帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest38 狂犬の真実

 ガオゴールドはG−ブレスフォンが聞こえてくる声に戦慄した。声の主は今迄、幾多と自分達の前に現れ陥れて来た敵、ガオネメシスからだった。

 

「ガオネメシス……‼︎」

 

 湧き上がる怒りを抑えつつ、ガオゴールドは返事をする。ブレスフォンの向こうで、自身を嘲笑しているガオネメシスの姿が浮かんだからだ。

 

「何で、お前が⁉︎」

 

 〜ク……! 俺も、ガオの戦士だからな。G−ブレスフォンに連絡を取る事くらい容易い……。そんな事より……ニーコからの言伝を聞いてくれたかな?〜

 

「何だと…⁉︎」

 

 ガオゴールドは左拳を握り締める。そうしなければ、今にも自分で感情が爆ぜてしまいそうだった。

 

「祈に何をした⁉︎」

 

 〜クックック……鬼還りの儀を執り行なうには、純潔なる娘の生贄が必要だ。その為に、お前の妹を利用させて貰うだけさ〜

 

「き、貴様ァァっ!!!」

 

 もう我慢の限界だった。事もあろうに、祈を鬼還りの儀の生贄にする? その蒸気を逸した考えに、ガオゴールドの怒りは頂点に達した。

 

 〜案ずるな、殺しはせん……。文字通り、生きたまま利用するだけだ。全てが終わった時、貴様の妹はオルグの支配する世界に於いて、全オルグの母となって貰う……‼︎〜

 

「ふざけるな‼︎ そんな事させるか‼︎」

 

 G−ブレスフォンに向かって、ガオゴールドは怒鳴る。ガオネメシスの高笑いが響いた。

 

 〜もう遅い! お前の妹は既に、俺の手中にある‼︎ 取り戻したければ……探し当てて見るんだな〜

 

 と、言って通信は一方的に遮断された。ガオゴールドは呆然と佇むしか出来ない。

 

「すまん、陽……俺達のミスだ……」

 

 変身を解きながら、大神は謝罪した。まさか、此処まで大胆に仕掛けて来るとは思わなかったからだ。

 ガオゴールドをニーコが、ガオシルバー達をミナモとリクが、と二重から攻める事で祈に対する注意を逸らされた。

 思えば簡単な理屈だった。祈は原初の巫女の力を受け継ぐ、オルグ達がこれを見過ごす訳が無い。

 ましてや、鬼還りの儀を執り行なう為、となれば不安要素は取り除いて置く必要がある。

 完全にオルグの掌で踊らされていた事に対し、陽は悔しく歯軋りした。

 

「全部、私のせいです……」

 

 ふと、摩魅がやって来ながら言った。目には涙が浮かんでいる。

 

「私が、オルグ達を恐れてたから……‼︎ 私のせいで、祈さん迄……‼︎」

「おい、落ち着けって……‼︎」

 

 猛は、取り乱す摩魅を宥め様とするが、摩魅は聞く耳を持たずに、かぶりを振った。

 

「祈さんの身にもしもの事があったら……私……‼︎」

 

「もう止めろ‼︎」

 

 突然、陽は叫ぶ。その怒声に、其処に居合わせた全員が飛び上がりそうになった。

 

「今、誰が悪いとか、責任は誰にあるか、なんて言わないでくれ‼︎ 僕だって一杯一杯なんだ‼︎」

 

 陽は眉根を寄せながら喚く。この中で一番、現在の状況に参っているのは他でも無い、陽だ。

 信じていた摩魅はオルグから送り込まれていたスパイ、猛と昇にはガオレンジャーの秘密を知られていた、挙句には祈がガオネメシスに拐われたと来た。

 正直言って、陽自身は抱え切れない程に重荷を背負わされていた。僅か十七にも満たない、大人と呼ぶには未成熟な彼には、あまりに酷過ぎた。

 

