帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest36 鳳凰、煌めく‼︎

「臨・兵・等・者・皆・陣・列・在・前…‼︎」

 

 竜胆市某所……古ぼけて朽ちた洋館の前にて、ライとコノハが印を結んでいた。周囲には多数の下忍オルゲット達が、蠢いていた。すると巨大な苦無の形をした物体が浮かび上がり、地面へと潜り込んで行く。やがて姿が見えなくなった後、何事もなかった様に静かになった。

 

「よっしゃ。これで打ち込み完了や!」

 

 ライは自信満々に言った。一方、コノハは不貞腐れた様子だ。

 

「ケッ! こんな簡単な作業、ニーコにやらせば良いじゃねェか! なんで、アタイ等が……」

 

 と、ブツクサと呟く。ライは呆れた様に見た。

 

「……コノハ、前から思うてたけど……お前、阿保ちゃうか?」

「ああ⁉︎ テメェ、喧嘩売ってんのか⁉︎」

 

 コノハはライを、鋭い目で睨む。だが、ライは益々、呆れ顔だ。

 

「親方様が何で、ニーコに綻びの場所だけ特定させて、その場所にウチ等が赴く様に命令するんか……分からへんか?」

「知らねェよ! だから聞いてんじゃねェか‼︎」

「そんだけ、ウチ等を買うてくれてるっちゅう事や! 他の誰でも無い、ウチ等にな‼︎」

 

 唐突にライの発した言葉に、コノハは雷に打たれた様に硬直した。あの、ヤミヤミが自分達を? 必要とあらば、部下の命さえも捨て去る冷酷を絵に描いた様な、ヤミヤミが⁉︎

 そんな考えが、コノハの脳裏に巡る。

 

「そやから、ウチ等、鬼灯隊は親方様の為なら何時でも死ねる覚悟を持っとかな、アカンねん!

 親方様の言葉は絶対! それが、オルグ忍軍の掟やろ!」

 

 ライは、ヤミヤミに対する深い敬意を言葉で表した。コノハも、やる気が出た様に勢い付いた。

 

「よっしゃァァ‼︎ 気合い入って来たぜェェ‼︎」

 

 一人で盛り上がるコノハだが、その様子をライは冷めた様子で見ていた。

 

「(はァ……ホンマ、単純な奴やなァ……)」

 

 つくづく良く言えば相方の竹を割った様な、悪く言えば大雑把な一面に呆れてしまう。

 

「……ほな、次行くで」

「あ、オイ‼︎ ちょっと待てよ‼︎」

 

 ライは鬼門の中に消えていくが、コノハも後へ続いた……。

 

 

 それとは別の場所では……ガオネメシスが、朽ち果てた岩の前に佇んでいた。自然に出来た岩と言うより、何処か人工的に造られた様に見えた。

 

「……姉さん……」

 

 ガオネメシスは岩の前に膝を突く。その様子は何時もの冷徹かつ残忍な様子は無く、人の死を悲しんでいる様にも見えた。

 

「……もう少しだよ、姉さん……。地上は、オルグに埋め尽くされ地上に蔓延る人間達は全て、駆除される……。

 その時、姉さんを裏切った人間共は己の罪を思い出させてやるんだ……」

 

 天を仰ぎながら、ガメネメシスは呟く。その際、マスクを顔から外す。すると、背後から長い黒髪が下された。

 

「……愛してるよ、姉さん……。俺から姉さんを奪った人間共に、復讐を果たしてあげるから……」

 

 そう言うと、ネメシスは項垂れる。ダラリと伸び落ちた黒髪が地面を這い……髪の隙間より、ポタリ…ポタリと涙が零れ落ちた。

 

 

 

 陽は祈と共に通学していた。その横には陽の学校の制服を着た摩魅も一緒に歩いている。

 

「摩魅ちゃん、制服のサイズ合ってる?」

 

 祈は摩魅の顔を覗き込む。摩魅は照れ臭そうにしていた。

 

「あの……スカートが短すぎて……」

 

 と、言いながら白いセーラー服のスカートを抑える。

 彼女が元々、来ていたボロボロの布切れは処分したし、この前、デパートで摩魅の服を買った際、彼女はあまり着慣れていない様子だった。

 だが、祈は優しく頬んで見せた。

 

「大丈夫! 凄く似合ってるから‼︎」

 

