帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者 作:竜の蹄
その頃、町の方でも騒ぎが起きていた。
若い男達が人目を気にしながら、町の外へ走って行くのだ。その様子を窓から伺っていた佐熊は……。
「何だか慌しいのォ……」
「何かあったのかな……」
佐熊の横から、こころも口を挟む。
「きっと、町の若い者達が反乱を起こす企てをしに行ったのさ……馬鹿な子達だよ……暴力で解決したって無駄なのに……」
万狗の母親が嘆く。詳しく聞いて見たら、あの巨樹の為に被害を被っている若者達も我慢がピークに迎え、王宮に対し反乱を起こそうと、兼ねてより計画していたらしい。
「……それにしても、万狗は遅いのォ……また、オルゲットに追い回されて無きゃ良いがな……」
そう言いながら、佐熊はつい先程に向かいの家から野菜を借りに行く、と出て行った万狗の事が気になった。
幾ら、オルゲット達に見つからない様に隠れて行くと言っても遅すぎる。
「まさか……あの子、早まった事してなきゃ良いんだけど……」
「早まった事?」
母親の言葉に佐熊は訝しげに尋ねた。
「あの子はね……父親の死も妹の病気も全部、皇帝のせいだって考えていてね……特に、あの化け物達には、友達も殺されてるんだよ……。だから……その怒りが間違った方に向きゃしないかって、心配なんだよ……」
母親の不安そうにする態度に佐熊は考える……。確かに、さっきの万狗の顔つきは、かなり思い詰めた様子だった。
父親と友人を殺され、妹は重篤の身、自分達は劣悪な環境の中に生かされている……確かに不満を抱えるな、と言う方が無理な話である。
かつて自分もそうだったから、佐熊には彼の考えも苦しみも良く分かる……。貧しい家に生まれ育ち父親は生来、飲んだくれて働こうともしない……母親は、そんな父親に愛想を尽かして出て行った……。よく佐熊は貴族達が、煌びやかな服を着て美味い飯を食って、牛車に乗っている姿を見て思った。
〜真面目に生きても報われない世界で、真っ当に生きても馬鹿を見るだけだ…と〜
こうして、佐熊は飲んだくれの父親を捨てて何時しか、盗賊に身を堕とした。
盗賊となってからは金や食料を奪う事はしたが、自分より弱い人間を殺す事はしなかった。
別に死を恐れていた訳でも、善人を気取りたかった訳でも無い。ただ……殺せば、都で暮らす“彼等”と同じ生きたまま腐った匂いを放つ人間になってしまう気がしたから……殺す事が出来なかった……。
ふと思い出してみる。あの少年の目……どこと無く、危うさを孕んでいた気がする……放って置いたら後々、目覚めの悪い結果となりそうだ……。
「やれやれ……」
佐熊は立ち上がり、家を出ようとする。
「……あんた、何処に?」
「……なァに、ちょっと夕涼みにのォ……」
そう言い残し、佐熊は外に出る。こころも後に続いた。
「いよいよ決行の刻だ‼︎」
町から離れた広場にて、複数人の若者達が集結し話し合っていた。その中には万狗も混ざっている。
「俺達は、ずっと耐えて来た‼︎ 化け物による被害も、あの巨樹から垂れ流される死の粉も、俺達は何時の日か解放される日は来ると耐えて耐えて、耐え続けて来た‼︎
だが‼︎ そんな俺達に対し、国は何もしてくれない‼︎」
演説をする狼の耳を生やした青年が捲し立てた。
「奴等が何もしてくれず、あの巨樹を放置し続けると言うなら、これからも奴等が我々を助けてくれる希みは無い‼︎ ならば‼︎ 運命は、俺達の手で切り開くしかのみだ‼︎
今宵、俺達は瓏国の歴史に終止符を打つ‼︎ 異存は⁉︎」