「……ごめん……。君を責めるつもりは無いんだ……ただ……‼︎」

「ああ……分かってる、ワシ等、全員の責任だ。だからな……全員で責任を取るべきじゃろう?」

 

 ふと佐熊の発した言葉に、陽も大神も耳を傾ける。

 

「考えてみィ! なんの責任を抱えずに生きている奴なんて、この世に居らん! みんな、何が正解か間違ってるか、そんな事を考えながら生きとる‼︎

 ワシだってそうじゃ‼︎ 自分が何の為に戦っとるんか、って考える時がある! しかし、その時、頭に過ぎる事がある‼︎

 お前さん達を死なせたく無いから、ワシは戦う‼︎ 理由なんて、どうでも良い! そう考えてるのよ、ワシは!」

 

 普段の豪快かつ単純な佐熊らしい力強く、そして実にシンプルな励まし方だった。

 陽は様々な考えで、ごちゃごちゃになっていた頭の中が整理されて行くのが分かった。

 そうだ、自分だって何の為に戦うか、それは祈、猛、昇、大切な者達を守る為にガオレンジャーとして戦うと決めた。

 此処まで来る道のりは楽では無かった。けど、その度に乗り越えて来たじゃ無いか。大神、佐熊、テトム、こころ、パワーアニマル達……彼等が居たから、戦って来れた。強敵に次ぐ難敵、オルグは日増しに強くなる。それでも、彼等が共に居てくれれば必ず、乗り越えて行ける。陽には、そう確信があった。

 

「行こう……‼︎」

 

 陽は強い眼差しで応える。迷っている暇など無い。今は前進あるのみだ。

 

「ん? ガオプラチナとやらが居らんぞ?」

 

 佐熊はいつの間にか姿を消していたガオプラチナに疑問を抱く。だが、今は其れ所では無い。

 

「猛、昇。僕は行くよ。祈を助けに行く!」

「陽、大丈夫なのかよ? 祈ちゃんが危ないんだろ? だったら、俺も……」

 

 猛は戦地に赴こうとする親友を気遣うが、昇が制止した。

 

「止めろ! ロクに戦い方を知らない俺達が行って、足手纏いになるだけだ‼︎」

 

 その言葉を聞いた猛は押し黙る。

 

「……ヘマしねェよな?」

「……猛じゃ無いんだから、大丈夫だ!」

「ヘッ! 言ってくれるね…!」

 

 軽口で返す陽に、猛はニヤリと笑う。

 

「でも、ガオネメシスは何処に……?」

 

「あ、あの……‼︎」

 

 ガオネメシスの隠れ家を探り当てんと仲間達は全員、首を傾げるが、摩魅が突然、言葉を発した。

 

「ガオネメシスは、普通のオルグとは異なる邪気を発しているんです! 」

「何で、そんな事が?」

「私、混血鬼だから……分かるんです! ガオネメシスからも人間の気と、オルグの邪気が混じって発せられているから……!」

「すると、ガオネメシスの正体も君と同じ……」

 

 陽は此処に来て、ガオネメシスの正体に目星が付き始めていた。正体不明で底の見えない彼の真の姿は、人間とオルグの血を引く混血鬼かも知れないなんて……!

 

「……だから、ガオネメシスの居場所なら特定出来ます! 私も協力させて下さい‼︎」

「良いのか? そうなれば、君はいよいよ裏切り者として、オルグ達に怨まれるぞ?」

 

 大神は懸念する。摩魅は混血鬼であり、オルグ達からスパイとして送り込まれた身。しかし、反逆すれば元々、彼女を敵視しているオルグ達は一斉に彼女も攻撃対象とするだろう。

 摩魅は薄く笑う。

 

「良いんです。どの道、私はオルグ達からすれば、無用の長物ですし……私みたいな混血鬼を信じてくれた陽さんや祈さんに罪滅ぼしがしたいんです……」

 

