帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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謝罪
quest28とquest29のタイトル番号を重なって掲載していた為、quest 31まで話数がずれていた事に昨日、気が付きました。
訂正しておきましたので、申し訳ございませんでした。



quest SP4 鬼樹(オルグドラシル)の真実

 ー昔々の物語……この国が岩と砂のみが広がる不毛の大地だった頃……突如、天を切り裂き降臨する一柱の神があり……。

 

 その神は龍の姿をしていた。神々しい姿、大いなる力、高い叡智……正しく、万物の霊長たるに相応しい存在だった。

 

 龍が尾を一撫ですれば、岩は砕けで更地となり…

 龍が息吹を一吹きすれば、砂の隙間を突き抜け緑の草原が生い茂り…

 龍が一吠えすれば、天から雨が降り注ぎ、木を花を芽吹かせた…。

 

 最後に龍に呼び寄せられた動物達に、その叡智の一部を与えたもうて、生きる為の知恵と姿を身に付けた…。

 

 全てを終えた龍は、その姿を消した。だが一つ……龍が去った後に、宝珠と龍を模した彫像のみが残された。

 その彫像には『この地、日と月が四千と二十度、交差を果たした時、地を毒し壊す災厄が現れん……その時、地に生きる者達は、我が分身に宝珠を納め、玄武と出会わせよ……。

 我は悠久の時を経て目覚め、異国の地より召喚せし八人の戦士と共に災厄を鎮めん』と、遺されていた。

 人々は龍への感謝を忘れない為、建国した国の名を『瓏国』と名付け、龍を『神龍』として国の守護神と崇める様になった。それから4020年もの間、国内に於いて大きな反乱も起きず、周囲には戦を仕掛けて来る国も無かった為、平和な国として栄えて来るに至った……ー

 

 〜瓏国神話 神龍創生記〜

 

「此れが、瓏国の歴史なのね……」

 

 テトムは家に置かれていた書物を読んで、瓏国の出で立ちを理解した。神龍により荒野は緑溢れる草原に、泥水の溜まりは清水揺蕩う湖と支川となり、やがて平凡ながらも平和な国として栄えて来た。所が……数年前に、巨樹が姿を現してから、この国は少しずつ壊れて行った。

 巨樹を中心に緑は枯れて、地下水脈と地脈も汚された事で湖も川も汚染され、街中にはオルゲット達が徘徊する死の街と化した。

 

「……全て、私の責任です……緑鬼が王宮に現れた時、奴には得体の知れない不気味な雰囲気を感じていました……。

 思えば、奴が現れる直前に陛下が病に倒れてしまわられた……余りに都合が良すぎる……奴の計略は、進んでいた……だが、それに気付いた時は全てが遅過ぎた……娘々様の予感通り、国は大きく荒れた……。危険を感じた娘々様は、侍女にして影武者の兎月を連れて王宮を出ました。

 しかし……それさえも、奴の計画の内だった……‼︎」

 

 虎牙は自身の不甲斐なさを呪った。誰よりも、皇帝の側に付いていながら緑鬼の暗躍を見抜け無かった。

 それ所か、娘々を危険に合わせ、四千年の平和を保ち続けた瓏国に亀裂を入れる結果となった……責任感の強い彼からすれば、死を持って償いたいが、それさえも許されない。

 今、自分が死ねば娘々を守る者が居なくなってしまう。そうならない為にも、生き抜かなければならないのだ…。

 

「……虎牙さん……今は、後悔しても始まらないわ。大切な事は、此れからよ……」

「ええ……既に官吏達も兵士達も緑鬼の支配下に置かれ、皇帝陛下も病を名目に、皇室に軟禁されている身……実質、娘々様をお守り出来る者は誰一人と居ない……私が、彼女を護らなければ……」

「虎牙さん、大丈夫……陽達が居るわ……」

 

 明らかに焦りを見せる虎牙を宥める様に、テトムは言った。

 だが、彼の表情は曇ったままだ。

 

「……瓏国に伝わる神話、神龍様の復活と八人の戦士……ですか? 確かに言い伝え通りとなれば良いでしょうが……あれは唯の伝説です……。娘々様も藁に縋る思いでしょうが、私には神龍様の存在も八戦士も、長きに続いた歴史の中で紡ぎ出された偶像でしか無い、と言わざるを得ません……」

