帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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三章 最終決戦
quest41 悲しき鬼


 昼休み……陽は学校の屋上にて、摩魅と一緒に弁当を食べる為、彼女を待つ最中、物思いに耽っていた。ガオレンジャーの歴史、アマテラスとスサノオの悲劇を知って、自分の身を置く戦いが最早、自分一人だけの物では無い事を痛感した。

 ツクヨミから聴かされたガオの戦士の歴史、それは自分の想像を絶する物だった。

 自分と祈……ガオの戦士としての運命から逃れられ無い、寧ろ最初から定められていたなんて……。陽は右掌を開けて見た。

 つい最近まで、自分が戦いに生きるなんて、考えても見なかった。仲間達に支えられて、やっとの思いで戦い抜いて来たが……余りに重なり過ぎた事に、陽は折れそうだった。

 何時迄、続くのか……果たして戦いの果てに、ガオネメシスやテンマを倒せるのか……仮に倒せたとしても、その時、自分は正気で居られるだろうか……。

 かつて、ガオネメシスから言われた言葉が耳に突き刺さる。

 

 

 〜貴様の気高き思想など、時を経て人の醜さを知れば知る程、脆く崩れ去る〜

 

 

 あの時は、馬鹿馬鹿しいと聞く耳を持たなかったが、彼の過去を聞いた今となっては、痛い程に身に染みて来る。

 ガオネメシスも、スサノオとして生きていた時は気高い思想を持ち、強きを挫いて弱きを助ける、と言った絵に描いた様な好漢だったに違いない。しかし人間に裏切られ姉を失い、絶望に苛まれた結果、人類に復讐を目論む戦士ガオネメシスへと堕ちてしまったのだろう……。

 もし、自分も祈を喪ってしまったら……守って来た人達、全てに裏切られてしまったら……自分が第二の、ガオネメシスとなり人類に牙を剥く……考えただけで、ゾッとする。

 

「竜崎……」

 

 ふと声がした為、振り返って見れば、美羽が不安気な様子で自分を見ていた。

 

「鷲尾さん……」

「美羽で良いよ……。昔は、そう呼んでたじゃん……ねェ、大丈夫?」

 

 美羽は、陽の隣に腰を下ろしながら言った。

 

「……ん、大丈夫……」

「大丈夫な訳無いじゃん。そんな辛そうな顔して言っても、説得力無いよ……」

 

 美羽には、陽の本心を見抜いている様だ。陽は困った様に、笑う。

 

「陽って昔から変わんないね……辛そうにしてればする程、周りに掛かる心配事を考えて、隠そうとする……」

「でも、美羽……どうして?」

 

 陽は自分を気に掛けてくる美羽に、やや困惑しながらも尋ねた。

 

「美羽も僕と同じ、ガオの戦士だから?」

「其れもあるけど……祈に頼まれたんだ……。『兄さんが無茶をしない様に見ていて欲しい』って……」

 

 やっぱりか…と、陽は溜息を吐く。

 

「祈だけじゃ無いよ……皆、心配してる……。乾も申利も……勿論、私もね……。陽が壊れてしまわないか、心配なんだよ……」

 

 美羽の労りに満ちた言葉に陽は、ハッとした様に彼女を見る。不思議と彼女と一緒に居たら、ササクレだっていた心が緩やかになって行くのを感じた。

 

「私も叔父もね……ガオレンジャーだったんだ……」

「エッ⁉︎」

 

 急に美羽の発した言葉に、陽は呆気に取られた様な顔をした。美羽は無表情のまま、ポケットからメモ帳を取り出す。

 

「ほら、この人……」

 

 メモ帳に挟み込まれた一枚の写真……写真には、七人の人間が映り込んでいた。内、二人は大神とテトムだ。

 他の五人は以前、ガオゴッドに見せて貰った過去の幻影によって見た先代のガオレンジャー達……一人は、陽も所縁ある人物、ガオホワイトこと大河冴である。ガオレッドと思しき青年の隣に立つ金髪に、やや荒々しい見た目の青年……彼が、ガオイエローにして、美羽の言う叔父なのだろう。

