帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest SP5 予言の八戦士

 陽達は王宮の中を走っていた。一先ず、潜入は上手くいった。正面から、ガオズロックで突破すると見せかけて敵の目を撹乱、後は隙を突いて王宮へ入り込む作戦だった。

 自分達の飛び降りた後、ガオズロックにはこころが残り、退散する様に飛び去って行った。民衆やメランの救援と言う想定外の出来事も重なり、兎にも角にも結果は良好だった。

 

「さァ、王宮へ入ったぞ! 後は、どうする?」

 

 佐熊は尋ねる。仮に王宮に全員で入れたとしても、内部構造に詳しく無い自分達では巨樹のある場所まで辿り着けないからだ。

 

「恐らく、そろそろ……」

 

 

「陽! こっちよ!」

 

 

 振り返ると、テトム、娘々、虎牙が走って来た。陽は頷く。

 

「三人共、無事に侵入出来たんだね!」

「ええ! 娘々のお陰でね……」

 

 テトムは笑いながら言った。娘々は安堵していた。

 

「私達が王宮を脱出した時に利用した秘密の抜け道を使いました……。貧民街にある誰も知らない抜け道でしたが、まだウラにはバレて無かった様です……」

「ええ……。警備も無かった為、比較的に安全でした……」

 

 比較的に……しかし、虎牙の手には剣が握られていた。どうやら、それでもオルゲット達との戦いは避けられなかったらしい……。

 

「本当にバレていなかったのだろうか?」

 

 大神は不安な表情を浮かべる。ウラと言うオルグの本質を、彼は誰よりも良く知っているからだ。

 奴は狡猾で智略に長けたハイネスだ……奴には幾多と煮湯を飲まされた経験がある……このまま、仕掛けて来ないとは言い難い……。

 

 

「ホッホッホ……よくぞ、戻られました……娘々公主様?」

 

 

 ふと聞こえた声に振り返ると、例の文官がいやらしい笑みを浮かべながら立っていた。

 

「き、貴様は……‼︎」

「ホッホッホ……まさか、貴方様が公主様だったとは……。だが、それ以上に瓏国の公主が、国を荒らす賊徒を手引きするとは嘆かわしい……」

「誰が賊徒じゃ、誰が⁉︎ 賊徒は、ワシ等じゃ無い‼︎ 貴様等が、緑鬼と慕っていた男じゃ‼︎ 奴は、この国を乗っ取る気なんじゃぞ‼︎」

 

 文官の言葉に佐熊が怒鳴る。だが、文官はクックッと低く笑う。

 

「緑鬼様……いや、ウラ様が? それが何か問題でも?」

「う、ウラ様……?」

「貴様! 何故、奴の正体を知っている⁉︎」

「ホッホッホ……知っているも何も……私は最初から、ウラ様の正体を知った上で仕えていたのだよ……」

 

 文官の口から放たれた言葉に、虎牙と娘々は絶句する。

 

「馬鹿な……貴様は正気か⁉︎ 奴は人間では無い! 異形の鬼だぞ⁉︎」

「ハハハハ‼︎ それがどうした⁉︎ 皇帝の座に私が座る代わりに、オルグの支配する国となるくらい……安い代償だ‼︎」

 

 文官の言葉を聞いた陽達は驚愕した。

 

「まさか……人間が、オルグに首を垂れるなんて…‼︎」

 と、陽。

 

「屑の極みだな……‼︎」

 と、大神。

 

「まっこと、腐り果てた奴じゃ…‼︎」

 と、佐熊。

 

 これ迄、様々なオルグを見て来て共通していたのは、人間はオルグに対し恐怖を抱く、それだけだった。

 しかし、目の前にいる男は保身の為でも命惜しさでも無く、己の私利私欲の為に、オルグに魂を売ったのだ。

 

「ハハハハ! 何とでも言え‼︎ 王家の系譜にも貴族の身分にも生まれなかった身分の低い平民に生まれた私に、千載一遇の好機が巡って来たのだ‼︎ 神龍などと言う空想の産物に平伏し、しがない文官として生きる位なら、オルグに首を垂れる道を取る‼︎ さァ、公主様を捕まえろ‼︎」

 

 文官が叫ぶと、娘々が後ろから何者かに羽交い締めにされる。

 

「兎月⁉︎」

 

