帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest28 岸壁の巨兵

 竜胆市の街中では……一件のファーストフード店があった。

 店内は若いカップルや親子連れにて賑わっているが、現在に一際、賑わせているテーブルがあった。

 

「……ッん! ……ッむ‼︎ ……ッぐ!!!」

「………」

 

 テーブルには二人組の男が居た。別に、それだけなら普通の客なのだが、店内を唖然とさせる別の理由があった。

 二人組の男の片割れは、注文したハンバーガーを次から次に喰らいつき、綺麗に平らげていくのだ。

 今、食べている分だけで10個目……しかし、男の食べるペースは落ちずに、まるで丸のまま飲み込む様にハンバーガーを口に押し込んで行く。

 もう片割れの男は、そんな様子を半ば呆れる様に注文したコーヒーを飲みながら眺めている。

 バイトの女性も、見事な食べっぷりに目を見開きポカンしていた。長い事、見て来たがハンバーガーを10個、軽々と平らげていく客は初めての経験らしい。

 中には、その様子を携帯で撮影する客も居る位だ。それだけに珍しい光景だ。

 

「………ぶはァっ!!!」

 

 やっと最後の一つを食べ切り、男は満足そうに笑う。

 

「ガハハハ‼︎ この“はんばぁがぁ”って言う食い物は旨いのゥ! ワシ等の時は、こんなもんは無かったわい‼︎」

「……それにしても、食べ過ぎだ……」

 

 二人組の男は言わずもがな、大神と佐熊だった。オルグが街に現れてやしないか、とパトロールをしている最中、佐熊がファーストフード店を見つけ「腹が減っては戦は出来ん」と大神を強引に連れ込んで、ハンバーガーの匂いに食欲を唆られたのだ。

 案の定、ハンバーガーを初めて口にした佐熊は今迄に食べた事の無い味に感動を覚えながら、ガツガツと食べ続けたのだ。ガオズロック内での食事と言えば、テトムの作る手料理位だ。彼女の料理も悪く無いが、佐熊に言わせればもっと野性的な食事を好む。所謂「質より量」のタイプだ。

 とは言え、ファーストフード店でハンバーガーを10個も注文し、あまつさえ全て平らげてしまったのだから、相方の大神も最早、呆れ顔だ。

 

「大神‼︎ お前も食って見ろ‼︎ この“はんばぁがぁ”は実に旨いぞ‼︎」

「俺は良い……」

 

 大神は、コーヒーを飲みながら断る。

 

「何じゃ、大神‼︎ その堅い性格は変わらんのゥ……其れではおなごにモテんぞ⁉︎」

「別に必要無い……それに俺は、この時代の人間じゃ無い……お前みたいに馴染む事は出来ん……」

 

 大神は自嘲気味に呟く。所詮、自分も佐熊も生まれた時代は千年以上も大昔……当時、互いに独り身だった故に現代に生きている子孫も居ない。その為でもあり、現代のカルチャーショックも手伝い馴染む事も出来ない。

 かつての仲間達……獅子走達以外とは、気を許した人間も作らずに大神は孤高の中、生きてきた。これからも、そうだろう……と言う諦めが、大神の人格を形成していた。

 

「…むゥ…相変わらず、難しく考える奴じゃのゥ……今と昔の違いなぞ、小さき事じゃ。ワシ等は、今をこうして生きとる。其れで良いじゃ無いか‼︎」

 

 佐熊は、カラカラと笑って見せる。そう言えば、彼は昔からこうだった。豪放磊落で細かい事を気にしない……確かに時代は違えど自分達は一切、変わっていない……。

 

「……覚えとるか? ワシとお前が、ムラサキと出会う前じゃ……」

 

 ふと佐熊の切り出した言葉に、大神は顔を上げた。

 