 まるで姉が妹を宥める様に、祈は言った。摩魅は益々、赤面した。

 陽は、その様子を遠目から見ていた。彼女を自分と同じ学校に通わせる様に手筈を整えたのは、陽の提案だった。

 大神と和解した後、陽もまた、ガオネメシスの言葉が耳から離れずにいたのだ。

 何れ、彼女の中にオルグが自分達の寝首を掻かれる…。

 信じたく無かった。彼女が祈を殺しに来るなんて、そんな事は決して有り得ない。そう信じたかった。

 しかし、有り得ないなんて言う事は有り得ない…と昔、誰かが言っていたのを思い出す。

 其処で、テトムや大神に一計を案じて貰ったのだが……。

 

「……でも、兄さん。摩魅ちゃんの編入の件、大丈夫なの?」

 

 祈は不安気に尋ねた。そもそも、摩魅は全うな人間では無い。これ迄、高校は愚か小学校や中学校にも通った事が無いのだ。漫画では特に説明なく編入出来たりもするが、いきなり身元の分からない少女を高校に通わせるのは不自然である。

 

「ああ……テトムは『私に任せておいて』って言ってたけど……」

 

 陽は曖昧ながらも応える。『テトムの任せておけ』は、はっきり言って、信用出来ないからだ。

 嫌な予感を一縷に感じていると……。

 

 

「ヨッ‼︎ おはようさん‼︎」

 

 

 急に声を掛けられ、三人は振り返る。陽と祈はよく見知った顔である、猛と妹の舞花、そして昇が歩いて来ていた。

 二人の姿を見た陽様内心、ホッとした。昨日、自分がガオレンジャーとして戦っている姿を端的ではあるが、二人に見られてしまったのだ。

 しかし、二人の様子を見るに、どうやら記憶は残っていないと思われた。

 と、祈の後ろに隠れていた摩魅に気付いた猛は、近付いていく。

 

「お⁉︎ 誰だよ、この可愛い娘は⁉︎」

 

 摩魅の見た目に興味を惹かれた猛は、グイグイと迫って来る。摩魅は、いよいよ縮こまる。

 

「エッ⁉︎ えっと…あの…」

 

 どう答えて良いか分からない摩魅は、陽達に助け船を求める様に見てきた。

 

「……彼女は……僕達の従姉妹なんだ……」

「従姉妹? 祈、そんな子、居たっけ?」

 

 舞花は祈に話し掛けた。急に話を振られて困惑しながらも、祈は答える。

 

「え、えっとね……。兄さんの遠い従姉妹なの……」

「ふーん」

 

 やや違和感を覚えつつも舞花は納得した様だ。だが、昇は無言のまま、摩魅を見続けていた。

 彼の視線に気付いた摩魅は恐々と見て来る。

 

「おい、昇‼︎ あんまり睨むなよ‼︎ 怯えてるじゃねェか‼︎」

 

 女好きな猛は既に、摩魅への態度を軟化させていた。その際、昇は……

 

「……あんた、名前は?」

 

 と尋ねた。摩魅はか細い声で

 

「……り、竜崎…摩魅……です……」

 

 と自信なさげに名乗る。この場合、陽や祈と同じ、竜崎姓を名乗っておく方が無難であると、摩魅は判断したのだ、

 

「………そうか」

 

 聞くだけ聞くと、昇は興味なさ気に目線を逸らす。取り敢えず上手く躱せた、と二人は一息吐く。

 

「中学校の道はあっちだろう? 早くしないと遅刻だぞ?」

「え? あ、本当だ‼︎ 祈、行こ‼︎」

「そ、そうだね…‼︎ じゃあね、摩魅ちゃん‼︎」

 

 背中に引っ付いたままの摩魅に別れを告げ、祈は舞花の後に続く。振り返り様に、祈は陽に小声で

 

「兄さん、頑張ってね…」

 

 と囁いた。陽は肩を竦めながら、摩魅を見る。

 

「よし、僕達も行こうか?」

「は…はい!」

「待てよ、陽」

 

 歩き出そうとする二人を呼び止める様に、猛が呼び止める声がした。振り返ると、猛と昇がシリアスな顔て見ている。

 

「どうかしたか、猛?」

 

 陽が怪訝な様子で尋ねると、猛は昇と顔を見合わせた。

 

「……昨日の話だけどよ……」

 

 猛には珍しい抑えた声に、陽はゾクッと嫌な感じがした。

 

