帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者 作:竜の蹄
quest SP1 異世界に立つ戦士達
竜……万仏の霊長にして、あらゆる伝説や神話、果ては物語にその名を轟かせている獣である。
中国・日本では龍、西洋ではドラゴン等と呼ばれ姿、形も大きく異なる。一部の神話や聖書では、悪魔の化身や諸悪の権化と脚色される事もあるが、一般的には高い知性と人知を超えた生命力を持つ、とあらゆる生物達の頂点に立つと言われる。
また、中国の黄河を泳ぐ鯉は滝を登り切り龍門に入ると、龍に転じると言う逸話がある。この逸話に準えて、困難を乗り越えて立身出世する事を「登龍門」と呼ばれる等、竜は人間とは切って切れない関係性にあると言って過言では無い。
更に中国では龍にまつわる伝説多く有る。曰く、東西南北の東を守る神は青龍、その神達の頂点に立つのが黄龍、その他にも龍は神格化され万人から崇められているのだ。
そして、地球の生命力の化身であるパワーアニマルも例外では無い。ガオゴールドのパートナー、ガオドラゴンも竜の姿をしている。そして、龍の姿をしたパワーアニマルもまた……。
「テトム……本当にこっちか?」
ある日のガオズロック内にて……突然、テトムの召集を受けたガオレンジャーのメンバーは、ガオズロックに集まった。
テトムが言うに「ガオの泉が、尋常じゃない程に邪気の反応を感じた」との事で、陽達はガオズロックで竜胆市から大きく離れた場所にある森林上空を飛行していた。
祈は「剣道部の下級生の指導がある」と言って朝から出掛けていたが、かえって好都合だ。
だが、探せど探せど怪しい所は見られない。佐熊は、テトムをジロリと睨む。
「テトム……ガセ情報では無かろうな……」
佐熊の疑り深げな視線と発言に対し、テトムは憤慨した。
「ちょっと‼︎ ガオの巫女の予感を疑う気⁉︎」
腐っても、ガオの巫女であるテトム。ガオの泉が溢れ出す程の邪気を感じた、とあらば只事では無い。だからこそ、ガオレンジャー達を総動員にて呼び掛けたのだ。
その自分の直感を疑われたとあれば、テトムは黙って居られない。
「待て待て! 疑う気は無い……しかしのゥ……さっきから、同じ所をグルグル回っとるのに、何も見つからんじゃ無いか……」
「一度、下に降りた方が良いんじゃ無いかな?」
陽も上空から探すより地上から探した方が良いと考え、提案した。しかし、テトムは頑なに拒否した。
「駄目です! 地上に降りたら、何が起こるか分からないの‼︎ ガオの巫女の巫力に任せなさい‼︎」
何時に無く、押して来るテトムに陽は若干、引いた。
「(テトム、馬鹿に気が立ってないですか?)」
「(最近、出番がすこぶる少ないから、ここぞと活躍したいんじゃろうのゥ……)」
「(ただの八つ当たりですか……)」
やや、メタ発言をかます佐熊と至極最もに返す陽。その際、テトムはキッと二人に振り返り……
「何か言った⁉︎」
と、凄い顔で怒った。
『いや……何にも……』
その迫力に気圧された二人は、すごすごと縮こまる。
「喧嘩している場合じゃ無いぞ……」
乱痴気騒ぎを繰り広げる三人を尻目に、大神は嗜める。
「何か近づいて来る……」
一人、気配を張り巡らしていた大神は何かを感じ取った様だ。同時に、こころも反応を示す。
「来るよ……凄く大きな力が……」
こころは、ガオズロックの窓に当たる部分から前方を見据えた。目の前には何処までも青空が広がっているが……。
「‼︎ 本当だ‼︎」
「何じゃ⁉︎ この気は⁉︎」
「な、何なの⁉︎」
今や、陽達も感じ取れる程に凄まじい気配を感じる。だが、邪気のそれと違い禍々しい気配では無い。しかし、言葉には表せない程に強大かつ、異様な気配だ。
「おい、あれを⁉︎」
大神は前方を指す。すると、パックリと割れた雲の隙間から巨大な影が降りて来るのが見えた。
「あれは……龍⁉︎」
陽は、その姿に驚愕する。それは、巨大な深緑の龍だった。
龍が降りて来たのも驚きだが、その体躯も角から尻尾の先までの全長を含めれば、ガオズロックを優に上回る大きさだ。
「ガオドラゴン……じゃ、ないよな……」
陽は自身のパートナーであるパワーアニマル、ガオドラゴンを思い起こす。だが西洋のドラゴンの姿をしたガオドラゴンに反して、こちらは東洋の龍を模した姿だ。
