音した。

 

「…舐めた真似して来れるじゃない…出来損ないの、糞虫が…‼︎」

 

 丁寧な口調をかなぐり捨てて、ヒヤータは無言のまま、倒れたヒヤータを水の鞭で強かに打ち据えた。

 

「鬼にも人にもなれない半端な存在の癖に…この私に歯向かうなんて、どう言う了見なのかしら……ねェェ!⁉︎」

 

 鞭を振り下ろすヒヤータの顔は憎悪に歪み、荒々しい姿だ。抵抗も泣き叫ぶ事もしない摩魅を、ただひたすらに鞭で叩く。側にて見ていたニーコも恐る恐る傍観していた。それだけに、今のヒヤータからは鬼気迫るものを感じた。

 更に彼女は、鞭で叩きつけ様とするが……。

 

「やめなさい‼︎」

 

 ヒヤータの前に、目を覚ました祈が立ちはだかる。最初は面食らったヒヤータは、嘲る様に嗤う。

 

「あらァ……そんな、役立たずのゴミの為に私の前に立ちはだかる気? ……気に入らないわ、人間なんて私達に狩られるだけの餌でしょう⁉︎ 私達に上質な邪気を吐き出させる為だけの⁉︎ その餌が、私に歯向かうなんて……気に食わないのよッ!!!」

 

 ヒステリックに激昂しながら、ヒヤータは喚き散らす。

 

「人間を舐めない事ね……オルグ…」

 

 祈は、ヒヤータに対して臆する事なく毅然として望む。その態度に益々、ヒヤータは激励する。

 

「そォう? そんなに痛い目を見たいの? だったら……望み通りに……ゴミ屑の様に痛めつけて殺してあげるわ‼︎」

 

 そう叫ぶと、ヒヤータは水の鞭で祈を縛り上げ様とする。だが、祈の身体に巻き付こうとした鞭は見えない力で弾け飛び、滴となって霧散した。

 

「な、何を……⁉︎」

 

 祈のただならない力に、流石のヒヤータも驚きを隠せない。これが、原初の巫女の力なのか? 奇しくも祈の中に流れるガオの巫女の力が、この様な形で覚醒したのか?

 その刹那、ヒヤータの背面を鋭い衝撃が走る。

 

 

「祈‼︎」

 

 

 声と共に降り立ったのは、ガオゴールドだ。頭上を見れば、ガオズロックが旋回している。

 

「おお、ガオゴールド! 来たか⁉︎」

 

 狼鬼と鍔迫り合うガオグレーは嬉しそうに叫ぶ。ニーコは驚いていた。

 

「あれェ⁉︎ 生きてたんですかァ⁉︎」

 

 ニーコの言葉に、ガオゴールドは挑戦的に言い放つ。

 

「死なないさ! お前達、オルグが人々に仇成す限りはな……ハァァ‼︎」

 

 ガオゴールドは祈を抱きかかえると、ガオグレーの後方にジャンプした。祈の安全を確保すると、彼女に……。

 

「さァ、祈……ガオズロックに……」

 

 祈を安全圏に送ろうとするが、祈は微笑む。

 

「兄さん……私だって自分の身は守るわ……私の力って、そう言う物なんでしょう?」

「祈…‼︎」

「大丈夫…! 兄さんの邪魔はしないから…! 兄さんは、兄さんの戦いを…‼︎」

 

 祈は、戦いに身を置くと覚悟を決めた兄に精一杯の激励を送る。ヘルメット内で、陽はニッコリと笑った。

 

「……ああ、分かった……‼︎ 僕の前に出るなよ…‼︎」

 

 それだけ言い残し、ガオゴールドはドラグーンウィングを構えながら狼鬼に向かい合う。

 それを見ていたヒヤータは、ニーコの持つ鬼の結晶を奪い取った。

 

「お、お姉様⁉︎」

「私に勝ったつもり…? 甘いのよォォ‼︎」

 

 そう叫ぶと、結晶を万力込めて握り潰した。すると、狼鬼の目は紅く光り、暴走を始めた。

 

「さァ、狼鬼‼︎ ガオレンジャーの皆殺しにしておしまい‼︎」

 

 そう言うと、ヒヤータとニーコは鬼門の中に消えて行った。残された狼鬼は笛を吹き始める。すると、魔獣と化したガオウルフ、ガオハンマーヘッド、ガオリゲーターが召喚された。

 

「ガオグレー、僕達も‼︎」

「応‼︎」

 

 ガオゴールド、ガオグレーも同時に宝珠を取り出す。

 

 

「幻獣

 百獣召喚‼︎」

 

 打ち上げられた宝珠に合わせ召喚されるレジェンド・パワーアニマルとパワーアニマル達。

 向かい合った計十体のパワーアニマル達は、同時に変形を始めた。

 

「幻獣

 百獣

 魔獣合体‼︎」

 