「……真実は小説より奇なり、と言うわよ? 」

 

 彼もまた、神龍の伝説を否定する者の一人だった。だが、テトムのガオの巫女……彼の目の前に、伝説中の伝説が存在しているのだ。 

 

「……何故、その様な事が?」

「これでも私は巫女よ。巫女の予言を侮って貰っちゃ困るわ」

 

 

「ホホホ……対した口調だな」

 

 

 突如、謎の声がする。と、同時に木戸は破壊された…その向こうに居たのは……。

 

「ホホホ……漸く見つけたぞ……」

 

 其処に居たのは青白い顔の背の高い男、緑鬼だ。後ろには多数のオルゲットを率いている。

 

「く…‼︎ 緑鬼…‼︎」

「虎牙殿……瓏国に後ろ足で砂をかけて、事もあろうに反逆者達と肩を組むとは、罪は重いぞ……」

 

 緑鬼は冷たい目で、虎牙を見た。反対に虎牙も、緑鬼を睨み付ける。

 

「…侵略者の貴様に、反逆者等と呼ばれる筋合いは無い…‼︎」

「ホホホ、裏切り者の分際で何を言うか……まあ良いわ。どの道、娘々も国家に反旗を翻した者として捕らえた後、処刑とするのみよ……。そうすれば民に対する見せしめになる」

「な…なんだと…⁉︎」

「そなた等は、此処で死ね‼︎」

 

 緑鬼が指を鳴らすと、オルゲット達が襲い掛かって来た。だが虎牙は、剣を抜いてオルゲット一人を斬り捨てた。

 

「…瓏国の将、虎牙を舐めるなよ……貴様等如きに遅れを取る程、弱卒では無い……」

「フン…死に体の割には、やる様だな……だが、この数を果たして捌き切れるかの?」

 

 緑鬼は嘲笑う。その際、彼等の後ろから巨大な影が迫って居た。

 

「来た‼︎ ガオズロックだわ‼︎」

「な、何だ⁉︎ 此れは⁉︎」

 

 虎牙は突然、姿を現したガオズロックに面食らう。だが、テトムはオルゲット達を拾った棍棒で蹴散らして行く。

 

「説明は後よ‼︎ 早く乗って‼︎」

 

 テトムは呆然とする虎牙を呼び掛けた。彼も今は考えている暇は無い、としてガオズロックに飛び乗った。

 

「えぇい‼︎ 奴等を逃すな‼︎ 追え‼︎ 追えェ!!!」

 

 緑鬼はオルゲット達に命じるものも、ガオズロックは舞い上がり、森の中へと消えて行った。

 

「く……だが、無駄でおじゃるよ……既に、そなた等は籠の中の鳥……国全体を囲め‼︎ アリ一匹、逃してはならんぞ‼︎」

「ゲット、ゲット‼︎」

 

 緑鬼は、ウラとしての本性を見せながら、オルゲット達に命じた。

 

 

 

 龍陵洞でも、熾烈な戦いが繰り広げられていた。襲い掛かるオルゲット達を、陽と大神はそれぞれ、王家の短刀とムラサキの守り刀で対峙していた。

 何れとも、破邪の爪の様なパワーアニマルの加護を得ていない汎用な武器である。しかも、今はガオスーツも着用していない為、防御力も運動能力も民間人に毛が生えた程度しか発揮出来ない。相手が最下級のオルゲットとは言え、油断すれば命取りだ。

 

「チィィィ‼︎」

 

 大神は、ムラサキの守り刀で、オルゲットを斬りつけ倒す。だが、オルゲットの数は100や200では無い。

 ガオレンジャーとして経験を積んだ二人は、辛うじて只の剣で渡り合っていたが、それでも苦しい戦いを強いられてしまう。陽も陽で、生身の状態で戦う事が、これ程に苦しいとは思わなかった。

 

「佐熊さん、まだですかァ!!?」

 

 陽は、オルゲットの攻撃を短剣で弾きながら叫ぶ。佐熊は、台座を北の方角に向かせようと力んでいた。

 

「待てィ‼︎ 台座が錆びついとる……もう少しじゃァァ‼︎」

 