「ああ……俺もお前も、世を恨んで盗賊に身を窶していたな……最初は敵同士で幾多と殺し合ったが……ムラサキに諭され、ガオの戦士になって……思えば奇妙な縁だな……」

「ガハハハ‼︎ だから、人生は面白い‼︎ 何が起きるか分からんからな‼︎」

 

 自分達の過去を皮肉る大神と、良い思い出話と笑い飛ばす佐熊……一見、性質は全く正反対の二人だが……この千年の時を超えた戦友達は、目には見えない堅い絆が感じられた。

 

 

「あの……」

 

 

 その際、二人の会話に割り込む様に、入ってきた一人の少女……それは、陽の同級生でファーストフード店の制服に身を包んだ鷲尾美羽だった。彼女は、この店でバイトしているのだ。

 

「ん⁉︎ おお、此処の店娘か! この“はんばぁがぁ”は実に旨かったぞ‼︎」

「あ、ありがとうございます……じゃなくて! ……貴方、大神月麿さんですよね……」

 

 美羽は意を決した様に、大神に話し掛けた。

 

「何じゃ、大神? この娘と知り合いか?」

「……いや……初めて見る顔だが……?」

 

 大神は首を傾げる。金髪寄りの少し派手めなメイクをした少女……自分とは余り、縁の無い様に見えるが……。

 

「鷲尾岳……知っていますよね……?」

 

 その名前を聞いた大神は、初めて表情を変えた。

 

「鷲尾……君は、あいつを知っているのか?」

「はい……。あの人は私の叔父です……だから、貴方の写ってる写真を見せて貰ったから知ってます……貴方と叔父が“何をしていた”か……」

「‼︎」

 

 大神は眉根を寄せて、彼女を見た。

 鷲尾岳/ガオイエローは自分の仲間の一人で、現代にて出来た戦友だ。目の前の少女が鷲尾岳の姪であり、かつ自分達の正体を知っている……大神は立ち上がる。

 

「君は……あいつの……」

 

 言われてみれば、鷲尾と顔立ちや雰囲気が似ている気がする。佐熊は蚊帳の外に立たされて、様子を伺うしか出来ない。

 

「何故、そんな事を……?」

「……叔父がどうなったか知りたいです……あと、此れを見せれば……」

 

 そう言って彼女は腕を巻くって見せた。其処には、ガオの戦士の証たるG -ブレスフォンが着用されていた。

 これに関しては、佐熊も驚きを隠せない。

 

「お前さんも……ガオの戦士か……?」

 

 佐熊の言葉に対し、美羽はコクンと頷く。

 

「……今は訳あって戦う事が出来ません……でも、その時が来たら……私も戦わなくてはならない……」

「訳? その訳とは……」

「……祈を……いえ、巫女様をお守りする為です……」

 

 随分と意味深な言葉を告げる美羽に対し、二人は顔を見合わせた。一体、彼女の戦えない理由とは? そして、祈を守る為とは?

 

「鷲尾さ〜ん! 悪いけど、レジ入って〜‼︎」

「はーい! ……では、これで……。あ、私の事は竜崎には秘密で……」

 

 それだけ言い残すと、美羽はレジ内に消えて行った。

 残された二人は、美羽の事に思いを馳せた。

 

「……どう思う?」

「……どうもこうも……まさか、ガオの戦士がまだ居たなんて……テトムが聞いたら腰を抜かすな……」

「まっこと、その通りじゃ。しかし『巫女様をお守りする』なんぞ言っとったが……巫女様とは、あの娘の事じゃろう?」

 

 佐熊の言葉に対し、大神は頷く。ガオの巫女と言えば、テトムの事か陽の妹、祈だけしか指さない。しかし、テトムでないとすれば、以前にテトムから聞かされた『原初の巫女』の生まれ変わりである祈しか考えられない。

 その際、二人のG -ブレスフォンが震える。同時に反応し、先ずは大神はそれを取った。

 

 ーシロガネ! どうやら、オルグが出たらしいの‼︎ー

 

 テトムの言葉に、大神は首を傾げる。出たらしい……と言う随分と曖昧だったからだ。

 

「どう言う事だ? 出たらしい、とは?」

 

 ー陽から、祈ちゃんが危ないって一人で向かったの‼︎ それで、彼の足取りを調べたら天狐山に向かった様だわ!