 掛け声と共に変形、合体を終えるパワーアニマル達。

 君臨するは、聖なる騎士ガオパラディンと剛力の闘士ガオビルダー、そして邪の王ガオハンター・イビル。

 三体の精霊王は、各々の武器を持って戦闘に入った。ガオパラディンのユニコーンランスで、ガオハンター・イビルの突きを入れ、ガオビルダーのリンクスパンチでリゲーターブレードを防ぐ。見事に連携を取れた戦いに、ガオハンター・イビルは押されていくが…。

 

「グォォォッ!!!」

 

 ガオハンター・イビルは突如、咆哮を上げる。すると、ガオハンターの身体は全身が漆黒に染まり、より邪悪な姿へと変貌した。

 

『大変‼︎ 狼鬼から滲み出る邪気が、ガオハンターにも影響を及ぼしているわ‼︎』

 

 テトムの声が響いた。それに合わせた様に、ガオハンター・イビルはリゲーターブレードを振り回し、ガオパラディンに奇襲を仕掛けた。

 

「クッ…凄いパワーだ…‼︎」

 

 後退させられたガオパラディンは、防御を解いてしまう。それ見定めたガオハンター・イビルは、ガオリゲーターの顔を展開して、邪気のエネルギーを溜め始めた。

 

「ガオゴールド‼︎ 危険じゃ、逃げろォォ‼︎」

 

 ガオグレーは、ただ事では無いと悟りガオゴールドに叫ぶ。だが、ガオゴールドは逃げない。いや、逃げる訳には行かない。

 

「大神さん……許して下さい……ガオパラディン、今こそ力を‼︎」

 

 ガオパラディンは、台座に手をかざす。すると、G -ブレスフォンと同調したガオパラディンの身体は光に包まれていく。すると、光が晴れた中に居たガオパラディンは全身がボディが金色の新たな形態となっていた。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・ゴールデンソル‼︎」

 

 

 〜原初の巫女より与えられし、強大なるガオソウルは精霊王の姿を更に進化させ、金色の太陽の名を冠した精霊の騎士へと姿を変えたのです〜

 

 

 新たな姿となったガオパラディン・ゴールデンソルは、同じくガオドラゴンの口に、エネルギーを溜め始める。

 

 

「聖火波動……スーパーホーリーハート‼︎

 天地崩壊……ビーストハリケーン‼︎」

 

 

 同時に放たれたエネルギーの光線は均衡し合う。エネルギーの打ち合いによる余波は周囲に影響を及ぼす程だ。

 その際、ガオビルダーが、ガオパラディンの横に立ちエネルギーを注ぎ始めた。

 

「ガオビルダーの力も足してやってくれ‼︎ 」

 

 エネルギーが更に補填され、スーパーホーリーハートの威力が増した。と、同時に背後から力が加わる。

 

「私達の力も使って‼︎」

「兄さん、負けないで‼︎」

 

 テトムと祈、二人のガオの巫女の力も合わさり、スーパーホーリーハートは、より強化された。

 

 

『行けェェェェ‼︎』

 

 

 遂に、ガオハンター・イビルの邪気のエネルギーを上回る程に巨大な姿となったエネルギーは、金色の竜の姿に変わり、邪の王を包み込んで行く。

 

 

「グアァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 スーパーホーリーハートをもろに受けたガオハンター・イビルの内部で狼鬼は断末魔を上げる。溢れ出る力が、コクピット内に迄、達して行く……。

 その刹那、狼鬼の仮面、そして身体に亀裂が入って行き……。

 

 直撃したエネルギーは光の柱を上げ、ガオハンター・イビルを遂に撃破した……‼︎

 

 

 

 戦いの後、ガオゴールドは大地に降り立ち、戦場を探し回る。消滅したガオハンターの中に居る筈の狼鬼を探していたのだ。

 果たして、そこに横たわっていたのは…!

 

「大神さん‼︎」

 

 ガオゴールドは倒れていた大神を見つけた。彼の周りには、狼鬼の面がバラバラになって砕け散っている。

 ガオゴールドが、大神を抱き寄せて呼び掛ける。

 

「大神さん…大神さん‼︎」

 

 何度も揺さぶりながら、呼び掛けた。すると、大神は苦しげに眉を動かし……瞼を開けた。

 

「あ……陽……」

「大神さん‼︎」

 

 目を覚ました大神に、ガオゴールドは感極まり泣きながら抱き締めた。まだ、ダメージの残る大神は苦笑しながら…。

 

「…おい、止めてくれ…まだ痛むんだ…」

 

 そう返した。自分の知る大神が戻って来た。間も無く、ガオグレー、テトム、祈もやって来て…見事に大団円となった。

 

 

 〜遂に、やりました‼︎ 敵の作戦を見事に退けて…大神月麿の奪還に成功した、ガオレンジャー‼︎ しかし、狡猾なヒヤータはこのまま、終わらせるつもりは無いでしょう…‼︎


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