帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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※最近の暑さをもろに受けて体調を崩してしまい、小説の仕上げが滞り、投稿も遅れてしまいました‼︎
非常に申し訳ございませんが、quest43を楽しんで下さい‼︎



quest43 対決! 鬼灯隊‼︎

 暗闇立ち込める樹海の中、闇に溶ける様に素早い動きで走り回る5つの影。其れ等は、やがて一つの場所へと集結し、影が晴れたかと思えば、鬼灯隊のメンバーであるホムラ、ミナモ、コノハ、ライ、リクの五人が跪いていた。

 すると、彼女達の目の前にあった岩が煙に包まれ消失したかと思えば、オルグ忍者達の頭領、影のヤミヤミが姿を現した。

 

「皆、揃ったな」

 

 ヤミヤミが五人を見下ろしながら、言った。

 

「……遂に来るべき時が来た。我々は鬼還りの儀を執り行う為に、楔を打ち込む作業に勤しんでいた。だが、その裏方も此れ迄だ。

 楔は滞りなく打ち込み、遂に残す所に最後の一箇所のみとなった……」

「…では、親方様……いよいよ……」

 

 ホムラが希望に満ちた目で、ヤミヤミを見た。

 

「……うむ……最後の楔を打ち込みに掛かる。だが、今回の場所は此れ迄の様に、辺鄙な場所にある訳では無い。人間共の目に触れる場所にあるのだ……」

「だったら、アタイらが人間共を皆殺しにして…‼︎」

「……フフ……皆殺し……‼︎」

 

 物騒な言動を発するライと、不安定な形で笑うリク。ホムラは呆れた様に、二人を見た。

 

「親方様の話を聴いていたのか? 人目に触れたら拙いと言っているのだ。そんな事をすれば本末転倒だろうが」

「全くですわ。少しは学習なさいな、でございます」

「ま、ライに学習しろってのは、オルゲットに言葉を教える様なもんやな」

 

 ホムラ、ミナモ、コノハは言った。ライは食って掛かろうとしたが、ヤミヤミの前なので閉口した。

 

「……案ずるな、ライ……。貴様達に十分の狩場を与えてやるつもりだ……。これより、指令を与える。ニーコ‼︎」

「はいは〜い‼︎」

 

 ヤミヤミの声に反応して、姿を現すニーコ。彼女は手に持った5枚の紙を、それぞれ一枚ずつ、鬼灯隊のメンバーに手渡す。

 

「…フム…」

「あ〜、そう言った具合に…」

「ほォ…」

「…成る程な…」

「…記憶した…」

 

 紙に書かれた各々の指令を読み進める五人。内容を把握した五人は、目の前に燃え盛る松明の中に投げ捨てた。指令書は、炎に包まれてメラメラと焼かれていった。

 

「貴様達は、各々の任務を全うし、拙者自らが最後の楔を打ち込む。例によって、貴様達の何れかが、ガオレンジャーと戦闘に入り敗北する事態となっても、援護は無いと思え。

 万が一、拙者が失敗する事となっても、助けは必要無い。念の為に備えた保険は用意してある。安心しつ、己の任務をこなせ」 

 

『……御意‼︎』

 

 ヤミヤミの言葉を受けた、鬼灯隊は立ち上がる。胸にあるのは、オルグ忍者として任務を完遂する事、それだけだ。

 

「……失敗は許されん。オルグ忍軍、掟その一! 失敗した場合は?」

 

『己で(こうべ)を斬り落とせ‼︎』

 

 ヤミヤミにつづき、オルグ忍軍の掟を復唱する。そして、ヤミヤミは彼女達に背を向けた。

 

「……拙者から言う事はそれだけだ……さァ、行け‼︎」

 

『ハッ‼︎」

 

 鬼灯隊は一斉に解散する。一人残ったヤミヤミは虚空を二言のまま、睨んでいた。ニーコはクスクスと笑う。

 