 それは、娘々の身代わりで捕まった兎月だ。目は虚ろになり、焦点が合ってない。

 

「ハハハハ! 兎月は、ウラ様により感情を消されて忠実な傀儡と化したのよ‼︎ 今や、自分が何者かさえ分かって居らぬわ‼︎」

「クッ…‼︎ 卑怯な…‼︎」

「戦とは、(ここ)を使うのだ! 頭をな…‼︎」

 

 文官は狂った様に高笑いを上げる。兎月を人質に取られたばかりか、術中に操られてしまった。これでは、無闇に手を出せない。大神の嫌な予感が当たってしまった。

 だが、その際に虎牙が兎月の頭を打ち据えて、昏倒させた。

 

「虎牙⁉︎」

「此処は私にお任せを‼︎ 娘々様は、早くオルグドラシルへ向かって下さい‼︎」

 

 虎牙は言ったが、彼もまた負傷している身である。満足に戦える様な状況では無いのだ。そんな中、彼は敵の注意を引き付けると言う最も、損な役回りを買って出たのだ。

 

「でも、貴方だって……」

「私は、この国の軍人です! 貴方様を守れずに、何が軍人ですか⁉︎」

 

 心配そうに声を掛ける娘々に対し、虎牙は猛々しく叫ぶと文官の前に立ちはだかり、剣を構えた。

 

「き、貴様……瓏国の未来の皇帝に剣を向ける気か⁉︎ これは立派な反逆だぞ⁉︎」

「黙れ‼︎ 反逆者は貴様達だ‼︎ 私が仕えるのは、後にも先にも皇帝陛下と娘々様だけだ‼︎」

 

 虎牙の目には瓏国に長きに渡り仕えてきた軍人としての、強い矜恃と信念が輝いていた。文官は、ニヤリと悪辣な笑みを浮かべる。

 

「そうか……ならば、貴様もまた極刑だ‼︎ オルゲット共‼︎」

 

 文官が命令を出す。すると、オルゲット達が湧き出てくる。

 

「瓏国を仇成す者達を、纏めて殺してしまえ‼︎」

「ゲットゲット‼︎」

 

 オルゲット達は棍棒を振り上げながら、襲い掛かってくる。

 

「さァ、来い‼︎ 俺が相手だ‼︎」

 

 虎牙は、オルゲット達に斬り掛かる。流石、武官である虎牙……低級のオルグであるオルゲット程度なら、軽くいなしてしまう。だが、いかんせん虎牙は手負いである。長時間は保たないだろう。

 

「娘々様、早く‼︎ お前達! 娘々様に万が一の事が有れば、末代まで祟るぞ‼︎」

 

 しかし、傷の痛みを押し殺し虎牙は果敢に向かって行く。彼の犠牲を無駄には出来ない。娘々は……

 

「皆さん! 此方です!」

 

 と、陽達を呼び寄せる。

 

「……陽、力丸、行くぞ!」

 

 大神は二人に呼び掛ける。だが、陽は孤軍奮闘する彼を置いては行けない。

 

「……でも‼︎」

「陽‼︎ あの男の勇気ある行動を無駄にする気か⁉︎ ワシ等まで捕まれば、この国に未来は無い‼︎ 早くせい‼︎」

 

 戸惑いを隠せない陽に対し、佐熊は叱咤する。

 陽は決意した。今、自分が立ち止まれば、多くの人々が涙を流す事となる。祈や大切な者を守る為、ガオレンジャーとなった……。だが、それだけでは無い。この力を、自分と関わりの無い人々をも守る為に使う……そう決意した筈だ。

 

「虎牙さん……どうか、死なないで‼︎」

 

 陽は走り去りながら、囮役となった虎牙に叫ぶ。彼は背中越しに頷き、オルゲット達に向かって行った。

 

 

 

「ハァ……ハァ……‼︎」

 

 王宮の門前では、メラン・民衆とハンニャ・オルゲット達による戦いが繰り広げられていた。オルゲットを相手にしていた狼尾達も勇敢に戦ったが、実戦経験に乏しく無い彼等では、オルゲットと言えど歯が立たずに居た。

 メランは、ハンニャを相手にしながらも、オルゲット達を斬り捨てていくが、民衆の者達には目もくれなかった。飽くまで、目の前の敵を相手にするだけだ。

 

「ホホホ…! 強い、強いでおじゃるなァ…! 」

 

 ウラは、メランの強さに感心していた。彼は残忍なオルグではあるが、自身が認めた者には、それなりの敬意を払う度量の深さもある。

 

「……その方、メランと言ったな? それだけの力を持っているなら、麿の配下と成らぬか? 今、配下に降るなら、その強さと胆力に惚れて、丁重に扱ってやるが…」

「興味ない……我は元々、誰かの下に付くのを好かぬ。我の目的は……あのガオゴールドとサシで戦い、勝利を掴む事!