 力自慢の佐熊と言えど、長い年月の中で老朽化が進み錆びついた台座を動かすのは至難だった。だが、全く動かないと言う訳では無い様で、僅かながら動いては居た。

 と、その時、陽の眼前にオルゲットが棍棒を振り下ろして来た。

 

「陽⁉︎ 気を付けろォォ⁉︎」

 

 佐熊は、陽の危機に吠える。だが、その言葉に気付き振り返った時は、頭部の寸前までに迫って居た。

 しかし、その刹那、オルゲットの一体が両断された。

 

「なッ⁉︎」

 

 間一髪で救われたが、陽はオルゲットを斬り捨てた者を見て息を呑んだ。

 少なくとも、その男は此処に居ない筈、ひいては陽達とは敵対している筈の男だ。

 

「……何を遊んでいる? こんな低級な奴等に……」

「メラン⁉︎」

 

 その男は陽達、ガオレンジャーとは敵対関係にあるデュークオルグ集団『四鬼士』の一角、焔のメランだった。

 

「ど、どうして、お前が⁉︎」

「……ふん……。我が、この地で修行を重ねていたら、貴様等が現れただけだ……」

「……じゃ無くて‼︎ どうして、敵のお前が僕達を助けたんだ⁉︎」

 

 メランとは過去に幾度か刃を交えた。その度に決着は付かず、今では両者は因縁の敵となっているのだ。つまり敵視こそすれど、迎合する事は有り得ない筈。

 当のメランは、つまらない冗談を聞いた、と言わんばかりに鼻で笑った。

 

「……我が貴様を? 何を勘違いしている? 別に貴様を助けに来たつもりは無い……」

「…だったら‼︎」

「…前にも言った筈だ。貴様を倒すのは、このメランだと!

 他の連中に獲物を横取りされる訳には行かんからな…!」

 

 そう言うと、メランはオルゲット達を斬り伏せていく。その圧倒さは、並大抵のオルグでは歯が立たないレベルだ。

 

「……く‼︎ 貴様、オルグでありながら人間に味方する気か⁉︎」

「…クク…笑わせるな…‼︎ 飽くまで、ガオゴールドを我が手で倒す為よ…‼︎ 他のオルグに奴を倒されたく無いだけだ…‼︎」

 

 ハンニャの怒りに満ちた罵声に対し、メランは嘲る様に言った。すると、ハンニャは頭に載せていた般若の面に似た鬼面で顔を覆う。すると比較的、人に近かった姿が完全にオルグへと変わり、身の丈程もある出刃包丁に似た大太刀を取り出す。

 

「くゥ…ならば、私が貴様を斬り刻んでくれる‼︎」

 

 ハンニャは大太刀を振り下ろしつつ、メランを斬り付けるが、メランは身体を炎に変えて躱してしまう。

 

「ほう…ただの雑魚では無さそうだ‼︎ 雑魚で有れば、ある程度に加減をしてやれるが……強者で有るならば、そうも行かぬ……摘み食いでは済ませれぬ…‼︎」

 

 メランは余裕の笑みを浮かべながらも楽しげに笑っていた。

 戦いを愛し、力を求道する彼からすれば強者との出会いは、最高の褒美に等しい。

 

「よもや、異世界にこんな強者が居たとは…これだから、オルグはやめられぬ‼︎」

 

 メランは高らかに笑いながら炎の刃を振り下ろす。ハンニャも負けじと大太刀で受けるが、刃の一部が刃毀れてしまった。

 

「つ、強い……‼︎」

 

 ハンニャは、メランの強さを素直に認めざるを得なかった。

 実力なら、他のデュークオルグ達の中でも、五本の指に入る達人である二人が激突すれば、それは最早、別次元である。

 

 陽は、二人のオルグの戦いに言葉を失うしか無い。これ迄、あらゆる強敵との戦い、そして勝利と敗北を重ねた事で強さを身に付けて来た筈だった。

 しかし、メランは別格だ。未だに陽との決着が付いておらず、過去に彼と刃を交えた際も、メランは本気を出していない。先程の彼の言葉を借りるなら、自分は手を抜かれていた事になる。先の戦いで、メランが本気を出していたら、間違い無く自分は死んでいた……そう確信を持たざるを得ない強さを、目の前で戦う鬼は発揮させていた。