「な、何?」

「……いや、やっぱり良いわ。後で聞かせてくれ」

 

 とだけで応え、猛はフイッと言ってしまった。昇も無言のまま、行ってしまう。

 陽は悟った。猛と昇は昨日の事を覚えている……もう隠し通す事は出来そうに無い……。そう考えると、陽はギュッと拳を握りしめる。その様子を、摩魅は悲し気に見続けていた……。

 

 

 

 学校に着くや否や、陽と摩魅は校長室へと呼ばれた。すると意外過ぎる人物の顔に、陽は目を見開いた。

 

「ああ、竜崎君。遅かったね、叔父さんと叔母さんも、待ち兼ねているよ」

「? 叔父さん、叔母さん?」

 

 藪から棒に訳の分からない事を言い出す初老の校長の言葉の意味が分かった。

 何と校長室には、テトムの大神が立っていたのだ。しかも、何時もの巫女装束と灰色の服では無く、テトムは白っぽいスーツを、大神はグレーの背広を着こなしていた。

 

「待ってたわよ、陽。摩魅も一緒ね」

 

 と、やんわりとした口調で尋ねて来るテトム。まさか、テトムの良い考えとは、この事だったなんて……。

 幾ら、摩魅の為とは言え民間人に姿を晒さない事を原則とするガオの戦士の掟を、かなりアウトスレスレに破ってしまっているが、この際、閉口する事を陽は決めた。

 

「は、はい……叔母さん……」

 

 かなり、苦しい作り笑いを浮かべながらも陽は返した。一方、大神は校長相手に世間話をするテトムを尻目に、陽にそっと耳打ちした。

 

「(大丈夫か? 陽…?)」

「(ええ……何とか……)」

「(しかし、本当に良いのか? まだ、彼女がシロである、と決まった訳じゃ…)」

 

 大神は、まだ彼女を信頼出来た訳では無い。それは、彼女の素性もそうだが、何かと不審な言動の目立つ摩魅に対する警戒を強めていた。

 だからこそ、陽は彼女を確かてる理由も兼ねて側におく事を決めたのだ。

 

「(……大丈夫です。万が一の時は……僕が……)」

 

 陽は真剣な眼差しをしながら、摩魅の背中を見た。万が一…と言うが、もし、その時が来たら自分に彼女を殺す事が出来るのだろうか? 確かに彼女が、オルグの回し者である可能性は捨て切れない。だからこそ、陽は彼女を信じたかった。信じる為にも……彼女を側に置いて置く必要がある……。

 やがて、校長とテトムの話も終え、事前に陽が渡していた編入に関する書類を読み返していく内に、摩魅は陽と同じクラスに所属する事が、とんとん拍子に決まった。

 廊下に出て、テトムと大神は振り返る。

 

「全く、ヒヤヒヤしましたよ……! こう言う事は事前に言っておいて下さい……‼︎」

 

 陽の非難に対し、テトムは悪戯っぽく笑う。

 

「フフ…‼︎ 敵を騙すなら、まず味方からってね? でも中々、様になってるでしょう?」

 

 そう言いつつ、テトムはスーツ姿を見せて来る。その姿に大神も、呆れ顔だった。

 

「テトム……俺達は、そろそろ退散した方が……!」

「あ! そうね……じゃ、私達も行くわね‼︎ 」

 

 そう言いながら、反対側の廊下に歩み去っていくテトム。その後ろから、大神が続きながら再度、陽へ振り返った。

 無言のままだが、何かあれば直ぐに連絡しろ、と強い言葉が込められていた。陽は暫く、その姿を見続けていたが、始業ベルの音を聴いて、摩魅を連れて教室へと向かって行った。

 

 

 教室に着いたら着いたで、大騒ぎだった。こんな時期に転校生が、しかも、かなりの美少女がやって来たのだから、男子連中は騒ぎ始め、授業にならない程だ。

 摩魅は、こんな風に騒がれるのを慣れていない様子だ。以前、オルグ達に利用され持ち前の歌で集団洗脳を掛けて操った事もあったが元々、彼女は人前に出ずに、コソコソと隠れ住んでいたのだから、無理もない。

 男子、女子から取っ替え引っ替え質問攻めに合っていたが、側から見ていた陽からして見ても、かなり困惑しているのが明らかである。

 そんな中、男子の一部が陽に詰め寄って来た。

 