 だから貴方達も向かって欲しいの‼︎ー

 

 テトムの嘆願する様な言葉に、大神は強く頷き……。

 

「分かった! 直ぐに向かう‼︎ 佐熊、行くぞ‼︎」

「お、おう‼︎ 何が何だかよく分からんが、とにかく陽の所へ行くんじゃな‼︎」

 

 大神に言われるがままに、二人はファーストフード店から飛び出して行った。その様子を、美羽は黙って見続けていた……。

 

 

 

「鬼灯隊?」

 

 ガオゴールドは聞き返す。目の前の鬼面を身に付けた女のオルグ達はそう名乗った。

 

「そう……私達は、オルグによって構成された忍者集団“オルグ忍軍”に所属する者達……オルグに仇為す者達を闇から葬り….」

 と、ホムラ。

 

「光を闇に、生を死に誘い….」

 と、ミナモ。

 

「絶望に満ちた死屍累々の世界を作りし者……」

 と、ライ。

 

「それが我等、外法の道に逸れし者達が望みし世界……」

 と、コノハ。

 

「そう…我々は、鬼の忍び達……」

 と、リク。

 

 

「鬼灯隊‼︎」

 

 

 それぞれ、ポーズを決める五人。ガオゴールドは、唖然としている様だ。

 

「……見てみ……アイツ、ウチらの決めポーズに見惚れて声も出えへんみたいやで?」

 

 ライは得意気に言う。

 

「……そうじゃ無いみたい……」

 

 リクは、ガオゴールドを見ながら言う。

 

「コノハ……体の向きを間違えてる、でございます……」

 

 ミナモが、コノハを見ながら言った。他の四人は左半身を向いて構えているのに反し、コノハは右半身を向けていた。

 

「な、何だと⁉︎ コノハ‼︎ 決めポーズを間違えるな、と何度も言っただろう! オルグ忍者隊の掟、其の一! 様式美を大切に、だ‼︎」

 

 ホムラが、だんだんと地べたを踏みながら怒る。

 

「あーもう、ウゼェな‼︎ こんなモン、ノリで良いだろうが‼︎」

「良くない‼︎ 忍びたるもの、的確かつ完璧に‼︎ オルグ忍者隊であるなら、しっかり守れ‼︎」

 

 コノハは不満をぶつけるが、それに対してホムラは怒りながら諫める。

 

「…….」

 

 ガオゴールドは自分を差し置いて、喧嘩を始めたオルグ忍者達にポカンとする。

 

「あの……喧嘩なら後にした方が、でございます……」

 

 戦いの無視して喧嘩を白熱させる二人を、ミナモは止めに入る。それを聞いたホムラは、コホンと咳払いした。

 

「おっと、そうだ………ガオゴールド‼︎ 邪魔者である貴様を倒させて貰う‼︎ さァ、行くぞ‼︎」

 

 ホムラは、そう言うと一斉に刀を抜いて襲い掛かって来た。ガオゴールドも、ドラグーンウィングで攻撃を躱すが、五対一では圧倒的に不利だ。

 さっき迄のふざけた態度は何処へやら、彼女達の実力は本物である。

 

「くッ…‼︎」

「まだまだ‼︎ オルグ忍法“蛍火球の術”」

 

 ホムラが印を結ぶと、口から蛍に似た小さな火球を吐き出す。すると、小さな火球が一斉に爆発して行く。辛うじて後退するが、背後に回り込んだミナモが……。

 

「此処まで、でございます‼︎ オルグ忍法“水縄縛りの術”‼︎」

 