 

「陽….よく見ておけ……‼︎ あれが、何れは俺達が戦わなくてはならない……オルグを倒す為には避け得ない壁だ……‼︎」

 

 大神の言葉に陽は戦慄を覚える。確かに、メランとは後々に否応無しに決着を付けなければならない。

 だが今、目の前でハンニャと激戦を繰り広げるオルグは、今の自分とは全く別次元にある存在だ。例えるなら、龍になろうと滝を登っている鯉を自分とするなら滝の上から、その様子を上空より見下ろす龍、それがメランである。

 

「…だが…必ず…‼︎」

 

 陽は、メランに対する敵意は、何時しか自身が超えなければ成らない試練へと変わっていた事を痛感させられた。

 これ迄の彼に対する印象は、他のオルグ同様に敵でしか無かった。しかし、今は違う。

 それは、ガオレンジャーとしての共通の敵では無く、ガオゴールドとして打ち破らなければならない個人的な敵、即ちライバルである。

 

「おォォい‼︎ 台座を動かしたぞォォ‼︎」

 

 佐熊の声がした。振り返れば龍の彫像は、玄武の方角を向いていた。時間は稼げた。

 途端に龍像の両眼は金色に輝き始める。其れを確認した娘々は龍像の前に立ち、祈り始める

 

『神龍様……瓏の國を築きし、万物の長たる神よ……今こそ、四千と二十度の月が交錯を果たし、瓏の國に危機が訪れました。どうぞ、悠久の眠りより久しく目を覚まされ我等を、お救い下さい……神龍様……』

 

 娘々は決死の思いで祈りを捧げる。だが、龍像は目が光り輝くのみで、それ以外に変わりは見られ無い。

 

「おい、何じゃ‼︎ 何も起こらんじゃ無いか‼︎」

「そ、そんな筈じゃ……‼︎」

 

 佐熊は八つ当たりする様に、娘々を怒鳴る。娘々は狼狽した。

 

 

「皆ァ‼︎ こっちよ‼︎」

 

 

 混乱する陽達の頭上から、テトムの声がする。見上げると、ガオズロックが天井の僅かな隙間から、飛来して来た。

 

「テトム‼︎ 神龍が復活しないんだ‼︎」

「まだよ‼︎ 復活させるには、もう一つの儀式を行う必要があるの‼︎」

「え⁉︎ もう一つの儀式って…⁉︎」

「説明は後‼︎ 早く、ガオズロックに乗って‼︎」

 

 そう言うと、ガオズロックは地上すれすれに迄、滑空して来た。陽達は、その隙を見計らって飛び乗った。

 

「あ、待て‼︎ 奴等を逃すな‼︎」

 

 ハンニャは、オルゲット達にガオズロックへ向かわせようとするが、メランが行手を阻む。

 

「此処から先は通さんぞ!」

 

 そう言うと、オルゲット達を斬り捨てて行く。ハンニャは怒り狂うが、ガオズロックは飛び立って行った。

 

「さて……続きと行こうか?」

「ク……貴様と遊んでいる暇など無い‼︎」

 

 そう吐き棄てると、ハンニャは鬼門の中へ消えて行った。メランは炎の剣を納めると、飛び立って行くガオズロックを無言のまま、見上げていた……。

 

 

「……テトム、助かったよ……」

 

 陽は息を切らせながら、テトムに礼を言った。間一髪、テトムが来てくれなければ正直、危なかった。

 

「……間に合って良かった……」

 

 テトムも安堵する。しかし、大神は不思議そうに首を傾げた。

 

「だが、どうやって此処が分かったんだ?」

「荒神様のお陰よ」

 

 テトムは振り返る。すると、見慣れない少年の幻影が現れた。

 

 〜無事で良かった……皆、大丈夫?〜

 

「ガオゴッド⁉︎」

「千年の友…!」

 

 陽と大神は、共に覚えのあるパワーアニマルの神、ガオゴッドの化身である風太郎を見て喜んだ。

 だが、ガオゴッドを知らない佐熊や娘々、虎牙は首を傾げるばかりだ。

 

