帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest37 狂犬、暗躍‼︎

「ガオプラチナぁ?」

 

 ニーコは自身の前に立ちはだかる戦士に対し、挑戦的に言った。ガオプラチナは態勢を整える。

 

「何処の誰かさんか存じませんけどォ、邪魔をするつもりなら唯じゃ済ましませんよォ?」

 

 そう言いつつ、ニーコはやんわりとした口調ながら、殺気を露わにした。ガオプラチナは手をかざした。すると、プラチナの右手に光の粒子が集まって行く。

 

「フェニックスアロー‼︎」

 

 現れたのは鳥の翼に似た弓だった。其れを右手に持ち、左手で弓から噴出した光の弦を持つ。そうしたら、光で構成された矢が現れ、アローに番えた。

 

「鳳凰一矢‼︎」

 

 放たれた光速の矢が、ニーコ目掛けて飛んで行った。しかし、それと同時に、ニーコは側に居たオルゲットを捕まえて盾にした。

 

「アハッ‼︎ 中々、やりますねェ‼︎」

 

 ニーコはせせら笑いながら、オルゲットを投げ捨てる。地べたに転がったオルゲットは泡となって消えて行った。

 

「……さっさと立ち去れ‼︎ 次は外さない‼︎」

「ンフフぅ‼︎ 言ってくれますねェ……け・ど‼︎ 死神の力を舐めて貰ったら、困りますよォ‼︎」

 

 そう言って、ニーコはメイド服を脱ぎ捨てた。すると、黒一色に胸元が大きく開いたパンク風のボンテージと言う際どい服装、脚部は薄黒いタイツを履き、頭にオルグの角と同時に髑髏の飾りを着けて、手に持つ大鎌はより禍々しいギザギザの形になった。

 その様子で、ニーコは宙に浮きながら鎌の上に座り足を組む。

 

「ンフフフフぅ‼︎ 此れが私の戦闘形態‼︎ 鬼地獄のキュートな死神ニーコちゃん、で・す・よォ♡」

 

 ニーコはケラケラと嗤い出す。すると背中から巨大な蝙蝠の翼がバサァっと広がった。

 

「……ヘル・オルグか……」

 

 ガオプラチナは彼女の姿、更に鬼地獄と言う言葉を聞いて確信を得た様に呟く。しかし、ニーコは、その言葉を気に入らなかったらしく、不機嫌そうになる。

 

「ヘル・オルグぅ? 私を、そんな低級なのと一緒にしないで下さいますゥ⁉︎ 私は、ヘル・デュークオルグ‼︎ 鬼霊界、鬼地獄に漂う下等なオルグ達の魂を統括する存在‼︎

 当然、戦闘力も相応ですわよォ‼︎」

 

 と、言いながら、ニーコは空中で舞い踊りながら鎌を横に切った。すると、空間が斬り裂かれて中から多数のオルグ達が這い出て来た。姿形はオルゲットに似ているが、頭のこぶ状に角は溶けた様に爛れ、腹部は異様な程に膨れていた。

 

「初めて見ましてェ? この子達は餓鬼オルグ! 鬼霊界に這い回るオルゲットよりも最下級のオルグですわァ‼︎ オルゲットを少し強くしたくらいで知能も虫ケラ以下ですけどォ……数が揃えば中々、頼りになるんですのよォ♡」

 

 餓鬼オルグは呻く様な奇声を上げながら、うじゃうじゃと湧いて出て来た。確かに他のオルグの様な知性を感じさせない。パカッと開かれた口内からはダラダラと薄緑色の涎を垂らし舌をベロンと出した姿は、さながらゾンビだ。

 

「ンフフ‼︎ それでは、始めましょうか? 地獄の立食パーティーを‼︎」

 

 ニーコが鎌を振りかざして指示を出すと、餓鬼オルグ達は一斉に動き出した。ガオプラチナも、フェニックスアローを構える。その横へ、ガオゴールドが並び立った。

 

「ガオプラチナ‼︎ 僕も戦うよ‼︎」

「……足手纏いなら必要無いけど……」

「足は引っ張らないさ‼︎」

 

 ガオゴールドの言葉に、ガオプラチナは素っ気無く肩を竦ませた。ニーコはニタァと笑い…

 

