帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest30 狐が動く‼︎

 メランとヤミヤミの決闘は、熾烈を極めていた。幾度と無く斬り結び、放たれる斬撃の余波で大地が抉れ、岩が砕ける。

 廃墟も二人の闘いで、見るも無残に崩れ落ちていた。

 しかし、二人の鬼達は闘いの手を緩める気配は無い。

 

「クク……強さを増したな……ヤミヤミ……。

 我と貴様の二人が居れば、四鬼士など必要無かったからな……」

「……それは御主もだろう….…メラン…‼︎ 強さのみならず、邪気も増しておる……御主が、その気になれば、ハイネスの座に就く事も容易であろうに……」

「……興味も無いな……我は弱者の支配など望まぬ。力を求道し、ただひたすらに強者と闘いに明け暮れる……それが、オルグの真骨頂だ……時代の移り変わりで何時しか、オルグの価値観も変わってしまった……それが残念で仕方が無い……」

 

 オルグは邪気から生まれて人間に害を成す存在….それは遥か昔から変わらない……だが、同時に飢え渇く闘争心を満たす為、闘いに身を投じる……それが、オルグのかつての姿だった。しかし、時代が変わり人間の文明が発展すると同時に、オルグは力を求めて闘うのでは無く人間の支配を求めて闘う様になっていった。

 

「ヤミヤミ……貴様だって、そうであろう……本来なら頂点を目指せる程の力を持ち合わせながら、ハイネスの影であり続ける道を行く……我から見れば、貴様の生き方は息苦しそうだ……」

「それこそ、価値観の違いだ……オルグは邪気より生まれた忌むべき存在……闇より生まれ闇に死すべきだ……名誉も地位も求めずに、ただ修羅の道を行くのみ……」

 

 それだけ言って、ヤミヤミは忍刀をメランに振り下ろす。しかし、メランは剣を振るい炎の弾丸を弾き飛ばす。

 

「ふッ……偏屈な奴め……ならば、闇の中で死ね……‼︎」

 

 メランは炎を刃に纏わせ、ヤミヤミの胴を断ち斬った。真っ二つに分離したヤミヤミは、急に黒い塊になった。

 

「チ……変わり身か……」

「オルグ忍法・影法師の術……」

 

 地面に落ちた黒い塊は再び人型となり、やがてヤミヤミの姿に戻った。

 

「この勝負は預けて置く……だが、忘れるなよ……裏切り者は必ず死の制裁を下す……ガオレンジャーを血祭りに上げた後でな……」

 

 それだけ言い残すと、ヤミヤミは鬼門の中に消えていった。

 メランは剣を炎に戻し、佇む。

 

「ガオレンジャーを血祭りに上げるのは、貴様では無い……ガオゴールドは我が倒す……我が魂を賭して、な……」

 

 それだけ言い残し、メランは炎の中に消えていく。更なる闘いを求めて……。

 

 

 

「ハハハハァ‼︎ 燃えろ、燃えろ‼︎ 鬼地獄の焦熱の如く‼︎」

 

 天狐山の木々に燃え移っていく黒い炎……木は焼け爛れ、崩れ落ちて行く。周りには、オルゲット達が黒い炎を点した松明を投げつける。それを指揮するのは、二体の巨体なオルグだ

 

「さァ、メズの兄弟‼︎ ガオレンジャーを、炎で炙り出してやろうや‼︎」

「ああ、ゴズの兄弟‼︎」

 

 それは、かつてガオレンジャーと闘い敗れた、ヘル・デュークオルグ、ゴズとメズだ。

 彼等は、鬼地獄に住むデュークオルグ故に不死の肉体を持ち、傷を癒した後に再び姿を現したのだ。

 彼等の目的は、自分達に煮え湯を飲ませたガオレンジャーへのリベンジのみ。その為、彼等を誘き寄せる事を口実に、この大胆な山火事を引き起こしたのだ。

 ガオナインテールが呼び寄せた雨も物ともせず、黒い炎はグングン燃え広がって行く。このままでは、被害は甚大となる。

 

 

「止めろォォ‼︎」

 

 

 騒ぎを聞き付けた陽達が駆け付ける。それを見たゴズは、ニヤリとほくそ笑んだ。

 

「グハハ‼︎ 来やがったな、ガオレンジャー‼︎」

「まんまと現れたな‼︎」

 