「無い‼︎」
「あの巨樹には、ウンザリしてんだ‼︎」
「どの道、このままじゃ生き地獄だ‼︎」
男達は殺気立った様子で、どよめく。
「よし‼︎ やるぞォォ‼︎」
周りに合わせ、万狗も叫ぶ。だが、リーダー格の青年は見咎める。
「万狗……‼︎ お前は来るなって言っただろう……」
「
大人達に負けず劣らずの殺気を醸しながら、万狗は叫ぶ。
狼尾と呼ばれた青年は厳しい目を向けた。
「分からないのか⁉︎ この反乱が成功するなり、失敗するなり俺達には明るい未来は約束されないんだぞ⁉︎
ましてや、お前には母親と妹が居る‼︎ 二人を残す事になっても良いのか⁉︎」
「うッ……」
万狗はたじろぐ。まだ幼く母親と妹が待っている彼に、国を潰したと言う汚名を負わせたくは無い。
不満ある国に反乱を、と言えば聞こえは良いが、実際にやっている事は国を荒らす好意であり万が一にしくじれば、戦犯として裁かれかねない。
ましてや、今回の反乱に参戦したのは、血気盛んな若者だけであり、国民全員の意思では無い。多くの国民は、オルグの存在を恐れて、泣き寝入りを決め込んでいる始末。戦況は9/1で、こちらが不利なのだ。
「……でも……‼︎ 狼尾達だって死んじゃうかも知れないじゃ無いか‼︎」
「俺は、もう家族は居ない天涯孤独の身だ……死んだって悔いはないさ……ならば、自分の命を燃やして、国を救いたいってもんだ……。此処に居る全員、同じだ」
狼尾は己を皮肉る様に笑う。狼尾を始め、此処に集結した若者達は孤児が大半だ。最初から失う物など無い彼等には、死など恐れにはならない。
「死んだって悔いはない……じゃと? 気高い精神じゃのォ……」
急に聞こえた声に、若者達は振り返ると、佐熊が歩いて来るのが見えた。
「お…おじさん⁉︎」
「お兄さんじゃ……全く、黙って聞いとれば、揃いも揃って馬鹿ばっかりじゃのゥ……」
嘲りに満ちた様子で、佐熊は言い放つ。狼尾は、鋭い目付きで佐熊を睨む。
「……何処の誰だか知らないが、俺達の信念に水を刺す気なら許さないぞ‼︎」
「信念? 笑わせるな、若造が。お前等のやろうとしている事なぞ死にたがりの言い訳に過ぎん。生きているのが辛いから、死んで楽になろう……大方、そんな所じゃろう?」
「何だと⁉︎」
佐熊の無遠慮な発言に対し、彼の胸倉を狼尾は掴み掛かった。
「……違う‼︎ 断じて違うぞ‼︎ 俺達は、この国で生まれた‼︎ 辛い事の方が多いが、それでも、この瓏国で生まれ育ったと言う自負はある‼︎ 我々の同族が、悲鳴を上げているのを黙って見ていろ、とでも言うのか⁉︎」
「いい加減にせいィッ!!!」
激しく詰め寄る狼尾に向かい、佐熊は怒鳴り付けた。その勢いたるや凄まじく、思わず狼尾は後退した。
「同族の悲鳴を聞いてられない? 本当に、そう思うなら……命を粗末にするな‼︎」
「⁉︎」
「仮に、お前達が命を捨てて戦ったとしても、誰も感謝はせん‼︎ 自分達に関係の無い人間達が死んだ程度で言われ三度、日が昇って鎮めば忘れられる……その程度じゃ、お前達なぞ‼︎」
今度は反対に、佐熊が狼尾の胸倉を掴み持ち上げた。さっき迄、熱気を滾らせていた若者達は慄き始める。
「良いか! 死んで花実が咲く訳じゃ無し……死んだら、それで仕舞いじゃァ‼︎ 本当に国を思うなら、どんなに不格好だろうが無様だろうが、泥水啜ってでも生き抜くぐらいの気概を見せィ‼︎ 人生の半分も生きとらん若造が命を惜しまず、なんて知った風な口を叩くなァ‼︎」
狼尾を怒鳴り付ける佐熊。彼は、ガオレンジャーとして生きる数年前、その後の現代までの千年間、凡そ平穏とは呼び難い人生を送ってきた。