「な、竜崎! 摩魅ちゃんって、お前の従姉妹ってマジ⁉︎」

「え? ……まァね……」

 

 流石に彼女の素性をバラす訳にも行かない為、話を合わせる事にする陽。男子生徒達は、その言葉に益々、ざわめき立つ。

 

「嘘だろ⁉︎ あんな可愛い従姉妹とか、羨ましい‼︎」

「しかも、お前の妹も、相当の美少女だろ⁉︎ 勝ち組か‼︎」

「その上、成績優秀でスポーツ万能って……モテスペック、チート過ぎんだよ‼︎」

 

 最早、完全に収拾が付かなくなってきた。とは言え、遠目から見たら、摩魅はクラスの女子達と、それなりに馴染んでいる様に見え、陽は安心した。

 しかし、陽は気付かなかった。そんなクラスの様子を、遠目から妖しい目で見ている女学生の姿に……。

 

 

 

 やっと昼休みになり、陽は摩魅を連れて屋上に出た。祈の手製の弁当を広げながら、摩魅を見た。

 

「どうだった? 学校デビューは?」

「えッと……疲れました……」

 

 その言葉に、やっと心から笑えた気がした。摩魅は、本当にこうして見れば、普通の女の子だ。いや、クラスの男子達が浮き足立つのも分かるくらい、普通以上の美少女である。

 とは言え……彼女は自分に対し、これ以上無いくらいに卑屈な感情を抱いている。オルグの血が流れている、自分に……。

 

「陽さんは……優しいですね……」

「ヘッ?」

 

 唐突に彼女から発せられた言葉に、陽は戸惑う。

 

「だって……私みたいな混血鬼にも……陽さんは……」

 

 彼女は苦しそうだった。やはり、未だに自分の中にあるトラウマから抜け出せずに居る……。

 話題を変えようと、陽は話を振る。

 

「そう言えば、摩魅ちゃんは歌が上手いよね⁉︎ 今日、クラスの女子達が歓迎会を兼ねて、ってカラオケ行こうって誘われてなかった?」

 

 その言葉に対し、摩魅は力無く首を振る。

 

「……私、歌が上手いんじゃ無いんです……。それが、私の中に流れるオルグとしての唯一の力なんです……」

「唯一の?」

 

 陽は聞いては行けなかったことを聞いたかな、と思いつつも好奇心が勝り、聞いてしまう。

 

「……オルグには多種多様な力を持っていますが……私とて例外ではありません……。生まれついて私の歌には、人間の心を操る力があります……。オルグ達は私が歌う事に不快を示し、鬼ヶ島では歌う事を禁じていました……。

 でも……私の歌の有用性を編み出したテンマやヒヤータは、私を利用し始めたんです……。それからは、毎日が地獄でした。アイドルとして潜伏し、人々を操る為に利用され始めました……。オルグの支配する世界を作る為……」

 

 ポツリポツリと語り続ける摩魅の瞳からは、涙が溢れ出していた。彼女が生まれた事を否定されたばかりか、自由に生きる事さえも許されなかった。

 地獄……確かに、そうだろう。自分の意思に反し、人を操り心を踏み躙る行為は、身を裂かれるより辛かった筈……。

 

「……何度も死のうとしました。でも、オルグの血が私を死なせてはくれない。だから……私は……」

 

 遂に堪え切れなくなった摩魅は、さめざめと泣き出す。陽は黙したまま、彼女の告白を聞いていた。

 オルグの血を引く以外は、人間の娘とは違わない……。だが、それを認めてくれる者は人間にもオルグにも居なかった。そんな針のむしろの上に、彼女は座り続ける事を強制され続けていたのだ。

 と、その時、ガタンと音がした。二人は振り返ると、ドアが少し開いていた。陽はドアの元へ行き開けると、猛と昇が立っていた。

 

「……! どうして……⁉︎」

「い…いや、昼飯食おうと思ったらよ……」

 

 猛は曖昧ながらまを言った。昇は罰の悪そうな顔で、彼女を見てきた。

 

「……スマン……立ち聞きする気は無かったが……聞こえてしまった……」

 

 陽は暗い顔をする。よりによって、彼女の秘密を知られてしまった。最も、部外者に聞かれても信じられる話では無いだろうが、二人はガオレンジャーの秘密を端的にではあるが知っている。

 