 

「鷲尾岳って言って、私の一番、大好きな叔父さんだった……。若い頃は自衛隊に居た事や、小鳥の飼い方とか、色んな事を教えてくれてね……。その中で叔父さんが、ガオレンジャーとして戦って居た事を知ったんだ……」

 

 しみじみと昔を語る美羽の話に、陽は聞き耳を立てた。

 

「……最初はね……冗談だと思ってた……。でも、ガオマスターが私の前に現れた時、知ったんだ……。岳叔父さんの言ってた事は嘘じゃ無かった、てね……」

「……僕も、そうだった……従姉の冴姉さんが、ガオレンジャーとして戦ってた事、自分がガオレンジャーになって初めて知ったんだ….」

「…ふふ、何か可笑しいね。私達、お互いに親戚にガオレンジャーが居て、何年かした後に出会うなんてさ……」

「……きっと運命だったんじゃ無いかな……」

 

 陽が、ポツリと呟く。奇しくも二人共、奇妙な共通点があった。どちらも、ガオレンジャーに対して接点がある所か、ガオレンジャーになるべくして出会ってしまったと言える。

 現在、陽のパートナーとするレジェンド・パワーアニマルは、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィン、ガオワイバーン、ガオナインテールの五体だ。加えて、美羽がパートナーとする未だ全貌の掴めないレジェンド・パワーアニマル、ガオフェニックス。

 この六体こそ、かつて原初の巫女アマテラスがスサノオと共に戦った六体のパワーアニマル、通称『六聖獣』であると、ツクヨミは語った。

 六聖獣は、その名の通り他のパワーアニマルと違い、実在する動物では無く、竜や不死鳥と言った伝説の動物をモチーフとしている。

 運命だとか、神のみぞ知る答えなんて陳腐だと、少し前の自分なら失笑した筈だ。だが、ガオレンジャーとなった今となっては、本当に最初から仕組まれて居た、と思わざるを得ない。

 

「運命……か……。私は運命とか信じないタイプだったけど、今の私達は、あながち“運命”かも知れないね……」

「エッ⁉︎ それって……」

 

 美羽の言葉の意味を理解出来ずに陽は尋ねようとしたが、美羽は立ち上がる。

 

「……次に戦う時は、私も行くから……‼︎」

 

 それだけ言い残し、美羽は歩み去っていった。残された陽は天を仰ぎながら、誓う。もう決して迷わない、と……。

 

「……僕が迷えば、祈や美羽への負担となる……。迷いは断ち切って……前へ、突き進む‼︎」

 

 これ迄以上の苦しい戦いを強いられるだろうが、もう迷っては居られない。平坦な道を探して回り道するくらいなら、多少の荒れた道でも突き進むのみ…! 覚悟を決めた目が、輝いて居た。

 

「そう言えば……摩魅ちゃん、遅いな……」

 

 

 そんな二人の様子を陰から伺っていた人影……摩魅だった。手には朝方、祈が持たせてくれた弁当を持って……。

 だが、美羽と仲良さげに話をする陽を見ていると、中に入り込めなかった……。側から見れば、とても仲の良いカップルに見える。しかし、それは陽と美羽が人間同士だから、成立する事だ。

 自分には、とても無理だろう……見た目が、どんなに人間に見えようが、一皮剥けばオルグでしか無い自分には……陽の隣に立つ事など出来ない……。

 摩魅は先の、自身の裏切りを許したばかりか、仲間として受け入れてくれた陽に、密かな恋心を寄せていた。

 しかし……それは、許されぬ恋である、と他ならぬ摩魅が自覚していた。

 所詮、オルグの血を引く自分には、彼に対する恋心は卑しい劣情でしか無い……彼女は、そう考えて居た。

 何より、陽の事を祈もまた愛している事を、摩魅は理解していた。これ迄、彼女は誰かを好きになる事は無かった。そんな物は無縁な物だと、理解していたからだ。

 仮に百歩譲って、摩魅を陽が受け入れてくれたとしても、きっと自分は変わらないのだろう……。

 