 陽達の姿を見た二人は、ゴズが巨大な戦斧を、メズが大鉈を構えた。

 

「お前達は……‼︎ 生きていたのか⁉︎」

 

 陽は、ゴズとメズの姿を見て驚愕する。奴等は倒した筈なのに……。

 

「俺達は不死身だと言ったろう‼︎ 貴様達に復讐を果たす為、再び鬼地獄から這い上がってきたぜ‼︎」

「んん〜〜⁉︎ 何やら見慣れぬ奴が居るぞ、メズの兄弟!」

 

 ゴズは佐熊の姿を見て首を傾げる。以前の戦いには居なかった筈だ。

 

「ワシは佐熊力丸‼︎ 貴様等の事は知っているぞ、鬼地獄に巣食う低級鬼だな‼︎」

 

 佐熊は小馬鹿にした様に言った。ゴズは憤慨する。

 

「貴様ァ‼︎ 俺達を低級鬼呼ばわりするとは……‼︎ まァ良いわ……低級だか否かは、我等の新たなる姿を見てから言うが良いわ‼︎ 行くぞ、メズ‼︎」

「応よ、ゴズ‼︎」

 

 そう言うと、ゴズは自身の右角を、メズは自身の左手を握り潰す。

 すると、ゴズとメズはスライム状に迄、不定形となって一つに融合を始めた。やがて、そのスライムは人の形を取り始めてムクムクと肥大して行く。突き出した四つの部位は四本の腕となり、両手に戦斧と大鉈を構えている。顔はゴズに、胸部にはメズの顔が浮かび上がる異形の姿となる。

 

『我こそは、鬼地獄最強の獄卒オルグ‼︎ 混獣王ゴメズ‼︎』

 

 ゴズとメズの顔が同時に喋る。二体のオルグが融合した事で、より巨体となっている。

 

「が、合体した⁉︎」

『グハハハ‼︎ 貴様等もパワーアニマルを合体させる様に、我々も合体してやったのよォ‼︎

 さァ、ガオレンジャー‼︎ 全員、縊り殺してやるゼェ‼︎」

 

 そう言うと、ゴメズは右手に握る戦斧を振り下ろす。すると、戦斧から発生した斬撃が木々を切り倒して行く。

 

『どうよォ‼︎ パワーも二倍となり、死角も無ェ‼︎ 」

 

 ゴメズは勝ち誇った様に高笑いする。確かにパワーは増しており、前回と違って隙を見せない。

 だが、陽は負ける気がしない。今回は、大神だけでは無く佐熊も居る。

 

「その程度で勝った気でいるなんて、お笑いだな‼︎

 行こう‼︎ 変身だ‼︎」

「「ああ‼︎」」

 

 陽の号令に合わせて、二人もG−ブレスフォンを取り出す。

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 三人はガオソウルを纏い、ヘルメットとスーツを纏い始める。やがて、変身を終えると三人の戦士が立っていた。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

 

「百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 金色の竜、銀色の狼、灰色の熊を司る戦士が、地獄より這い上がりし獣の鬼達と二度に渡る闘いを挑んだ。

 

 

 

 〜忌み子じゃ〜

 

 〜鬼の子じゃ〜

 

 〜悍しい〜

 

 この世に生を受けた時、周囲から浴びせられたのは、畏怖と嫌悪、そして差別だった。

 住んでいた村の住人、子供……遂には腹を痛めて産み落とした母にまで拒絶された。「生まれてくるべきじゃ無かった」と……。

 長い間、彷徨って漸く、自分と同じ匂いを持つ者達の場所に足を運んだ。だが、其処で自分に浴びせられたのは歓迎でも、優しい言葉でも無い。侮蔑と嘲笑の数々だった。

 

 〜混血鬼か〜

 

 〜人臭い奴め〜

 

 〜汚らわしい〜

 

 結局、此処でも自分は爪弾きにされた。自分は誰にも必要とされない……誰にも愛されない……そう涙した自分を見た彼等は益々、不快な目で睨む。

 

 〜オルグは泣かない〜

 

 〜その涙は、人の証だ〜

 

 そう言って、自分を殴り飛ばした。

 人にもなれない、オルグにもなれない……だったら、私は何処に行けば受け入れて貰える?

 

 

「皆……頑張って‼︎」

 

 テトムはガオズロック内より、両者の闘いを見守っていた。一度は倒した筈のゴズ、メズが再び、姿を現した。かつて以上に強力な個体のオルグが姿を現してくる……やはり、オルグの力が強まっているのは原因なのだろうか?