「そ・れ・じゃ……直ぐに殺すのは詰まらないからァ……うんと、苦しんでから死んで下さいねェ‼︎」

 

 挑発気味に吐き捨てながら、ニーコは飛び掛かって来た。

 

 

「おい、昇……これは夢じゃ……ねェよな?」

 

 猛は目の前で繰り広げられる常識外れした出来事に付いて行けなかった。恐らく、それは至極真っ当な感覚であった。

 目の前で親友が異質な格好で、アニメにしか出て来ない様な化け物と戦っている……他の人に話したって信じないだろう、当事者である自分が信じられないのだから……。

 

「……そう思うなら自分の頬をつねって見ろ……」

 

 それは昇も同じである。こんな事、普通に生きてきた自分達には一生、無縁だと思っていた。

 だが今日、昇は知ってしまった。日常の壁一枚で隔てた場所に存在する非日常……陽は、そんな世界に身を置き戦い続けて居たのだ。

 餓鬼オルグを斬り捨てては、新たな敵に向かっていくガオゴールド……昇は改めて、陽が自分達を守る為に血を流し続けて来た事を否応も無く理解した。

 二人に挟まれ、ブルブルと震えている摩魅を見た猛は、怪訝に思いながらも様子を尋ねた。

 

「おい、大丈夫か?」

「……私が悪いんだ……私がオルグに立ち向かう勇気があれば……私が生まれて来なければ……私が……」

 

 虚ろな表情で一点を見つめたまま、念仏の様に懺悔を繰り返す摩魅。元を辿れば、自分の存在がこの様な事態を引き起こしていた。

 心の何処かで、オルグに従えば、いつか仲間と認めて貰えると甘い期待をしていた。しかし、それは儚くも粉々に打ち砕かれた。彼等は所詮、自分の事を蜥蜴の尻尾程度にしか考えていなかった。利点が無くなれば、あっさりと踏み潰される……そんな事は分かっていた筈だ。

 

「なァ……本当に生まれて来なければ良かった、と思ってるのか?」

 

 ふと、昇が語り掛ける。摩魅は涙でグシャグシャの顔を上げ、彼を見た。

 

「アンタが、どんな人生を送って来たのかは分からない……だが、辛い人生を耐えて来たのは分かるよ……。

 俺も、そうだった。クソの様な親の下に生まれ、世の中を憎んで生きていた時期もあったよ……。

 そんな俺を変えてくれたのが……アイツだった」

 

 昇は目の前で戦っているガオゴールド、陽を見ながら言った。

 

「陽が居なければ……今頃、俺もアンタと同じで全てに悲観しながら生きていたかもな……」

 

 昇の言葉は摩魅の胸に染み渡る。こんな自分でも……鬼の血を引く自分でも、彼は受け入れてくれた。

 生まれて初めて自分を、人として扱ってくれた陽と祈……ただただ、生涯を悔やみながら生きてきた自分に、微かな希望を抱かせてくれた……。

 

 

 

 ガオゴールドとニーコの戦いが繰り広げられている間……ガオシルバー、ガオグレーも熾烈な戦いを演じていた。

 オルグくノ一であるミナモとリク……改めて闘ったが、他のオルグとは明らかにレベルが違う。

 単体の強さだけでも、オルゲットは元より二本、三本角のオルグ魔人、四鬼士等のデュークオルグにも匹敵する強さだ。

 つまり、今迄に倒して来たオルグ達とは桁外れに強敵である者達が立ちはだかって来る……それこそ、自分達を圧倒したガオネメシス級の強敵達が……。

 

「ぬゥ……‼︎ 手強いのォ‼︎」

 

 ガオグレーは、ミナモの放った苦無を払い飛ばしながら、苦言を漏らす。彼女は淑やかな口調とは裏腹に、確実に敵を仕留めに掛かって来る。ミナモは、艶やかに微笑む。

 

「お褒めの言葉、感謝致します…で、ございます」

「……別に褒めとらんわい……‼︎」

 

 彼女の余裕のある返しに対し、ガオグレーはぶっきらぼうに言った。恐らくだが、彼女の実力はこんな物ではない筈。伊達に、四鬼士の一角に数えられたヒヤータの妹を名乗る訳では無い、という事だろう。

 リクもまた、ガオシルバー相手に善戦していた。無口かつ無表情な彼女だが、先制攻撃を見せた通り、彼女はかなり好戦的な性格らしく、戦いそのものを楽しんでいる節があった。