「……ごめん……今の事は、皆には秘密にしておいてくれないか?」

「……謝んなよ……。寧ろ、謝んなきゃならないのは、コッチだ……」

「エッ?」

 

 突然、猛の言い出した事に、陽はキョトンとする。猛は昇と顔を見合わせた。そして、猛は頭を下げた。

 

「……俺達……知ってたんだ……! 陽が、俺達に隠れてやってる事……‼︎」

「何だって…⁉︎」

 

 唐突の事に、陽は唖然とした。

 

「あの後、目が覚めた後……俺達、お前の後を付けたんだ……! そしたら、あのテトムって呼ばれた女と、お前が話してる所、見ちまって……マジ、ごめん‼︎」

 

 頭を下げたまま、猛は謝罪した。昇も、スマなさそうに言った。

 

「実の所を言えば、ここ最近の、お前の様子が可笑しい事が、どうしても腑に落ちなくてな……色々と探ってたんだ……! 友達を嗅ぎ回るのは正直、心苦しかったが……それでも、俺達は知りたかった……! 」

「どうして…?」

「友達だから、だよ」

 

 昇の言葉を聞いた陽は絶句した。

 

「……俺達じゃ、助けにはなれないかも知れないけど……それでも助けになりたかった……! 陽が抱えている苦しみを分かち合いたかった……。そんな理由じゃ、ダメか?」

 

 昇は苦しそうにしながらも、自身の意思を述べた。それは、猛も同様である。陽は改めて、この二人を友と出来て良かった、と思えた。

 立場は異なるが、彼等は自分の秘密を知っても見放そうとしなかった。寧ろ今迄通り、もしくはそれ以上の形で彼を支え続けたい、と言う意思を示してくれたのだ。

 陽は彼等の直向きな友情に胸が熱くなった。そして、小さな声で……

 

「ありがとう…‼︎」

 

 と、呟いた。その際、後ろで居心地の悪そうにしていた摩魅に、猛は気付く。

 

「あ……心配すんなよ? その娘が、オルグとか言う奴の仲間だって事は、バラさねェよ。俺も昇も口は固い方だから……」

「大丈夫だ……。陽の不味くなる様な事は言わない……」

 

 それだけ言ってくれるだけで、陽は助かった。が、その時、摩魅は陽の前に立ち塞がった。

 

「陽さん! わ、私……!」

 

 摩魅は目に大粒の涙を浮かべながら、跪いた。

 

「わ、私……陽さんに本当の事を言います……! もう隠し通す事は出来ません……陽さんや祈さんや、この人達を巻き込んで迄、嘘を突き通すなんて……とても、耐えられません‼︎」

「ま、摩魅ちゃん?」

 

 突然の事に困惑しながら、陽は尋ねた。内心では一縷の嫌な予感が過った。

 

「白状します…‼︎ わ、私……オルグのスパイです‼︎ 陽さんに保護される名目で近付いたのも、ガオレンジャーの情報を筒抜けにする為の、オルグの計画なんです…‼︎

 ガオウルフ達をガオネメシスに奪われたのも、ニーコに私が情報を漏らしたから……なんです……‼︎」

「な、何だって……⁉︎」

 

 陽の嫌な予感が的中してしまった。まさか、考えたくなかった事が真実であったなんて……!

 

「……許してくれ、なんて言えません……! だって、私は……‼︎」

 

 

「あーあ……ばらしちゃったァ♡」

 

 

 その言葉を聞いた陽は身構える。すると、猛達の後ろから巨大な鎌が襲い掛かってきた。

 

「‼︎ 伏せろ‼︎」

 

 猛が間一髪で、摩魅を庇う。昇もドアの方を見ると、学校の制服を着た女生徒が妖しい笑みを浮かべながら、巨大な鎌を携えていた。

 

「な、何だ⁉︎ 」

 

 昇は、その異常ないでたちの女生徒を見据える。すると女生徒はクスクスと笑いながら、姿を変えていく。

 制服ははだけ、その下にはゴスロリ調のメイド服、黒髪をツインテールにして頭頂から生えた長いツノ……。

 

「ニーコ……‼︎」

「チャオ♡ お元気でしたかァ、陽さん?」

 

 ニーコは鎌を振り回しながら、陽に微笑み掛ける。一方、摩魅は猛に抱かれながら、ガタガタと震えていた。

 