 ミナモが印を結ぶと、足元の泥水が縄の様にしなり、ガオゴールドの身体を縛り付けた。

 

「……オルグ忍法“土蝦蟇口の術”……」

 

 リクが印を結ぶと、土が巨大なガマガエルの様な顔になり、バランスを崩したガオゴールドを飲み込もうと、大口を開ける。何とか抜け出そうとするが、泥の縄がガッチリと固まって抜け出せない。

 蝦蟇口は、大口でガオゴールドを飲み込もうとした……だが、何とか右腕を自由にしてガオサモナーバレットを取り出し、蝦蟇口の中を狙い撃った。

 すると蝦蟇口は中で爆発して消滅した。そして泥縄も外れて、ガオサモナーバレットを構え直して、ホムラとミナモを狙撃した。

 

「ぐッ⁉︎」

「キャッ⁉︎」

 

 何とか体勢を立て直すガオゴールドだが、コノハとライが左右から包囲した。

 

「行くぜ、ライ‼︎」

「よっしゃ、コノハ‼︎」

 

 左右から、二人は印を結ぶ。

 

『オルグ合体忍法“旋風豪雷の術”‼︎』

 

 コノハの口から旋風が、ライの口から放電が放たれガオゴールドに狙いを定めた。

 

「兄さん、危ない‼︎」

 

 祈は離れた場所で、摩魅を介抱しながら叫ぶ。

 だが、突然の奇襲に対応が出来ずにガオゴールドは動けない。と、その刹那……。

 

 不意に放たれたエネルギー弾が、合体忍法を弾き相殺した。

 

「な、なんや⁉︎」

 

 自分達の技が相殺された事に、ライは驚く。

 上を見ると、降り立ってくる二人の影……。

 

「ガオシルバー! ガオグレー!」

 

 ガオゴールドは助かった、と安堵する。

 テトムからの指示を聞いて駆け付けた二人は、ガオズロックに乗って此処までやって来たのだ。

 

 

「ガオゴールド! すまない、遅くなった‼︎」

「まさか、こんな辺鄙な場所に現れるとはのゥ……‼︎」

 

 ガオシルバー、ガオグレーはガオゴールドの左右に立って、戦闘体勢に入った。思わぬ伏兵の登場に、ホムラは焦りを見せた。

 

「な、何故だ‼︎ 何故、この場所を特定出来た⁉︎」

「これだけ、邪気をプンプン漂わせていりゃ嫌でも気付くわい‼︎ オルグの牝狗共が‼︎」

 

 ガオグレーは、鬼灯隊達に罵声を浴びせる。それに対して、コノハが激怒した。

 

「ハァ⁉︎ 言うに事欠いて、牝狗だと⁉︎ アタイら、鬼灯隊を犬畜生呼ばわりする気か⁉︎ この……アホンダラが‼︎」

「良しなさいな、コノハ……下品ですよ、でございます……」

 

 口汚く罵って来たコノハを、ミナモが諫めた。

 

「ほんま、単純な奴やな……」

「……ただの馬鹿……」

 

 ライやリクも、呆れ顔だ。

 

「な、何か今迄に無いタイプのオルグだな……」

 と、陽。

 

「ほんに、昨今のオルグは個性豊かじゃのゥ……」

 と、佐熊。

 

「俺は帰っても良いか?」

 と、大神。

 

 

「何を遊んでいるのだ、貴様達は……」

 

 

 突然、野太い声が聞こえて来た。すると、鬼門が開き見た事のないオルグが姿を現す。

 

 

『親方様‼︎』

 

 

 鬼灯隊は揃えて声を上げる。頭部が苦難の形をした角をした特異なオルグだ。見た目なら、彼女達と同様に忍者に似ている。

 

「成る程……貴様等が、ガオレンジャーか……ヒヤータやゴーゴに辛酸を舐めさせたらしいな……」

「何者だ⁉︎」

 