「な、何じゃ? ガオゴッド、千年の友? 陽、大神、こいつを知っとるんか?」

「力丸! なんて事を言うの! 口を謹みなさい! この方は、全てのパワーアニマル達の頂点に立たれる神様なのよ⁉︎」

「な、何と、これはしたり⁉︎ まさか、こんな小さな神だったとは⁉︎」

 

 直接の面識は無いとは言え、神に対して無礼極まりない態度と言動を取った佐熊は驚いた。だが、風太郎は笑った。

 

 〜良いんだ……寧ろ、この姿の時は、風太郎として接してくれた方が良い……。でも、再会を喜んでいる場合じゃ無い。事態は深刻なんだ〜

 

 風太郎は、険しい表情を浮かべながら呟く。テトム、大神も同様だ。

 

 〜娘々。君が、この国の公主だったね……先ずは謝らせて欲しい……。僕が注意深く見守る事を怠ったばかりに、君達の世界に大変な迷惑を掛けてしまった……〜

 

「め、迷惑だなんて……そんな……」

 

 娘々は目の前に居る自分の背丈を下回る少年が、神様だなんて俄かには信じられ無かった。

 だが、少年から醸し出される雰囲気は何処か厳かささえある。

 

「千年の友…教えて来れ。一体、この国に何が起こって居る?」

 

 〜シロガネ……君は見た筈だよ……今、この国はオルグに支配されて居る……。あの呪われた巨樹『オルグドラシル』によって…〜

 

「オルグドラシル……さっきの、オルグも言っていた……! 何なんだ、オルグドラシルって言うのは⁉︎」

 

 陽は聞いた。ハンニャの口から飛び出した意味不明の言葉……どうやら、オルグドラシルと言うのが、あの巨樹の名前らしい。

 

 〜平たく言えば……オルグドラシル自体が邪気の塊と言うかな……〜

 

「邪気の塊? どう言う意味でしょうか、荒神様?」

 

 ガオの巫女であるテトムさえも、オルグドラシルなんて言葉は知らない。風太郎は話を続けた。

 

 〜オルグドラシルは、地上には本来なら群生しない。死んだオルグ達の流れ着く鬼地獄にのみに根付く……鬼地獄のオルグドラシルは邪気を吸収して成長するが……地上に根を張った樹は、地脈から生命力を吸い上げてしまう……。成長すると、吸い上げられた生命力を邪気にして吐き出し、其処からオルグ達が発生する……。だから、地上にはオルグドラシルなんて、あってはならない物なんだ……〜

 

「じゃあ、一体、誰が……⁉︎ 」

 

 鬼地獄にのみにしか群生しない植物が何故、瓏国の地に根を張っているのか? 誰かが持ち込んだのだろうか?

 

 〜君達が出会った男……今は緑鬼と名乗っているアイツだ……。そして、奴の正体もまた、人間では無い。オルグだ〜

 

「緑鬼の正体もオルグ⁉︎ 何者なんですか⁉︎」

 

 〜テトムやシロガネも良く知るオルグだよ……緑鬼の正体は……ハイネス・デューク、ウラだ……‼︎」

 

 

『う、ウラ⁉︎』

 

 

 大神とテトムは同時に叫ぶ。二人は、その名を良く知っている……。前回の戦いで、ガオレンジャーを幾度と無く追い詰め、一度はガオレッドやガオシルバー以外のガオレンジャーを殺害に追い込んだ冷酷非情なハイネスだ。

 

「誰なんですか、そいつ⁉︎」

「かつて、俺達が戦って、苦心の末に打ち倒したハイネスデュークだ。だが、奴は死んだ筈……」

 

 そう……ウラは死んだのだ。一度、ツエツエの力で鬼地獄から他のハイネスと共に復活させられ、最強のオルグマスター、センキとして、ガオレンジャー達を敗北寸前に迄、追い詰めたが……地球に住まう全パワーアニマルの力を集結させて、やっとセンキを討ち滅ぼすに至った。

 その際、ウラや他のハイネスと共に、鬼地獄に送り返され、二度と復活はしなくなった筈だった。

 そのウラが、蘇っていたばかりか、この瓏国にて支配の根を張っていたなんて……。

 

 〜そう……ウラは死んだ……。その邪悪な魂は、鬼地獄の深淵へと葬られた……。だが、ウラは蘇った‼︎

 事もあろうに、オルグドラシルの苗を、この瓏国に根付かせて……この世界を、オルグの支配する世界に変えたのは、ウラの仕業なんだ……〜

 