「(こんなに苦しいなら……心なんか要らない……)」

 

 改めて、オルグでありながら人間らしい心を持って生まれた自身の人生を摩魅は呪った。こんな事なら、他のオルグ同様に破壊を楽しむ性格に生まれてくれた方が、どれ程にマシだったか……。

 彼女は、溢れ出る涙を乱暴に拭いながら、摩魅は陽に気付かれない様に場所を離れて行った……。

 

 

 

 その頃、テトムは、ガオズロック内で書物を読み耽っていた。側で見ていたこころは訝しげに、彼女に尋ねる。

 

「さっきから何を読んでるの?」

 

 ガオズロック内の、テトムの部屋には彼女しか入れない秘密の部屋がある。それは、テトムの祖母であり先代巫女ムラサキの遺した書物が保管されている。

 其処には、かつて戦いを共にした千年前のガオの戦士に対する記述や、確認され得る限りに発覚しているオルグ魔人に対する情報、これ迄に姿を見せたパワーアニマル達についてが、綿密に記されていた。

 しかし、この書物は歴代のガオの巫女のみが閲覧する事を許され、どんな理由があろうとも、ガオの戦士や一般人が内容を確認する事も、例え内容を知っても口外する事は許されない。

 何故なら、この書物には、ガオの巫女のみ受け継がれる人類の正しい歴史が遺されているからだ。

 現代に一般的に残されている歴史は、何れも意図的に改竄され、真実を知る術は無い。現代人は、過去に起こった事象を発掘した古来の遺物を照らし合わせ、それこそが真実である、と結論付けて来た。

 しかし……歴史上にて名を残した偉人、出来事の陰には必ず、オルグの暗躍があった。古く言えば源平の戦、戦国時代の到来、関ヶ原の戦……近代においては、第一次、二次大戦、太平洋戦争……血生臭い戦の原因を辿れば、オルグが行き着いてくる。

 そんな、オルグの暗躍を防ぐ為、ムラサキやテトムと言った歴代のガオの巫女は、パワーアニマルの加護を受けた戦士達を率いて、オルグの侵攻を食い止めて来た。

 また非常に長命であるガオの巫女は、その後に起こった修正される前の歴史を守り続けているのだ。その中で、テトムはムラサキからアマテラスやスサノオについて、聞かされた事は一度も無い。

 

「……何かを見落としている気がするのよ……ムラサキおばあちゃんでさえ、気付かなかった何かを……」

 

 そう言って、テトムは食い入る様に、書物を読み漁っていたテトムは、とあるページで指を止めた。

 

「これは…‼︎」

 

 それは相当、古い書物だった。そのページには、巫女に付き従う二人の男、上の男は剣を構えて、下の男は弓を構えている。

 対峙しているのは、多数のオルゲットと思しき怪物を使役する男だった。その姿は、仏典などで語られる地獄の支配者、閻魔大王に酷似している。更に上には、ガオパラディンでよく似た巨神と八つの首を持った蛇の怪物が相対している……。

 

「これが……原初の巫女?」

 

 テトムは書物に記された原初の巫女の闘いを読み進めた。その際、こころか呼び掛けて来る。

 

「テトム、あれ……‼︎」

 

 こころが指を差すと、ガオの泉が尋常では無い程に、ボコボコッド 泡立っていた。

 

「何なの、この反応……⁉︎」

 

 此処まで、ガオの泉が反応すると言う事は、相当に強力なオルグが現れたに違いない。テトムは、祈りを捧げる。

 

 〜陽、月麿、力丸、美羽……‼︎ オルグが現れたわ……‼︎〜

 