 弱々しいながらも、摩魅は強い意志を示した。オルグの血を引く者では無く、人間として力になりたい。

 そんな彼女の意思を汲み、陽は肯く。

 

「分かった‼︎ 行こう‼︎」

 

 陽は、仲間達と共に空の彼方を見据える。先に立ち込める暗雲が、不吉を案じていた。

 

 

 

 ふと気が付くと、祈は花畑の上に居た。様子が掴めない祈は辺り一面を見れば、見渡す限りの花畑だった。

 夢を見ているのか? 更に服装を見れば、学校の制服では無く巫女装束に似た服を着ていた。

 いよいよ混乱していると、後ろから声がする。

 

 〜姉ちゃーん‼︎〜

 

 駆けて来たのは小さな可愛らしい男の子が二人……子供達も古めかしい弥生時代の服装と髪を両サイドで団子状に結っていた。子供達は、自分の膝下に抱きついて来る。

 

 〜姉ちゃん‼︎ 見て、バッタを捕まえた‼︎〜

 

 端正な顔をした男の子が、右手に持ったバッタを見せて来る。自分は、ふと愛おしくなり、男の子の頭を撫でてやる。

 すると、自分とは異なる声が口から出て来た。

 

 〜逃してあげなさい。その子にも、帰る場所があるのだから〜

 

 自分の声では無い筈なのに、慣れ親しんだ声に感じた。男の子の一人は甘える様に、祈にしがみつく。

 

 〜姉ちゃん、大好き‼︎〜

 

 男の子は満面の笑みだ。もう一人の弟も、輪に入りたそうにしていた為、祈は抱き寄せやった……。

 

 

 その瞬間、祈は目を覚ました。

 

「何? 今のは……」

 

 夢を見ていたのだろうか? 目が慣れて来た為、室内を見回すと、其処は妖しい空気の漂う部屋だった。

 身体を起こし、ベッドに座り直すと……。

 

 

「お目覚めかな?」

 

 

 ふと声がした為、振り替えると、ガオネメシスが壁にもたれ掛かっていた。

 

「誰、貴方⁉︎」

「そう言えば、貴様とは初対面だったな。俺は、ガオネメシスだ」

 

 祈は今迄、ガオネメシスと顔を合わせた事が無かった。だが、陽より話は聞いている。オルグ側に味方するガオの戦士が居ると…。恐らく、この男がそうなのだ。

 

「私を、どうする気⁉︎」

 

 祈は恐怖を悟られない様に、毅然とした態度で振る舞う。ガオネメシスは、クックッと含み笑いを上げる。

 

「中々、気丈な娘だな……。だが、心配するな。別に殺しはしない……貴様には……生きて貰わなければ、ならん」

「? 」

 

 ガオネメシスの意外な言葉に、祈は首を傾げる。

 

「貴様は自分が、原初の巫女の生まれ変わりであると知っている筈だ」

「ええ……知ってるわ。兄さんから聞いたから……」

「宜しい……。だが、巫女の為に命を捧げた戦士の話は聞いているまい」

 

 ガオネメシスは、祈の前に歩み寄りながら語り出す。

 

「原初の巫女アマテラスは、後世にて史実上で初めて、オルグを倒し尽くした巫女と伝えられているが……彼女と共に生き、襲い来るオルグの毒牙を防ぐ盾となり、オルグを貫く矛となった戦士が居た……。

 原初の巫女と同じくして、初めてオルグを倒した原初の戦士……その名を、スサノオと言った」

「スサノオ?」

 

 その名なら、祈も知っている。日本神話の中に登場し、八岐大蛇なる怪物を討ち滅ぼしたと言われる、古の戦神の名だ。

 スサノオが八岐大蛇を倒した際に取り出した剣の名は『天叢雲剣』と呼ばれ、八咫鏡、八尺瓊勾玉と並ぶ三種の神器として祀られている、と授業で習った事があった。

 