 陽達は絶句する。オルグドラシル……そんな恐ろしい樹があったなんて……。だが、何より恐ろしいのは……倒された筈のハイネス・デュークが蘇り、別世界で人間に成り済まして暗躍していたと言う事実だ。

 

「それでは……お父様は、もう……」

 

 娘々は、余りに衝撃的な真実に言葉を失う。街の人間には父がオルグドラシルの成長や、オルグの跋扈を好き放題にさせた、と考えている者達が大多数だ。

 しかし、既に王宮がウラの手に落ちたとなれば最早、父は生きていないかも知れない……。

 

 〜それは、分からない……奴等の狙いは支配だから、殺してしまえば元も子もないからね……少なくとも、ウラの監視下に置かれているのは間違いないだろうけど……〜

 

「アイツは、狡猾なオルグだ……利用出来る者は何だって利用するだろう……」

 

 大神は忌々しげに唸る。ウラの性格は、良く理解している……。現に自分が狼鬼として操られていた際も、それを逆手に取って利用し手駒とした様な奴だ。

 更に言うなら、奴は自分にとって不都合な者は小石を踏み砕くかの様に、あっさりと始末してしまう冷徹な本性を持つ……。ウラの前のハイネスだったシュテンも、ガオレンジャーに敗れるが否や、自らの手で始末したのだから……。

 

「神龍を蘇らせる儀式と言うのは……一体、どうすれば……」

 

 〜現在、神龍は瓏国の地底……龍脈と呼ばれる場所で眠りに付いている……でも、オルグドラシルの根が邪魔をして、神龍は身動き取れないんだ……〜

 

「そんな……じゃァ、どうする事も……」

 

 〜待って。その為には、彼に力を注ぎ込めば良い……〜

 

 そう言って、風太郎は手を翳す。すると、陽の手に持つ王家の短剣が浮かび上がり、形を変える。其処には刃から柄まで、エメラルド色に輝いた短剣があった。

 

「これは……⁉︎」

「獣皇剣⁉︎」

 

 陽は初めて見る物だが、テトムや大神は馴染みある品だ。

 ガオレンジャー達の共通装備にして、パワーアニマル達を呼び寄せる為の触媒でもある神器、パワーアニマルの力の化身とも言える武器『獣皇剣』。

 色は異なるが、形状のそれは獣皇剣に相違ない物だった。

 

 〜それを、オルグドラシルの根本に差し込み龍脈に絡み付く木の根を通じて、ガオソウルを流し込むんだ‼︎

 ガオソウルに呼応した時、神龍は目を醒まして、オルグドラシルを焼き払う筈……そうすれば、君達も満足に戦えれる筈だよ……〜

 

「……理屈は分かります……けど、今の僕達にはガオレンジャーに変身さえ……」

 

 風太郎曰く、オルグドラシルの根を通じて龍脈を刺激する事こそが、神龍を呼び醒ます手段だと言う……。

 だが、今の陽達は変身さえ満足に出来ない。オルグドラシルから垂れ流される邪気、ひいては異世界であると言う事もあって、ガオドラゴン達を呼び寄せる事も出来ない……。

 

 〜大丈夫……その時にこそ、予言にある八人の戦士達が揃う時だ……先ずは、君達は王宮に忍び込む事から始めて欲しい……〜

 

 風太郎の提案は、かなり危険極まり無いが……だが、今はそれしか方法は無い。陽、大神、佐熊は互いに頷き合った。

 

 

 

 ウラは王宮の門の前に立ち、待ち構えていた。側には、ハンニャと大多数のオルゲット達が控えている。

 

「ホホホ……ガオレンジャー達め……恐らく、奴等は神龍を復活させる為に、王宮へ潜入せざるを得ない……これだけ、盤石に固めていれば、奴等は手も足も出んでおじゃるよ」

 

 狡猾なウラは、ガオレンジャー達の目論みを見抜いていた。そして、彼等がやってくるのを今か今か、と待ち構えているのだ。側に控えるハンニャが尋ねる。

 

