帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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久しぶりに本編に突入です‼︎
今回から、最初の本編を『一章 金色の竜』、次の本編を『二章 鬼地獄編』と改めてました‼︎


二章 鬼地獄編
quest32 混血鬼(オルグ)の涙


 〜お前は生まれた事自体が罪だ‼︎〜

 

 〜何で、お前は生まれて来た‼︎〜

 

 〜何て醜い子なんだろう…‼︎〜

 

 外を歩けば、大人達から吐き掛けられる罵声と蔑み。歳の近い子供達からは

 

 〜見ろよ‼︎ 鬼が来たぞ‼︎〜

 

 〜やーい、鬼子! 鬼子!〜

 

 と、馬鹿にされ仲間にも入れて貰えない。両親に連れられ、夕闇を歩く子供達が羨ましかった。だが、自分には父も母も居ない。母は自分を産み落とし、絶叫したと言う。頭から生えようとしている小さな角を見て……。

 

 〜呪われた子が生まれた……鬼の血を引く子が……‼︎〜

 

 母はまだ生娘だった頃、野草を採取していた際に見ず知らずの男に襲われて乱暴された挙句、放置されたと言う。

 だが何より苦痛だったのは、泣き崩れる母が最後に見た時、自身を犯した男の影が見る見る異形に“鬼”に姿を変えた事だった。

 更に酷な事に、その一件で母は子供を身篭ってしまった。誰にも打ち明けず、母は臨月となって子を産んだ。

 だが、鬼に付けられた傷跡は赤子にまで及んでいた。頭から小さく生えた角……それこそ鬼の証にして、自身の忘れたくも忘れられない過去の恐怖そのものだった。

 やがて、自分が物心を付く頃には角は長く伸びて隠し切れなくなった。母はまだ小さな自分を怯えた目で……。

 

 〜どうして産まれてきたの⁉︎ お前の様な鬼が⁉︎〜

 

 と、泣き叫んだ後に家を飛び出し、裏の崖から身を投げて果てた。

 母の死は自分が生まれたせいだ……村人に怒られるのは自分のせいだ……そう後ろ向きに考える内に、少女は人の目から逃れる為に村から出た。だが、何処に行っても自分は嫌われる。そんな境遇でも、仲間が欲しかった。自分と同じ様な姿をした仲間を……。

 やがて、鬼達が根城としている場所を見つけ苦労しながらも辿り着いた。其処から、自分を受け入れてくれるだろうと信じて……。

 だが、それは叶わなかった。彼等は、自分と同じく角を有していたが、見るに耐えない異形の姿をしており人には程遠かった。だが、自分は角を有しているが見た目は人である。

 そんな自分を見た彼等は「人間のガキ」と襲い掛かったが、やがて鬼の血が流れている事を知ると……

 

 〜人の血が混じっているだと⁉︎〜

 

 〜ならば、こいつは混血だ! 混血の鬼だ‼︎〜

 

 〜薄汚い……半端者め‼︎〜

 

 人には鬼子と蔑まれ、鬼には混血の鬼と蔑まれる……その時に自分は悟った。私は、この世の何処にも安住の場所は無いのだ、と……。

 

 

 

「ねェ……兄さん……? 何してるの?」

 

 ある日の休日……祈は夕飯の買い出しを終えて、リビングに入ると、陽の何時もと異なる光景に驚愕していた。

 陽が女の子を連れて来ていたからだ。相手は祈も良く知る少女だ。以前、合宿中に知り合った女の子……その娘を家に連れて来たのだ。確か、摩魅とか……。

 これ迄、陽が女の子を家に上げた事は無い。強いて言えば、舞花ぐらいだ。その兄が、顔見知りとは言え女の子を家に、しかも自分の留守中に上げていたのだ……。

 ただそれだけなら良いが、彼女は生まれたままの姿、正確には裸体にバスタオルを一枚、巻いただけの状態で、リビングにて陽と二人っきりで居た。

 珍しく、祈は自分の中に黒い感情が渦巻いているのを感じた。それは、ズズズ…と徐々に広がって行くのを感じる。

 祈の異変を感じ取った陽は、すかさず弁解に入る。

 