若い頃は盗賊として生き、ガオレンジャーになった後は自らを人身御供として千年以上も我が身を封じ込まれて来た。
だからこそ、命を軽んじる行為を犯す者を許せないのだ。
「じゃあ……どうしたら良いんだよォ⁉︎」
佐熊と狼尾との剣幕を裂く様に、万狗が叫んだ。
「生きていたって辛いだけ……死ぬ事すら出来ない……それじゃ、僕達はどうしたら良いんだよ⁉︎」
涙を流しながら、万狗は膝をつく。その際、こころが万狗に近付く。
「……妹との穏やかな生活を送るより、妹を守る為に戦いに身を投じる事しか選択肢の無かった人だって居るんだよ……。貴方は、戦いを選んじゃ行けない……お母さんや妹を護りたいなら、剣を持つ以外の戦い方もある……」
こころの淡々とした言葉に、万狗は無言のまま泣き続けた。
自分だって死にたくは無い。だからと言って、このまま苦痛の中に身を置いても地獄には変わらない。佐熊は、何かに気付いた様な顔で、狼尾の胸倉から手を離す。
「……後は、ワシ等に任せィ。お前等は早まった真似をするな……」
「任せろって……あんた等、一体……」
佐熊は、彼等に背を向けて歩き去って行く。狼尾は自分達と関係無いにも関わらず、命を散らそうとした自分達を叱責、引き留めた佐熊に尋ねた。佐熊は背を向けながら、ニヤリと笑う。
「正義の味方じゃ」
と、一言だけ呟いた。万狗は、そんな彼の後ろ姿を涙でぼやけた目で見続けていた……。
「ホホホ……漸く捕まえたか……」
王宮では、緑鬼がほくそ笑んで居た。目の前には、オルゲットに拘束された兎月が、鋭い目で睨んでいる。
「散々、手間取らせてくれたが……だが、これで終わりよ……さァ、宝珠を渡して貰おうか?」
「………」
兎月は死人の様に青白い肌をした緑鬼に覗き込まれたが、プイッと顔を逸らす。
「やれやれ……強情な公主様だ……渡す物を渡したなら、良い扱いをさせてやるものを……」
「皇族を見縊らないで……。脅しには屈しないわ….…お父様に会わせなさい‼︎」
強い口調で、兎月は言った。だが、緑鬼はフンと鼻で笑う。
「皇族を……だと? 替え玉の分際で、図に乗るで無いわ」
「えッ⁉︎」
その言葉に兎月は耳を疑う。緑鬼は、ニィィッと口を口角まで吊り上げた。
「麿の目が節穴とでも思うてか? その方達の小賢しい企みなぞ、最初からお見通しでおじゃるよ」
そう言い放つと、緑鬼の顔はボコボコと歪んでいく。やがて衣服は弾け飛び、緑色の体色をした異形の姿が露わとなる。
上半身は首と胴体が繋がり、形は丸みを帯びている。
正面には二つの目が見えるが、その眉を含めた部位は人間の鼻に見える。頭から長い一本の角が伸び、右手には扇子を持つ等、優雅な佇まいだ。
「な……化け物⁉︎ なんて、悍しいの…‼︎」
「悍しい、とは御挨拶で、おじゃる……。この美しさを理解出来んとは、所詮は人間でおじゃるな……」
ウラは扇子を仰ぎながら笑う。兎月の顔を掴み、持ち上げた。
「麿には最初から、その方達の企みを虎牙より筒抜けにあったでおじゃる。しかし、敢えて泳がせる事にしたのよ……何故だか、分かるか?」
「……‼︎」
「正解は……皇族しか知り得ない神龍が眠るとされる龍陵洞の場所を探り当てる為におじゃる……。神龍が実際に蘇り、あそこまで育ったオルグドラシルが駄目になっては、不愉快におじゃるからなァ……」
ウラは、神龍を復活させない為に、娘々達を何時でも捕まえられる状況にいながら、手出しをしなかった。
彼女達を泳がせておけば、必ず神龍に行き着く筈……それまで、彼女達の素性に気付かない振りをしていたのだ。