「それが……私と何の関係が?」

「大いにある。スサノオは、アマテラスに全てを捧げた。彼女の笑顔が好きだったからな。彼女が笑っていてくれるなら……彼女の笑顔を遮る者達が居るなら……弟スサノオは剣を取り戦った。我が身が血で汚く汚れる事も構わずにな……」

 

 そう語るガオネメシスは何処か悲しげで、懐かしい昔話を語る様だった。

 

「アマテラスの敵対していたのは、オルグと呼ばれる鬼の種族。彼女は巫女として、オルグ達を滅する事を宿命付けられていた。スサノオは、彼女がオルグに傷を付けられない様に身代わり役を買って出た。

 長い戦いの中で、スサノオが負った傷は数え切れまい。しかし、それでも奴は戦う事を止めなかった。姉を守る為なら……と、自分に鞭を打ってな……。

 やがて全てのオルグを滅ぼし、漸く平穏な日々が戻って来る……スサノオは、そう考えた。

 だが……今度は人間共は、彼に敵意を向けた。

 

『鬼を滅ぼした人間……鬼人……』とな……」

 

 ガオネメシスは、さも愉快そうに笑った。だが、彼の様子を見た祈は、ネメシスは自嘲している様にも思えた。

 

「ハハハハハ‼︎ 実に愉快だろう⁉︎ 人間共は平和になった瞬間、その平和が再び破壊される事を恐れた‼︎

 スサノオは日に日に懐疑に染まり、唯一、自分を庇っていたアマテラスにさえ人間共が危害を加え兼ねない、と判断し一人、流浪の旅に出た。

 しかし、それでも奴は剣を捨てず人間を怨まなかった。姉の『人間を許せ』と言う言葉を頑なに信じていたからだ!

 それから何年も旅を続け、再びオルグが現れた際には斬り続けた。人間共の疑いが晴れ、再び姉の元へ帰れる事を願ってな……。しかし……その願いが叶う事は、遂に無かった……。倒しても倒しても、オルグは再び現れる。そんな中、スサノオは知った。オルグは怒り、妬み、憎しみを抱いた人間から生み出される事を……。詰まる所、オルグは自分が守り続けた人間より生まれていたのだ。

 更に不幸は続く。姉アマテラスの死……スサノオは故郷に戻った。しかし、其処に姉の姿は無く……姉と共に築いた故郷も跡形も無く滅び去った後だった」

 

 ガオネメシスの語りは続く。

 

 「スサノオは今度こそ、深い絶望に沈んだ。アマテラスは、弟を迫害する人間共に失望し、最後は自ら岩の中に閉じ籠もり…果てた。彼女を失い、人間共は好き勝手に振る舞った挙句……自らの手で国を滅ぼした。

 人間等、最初から守る意味など無かった。本当に守りたかった姉は、守り抜いた人間に裏切られて死んで行った……。

 スサノオは血の涙を流しつつ、姉の果てた岩の前で己が身に刃を突き刺し、自害した……。

 だが……長い時を経ても、その魂は消えなかった。スサノオの魂は、人間共への怨念を糧に崩壊した肉体を再構築し、邪気を取り入れて……復活したのだ‼︎

 そう……それが、この俺……叛逆の狂犬ガオネメシス! かつて、スサノオと呼ばれた男の成れの果てだ‼︎」

 

 ガオネメシスが狂った様に叫ぶ。祈は絶句した。この目の前に居る男が、兄より遥か昔に生きていた戦士だったなんて……。

 

「フフフ……驚いたかな? これが、ガオネメシス誕生の秘密であり……俺が、世界に復讐を誓う理由なのだよ‼︎

 姉は人間共を守り抜いた、にも関わらず人間共に裏切られた! 俺だけを責め苛むならば、甘んじて受けよう! だが、姉は……姉さんは何故、死ななければならなかった?