「ま、まさか、パワーアニマルなのか……⁉︎」
「いや……分からんが……あの龍、こっちに向かって来とらんか⁉︎」
佐熊が指をさすと、確かに龍はこちらに向かって迫って来る。テトムは驚いて……。
「大変! ガオズロックを旋回させなきゃ‼︎」
と、龍の経路からガオズロックを離そうとするが、もう遅い。龍は、ガオズロックの眼前まで迫っていた。
「駄目! ぶつかっちゃう‼︎」
テトムは叫んだ。が、そうしている間に龍は、ガオズロックにぶつかった。
『うわあァァァッ!!?』
「きゃあァァァッ!!?」
衝撃が、ガオズロック内に走る。陽達は投げ出されない様に踏ん張るが、揺れは収まる事なく強くなる一方だ。
その際、龍は光に包まれて行く。
そして、光が収まったと同時にガオズロックが浮上していた場所には、影も形も無くなっていた……。
やがて陽は目を覚ます。かなりの衝撃を身体に受けた余波で、節々が痛む。目が慣れて来ると目に入るのは木で出来た柱と藁……田舎に行ったらある風景である。
痛みに耐えながらも、陽はゆっくり上体を起こす。すると胸元から、粗末な布切れがハラリと落ちた。
自分が寝ていた床には、これまた継当てだらけの布団が敷かれていた。誰かが自分を介抱してくれたらしい。
「大神さん? 佐熊さん? テトム? それとも、こころ?」
自分の見知った人物の名を上げるが返事は返ってこない。代わりに、木で出来た戸板がガタガタと鳴り、誰かが入ってきた。
「あ、気が付いたんですね……良かったァ……」
入って来たのは女の子だった。年の頃なら自分の少し下、祈の少し上くらいか……。
だが彼女の着ている服装も実に珍妙だった。薄茶色い和服に似た上着、袴と似ているが少し違うロングスカート状の着物、黒髪を後頭部でお団子状に結っている。前に観た香港映画に出てきそうな出で立ちである。だが、それ以上に気になったのは彼女の左右の側頭部から突き出した二つの物……。
「耳?」
それは紛う事なき動物の耳だ。それも人間のものでは無い。猫の其れに似た耳だ。少女は、キョトンとした顔で耳を揺らす。
「? 耳がどうかしましたか?」
「……それ……まさか、付け耳?」
陽は恐る恐る尋ねて見た。幾ら世界広しと言えど、動物の耳が生えている人間なんて聞いた事がない。
少女は自分の耳を触りながら……
「いえ……これは本物ですけど、何か?」
と、猫耳を生えていて当たり前かの様に振舞う。陽は頭が痛くなって来た。ガオレンジャーとして戦う様になってから、非常識な事態には慣れていた筈だが、これは流石に前例が無い。
「……じゃあ質問を変えるけど……何で動物の耳が生えているの?」
百歩譲って、動物の耳が生えている人間も居るとして話を進める事にした陽。少女はクスリと笑う。
「何でって、貴方にだって……」
そう言いながら、少女は陽の両身辺りの髪を掻き上げてみる。だが、そこにあったのは(陽にとっては、だが)至って普通の耳だけだ。少女は「あれ?」と訝しげに見てきた。
「変わった耳ですね……こんなに小さくて……」
どうやら、彼女にとっては動物の耳が生えているのは至って当たり前らしい。陽の考え方は通用しない事が分かった。
「……もう良いや……それより、此処は何処なんだ? 何で、僕は此処で寝てたんだ?」
考えるだけ無駄だと悟った陽は、別の質問にした。
「は? 此処は
「ろ、瓏国⁉︎」
陽は首を傾げる。瓏国なんて国、聞いた事もない。
「に、日本って国は⁉︎ 東京は⁉︎」
「にっぽん? とうきょう? 何処ですか、そこ?」
今度は少女が、首を傾げた。どうやら彼女は嘘を吐いてる訳でも、ふざけている訳でも無く本当に知らないらしい。
ともすれば……考えられる事は一つだ。自分は、現代の日本とは別の国…更に言えば別の時代にタイムスリップしてしまった事になる。
「あの……本当に大丈夫ですか?」
少女は心配そうに見て来る。側から見れば、陽は意味不明な言動を繰り返す変人以外、何者でも無いだろう。
とは言え……陽が、過去の時代に飛ばされたと仮説が事実であるならば、まずすべき事は情報を集める事だ。
「ご、ごめん……何か錯乱しちゃって……。そう言えば、君は僕の言葉が分かるんだね?」
陽は、ふと気付いた。此処が日本でないとするなら、彼女と陽の会話が成立しているのは何故だろう?