 テレパシーを送り、ガオの戦士達に招集を掛けた。

 

 

 とある山中の頂き……辺りの岩は崩れ、地面の野草は消し炭の如く、煤けていた。その際、力強く風を切る音が響く。

 其処に居たのは四鬼士の一角、焔のメランである。愛刀である炎の剣メラディウスを手に、佇んでいた。

 その時、背後にある一本の老木に振り返る。そして、メラディウスに炎を纏わせ、老木に刃を振り下ろした。

 老木は真っ二つに両断されたが、メランは飛び上がり、老木に追い討ちを掛けるがの如く一太刀、二太刀、三太刀と斬撃を入れた。

 すると老木を斬りつけた場所から黒い炎が発火し、とうとう燃え広がった木は音を立てながら倒され伏した。

 メランは、メラディウスを炎に戻して収納する。

 

「……山に篭り、修行を重ねる日々にも飽きて来たな……。最早、我の退屈を紛らせてくれる者は、ヤミヤミか……彼奴だけだ……」

 

 そう呟くと、メランは鬼門を発生させた。

 

「クク……少しは強くなったのだろうな、ガオゴールドよ……」

 

 と、傲岸不遜に笑いながら鬼門の中へと、メランは消えて行った……。

 

 

 

 その頃、街中では大多数のオルゲット達が暴れ回る事態であった。その集団の指揮を執るのは、ヤバイバだ。

 

「さァ、暴れろ! しっちゃかめっちゃかに壊し尽くせ‼︎」

 

 ヤバイバが勢い付いて、煽り立てる。オルゲット達は、その命令に従い金棒を振り下ろした。

 

「な、何だ、あいつらは⁉︎」

「に、逃げろォォッ‼︎」

 

 暴徒と化すオルゲット達から逃げ回る民間人。しかし、そんな悲鳴など、お構い無しと言った具合に、オルゲット達と金棒から放たれた光弾が車をひっくり返し、電柱を叩き折る等と暴挙を繰り返す。

 

 

「止めろッ‼︎」

 

 

 オルゲット達の前に立つ四人の影。テトムのテレパシーを聞いて集結した陽、大神、佐熊、美羽の四人だ。

 

「ン〜〜⁉︎ 来たな、ガオレンジャー……って、あれ⁉︎ お前は、あの時の⁉︎」

 

 ヤバイバは、美羽を見ながら思い出す。かつて、祈に襲い掛かった際に、凄まじい気迫にて自身を圧倒した、あの少女だ。

 何処か、ガオイエローに似た雰囲気を醸し出す、あの空気を……。

 

「私も、ガオレンジャーだからね‼︎ 」

「チッ……また、増えやがった……‼︎ まァ良い……見せてやれ、オルゲット達‼︎ 」

 

 ヤバイバは命令を下す。すると、オルゲット達の中途半端な角が鋭く伸び切り、体躯も筋骨隆々へと変わる。

 同時に、ヤバイバの外見も、より刺々しく口内に牙が生え揃い、角には緑色の紋様が浮かび上がって来た。手に持つ剣も、肥大している。

 

「ハーハッハッ‼︎ お前等が倒したトリケラオルグと、プテラオルグの邪気を吸収し、装甲ヤバイバにパワーアップしたのだ‼︎

 こうなりゃ、お前等なんざ『飛んで火にいる団子虫』よ‼︎」

「……其れを言うなら『飛んで火にいる夏の虫』じゃ無いか?」

 

 ヤバイバの誤った諺に対し、大神は訂正する。しかし、ヤバイバは気にする素振りなく、オルゲット達を率いて…

 

「よっしゃ、行くぜェ‼︎ ズッタズタに切り裂いたらァ‼︎」

 

 と、力を付けたヤバイバは、今迄の鬱憤を晴らさんとして、強化オルゲット達と共に襲い掛かって来た。

 陽は、G−ブレスフォンを起動させ……

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 と、ガオスーツを纏い変身する。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