 貴様の配下に降る気など更々、無いわ」

 

 メランは、ウラ直々の勧誘を一蹴した。彼にとって、強大な力を持ったハイネスも、世界を支配し得るであろう権力も、紙屑同然。しかし、そんな様子にウラは高らかに笑う。

 

「ホッホッホッ‼︎ 鼻息の荒い……益々、配下に欲しくなったでおじゃる‼︎ ハンニャ……メランを生かしたまま、捕らえよ‼︎」

「御意に! ウラ様!」

 

 ハンニャは、ウラから受けた命令を全うする為、急襲して来た。だが、メランは詰まらなそうに受けた。

 

「……それが、貴様の全力か? 先程の修羅の如し、強さはどうした⁉︎ 我を退屈させるな‼︎」

「……黙れッ! ウラ様の忠愛は貴様には渡さん‼︎ 」

「ふん……女の嫉妬か……般若とは、情念を拗らせた女の姿とか……くだらん」

 

 ハンニャの、ウラに対する忠誠心に対し、メランは面罵した。

 

「嫉妬……そうだ‼︎ 愛深すぎる故の嫉妬だ‼︎ 私は、ウラ様の愛の為に生き、ウラ様の愛の為に戦うオルグ! それが私、ハンニャだ‼︎」

「愛の為に戦う‼︎ この上無く、くだらん‼︎ オルグが愛だ、忠義だと戯言を抜かすな‼︎」

 

 メランは、不愉快極まりない、と言わんばかりに一喝した。

 己の戦いの為に刃を奮うメランと、ウラへの忠愛の為に刃を奮うハンニャとでは、思想も生き方も対極にある。従って、似て非なる存在である互いを、妥協する事が出来ないのだ。

 そうして、ハンニャは大剣でメランを両断にせんとするが、メランは黒い炎を剣に纏わせる。

 

「我が太刀、冥府の焔を刃に纏いて、森羅万象を焼き尽くす煉獄と為さん‼︎ 焦熱…一閃‼︎」

 

 そう叫ぶと、メランは炎の剣で横に一した。その途端、放たれた炎は斬撃と化し、振り下ろされたハンニャの大剣ごと、彼女の胴体を真っ二つにした。

 

「ぐ…ああァァ…」

 

 ウラの近くまでに吹き飛ばされたハンニャは苦しげに呻く。斬り捨てられた下半身は、地べたに転がるが、直後に燃え上がり灰となってしまった。

 

「う……ウラ……様……‼︎」

 

 上半身だけになりながらも、ハンニャはまだ生きていた。

 しかし、虫の息である事には変わらず、息も絶え絶えになりながら、ウラに助けを求める。

 

「……う、ウラ様……お助け…を……」

 

 ウラならば助けてくれると願い、ハンニャは手を伸ばす。しかし、ウラは冷たい視線を向けたまま、扇子を構える。

 

「……見苦しいでおじゃるな……麿は醜い者は嫌いでおじゃる……」

「う…ウラ様…⁉︎」

 

 ハンニャは我が目を疑う。忠誠を誓い仕えて来た筈の主の口から吐かれた辛辣な言葉に、ハンニャは耳を疑う。その瞬間、扇子に仕込まれた刃が首に突き刺さり、首を弾き飛ばした。首は、ウラの足の下に転がって来た。

 

「……役に立たぬなら、目障りにおじゃる……」

 

 冷たく嘲笑いながら、ウラは右足を持ち上げて、ハンニャの首を踏み潰した。

 

「……消えよ、ゴミが……」

 

 そう吐き棄てつつ、ウラは首をグリグリと踏み躙る。その様子に、メランは見るに耐えない様子で睨む。

 

「……敗者を愚弄するとはな……反吐の出る奴だ……」

「ホホホ……そなた、オルグでありながら、他者を思いやる気持ちがあるのか? 実に滑稽でおじゃる」

 