「……一応、勘違いしない様に言っておくが、何も無いからな?」

 

 しかし、その言葉が拙かった。ただでさえ、爆発寸前だった祈の理性は完全に弾け飛んだ

 風もないのに、ユラユラと髪を揺らしながら、祈はズンズンと陽に迫った。

 

「何も? 何も無い? 何も、って何? それはつまり、この後、何か始まる予定だったの? 私が帰って来る迄に……」

 

 ブツブツと念仏の様に繰り返す祈に対して、陽は「ヤバい」と感じた。だが、時既に遅く……。

 

「私が帰って来る迄に一体、何をしようとしてたのか白状しなさい! この変態! 淫乱! スケベ!」

 

 何時もの冷静な祈は何処へやら、感情のままに罵詈雑言を捲し立てて来た。陽は暴走する妹に押されながらも、何とか宥めようとする。

 

「お、落ち着けよ、祈……」

「これが落ち着いていられますか! 自分の兄が他所の女の子に不純な行為を働こうとした場面に鉢合わせた妹に向かって『落ち着け』って兄さん、どう言う精神状態で言ってるの⁉︎」

「だ、だからな……」

 

 完全に取り乱している祈に、陽は取り付く島も無い。余りの剣幕を見兼ねた摩魅は二人の間に入り込み……。

 

「あの、祈…さん……? 私とお兄様の間には、まだその様な事は……」

「貴方は黙ってて‼︎」

 

 フォローに入ろうとした摩魅を押し黙らせる様に怒鳴る祈。

 その後、祈の怒りを収める為に陽は苦労する羽目になった……。

 

 

 

 それから数十分後、リビングにて漸く落ち着きを取り戻した祈を隣に座らせた陽は、目の前に座る摩魅を見た。

 因みに、何時迄も裸では可哀想なので、祈のパジャマを着せている。

 

「それで? 彼女が、我が家に居る理由は?」

 

 不機嫌な様子で、祈は尋ねる。陽は頭を掻きながら事情を説明した。

 

「あの戦いの後、彼女をガオズロックにて匿っていたけど、ガオズロックはオルグと闘いの際は必要となるから、彼女を長居させられない。

 あと、お風呂に入れたり替えの服を用意したりする必要もあったから……」

「……お手数、お掛けします……」

 

 申し訳無さそうに頭を下げる摩魅。そうして、漸く事情を察した祈は以前から疑問に思っていた事を尋ねた。

 

「他のオルグ達は混血鬼って呼んでいたけど……貴方みたいなオルグと人の混血って、他にも居るの?」

 

 祈の質問に対して、摩魅はフルフルと頭を横に振った。

 

「分かりません……少なくとも、鬼ヶ島に居た混血鬼は私だけです……。ひょっとしたら、私の様にオルグが人間の娘に強引に孕ませたり、女のオルグが人間の男を誑かして子を成したりして産まれた者は居たかも知れませんが……」

「は、孕ませ……」

 

 摩魅の説明に、祈は顔を赤らめる。まだ思春期を迎えて間も無い彼女に姓の話は慣れていないらしい。事情を察した陽も、コホンと咳払いした。

 

「……す、すみません……。兎にも角にも、私が鬼ヶ島に来たのは、かなり昔なんです……。

 当時、鬼ヶ島は有象無象のオルグ達が隠れ住んで居て、ガオレンジャーとの戦いに負けたオルグの残党達が住み着いてからは、更に数が増えたんです……」

「君は、そんな奴等に混ざって、上手く暮らせていたの?」

 

 陽は尋ねた。少なくとも、これ迄の他のオルグ達からの彼女への扱いを見るに、真っ当な扱いを受けていたとは言え無かった。まるで汚物でも見る様な……心底、軽蔑に満ちた様な冷たい目で見られていた。