 俺は姉さんの代わりに、人間共を地獄に叩き堕としてやるつもりだ‼︎ それが人間共への復讐であり……姉を見捨てた世界への叛逆でもある‼︎」

「……貴方の考えは間違っているわ……」

 

 ガオネメシスに対し、祈は憐みに満ちた目を向けた。

 

「俺が間違っている、だと?」

「貴方の、お姉さんがどんな人だったかは知らないけど……少なくとも、人間達に復讐する事は望んで居なかった筈よ」

 

 祈の訴えに対し、ガオネメシスは嘲る様に笑った。

 

「何が可笑しいの⁉︎」

「クックック……ならば逆に問おう。もし、貴様の兄が俺と同じ立場だったら……兄を否定出来るのかな?」

「⁉︎」

 

 突然、突き付けられた返しに対し、祈は口籠る。構わずに、ガオネメシスは続けた。

 

「竜崎陽は、俺と同じ穴の狢だ‼︎ 奴の強さの根源は他者を思いやる優しさとやらにある! だが俺から言わせれば、そんな物は凶器でしか無い‼︎ 貴様を始めとした、奴にとって大切な者達を人間共が傷付けようとするものなら、俺以上に常軌を逸した行動を取るだろうよ‼︎」

「…‼︎ 兄さんは、そんな人じゃ無いわ‼︎ 兄さんの事を何一つ分かって無い人が、知った風な口を聞かないで‼︎」

 

 祈は激しく否定した。兄であり、自身の想い人である陽を侮辱する事は、即ち自分を侮辱されたも同然だからだ。

 しかし、彼女の様子を見下ろしながら、ガオネメシスは揶揄う様に囁いた。

 

「クックック…その実、言葉に不安が満ちているわ….…まァ良い。俺の言葉を信じるも勝手、信じないも勝手……だが、覚えておくが良い。近い未来、奴もまた人間に裏切られて傷付き、そして自ら外道の道に堕ちて行くだろう……。 

 自分が守るべき存在が、守るに値しない物と知り、そして最後には己が人間への災厄そのものに成り果てる! その時、貴様は……!」

 

「止めてェェっ!!!!」

 

 祈は、ガオネメシスの言葉を耳を塞いで遮り、金切り声を上げた。その様子を見ていたガオネメシスは急に顔を横に向けた。

 

「クックック……どうやら、貴様の兄が助けに来た様だな……。あの混血鬼の小娘の口添えか……」

「……兄さんが⁉︎」

「……しかし奴が、お前を助ける事は叶わぬ。俺が、この手で闇に屠ってくれる‼︎」

 

 そう言い残し、ガオネメシスは祈を残して部屋から出て行った。自分以外、誰も居なくなった部屋を見渡した。此処から逃げ出さなくては……。しかし、部屋はネズミ一匹抜け出る隙も見当たらない。その時、祈の脳裏に声が響く。

 

 〜手をかざせ〜

 

 その声は聞いた事の無い声の筈だが、何故か懐かしい感じがした。言われるがままに、祈は手をかざす。

 すると何も無い空間に、光のゲートが出現した。

 

 〜その中に飛び込むのだ!〜

 

 何やら怪しさを感じたが今は、この声を信じるしか無い。迷わず、祈は光のゲートに足を踏み入れた……。

 

 

 

 一方、陽達は崩れ掛かった廃屋の前に居た。其処は明治時代初頭に建てられた洋館だった。しかし、今は持ち主も居らず荒れ果てたまま、放置されている。地元の子供達は『お化け屋敷』と呼んで、誰一人として近付こうとしない。

 しかし今思えば、オルグ達が潜伏するには、これ以上に打って付けな立地である。

 隣に立つテトムは注意深く、洋館を見つめる。

 

「どう? テトム」

 

 陽は尋ねた。テトムは頷き返した。

 

「祈ちゃんは、間違いなく此処に居るわね。それと同時に、禍々しい気配も感じるわ……」

「ガオネメシス…だな」

 

 大神は烈しい表情で言った。佐熊は、こんな辺鄙な場所にガオネメシスが潜んで居た事に驚いている。

 