「あらあらあらァ? 約束を破っちゃったわねェ、摩魅ちゃん? ヤミヤミ様と約束したでしょう? ガオレンジャーの情報を逐一、報告しろ、とォ? 鬼還りの儀まで、ガオレンジャーの余計な加入は避けたいから……まさか、忘れたのかしらァ?」

 

 クスクス笑いながら、ニーコは厭らしく嘲笑う。摩魅は、恐怖に震えていた。

 

「やれやれ、出来損ないは何処まで行っても出来損ない、と言う事かしらァ? まァ、良いでしょう。どの道、今更、何をやっても手遅れ。鬼還りの儀が執り行われるのは時間の問題ですわァ♡ 要するに、役立たずの摩魅ちゃんは、もう用済みと言うこ・と♡」

 

 そう言うと、ニーコはパチンと指を鳴らす。すると、オルゲットが屋上に覆い尽くした。

 

「クスクス! 逃げられませんわよォ♡ 邪魔者が入ってこれない様に屋上一帯に、不可視の結界を張りましたからァ♡

 さてさて! 裏切り者と共に、ガオゴールドさんには死んで頂きましょうかァ‼︎」

 

 ニーコは鎌を突き付けて、陽に威嚇してきた。仕方ない、戦うしか無い!

 

「猛、昇! 彼女と一緒に退がってろ‼︎ こいつ等は僕が‼︎」

「無茶だって、陽‼︎ 何人居るんだよ、こいつ等⁉︎」

 

 猛は叫ぶ。ニーコ、オルゲット多勢……加えて、まともに戦えるのは陽だけ……戦況は極めて悪い。

 

「待って‼︎ 私は裏切りの罰を受けます‼︎ でも、この人達は殺さないで‼︎」

 

 摩魅は嘆願した。しかし、ニーコはプッと吹き出した。

 

「アハハハハ‼︎ おっかしィですわァ、この人達は殺さないで⁉︎ 中々、面白いですわよォ! で・も……。

 許す訳無いじゃ無い、お馬鹿さん‼︎」

 

 一頻りに笑い終えた後、ニーコは侮蔑に満ちた目で、摩魅を睨む。

 

「そもそも、テンマ様やガオネメシス様のお情けで生かして貰ってた時点で充分過ぎる程に、お情けを頂いているですわよォ? にも関わらずに反逆するなんて……殺されたって文句は無いですわよォ⁉︎」

 

「クッ‼︎ ガオアクセス‼︎」

 

 陽はG−ブレスフォンを起動させ、ガオゴールドに変身した。そして、ドラグーンウィングに変身する。

 

「鬼還りの儀……其れに付いて話して貰おうか⁉︎ 」

「クスクス……嫌だと言ったら?」

 

 殺気を込めながら言い放つガオゴールドに対し、ニーコは余裕に満ちた感じだった。

 

「力尽くで聞き出す迄‼︎」

「フフフ‼︎ ガオシルバー、ガオグレーの助太刀を期待しているならァ……無駄ですわよォ? 今頃、あの二人も……」

 

 

 大神、佐熊は決死の思いで走っていた。陽と別れた後、大神は佐熊と共に、ガオズロック内にて待機していたが、突如、ガオの泉が湧き上がるのを、テトムが感じた。

 どうやら、オルグが姿を現したらしい。昨日、ツエツエ達が恐竜オルグを嗾けて来たばかりだが、また現れたかも知れない。三体居た恐竜オルグの内、二体は倒したものも、とりわけ厄介なティラノオルグは、まだ倒せていない。

 他の二体だけで強敵だったのだ。ならば、ティラノオルグは更に上回る事は間違い無い。

 ガオズロックを学校の近くに待機させ、大神と佐熊は陽の学校へと急いだ。

 

「陽…! 無事で居てくれ…‼︎」

 

 大神は自身のミスを呪った。数重なる連敗により、オルグ達も慎重になったと油断した。しかも、オルグ側は鬼還りの儀を執り行う準備に入り、表立った奇襲は仕掛けまいと考えていたが、それは甘かった。

 一刻も早く、陽の下へ向かわねばと二人は息を切らしながら走る。

 その時、大神達の足元に複数の苦難が突き刺さる。

 

「誰じゃァ⁉︎」

 

 佐熊が怒鳴ると、屋根から飛び降りてくる二人組。鬼灯隊のくノ一、ミナモとリクである。

 

「お久しぶり、でございます」

「………」

 