 その言葉に摩魅は腕を捲った。先程は見えなかったが、よく見れば夥しい古傷が刻まれていた。

 

「これは、私が他のオルグから受けて来た洗礼です。人間の血を引く私は、オルグからしても虫ケラ以下なんです……。そんな私を、オルグ達は暇潰しの様に殴り痛めつけました……。幸か不幸か、私の中に流れるオルグの血が影響で打たれ強い方だったので……」

「酷い……」

 

 祈は凄惨な彼女の境遇に同情した。オルグの血が流れているとは言え、人間の血も混じっている摩魅は仲間として扱われなかったのだ。寧ろ、彼等の苛立ちや鬱憤を晴らす為の玩具として、扱われたらしい。

 摩魅は寂しそうに笑った。

 

「仕方ありません……。私には、其処しか居場所が無かったから……。人間の姿で紛れても、角がある事が分かれば石をぶつけられ追い出されるだけ……もっと悪ければ、殺されるかも知れない……。でも、鬼ヶ島でなら殴られたりするのを耐えて雑用をしていれば、置いて貰えた……だから……!」

 

 やがて、彼女の瞳からはポロポロと涙が溢れ出た。

 

「以前、ヒヤータに言われました……私は生まれた事自体が罪なんだって……だから、この仕打ちは償いだって……」

「生まれた事が罪なんて事は絶対無い……!」

 

 彼女の話を黙って聞いていた陽は、激情を抑えながら言った。

 

「例え、オルグの血が混じって居ようとも君は人間だ! 君は涙を流せる……涙は人間の証なんだ……!」

「……でも、私は人間にもオルグにもなれないし、どちらからも認めて貰えない……」

 

 陽の慰めに対し、摩魅は後ろ向きに応える。恐らく長年、受けて来た苦痛や侮蔑が、彼女に諦感させてしまったに違いない。そうしなければ、耐えられない程に辛く惨めな日々だったと理解するには容易だった。

 突然、祈は摩魅を真剣な眼差しで見つめた。何時しか、絶望に囚われていた彼女に、そうした様に……。

 

「あの日も言ったけどね……私と兄さんは血が繋がって無いの。それでも、私は兄さんの事を家族だって思っているし、兄さんも私を妹だと言ってくれるよ……。

 貴方だって、そうだよ。生まれが違っても、血が混じって居ても仲良くなれる……だって今、こんなに話し合えたじゃない……」

 

 祈の労りに満ちた言葉は、摩魅の傷ついた心を優しく見たして行った……。そんな優しい言葉を掛けて貰えたのは生まれてこの方、初めてだったからだ。 

 

「……ねェ、兄さん。明日、摩魅ちゃんの服を買いに行こうよ。きっと似合う服があるわ……」

「じゃ、彼女を此処に置いてあげて良いんだな?」

 

 祈の言葉を聞いた陽は、安堵した様に聞いた。祈はニッコリと笑う。

 

「勿論じゃ無い! 皆には、遠い親戚と言ったら大丈夫! 摩魅ちゃんも、よろしくね!」

 

 改めて家族として迎えられた摩魅は顔をグシャグシャにしながら、言葉にならない声で

 

「……ありがとう……ございます……」

 

 と、礼を言い続けた。

 

 しかし、陽達は気付かなかった。三人の様子を外から伺っていた二人組の存在に……。

 

「どうやら、親方様の思惑通りに進んだ様で、ございます……」

 

 それは、オルグ忍者隊に属するくノ一、鬼灯隊の一人であるミナモだ。

 

「……殺さないの?」

 

 もう一人も鬼灯隊の一人、リクである。手には苦難をちらつかせていた。

 

「駄目よ、まだ殺しては駄目、でございます。私達の任務は飽くまで見張る事……」

「むゥ……残念……。じっくり、嬲ってやりたかったのに……」

 