 その際、摩魅が目を覚まして、テトムに近付いて来た。

 

「あ、目を覚ましたの?」

 

 テトムは声を掛ける。摩魅は浮かない顔だ。

 

「わ…私…やっぱり、此処に居たら迷惑に……」

 

 熱にうなされながらも、先程の会話を聴いていた摩魅。オルグの関係者と思われ、此処に居れば、また自分の為に諍いが起きてしまうのでは無いか? そんな言い様の無い不安が、摩魅を覆い尽くす。

 しかし、テトムは笑顔で摩魅を見る。

 

「迷惑だとが、迷惑じゃ無いとか考えなくて良いわ……貴方を助けるって、ガオゴールドを決めたのだから、貴方を助けるわ」

「でも……」

「それに“彼等”も、きっとそうしたと思うわ……」

 

 そう言いながら、テトムはガオズロックの一室に飾られた写真を見る。摩魅は、その写真を見る。

 

「この人達は?」

「先代のガオレンジャー達……私の仲間達よ……」

 

 テトムは古き友を懐かしむ様に遠い目をした。

 写真に映るのは、テトムを中心にして六人の若い男女が笑顔で微笑んでいた。

 摩魅は、そんな姿を見て心から羨ましいと思えた。自分にも、こんな仲間達が居れば……そんな感情が、摩魅の中に芽生えて来た。

 

 

 

『さァ、行くぞォォ!!!』

 

 ゴメズは、ニ本の腕の武器を振り回しながら突進して来た。すかさず、ガオゴールドとガオシルバーは躱すが、ガオグレーは正面からぶつかり合った。

 空いている手で、ガオグレーの手と掴み合い、力比べを展開する。しかし、オルグの底力には力自慢とされるガオグレーも押されてしまう。

 

「……力比べで、ワシに勝負を挑むとは……良い度胸じゃな……ぬゥおおォォォォッ………!!!!」

 

 しかし、ガオグレーも負けじと腕に力を込める。その際、ゴメズはズズズ……と、後ろに退がり始める。

 

『ぬぐぐ……この俺様が……人間如きにィィ……!!⁉︎』

 

 力で押し負け始めたゴメズは驚愕する。そうしてる間に、見る見る後ろに押されていくが、ゴメズは戦斧と大鉈を持った両腕を一斉に、ガオグレーに振り下ろそうとする。

 が、突如に両腕に衝撃が走り武器が弾き飛ばされた。

 ガオグレーの後ろで、ガオゴールド、ガオシルバーが各々の武器で、ゴメズの武器を狙撃したのだ。

 不意打ちを受け、大きく動揺するゴメズ。その隙を見たガオグレーは万力を込めて、自分より倍以上の体躯を持つオルグ魔人を持ち上げた。

 

「どっせェェェェッイ!!!」

 

 掛け声と共に、ゴメズを投げ飛ばすガオグレー。巨体が木々を薙ぎ倒しながら、燃え盛る黒い炎の中に突っ込んで行き、倒れて来た巨木の下敷きとなった。ガオグレーも流石に力を出し過ぎたのか、肩をボキボキと鳴らす。

 

「やったか⁉︎」

 

 ガオゴールドは炎の中に倒れるゴメズを睨む。しかし、身体がピクリと動くのを確認した。

 

「まだだ‼︎」

 

 ガオシルバーは叫ぶ。ゴメズは立ち上がり、巨木を持ち上げる。

 

『グハハハァ‼︎ こんなもの……鬼地獄の炎に比べりゃ、温過ぎるわ‼︎』

 

 そう言いつつ、ゴメズは炎を掻き分けながら出て来た。だが、身体の各所は黒い炎に焼かれて爛れ落ち、顔は二目と見れない程に醜く崩れていた。

 

『丁度良い……これならどうだァァァ!!!』

 

 ゴメズは息を吸い込み、燃え盛る炎に息を吹き掛けた。すると、炎が火炎放射の様にガオレンジャー達に襲い掛かる。

 

『鬼地獄にて鍛えた力を甘く見るなよ、ガオレンジャー‼︎ 更にィ……‼︎』

 

 二ィィッとほくそ笑みながら、ゴメズは戦斧と大鉈を持ち直す。すると刃全体に炎が点いた。

 