「……ヤミヤミさん、いよいよですねェ♡」

「ああ、我等の宿願が果たされる時が来た……」

 そう言って、ヤミヤミは自身の忍刀を抜く。

 

「……長かった……だが、我々の役目も漸く終わる……。思えば、数多の血が流れた……。ゴーゴ、ヒヤータ……気奴等の犠牲も大いに役立った……」

「あらァ? 犠牲と言えば、ヤミヤミさんだってェ……テンマ様から聞いているでしょう? 最期の楔を打ち込み、地上と鬼地獄の境界を開けたら、濃密な邪気がヤミヤミさんに襲い掛かりますよォ?

 そうなったら……」

 

 ニーコの言葉を最後まで言わせる事無く、ヤミヤミは彼女の言葉を遮らせた。

 

「皆まで言うな……忍びの本分は犠牲……主の望みを果たす為に我が腕を、我が心の臓を差し出せ、と問われれば勇んで差し出すのが答だ。

 我が血肉が、次代に繋がる礎となるならば……是非も無し‼︎」

 

 そう言い残し、ヤミヤミも姿を消した。残されたニーコはクスクスと笑い続ける。

 

「忍びの本分は犠牲、ですかァ……結構ですねェ……。存分に犠牲になって下さいねェ? 其れが我が主、ヤマラージャ様の望みなのですからァ……」

 

 と、だけ吐き捨て、ヤミヤミも鬼門の中に消えていった。

 

 

 

 さて舞台は変わり、竜胆市内にある市立体育館では……非常に大きな賑わいを見せていた。

 今日は、此処で竜胆市内にある二軒の中学校剣道部による交流試合が行われる日だった。その一件は祈の所属する剣道部であり、祈を始めとした剣道部員達は総動員していた。

 交流試合で良い成績を残した部は、次の大会に出場する権利を得られる。見方を変えれば、これは剣道部大会の予選大会とも言える。

 

「ひゅー‼︎ 流石、交流試合に参加するだけあって早々たる顔触れだな‼︎」

 

 体育館前の広場では、陽と共に来ていた猛、昇、舞花、摩魅が話していた。陽は祈の試合を観戦する目的があったが、同時に三人共、竜胆中学校剣道部のOBであり、後輩達の試合を観戦したかったのだ。

 

「思い出すな‼︎ 俺達が交流試合で繰り広げた戦いの日々‼︎」

「……お前、交流試合に出た事無いだろう?」

「そうよ‼︎ 三年生、最後の時の交流試合だって、風邪引いて欠席だった癖に‼︎」

 

 知ったかぶりの言動を取る猛に対して鋭く突っ込む昇と舞花。実際、自分達の交流試合で活躍したのは、陽と昇だった。

 痛い所を突かれた猛は、バツが悪そうに頭を掻く。隣に居た陽に助けを求めるが……

 

「なァ、陽ァ……」

「悪い、ノーコメントで…」

 

 と、言いながら陽は、キョロキョロと人を探していた。すると入り口付近に立つ女生徒、祈の姿を見つける。

 

「あ、居た……祈‼︎」

「兄さん‼︎」

 

 陽の姿を確認した祈は嬉しそうに駆け寄って来た。摩魅も一緒だ。

 

「来てくれたんだ…‼︎」

 

 祈は嬉しそうに歯に噛む。自身の晴れ姿を一番、見て貰いたい人に見て貰う。それは祈からすれば、何よりも嬉しかった。

 

「当たり前だろ? 祈が練習をサボってないか、チェックしなきゃな?」

 

 陽は悪戯っぽく笑う。祈は、ヘソを曲げた様にそっぽを向く。こうしてみれば仲の良い兄妹のジャレ合いだった。その様子を摩魅は一歩退いた所で見ていた。

 

「摩魅ちゃんも来てくれて、ありがとう!」

 

