帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest33 混沌の獣達

 鬼ヶ島にある、オルグ忍者達が集まる一室では……。

 

「呆れ果てて物が言えん……」

 

 鬼灯隊の纏め役であるくノ一、ホムラは言葉通り呆れた様子だった。

 

「ガオレンジャーを誘き寄せ倒す、これでは今までの短調なやり方と変わらないでは無いか……」

「全くで、ございます……。ライは昔から爪が甘すぎましてよ……」

「う…ぐ…」

 

 仲間にネチネチと責め立てられるライは居た堪れ無い様子で、縮こまっていた。

 

「アハハッ‼︎ こりゃ良いや、何時も怒られるのはアタイだけど、ライが怒られてら‼︎」

「……」

 

 ライの説教されている姿を腹を抱えながら笑うコノハと、黙々と読書するリク。

 

「喧しいわ、コノハ‼︎ お前にだけは笑われる筋合いは無いねん‼︎ 黙っとり‼︎」

「ハァ⁉︎ 失敗した八つ当たりを、アタイにする気か⁉︎ 上等だよ、返り討ちにしたらァ‼︎」

 

 売り言葉に買い言葉、と言った具合に喧嘩腰になるライとコノハ。いよいよ呆れ果てた、と言わんばかりにホムラとミナモは顔を見合わせる。

 

「……止めませんの?」

「ああなった二人を止められるのは、親方様だけだ。其れとも、ミナモが止めに入るか?」

「遠慮しておく、でございます。とばっちりを受けるのは、まっぴらですもの……」

 

 互いに気の済むまでやらせておく、と言うスタンスを取ったホムラとミナモは冷ややかに言った。

 そうこうしてる間に、ライとコノハの喧嘩は益々、ヒートアップして行った。

 

「この際だから言うからけどよ……アタイは前々から、テメェが気に食わなかったんだよ‼︎ 何かに付けて、手数にモノを言わせる汚ねぇやり口にな‼︎」

「ハッ! そら、コッチの台詞や‼︎ 計算も作戦も無く、牛みたいに突っ込んでいくだけのノータリンよりはマシちゃうか⁉︎」

「ああ⁉︎ んだと、コラ‼︎」

「やるんか、オラ‼︎」

 

 

「止めないか、馬鹿共が‼︎」

 

 

 突如、室内に響き渡る重く低い怒声。全員が振り返ると、頭領のヤミヤミが佇んでいた。

 

「忍びが感情に任せて争うとは……忍びたる者は常に冷静に、かつ的確に……掟を忘れるな!」

「お、親方様…‼︎」

 

 ヤミヤミの叱責に、ライは頭を下げた。それに倣い、他のくノ一達も頭を下げる。

 

「貴様もだ、コノハ…! 己の不甲斐なさを責められて我を忘れるとは、過ちを認めたも同然! 下らぬ事で、忍軍の秩序を乱すな‼︎」

「……ハッ‼︎」

 

 流石のコノハも、頭領の言葉には従わざるを得ないとして渋々に頭を下げた。

 

「して、親方様……、我々の今後の動きは……」

 

 ホムラが、静寂を破り尋ねた。ヤミヤミは振り返り……

 

「我々は、これより外部よりの監視に徹する。此方からは手を出さずにな…」

「なッ⁉︎ それは、何故に……⁉︎ 我々、オルグ忍軍の全兵力を用いれば、ガオレンジャーを叩き潰す事なぞ……」

 

 ホムラは納得いかない、と言わぬばかりに声を上げるが、ヤミヤミの無言の圧に黙らされた。

 

「貴様等には、打ち明けておこう。テンマ様が、遂に『鬼還りの儀』の準備に入られた」

 

『⁉︎』

 

 この言葉には、鬼灯隊の面々は驚愕を隠せなかった。と、同時に表情には期待も込められていた。

 

「では……我々、オルグの時代、再臨と言う事で⁉︎」

「左様……。既に、テンマ様は来るべき日に備えて、力の蓄えに入った。

 後は……我々が“穴”を開けるだけだ。既に綻びの場所は粗方、ニーコが三つまでは確保した。後は二つ……」

「我々が、その綻びを見つけ出すので、ございますね?」

 