その際、ウラは彼女の胸元で輝いていた宝珠を力任せに奪い取り、掌の上で転がした。
「よく出来た紛い物におじゃるなァ……硝子で作った紛い物にしては上出来でおじゃる」
嘲りながら、ウラは掌を握り締めた。次に開いた時は、彼の掌中では粉塵となった硝子があった。
「……しかし……もう無意味におじゃる。本物の宝珠は娘々が持っているのは明白……それを麿が手に入れて龍陵洞を潰してしまえば、神龍は復活する事はない……娘々は反逆者として処刑する迄よ。国を捨てて国外に逃げようとした、と言う口実でな……」
「そんな事、させるものですか‼︎」
ウラに臆する事なく、兎月は凄む。だが、ウラは彼女の右頬を張り飛ばした。腕を縛られていた兎月は、バランスを崩して倒れてしまった。
「ホホホ……往生際の悪いでおじゃる……無駄よ、既にハンニャ達を尾行させてある……恨みぞ深き、ガオレンジャー共々、葬り去ってくれよう……」
「が…ガオレンジャー……?」
邪悪な笑みを浮かべるウラを尻目、に兎月は呟くが突然、ウラの伸ばした右掌が眼前に迫る。
「そちには、まだ役立って貰うでおじゃるよ。それ迄は、眠っているでおじゃる」
それだけ言い残すと、ウラの手から滲み出る邪気が兎月の意識は消し去られてしまった。気を失った兎月を見届けると、ウラは窓から映し出される巨樹を見た。
「ホホホ……この樹は、麿がオルグの頂点に君臨する為の布石におじゃる……まっこと、美しい樹よ……ホホホホ……‼︎」
巨樹を見上げながら、ウラは高らかに笑い続けた。
「こっちです……」
娘々に案内されながら、陽と大神は歩いていた。テトムは怪我を負った虎牙を看病する為に、残る事にした。
彼女に付いて歩く場所は城下より離れた荒れ果てた廃屋の立ち並ぶ場所……。
「凄い荒れた場所だね……」
「はい……此処は貧民街……城下に住む事も出来ない者達が身を寄せ合って暮らしています……。
最低限の配給はあったのですが、あの巨樹の影響で、それも滞る様になり、今は病と飢餓の温床と化しているんです……」
「成る程……酷い暮らしだ……」
民主主義が資本である現代の暮らしを知る陽からすれば、こんな底辺の暮らしを強いられる人間の居る事は納得が行かない……。
少なくとも、陽が歴史の授業で習った海外のスラム街の方が、まだ幾分かマシであると言わざるを得ない酷さだった。
「大神さんは……何とも無いの?」
「……俺の生まれた平安時代も、華やかな都から少し奥に入った場所や辺境な山里は、こんな暮らしだったよ……。
寧ろ、それが当たり前だった……」
重苦しい空気が支配する。娘々は顔を曇らせた。
「……私も城から外に出て、この眼で見るまでは信じられませんでした……。こんな劣悪な環境下で生きている人達が居る事を……」
「……そうだろうな……。貴族や皇族等は屋敷の外壁で守られている場所を、自分達の世界全てと信じていた……。
実際、外に出た所、そう言った部分を見て見ぬ振りをする……」
「大神さん…‼︎ そんな言い方…‼︎」
やや辛辣な物言いをする大神を、陽は嗜める。だが、娘々は力無く頷く。
「……不本意ではあるのです……。父とて万能では有りませんし、手の届かない場所もあります……。国を治める事は容易では……」
「……済まない、責めるつもりじゃ無かったんだ……」
娘々の辛そうに話す態度に、大神は謝る。彼女も、この事態を目の当たりにして良心の呵責に苛まれているのだ。
それに、今の彼女には彼等を救う手立ては無い。とは言え……陽は貧民街の隅々まで見た。街の一角には何やら、積み上げられた物がある。
「‼︎」
「……見ない方が良い……」