『グハハハハァ‼︎ さァ、これで……貴様等の首を焼き斬ってやるァァ!!!』

 

 そう叫ぶと、ゴメズは武器をブンブン振り回しながら突っ込んで来る。短絡的な行動ながら、ゴメズ自体の攻撃力が高い為、侮れない。これでは、迂闊に近付く事も出来ない。

 

「ガオグレー‼︎ 俺をハンマーで持ち上げてくれ‼︎」

 

 ガオシルバーが指示を出す。ガオグレーは、言われるがままにグリズリーハンマーを突き出し、ガオシルバーはその上に乗った。力の限り、ハンマーを振るうとガオシルバーは天に飛び上がる。

 

「邪気玉砕‼︎ 破邪聖獣球‼︎」

 

 空中から、ガオハスラーロッドをブレイクモードにし宝珠を撃ち出した。だが、ゴメズは宝珠が衝突する刹那、戦斧で弾き返した。

 

「⁉︎」

『バァカめが‼︎ 同じ手が二度も効くかよ‼︎ 死ねェェェェ‼︎」.

 

 以前、同じ手で敗北したゴメズは、その弱点を克服したらしい。勝ち誇った様に高笑いしながら、ゴメズは戦斧を落下してくるガオシルバーに目掛けて、横に払ってくる。

 

「クッ……‼︎」

 

 空中では、身動きも躱す事も出来ない。万事休す、とガオシルバーが諦めた瞬間……。

 

 

「竜翼……日輪斬りィィ‼︎」

 

 

 その時、ガオゴールドの放ったドラグーンウィングの斬撃が、ゴメズの右腕に激突した。斬撃は、右腕を肘の部位から切断して吹き飛び、回転した戦斧は大地に深々と突き刺さった。

 

『グアァァッ!!? 痛えェ‼︎ 痛えェェよッ!!!』

 

 斬り落とされた腕を庇いながら、ゴメズはのたうち回る。

 落下したガオシルバーは、傷一つ無く立ち上がった。

 

「スマン…ガオゴールド…助かったよ…」

 

 ガオシルバーは、素直にガオゴールドに礼を言う。彼の機転が無ければ、大怪我は免れなかっただろう。

 だが、ゴールドは気にするな、と言わんばかりに頷く。

 その時、ゴメズは怒りに満ちた形相で、ガオゴールドを睨み付けた。

 

『よくも……! よくも、やってくれたな‼︎ 俺様の腕を……‼︎』

 

 今尚も、切断した箇所からドクドクと血が流しながら、ゴメズは唸る。だが、ガオゴールドは……。

 

「さっき、自分で自分の腕を握り潰した奴が、腕を斬られたぐらいで、ビービー喚くなよ」

 

 と、吐き棄てる様に言い放った。その言葉に、ゴメズは完全にキレたらしく、猛り狂う。

 

『人間風情が、生意気な口を……良いだろう……‼︎ だったら見せてやる‼︎ 貴様等を倒す為に編み出した新技を……‼︎

 オルグ殺法! 焦熱波動砲‼︎』

 

 ゴズとメズの両方の口が開き、黒い炎の塊が創り出されていく。みるみる間に炎が、ゴメズを上回る大きさとなった。

 

『グハハハァ‼︎ 一発で山をも消し去る灼熱の弾丸だ‼︎ 躱した所で、爆炎が貴様等の骨まで焼き尽くすのみ‼︎ さァ、どうする!⁉︎』

「クッ……‼︎」

 

 ガオゴールド達は、ゴメズの仕掛けた攻撃を前に窮地に立たされてしまった……あの弾丸の距離と大きさでは避け切れないし避けた所で、この山全体が火の海になってしまう……まさしく、八方塞がりの状況だった……。

 

 

 

 〜ガオナインテール……目を醒まして……〜

 

 山の空洞内にて眠るガオナインテールは、自分を呼ぶ声に目を開ける。

 目の前には、一人の巫女装束を纏った髪の長い女性が立っていた。ガオナインテールは懐かしげに頷く。

 

 〜そなた……アマテラスか……? 随分と久しいのォ……〜

 

 ガオナインテールは旧知の友に会った様な口調で語り出す。

 

 〜最後にあったは……確か、五百年前だったか? 今は人間として転生を果たした、と聞いたが……〜

 

 〜今は再会を懐かしんでいる場合ではありません……ガオナインテール……今こそ、貴方が覚醒する時が来ました……〜

 