 ミナモの言葉に、ヤミヤミは頷く。

 

「そうだ……綻びの場所を確保し、その一帯に楔を打ち込むとは、我々にしか出来ぬ。代々、かの穴を守護して来た我等、オルグ忍軍にしかな……。

 だが、鬼還りの儀を行うにあたり、不安要素も存在する。

 あの腹の底を読ませぬ男、ガオネメシス……そして、メランだ……」

 

 ヤミヤミは厳しい表情を浮かべながら、淡々と続けた。

 

「ガオネメシスは、ガオの戦士にありながら、オルグの側に付いたが、奴は明らかに我々とは別の意図があって動いている……! メランは捨て置いても、我々に牙を剥く事は無いだろうが、計画に障りが有ってはならない……有事の際には、我々の手で始末を付けねばなるまい」

「……ツエツエ達は? 勝手に独立して、自分達の軍隊を組織したって、ニーコが言ってた……」

 

 それまで、無言を貫いていたリクが尋ねてきた。ヤミヤミは鼻で笑う様に肩を竦ませた。

 

「奴等こそ、さしたる脅威にはなるまい……。放っておいても、勝手にガオレンジャーに戦いを挑み、勝手に倒されるのが関の山だ。それより、ガオレンジャーの一人でも葬ってくれれば、手間が省けると言う物……気にするな」

 

 あっさりと、ツエツエ達を見限る様な言い草のヤミヤミ。非常に余談だが、彼の弟であるドロドロも、作戦の為とは言え、ツエツエの角を切り落としたり、囮として使い殺したりとぞんざいな扱いをしたのだが……。

 

「これより、我々は残された綻びの探索、ガオネメシスの監視に入る! メランは拙者が自ら監視し、あわよくば始末する。貴様等は、己の使命を全うせよ‼︎

 ミナモ、リク‼︎ 貴様達は引き続き、ガオゴールドの身辺を当たれ‼︎ 決して悟られぬ様にな……」

『ハッ‼︎』

 

「ライ、コノハ‼︎ 貴様等は綻びを探索に当たれ‼︎

 繰り返すが、これ以上に下らぬ問題を起こすなよ? 次は無いぞ…」

『ハッ‼︎』

 

「ホムラ‼︎ 貴様は、ガオネメシスを見張れ‼︎ だが、見張るだけだ‼︎ 一切、手を出すな‼︎ 良いな‼︎」

「ハッ‼︎」

 

 くノ一達に命令を下したヤミヤミは彼女達に背を向けた。

 

「失敗は許さぬ…。確実に成功させよ……散‼︎」

 

 その号令を最後に、ヤミヤミ達は一斉に姿を消した。

 

 

 

「ククク……遂に動き出したか……」

 

 某所にある崩れ落ちた洞窟内にて……ガオネメシスが歩いていた。その横には、ニーコが連れ添う様に歩く。

 

「はァい♡ 何もかも、計画通りに事は運んでいる、と言った具合ですわねェ……」

 

 ニーコも薄ら笑いを浮かべながら、ガオネメシスを見る。ネメシスは、再び「ククク…」と含み笑いを発した。

 

「異世界より採取したオルグベリーは既に配布した、後は時が来るのを待つばかりよ……鬼還りの儀を行えば、この地上に何万、何億と言うオルグが湧き出て来る……。

 そうすれば、地上は最高の宴となるだろう……‼︎」

「歓声は……人間達の苦痛に満ちた絶叫と悲鳴……ですわねェ?」

 

 ニーコは下卑た表情を浮かべながら、言った。

 

「時に、ネメシス様? “あのお方”は何と?」

「フン……一日も早く儀式を行え、と急かしてばかりだ……余程、無限に続く退屈に辟易してると見える……」

 

 どうでも良い、と言わんばかりに、ガオネメシスは言葉を切った。

 

「しかし、奴の為にやる訳では無い……。全ては我が悲願の為……これは、俺の“復讐”の為だ…‼︎」

 

 ガオネメシスのヘルメットのバイザーの奥から、妖しい輝きを見せた。その様子を、ニーコはクスリと笑う。

 