 リクは鉄面皮な表情から一変し、交戦的な笑みを浮かべた。

 その様子を見たミナモは、嗜めた。

 

「リク……良い加減に直しなさいな、獲物を殺さない様に遊ぶ悪い癖……。忍びなら、スマートかつクールに殺す事が真骨頂、でございます……」

「……努力はする……」

 

 ミナモに嗜められたリクは、小さく呟く。

 

「さて……私達は一旦、親方様に報告へ戻りましょう、でございます」

「…うん…」

 

 そう言い残すと、二人は夜の帳の中に消えて行った……。

 

 

 一方、ガオズロック内では、テトムが祈りを捧げて居た。ガオゴッドと更新をはかる為だ。

 

「荒神様……どうか、お応え下さい……」

 

 と、彼女の必死な祈りに応え、風太郎の姿で現れるガオゴッド。

 

 〜テトム……〜

 

 漸く、姿を見せた彼にテトムは尋ねた。

 

「荒神様、オルグ達は既に戦力を削がれた様子……しかし、不安な要素が拭えません……。最近、その姿を見せない、あの男が……」

 

 〜ガオネメシス、だね?〜

 

 どうやら、風太郎にはテトムの考えは理解している様子だった。最初の頃は、ガオレンジャー達の前に頻繁に現れて底知れない強さを見せつけた謎の戦士ガオネメシス……。

 しかし、未だに彼の実力は未知数である。特に、風のゴーゴや水のヒヤータ等と、幹部級のオルグ達が前に出る際は、その底知れぬ強さをチラつかせながら、決して本気を出そうとしなかった。つまり、彼が本気を出した際には、どれ程の脅威となるか、テトムにさえ計り知れない。

 

 〜テトムの気持ちは分かるよ……ガオネメシスの正体について……その真の強さについてだね。

 奴の素性については不明な点が多いけど、僕も調べてみたんだ……。そしたら、ヒヤリとする様な事が分かったよ……〜

 

「何ですか?」

 

 テトムは、ガオゴッドをして其処まで言わしめるガオネメシスの正体に興味を持った。

 

 〜今から二千年以上前に存在した、とある戦士の話なんだけど……〜

 

 そうして、ガオゴッドは語り始めた。テトムは黙したまま、耳を傾けた。

 

 

 

 翌日、陽達はデパートに来ていた。摩魅の服を見繕う為だ。

 祈は女の子向けの服売り場で、摩魅の服を色々とコーディネートして見る。

 

「これなんか、どうかしら?」

 

 祈はヒラヒラした飾りが付いたワンピースを祈に見せた。摩魅は、首を傾げた。

 

「私、人間の流行りは分からなくて……」

「これ、今期の新作なんだよ!」

 

 祈の方が気合いが入っている様子だ。まるで妹が出来た様で嬉しかったのだ。その後も、あれやこれやと色々と試して見た。

 陽は離れた場所に腰を下ろして、二人の様子を見ていた。女の子の買い物は、陽には理解が出来ないから祈に任せていた。そんな姿を見ていると祈が小さい頃、冴に連れられて服を買いに行った時を思い出す。

 あの頃は、冴に対して陽は仄かな想いを抱いていた。でも、今は違う……。冴を好きだったのは、異性としてでは無く姉として好きだったのだ。

 等と考えていると……。

 

「竜崎?」

 

 ふと声がした為、振り返ると其処にいたのは同級生の鷲尾美羽だった。学校の制服とは異なり私服を着ており、セミロングの濃い金髪をシュシュで纏めていた。

 

「鷲尾さん? どうして、此処に?」

「暇潰し。竜崎こそ、何してんの?」

 

 やや素っ気無い口調で、美羽は応えた。そして、祈と摩魅の姿を見て頷く。

 

「祈の付き合いか……あっちの娘は?」

「えっと……親戚の娘……かな?」

「何で疑問形?」

 

 言葉を濁す様な口調で答えた陽に、美羽は訝しげに返した。

 