 先程は苦無を投げた遠距離攻撃だったが、現在は二振りの忍刀を使った近接攻撃を仕掛けて来る。

 斬り掛かる度、彼女は残忍な笑みを浮かべた。まるで獲物に襲い掛かる野獣の様な、ギラギラした目を見せながら…。

 ガオシルバーは目の前から迫るリクの振り下ろした刃を受け流しつつ反撃の機会を伺うが、次から次へと攻撃を繰り出して来る為、防御に徹するので精一杯だ。

 

「……楽しい…‼︎ 人間を斬るのって楽しい…‼︎ 人間を嬲るのって楽しい……‼︎ 楽しい……‼︎」

 

 リクは淡々とした口調ながらも、刃から狂気を滲み出ていた。見た目は人間の娘だが、内実は非情なオルグである、と戦慄を覚えた。

 

「リク……嬲るのは止めなさいったら……。そんなのは人間の感情よ、でございます」

 

 ミナモは嗜める様に言った。その言葉を聞いたガオシルバーは首を傾げた。

 

「人間?」

「あら、知りませんでした? リクは混血鬼ですわ」

「⁉︎」

 

 意外な事実を聞かされたガオシルバーは驚愕した。混血鬼……即ち、オルグの血を引く人間の事。あの摩魅と同じと言う事だ。

 ミナモは、クスクスと笑う。

 

「別に人間の血を引くオルグ、なんて珍しい事じゃ有りませんわ。古来より、異種間での交配は人知れず行われて来たのですよ? 最も、リクの場合は人為的に生み出された混血鬼ですけど……」

「人為的…だと⁉︎」

 

 その言葉に、ガオシルバーは耳を疑う。人間とオルグの交配が、人為的に行われてたなんて……。

 

「今は少なくなったけど、昔はあったのよ。オルグと人間……そもそも、相反する二つの種族が交わる事は決して有り得ない……水と油が混ざらずに分離する様に、犬と猿が互いを敵視し合う様に……対極の存在同士を強引に混ざり合わされば、何が起こるか想像が付かない……故にオルグと人間の交配は禁忌(タブー)とされて来た……だから、人間の血を引く混血鬼は、オルグからも人からも疎まれる様になったので、ございます」

「禁忌だと言うなら……何故⁉︎」

 

 其れが本当なら、今目の前に居るリクは、どう説明するのだろうか⁉︎ ミナモは続けた。

 

「簡単な事ですわ。人身御供として差し出された生娘を、オルグと交わらせて子を生させる……実際の所を言えば、上手く子を孕む確率が低く、大半の生娘はオルグと行為に及んだ際に腹上死してしまう、でございます。

 時代が移り変わる内に、混血鬼を産ませる風習は無くなったと聞きますが、一部の野に降ったオルグが辺境の地に住み着き、無理矢理に子を産ませ続けた…と、有りますがね」

 

「き…貴様…‼︎」

 

 その人間を愚弄し切ったミナモの言い草に対し、ガオシルバーは怒りに震えた。

 

「そんな事が、まかり通って堪るか‼︎ 貴様等は、人間を何だと…⁉︎」

「何を怒りまして? 人間だって動物だって、似た様な産卵形態をしているじゃ有りませんか。雄は自分の気に入った雌と子を作るでしょう? 雌も、また然り……実に単純かつ合理的な自然のサイクル……オルグも、それと同じ事をしているだけ……で、ございます」

 

 取るに足らない、と言い切るミナモに対し、ガオシルバーもガオグレーも言い返す事が出来ない。 

 動物、植物、人間には自分の子を残したい、血を受け継がせたいと言う欲求が本能的に存在する。つまり、その欲求がオルグにあったとしても何ら不思議では無いと言う事だ。

 しかし……その為に、罪の無い娘達がオルグに拐かされたばかりか、望まぬ命を産み堕とさなくてはならないのだ。

 だが…それを認めてしまえば、オルグの存在を正当化してしまう事になる。地球を守るガオレンジャーとして、それを守る訳には行かない。

 

「それと…これとは、話が別だ‼︎」

「クスクス……どう別なのですか? 認めない、と言う事は貴方達が保護している混血鬼の娘の存在を認めない事になる、でございますよ?」

「‼︎」

 