「テンマ様が、またヘソを曲げちゃいますよォ? ネメシス様、最近の態度が露骨過ぎますからァ……」

「クックック……構うものか……全て事が終われば、奴とも縁は切れる……それまでは精々、表向きの“王”として、君臨して貰うさ……」

 

 悪辣に笑いながら、ガオネメシスは洞窟の最深部に到着した。最深部の奥は何処までも漆黒の闇が広がる。

 

「使うんですかァ? この子達……」

「ああ……儀式が始まる前の余興として、ガオレンジャーを遊んでやるさ……。ククク……久しぶりに、貴様等の力を使う事になりそうだ……」

 

 そう言いながら、ガオネメシスはセピア色に輝く宝珠を翳した。すると、暗闇の中から紅色の六つの光が灯り、低い唸り声が響き渡った……。

 

 

 

 その翌日、ガオズロックは上空を飛行していた。今回はオルグが現れたからでは無い。今回は、別件にて用があったからだ。

 やがて、ガオズロックは着地した為、降り立つ。中から陽、大神、佐熊、テトムが降りて来た。

 

「ほう! これは、良い景観じゃ‼︎ 物見雄山には、持ってこいじゃのォ‼︎」

 

 佐熊は、カラカラと笑う。陽は見回すと、確かにピクニックやハイキングするなら、最高の穴場だろう。

 だが、今回は遊びで来た訳では無い。大神は、辺りを見回しながら……

 

「ガオウルフ! 俺だ‼︎」

 

 と、叫んだ。すると草木を分けながら、ガオウルフは姿を見せた。

 

「久しぶりだね、ガオウルフ‼︎ 元気そうで良かった‼︎」

 

 陽も言った。ガオウルフは小さく吠えた。

 

「大分、完治したらしいわね……」

 

 後ろから、テトムがやって来た。

 此処は、天空島を追われたパワーアニマル達の隠れ家であり、戦いの中で傷を負ったガオウルフ達が傷を癒す場所でもある。この場所を見つけたのは偶然だった。

 偶々、ガオズロックにて飛来していた際に、大地からのエネルギーが供給され易い、この場所を見つけた。

 大神は、ガオウルフ達の傷を癒す為、此処に彼等を呼び寄せたのだ。その甲斐もあり、オルグ達も、この場所には勘付いていない……寧ろ、邪気の化身である彼等では、場所を特定する事が出来ないのだろう……。

 

「ガオドラゴン達も、此処に来れば良いのにな……」

 

 陽は、ポツリと呟く。だが、ガオドラゴン達は姿を消して竜胆市内に残っている事を選んだ。

 曰く「自分達、レジェンド・パワーアニマルは体の出来が違う」との事だ。

 以前に比べ大分、柔らかくなったが、それでも頑固な性格は変わらない。

 

「天空島は、もっと良い所よ。空気も澄んでいるし、緑に溢れているし……」

 

 テトムは、しみじみとした様子で語る。陽も、ガオゴッドに天空島へ連れて行って貰ったが、その際に見た天空島は、オルグの侵攻によって荒らされて、見るも無惨な姿であった。

 その上、天空島はガオネメシスによって封印されてしまっている。パワーアニマル達の聖地が復活するのは、まだまだ先になりそうだ。

 

「早くオルグを倒して、パワーアニマル達に住む場所を返してあげなきゃね……」

 

 その陽の言葉は、他のガオレンジャー達にも響き渡る。

 オルグ達は、人間の平和を壊しただけに飽き足らず、パワーアニマルの住む場所まで奪ったのだ。

 天空島にて新たに育まれるであろう若いパワーアニマル達……今のままでは、それさえも叶わぬ願いだ。

 天空島を復活させ、パワーアニマル達の安穏を取り戻す…そして、オルグ達の手に落ちたガオレッド達を助け出す…自分達に出来る事は、それしか無い。

 

 

「クックック……相変わらず、愚かな奴等よ……」

 

 

 突如、聞こえた声に振り返ると、ガオズロックの上に佇む二人の影……。

 

「お前は…ガオネメシス⁉︎」

 

 姿を現したのは、これ迄に幾多とガオレンジャーの前に姿を現して、その絶大な力で危機へ陥れて来た悪のガオの戦士、ガオネメシスが立っていた。側には、テンマの側近であるデュークオルグ、ニーコも居る。