 突然、祈から掛けられた礼の言葉に摩魅は慄く。生きて来た人生の中で、誰かに礼を掛けられた事など、一度も無かった。

 戸惑いながらも、不思議と悪い気はしない。と、その際に猛達も駆け寄って来た。

 

「祈! 頑張ってね、今日の試合‼︎」

 

 舞花は、親友に激励を入れた。

 

「大丈夫だって‼︎ 祈ちゃんなら余裕、余裕‼︎」

 

 猛も気楽な様子ながら、力強く鼓舞した。

 

「相手の動きを理解すれば良い。そうすれば、君の腕なら負ける事は無い」

 

 昇も、的確なアドバイスを出した。

 

「……うん! 頑張るから‼︎」

 

 祈は幸せだった。自分を祝福してくれる人達が居てくれる事に、そして誰もが自分の勝利を信じてくれている事を、幸福を感じずに居られなかった。

 

「随分、浮かれてますわね?」

 

 突然、鋭い声が響く。すると多数の女生徒部員を引き連れ、腰まで伸ばした黒髪を後頭部で結って、ポニーテールにした女子が歩いて来た。

 見目は非常に美しく器量良しだったが、鋭く吊り上がった目に男勝りな口調が、非常に気の強い性格である事を表していた。

 

「此処は試合会場。遊園地ではありませんわよ?」

「瀧さん……」

 

 鋭い目で睨む女生徒に対し、祈はおずおずと返した。

 

「誰?」

 

 陽は、こっそりと舞花に尋ねた。

 

「今日の交流試合の対戦相手になる、浅黄女学園中等部の剣道部員達よ。で、あのお高く止まってるのが瀧菜穂美(たきなおみ)。祈とは剣道に於けるライバル関係なんだって」

 

 舞花がヒソヒソと説明した。瀧は、聴こえていたのかコホンと咳払いした。

 

「試合前に和気藹々と話し込んで居られるなんて、随分と余裕ですわね? それとも……昨年の交流試合で私に一度、まぐれで勝った事が、そんなに嬉しかったのかしら?」

「別に、そんなつもりは……」

 

 あからさまに敵意を剥き出しにして来る瀧に対して、祈は表情を曇らせる。それに対して瀧は、ふふんと高慢に笑う。

 

「ま、良いわ。前は勝ちを譲ってあげたけど今回は、そうは行きませんわよ。今年は私が勝ちますわ‼︎」

 

 そう言い放ち、瀧は悠々と歩み去って行った。彼女の背中を睨みながら、猛は不服そうに

 

「…んだよ、高飛車ぶったヤな女だな‼︎ なまじ美人なだけ余計に鼻が付くぜ‼︎」

 

 と、顔を顰めながら言った。それは舞花も同意した。

 

「自分の学校じゃ、学園長の娘のお嬢様だから、周りにチヤホヤされて、女王様みたいに崇められてるんだって!

 そんなだから、祈の事が気に入らないんじゃ無い?」

「……けど、瀧さん、変わったな……。去年、会った時は、あんな意地悪言ってくる人じゃ無かったのに……」

「フンッ! 去年の交流試合で、祈先輩に負けたもんだから、僻んでるですよ‼︎」

 

 いつの間にか、祈のそばに来ていた千鶴が、嫌悪感を滲ませて説明した。

 

「先輩! あんな高飛車女、やっつけちゃって下さいね‼︎」

「ちょ、千鶴……‼︎」

 

 鋤あらば、と引っ付いて来る千鶴に対し、祈は困惑する。その様子に、猛達は…

 

「百合って奴か…」

「百合だな…」

「百合ね…」

 

 と、ポツリと呟く。それと同時に、摩魅はオドオドとし始めた。

 

「どうかしたの?」

 

 彼女の唯ならぬ様子に気付いた陽は尋ねる。

 

「……何か……ザワザワします……。地の底から、湧き上がって来る様な、嫌な感じが……」

 