「しかし…まさか、此の様な所に潜伏しとったとはのォ……全く、気付かなんだ…」

「灯台下暗し、とは良く言った物ね……。摩魅ちゃんの案内が無ければ気付かなかったわ……」

 

 テトムは摩魅を見た。彼女は顔を曇らせる。

 

「わ、私は…何も…」

「いや、君のお陰だ。君が勇気を出して、案内してくれたから気付けたんだ……ありがとう」

 

 陽に御礼を言われた事で、摩魅は俯く。その際、顔は赤く染まっていた。

 

「待ってろよ、祈‼︎ 必ず、助けるからな‼︎」

 

 陽は洋館の何処かに囚われているであろう祈の身を案じながら、呟く。

 と、その際に目の前に鬼門が開いた。

 

「チャオ♡」

 

「ニーコ‼︎」

 

 鬼門から出て来たのは、ニーコだった。大鎌を構えて、余裕がある笑みを浮かべている。 

 彼女の後ろからは多数の餓鬼オルグが付いて来る。

 

「ようこそ、ガオレンジャーの皆様♡ 遠路はるばる、ご苦労様。ですが折角、来て頂いたのに、おもてなしも程々にしなければなりませんわァ♡

 だって……貴方がたは、此処で死んで頂くのですから‼︎」

 

 やんわりとした口調はそのままに、ニーコは大鎌を手にして冷徹な顔となった。敵は、やる気らしい。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 陽達はG -ブレスフォンを起動させて、ガオスーツを身に纏う。その時、ガオプラチナが駆け付けて来た。

 

「ガオプラチナ、何時の間に⁉︎」

「今は、そんな事よりオルグを倒すのが先決よ‼︎」

 

 ガオプラチナを促され、気を取り直したガオゴールドはニーコを睨む。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

「煌めきの鳳凰! ガオプラチナ‼︎」

 

「命ある所に正義の雄叫びあり‼︎

 百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 四人のガオの戦士達は力強く叫びながら名乗りを上げ、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 それと同時に、祈は洋館内を走り回っていた。しかし、薄暗い館の中は右も左も分からず、どっちに行けば良いか分からない。だが、陽達が来てくれているのだから、彼と合流すれば良い。

 と、その際、目の前に人影が現れた。

 

「‼︎」

 

 まさか、逃げ出した事がガオネメシスにバレた⁉︎ 身構える祈に反し、人影は穏やかに言った。

 

「恐れるな。私は、味方だ」

 

 僅かな漏れ日に映し出されたのは、ガオマスクを身に付けた男性だ。しかし、ガオネメシスでもガオゴールドでも無い。

 

「あ、貴方は⁉︎」

「私は……名など、どうでも良い。しかし、敢えて名乗るなら……ガオマスター、とでも呼んでくれ」

「ガオ…マスター?」

 

 祈は、ガオマスターと名乗った男を見た。ガオネメシスの様な禍々しさは感じられない。寧ろ、非常に慈しみに満ちた雰囲気だった。

 

「兄さんが貴方を?」

「今は、ゆるりと話している場合では無い。君を助けに来た。此処から出よう、私に付いて来なさい」

 

 ガオマスターは急ぐ様に促した為、祈は彼を信じる事にした。

 

 

「何処に行くつもりだ?」

 

 

 その刹那、闇の中よりガオネメシスが現れた。ガオマスターは祈りを背に隠し、彼と対峙する。

 

「貴様、何者だ?」

 

 ガオネメシスは敵意を滲ませながら、ガオマスターを威嚇した。しかし、マスターは穏やかな声で

 

「私が誰なのか……お前は知っている筈だ。スサノオ……」

 

 ガオネメシスは珍しく動揺した。自分の本当の名前を知っている? いや、それ所か自分も、この男を知っている気がした。

 