「煌めきの鳳凰! ガオプラチナ‼︎」

 

「命ある所に正義の雄叫びあり‼︎

 百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 ガオレンジャー達の気高い闘志が燃え上がり、邪気を撒き散らすオルグ達を迎え撃とうとしていた……。

 

 

「フフフ……ヤバイバ、良いわよ‼︎ 目一杯、時間を稼いでいて頂戴……‼︎ 最早、ガオレンジャー等、恐るるに足らず‼︎

 さァ、間もなくよ……私が腕によりを掛けて完成させた、この特製オルグシードを使えば、ガオレンジャーなぞ……フフフ……‼︎」

 

 ビルの上から戦いを見下ろしながら、ツエツエは不敵な笑みを浮かべた。その手には西瓜ほどの大きさである、ドリアンに似た形状のオルグシードが握られていた。

 

「ティラノオルグも力を目一杯、蓄えているし……ガオレンジャーを一網打尽にした後は私達を散々、虚仮にしたテンマやニーコを殺す‼︎

 そして、このツエツエが女王として、世界に君臨し続けるのよ‼︎」

 

 圧倒的な力を得て完全に調子付いたツエツエは最早、自分に恐れる者は何も無い、と言わんばかりに狂笑した。

 

 

 

 ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンをガンナーフォルムにして、オルゲット達を撃ち抜いて行く。

 しかし、強化オルゲット達は一発ぐらいでは倒れず、何度も立ち上がって来る。

 

「クッ…‼︎ 硬い⁉︎」

 

 やはり、光弾による攻撃より、ソードフォルムにして直接、ガオソウルを叩き込まなければ、倒す事は難しい。

 苦戦しているのは、ガオシルバー達も同様だ。オルゲット達の堅牢な肉体に反した素早い動作に、まともにダメージを与える事もままならない様子だった。

 

「……数が多すぎる上に、攻撃を躱し切れん⁉︎ 今迄のオルゲットとは違うぞ⁉︎」

「……司令塔は、ヤバイバじゃ‼︎ 奴を倒さん限りは、手も足も出ん‼︎」

 

 ガオグレーは、オルゲット達をグリズリーハンマーで叩き潰しながら、ヤバイバを指差す。

 成る程、確かにオルゲット達を嗾けて居るのは、ヤバイバだ。奴を何とか倒す事が出来たなら、オルゲット達を沈黙させる事が出来るかも知れない。しかし、ヤバイバの周りには、彼を守護するかの様に、オルゲット達で固められている。

 

「私に任せて‼︎ フェニックスアロー‼︎」

 

 ガオプラチナが、フェニックスアローに矢を番えた。放たれた矢は、ヤバイバを捉えたが、あと少しと言う所で、オルゲットの肩に当たって阻まれてしまう。ヤバイバは、ケタケタと嘲笑した。

 

「バーカ‼︎ 下手な矢なんざ、いくら射ても当たんねェんだよ‼︎」

「……馬鹿は、アンタだよ」

 

 ガオプラチナは底冷えする様な、冷たい声で言った。すると、オルゲットの肩に刺さった矢が燃え上がり、オルゲットの身体は炎に包まれた。

 

「な、何ィ⁉︎」

「フェニックスアローの矢に込められて居るのは、邪気を祓う聖なる炎! 擦り傷だって、オルグには致命傷と成り、体内に混入すれば中から、炎で焼き滅ぼす‼︎」

 

 勝ち誇っていたヤバイバは一転、自分達を倒し兼ねない武器を持つガオプラチナに戦慄した。

 

「クッ…‼︎ ガオプラチナを狙え‼︎」

 

 遠距離から自分達を倒せるガオプラチナを先に片付けようと、ヤバイバは守りで固めていた陣形を解く。オルゲット達の一糸乱れぬ動きが崩れ、有象無象の動きとなった。

 