 ガオゴールドは警戒する。彼女達から親方様、と呼ばれたと察するに、彼女達の頭目らしい。

 

「拙者、ヤミヤミ。四鬼士の一人にして、オルグ忍軍の頭領だ」

「オルグ忍軍? 以前、お前と似たオルグと戦った…‼︎」

 

 ガオシルバーは、ヤミヤミが昔、戦ったオルグと酷似している事に気付く。すると、ヤミヤミは苦々し気に言った。

 

「貴様が言ってるのは、ドロドロの事であろう? 奴は拙者の弟だ……最も、あれがガオレンジャーに敗れた瞬間より、弟とは思っておらぬがな……」

 

 ガオゴールドやガオグレーは知らないが……先の戦いで、当時のハイネスデューク、ラセツに従属し、一度はガオレンジャーを鬼霊界に幽閉し壊滅寸前にまで追い詰めたデュークオルグが居た。それこそ、デュークオルグにして、オルグ忍者ドロドロだ。

 

「ふん……不甲斐なき奴よ。奴は修行を怠った挙句、勝利寸前にて己の慢心ゆえに敗北した……オルグ忍者の面汚しだ。

 寧ろ、我等と同じくオルグ忍者と名乗っていた事を、奴は恥じるべきだ……」

 

 オルグとは言え、自分の縁者に対し散々な言い草だ。

 そして、ガオシルバーは戦慄する。ドロドロは決して弱いオルグでは無かった。そのドロドロを「不甲斐ない」と罵倒するなら、このヤミヤミの強さは計り知れないものだ。

 

「親方様‼︎ ガオレンジャー討伐は私達、鬼灯隊にお任せ下さい‼︎ 必ずや、奴等の首を……‼︎」

 

 ホムラが意気揚々と告げたが、ヤミヤミは其れを片手で遮る。

 

「奴等の首を取るのは今では無い。テンマ様は、ガオレンジャー討伐の任を我々、オルグ忍軍に一任した。

 今日、貴様達を此処へ寄越したのは、裏切り者の始末のみ……それ以上の事はしなくて良い……」

「し、しかし……‼︎」

 

 尚も食い下がろうとするホムラだが、ヤミヤミは鋭い眼光で睨み付けた。

 

「頭領である拙者のやり方に不服か、ホムラ?」

 

 口調こそ静かだが厳かさと冷徹さに満ちており、ホムラ始め閉口する。

 

「い、いえ……御意に……」

 

 鬼灯隊の面々は全員、後退する。ヤミヤミは、ガオレンジャー達を見据えながら印を結び始める。

 

 

「臨・兵・等・者・戒・陣・列・在・前‼︎ 土中に眠りし、よろず邪気よ‼︎ 今こそ集結し、その力を示せ‼︎

 オルグ忍法・奥義其の壱! 邪気寄せの術‼︎」

 

 

 ヤミヤミはそう唱え、手を大地に下ろす。すると、辺りの地表が地震の如く揺れ始め、土が盛り上がる。

 そして盛り上がった土が一塊に纏まり始め、やがて巨大なオルグ魔人に生まれ変わった。

 

「こ、これは⁉︎」

 

 その巨体もさる事ながら、土塊で構成されたオルグを召喚した事に対し、ガオゴールドは驚愕する。

 

「土の中に込められた人間共の怨念、無念を邪気として集結させ生み出した土塊のオルグ魔人、名付けて“ゴーレムオルグ”だ。中身は土塊だが、数多の邪気により構成されている故に…強いぞ?」

 

 ヤミヤミはそう言い残すと鬼灯隊を引き連れ、鬼門の中に消えていった。

 

「あ、待て‼︎」

 

 ガオゴールドは後を追おうとするが、ゴーレムオルグが立ち塞がる。

 

「ゴールド‼︎ まずはコイツを倒してからだ‼︎」

 