 

「どうして、お前達が⁉︎」

「何の事は無いさ、貴様等の行動など、こちらに全て筒抜けなのよ……情報などは力のある奴には、さしたる苦労も無く手に入るのだよ……」

 

 そう言って、ガオネメシスは陽の前に舞い降りた。

 

「クック……良い顔だ……正義を信じている、偽善を貫かんとする腹立たしい顔だ……」

「……何が言いたい⁉︎」

 

 人の神経を逆撫でする様な言動のガオネメシスに対し、陽は声を荒げる。ガオネメシスは含み笑いを上げた。

 

「クックック……貴様の気高き思想など、時を経て人の醜さを知れば知る程、脆く崩れ去る……所詮、その程度でしか無い、と言う事だ……」

「お前のたわ言なんか、聞く耳を持たないし理解する気も無い。僕にとって、オルグは地球を仇成す敵だ‼︎」

 

 その言葉を聞いたニーコは甲高い声で、嘲笑した。

 

「オルグは敵ィ? なら、貴方が受け入れた例の混血鬼も、敵であるとォ?」

 

 ニーコはニヤニヤしながら、陽を見つめた。

 

「摩魅は違う! あの娘は、オルグじゃ無い、人間だ‼︎」

「半分は、ねェ? でも、もう半分は私達と同じ、オルグですわァ。あの娘も自分の中にあるオルグの血が勝てば、貴方達の寝首を掻きに来るでしょうねェ」

 

 ニーコの辛辣な言葉が陽の胸を掻き毟る。摩魅が、自分達の寝首を掻く? 彼女は自分の辛い生涯を嘆いていた。オルグの血を引いて生まれた事で、人にもオルグにも拒絶されて生きて来た半生……それでも、彼女は前向きに生きる事を決意した筈なのに……。

 

「摩魅は……そんな事を絶対するか‼︎」

 

 彼女の涙ながらの告白を聞いた後、陽は摩魅の中にゴーゴやヒヤータの様な残忍な一面があるとは思えない、思いたくなかった。

 

「ふん……物事を見た目で判断するか…それも良かろう……。だが忠告してやるが、目で見える物だけが真実では無い。動物は直感で、目の前に居る者が敵か味方かを見分けるが……人間は知性が働く余り、余計な事を考えて敵味方の区別が付かなくなる……。貴様も、それの最たる例だ。

 もし、その混血鬼の娘が貴様の妹を手に掛ければ、貴様は笑って受け入れるのか? そいつを赦せるか? 以前も言ったが、人間は一皮剥けば獣のそれと変わらない。

 寧ろ、知性と言う堰に阻まれている獣性が解き放たれた時、人間は野生の獣さえも真っ青になる様な残忍な行為に及ぶだろう!」

 

 ガオネメシスに人間こそ、動物と変わらない獣性を持ち合わせていると言う真実を告げられ、陽は揺らいでしまった。

 

「摩魅が……祈を?」

「陽、乗せられては駄目‼︎ 無心になるの! 彼等は、貴方を動揺させる為に挑発しているだけ‼︎」

「クックック……動揺? それは違うぞ、ガオの巫女。俺は、つまらない理性に囚われている其奴を解き放ってやろうとしているだけだ」

 

 テトムは、ネメシスに揺さぶられる陽を嗜めるが、それでも尚、陽の心の隙に潜り込んで来る。

 

「テトム……大丈夫……! 僕は、こんな奴等の言う事を信じたりしない……‼︎」

「クスクス……その割には惑いに満ちているのが、見え見えですわァ♡」

 

 更に追い討ちを掛ける様に、ニーコが囁く。其処へ、ガオネメシスが割って入る。

 

「……まァ、良い……俺の言葉を信じようが信じまいが、全てが手遅れ。今更、貴様等がどう足掻こうとも、間も無く“鬼還りの儀”が完遂する為の手筈が整う……」

「鬼還りの儀?」

 

 ガオネメシスの発した謎の言葉に、陽は尋ねた。

 