「ヤバイバを守る者は無くなった‼︎ 行って、ガオゴールド‼︎」

「オルゲット共は俺達が引き受ける! 行け、ゴールド‼︎」

 

 ガオプラチナが指示を出し、ガオシルバーとグレーが、オルゲット達の攻撃を受け止めた。彼女の作り出した隙を逃すまいと、ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンを直立にした。

 

「ソードフォルム‼︎」

 

 ソルサモナードラグーンの銃口から光刃が出現し、行手を遮るオルゲット達を斬り伏せて行った。

 その切れ味は、ドラグーンウィングの時より遥かに上回って居る。

 

「ヤバイバァ‼︎」

 

 ガオゴールドはヤバイバの前に迫り、ソルサモナードラグーンを振り下ろす。ヤバイバも負けじと、自身の手に持つ短剣で防いだ。

 だが、そのヤバイバの単純な力さえも強化されて居るらしく、ガオゴールドと見事に拮抗した。

 

「クッ…‼︎ 負けて堪るかよォォッ!!!! 」

 

 ヤバイバは更に力を上乗せさせ、ガオゴールドを押そうとする。それは最早、執念さえ感じられる。

 しかし時折、ヤバイバは苦しそうに歯を鳴らして居る事に、ゴールドは違和感を持った。

 

「(……ヤバイバの様子が変だ? )」

 

 どうやら、ソルサモナードラグーンの斬撃に耐えて居る訳では無く、何やら痛みに耐えて居る様だ。

 しかし、考察をして居る場合では無い。と、ウカウカしていた隙に、体制を立て直したオルゲットが、ガオゴールドの背後を取った。

 

「危ない、ゴールド‼︎ 陽ァァ‼︎」

 

 ガオプラチナは、フェニックスアローを構えるが、オルゲット達の邪魔で矢が届かない。オルゲットの振り下ろした金棒が、ガオゴールドの頭部に直撃した。

 

「グッ⁉︎」

 

 ヘルメット越しとは言え、頭部に走る衝撃に、ガオゴールドは大きく怯む。ヤバイバは、その隙を待っていた、と短剣をゴールドに突き出すが……?

 突如、ヤバイバの短剣が弾き飛ばされた。と、同時にオルゲットも胴体から真っ二つに両断され、燃え上がる。

 

「な、お前は⁉︎」

「梃子摺って居る様だな、ガオゴールド」

 

 そのピンチを救ったのは、メランだった。メラディウスを払って、オルゲットの体液と火花を散らす。

 

「テメェ、メラン‼︎ 何で、オルグのテメェが、ガオレンジャーの味方をする⁉︎」

「味方? 何度も言わせるな、ヤバイバ。ガオゴールドは我の獲物だ、それ以外の奴に倒されたくは無いからな」

「な、何をォ⁉︎」

「……ふん、そんな事より……随分と苦しそうだな、ヤバイバ……」

 

 メランは、ただならぬ状況にあるヤバイバを見下ろしながら尋ねた。見れば、ヤバイバの全身から尋常では無い程に邪気が漏れ出て居る。

 

「恐竜オルグの一部を身に取り込んだか? 馬鹿な事を……煮え滾った熱湯を飲み干す様な物だ。自分の命を削って迄、束の間の力に縋り付いて手にした勝利に何の意味がある?」

「だ…だま…れェ‼︎ テメェなんざに、理解されようなんて爪の垢ほども思っちゃ居ねェ……‼︎」

 

 ヤバイバは邪気と同時に、多量の血を垂れ流しながら凄む。

 

「束の間の力だろうが……何だろうが……力となれるなら、何だってやるさ…‼︎ テメェ以外の全てを敵に回してでも、世界に反逆しようって決めた、アイツの為なら……‼︎」

 

 そう叫びながら、ヤバイバは溢れ出る邪気を体内に押し戻して再び、ガオゴールドに襲い掛かった。

 

 