 ウラは小馬鹿にした様子で、メランに言った。だが、メランはその嫌味に対し、肩を竦める。

 

「思いやる気持ち? 何度も言わせるな、我の望みは強者との戦いよ……オルグである己が、どこまで強くなるか……どこまで高みを目指せるか……其れを推し量りたいだけだ」

 

 メランは不敵に笑う。彼は高潔であると同時に、ひたすら強さを求道し戦いに身を委ねる事を好む根っからの戦士気質なのだ。ウラの様な弱者を踏み躙り、甚振る事を至高とする者には露骨な嫌悪を隠さない。

 

「ホホホ、勇ましい事よ……麿の下に付けば、そなたの望み通りとしてやるものを……。まァ良いわ、麿に仕えるも自由、拒むも自由……だが、忘れるな。やがて、この世界を支配し尽くすであろう麿こそが、最強のハイネスであると言う事を‼︎ そなたは後じゃ……先ずは王宮に忍び込んだネズミ共を始末してから、そなたを料理してやろう!」

 

 傲岸不遜に吐き棄てつつつ、ウラは鬼門の中に消えていった。残されたメランは、クックッと笑う。

 

「……貴様が、最強のハイネスだと? たわごとを……貴様は、ガオゴールドを何も分かっていない……。さて……お膳立てはしてやった、後は貴様がやるんだな……我が終生の好敵手ガオゴールドよ……」

 

 メランの口から出された言葉は、敵である筈のガオゴールドへの挑発にも激励にも似た不思議な言葉だった。

 戦いに疲れ、気を失った民衆達を尻目にメランは鬼門の中に消えて行った……。

 

 

 王宮内では、虎牙が奮戦していた。手に持った剣一つで、オルゲット達を迎え撃っていたが、やはり手負いの状態で戦いに挑むのは、無理があった。

 更に間の悪い事に、既にオルゲット達を斬り捨てた影響で剣は刃毀れで壊れる寸前だった。

 

「ハハハハ‼︎ 虎牙、もう観念せい‼︎ 貴様は、もう虫の息だ‼︎」

 

 文官は勝ち誇った様に笑った。虎牙は悔しげに唸る。

 今や、虎牙は完全に追い詰められていた。オルゲット達の半数は減らしたが、それでもまだ数は多い。

 

「ハァ…ハァ……黙れ……‼︎ 私は瓏国の軍人だ……国を仇為す者達から国を守る使命がある……‼︎」

 

 誇り高い軍人である虎牙は、例え死の淵に追い詰められ様とも敵に首を垂れる真似はしない……そう言う強い意志を持ち合わせていた。

 

「そうか……貴様の部下も同じ様な、頑固な連中だったよ……忠義だ、正義だと宣った末に、ウラ様へ仕える事を頑なに拒否しよった……つくづく、莫迦な連中だったよ……」

「⁉︎ 貴様、私の部下達に何を……⁉︎」

 

「ホホホ……それは、そなたが知る所では無い……」

 

 突如、背後から響く声……虎牙は振り返ると、ウラが邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「そなたは、此処で死ぬのだからな……」

 

 そう言って、ウラは扇子で虎牙を複数回に渡り斬り付けた。

 

「ぐ…ああァァ……!?!」

 

 斬り傷から血が噴き出し、血だるまとなる虎牙。彼は足元に出来た血溜まりに沈んで行った。

 

「オオ、ウラ様⁉︎ ありがとうございます、助かりました‼︎」

 

 文官は、ウラに露骨な迄に愛想良く笑う。しかし、ウラの目は冷徹だ。

 

「ガオレンジャー達は、どうした?」

「は⁉︎ あ、奴等は王宮内に……」

 

 ウラの静かな怒りを感じ取った文官は、思わず後退った。

 

「あ、あの……! 必ず、奴等は捕まえますので今暫し、お待ちを……」

「その必要は無いでおじゃる」

 

 と、ウラは右手を上げた。すると後ろから伸びて来た腕に文官は捕まった。

 

「むぐッ⁉︎」

 

 それは赤い腕をしたオルグだった。文官は見上げると巨大な目がギョロリと睨んで来た。

 