 ミナモの発した言葉に、ガオシルバーば絶句する。

 

「クスクス……それを言うなら、貴方だってそう……。一時は鬼面の力でオルグとなった身の上なのでしょう? 境遇は異なるとは言え、混血鬼である事は違いない……。

 ならば、世に蔓延る人間が全て、オルグになる可能性があると言う事で、ございます。それこそが鬼還りの儀……」

「……そんな事をさせるものか‼︎」

 

 ガオシルバーは強い口調で叫ぶが、ミナモはニィィっと邪悪に笑う。

 

「フフフ……させるものか? それは出来ない相談ですわね

 ……だって、貴方がたは……

 

 此処で死ぬのですから‼︎ オルグ忍法‼︎ 水球牢縛(すいきゅうろうばく)‼︎」

 

 ミナモは印を結ぶとアスファルトを破壊して、水がうねりながらガオシルバー達を一人ずつ捕らえた。

 水はギッチリと身体を縛り、やがて全身を覆い尽くし、球体の中に囚われてしまった。

 

「フフフ……水で出来た牢獄は逃げ出そうと、もがけばもがく程、自由を奪い、やがて抵抗する力も無くなり、最後は溺死して行くのみ……これぞ、オルグ忍法・水球牢縛、でございます……」

 

 ミナモは水を掻き分けようとするガオシルバー達を見上げながら、クスクスと笑う。リクは不満そうに……

 

「…つまらない…直接、殺したかったのに…」

 

 と漏らした。それに対して、ミナモは……

 

「我慢なさい。私達の目的は、ガオレンジャーを足止めし、確実に仕留める事……」

 

 と嗜める。ガオシルバーば足元にあるガオハスラーロッドを手にしようとするも、水の力により阻まれてしまう。

 このままでは二人共、溺死してしまう。万事休す、と思われた時、突然、水の球体が破裂した。

 

「がはァ‼︎」

 

 球体から解放されたガオシルバーは、息を吸えた事で安堵した。ミナモは、自身の術を解除された事に激しく動揺していた。

 

「な、何が起こった、でございますか⁉︎」

 

 突然の事態に慌てふためく彼女の前に、謎の影が降り立つ。

 

「……何者?」

 

 リクは獲物を横取りされた事に、若干の苛立ちを発しながら尋ねる。すると、謎の影は無言のまま、顔を上げた。

 

「な⁉︎ あれは⁉︎」

 

 その正体は、ガオの戦士だった。ライトグリーンのマスクとガオスーツとマスク、肩部と胸部に掛けて銀色の鎧を装着している。何処となく、ガオネメシスに雰囲気が似ているが、彼の様な禍々しさを感じさせない、寧ろ、神々しささえ見て取れた。

 

「だ、誰だ、あんた⁉︎」

「……誰でも無い……名は捨てた」

 

 謎の戦士は素っ気無く応える。ミナモは敵意を剥き出しにしながら、彼を睨む。

 

「よくも邪魔してくれましたわね……‼︎ 貴方も、ガオの戦士で、ございますか⁉︎」

「何度も言わせるな……私は誰でも無い者だ……」

「そうですわね……これから死に行く貴方の名など、聞くだけ野暮と言う物ですわ…ね‼︎」

 

 そう叫びながら、ミナモとリクは同時に向かって来る。しかし、謎の戦士は慌てる事なく彼女達の攻撃を受け流すだけだ。その上、自分からは攻撃を仕掛けずに、防御する事に徹底する等、極めて珍しい戦い方だった。

 

「…なんて優しい戦い方なんだ…‼︎」

 

 ガオシルバーは、謎の戦士の戦い方を見て驚愕した。攻撃を受け流す為、自身は拳を解いた状態で構えていた。

 

「全くじゃ……あんな柔に徹した技で戦えるとは……只者じゃ無いぞ‼︎」

 

 ガオグレーも、戦士の見せる只者のは思えない空気を肌で感じ取っていた。その様子を見た謎の戦士は、二人を叱責する。

 

「何をしている⁉︎ 仲間の下へ行くのでは無いのか⁉︎」

 

 リクの刀を受け止めながら謎の戦士は一喝する。その言葉に、二人は我に返った。

 