 ガオシルバーはオルゲットを倒しながら、メランが、ガオゴールドを助けた事に驚いていた。

 だが、それ以上に驚いたのは……あの、プライドの高いヤバイバが、ガオゴールドを倒す為に、自分に過ぎたる力を身に取り込むとは……。

 不思議なものだが、かつてはガオシルバーも彼と同じだった。仲間を助ける為、我が身に邪気を取り込んだ結果、狼鬼と化してしまった……。

 しかし、それは仲間を守りたい、と言う彼の執念からだった。故に、ヤバイバの取った行動を一概には非難は出来ない。

 しかし……今の彼の姿は、余りに痛々しかった。恐らく、彼の言う“アイツ”とはツエツエの事に他ならないだろう。

 彼女とは、確かなる絆があり、互いに苦楽を支え合ってきた故の信頼もあった。だからこそ……。

 

「……なァ、シロガネよ……オルグにも友情なんてあると思うか?」

 

 急にガオグレーの発した質問に対して、ガオシルバーは振り返りながら……

 

「……さァな、だが……摩魅の様な娘も居るんだ……もしかしたら……」

 

 と、そんな希望を抱かずに入られなかった。もし、全てのオルグにも、そう言った感情があれば或いは……等と陳腐な希望だ。

 しかし、地球を守る宿命を背負った者として甘えは許されない。オルグが地球に仇を成すなら、それを食い止めなければ……。

 そんな思いは、ガオシルバーの持つガオハスラーロッドを強く握らせた。

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 ガオハスラーロッドから放たれる銀色の斬撃が、オルゲット達を切り捨てた。ガオグレーもグリズリーハンマーを振り下ろす。

 

灰熊衝波(はいぐましょうは)‼︎」

 

 グリズリーハンマーから放たれた灰色の衝撃波が、オルゲット達を吹き飛ばした。ガオプラチナは再び、フェニックスアローを番える。

 

鳳凰翼撃(ほうおうよくげき)‼︎」

 

 フェニックスアローから放たれる鳥の羽根を模した炎の矢が、オルゲット達を焼き尽くして行く。

 彼等の活躍で、オルゲット達は概ね片付いた。後は、ヤバイバさえ倒せば……。

 ガオゴールド達の下へ、仲間達は集結した。しかし、ヤバイバは益々、苦しそうに呻いていた。空気を詰め過ぎた袋が裂け、隙間から空気が漏れ出る様に、邪気が溢れ出して来る。その邪気は執拗に、ヤバイバの身体を傷付け、あらゆる箇所から緑色の血が噴き出した。

 

「……もう駄目だな……恐竜オルグの邪気は、ヤバイバの身体には合っていない。あと数時間と待たずに、奴の身体はバラバラに四散してしまうだろう……」

 

 メランは吐き棄てる様に言った。愛刀メラディウスを下ろし、もう戦う素振りを見せない。

 

「……さて……ヤバイバは、もう戦えまい。次は我と戦え、ガオゴールド」

「助けようとは思わないのか?」

 

 この期に及んで、ガオゴールドとの決着に拘るメランに対し、ゴールドは嫌悪感を露わにした。

 敵とは言え、ヤバイバのあんな痛々しい姿を見せられたら、どうしても情けを掛けてしまう。そんなガオゴールドに対し、メランは冷たくせせら笑った。

 

「助ける? 何故だ? 身の程を弁えず、過ぎた力に身を委ねた愚者を助ける等とは……愚の骨頂も甚だしいわ」

「何だと⁉︎」

「それに奴は、こうなる事は最初から予測はしていた。それを承知の上で、貴様等に戦いを挑んだ……。

 今まさに死に掛けている者に慈悲を掛けるのは人間くらいのもの…それは、敗者への侮辱行為だ。

 奴を思うなら、今この場で楽にさせてやれば良い……それだけだ」

 

 冷淡な彼の言葉に、ガオゴールドは言葉を失う。確かに自分の使命は、オルグを倒す事だ……けど……少なくとも、ヤバイバは確かな覚悟を持って、戦った……そんな彼を踏み躙るなんて到底、出来やしない……。