 アマテラスの言葉に、ガオナインテールは溜め息を吐く様に低く唸る。

 

 〜あの若僧の事か……あれが、そなたの言っていた者だと?〜

 

 〜そうです……彼こそ……竜崎陽こそ、私達が待ち望んだ存在……全てのパワーアニマルから誕生を祝福された者なのです……〜

 

 アマテラスの発言に、ガオナインテールはかぶりを振る。

 

 〜あれが、そうであると言うなら……そなたの見当も外れたな……妾が見るに、まだまだ殻を破ったばかりの雛鳥よ。

 あれが伝説に聞く全てのパワーアニマル達を率いる王となるとは思ぬし、その様な者が再び現れるとは……〜

 

 〜そうです。彼こそが……いえ、彼が愛する者こそが、王と成りし者なのです〜

 

 アマテラスは、キッパリと言い切った。

 

 〜しかし彼女は、未だに力は未覚醒のまま……彼女が目覚めぬ限りは、彼は真の戦士とは成りません……ですが、彼女が目覚めし時が、彼も“闇を照らす太陽”となるのです〜

 

 彼女の言葉を聞いたガオナインテールは、黙々としたまま話を聞く。通常のパワーアニマルより永き時を生きて来たレジェンド・パワーアニマルである彼女もまた、パワーアニマルに古きより伝わる言い伝えを待ち望んでいた。

 その待ち望んだ伝説の戦士が、かの少年だとでも言うのか……。俄かには、信じられない。

 

 〜百歩譲って、あの少年がそうであるとして……妾がアレに力を貸した所、無駄に終わるだけでは無いか……? これ迄に、そうであった様にな……〜

 

 〜ガオナインテール……彼の人となりを一度、その目で知り見てみる事です……。彼は戦士としては発展途上でも、それを補うばかりの“慈しむ心”を持っています…!

 それを察したからこそ、ガオドラゴン達を始め、レジェンド・パワーアニマル達が力を貸すに至ったのです……〜

 

 アマテラスは懸命に、ガオナインテールに説得を促す。だが、心を閉ざした九尾の狐に取り付く島も無い。

 とは言え……ガオナインテールにも思う所があるのか、先程の少年の顔を思い起こして見る。

 理想を信じる顔をしていた……だが、それ故に危うさを持ち合わせている。

 

 〜そなたは……妾に、あの時と同じ過ちを冒せ、と?〜

 

 ガオナインテールは、自身の前に立つアマテラスを見下ろす。

 

 〜妾は“あの日”……大切な者を失った……この傷だけは、どんなに時を重ねても癒えはしないだろう……妾に更にもう一つ、癒えぬ傷を刻めと言うのか……?〜

 

 〜……〜

 

 ガオナインテールの言葉に、アマテラスは押し黙る。その際、山全体が揺れる様な震動に、ガオナインテールは顔を上げる。

 

 〜やれやれ……また暴れておるのか……〜

 

 気怠げに、ガオナインテールは立ち上がる。歩み去って行く彼女の背に向かい、アマテラスは語り掛けた。

 

 〜お願いです……貴方の想いは分かっています……。ですが……どうか、“あの子”の罪を赦して欲しいのです……〜

 

 彼女の決死な言葉は、ガオナインテールの頑なに凍りついていた心を融解し始めていた。果たして、あの少年が待ち望んだ伝説の戦士であるか……“あの者”と同じ過ちを冒すのか……ガオナインテールは長い時を生き過ぎた。その中で至った自身の答えを、あの少年が否定してくれるのか?

 

 

 

「ク……どうする……⁉︎」

 

 ガオゴールドは、ゴメズの仕掛けようとする焦熱波動砲を前に困惑していた。真正面から受け切れば大ダメージは必至だし、躱そうにも天狐山そのものが火の海になれば、結果は変わらない。

 

 〜ガオゴールド……破邪三獣砲に全ての力を込めて放出しろ……〜

 

「ガオドラゴン⁉︎」

 

 ヘルメット内に、ガオドラゴンの声が響く。

 

 〜お前は、我々を信じてくれた……ならば我々は、お前達に降り掛かる火の粉を払う盾となろう……〜

 