「……ガオグレー、此処は彼に任せて行こう‼︎」

「む⁉︎ そうじゃったな‼︎ 」

 

 漸く二人は隙間を擦り抜けて学校へと走った。戦いを、ひいては獲物を横取りされた事に、リクは苛立ちを隠さなかった。

 

「邪魔した……許さない……‼︎」

 

 そう言って、リクは刀を謎の戦士に振り下ろしに掛かる。しかし、その刃は弾かれたばかりか、見事に折れてしまった。

 

「なっ⁉︎」

 

 何が起こったか、と凝視したミナモは目を凝らすと、謎の戦士の周りにバリヤーの様な不可視の壁が張られていた。

 

「止めておけ……お前達では勝てん……」

「クッ‼︎」

「どうしてもやると言うなら……容赦はしないぞ……」

 

 そう言うと、謎の戦士は握り拳を固める。次からは本気でやる、と表明した様に……。

 すると、リクは急に首を傾け始めた。

 

「うふふ……あはは……! 人間って脆いから……簡単に壊れちゃう。オルグの血が入った混血鬼は簡単には壊れないけど……人間の身体は傷つくと痛いし、壊れちゃうし……。

 でも! それが最高に楽しい‼︎ 壊すか壊されるか‼︎ そんな遊びって、混血鬼じゃなきゃ出来ない‼︎」

 

 リクは狂気に満ちた顔で、ケタケタと笑い出す。ミナモは眉を潜めた。

 

「ああ……リクの“病気”が出たわ、でございます……」

 

 ミナモは呆れた様に呟く。こうなった彼女は、自分の手には負えない事を知っているからだ。

 

「哀れな…! 人の血とオルグの血……相反する二つの血は互いに互いを反発し合う……。その矛盾が、この様な事態を引き起こしたのか……‼︎」

「あははははははは‼︎ 私、貴方を壊したい! バラバラにしたい‼︎ めちゃくちゃにしたい!!!」

 

 かなり不安定な状態になりながら、リクは折れた刀を投げ捨てて土を掬い上げると、新しい刀に錬成した。 

 

「ねェ? 簡単に…壊れないで…ね? 」

 

 常軌を逸した目で謎の戦士を見ながら、リクは飛びかかろうとする。

 

 

「何をしている?」

 

 

 底冷えする様な低い声が響く。途端に二人は振り返ると、ヤミヤミが立っていた。

 

「お、親方様⁉︎ 何故、此処に⁉︎」

「何をしている、と聞いているんだ」

 

 ヤミヤミは静かな口調だが、怒りを滲ませながら発した。さっき迄、ハイの状態だったリクも、打って変わり大人しくしていた。

 

「貴様等の任務は、ガオレンジャーの見張りだった筈だ。戦闘をして良いとは、言わなかった……」

「あの……私達は……」

 

 ヤミヤミの指摘に、バツが悪そうに、ミナモは目線を逸らした。ヤミヤミは二人を押し除けて前に出る。

 

「言い訳は後だ。任務を放棄した仕置きも含めてな……」

「……親方様。私、まだ戦い足りない……」

 

 駄々を捏ねる子供の様に、リクは言った。ヤミヤミは鋭い目で睨む。

 

「黙れ。拙者は同じ事を何度も言うのは好かん。解らんのか? この男は貴様等に勝てる様な敵では無い……!」

「……むゥ……」

 

 リクは納得は行かないながらも、頭領の命令に渋々ながら従った。ヤミヤミは謎の戦士を向き直る。

 

「貴様が何処の誰かは知らんが……我々の邪魔をするなら、次は無い……」

 

 そう言い残すと、ヤミヤミ達は跡形も無く消え去った。残された謎の戦士は背を向けながら……

 

「……此れが、お前の望んだ未来なのか? ネメシスよ……」

 

 と嘆く様に呟き、姿を消した。

 

 

 

「ンフフ‼︎ どうやら、此処までの様ですわねェ‼︎」

 

 ニーコは悪辣に笑いながら、ガオゴールドとガオプラチナを見下ろす。餓鬼オルグの猛攻に耐え抜きながら、何とか本体であるニーコを叩こうと機会を窺っていたが、餓鬼オルグは倒しても倒しても、無限に湧いて来る様に立ち上がって来る。その様子を見ながら、ニーコは

 