「この地上を、オルグの楽園とする為の儀式さ。その儀式が行われれば地上は引き裂かれ、鬼地獄より何万、何億と言うオルグ達が這い上がって来るのだ……‼︎

 ハハハハ、壮観な眺めだぞ‼︎ 鬼霊界、鬼地獄に所狭しと蠢くオルグ達が地上を覆い尽くすのはな‼︎」

「ふ、ふざけるな…‼︎ そんな事をしたら、人間はどうなる⁉︎」

 

 ガオネメシスの語る壮大な目論見に、陽達は背筋が凍る。もし、それが実現すれば、血に飢えたオルグ達により人間は縊り殺され、地上は邪気に覆い尽くされてしまう。考えただけで震えが止まらない。

 

「ふ……さァな……。オルグ達に聞いてみるが良い……。遅かれ早かれ、やって来るからな……。

 そうだ、ガオシルバー。親切心で教えてやるが、鬼還りの儀を行うにあたり、生贄が必要となる。その時、捕まえてあるガオレッド達を役立たせて貰うつもりだ」

「な、何だ……と⁉︎」

 

 今度は大神は絶句した。ガオレッド達を生贄に……⁉︎ ガオネメシスは下卑た声で笑う。

 

「そう……地上と鬼地獄を繋げる扉を開く為の人柱として、奴等を利用するのだ……‼︎

 名誉な事だぞ? 新たな時代を切り開く為の、生きた楔として身を犠牲に出来るなんてな!」

「き…貴様…‼︎」

 

 仲間達を捨て石の様に扱うガオネメシスに対し、大神は怒りを滲ませる。

 

「ガオネメシスよ……一体、貴様は何の目的があって、オルグに味方をする? 何やら、単純にオルグへ味方するだけとは違う気がしてならんのだが……」

 

 佐熊の質問に対し、ガオネメシスは苛立ちを見せた。

 

「……貴様等との問答にも飽きた。鬼還りの儀が行われてしまえば、貴様等のやって来た事は水泡に帰す……だが、貴様等は俺を邪魔し過ぎた……見せてやろう! 地獄より這い上がって来た、復讐の炎を纏いし戦士の力を‼︎」

 

 そう言って、ガオネメシスは手をかざす。すると紫色の光が現れ、光が収まると右手には漆黒の武器が握られていた。

 

「これが、俺の武器……ヘルライオットだ‼︎」

 

 そう言いながら、ヘルライオットの鞘を抜く。其処から黒く妖しく輝く刃が覗いた。

 

「ヘルライオット……⁉︎ 破邪の爪、じゃ無いのか⁉︎」

 

 陽は困惑した。以前、ガオネメシスと対峙した際は他のガオレンジャーの武器を使っていた筈だ。

 ガオネメシスは、刃を向けた。

 

「これを、貴様等の使う脆弱な爪と一緒にしてくれるな‼︎

 ヘルライオットの破壊力を見るが良い‼︎」

 

 そう言って、ガオネメシスは刃を振るう。すると放たれた剣風が衝撃波と化して、陽達を吹き飛ばした。

 

「ク……なんて力だ‼︎」

 

 体制を立て直しながら、改めてガオネメシスの力に戦慄を覚える。恐らくだが、本気を出した奴の力は四鬼士達と同格、若しくは其れさえも上回るかも知れないからだ。

 

「さァ、変身しろ! 見せてやる! この俺、ガオネメシスの力をな‼︎」

 

 ガオネメシスが挑発して来た。どうやら、やるしか無いらしい。

 

「皆、変身だ‼︎ ガオアクセス‼︎」

 

 陽の掛け声で、三人はG−ブレスフォンを起動した。光が収まると、三人のガオの戦士が現れる。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

 

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

 

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

 

「命ある所に正義の雄叫びあり!

 百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 三人の戦士達は口上を述べながら、戦闘態勢に入る。しかし、ガオネメシスは余裕そうだ。

 

 

 

「フン……ならば、俺も名乗るとしよう……!