 ガオドラゴン達の言葉に、ガオゴールドは勇気を得た。

 何時だったか、アマテラスから聞かされた「貴方は一人では無い」と言う言葉が、脳裏にリフレインする。

 そうか……自分は一人では無い……祈、ガオシルバー、ガオグレー、パワーアニマル達、テトム……戦いの中で得た掛け替えの無い仲間達が居る…‼︎

 ガオゴールドは……竜崎陽は振り返る。無言で、ガオシルバーとガオグレーは頷く。

 陽は実感した。こんな自分を認めてくれている……ガオの戦士として……ガオゴールドとして……‼︎

 

「皆‼︎ 行くぞ‼︎」

 

 ガオゴールドは意を決し、ガオサモナーバレットを構える。ガオシルバーはガオハスラーロッドを、ガオグレーはグリズリーハンマーを重ねる様に構えた。

 

 

『破邪三獣砲‼︎』

 

 

 三人の信ずる想いが、巨悪を焼き払う砲門を召喚させた。ガオゴールドは、その邪気を祓う砲口をゴメズに向けて、引き金に指を置く。

 

 

「邪気……滅却!!!」

 

 

 引き金を引くと同時に三色の光線が放たれる。ゴメズが同時に、焦熱波動砲を放擲した。

 三色の光線と漆黒の火球がぶつかり合う。威力は、ほぼ拮抗……だが、ゴメズの方に分があった。このままでは、ガオレンジャー達を巻き込んで、光線を弾き返されてしまう。

 

『グゥハハハハァ!!! 無駄だ‼︎ 貴様等が力を合わせた所で、鬼地獄を焼き尽くす地獄の焦熱を防ぎ切れるものかァ!!!』

 

 ゴメズは勝ち誇った様に、叫ぶ。確かに自分達だけでは足りないだろう……‼︎ だが、自分達にはパワーアニマル達が力を貸してくれる。その想いが、破邪三獣砲の竜の目がキラリと輝く。と、同時に光線の威力が増し、火球を押し返し始めた。

 

『ぬァッ!⁉︎』

 

 突然の抵抗に対し、ゴメズは驚愕する。だが、火球の勢いを飲み込み光線はゴメズの眼前に迄、迫って来た。

 

『そ、そんな⁉︎ この俺様が、押し負けているだと⁉︎』

「これが、僕達の力だァァ‼︎」

 

 ガオゴールドが叫び、ありったけの光線をぶつける。ゴメズの身体は光線に焼かれ、漸く光が収まったかと思えば、ズダボロになったゴメズが倒れ伏した。

 

「やった……‼︎」

 

 肩で息を吐きながら、ガオゴールドは勝利を確信した。ガオシルバー、ガオグレーも拳を握る。

 しかし、そんな状態になりながらもゴメズは立ち上がる。全身が絶え間無く焼け爛れ、高熱で剥けた口角を吊り上げた際にドス黒く焼けた筋肉を覗かせながら、ニイィィッと笑う。

 

『……やるじゃ……ねェか……‼︎ だがよ……まだだ……‼︎

 コイツを見なァ‼︎』

 

 ゴメズはそう言いながら、身体を巨大化させて行った。次第に周囲の山々を見下ろす程、前回に戦った時より巨体と化していた。

 

『グァハハハハッ!!! 前の様には行かねェぞ‼︎ 』

 

 断ち切られた腕も再生し、筋骨隆々な体躯となったゴメズは高らかに吠える。ガオゴールド達は、破邪の爪を構えた。

 

『幻獣 

 百獣召喚!!!』

 

 天に打ち上げられる10個の宝珠が輝き、姿を現すパワーアニマル達。各々に合体を始め……。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン‼︎

       ガオハンター‼︎

          ガオビルダー‼︎」

 

 三体の精霊王達は、ゴメズに立ち向かう。ガオパラディンとガオハンターは同時に、ユニコーンランスとリゲーターブレードを突き出す。だが四本ある腕を巧みに使い、攻撃を受け止めるゴメズ。その隙に、ガオビルダーが下半身を構成するトードキックで、ゴメズの背面からキックする。

 しかし、強靭な身体を誇るゴメズにはびくともせず、左手に掴むガオハンターを持ち上げ、ガオビルダーに投げ付ける。

 ガオハンターとガオビルダーを戦闘から切り離す事に成功したゴメズは、ガオパラディンとの一騎討ちに持ち込む。

 ホーリーハートを撃ち込もうにも、先程の戦いでガオドラゴン達のガオソウルを使い果たしてしまい、使用するには時間が掛かってしまう。

 