 彼女の中に流れるオルグの血が騒いでいるのだろうか? 言われてみれば、確かに妙な違和感を感じる。

 どうやら、テトムの予感は当たったらしい。そもそも、陽が此処に来たのは祈の試合を観戦する為だけじゃ無い。先日の恐竜オルグ達を退けた時から、急速にオルグ達の出現が無くなった。

 最初は切り札を倒された事で慎重になったのかと考えていたが、いつかガオネメシスは発した『鬼還りの儀』を思い出す。遂に、オルグ達が鬼還りの儀を執り行う為の準備に入ったかも知れない。 

 それを察したテトムは、陽に連絡して来たのだ。

 

『祈ちゃんの周辺に、細かく注意しておいて。追い詰められたオルグは何をするか分からないから』

 

 其れに了承した陽は、祈を注意深く観察する事にした。万が一、オルグが姿を現した時は……陽はジャケットの上から、G -ブレスフォンを握り締めた。

 その際、G -ブレスフォンが、激しく動く。話に夢中になる祈達に気付かれない様に、G -ブレスフォンを起動した。

 

 〜陽か? 俺だ〜

 

「大神さん?」

 

 ブレスフォンの向こうから聞こえるのは、大神の声だった。

 

 〜テトムの言った通りだ‼︎ 会場周辺に、オルゲット達が何人か彷徨いていた‼︎ 佐熊の方もな‼︎〜

 

「本当ですか⁉︎ 一体、何の為に⁉︎」

 

 陽は、嫌な予感が的中した事に顔を顰める。だが、破壊工作が目的なら何故、騒ぎを起こさないのか?

 

 〜分からんが、少なくとも俺達に勘付かれては困る事を企んでいるのは間違いない‼︎ 悪いが、陽。万が一の際は応戦を頼む‼︎〜

 

 そう言い残し、大神との通信は途切れた。陽は暫く呆然としていた。その様子を、摩魅は不安気に見ていた。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

 袂を分かったとは言え、摩魅はオルグの性分をよく知っているつもりだ。彼等は非常に執念深く、何より目的を完遂する為なら手段など選ばない。祈や多数の一般人の居るこの場所が、地獄絵図さながらの様にならないかを心配しているのだ。

 陽は、彼女を心配かけまいとして優しく笑い掛ける。

 

「大丈夫だよ、摩魅ちゃん……何かあったら僕が……」

 

 そう言う陽の表情は、何処か余裕の無さそうな感じに見えた。実際の所、陽は焦っていた。早くオルグとの闘いに決着を付けなければ……その為に、多少の無理を自身に強いていた。

 鬼還りの儀が実現すれば、大多数の被害を出してしまう。そうならない為には、オルグを、そしてガオネメシスを止めるしか無い。

 しかし、陽の精神はかなり疲弊している。連日の戦いの日々による疲れ、苦悩は彼を蝕み、擦り減らしていく。いつ終わるか分からない戦いの中に、じきには18になろうとしている少年には、あまりにも酷な物だった。身体の苦痛に耐えられても、精神の苦痛は耐えられる物では無い。特に、まだ精神的にも未熟さを拭えない年頃である陽には尚更だ。

 

「陽……‼︎」

 

 急に誰かに声を掛けられ、陽は振り返る。そこに居たのは美羽だった。

 

「大丈夫? 深刻な顔してるよ?」

「あ……」

 

 側を見れば、摩魅も今に泣き出しそうな弱々しい顔で、自分を見ている。陽はかぶりを振った。

 何を考えているんだ、僕は……そんな後悔が、また自身を苛める。美羽は、陽の額を手の甲で、コツンと叩く。

 

「ま〜た、一人で悩んでる。言ったでしょ? アンタは一人で戦ってるんじゃ無いって。余裕が無いくらい疲れてるなら、少しは周りを見てみたら? 皆、アンタの味方だって……」

 

 そんな彼女の何気ない言葉が陽を、奮い立たせる。そうだった……自分は一人じゃ無い……。

 