「ま、いいけど……。隣、良い?」

「え……どうぞ……」

 

 そう言うと、美羽は陽の隣に腰掛けた。

 

「竜崎さ……疲れてるでしょ……」

「いや……買い物は祈に付き合って来ただけだし……」

「そう言う事じゃ無くて……」

 

 急に美羽は、陽を見つめる。

 

 

「いつ終わるか分からない戦いの日々、ガオレンジャーとして戦う事に……て言う意味……」

「‼︎」

 

 

 今度は陽が、美羽を見た。今、確かに彼女の口から『ガオレンジャー』と発せられた。

 

「どうして君が、ガオレンジャーを……」

「知ってた。竜崎が、ガオレンジャーとして戦ってる事も、パワーアニマルの事も、オルグの事も……全部ね」

 

 美羽は淡々とした様子で話を続ける。陽は鳩が豆鉄砲を食らった様に唖然としていた。

 だが、気にする様子なく彼女は続けた。

 

「竜崎……もし戦いが辛いなら、これ以上は……」

 

「兄さん⁉︎」

 

 突如、祈の呼ぶ声に気付く。振り返ると、祈が居た堪れない様な面持ちで立っていた。

 

「あ、祈。もう良いのか?」

「うん……。えっと、鷲尾さん……ですよね?」

「……私、もう行くね……」

 

 と言い残し、美羽は踵を返すとエスカレーターの方角まで歩き去って行った。

 

「……鷲尾さんと何の話してたの?」

「…ん…学校の事。最近、学校の行事とかサボりがちだったからさ」

「……そう……」

 

 それ以上、祈は聞いてこなかった。陽はベンチから立ち上がると……。

 

「……ファミレスでも行こうか?」

 

 と、祈に尋ねて来る。祈はスカートの裾をギュッと摘みながら、小さく頷いた。

 やがて、やって来た摩魅を連れて衣服フロアから去っていく三人。その様子を遠方から、美羽は無表情ながらも厳しい表情で見ていた……。

 

 

 

 ファミレスに向かう途中、三人は驚く程に無口だった。祈はチラチラと陽の様子を伺って見て来る。陽は、挙動不審な妹視線に気づき……

 

「どうしたんだ?」

 

 と、尋ねる。祈は顔を赤く染めて……

 

「……別に……」

 

 と、そっぽを向いた。

 

「? 変な奴だな……」

 

 祈の様子を怪訝に感じながら、陽は首を傾げる。摩魅は二人の後ろに隠れる様に歩いていたが、祈が振り返り……

 

「どう、摩魅ちゃん? 気に入った?」

 

 と、聞いてみる。摩魅は、フリフリしたレースのワンピースを着ており、角を見えない様に帽子をかぶっていた。

 側から見れば可愛らしい美少女だが、本人は慣れていないのか、様子がもどかしかった。

 

「スカートが……ヒラヒラしてて……落ち着かない……」

「すぐ慣れるよ。それに、凄く似合ってるよ」

 

 祈は摩魅に笑い掛けたが、彼女は照れ臭そうに俯くだけだ。陽は隣を歩きながら、微笑ましい様子で見ていたが……。突然、G -ブレスフォンがけたたましく唸り始めた。

 陽はハッとして、ブレスフォンを通信出来る様にした。

 

 〜陽! オルグ達よ! 恐らく、貴方の居る場所から近いわ! 大神と佐熊も向かってる‼︎〜

 

「分かった! 直ぐに向かう‼︎」

 

 どうやら、オルグ達が現れたらしい。陽は意を決して、祈達に振り返った。

 

「オルグ?」

「ああ! 祈は摩魅ちゃんと一緒に離れて……って言っても無理か……」

 

 陽は苦笑しながら尋ねる。祈は笑いながら

 

「勿論、私も行くわ! 兄さんの足手まといにはならないから!」

 

 強い口調で言い放つ祈。陽は溜め息を吐きながら……。

 