少女は不思議そうに……
「分かりますよ、当たり前じゃ無いですか……。‼︎ もしかして貴方、外国から来た方なんですか⁉︎ そう言われたら服も、喋り方も変わっているし……」
急に興奮した口調となる彼女に、陽は驚く。確かに自分は日本人だから、外国人と言うニュアンスも、あながち間違いでは無い……。
「う、うん……そうなるのかな? あ、自己紹介がまだだったね。僕は、竜崎陽って言うんだ」
「竜崎陽……分かりました。私は
自身の名前を名乗る少女、もとい娘々。やはり中国人の名前が良く似ている事から、自分の居るこの場所は遥か昔の中国である可能性が高い、と知った。
「娘々は……此処で一人で暮らしているの?」
「はい……両親は亡くなりまして……以前は王宮の方で働いていたのですが……今は、此処で細々と暮らしています……」
急に暗い顔になる娘々。陽は、同時に他の仲間達の安否が気に掛かった。
「そう言えば……僕以外に人間は居なかった? 男の人が二人と、女の人が二人なんだけど……」
「いえ……貴方だけですが……」
「そうか……」
陽は天井を仰ぎながら、歯噛みする。大神、佐熊、テトム、こころ……皆、この国に来てるんだろうか? 少なくとも、大神と佐熊なら自分の身くらい自分で守れるが……テトムとこころが心配だ。
ふと、窓から外の景色が見えたが、其処から見えた異様な光景に陽は絶句した。
「あ、あれは⁉︎」
陽は窓まで歩き、外を見る。其処には天まで突き上げんばかりに佇む巨大な樹があった。しかし、樹と呼ぶにはあまりに異質な……四方八方に伸びた枝には葉っぱ一枚、茂っていない。この距離から見て、大きく見えるのだから側で見れば一体、どれ程に巨大なんだろうか?
「あの木ですか? 三年前に突然、生えてきて今は、あんなに大きくなったんです……不気味ですよね? 私も、あの木が怖いんです…」
恐ろしい様子で木を見つめる娘々。言われて見れば見る程、禍々しい雰囲気を醸し出す巨樹である。陽の背中に冷たい汗が流れた。
「どうなっとる?」
街の中を歩く男女の二人組……佐熊とこころである。龍の激突で光に包まれ、気が付けば見慣れない場所に居た。周りには陽も大神もテトムも居ない。だが、こころが歩いて来るのが見えた為、佐熊も安堵する。
こうして、二人で街のある場所を散策して回るが……歩けど歩けど、見た事が無い造りの建築物や衣装を纏った人間ばかり……千年以上を生きてきた佐熊も、首を傾げるしか無い。
「……こころよ……ここは……一体、なんじゃ?」
佐熊は自分の腰までしか背の高さが無い少女に尋ねる。だが、こころは首を横に振った。
「……分からない……でも、何か嫌な気配がする……」
「ほう……お前さんも気づいたか……」
こころは、しきりに警戒する様に見ていた。対する佐熊も、何やら奇妙な気配を肌で感じ、眉を潜めている。
「……なんかこう……街全体から、嫌な気配を感じる……この気配は……邪気じゃ……」
佐熊の発言に、こころも頷く。ソウルバードの化身であるこころは、邪気を敏感に感じとれてしまう。それは、佐熊も然りだ。何より気に掛かったのは……真昼間だと言うのに、街の外には猫の子一匹とて走っていない。
だが、佐熊は気付いた。深く閉ざされた扉……木の格子で隔てられた窓の向こうから、外の様子を見張っている人の気配を……どうやら、彼等は何かを恐れている様子だ。
「このどんよりとのし掛かった様な空気……どうも只事じゃ無いのォ……」
「あれの所為?」
こころは指をさす方角……立派な装飾が施された王宮の様な建物……其れを優に上回る大きさの巨樹がそびえ立って居た。葉っぱも生えておらず、根の部分が地上に露出した様に枝が持ち上がった様は、さながら化け物が両手を上げて襲い掛かって来る様だ。
「何じゃァ……あの樹は……?」
「大地が……植物が……呻き声を上げているみたい……」