「ガオパラディン‼︎ グリフカッター‼︎」

 

 ガオゴールドの指示で左手のガオグリフィンの翼を展開させて、翼状の光弾を放つ。

 だが、遠距離用の光弾ではゴメズの強化された肉体には傷を付けられ無い。やはり、ホーリーハートやホーリースパイラルの様な大技で無ければ……しかし、ガオハンター、ガオビルダー共に、ガオソウルの不足で力を出し切れない。今、彼等のパワーアニマル達と百獣武装しても本来の力を出せず、敗北してしまうのは必然だ。

 ならば、残されている万全のパワーアニマルはガオワイバーンだけだが……果たして、彼の力だけで乗り越えられるか……。

 と、その際にゴメズの身体を覆い尽くす様に火の輪が現れる。火の輪は、ゴメズの身体を拘束する様に渦を巻き縛り付けた。

 

『グアァァッ!!? 熱ちィィ‼︎ それに身体が動かねェェッ⁉︎ 何だこりゃァァァッ⁉︎』

 

 ゴメズは苦しげにのたうち回る。ガオパラディンの攻撃では無い。と、その際にガオパラディンの前に一体の影が降り立つ。

 

「ガオナインテール⁉︎」

 

 それは、一度は共闘を拒んだレジェンド・パワーアニマル、ガオナインテールだった。ガオナインテールは、ガオパラディンを振り返り、高慢に笑う。

 

 〜情けなや……妾が眠りについている間に、パワーアニマルも此処まで弱くなっていたとはな……。こんな者達、危なっかしくて任せてられんわ……〜

 

 ガオナインテールの言葉に対し、ガオパラディンは激しく憤りを見せた。

 

 〜貴様……‼︎ 態々、そんな事を言う為に来たのか?〜

 

 〜たわけが。そんな筈無かろう……これ以上、妾の縄張りを荒らされたく無いだけじゃ……。ガオゴールドとやら……人間に力を貸すのは癪だが、今回は場合が場合だ。妾の力を使いこなして見せよ……‼︎〜

 

 そう言い残し、ガオナインテールは光に包まれ乳白色の宝珠へと姿を変えた。宝珠は、ガオパラディン内部のコクピットに現れ、ガオゴールドの右手中に収まる。

 ガオゴールドは左手中に、ガオワイバーンの宝珠を持ち、台座へと装填した。

 

「百獣武装‼︎」

 

 掛け声と共に、ガオユニコーンとガオグリフィンが分離する。代わりに左腕にガオワイバーンが、右腕に九尾が分離し足を体内に収納して腕の形となり、直線状に纏まった尻尾を口に加える。

 

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・アロー&ウィップ‼︎」

 

 

 右手に近付く敵を撃ち砕くしなやかな鞭、左手に遠距離の敵を射抜く豪速の弓を携えた近、遠距離と共に隙の無い、ガオパラディンの新たな形態が誕生した。

 だが、ゴメズは同時に炎の渦を吹き飛ばした。

 

『馬鹿がァ‼︎ そんな付け焼き刃で、倒せるかァ‼︎

 オルグ殺法‼︎ 業火球砲‼︎』

 

 そう叫び、ゴメズの口から複数の小型火球がマシンガンの如く撃ち込まれた。

 

「テールウィップ‼︎」

 

 ガオパラディンは右手のナインテールウィップを展開する。すると延長した九尾が、火球全てを叩き落としてしまう。

 

『な、何ィィ⁉︎ ならば、オルグ殺法! 焦熱……‼︎』

「ワイバーンアロー‼︎」

 

 ゴメズが体制を立て直す前に、ワイバーンアローから放たれた四本の光の矢が、ゴメズの四肢を射抜く。

 

『ガアァ……ッ!!!』

 

 両腕、両脚を射抜かれたゴメズは力が入らずに崩れ落ちる。

 

「今だ‼︎」

 

 完全に隙だらけとなったゴメズに好機を見出したガオゴールドは、一気に畳み掛けた。

 

 

「風雷一矢! テールスティンガー‼︎」

 

 

 ガオワイバーンの左腕のワイバーンアローの翼から光の弦が現れ、ガオナインテールのテールウィップを矢の様に番え、構えた。そして、ゴメズの心臓目掛けて放つ。

 奇しくも其処はかつて、ホーリースパイラルによって一度、深手を負わされていた。

 テールスティンガーは、ゴメズの胸に深々と突き刺さり、ゴメズは大爆発に包まれた。

 