「分かった……僕から離れるなよ…!」

「うん! 摩魅ちゃんも離れないでね!」

「は…はい…」

 

 そう言って、陽達は駆け出した。

 

 

 

 現場は大変な事態となっていた。時計や信号機等と言った電力機器が、パチパチと火花を散らしながら過剰に点滅したり車が暴走したりと、パニックとなっていた。

 

「ははは‼︎ ええで、ええで‼︎ もっと暴れまくりや‼︎」

 

 鬼灯隊の一人であるくノ一オルグ、ライが信号機の上に立って、凄惨な眺めを見下ろしていた。

 

 

「止めろ‼︎」

 

 

 騒ぎを聞き付けた大神と佐熊が現れた。ライはニヤリと笑う。

 

「来たな、ガオレンジャー‼︎ 待っとったで‼︎」

 

 そう言いながら、ライは二人の前に降り立った。

 

「こりゃ一体、何の真似じゃ‼︎」

 

 下手をすれば大惨事を引き起こし兼ねないやり口に、佐熊も憤る。ライはニヤリと笑いながら…

 

「派手に行動を起こせば、お前等は必ず現れると踏んだからな‼︎ ウチ等、オルグ忍軍は他の四鬼士の様な周りくどい真似はせえへん……あんた等に的を絞ったったんや! 感謝しぃや!」

「何が感謝だ‼︎ 」

 

 その言い草に、大神は激昂した。例え、自分達を的に絞った所、周りに及ぶ被害の方は甚大なのだから、とても許せるものじゃない。

 

「お前達の行動で何人の人間が命を落とすか……考えた事があるのか⁉︎」

「はァ? 何、眠たい事を言ってんねん? ウチ等は、オルグや。人間が何百人、死んだか一々、数えるかいな。寝言は寝てから言いや」

「き、貴様……!」

 

 人の命を蔑ろにしたライの発言は、大神や佐熊に義憤を抱かせるには適し過ぎていた。

 分かっていた事だ、オルグと人間は決して混ざり合う事の無い水と油である事を……。

 それは、目の前に居るライとて例外では無い。人間を狩るべき獲物としか見ていない。

 

「大神さん! 佐熊さん!」

 

 その時、陽が到着した。暴走する車や逃げ惑う人々の姿を見た陽は怒りを滲ませながら、ライを睨む。

 

「何の為に、こんな事を?」

「俺達を始末する為だそうだ」

 

 大神に真意を聞いた陽は益々、怒りを発した。しかし、ライは陽の様子に意を介さず、彼の後ろに居た祈と摩魅を見て北叟笑む。

 

「これは良いわ! 巫女の生まれ変わりに、裏切り者の摩魅も一緒とは! 丁度良いわ、あんた等の首はウチが貰うで‼︎

 鎖鎌オルグ‼︎」

「ハッ‼︎」

 

 ライの呼ぶ声に応え、姿を見せるオルグ魔人。それは鎖鎌が右腕に融合し、頭部は巨大な鎌となったオルグだった。

 

「アンタを連れて来て正解やわ! ウチを援護しィ!」

「御意…!」

 

 鎖鎌オルグは右腕の鎖鎌を取り外し、左手に持つとグルグル振り回した。

 

「皆、行こう! 変身だ‼︎」

「ああ‼︎」

「がってん‼︎」

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 三人はG -ブレスフォンを起動させて変身、ガオゴールド、ガオシルバー、ガオグレーへと姿を変えた。

 

「百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎ 行くぞ、オルグ共‼︎」

 

 ガオゴールドはドラグーンウィングを構えながら号令を出す。その際、ライは指を鳴らすと……

 

「下忍オルゲット‼︎」

「ゲットゲット‼︎」

 

 二人のオルグ魔人の前に姿を現すオルゲット達。だが、その姿は何時ものオルゲットとは違った。

 全員が漆黒の忍び装束を着ており、手には棍棒の代わりに忍者刀を装備している。

 