 叛逆の狂犬! ガオネメシス、参る‼︎」

 

 そう叫び、ガオネメシスは迫って来た。ニーコは、パチンと指を鳴らす。

 

「オルゲット、出番ですわよォ!」

「ゲット、ゲット‼︎」

 

 多数のオルゲット達を召喚すると、自身も身の丈ほどある巨大な大鎌を構えた。

 

「アハッ♡ 私、こう見えて結構、強いですよォ‼︎」

 

 ニーコは大鎌を振り下ろしながら、ガオシルバーに斬り掛かる。だが、ガオシルバーは寸での所で受け止めた。

 

「ンフッ♡ 良い反応ですわァ♡」

「その気持ち悪い喋り方ごと、黙らせてやる‼︎」

 

 仲間を盾に取られたガオシルバーは怒り心頭の様子で、ニーコを凄む。しかし、ニーコも負けては居ない。

 

「気持ち悪い、とは御挨拶ですこ、と! 私をツエツエちゃんと一緒にしてるなら、お気の毒様‼︎」

 

 ニーコは鎌を軽々と振り回しながら、攻撃を仕掛ける。非力そうな見た目に反し、オルグに相応しい怪力を持ち合わせているらしい。確かに、実力はツエツエ以上だ。

 

 ガオグレーは、グリズリーハンマーでオルゲット達を叩き伏せて行く。更には怪力にて、オルゲット達を投げ飛ばす、殴り飛ばすと力に身を委ねた豪快さを発揮した。

 

「グレー……ツイスター‼︎」

 

 ガオグレーは身体を一回転させて、グリズリーハンマーを持ったまま振り回した。するとグレーを中心に灰色の竜巻状となって、オルゲット達を吹き飛ばして行く。

 

「雑魚など、肩慣らしにもならんわい‼︎」

 

 力強く、ガオグレーは豪語した。

 

 ガオゴールドは、ガオネメシスと対峙していた。交錯する二つの刃は、力を拮抗させていた。

 

「ほう……少しは強くなったな……。メランが貴様に執心する訳だ」

「……お前達の好きな様には、させない‼︎」

 

 仲間達、大切な家族、そして地球……守る物が沢山あるガオゴールドには、敗北は許されない。

 目の前に居るガオネメシスを何としても倒さなければならないのだ。

 

「竜牙……墜衝‼︎」

 

 ガオゴールドは飛び上がり、一気に下へと斬り下ろす。放たれた斬撃は大地を抉るが、ガオネメシスには、さしたるダメージを与えられて無い様子だ。

 

「しかし……まだまだ緩い……‼︎」

 

 嘲笑いながら、ガオネメシスは後退してヘルライオットを鞘に納めて変形した。

 

「ガンナーモード‼︎」

 

 銃形態となったヘルライオットを構え、引き金を引く。すると三つ首の犬に似た銃口から、漆黒の光弾が複数発に渡り射撃された。

 

「うわあァァ!!!」

 

 至近距離による散弾銃の弾丸を受けたガオゴールドは、その衝撃で吹き飛ばされる。

 辛うじて立ち上がるが、胸部に鋭い痛みが走った。ガオスーツの恩恵が無ければ、即死は必至だっただろう。

 

「フン、その程度か……。 今の貴様等では逆立ちしても勝てんぞ? 」

 

 ガオネメシスの辛辣な言葉が、重傷を負ったガオゴールドにのし掛かる。

 これ程までに遠いなんて……これ程までに差があったなんて……! 自分達とガオネメシスの間にある壁の高さに、ゴールドは愕然とするしか無い。

 

「ネメシス様ァ? あんまり、本気を出すと死んじゃいますよォ?」

 

 ニーコが、ネメシスの横に立つ。振り返ると、ガオシルバーとガオグレーは虫の息状態だった。

 

「そ、そんな……‼︎」

「アハハッ‼︎ 弱い、弱ァい‼︎ 弱過ぎて、ガッカリですゥ‼︎ これじゃ、ガオレンジャーは鬼還りの儀を待たずに死んじゃいますねェ‼︎」

 

 鎌に付着したシルバーの返り血を舐めながら、ニーコは小馬鹿にした様に笑う。

 信じられない……今迄、戦って来た敵達の中で、この二人は明らかにレベルが桁違いだ。

 

「な、舐める…な‼︎」

 

 ガオゴールドは、ガオサモナーバレットを構える。バレットに、ガオソウルを装填していき……

 