こころが風に耳を澄ませていた。彼女はパワーアニマル同様、自然と心を通わせる事が出来るのだ。
と、その時……。
「助けて〜〜‼︎」
絹を裂く様な悲鳴が街中を木霊した。二人は見ると、街角から小さな子供が走って来るのが見えた。その後ろから迫って来るのは……。
「ゲットゲット‼︎ オルゲット‼︎」
何と、最下級のオルグであるオルゲットが金棒を振り回しながら子供を追い回していた。
「ぬゥ……オルグも居るんか……‼︎」
佐熊は、オルゲットの姿に憤る。先程の考察を経て、ここは自分達の住む場所とは大きく異なる事を知ったが、この世界にもオルグは居るらしい……。どうやら、自分達は尽く戦いから離れる事は出来ない様だ、と佐熊は自嘲気味だ。
「……なんて、呑気に言っとる場合じゃ無いのゥ……ガオアクセス‼︎」
佐熊はG−ブレスフォンを起動、ガオグレーへと変身を試みる。だが、不思議な事にガオスーツには何時まで経っても着用されない。佐熊は焦りを見せた。
「ん? ど、どうなっとるんじゃ⁉︎ 変身出来ん⁉︎」
ガオレンジャーに変身出来なければ、オルグと戦う事は出来ない。佐熊は狼狽した。
「く……このまま、戦うしか無いか……‼︎」
幸い、佐熊は基礎戦闘力は高い。まして、相手は最下級のオルゲット。佐熊の腕っ節だけで戦えない事は無い。
意を決して、佐熊はオルゲット達の前に立ち、子供を庇う。
「小僧‼︎ ワシの後ろに退がれ‼︎ コイツらは、ワシが引き受けた‼︎」
「え……⁉︎ おじさん、誰?」
突然、現れた佐熊に驚く子供。見た目は十にも満たさぬ少年の様だが、佐熊は少年の頭を凝視した。
「い、犬の耳⁉︎」
少年の頭の髪の隙間から覗くそれは、犬の耳だ。しかも、ピョコピョコと動く様子から察するに、紛い物では無いらしい。人間に犬耳が生えていると言う奇天烈な有り様だ。
「おじさん、前! 前‼︎」
少年が叫ぶ。佐熊は振り返ると、自身の眼前に金棒を振り下ろすオルゲットが居た。
ゴキッ…と、鈍い音が響く。オルゲットの金棒が佐熊の頭に直撃したのだ。
「お、おじさ…ん…‼︎」
少年はガタガタと震えながら呟く。何処の誰かは知らないが、自分を身を挺して守ってくれた。その人が……。
「た、たわけが……ワシは、おじさんじゃ無いわい……お兄さんと呼べ……」
佐熊は金棒の下でニタリと笑いながら、オルゲットの腕を掴み強引に金棒を退かせた。
「げ、ゲットォ⁉︎」
金棒には佐熊の血がベッタリとこびり付き、直撃で裂けた頭部から鮮血が顔を伝わって、大地にポタリと落ちる。
「……ふん……こんなもん、屁でも無いわい……‼︎」
そう言って佐熊は、オルゲットを腕を掴んだまま持ち上げ投げ飛ばした。もう片方のオルゲットは突然の事に対応出来ず後ずさるが、佐熊は態勢を変えて、オルゲットの顔面に拳を叩き付けた。
吹き飛ばされたオルゲットは石垣に頭から突っ込み、そのまま泡となって消えた。
「ガッハハハ‼︎ どんなモンじゃ‼︎」
胸を張って笑い飛ばす佐熊だが、頭からは相変わらず血が噴き出たままだ。
「……佐熊、血が出てる」
こころは少年を庇いながら、佐熊に言った。だが、佐熊は
「平気じゃ、こんな傷。舐めてりゃ治るわい」
と、笑いながら言った。しかし、血は冗談では効かない量まで出て来た為、少年は……。
「あ、あの…‼︎ 僕の家に来て下さい‼︎ 傷の手当てをしたいんで……」
「じゃが……ワシ等が押し掛けたら、お前さんの家族に迷惑を……」
「お願いします‼︎ 助けて頂いた、せめてもの御礼がしたいんです‼︎」
余りに少年が、グイグイと食い下がるものだから、とうとう佐熊も根負けした。
「分かった分かった……其処まで言うなら、御言葉に甘えようかのゥ……こころはどうじゃ?」
「……私は構わないよ」
こころも了承したらしく、少年はニッコリ笑った。
「ありがとうございます‼︎ 僕、
万狗と名乗った少年に手を引かれるまま、佐熊とこころは付いて行った。
一方、町から少し離れた場所では……。