「な……ウラ様、約束が違うじゃ無いですか……! 私と貴方様で、この国を共に支配しようと……!」

「ホホホホホホ‼︎ そなたは最初から麿の手の内で踊っていたのでおじゃるよ! それとも……他人から借り受けた力で王になれるとでも思っていたのかえ? 小賢しい虫ケラが……そなたは、オルグドラシルが程よく成長する時までの繋ぎでしか無かったのでおじゃる!」

 

 ウラの無情な言葉を聞いて、漸く自分が騙されていた事に気付いた。やがて、自身を締め付ける腕に力が籠る。

 

「は…ハハ……何と短い野心(ゆめ)だった事か……」

 

 最初から最後まで、自分は王にはなれなかった。いや、元より自分は王となる器では無かった。過ぎたる野心と虚栄心が、真実を見据える心眼を曇らせ、己の命を縮める結果となったのだ。文官は、自嘲気味に乾いた笑い声を上げた。

 

「殺れ」

 

 ウラは気怠げに言った。その刹那、廊下にボキッと嫌な音が響き渡り文官の首は360度、回転する。それが、鬼に魂を売った男の惨めな末路だった……。

 

 

 

 陽達は娘々に案内され、王宮の中を走る。王宮内は非常に広く、同じ様な廊下や扉が多い為、迷いそうになった。

 だが、娘々は王宮内を把握している為、迷う事なく案内してくれた。やがて、中庭へと通ずる扉を見つけた娘々は指をさす。

 

「あの扉です‼︎ 急いで‼︎」

 

 娘々に急かされ、陽達は扉を開いた。其処は見事な迄に広い庭園となっていた。

 

「こんな広い庭園が……」

 

 王宮と、ほぼ同等か其れ以上の広さの庭園に陽は驚く。

 

「本来なら、此処は皇族の園遊会が行われる場所でした……あれが出来る迄は……」

 

 娘々が険しい表情で見つめる先には、巨樹オルグドラシルが間近にてそびえ立っていた。

 高層ビルディングを優に上回るオルグドラシルを中心に、庭園に生えている草木は枯れ果て、地面もヒビ割れている。本来なら水が揺蕩っているであろう池の水も、今は仄暗く濁っている。恐らく、この巨樹を中心に瓏国の生命力を吸い尽くされているのだろう……。

 

「あの樹の根本に、この獣皇剣を刺せば……‼︎」

 

 陽は獣皇剣を携え、駆け出す。だが、それを阻むかの様に樹の根が地から突き出て来た。

 

「な、樹の根が⁉︎」

 

 陽は驚く。このオルグドラシルが、まるで自分を焼かせまいと拒んでいるみたいだった。

 

 

「ホホホ……そのオルグドラシルは、邪気の塊……即ち、樹そのものがオルグであるのじゃ!」

 

 

 突如、声の方を振り返ると、ウラがオルゲット達を率いて迫って来た。

 

「ウラ‼︎」

「久しいのォ、シロガネ……いや、狼鬼と呼ぶべきかのォ?」

 

 ウラの姿を見た大神は、かつての仇敵を睨むが、ウラは反対に揶揄う様な口調だ。

 

「俺を、その名で呼ぶな!」

 

 大神にとって、かつての己が変じた姿、狼鬼の名で呼ばれるのは屈辱でしか無い。まして、ウラには自身を手駒として使役された恨みがあるのだ。

 しかし、ウラは優雅に笑うのみだ。

 

「相も変わらず、人のフリをして人の為に戦っておるのか? そなたにとって、守る様な者など何一つ、居なかろうに……」

「俺は、ガオの戦士だ! 俺が戦うのは、地球の為! そして生きとし生きる者達、全ての為だ!」

「何故、貴方が此処に⁉︎ 生きていたの⁉︎」

 

 テトムは尋ねた。確かに、ウラはガオレンジャーとの戦いに一度、敗れて死亡したが、ツエツエの陰謀で他のハイネス共に復活、そして強大なハイネス、センキとしてガオレンジャーを窮地に追い詰めた。だが、ガオレンジャーの信じる力、全てのパワーアニマル達の力で、センキの肉体は滅び、ウラの魂も鬼地獄に送還された筈だ。

 