大神は陽に促す。其れは骸だった。病死、餓死、衰弱死した者達を掘り上げた穴に詰め、まとめて荼毘に付すつもりだろうが、この様子では焼いてくれる人間も居ない為、街全体から腐臭が漂う一因となっているのだ。
「……娘々、本当にこんな所に…?」
「ええ…‼︎ こんな所だからこそ、あるんです。龍陵洞は王宮の建つ場所の地底深くにあり、その入り口のある場所に建ったのが貧民街なんです……」
陽は理解した。確かに流石のオルグ達も、貧民街の中にあるとは夢にも思うまい。
どれくらいか歩くと、崩れ掛けた石造りの小屋の前に着いた。娘々が中に入った後、陽と大神も続く。
小屋の中は殺風景で、何も無い空間だった。
「……何も無い様だが?」
大神が尋ねると、娘々はボロボロの紙切れを取り出し、その内容をブツブツと呟き始める。すると足元から小さな台座が迫り上がってきた。
驚く二人を尻目に、娘々は台座の引き出しから丸石を七つ、取り出した。台座の上には一四個、穴が空いている。
迷う事なく、娘々は古文書に従い、左下の穴に石を入れ、其処から上と隣の穴に二つ、そのまま下の穴に一つ、そのまま右の穴に少しずつ上げて行く様に石を入れていった。
すると丸石は発光し、眼前に浮かび上がる。其れは北斗七星を模している。娘々は、宝珠を使って光を反射させると、何も無かった場所の壁が降下して、入り口となった。
「凄い仕掛けだ……」
「….この情報を偶然、知る事が出来たから私達は王宮から出たんです。さァ…行きましょう…」
娘々は二人を促す。入り口の向こうは階段となっていたが、薄暗く足元も悪い。すると娘々が手を翳すと、彼女の手は光り輝いた。
「な、何⁉︎ その力……⁉︎」
急に娘々がやってのけた力に陽は目を疑った。
「“気力”と呼ばれる力です。自身の中にある気を利用し、火を起こしたり水を操ったり出来ます」
「それ、この国の人間、全員が⁉︎」
陽は未知の力、気力に驚いた。こんな力が使えるなら、オルグ達とも渡り合えるのでは無いか?
だが、娘々は力無く首を横に振る。
「もう出来ません……昔は皆、気力を使って国を発展させたらしいですが……国が大きくなってからは少しずつ廃れてしまって……今では、気力の存在が過去の物となりつつあります……」
そう言って、娘々は地下へと歩み始める。陽と大神も続くが、壁を突き抜けて伸びる木の根を見た。
「……この木の根は……」
「やはり、此処まで侵食してきてますね……。あの巨樹の根は既に瓏国全体に張り巡らされています。根が地脈より大地を枯れさせ、巨樹から垂れ流される邪悪な気が、人々を脅かしているのです…‼︎」
「……もしかして……‼︎ 僕達が、ガオレンジャーに変身出来ないのも……‼︎」
「ああ……恐らく、あの巨樹から放たれる邪気の影響だろうな……」
つまり、あの巨樹を何とかしない限りは、ガオレンジャーに変身する事も出来ない……事の顛末に、陽は頷く。
「そして……あの巨樹を破壊するには……伝説の神龍様を蘇らせる必要があります……お父様より、この宝珠を授かったのは、その為……」
娘々は強い顔と口調で言った。彼女には、この国の公主としての信念があるのだろう……。ならば、それが上手く行き、ガオレンジャーに変身出来た暁には、自分達も戦わなければ……。と、考えていた際、階段は終わり広い部屋へと出た。
「此処が龍陵洞……」
陽は広間全体を見渡す。先程までの、仄暗く濁った空気とは違い、此処は澄んでいる様だ。巨樹の根も、此処には張り巡らされていない。
「……私も中に入るのは初めてですが、どうやら巨樹の根は、まだ侵食していない様ですね……」