「……フンッ‼︎」
「オルゲットォォッ!!?」
別に現れていたオルゲット達が全員、倒されていた。其処にいたのは大神とテトムだ。
「まさか、オルゲット達が現れるとはな……テトム、ガオズロックはどうだ?」
襲い掛かってきたオルゲット達を蹴散らしながら、大神は尋ねる。ガオズロックから出て来たテトムは悲しげに首を振る。
「駄目だわ。さっきの衝撃で暫く、飛べそうにない……」
「そうか……気が付けば見慣れない場所に居て、陽や力丸は行方不明……極め付けには……あれだ」
大神は眼前に映る不気味な巨樹を睨む。その不気味な外見は勿論、何やら辺り全体に漂う邪気に対して、これは只ならない事態だと確信を持たざるを得ない。
「ここは……竜胆市じゃ無いのか?」
「恐らく……だって、パワーアニマル達の声がしないもの……」
「俺も、ガオシルバーに変身出来なかった……ひょっとしたら、陽達も同じ事態に陥っているかも知れない……」
大神は先程の戦いで、ガオシルバーに変身しようとしたが、G−ブレスフォンが反応しない事に気付いた。そればかりか、姿を見せない二人に対して連絡も取れない。
「もしかして……此処は異世界かも知れないわ……。シロガネ、覚えてる? 前の戦いでも私達、異世界に飛ばされた事があったでしょう?」
「ああ……あの時は、テトムはベロベロに酔っ払って大変だったのを覚えてるよ……」
先の戦い、大神やテトムは他のガオレンジャーと共にオルグの支配する異世界に飛ばされて、オルグ達と戦った事がある。その際、テトムは自分を連れ去った敵のオルグの飲み比べをしたのだ。あの時、テトムは終始、酔っ払っていて、帰った後は暫く二日酔いで使い物にならなかった。
「もう‼︎ そう言う事は忘れて‼︎ 大体、私がお酒に強いのはおばあちゃん譲りですからね‼︎」
「……ムラサキは、あんなヘベレケになるまで飲まなかった」
「また、おばあちゃんを引き合いに出す……もう良いです‼︎」
すっかり、ヘソを曲げたテトムは拗ねてしまう。大神は、溜息を吐きながら、テトムを見た。
「冗談だ……それより、陽達の居場所をガオの泉で割り出せないか?」
「……それも無理ね……ガオズロックが衝撃を受けて動けないと、ガオの泉も力を発揮しないから……」
「……地道に探すしか無いか……」
ガオの泉も使えない、ガオズロックも飛べない……と、なれば後は、地上を歩いて探す他、方法が無い。
とは言え……何処の土地か皆目、検討の付かない土地を歩き回るのは、はっきり言って無謀だ。しかも、ガオレンジャーに変身出来ず、オルゲット達が跋扈する様な土地だ。
大神は、ガオレンジャーとしての戦いとは別に実戦、主に徒手空拳の戦いには慣れている。テトムも、女性では有るがオルゲット程度なら返り討ちに出来る。
しかし、地理が分からない以上はどっちへ行けば良いのかさえ分からない。
「ひとまず……あの不気味な巨樹の下に広がる街へ出てみよう。話はそれからだ……」
「……そうね。ガオズロックは、此処に置いておけば岩に擬態出来るし……」
そう話を纏め、大神達は歩き出そうとした。その時……。
「近づかないで……‼︎」
急に凛とした声が聞こえて来た。大神とテトムは声の方へ行き、木陰から様子を伺う。
「ホッホッ……貴方様も話の分からない方ですな……」
気の向こうでは、厭らしい目をした小太りの文官が、美しい容姿の女性に迫っていた。だが、大神はその女性のある部分に目をやる……。
「兎の耳…⁉︎」
女性の頭部から兎の耳に似た長い耳が揺れていた。しかも、紛い物では無く本物らしい。
「今更、貴方が何をしても無駄ですよ。かのオルグドラシルは今や、この国にしっかりと根を張り、隣国からの侵攻を妨げてくれているのですから……。今や、わが瓏国はオルグドラシルの恩恵無くしては生きられないのです……」
文官の口から、オルグと言う言葉が出て来た。だが、オルグドラシルとは……?