「破邪…聖火弾! 邪気…焼却‼︎」

 

 バレットの銃口より放たれる金色の光弾……ガオゴールドの持てる全てを乗せて撃ち込んだ。

 しかし……ガオネメシスは蝿でも払い退ける様な気怠げな仕草で、その光弾を弾き飛ばした。

 

「ば……馬鹿な……⁉︎」

「これで分かっただろう? 貴様では、このガオネメシスに手傷一つ負わせる事は出来ん‼︎」

 

 勝ち誇ったネメシスの言葉が、ゴールドの耳に木霊した。だが、それと同時に蓄積したダメージと疲労がピークに達し、ゴールドは倒れ伏す……。それと同時に、ガオソウルを使い果たしたガオゴールドの変身は解けてしまった。

 

 

 

「あ、陽ァァ!!!」

 

 気を失った陽に、テトムは絶叫する。しかし、ガオネメシスは動かなくなった陽に無情にも、銃口を向けた。

 

「ま、待てェェ‼︎」

 

 今にも射撃されそうになった陽の前に、ガオシルバーとガオグレーが立った。

 

「陽を……殺させるか……‼︎」

 

 ガオシルバーは、ガオハスラーロッドを構えながら叫ぶ。しかし、足元は立っている事もやっとだ。

 

「死に損ないが……。そんなに死に急ぐなら……貴様から殺してやろう‼︎」

 

 と言って、ガオシルバーにヘルライオットを向けるガオネメシス。その時、ガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッド達が、シルバーに集結した。

 

「お、お前達……‼︎」

「気に入らんな…‼︎ 負け犬共が、負け犬を庇うとは……‼︎ 丁度良い、こいつ等の力を試してやる‼︎

 出でよ、魔の眷属達よ‼︎」

 

 そう言って、ガオネメシスは左手から三つの宝珠を取り出す。セピア色に輝く宝珠だ。

 

「そ、それは……⁉︎」

「ハハハ‼︎ 来たぞ、カオス・パワーアニマル達が‼︎」

 

 ガオネメシスが高らかに笑う。地を崩しながら現れたのは三頭の魔犬だった。三つある首は、それぞれが低く唸りながら威嚇する。

 

「奴が、ガオケルベロスだ‼︎」

 

 また、右手から現れたのは角を持った馬だった。姿だけなら、ガオユニコーンと同じだが、頭からは大きく湾曲した二本の角が生えている。

 

「奴が、ガオバイコーン‼︎」

 

 更に、左手からは巨大な蛇が現れた。大きさは巨大だが、とりわけ巨大だったのは大きく開かれた口である。

 

「そして奴が、ガオムンガンド‼︎」

 

 集結したのは、いずれもパワーアニマルだった。だが、他のパワーアニマルの様な神聖さは欠片も無く、何処までも邪悪で禍々しかった。

 

「あ、あれは……パワーアニマル……⁉︎」

「違う‼︎ 奴等は、カオス・パワーアニマルだ‼︎ 地球の生命エネルギーから生まれた、パワーアニマルと異なり……奴等は地球の混沌から生まれたのだ‼︎」

「混沌から…じゃと?」

 

 ガオグレーはカオス・パワーアニマル達を見た。成る程、確かに奴等からは禍々しく、そして底の知れない闇が感じ取れる。混沌(カオス)……とは、よく言った物だ。

 

「そして、見せてやろう‼︎ 混沌の精霊王をな‼︎ 魔獣合体‼︎」

 

 ガオネメシスが号令を出すと、カオス・パワーアニマル達は合体を始める。ガオケルベロスが前足を上げて直立、左右の頭が肩部をとなった。右腕を分裂したガオムンガンドが、左腕をガオバイコーンが構成した。

 そして、ガオムンガンドの尾の部分が右手に装備され、ガオネメシスは体内ヘ収納された。

 

「誕生‼︎ ガオインフェルノ‼︎」

 

 〜何という事でしょう‼︎ 混沌の力を持つ三体のパワーアニマルが合体する事により、邪悪なる破壊の精霊王が誕生したのです‼︎〜

 

「…ガオウルフ…病み上がりでスマンが、頼む! ガオグレー、陽を頼む‼︎ 百獣合体‼︎」

 