「……恐らく、神龍の力が働いている様だ……」
大神が推測した。神龍と言う存在が何者かは分からないが、少なくとも超常的な何かである事は間違いない。
すると、自分達の目の前に朽ち果てた龍の彫像があるのを見つけた。
「古き言い伝えによれば……『石で作りし、龍の口内に宝珠を納めよ。さすれば、悠久の眠りより神龍は目覚めん』とあります……」
そう言いながら、娘々は龍の彫像の口に宝珠を嵌め込んだ。
しかし……何も起こらなかった。
「……何も起こらないね……」
「……その様ですね……」
「いや、案内人の君がアッサリされてたら困るんだけど……」
「私はただ……古文書に従って来ただけですし……」
完全に行き詰まったと思った際、龍の彫像の台座が少し迫り上がって来た。すると台座から、木で出来た取手が左右から飛び出して来た。
「……これは一体?」
娘々にも分からない様子だ。すると大神は娘々の持つ古文書を見ながら……
「その古文書を貸してくれないか?」
と、言った。娘々は古文書を大神に渡す。
「さっき見せた気力の光を古文書に当ててくれ」
娘々は訝しながらも、気力の光を古文書に照らした。すると古文書の表面の字が消えて、龍の彫像の絵に変わった。
「……成る程……古文書は二重構造になっていたんだ。恐らく気力の光に反応して、絵が浮かび上がる仕組みなんだと思う……」
「全然、気付かなかった……。大神さん、何故、分かったんですか?」
「さっき、君が古文書を見ながら階段を降りていた時、気力の光を出しただろう? その際、古文書の表面に龍の絵がチラチラと浮かび上がるのを見たんだ……」
流石、歴戦の戦士である大神である。僅かな違和感から、古文書に隠された秘密を暴き出したのだ。
陽は古文書の絵を見てみると……。
「絵の下の方に小さく『龍と玄武を向き合わせよ』とあります……」
「龍と玄武……? どう言う意味だ?」
「恐らく玄武とは方角の事だと思います。そして、玄武を示す方角は、北……」
娘々の推理は当たっていた。陽は広間全体を見渡すと四方の壁には、崩れ掛けては居るが緑色の龍、赤い鳥、白い虎、黒い亀の絵が彫られている。
「……そうか‼︎ 四神だ‼︎ 青龍は東、朱雀は南、白虎は西、玄武は北を守護していると言う伝説が、僕達の世界にもある…‼︎ この瓏国にもあったんだ‼︎」
「いや……恐らく、こっちが本家だろう……俺達が地球から、この国に流れ着いた様に、瓏国の情報が何らかの形で地球に漏れて、東西南北を守護する神獣として語り継がれたのかもな……」
「成る程のゥ……よく出来たもんじゃな……」
と、その時、広間に野太い声がした。すると、佐熊とこころが入って来るのが見えた。
「佐熊さん! こころ! 無事だったんだね‼︎」
「おう‼︎ この通り、ピンピンしとるぞ‼︎」
そう言って、佐熊は豪快に笑う。
「力丸……その頭の包帯は?」
「ん…ちょっと、オルゲットに不覚をとっての……だが、心配は要らん! かすり傷じゃ‼︎」
大神は心配そうに言ったが、佐熊の態度を見るに重篤な怪我では無さそうだ。と、その際、娘々に気が付く。
「その娘さんは?」
「彼女は娘々。この瓏国の公主様なんだ」
「初めまして……。貴方のお仲間には助けて頂きました……」
「うん? ああ、気にするな‼︎ それにしても、ガオレンジャーに変身出来ず、よく此処まで来れたのォ!」
佐熊は辺りを見ながら言った。同時に大神は、どうして佐熊が此処に居るのかと感じた。
「お前こそ……何故、此処に?」
「何故って……お前達が、ゾロゾロと歩いて行くのが遠目に見えたから、後はこころに気配を辿って貰って付いて来たんじゃ!」