 ミナモとリクは、陽の身辺を見張っていた。しかし、その陽の下にニーコが奇襲を仕掛けたのを機に、彼等二人が陽の援護に訪れると直感したニーコによって、此処に配置されていたのだ。

 

「ワシ等の首を取りに来たんか⁉︎」

 

 佐熊は焦れているらしく、乱暴な口調で言った。ミナモはクスリと笑う。

 

「いいえ。私達、二人で貴方がたを倒せると自惚れては居ません、でございます。私達は……ガオゴールドの始末が終わる迄の刻を稼ぐだけ、でございます」

 

 ミナモの淡々とした口調に反して、リクは苦難を投げた。大神は其れを、ガオハスラーロッドで弾く。

 

「……残念。眉間を貫くつもりで投げたのに……」

 

 リクは無口ながらも、攻撃的かつ物騒な物言いをした。その際、口を口角まで吊り上げた。

 

「はっはっは‼︎ 無口な娘じゃと思えば、中々に気の強い娘じゃな‼︎」

「…止しなさい、リク……。次、勝手に動いたら……殺すわよ?」

 

 一瞬だが、ミナモの顔が冷徹な顔でリクを睨む。リクは無言のまま、頷いた。

 丁寧口調だが、残忍な本性を垣間見せたミナモに、大神は誰かと似ている、と感じた。

 

「…お前…誰かに似ているな…」

「あら、失敬、でございます……。恐らく貴方が言っているのは、四鬼士の一角、水のヒヤータを指しているのでは?」

 

 ミナモの指摘に大神は、かつて戦った四鬼士、ヒヤータと彼女が何処と無く似ているのを感じた。

 

「似ているのは当然で、ございます。ヒヤータは私の姉なのですから……」

「‼︎ 姉妹だったのか⁉︎」

「ま、私はあんな女、今更、姉とも思っていない、でございますが……オルグとして力を持ちながら、智謀に頼り詰めを図り損ねた愚姉……ただ、それだけでございます…」

 

 ミナモは吐き棄てる様に、言い放った。ヤミヤミもそうだが、やはりオルグには血の繋がりによる情愛などは無いのかも知れない。

 

「そもそも、オルグ忍軍の門を叩いた瞬間より、既に姉妹の縁は切れていますし……けど…!

 同じオルグとして……姉の不始末は取らせて頂きます‼︎」

 

 そう叫ぶと、ミナモとリクは同時に飛び掛かってくる。大神と佐熊も、G−ブレスフォンを起動させた。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 ガオシルバー、ガオグレーに変身した二人は、遅い来る鬼灯隊のくノ一を迎え撃った。

 

 

 

 学校での戦いは、オルゲットの団体をガオゴールドが概ね片付けたが、矢張り数が多かった為、苦戦を強いられていた。

 

「アハハァ‼︎ もう息が上がってますわよォ♡ そ・れ・と・もォ? ニーコちゃんが強過ぎたからかしらァ?」

 

 ニーコは完全に馬鹿にして掛かる。だが、彼女の言う通り、ガオゴールド一人で片付けるには、分が悪すぎた。

 ニーコはニヤリと笑うと、鎌の刃を舌でペロリと舐める。

 

「ンフフゥ♡ 摘み食いで終わらせようと思ったけど……此処で食べちゃお♡」

 

 そう言って、ニーコは鎌を振り下ろしながらガオゴールドに迫って来た。しかし、その鎌を何かが弾く。

 見ると光で出来た刃が地面に突き刺さって居た。

 

「な⁉︎ 誰ェ⁉︎」

 

 ニーコは辺りを見回す。すると、学校の屋上に佇む一人の影があった。

 

「あ、あれは⁉︎」 

 

 ガオゴールドは、その影を見て驚いた。逆光で分からなかったが、よく目を凝らせば自分と同じ、ガオスーツを着用していた。その人物は飛び降りると、ニーコの前に立った。

 

「私は煌めきの鳳凰、ガオプラチナ‼︎」

 

 光り輝くプラチナカラーのガオスーツに鳥を模したマスクを着用した謎の戦士、ガオプラチナは高らかに名乗った。

 

〜追い詰められたガオゴールドの前に姿を現し、彼を救ったのは新たな戦士ガオプラチナ‼︎ 果たして、その目的…そして正体は何者なのでしょうか⁉︎

そして、ガオシルバー達の前に立ちはだかる鬼灯隊の強さは⁉︎〜


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