「な、何故⁉︎ まさか、貴様は⁉︎ あ、有り得ない、奴は死んだ筈だ‼︎」

「スサノオよ……有り得ない事は有り得ないのだ……現に、お前が生きているならば、私が生きている事も必然だろう?」

 

 ガオマスターの言葉に対し、ガオネメシスは返す言葉が出てこない。

 

「……ならば今更、何をしに来た‼︎ 俺を殺す為か⁉︎」

「違う。救いに来たのだ」

 

 菩薩の様な穏やかなオーラを発しながら、ガオマスターは言い放つ。ガオネメシスは殺意を剥き出しにした。

 

「救いに、だと? 笑わせるな! 」

「聞け、スサノオよ…。このまま突き進んだ所で、お前には絶望しか無い…。永遠に満たさぬ渇きと、怒りに苛まれて生きていくだけだ…。少なくとも、あの人は、そんな事は望んではいまい」

「喧しい‼︎ 俺に指図をするなァァ!!!」

 

 ガオネメシスは絶叫しながら、ヘルライオットを乱射した。

 

「キャアァァァっ!!!」

 

 祈は足下に屈み込む。だが、ガオマスターは倒れる様子を見せない。恐る恐る見上げると、ガオマスターは左手を前に突き出していた。

 彼の手には円形状の満月に似た盾が握られていた。盾の頭頂部には、持ち手が付いている。

 

「ほう? 盾を使うとは、臆病な性格になったな。かつての貴様は、俺以上に荒々しい男だったろうに」

「……此れが私の破邪の爪、フルムーンガードだ」

 

 ガオマスターは祈を振り返る。

 

「私より前に出てはいかん。ジッとしていろ」

「は、はい‼︎」

 

 そう言うと、ガオマスターはフルムーンガードの頭頂部にある持ち手を握る。すると盾と一体化していた部位が外れ、持ち手を引き抜くと光り輝く刃が出現した。

 

「そして、此れがルナサーベルだ。出来れば、お前を傷つけたくは無いが……私はガオの戦士として、私の使命を果たす」

「クックック……果たせるかな?」

 

 ガオマスターはルナサーベルを振り上げ、ガオネメシスへ向かって行く。ネメシスも負けじと、ヘルライオットのトリガーを引いた。

 

 

 

 館の前でも、また熾烈な戦いとなっていた。ニーコが次から次へと嗾けて来る餓鬼オルグに加え、今度はニーコも戦闘に加わって来た。四人に対し、餓鬼オルグは倒しても再び起き上がって来る為、事実上に無尽蔵の敵を相手にしているに等しい。

 

「ガオゴールド‼︎ ニーコを叩くの‼︎ 餓鬼オルグはニーコの支配下にあるから、彼女を倒せば……‼︎」

 

 ガオプラチナが叫ぶ。成る程、ニーコが餓鬼オルグ達の司令塔であり、彼女を倒さない限りは餓鬼オルグは永遠に現れて来る。意を決して、ガオゴールドはニーコにガオサモナーバレットを向け、射撃した。

 しかし、ニーコはクスクス笑いながら、大鎌で光弾を防ぐ。

 

「アハッ♡ 私を弱いと勘違いしてますゥ? お生憎様。私、こう見えて結構、強いんですよォ‼︎」

 

 そう言うと、ニーコは大鎌を構えてガオゴールドに斬り掛かって来た。しかし、ガオゴールドも負けてはいない。

 すかさずにドラグーンウィングに持ち替え、攻撃を受け止めた。

 

「ンフ♡ 中々、やりますわねェ⁉︎ で・も! 私に手間取っている様じゃ、ガオネメシス様には歯が立ちませんわよォ?あの方は、人もオルグも超越した存在……正真正銘の化け物ですから‼︎」

「人もオルグも⁉︎ どう言う意味だ⁉︎」

「クスッ♡ 言葉通り、ですわ‼︎」

 