「さァ、何時迄も片意地を張らずに王宮にお戻り下さい。陛下も、心配して居ります……」
「いいえ‼︎ 私は戻りません‼︎ あの忌まわしい樹の為、街には異形の者達が歩き回り、若い娘を王宮に召し取られ城下の者達は苦しい生活を強いられている……この国の公主として、これ以上、民草が苦しむ顔を見ていられますか⁉︎」
「やれやれ……困った方だ……とにかく‼︎ 陛下の厳命です‼︎ こうなったら多少の手段は問いませぬ……姫様には、どうあっても王宮に帰って来て頂きます‼︎ お覚悟を‼︎」
そう言って、文官が指を弾くとオルゲットが二匹、姿を現した。
「さァ、姫様をお連れしろ‼︎ だが、間違っても殺すなよ? 生きて王宮に帰還して頂くのだ‼︎」
何やら穏やかでは無い様子だ。この国の揉め事であるなら、非介入するべきだと考えた大神だが、オルグが関わっているなら話は別だ。
「止めろ‼︎」
大神は、兎耳の女性を庇う様に前に立つ。彼の姿に、文官は慄いた。
「な、何だ、貴様は⁉︎ 」
「誰でも良い……彼女に手を出させんし、そのオルグドラシルとやらについて、洗いざらい吐いて貰おうか?」
大神の殺気の篭った視線に、文官は思わず後ずさる。しかし、彼が丸腰である事を知ると下卑た笑みを浮かべた。
「…ふ、ふん‼︎ そうだ、その通りだ‼︎ これから死ぬ貴様の名など、どうでも良いな‼︎ お前達、先ずはこいつから始末してしまえ‼︎」
文官が命じると、オルゲット達が一斉に襲い掛かって来た。だが、幾多と死戦を超えて来た大神からすれば、オルゲット等、恐るるに足らない存在だ。蹴りで、オルゲットの一体を吹き飛ばし、もう片方のオルゲットも、奪い取った金棒で叩き伏せてしまう。
「な、な、な……‼︎」
その強さに驚愕した文官は震え上がってしまう。しかし、オルゲット達も簡単には倒されず、起き上がって来るが……。
「オウキュウニ、モドレ‼︎ オウキュウニ、モドレ‼︎」
一羽の
「えぇい‼︎ 今日は、この辺にして置いてやる‼︎ 姫様、必ずや貴方様を連れ戻させて頂きますからな‼︎」
そう捨て台詞を残して、文官は逃げる様に去って行った。
「もう大丈夫だ。怪我は無いか?」
大神は振り返り、兎耳の女性に声を掛けた。彼女は大神を見るなり、頬を染めた。
「あ、危ない所を、ありがとうございました……あ、貴方様は……?」
「俺は大神月麿。貴方の名は……?」
その言葉に、兎耳の女性は益々、赤くなり耳をピンと立てた。
「わ、私は
「オホン‼︎」
二人で話を進める中、仁王立ちで睨むテトムが咳払いした。
「私の事を忘れてない⁉︎」
「? 何を怒ってる?」
「別に‼︎」
そっぽを向いて怒るテトムを不思議そうに首を傾げる大神。兎月は、テトムを見て笑い掛けた。
「あ、お連れの方ですね‼︎ この度は本当にありがとうございます‼︎ 付きましては、ささやかですけど御礼をさせて下さい‼︎」
「え、でも……」
「ご安心下さい‼︎ この先の家で妹と二人暮らししている為、どうか気兼ねなく……」
テトムは困った様な顔となるが、大神は小声で言った。
「…さっき、オルグに付いてを何か知っている風だった……彼女に付いていけば、何か分かるかも知れない…」
「…そうね…」
取り敢えず納得した二人は、兎月に付いて行く事にした。この世界についてを知る為にも……。
しかし遠方より、その様子を見つめている男が居た。緑色の文官の服を着て青白い肌色、だが容姿は、この世の者とは思えない程の妖しい蠱惑さを持つ妖艶な男だ。
「クク……まさか、こんな所で会うとはな……ガオシルバー、いや、シロガネ……」
ガオレンジャーの仲間内でしか知らぬ筈のガオシルバーの本名を呟き、男はニタリと笑う。
「……どうやら、“宴”の用意をして待っていなければ成らないでおじゃるなァ……」
と、意味深な言葉と奇妙な語尾を残し、男は鬼門の中へと消えて行った……。
〜謎の龍に導かれるまま、異世界『瓏国』へとやって来たガオレンジャー達。しかし、其処はオルグ達の跋扈する世界だった‼︎ そして、ガオシルバーの正体を知る男の目的は何なのでしょうか⁉︎〜