「……ゴメン……ありがとう、美羽……」

「ん! 分かれば宜しい! ほら、試合が始まるよ‼︎ 祈の頑張ってる姿、見てあげなくちゃ‼︎」

 

 そう言って、美羽は陽の手を引く。陽も漸く笑顔を取り戻し、歩いて行く。摩魅は、仲睦まじい二人に複雑な表情を浮かべていた。しかし、そんな私的な感情は封じ、自分を付いて行こうとする。

 その刹那、摩魅の背後から伸びた手が彼女を口を抑えた。危機感を感じ、摩魅はもがくが突然、襲い掛かって来た眠気に意識を手放した。

 グッタリともたれ掛かる摩魅を、一人の警備員が支えていた。次の瞬間、警備員の顔はヤバイバへと変わる。

 

「…ヘヘヘ…悪く思うなよ?」

 

 そう言って、ヤバイバは鬼門の中に摩魅を連れ去ってしまった。

 

 

 

 やがて試合が始まった。祈は道着に着替え、防具を身に付ける。会場内には緊迫した空気が張り詰め、部員の誰もの顔に真剣さが覗いて見えた。それは、祈も同様である。

 

「祈先輩、緊張してます?」

 

 隣に居た千鶴が、祈に話し掛けてくる。流石に試合中に、ふざけて来る程、千鶴も子供では無い。ましてや優秀な剣術家の娘として育てられた彼女は、いつも以上に気合いが入っている様子だ。

 

「少しね……」

「ね、先輩……さっき、チラッと見たんですけど……」

 

 途端に千鶴は声のトーンを落とす。何事か、と思いながらも祈は耳を傾けた。

 

「今日、来てた先輩の、お兄様と一緒に居た女の人って……彼女さんですか?」

 

 千鶴の質問に、祈は頭を捻る。陽と一緒に居た女の子と言えば……舞花と摩魅と……。

 

「ほら、あの人……」

 

 千鶴は、観戦席に座る陽を指差す。陽の隣には、美羽が座っていた。

 

「…ああ…鷲尾美羽さん。兄さんの幼馴染なの」

「幼馴染?」

 

 祈の言った幼馴染と言う言葉に、千鶴は怪訝な顔をした。

 

「なんか、ただの幼馴染って感じじゃ無かったですよ。凄く仲良さそうだし……」

「そ、それは……」

 

 千鶴の返しに対して、祈は何も言い返せない。陽と美羽は、共にガオレンジャーだ。しかし、千鶴には、その事を話していないし、話した所で信じて貰える訳が無い。

 

「竜胆中学! 峯岸千鶴‼︎」

 

 審判席から千鶴の呼ぶ声がする。

 

「じゃ、行って来ますね、先輩!」

 

 千鶴は対戦相手と共に歩み去って行く。残された祈は一人、ヤキモキした感覚だった。言われてみれば、ここ最近で陽と美羽が共に過ごす機会が増えた。本当の所は、どうなのだろう?

 千鶴は対戦相手を寄せ付けない強さで、華麗に一本を取った。観戦席か

 らは「おおォォ……」と、感心する声がした。

 一人の観戦客が、誇らしげに千鶴を見ている。恐らく、彼が千鶴の父親だ、と祈は理解した。しかし祈には、そんな事はどうでも良かった。陽と美羽が楽しげに会話している事に、祈は非常に落ち着けない。

 祈が一人でヤキモキしてる間に、対戦は進行して行った。やがて、祈に順番が回って来る。

 

「竜胆中学! 竜崎祈‼︎」

 

 審判席から声がしたが、祈は聞き逃していた。周りの者達は、ザワザワとし始める。

 

「竜崎祈‼︎」

 

 二度目の呼ぶ声に、漸く祈は我に返った。いけない、今は試合に集中しなくちゃ‼︎ と、自分に喝を入れて祈は歩いて行く。

 対戦相手は先程、剣呑な空気となった瀧菜穂美だった。先程以上に、彼女は敵視して来る。

 