「麿が何故、生きているか? それはの、ガオの巫女……麿は、あの戦いの後、再び鬼地獄に閉じ込められた。

 肉体を失い、魂のみで彷徨うばかり……しかし、麿の魂は消滅はしなかった……憎き、ガオレンジャーに復讐を果たす迄は麿は末代まで存在してやる……その執念のみが、麿を繋ぎ止めた……そんな中、麿の前にある男が姿を現した……奴は、麿を蘇らせ肉体を与えてやる代わりに、地球とは異なる世界をオルグで覆い尽くせ、と言ってきた……」

 

 ウラは扇子を仰ぎながら語り始めた。やはり、ウラは死んだのだ。だが、そんな彼を蘇らせた者が居たのだ。

 

「麿には断る理由が無かったでおじゃる……すかさず麿は蘇り、この瓏国に降り立った……。しかし、最初から行動を移した訳では無い……先ず手始めに、かの鬼地獄より持ち込んだオルグドラシルを地に植え、大地を侵食させた。次に皇帝に呪いを掛け、病とした……人間共の混乱する様は、見ていて愉快だった。そなた達にも見せてやりたかったでおじゃる」

 

 陽は、獣皇剣が掌に食い込む程に強く握り締めた。そうしなければ、湧き出てくる怒りを押さえられ無かったからだ。

 

「しかし……随分と骨を折ったでおじゃる……オルグドラシルが充分に成長する前に焼かれでもしたら、計画は破綻してしまう……。其処で、麿は緑鬼と言う名で人間に擬態し、王宮に忍び込んだ。

 案の定、皇帝の病とオルグドラシルの被害にて王宮の官吏共は正常な判断を下せなんだ……。麿は皇帝や無能な官吏共に代わり、王政を取って見せた。病に苦しむ皇帝の名代としてな……愚かな民衆共は、麿を信用した。

 後学の為、そなた達に良い事を教えてやろう……人間を支配するのに力は必要無い……隙を突けば良いのだ。

 麿は慌てふためく人間共の隙に入り込んだ……不安、ほんの僅かな恐怖……そこを突けば、後は簡単におじゃる……瞬く間に人間共は、麿を信用した……一年経った頃には、もう誰も麿のやり方を否定しなくなった……お陰で、オルグドラシルは見る見る間に成長、巨大化した……。

 全てが上手く事を運んでいたと言う時、そなた達が現れた……だが、麿の知るガオレッド達では無く、ガオシルバー達だけと言う事には些か驚いたが……」

 

 一旦、言葉を切るウラ。だが、直ぐに邪悪に笑った。

 

「しかし……麿にとっては好都合におじゃる……そなた達を始末してしまえば、麿には敵など居ない……この世界は丸々、オルグの楽園となるのじゃ」

「本当にそうなると思うのか?」

 

 陽は内から湧き立つ激情を抑える為、冷静を装いながら話す。

 

「お前は、ガオレンジャーに負けたから……ガオレンジャーを恐れているから、彼等の居ない世界に隠れているだけだ!

 ただ、逃げ隠れしているだけの小物が、いい気になるな! 汚らわしい‼︎」

 

 陽の挑発めいた言葉に、ウラの余裕は崩れた。

 

「麿が逃げ隠れしている小物、じゃと…⁉︎ 小童が聞いた風な口を叩きおって……‼︎ 良かろう、ならば、その小物の力を見せてやる…‼︎」

 

 と、ウラは指を鳴らす。すると後ろに現れた鬼門から出てくる二つの影……。

 

「な、あれは⁉︎」

 

 大神、テトムは驚愕する。それは、ウラ同様に、かつてガオレンジャーが対峙した者達だからだ。

 

「シュテン⁉︎ ラセツ⁉︎」

 

 一人は、ウラと同格のハイネス・デュークである赤い体色に巨大な単眼と目に似た紋様を持つ鬼、シュテン。

 もう一人は、最後にガオレンジャーと対峙した青い体色に目を持たず顔と胸部に巨大な唇を持つ鬼、ラセツ。

 何れとも、ガオレンジャーと戦い、圧倒的な力を見せたが、最後は倒された曲者達だ。

 だが、どうも様子が変だ。シュテンとラセツからは、ウラの様に感情が感じられない。それ所か、頭部にある筈のオルグの誇りたる角が無い。

 

「ホホホ、此奴等は本物では無いでおじゃる。麿が造った泥人形に邪気を込めた紛い物、故に角も無ければ感情も無い……。しかし……強さは本物と遜色無いでおじゃるよ?」

 