「そいつ等は、オルグ忍軍直下のオルゲットや! 並のオルゲットより、ずっと強いで‼︎」

 

 ライは得意げに言った。成る程、確かにオルゲットにしては、強さと素早さが桁違いだ。

 しかし、様々な修羅場を潜り抜けて来たガオレンジャー達には敵では無い。

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 ガオシルバーの、ガオハスラーロッドによる斬撃が下忍オルゲット達を斬り捨てていった。

 

「大熊豪打‼︎」

 

 ガオグレーの、グリズリーハンマーによる打撃が下忍オルゲット達を吹き飛ばした。

 ガオゴールドは、ライと鍔迫り合った。互いに引かずに拮抗となる。

 その際、鎖鎌オルグの邪魔が入り、距離を詰めた。

 

「カマカマァ‼︎ 先ずは、あの娘から……‼︎」

 

 鎖鎌オルグは、そう言って鎖鎌を祈に目掛けて投擲した。ガオゴールドは止めに入ろうとするが……

 

「アンタの相手はウチや‼︎」

 

 ライが邪魔をして行手を阻む。そうしてる間に、鎖鎌は祈に届こうとするが……。

 急に祈の前に現れた見えない壁に当たり、鎖鎌は弾き返されてしまった。

 

「な、何ィィ⁉︎」

 

 鎖鎌オルグは自身の鎌を破壊された事に驚愕した。しかし、祈は澄ました顔で……

 

「私が兄さんの弱点になると思った? お生憎様、自分の身くらい自分で守れるわ‼︎」

 

 以前の弱い一面は無くなり、強気な口調で言った。ガオゴールドも驚くが、気を抜いたライを潜り抜け飛び上がる。

 

「龍牙…墜衝‼︎」

 

 ドラグーンウィングにガオソウルを纏わせ、高所からの斬撃を放つ。重力が加算された斬撃は鎖鎌オルグの鎖による防御を崩した。

 

「今だ‼︎ シルバー、グレー‼︎」

 

 ガオゴールドは三人の破邪の爪を合わせ、合体させた。

 

 

「破邪三獣砲‼︎ 邪気…滅却‼︎」

 

 

 合体技、破邪三獣砲から放たれた三色の光弾が、ライと鎖鎌オルグを包み込んだ。

 光が収まると、木っ端微塵に吹き飛んだ鎖鎌オルグとライを模した人形が転がっていた。

 

「く…変わり身の術か…‼︎」

 

 すでに逃走したライに対し、ガオシルバーは毒吐いた。

 その様子を離れた場所から見ていたのは、ニーコだった。彼女はニヤリと笑うと、手にしていたボーガンを構え……

 

「オルグシード抽出剤、発射♡」

 

 と、言うと粉々になった鎖鎌オルグに矢が放たれる。すると、バラバラになっていた肉体は再び結合し始め、更に巨大なオルグ魔人として復活した。

 

「カマカマァ‼︎」

 

 祈に破壊された鎖鎌も元通りとなった。ガオゴールドは、ガオサモナーバレットを取り出し……

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 撃ち出された三つの宝珠に呼応し、召喚されたガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンと三体のレジェンド・パワーアニマル。ガオシルバーも宝珠を取り出すが、ガオグレーに止められた。

 

「止めておけ、ガオウルフ達の傷は癒えておらんだろう」

 

 先の戦い、ゴメズや狼鬼として操られていた時の反動が重なり、ガオウルフ達に蓄積されたダメージは極めて著しかった。今の状態で、ガオハンターを出しても負けてしまうのは明白だ。ガオシルバーは済まなそうに宝珠を下ろした。

 

「ワシに任せておけ‼︎ 百獣召喚‼︎」

 

 ガオグレーは、そう言って宝珠を打ち上げた。と、その際、姿を消した筈のライが奇襲を仕掛けて来る。

 

「鎖鎌オルグは囮や‼︎ その隙に巫女の首は貰うでェェ‼︎」

 