「諦めて下さいなァ♡ 貴方達じゃ、この子達には勝てないですよォ♡ 頼みの、ガオシルバーもガオグレーも今は居ないですしねェ、アハハ‼︎」

 

 と、完全に勝ち誇りながら吐き棄てる。確かに悔しいが、状況は極めて悪い。餓鬼オルグは数に任せた物量作戦で、二人のガオの戦士を包囲した。

 

「ガオゴールド! 貴方だけでも逃げて‼︎ 後ろの三人を連れて早く‼︎」

 

 ガオプラチナは、せめてガオゴールドだけは逃がそうと試みた。しかし、ゴールドは首を振る。

 

「そんな事、出来ないよ‼︎ 君を置いて逃げれる訳が……‼︎」

 

 頑なに戦いを続けようとするガオゴールドに対し、ガオプラチナは肩を掴み捲し立てた。

 

「分かんない⁉︎ 今、貴方が死んだら……誰が、あの娘を守るの⁉︎」

「え⁉︎」

「貴方の命は…貴方だけの物じゃ無いの‼︎ 自覚して‼︎」

 

 ガオゴールドを叱咤する様に、ガオプラチナは怒る。一方、ニーコはクスクス笑いながら言った。

 

「ンフフぅ‼︎ 痴話喧嘩なんて、してる場合じゃ無いですよォ⁉︎ 餓鬼オルグ、やっちゃって下さァい‼︎」

 

 ニーコの命令を受けた餓鬼オルグ達は一斉に襲い掛かって来た。それに反応する様に二人は構えるが、餓鬼オルグ達の手が眼前まで迫ろうとしていた。

 

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 

 その刹那、餓鬼オルグ達は次々に斬り伏せられて行った。ガオゴールド達は何が起きたか、と見回すと、ガオシルバーとガオグレーが間一髪、間に合ったと言った具合に姿を現していた。

 

「シルバー! グレー!」

「すまん、ゴールド‼︎ 遅くなった‼︎」

 

 やっと援護に駆け付けれた、とガオシルバーは謝罪しながら言った。ガオグレーは、ガオプラチナの姿を見て

 

「何じゃ? そっちのは?」

「ああ、彼女はガオプラチナ。此処まで、僕と一緒に闘ってくれたんだ‼︎」

 

 ガオゴールドが説明した。しかし、新たな顔の戦士が居た事に、二人は余り驚いていない様子だ。

 

「? あんまり、驚かないんですね」

「ん? ああ、実はな……」

「今は話している場合じゃ無いぞ‼︎」

 

 戦闘中に関わらずに話を始めた二人を制する様に、ガオシルバーが一喝した。ガオプラチナは少し呆れた様子だ。

 

「アハハぁ‼︎ どうやら、ミナモちゃん達は失敗した様ですねェ‼︎ でもォ、もう用事は済んだから良いですけどォ!」

「⁉︎ どう言う意味だ‼︎」

 

 ガオゴールドが怒鳴りつけると、ニーコはペロリと舌を出す。

 

「ンフフぅ♡ 分かりませんか? どうして、私が貴方を奇襲を仕掛けたか? 別に出来損ないの混血鬼を殺す事なんか、どうでも良かったんですよ?

 ただね? 私達の計画を邪魔する、もう一つの布石を潰す為に……貴方がたを足止めする為の時間稼ぎだったってこ・と♡」

 

 そう言うニーコは、邪悪に微笑む。その何かを含めた言葉に、ガオゴールドは嫌な予感が胸をよぎった。

 

「何が言いたい⁉︎」

「ンフフフぅ、まァだ分からないんですかァ? 貴方の妹ちゃん、今、どうしてますかねェ?」

「‼︎ 祈⁉︎ 一体、何をした⁉︎」

「答えは……ご自分で考えて下さい♡ では、チャオ‼︎」

 

 そう言い残して、ニーコは鬼門の中に消えて行った。残されたガオゴールド達は顔を見合わせる。

 

「まさか……⁉︎」

 

 その時、ガオゴールドのG−ブレスフォンに通信が入る。此処にいる仲間達では無い。テトムから、テレパシーを送って来る筈だ。じゃあ一体、誰が?