 ガオシルバーに促され、ガオゴールドはゴーレムオルグを見据える。土塊の魔人は両腕を持ち上げ、ガオの戦士達に襲いかかって来た。

 

 

 

 祈は遠く離れた場所から、戦いを見守っていた。この時、深く祈は意識していなかったが、彼女の中にある巫女の力を発現させて不可視の結界を張り、オルグ達から身を守っていた。その際、摩魅は小さく目を開けていた。

 

「あ、気が付いた⁉︎」

 

 祈は摩魅の様子を見ながら、意識を取り戻した事に喜ぶ。

 だが、当の摩魅は悲しそうに顔を背けた。

 

「どうして、私を助けたの? 放っておいて……もう、私は……死にたいの……」

 

 摩魅は蚊の泣く様な声で呟いた。祈は困惑する様に尋ねる。

 

「どうして?」

「私は……人間にも、オルグにもなれない……ヒヤータにも言われたわ。『生まれ損ないの混血鬼』って……」

 

 そう言いながら、堰を切った様に摩魅は泣き始めた。仲間を求めても、人の輪から弾き出され、オルグの輪からも弾き出された日々。誰も自分を必要としないし、仲間とも呼んで貰えない。生まれて来た意味など無い空虚な人生……だったら、もう終わっても良い……少なくとも、彼女はそう考えていた。

 しかし、祈は摩魅の手を握る。

 

「貴方の手は温かいね」

 

 摩魅は涙でグチャグチャになった顔を向けながら、祈を見る。何処までも穏やかで、まるで菩薩様の様だ。

 

「貴方が本当にオルグなら、こんな温かい手にはならないよ……私もね、兄さんとは血が繋がってないんだ。それでも、兄さんは私を受け入れて来れたし、私も兄さんが好き。

 自分の生まれとか血縁なんかに支配されないで。貴方の本当の言葉を聞かせて欲しい……」

 

 祈の労りに満ちた言葉は、摩魅の中に染み渡る。

 願ってはいけない、自分には“それ”を願うべき者では無いと諦めていた。でも……一度だけ願って良いなら……本当に良いのなら……。

 

「私……生きたい……オルグとしてじゃ無く……一人の人間として……」

 

 摩魅は泣き続けながら、自分の精一杯の望みを願った。祈は優しく微笑みながら、摩魅を抱き寄せた。さながら、母が我が子を慈しむ様に……。

 

 

 

 ガオレンジャー達は、ゴーレムオルグの猛攻に挑んでいた。

 土塊によって構成されたゴーレムオルグには意思は感じられ無い。ただ邪気に突き動かされる様に暴れ続けるのみだ。

 

「竜翼……日輪斬りィィッ!!!」

 

 ガオゴールドはドラグーンウィングで斬撃を飛ばし、ゴーレムオルグの右腕に直撃、腕は吹き飛ばされた。

 痛覚も無く血も流れない。斬り落とされた腕からは土塊の断面が見えていた。それ故にオルグは怯む事も無い。

 しかも、斬られた腕を地面に押し付けると土が寄せ集まり、再び新しい腕に再生した。

 

「く……攻撃が効かない⁉︎」

 

 ガオゴールドは、想像以上の強さを誇るゴーレムオルグに舌を巻いた。しかも攻撃が無効化とあっては、戦い様が無い。

 

「お、おい⁉︎ あれを見ろ‼︎」

 

 ガオグレーは斬り落とされた腕を見た。すると土塊に戻った腕は周囲の土を吸収して人型となり、ゴーレムオルグが二体に増えてしまった。

 

「分裂した⁉︎ なんて奴だ…‼︎」

 

 斬撃も打撃も効かない、あまつさえ斬り落とされた部位が新しいゴーレムオルグとなってしまう。これでは、おちおち攻撃も出来ない。

 

「ガオシルバー…このままじゃ、此方が不利になる一方じゃ…‼︎」

「く……‼︎」

 