 そう言って、ニーコは大鎌を軽々と振るいながら、ガオゴールドに連続で攻撃して来た。

 確かに自身で強い、と言い切るだけあり、ニーコは強かった。並のオルグなど、目では無いだろう。

 だが、負ける訳には行かない。陽はドラグーンウィングを分解して二刀流にすると、ニーコの懐を斬りつけた。

 

「ッン⁉︎」

 

 素早い動作に対応出来なかったニーコは思わず怯んでしまう。しかし、ニーコは宙に浮いてから鎌に邪気を込めた。

 

「ならば……これは如何⁉︎」

 

 邪気を込めた鎌による斬撃が、ガオゴールドに襲い掛かった。不意打ちに倒れたガオゴールドを見て、ニーコはほくそ笑む。

 

「ンフフ‼︎ 餓鬼オルグ、捕まえなさい‼︎」

 

 ニーコの指示を聞き、地面から飛び出して来た餓鬼オルグに、ガオゴールド両腕を拘束されてしまう。

 

「くッ⁉︎」

「ンフフ‼︎ さァ、フィナーレと行きましょうか⁉︎」

 

 動けなくなったガオゴールドを目掛け、ニーコは大鎌を振り下ろしに掛かった。

 だが、其処へ光の矢が飛んで来て、ニーコの胸に突き刺さる。

 

「イッタァ〜イ‼︎」

 

 不意に矢で射抜かれたニーコは苦しむ。更に、光の矢が二本、餓鬼オルグの頭部を射抜いた。

 

「ガオプラチナ‼︎」

 

 助けたのは、ガオプラチナだった。彼女の放った矢が、餓鬼オルグとニーコから救ったのだ。

 

「ガオゴールド‼︎ 今よ、ニーコを‼︎」

 

 ガオプラチナはニーコを指差す。ガオゴールドは頷き、ニーコにガオサモナーバレットを向けた。

 

 

「ああ、分かった‼︎

 破邪炎滅弾! 邪気…焼却‼︎」

 

 

 ガオサモナーバレットから放たれる金色の光弾が、ニーコに直撃した。

 

「いやあァァァッ!!!」

 

 燃え上がるニーコは、そのまま落下して来た。ガオシルバー、ガオグレーが戦っていた餓鬼オルグ達も、そのまま動かなくなってしまう。

 

「やったのか⁉︎」

「そうらしいのォ……‼︎」

 

 ガオシルバー、ガオグレーは二人に近づいて来た。一先ず、敵を倒した。

 

「ニーコは倒したが……まだ、ガオネメシスが残っているな……皆、行こう‼︎」

 

 ガオゴールドは燃え盛るニーコの亡骸に背を向け、仲間達を連れて洋館へ入ろうとしたが……。

 

 

「ンフフ…‼︎ まだ倒したなんて…思わないで下さいなァ…‼︎」

 

 

 燃え盛る炎の中から、ボロボロになったニーコが出て来た。

 

「な…生きてる⁉︎」

「此奴……不死身か⁉︎」

 

 その生命力の高さに、ガオゴールドとガオグレーは驚く。ニーコはクスクスと笑った。

 

「言ったでしょう? 結構、強いって! ですが……貴方がたを相手にするのは、新しい玩具を投入する必要がありますねェ‼︎」

 

 ニーコは不敵に笑い、指を鳴らす。すると森を掻き分け、姿を現す巨大な影……。

 

「な……あれは⁉︎」

 

 今度は、ガオシルバーが驚愕した。見間違える筈が無い。其れは、ガオシルバーと共に数々の戦いを乗り越えて来た大切な相棒だった。

 

「ガオハンター・イビル……カモォン‼︎ ウフフ♡」

 

 ガオハンター・イビルの肩に乗ったニーコは、挑戦的にクスクスと笑った……。

 

 〜やっとの思いで、ニーコを倒したかと思えば、ガオネメシスに奪われた仲間、ガオハンターが敵となって立ちはだかる‼︎ 果たして、ガオゴールド達は如何にして戦うのでしょうか⁉︎〜


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