 

「あらあら、やられちゃったの? ヤバイバ……」

 

 急に声がした方を見ると、ツエツエが歩いて来る。ヤバイバは、膝を突きながら彼女に手を差し出す。

 

「……スマネェ……邪気の副作用でよ……手ェ貸してくれねェか?」

 

 しかし、ツエツエばヤバイバの手を、まるで汚物に集る蝿を追い払う様に杖で払い除けた。

 

「つ…ツエツエ⁉︎」

「もう、アンタは用無しよ、ヤバイバ。忘れたの? オルグの掟では、戦えなくなった者や役に立たない者は死ぬしか無い……」

「じ…冗談だろ? 長い付き合いじゃねェか……俺達は……」

「“仲間”だ、と言うつもり? フン、自惚れるんじゃ無いわよ。アンタとの腐れ縁も、これで終わり。オルグの支配者は一人で沢山よ」

「つ……ツエツエぇ……‼︎」

 

 あっさりと見限られたヤバイバは悲しみに満ちた表情で、這いつくばる。こんな筈じゃ無かった……テンマに虐げられても、ニーコや四鬼士に嘲られても、鬼ヶ島を脱退し分裂した際に彼女に付いて行ったのも全ては、ツエツエを思うが故だった。その思いを、ヤバイバは見事に踏み付けにされた。

 余りの言い草に、ガオゴールドはツエツエに怒りを滲ませた。

 

「……お前は……これ迄、共に戦って来たヤバイバに対し、情の欠片も無いのか⁉︎」

「ある訳無いでしょ? 元々、私は一人で甘い汁を吸うつもりだったもの。ま、私がオルグの支配者になった暁には感謝しててあげない事もないわ」

「き、貴様ァ…‼︎」

 

 ツエツエの非情かつ下劣な考えに、ガオゴールドは完全に激怒した。それは、他の仲間も同様だ。

 

「救い様の無い奴だな…」と、ガオシルバーは唸る。

「元より救うつもりは無いがの…」と、ガオグレーは吐き棄てた。

「どの道、敵には変わらない。此処で倒す!」と、ガオプラチナは言った。

 メランも、メラディウスを構えて立ち並ぶ。

 

「おやおや、四鬼士の一角たるメランが、ガオレンジャーに味方するとは、どう言う風の吹き回しかしら?」

 

 ツエツエの言葉に、メランは冷笑した。

 

「ガオゴールドと戦うには、貴様が邪魔だからだ。先ずは邪魔な蛆虫を駆除してからだ」

「蛆虫…とは、大した言い草ね。良いわ、お前達に見せてやろう‼︎ オルグの巫女にして、次世代のオルグクイーンであるツエツエの切り札を‼︎

 

 〜来たれ、来たれ! 太古の地に闊歩し、地上に君臨した一族の末裔よ!

 今、その力を解き放ち、万物を喰らい尽くせ‼︎

 鬼は内! 福は外‼︎〜」

 

 ツエツエが杖を振りかざし、地に突き立てる。すると、地面に巨大な鬼門が現れた。その中から殊更、巨大な腕が伸びて地面を掴むと……。

 

 

「グオアアァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 恐ろしい咆哮と共に地面から這い上がって来たのは、恐竜オルグの一角ティラノオルグだ。しかし、その姿は最初から巨大で眼は紅く血走り、頭部に大きく湾曲した角が生えていた。

 

「さァ、これから始まるのよ‼︎ このツエツエ様の君臨する世界が‼︎」

 

 圧倒的な力を従え、鬼の巫女の高らかな笑いが響き渡った……。

 

 

 〜遂に、ツエツエの従える古代のオルグ、ティラノオルグが姿を現しました‼︎ かつてのオルグの王をも手に焼いた怪物を相手に、ガオレンジャーは如何にして戦うのでしょうか⁉︎〜


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