「そうだったんですか……」
「それより、その龍の彫像は何じゃ?」
階段を降りていけば、巨大な広間の中にある龍の彫像……其処に陽達が居た事に、佐熊は尋ねた。
「これに神龍を復活させる秘密があるらしいんだ……」
「神龍じゃと? それは実在しとるんか?」
「? 知っているのか?」
「ワシが助けた子供の親から聞いた……この国の人間は神龍から生まれたとな……」
それで……と、陽達は納得する。その際、娘々は古文書を読み返していた。
「古文書によると……この彫像は『朝日が昇って落ち、月が昇って落ちる方角に動く』とあります……」
「何じゃい…まるで謎掛けじゃなァ…」
複雑な仕掛け内容に佐熊は呻く。だが、こころはピンと来た様だ。
「……朝日が昇り、月が昇る……つまり、時計回りに動かせって言う意味じゃない?」
その言葉に一同は理解した。この彫像を時計回りに動かして、玄武の絵のある壁に向ければ、何かが起こる、と言う事だ。
「う〜〜む……要するに、この彫像をあの亀の絵に向けりゃ良いんじゃな……。よっしゃ、ワシに任せい‼︎」
そう言いながら、佐熊は取手を握り台座を動かす。だが、力自慢の彼が押しても台座は、ほんの僅かしか動かない。
「ぬぐぐぐぐ……予想より頑丈じゃ…‼︎ どれ、もう少し力を入れて……!」
「其処までだ‼︎」
突如、鋭い声が響音した。すると広間の入り口を塞ぐ様に、ハンニャとオルゲット達が立っていた。
「オルグ達‼︎」
「ハハハハ‼︎ 緑鬼様の仰せの通りだ‼︎ お前達を見張っていれば、龍陵洞に必ず向かう‼︎ 」
「クソッ‼︎ つけられていたのか‼︎」
陽は、オルグ達の方が一枚、上手だったと悔しがる。更に追い討ちを掛ける様に、ハンニャは言った。
「フン…娘々公主! 態々、替え玉まで仕込んで御苦労だったな‼︎ 緑鬼様は貴様の正体を、とうに見破っておられたのだ‼︎」
「な⁉︎ では、兎月は⁉︎」
「さァな……今頃、オルグドラシルの肥やしにでもされてるかも知れんぞ?」
「そ…そんな……」
ハンニャの非情な言葉は、娘々を絶望に叩き落とした。最初から緑鬼にはお見通しだった……ならば、兎月も既に殺されているかも知れない……。
「何だ、そのオルグドラシルとは…⁉︎ そもそも、緑鬼とは何なんだ⁉︎」
「ふん…! これから死ぬ貴様等に、話す必要など無い! 丁度良い……此処は龍の魂の眠る墓場だ! 此処で龍と共々、眠るが良い! オルゲット共、掛かれ‼︎」
陽の言葉を遮り、ハンニャはオルゲット達を嗾けて来た。数は多い上、ガオレンジャーに変身出来ない……状況は、かなり不利だ。
「佐熊さん‼︎ 早く台座を‼︎ 僕達が、奴等を食い止めます‼︎」
「よ…よし来た‼︎」
「大神さん、行きましょう‼︎」
「ああ…‼︎」
対峙を決意する陽と大神だが、いかんせん二人は武器を持っていない。
「陽さん、此れを‼︎ 瓏国に伝わる守り刀です‼︎」
娘々は懐から、煌びやかな装飾と小刀を渡した。心もとは無いが、全くの武器無しで戦うよりはマシだ。
「月麿‼︎ コイツを使え‼︎」
そう言いながら、佐熊が大神に投げて寄越したのは紫の布が巻かれた小刀だ。
「ムラサキの守り刀…か! 今は此れに賭けるしか無いな……ムラサキ、力を貸してくれ‼︎」
そう言って、大神は守り刀を構えた。
「オルゲットォォ!!!!」
こうして、ガオレンジャーに変身出来ぬまま、オルゲットの団体との戦いが幕を開けた。
〜遂に辿り着いた龍陵洞にて、奇襲を仕掛けるハンニャとオルゲット達‼︎ 果たして、陽達は絶体絶命のピンチを切り抜けられるのでしょうか⁉︎〜