『グオォォッ!!! ま、またしても……‼︎

 し、しかしィ…! 俺様は不死身のヘル・デュークオルグだァァ……必ずや甦り、貴様を地獄に引き摺り込んでやるぜェェ……覚えてろよォォ……‼︎』

 

 呪詛の断末魔と絞り出しながら、ゴメズは爆炎に包まれて消えて行った。

 ガオパラディンは右腕を突き上げ、勝利の雄叫びを上げた。

 

 

 

「やったな、陽‼︎」

 

 ガオパラディンから降り立った陽に、大神と佐熊が近付く。

 

「2人共、無事だったんですね‼︎」

「ガハハハ! あの程度で、くたばる様なワシ等じゃ無いわい‼︎とは言え……今回は、良い所無しじゃな……」

 

 初っ端から、ゴメズに投げ飛ばされ戦線から離脱させられた事に対し、佐熊は自嘲気味に言った。

 

「そんな事はありません‼︎ 二人が居なければ、ゴメズに勝てませんでした‼︎ それに……僕は気付いたんです。貴方達が居てくれるから、戦える! どんな敵が来ても、この三人なら乗り越えられるって事に気付きました‼︎」

 

 急に言い出した言葉に、大神と佐熊は呆気に取られた様にポカンとするが……やがて、佐熊は笑い出す。

 

「ガハハハ‼︎ そうか、そうか‼︎ それは一つ、勉強になったのゥ! なあ、大神‼︎」

「ふ……そうだな……」

 

 大神も釣られて、笑った。陽は先程の一件を思い出し、大神に謝罪した。

 

「大神さん……さっきはごめんなさい……感情的になって……」

「いや……俺も意固地になり過ぎたよ……。それに、お前は俺を、また助けてくれた……それで、お互い様だ」

「大神さん……」

「ガハハハ‼︎ 雨降って地固まる、じゃな!」

 

 そう言いながら、佐熊は二人の肩を強く叩いた。三人は揃って笑い始めた。

 

 

 〜さて……話の腰を折って悪いがの……〜

 

 

 突然、宝珠が光り出し、ガオナインテールの幻影が姿を現した。

 

 〜ガオゴールドよ……お前達の絆……そして人間の心とやらを見せて貰った……。妾の止まっていた時間を、お前達は動かした……。お前の勝ちじゃ……そなた達の戦い……オルグ達から地球を守る戦いに、妾を加勢してやろう……〜

 

「ガオナインテール…ありがとう……‼︎」

 

 〜勘違いするな……別に人間と言う存在を守る為では無いし、人間を認める訳でも無い……そなた達の理想を見届けるだけじゃ……〜

 

 ガオナインテールは、そっぽを向きながら言った。だが、陽は強く頷く。

 

「分かってる……必ず、オルグ達から地球を守り抜いて見せる‼︎ 僕達、三人でね‼︎」

 

 〜フン……精々、頑張ることじゃな……〜

 

 そして、ガオナインテールは姿を消した。陽は宝珠をポケットに戻した。

 

 

 〜ありがとう……ガオナインテール……ありがとう、ガオゴールド……〜

 

 

「?」

 

 何処かで聴いた声に、陽は辺りを見回す。大神は、不思議そうに陽を見た。

 

「どうかしたか、陽?」

「いえ……何でもありません……行こう……‼︎」

 

 そう言いながら、陽の顔は笑顔だった。そして、降り立って来たガオズロックへ進む。

 

 三人が去った後、アマテラスが姿を見せ、飛び立って行くガオズロックを見ながら、優しく微笑んでいた。

 

 

 〜心を閉ざしていたガオナインテールと和解を果たし、新たな仲間と絆を得たガオレンジャー達。

 彼等の戦いは苦しく遠い道のりながらも、必ずや乗り越えて行ける事でしょう……〜




ーオリジナルオルグ
−ゴズ&メズ(二回目)
一度、ガオゴールド達に負けたヘル・デュークオルグの二人組。更なる研磨と、新たに二体が融合して誕生する『混獣王ゴメズ』へ変貌する。

−混獣王ゴメズ
ゴズが右角を、メズが左腕を握り潰す作業を経て融合するオルグ魔人。胸部にメズの顔が浮かび上がり、腕が四本となり二人同時に喋る。

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