 ウラの言葉に戦慄する大神。ウラ個人だけでも手強いのに、シュテンとラセツまで揃われてしまえば分が悪過ぎる。

 

「ガッハハハ‼︎ コイツは大変な事になったのゥ‼︎」

「力丸! 笑っている場合じゃ無いぞ‼︎ 奴等は強い‼︎」

 

 佐熊は、カラカラと笑うが、2人の強さを知る大神は注意を促した。

 

「だったら……陽‼︎ 早く、獣皇剣を突き刺せ‼︎ 奴等は、ワシ等に任せておけィ‼︎」

 

 そう言って、佐熊は錫杖を構える。この場合、陽に獣皇剣を突き刺させる迄、自分達が時間を稼ぐ事が得策と考えたのだ。

 

「……ああ、そうだな……陽、急げ‼︎」

 

 大神もムラサキの守り刀を構えた。だが、相手はハイネスだ。長時間は保たないだろう。

 陽は意を決して、走り出す。グズグズしている暇は無い。だが、オルグドラシルの根が陽を狙い攻撃してきた。

 だが、遠方より飛んできた火球が木の根を焼き払った。

 

「え⁉︎」

 

 陽は違和感を感じたが、今はそれ所では無い。木の根を潜り抜け、オルグドラシルの真下にやって来た。後ろからは木の根が迫る。陽は獣皇剣の刃を木の根本へと突き刺した。

 

「や…やった‼︎」

 

 獣皇剣に嵌められた宝珠が光り輝き、オルグドラシルは苦しそうにグネグネと根が動く。

 と、その際、オルグドラシルの根本から光が漏れ出す。思わず、陽は下がると、その光が辺りを覆い尽くす邪気を祓い始める。

 よく見れば、G -ブレスフォンに光が戻る。全身にガオソウルが行き渡っているのを理解した。

 

「皆‼︎ 今なら、変身出来る‼︎」

 

 陽は叫ぶ。シュテン、ラセツの攻撃を受けていた二人も頷き後退した。

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 三人は、G -ブレスフォンを起動させた。そうしてる間に、三人の身体はガオスーツを着用し、ガオの戦士が復活した。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

 

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

 

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

 

 三人は口上を叫ぶ。ガオレンジャーに変身さえすれば、存分に戦える。と、思った際、オルグドラシルの根を解き分けて地上へと飛び出す光。それは天へと上昇し形を作り始めた。

 それは龍だ。光り輝く龍がオルグドラシルの頭上にて回り始めた。

 

「あ、あれが神龍⁉︎」

 

 ガオゴールドは驚愕した。だが、それ以上に驚いたのは、龍が分裂して五つとなった事だ。

 それは、ガオレンジャーとオルグ達の間隙を縫う様に降り立つ。光はやがて収まっていくと……。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 晴れた光の中に五人の人影が立っていた。それは、光の中から飛び出して来る……。

 

 

「灼熱の獅子! ガオレッド‼︎」

 ライオンを模した赤色の戦士が降り立ち…

 

「孤高の荒鷲! ガオイエロー‼︎」

 鷲を模した黄色の戦士が降り立ち…

 

「怒涛の鮫! ガオブルー‼︎」

 鮫を模した青色の戦士が降り立ち…

 

「鋼の猛牛! ガオブラック‼︎」

 牛を模した黒色の戦士が降り立ち…

 

「麗しの白虎! ガオホワイト‼︎」

 虎を模した白色の戦士が降り立った。

 

 

「命ある所、正義の雄叫びあり‼︎

 百獣戦隊ガオレンジャー‼︎」

 

 

 ガオレッドを中心として、戦士達は力強く名乗った。陽達3人に加え、登場した5人を合わせて8人となる。

 

 

『この地、日と月が四千と二十度、交差を果たした時、地を毒し壊す災厄が現れん……その時、地に生きる者達は、我が分身に宝珠を納め、玄武と出会わせよ……。

 我は悠久の時を経て目覚め、異国の地より召喚せし八人の戦士と共に災厄を鎮めん』

 

 

 予言に記された八人の戦士が今、降臨した。

 

 

 〜遂に集結した八戦士……それは、先代ガオレンジャー達だったのです‼︎ ウラ率いる、オルグ軍団との瓏国の存亡を賭けた戦いが今、幕を開けたのです‼︎〜


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