「試合中にまで上の空とは……来なさい、勝ち逃げさん。今日こそは負けませんわよ‼︎」

 

 瀧の侮蔑混じりの挑発が面を通して、聞こえて来る。それに対して、祈はキッと彼女を睨む。

 

「こっちこそ‼︎」

 

「東! 瀧菜穂美‼︎ 西! 竜崎祈‼︎ 正面に礼‼︎」

 

 審判員が叫ぶ。二人は試合会場のエンブレムに向けて一礼し、続いて互いに一礼する。

 

「始めェェッ!!!」

 

 やがて試合が開始した。瀧は先手必勝、として祈に攻め入って来る。しかし、祈は攻めはせずに後方に下がり、彼女の反応を伺う。

 相手に先ず打たせて、そして攻める。これは、祈の得意とする戦い方だ。しかし、陽と美羽の寄り添う姿が嫌でも目に入り、其方に視線が行ってしまう。其処へ、瀧は迫って来た。

 

「隙だらけよ‼︎ 面ッッ‼︎」

 

 瀧の振り下ろした竹刀が、祈の面に直撃した。

 

「面ありィィっ!!!!」

 

 一瞬の油断にて、祈は一本を取られてしまった。この余りに呆気ない事に一本取られた祈は勿論、部員達はポカンとした。

 

「嘘?」

「祈が?」

「こんな早く?」

 

 部員達の騒めきが立つ。面の向こう側で、瀧はフフンと北叟笑んだ。

 

「あらあら……やっぱり、去年の試合はまぐれだったのね?」

 

 その言葉に、祈の中で闘志が燃え上がる。今は、陽の事は考えずに居よう。そう自分に言い聞かせ、祈は竹刀を構えた。

 審判員の開始の合図で二人は動き出す。今度は祈は集中し、再び後方へと退がり、瀧の竹刀を躱す。そして、隙だらけとなった彼女の小手に狙いを定め、竹刀を振り下ろす。

 

「小手ェェ‼︎」

 

「小手ありィィっ!!!!」

 

 審判員は祈が一本、取った事を告げた。これで二人は互いに一本ずつ取られた事になる。瀧は余裕のある態度を消し、真剣そのものの表情を見せた。

 

 

「何だか、祈の様子、変ね……」

 

 観戦席で見守りながら、美羽はポツリと呟いた。ボンヤリとしていたかと思えば、いとも簡単に一本、取られてしまう……明らかに何時もの彼女とは異なる。

 

「美羽も気付いた?」

 

 陽も、どうも本調子では無い妹の様子に小首を傾げた。自分達が、祈の気を逸させているとは露知らずに、である。

 ふと、猛達は陽に向かって…

 

「…なァ…お前、マジで気付いてないの?」

「此処まで鈍感とはな……」

「祈、可哀想……」

 

 と、各々に言った。それに対して、陽はキョトンとした。ハッキリ言って気付いてないのは、当事者のみである。

 三人は祈が長らく、陽に一途な恋心を寄せている事を気付いていた。それは、彼女が陽の義妹であり、それを分かった上で黙認していたのだ。

 美羽と言うライバルの登場に祈が内心、穏やかで無い事は火を見るより明らかだったが当人達はまるで、その自覚が無いと来た。

 元々、陽と美羽は恋人同士などと言う浮ついた物ではなく、ガオレンジャーと言う戦友に等しい。しかし、事情を知っている猛達は元より、周りから見れば付き合っているのでは? と、誤解を受けても仕方が無い。

 と、そんな時、二人のG -ブレスフォンが激しく振動した。どうやら、オルグ達が出現したらしい。

 陽と祈は互いに頷き合う。

 

「猛、昇……悪いけど……」

「ああ、出たのかよ?」

 

 もう二人の正体を知っている猛は、陽達が何を言おうとしているか理解した。

 

「行けよ、試合が終わったら、祈ちゃんには上手く言っとく」

「ありがとう! 美羽、行こう‼︎」

「ええ‼︎

 