 ガオグレーの言葉に対し、ガオシルバーは言葉を返せない。

 その際、ガオゴールドは名案を思い付いた。

 

「ならば……再生が追い付かないレベルで粉砕すれば……‼︎」

「成る程な…だが、どうやって…⁉︎」

 

 ガオゴールドの案に対し、ガオシルバーは首を傾げた。再生する前に破壊するには相当、強大な力をぶつけるしか無い。

 ヒヤータにした様に、八方から必殺技を発射するのは力が分散してしまい、却って逆効果だ。

 

 

 〜みんな‼︎ 破邪の爪を合体させるの‼︎〜 

 

 

 ヘルメット内に、テトムの声が響く。

 その手があった、とガオシルバーは閃いた。

 

「よし‼︎ ゴールド、グレー‼︎ 我々の破邪の爪を一つにし、ガオソウルを一気に凝縮して放つんだ‼︎」

「⁉︎ そんな事が出来るのか⁉︎」

 

 ガオシルバーは、かつて先代のガオレンジャー達がやっていた様に、破邪の爪を一つにした武器『破邪百獣剣』の存在を思い出していた。力を発現させれば、オルグを粉砕させる事も可能だ。

 

「よし…‼︎ 一か八か、やってみよう‼︎」

 

 ガオゴールドはガオサモナーバレットを、ガオシルバーはガオハスラーロッドを、ガオグレーはグリズリーハンマーを重ね合わせた。

 すると三つの武器は光に包まれていき、やがて光が晴れるとガオサモナーバレットとガオハスラーロッドの銃装が合体した二連式の銃口、グリズリーハンマーが変形し銃床となり、その下から突き出たハンマーの柄をガオグレーが持ち、左から突き出たグリップをガオシルバーが、右から突き出たグリップをガオゴールドが握った状態となり、巨大なライフル銃に姿を変えていた。

 

 〜三人のガオの戦士の破邪の爪が力を合わせて、悪鬼を撃ち砕く聖なる銃へと進化しました〜

 

 

『破邪三獣砲‼︎

  邪気……滅却‼︎』

 

 

 三人が同時にトリガーを引き、銃口から放たれる強大な金色、銀色、灰色の混ざった光線が、二体のゴーレムオルグに直撃、包み込んだ。

 その際、声にならない奇声を上げながらゴーレムオルグは爆発、足下には粉微塵に砕け散ったゴーレムオルグの残骸が散乱していた。

 

「やったァァァ!!!」

 

 ガオゴールドは初めて披露した三戦士の合体必殺技が成功した事に歓喜する。此処まで粉々となれば、流石に復活は出来ないだろう。三人共、安堵した。

 だが、その時……。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 ガオシルバーは、地面に散乱する粉々の土塊を指す。

 すると、土塊はまるで磁石に引き寄せられる砂の様に集結していく。と、同時に辺りの土や岩なども取込み球体状の岩となって見る見る肥大化していった。

 

「ま、まさか…⁉︎」

 

 ガオゴールドは息を飲む。あんな状態になっても、倒せていないなんて……! そうしてる間に、丸岩から手足が突き出て立ち上がる。やがて頭頂部に二つの頭が形成され、巨大な体躯に双頭のゴーレムオルグとして生まれ変わった。

 

 

「ぐおおォォォォッッ!!!!!」

 

 

 ゴーレムオルグは天高く吠えた。2つの口、4つの目、更に肥大化した両腕を振り上げて、ガオレンジャーに襲い掛かる。

 

「巨大化か…なら、こっちも……‼︎」

 

 ガオゴールドはガオサモナーバレットを天に構える。

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 天に射出した3つの宝珠は光り輝き、ガオドラゴンらを召喚した。そして聖騎士ガオパラディンが姿を現し、ゴーレムオルグを迎え撃った。だが、体躯はガオパラディンの二倍はあらんとする巨体さだ。