 そう言いながら、忍者刀を構えながら祈に襲い掛かる。ガオシルバーはガオハスラーロッドに持ち替え、ライと対峙した。

 

「貴様の相手は俺だ‼︎」

「チィ! 邪魔すなや‼︎」

 

 ガオシルバーはガオハスラーロッドをサーベルモードにして、ライの刀を受け止めた。

 

 

 一方、ガオパラディンは鎖鎌オルグと対峙していた。ユニコーンランスで鎖鎌オルグを攻撃しようとするが、その際に放たれた鎖鎌がガオユニコーンに絡まる。

 

「カマカマ‼︎ 捕まえた、もう離さんぞ‼︎」

 

 そう言って、鎖を引き寄せようとした刹那……。

 

 

「離さん、だと? ならば、絶対に離すなよ?」

 

 

 そう言って、横から鎖を掴む影。ガオグレーの搭乗するガオビルダーだ。

 

「ぬ、ぐ…‼︎ な、何をする……‼︎」

「ほれ? どうした、離さんのじゃ無かったのか?」

 

 ガオビルダーの左腕、ガオリンクスが鎖を掴んだまま持ち上げる。思わず鎖と融合している鎖鎌オルグも引き摺られてしまった。

 

「ボアーバズーカ‼︎」

 

 やっとの思いで立ち上がった鎖鎌オルグに、右腕のガオボアーから放たれた光弾を発射した。直撃したオルグは後ろまで吹き飛ばされ、鎖はガオビルダーが持っていた為、その反動に耐えられず引き千切れてしまった。

 

「よ、よくも……‼︎」

「ゴールド、決めるぞ‼︎

「分かった‼︎

 

  双獣爆砕! ダブルスインパクト‼︎」

 

 二人同時に、ユニコーンランスとリンクスパンチを叩き込む。その凄まじい衝撃で、鎖鎌オルグの身体に響き渡り……

 

「カマ……カマカマァァァ!!!」

 

 断末魔を上げながら、大爆発した。

 

「ああ⁉︎ 鎖鎌オルグが⁉︎」

「後は貴様だ‼︎ ブレイクモード‼︎」

 

 トドメを刺さんと、ガオシルバーはブレイクモードにして宝珠を番えるが……。

 

「クッ…‼︎ この勝負は預けたで‼︎」

 

 と、捨て台詞を残して煙玉を投げ付け、消えてしまった。

 

「ち……逃したか……‼︎」

 

 ガオシルバーは、してやられたと言わんばかりに呟く。其処へ祈と摩魅が駆け寄って来た。

 

「大神さん、大丈夫ですか⁉︎」

「ああ、何とかな……。しかし、さっきのオルグ、かなりの手練れだ……‼︎」

 

 と、同時にガオゴールドとガオグレーも降りて来る。

 

「シルバー、ありがとうございます‼︎ 祈を守ってくれて……」

「お疲れじゃったのォ、大神‼︎」

 

 ガオシルバーの健闘を称える二人に対し、シルバーもサムズアップで返した。

 和気藹々とした様子を遠方より伺う人影……其れは、無表情の面持ちの美羽だった。

 

「……まだ、その時じゃ無い…か……」

 

 と、言い残すと、その場から去って行った……。

 

 

 〜オルグ忍軍、最初の刺客、黄のくノ一、ライを退けたガオレンジャー! しかし、何かを知っていると思しき美羽の真意は、一体、何なのでしょうか⁉︎〜




ーオリジナルオルグ
−鎖鎌オルグ
ライが連れて来たオルグ魔人。オルグ忍軍に所属するオルグ忍者の一人で、鎖鎌に邪気が宿り変異した。
ライには、ガオレンジャーの注意を引く為の囮としつ見做されていた為、忍軍での実力は低い。

−下忍オルゲット
オルグ忍軍に所属するオルゲット。見た目は黒い体色、棍棒の代わりに刀を所持しただけしか変化は無いが、実力は普通のオルゲットよりは強いらしい。

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