 そう言って、二人はコッソリと会場から後にした。その様子を見ていた舞花は、怪訝な顔で猛を見た。

 

「ねェ、やっぱり、あの二人って出来てんの?」

 

 不思議そうに出て行く二人の背を見ながら尋ねる舞花。しかし、猛は

 

「悪いが、言えねェ! 男は、時に口を鎖さにゃならん時もある‼︎」

 

 と、格好をつけながら言った。舞花は昇に尋ねる。

 

「このバカ兄貴は無視して……昇さん?」

「スマン……右に同じだ」

 

 昇も閉口した。益々、分からないままに、首を傾げる舞花。

 

 

 

 体育館の裏手にある広場には、鬼灯隊の面々が下忍オルゲットを率いて集結していた。

 

「まさか、こんな所にあったとは、盲点だった……」

 

 ホムラは呟く。地面には、オルグの言葉で書かれた文字が記されている。

 

「後は、此処に楔を埋め込めば終い、でございます……」

 

 ミナモは言った。コノハも続く。

 

「だったら、さっさと埋め込んじまおうぜ‼︎」

 

 コノハ急かすが、ライは…

 

「待ち! 親方様が来るのを待つんや‼︎ 最後の楔は、親方様やないとあかんからな⁉︎」

「マジかよ⁉︎」

 

 と制され、コノハは不満を漏らす。その際、リクが…

 

「……来た……‼︎」

 

 と、嬉しそうにした。他の四人も態勢を整える。其処へ陽達と大神、佐熊が合流し、鬼灯隊の前に現れた。

 

「……来たか、ガオレンジャー……‼︎ お前達が、此処に来る事は分かっていた……‼︎」

 

 ホムラが、陽に対し言った。陽は、負けじと言い返した。

 

「こんな所に現れるなんて……一体、何を企んでいる⁉︎」

「何を、だと? そんな事、決まっていよう…」

 

 ホムラは勝ち誇る様に、笑う。

 

「全ては、オルグの未来の為……最後の楔を打ち込み、鬼還りの儀を完遂させる為だ……‼︎」

「もとい、邪魔者である貴方がたを始末する為でもある、でございます」

 

 ホムラに続き、ミナモが言った。その言葉に大神が、怒り心頭で怒鳴る。

 

「此処には、大勢の人間が居るんだぞ⁉︎ その人達はどうなる⁉︎」

「はァ? そんなモン、知るかよ‼︎ アタシらは受けた命令をこなすだけだ‼︎」

「そもそも、ウチらはオルグやで? 人間が百人死のうが、全く影響が無いわ!」

「人はどうせ皆、死んじゃうから….…さして変わらない……」

 

 大神の怒りの叫びに対しても、コノハ、ライ、リクの言葉はオルグの価値観に則った物であり、取り付く島が無い。

 

「……ち……見た目が人間に近いから、と言っても腹の中はオルグじゃな‼︎」

「……やっぱり話し合いにならないね……‼︎」

 

 佐熊と美羽も、鬼灯隊への怒りを滲ませた。陽は顔を伏せる。

 

「……僕は勘違いしていた……例え、オルグの血が流れていても摩魅の様に分かり合えるかも、と……‼︎ でも、甘い幻想だった‼︎」

 

 ガオアクセス!!!」

 

 陽は、G -ブレスフォンを起動させて、ガオゴールドへと変身した。他の四人も変身する。

 

「お前達が地球に害を及ぼすなら! この天照の竜、ガオゴールドが、お前達を倒す‼︎」

「……宜しい……では、オルグ忍軍なりの敬意に評し、全力にて相手致す‼︎ 鬼面邪装‼︎」

 

 ホムラの叫びと同時に、鬼灯隊達は鬼面を着用すると、人間に近かった姿から本来の物であるオルグ魔人と化した。 

 

「行くぞ‼︎ 鬼灯隊の威信に懸けて、ガオレンジャーを迎え撃つ‼︎」

「了解‼︎」

 