 ガオゴールドは恐る恐る、通信に出た。

 

 〜やっと出たか、ガオゴールド〜

 

 それは、ガオネメシスその人の声だった……。

 

 

 

 ガオゴールド達が戦いを繰り広げていた最中、祈は中学校の昼休みを送っていた。そんな中、彼女は困った事態に陥っていたのだが……。

 

「祈センパーイ‼︎ お昼、ご一緒にして良いですか♡」

 

 後輩の千鶴が、やたらベタベタと引っ付いて来た。祈は困惑した様に笑っていた。

 

「あ、あのね、千鶴……お弁当、食べるのは良いけど……少し離れて……」

 

 昼食前、部室に用事があった為、舞花と待ち合わせて食べていたのだが……其処へ千鶴も乱入して来て一緒に食べる事になったのだ。

 千鶴の祈への過剰なスキンシップは日増しに強くなって行った。今では校内、部活に関わらず擦り寄ってくる。

 

「え〜〜? 先輩は私の事、嫌いですか?」

「だ、だから……そう言う意味じゃ無くて……食べにくいから……」

「じゃあ、私が食べさせてあげます‼︎ 先輩、あ〜〜ん♡」

「もう‼︎ 自分で食べれます‼︎」

「アンタ達、すっかり仲良しねェ……」

 

 舞花は呆れ半分、驚き半分に言った。少し前まで不仲だったとは思えないくらい、今の祈と千鶴の距離は縮まっていた。

 

「舞花! 見てないで、助けてよ!」

「え〜? だって、見ていて、何か和むし……」

「もう! 他人事だと思って‼︎」

「センパーイ! 早く、お口開けて下さァい♡」

「千鶴も、離れなさいったら‼︎」

 

 と、こんな具合だが、和やかな学園生活を送っていた祈だった。毎日の様に、舞花と話したり千鶴に絡まれたり部活に勤しんだり……色々と騒がしくはあるが、祈は平和である事を享受していた。

 そんな時、チャイムが鳴り響く。

 

 〜二年A組の竜崎祈さん。御家族から連絡が来ている為、至急、職員室に来て下さい〜

 

「え? 家族から?」

「陽さんじゃ無い?」

「だって、兄さんなら携帯に……」

 

 これ迄、陽が学校に電話を掛けて来た事は無かった。自分の携帯を掛けて来た筈なのに……。

 

「ゴメン、一応、行ってくるね」

「うん、いってらっしゃい」

「ああ‼︎ 祈センパーイ‼︎」

 

 立ち上がる祈を引き止めようとする千鶴を躱しながら、祈は部室を出た。

 職員室に向かう最中、廊下を歩いている際、祈は何か、妙な雰囲気を感じた。

 何故だかは分からない、分からないが……ただ、胸騒ぎがするのだ。

 と、その際、祈は後ろから気配を感じて振り返る。しかし、其処には誰も居ない。

 ホッとした刹那……。

 

 ートンー

 

 何か首の後ろに衝撃が走った。その際、祈の意識が飛びそうになる。最後の力を振り絞り、自身の後ろを見ようとしたが……其処には、ガオスーツのマスクが見えただけだった。

 

「クックック……上手く行ったぞ….」

 

 意識を失い気絶した祈を抱きかかえる様に受け止めたのは……何と、ガオネメシスだった。

 

「……瓜二つだ。まさか、これ程に瓜二つだとは……‼︎」

 

 ガオネメシスは、コンコンと眠り続ける祈を見下ろしながら、残忍な彼には似つかわしく無い、まるで大切なものを愛でる様な雰囲気を醸し出した。

 そして、祈を両腕で抱えあげると、鬼門の中に消えて行った……。

 

 

 〜大変な事になりました‼︎ 祈が、ガオネメシスの手に落ちてしまい、彼女を攫うという事態へ発展します‼︎

 果たして、彼の目的は⁉︎ そして、彼の言う「瓜二つ」とは何を意味するのでしょうか⁉︎〜




−餓鬼オルグ
 ニーコが鬼地獄から呼び寄せた最下級のヘル・オルグ。ゾンビに似た見た目通りに知性は皆無で、オルゲットより少し強い程だが、数に任せた攻撃で敵を追い詰める。
 その名の通り、常に飢餓感に襲われており獲物を喰らう事しか考えてない。鬼地獄では、オルグの屍肉を漁っていたらしい。外見モチーフは、ゼルダの伝説のリーデッド。

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