「予言にあるとされる八人の戦士……彼奴等の事でしょうか?」

「ホホホ……予言なんて眉唾臭い物、当てには成らぬ……どちらにせよ、変身出来ぬガオレンジャー等、足を捥いだ虫ケラにおじゃる……」

 

 ウラは嘲笑した。所詮、予言は予言……当たるも八卦、当たらぬも八卦とは良く言った物……。

 そう考えていると、城下の上を飛来する影が見えた。ガオズロックだ。

 

「来たでおじゃるな……オルゲット共‼︎ あの岩を撃ち落とすでおじゃる‼︎」

 

 ウラの命令に、オルゲットは棍棒を構えた。棍棒からは火球が撃ち込まれ、ガオズロックに直撃する。

 だが、ガオズロックは数発耐えると、そのまま旋回する。

 

「? どうしたんでしょう?」

 

 ハンニャが呟いた刹那、ガオズロックから陽、大神、佐熊が飛び出して来た。

 

「誰か一人でも、オルグドラシルまで辿り着くんだ‼︎」

「よし‼︎」

「任せィ‼︎」

 

 陽は獣皇剣を、大神はムラサキの守り刀を、佐熊は錫杖を持ってオルグ達へ向かって行った。

 

「ホホホ‼︎ 正面から来るとは勇ましい奴等よ‼︎ 構わぬ、返り討ちにしてくれる‼︎ 掛かれェェ‼︎」

 

『オルゲットォォ‼︎』

 

 正面から攻めて来た陽達の度胸を讃えながら、ウラはオルゲット達を嗾ける。

 オルゲットの棍棒を獣皇剣で防ぎながら、斬り返す陽。だが、明らかにオルゲットの数が多い。三人の戦力に対し、オルゲット達は、ほぼ無尽蔵に近い数を誇る。

 と、その時……。

 

 

「俺達も加勢するぞォォ‼︎」

 

 

 砂煙を上げながら大多数の人影が走ってくる。狼尾を筆頭にした反乱軍の若者達だ。

 

「あ、アイツら…‼︎」

 

 佐熊は苦々しげに唸る。命を粗末にするな、と辞めさせた筈なのに……。

 

「この国は、俺達の国なんだ‼︎ あんな化け物に好き勝手されてたまるか‼︎」

「未来は、俺達の手で掴み取るんだ‼︎」

 

 よく見ると、若者達の中には貧民街の者達も混じっていた。各々の抱えていた不満がピークに達したのだろう。

 男達は、オルゲット達に掴み掛かる。

 

「お前等‼︎ 闘ってはいかんと…‼︎」

「佐熊さん‼︎ 俺達が、この化け物ども食い止めます‼︎ 貴方達は王宮へ‼︎」

 

 叱り付ける佐熊に対し、狼尾は言った。

 

「ぬゥ……格好付けよってからに……‼︎ 陽、大神‼︎ 行くか‼︎」

 

 佐熊は男達の覚悟を目の当たりにし、ならば、自分達の取るべき道を、と走り出す。陽、大神も彼等の勇気に感化され、王宮へ突き進む。

 

「ハンニャ、奴等を殺すでおじゃる」

「は‼︎」

 

 ウラの命令を受け、ハンニャは大剣を構えながら立ち塞がる。

 

「格下共‼︎ 此処から先は一歩も通さんぞ‼︎」

 

「ほう? ならば、我と闘って貰おうか?」

 

 そう言いながら、ハンニャの前に立ったのは、メランだった。ハンニャは怒り心頭となる。

 

「また、貴様か⁉︎ 目障りな奴め‼︎」

「我は退屈しているのだ……失望させないでくれ」

 

 メランは、そう言うとハンニャに斬り掛かる。陽は、今の内にとウラの横を擦り抜け、王門を潜った。

 

「す、すみません‼︎ ただちに奴等を……‼︎」

 

 ハンニャは、メランを対峙しながらも、直ぐに陽達を追いかけようとした。だが、ウラはハンニャを手で制した。

 

「心配要らぬ……奴等が、オルグドラシルに迄、辿り着く事は絶対に有り得ぬ……」

 

 そう言い放つウラの顔は邪悪な笑みを浮かべていた……。

 

 

 〜遂に、瓏国の王宮へと潜入した陽達‼︎ 果たして、陽達はオルグドラシルに迄、辿り着く事は出来るのでしょうか〜


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