 ホムラが忍刀、ミナモが両手に苦難、ライが忍鎌、コノハが小太刀、リクが忍刀を二本と、それぞれの獲物を構えて、突っ込んで来た。

 

 

 ガオゴールドは、ソルサモナーウィングを出現させ、ホムラの斬撃を受け止めた。刃から殺気が滲み出てくる。

 

「オルグ忍法! 陽炎分身‼︎」

 

 突然、ホムラの身体がユラリと揺れて、六人へと分身した。高熱を利用した幻覚だが、本体は一つだ。ならば……

 

「紅炎一閃‼︎」

 

 ソルサモナードラグーンに纏わせた炎を、太陽のプロミネンスの様に放った。炎の斬撃は、ホムラを斬り飛ばして行く。

 しかし五人共、消滅した。

 

「な⁉︎ 居ない、何処へ⁉︎」

 

 目の前には本物は居なかった。ならば……⁉︎

 

「こっちだ!」

 

 何時の間にか、背後に回り込んでいたホムラの刃が、ガオゴールドの首筋を捉えた。

 

「フェニックス・アロー‼︎」

 

 ガオプラチナの放つフェニックス・アローが、ホムラの刀を弾き飛ばす。手に痺れを感じたホムラは怯むが陽は、その隙を見逃さない。

 

「竜翼…日輪斬りィィ‼︎」

 

 振り下ろした刃に、ガオソウルを纏わせ、ホムラを斬った。だが、ホムラは、そのまま大地を蹴って後退する。

 

「浅い⁉︎ 寸前で、躱された⁉︎」

 

 ホムラの身体を刃が貫く寸前に、彼女は身体をくねらせて刃傷を浅くしたのだ。

 

「て、手強いな…‼︎」

 

 前回、戦った時以上に強い鬼灯隊に、ガオゴールドは驚く。苦戦しているのは、ガオシルバー、グレーも同様だった。

 成る程、流石に此処まで生き残ってきたオルグに弱い奴は居ない。それこそ、メラン級のオルグが次から次へと出て来る。

 鬼灯隊は再び、五人に集結する。

 

「ぬゥ……‼︎ 強いのォ……‼︎」

 

 ガオグレーは改めて、鬼灯隊の強さを納得した。コノハは見下す様に、せせら笑った。

 

「当たり前だろ‼︎ アタシ達を、並のオルグ魔人と一緒にされちゃ困るぜ‼︎ ヤミヤミの親方に直接、技を指導を受けてるからな‼︎」

 

 ミナモも、それに続き、水の泡を数個、創り出した。

 

「オルグ忍法! 炸裂水泡弾‼︎」

 

 彼女の放つ水泡は、ガオゴールド達を取り囲む。

 

「シャボン玉遊びなら、他所でやれ‼︎ ガオサモナーロッド、スナイパーモード‼︎」

 

 スナイパーモードに変形したガオサモナーロッドで、水泡を狙撃して行くガオシルバー。しかし、ミナモはニィッと笑う。

 と、その刹那……水泡は爆発し、連鎖して行く様に、他の水泡と共に爆発して行った。

 

『うわあァァッッ!!!!』

 

 ガオレンジャー達は爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされて行く。その様子に、ミナモは愉快そうだ、、

 

「水の力は、音や光さえも凌駕する速さで伝達しますのよ? 言ったじゃありませんか、炸裂って……で、ございます……」

「く、クッ……‼︎」

 

 やっとの思いで立ち上がるガオゴールド。しかし、鬼灯隊や下忍オルゲット達に取り囲まれてしまった……。

 

 〜ガオレンジャーの前に立ち塞がる、オルグくノ一『鬼灯隊』‼︎ その圧倒的な力を前に、ガオレンジャーは追い詰められそうです‼︎

 果たして、ガオレンジャーは鬼灯隊を倒せるとでしょうか⁉︎〜


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