 ガオシルバーは、陽の介抱をガオグレーに任せて、ガオウルフ達に号令、正義の狩人ガオハンターとなった。

 

 

 

 相対する二体の精霊王……先手は、ガオハンターがリゲーターブレードを突き出した。しかし、ガオインフェルノには、まるで効いていない様子だ。

 

「その程度の攻撃……! ガオインフェルノ、ムンガンドセイバー‼︎」

 

 ガオネメシスの命令で、ガオインフェルノはムンガンドセイバーを振るう。凄まじい衝撃が、ガオハンターを襲う。

 

「クッ……‼︎ ガオハンター、ブルームーンだ‼︎」

 

 ガオシルバーの指示に従い、ガオハンターは力を貯め始める。此処で休息している最中、ガオウルフ達は地球のエネルギーと青き月のエネルギーを蓄積させていたのだ。

 

「ガオハンター・ブルームーン‼︎」

 

 全身が青くなった、ガオハンターのもう一つの姿である、ガオハンター・ブルームーンを披露した。

 通常のガオハンターの十倍の出力を発揮するが、それと同時に、ガオソウルの消費も著しい為、ガオハンターからすれば諸刃の剣でもある。

 

「リゲーターブレード三日月斬り‼︎」

 

 ガオハンターは、リゲーターブレードを振るいガオインフェルノに斬り掛かる。しかし、それでもガオインフェルノは僅かに揺らいだだけだった。

 

「月下咆哮! ブルームーンハート‼︎」

 

 ガオハンターの胸部から放たれる蒼色の光線、ブルームーンハートが、ガオインフェルノに襲い掛かる。

 だが、それと同時にガオインフェルノの胸部と両肩の犬の頭が開く。

 

「煉獄業火! インフェルノカノン‼︎」

 

 三つの口がら、漆黒の火炎弾が放たれた。漆黒の炎は、蒼色の光線を弾いていき、やがて一つに合体した巨大な火炎弾が、ガオハンターに着弾した。

 凄まじい爆炎と、轟音が響き渡る。ガオハンターは炎に包まれながら倒れ伏した。

 

「シルバーァァ‼︎」

 

 ガオグレーは絶叫した。だが黒煙の中に立っていたのは、ガオインフェルノだけだった。ガオネメシスの笑い声が響き渡る。

 

 

 

 爆炎が治まった中に駆け寄ると、変身の解けた大神が倒れていた。しかし、辛うじて生きていた彼は這いずりながら、目の前に転がる宝珠に手を伸ばす。

 しかし、その手を振り下ろされた足が踏み止めた。

 

「ぐゥッ…‼︎」

 

 苦しそうに呻く大神。手を踏みつけたのは、ガオネメシスだ。そして大神を蹴飛ばすと、宝珠を拾い上げた。

 

「か…返せ…‼︎ 何を…‼︎」

 

 大神の言葉に、ガオネメシスは何も答えずに宝珠を握り締めた。すると、三つの宝珠は全てセピア色に染まっていた。

 

「コイツ等は今、邪気を注ぎ込む事で、魔獣に変えてやった。この俺の眷属としてな……」

「な、何だ…と…⁉︎」

 

 ネメシスの言葉を聞いた大神は愕然とする。憫笑する様に、ガオネメシスは小さく笑いながら背を向けた。

 

「貴様等では、俺には勝てんさ。帰るぞ、ニーコ」

「は〜い♡」

 

 そう吐き捨て、ガオネメシスは鬼門の中に消えていった。残された大神は悔しそうに地を握り締めた。

 

「また…守れなかった…また…‼︎」

 

 悔し涙を流しながら、大神は慟哭した。重々しい空気の中、佐熊とテトムは立ち竦むしか出来なかった……。

 

 〜圧倒的な強さを発揮し、ガオレンジャーを追い詰めたガオネメシス‼︎ 更にカオス・パワーアニマルの登場で、ガオウルフ達をも奪われる事態に‼︎ ガオレンジャーは果たして、ガオネメシスを倒せるのでしょうか⁉︎ そして、ネメシスの発する鬼還りの儀とは⁉︎〜


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