 手始めに、ゴーレムオルグにユニコーンランスを刺突するが、堅牢な身体を持つゴーレムオルグを傷付ける事は叶わない。反対に、ゴーレムオルグは持ち前の馬鹿力で、ガオパラディンに突進して来た。堪らず、ガオパラディンは吹き飛ばされてしまう。尚も追撃しようと迫るが……。

 刹那、ゴーレムオルグの後方から衝撃が走る。ガオシルバーが搭乗する正義の狩人ガオハンターが、リゲーターブレードで腕を斬り落とした。だが、斬り落とされた腕は案の定、再生して、もう一体のゴーレムオルグが現れた。

 だが、それを阻む様に精霊の闘士ガオビルダーが殴り掛かった。三対二と言う比較的に、ガオレンジャー側に有利な状況ながらも、怪力と再生能力が自慢とするゴーレムオルグ達を蹴散らすのは容易では無い。

 下手に攻撃すれば、ゴーレムオルグは増えていくだけだ。従って、三体の精霊王が寄っても、オルグ魔人を足止めするしか出来ない。

 

「ぐおおォォォォッ!!!!」

 

 守りに徹するガオハンターに対し、ゴーレムオルグ達は前後の両サイドに立ち、ガオハンターを挟み打つ様にタックルを仕掛けた。重量級のオルグの攻撃には堪らず、ガオハンターは大ダメージを受けてしまう。

 二対二に持ち込まれ、ガオパラディンとガオビルダーは対峙するが……。

 

 その際、森を切り分けながら複数のエネルギーが現れ、ゴーレムオルグに直撃した。ゴーレムオルグの一体はバランスを崩し、仰向けに転倒した。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 ガオゴールドは振り返る。すると、木々を掻い潜る様に巨大な獣が現れた。体躯はガオウルフとよく似た体型だが、相違点は流れる様にしなる九本の尾が目立った。

 

 

「おおおォォォォッッ!!!!!」

 

 

 其れは純白の狐だ。だが外見は通常の狐と違い大きく、流れる九尾が立ち昇る様だ。

 伝承や神話に出てくる高い妖力と知能を持った妖獣“九尾の妖狐”さながらの雄大さと、神々しさを放っていた。

 九尾の狐は尻尾を立てて天に吠えると、ゴーレムオルグの上に暗雲が広がる。途端に暗雲から雷が雨の様に降り注ぎ、転倒して動けないゴーレムオルグを攻撃した。

 すると、ゴーレムオルグの身体は雷の連射によって砕け、それでも足りない位に粉々になった。

 そして、片割れのゴーレムオルグは九尾の狐に捕まえようとするが、すかさず狐は躱して飛び上がった。そして、九本の尾を鞭の様に幾多により鞭打し、ゴーレムオルグは破壊されていた。辛うじて、上半身だけ残るが再び暗雲から雷が降り注ぎ、上半身をも消し去ってしまった。

 ゴーレムオルグが完全に消え去った後、九尾の狐は静かになった事を見届けて、踵を返す。

 

「あ、待って…‼︎」

 

 ガオゴールドは、コクピット内より九尾の狐に呼び掛ける。

 だが、振り返り様に狐は恐ろしい形相でガオパラディンを睨み、山の中へと消えていった。

 

「あ、あの狐は……一体……⁉︎」

 

 残されたガオゴールド達は自分達を助けた九尾の狐の真意を図りかねながら、その場に立ち竦むだけだった……。

 

 

 〜その圧倒的な力で、強敵ゴーレムオルグを消し去った謎の九尾の狐……果たして、彼はパワーアニマルなのでしょうか⁉︎ 〜




ーオリジナルオルグー
−ゴーレムオルグ
オルグ忍者ヤミヤミの忍法により、集結した邪気を取り込んだ土が変化したオルグ魔人。意思は存在しないが、土塊の身体故に攻撃してもダメージは与えられず、身体を切り離せば別のゴーレムオルグとして増殖してしまう。

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