帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest47 考えるな、感じろ‼︎

 病院の売店にて、祈はジュースを選びながら、物思いに耽っていた。さっき、長年に渡って想いを寄せていた陽に、自身の気持ちを告げた。

 だが……その事で祈は、消え入りたい迄に恥ずかしい気持ちになっていた。幾ら、好きだからって、いきなり、あんな大胆な事を……と、冷静になって考えれば、激しい羞恥心と自己嫌悪に苛まれた。

 陽が美羽に取られるかも知れない、と言う焦りが、奥手な彼女に行動へ移させたのだが、この後、どんな顔をして陽に会えば良いのか分からない。

 

「祈! 祈ってば‼︎」

 

 横から舞花が声を掛けて来た為、祈はハッと我に返る。

 

「何をジュース握りしめて、深刻な顔してるの⁉︎」

 

 舞花は、右手にジュースのペットボトルを握り締めながら、眉間に皺を寄せた祈を怪訝な目で見ている。

 

「え⁉︎ いや、別に…‼︎」

「別に、って事は無いじゃん? なんか、悩みがあるなら聞くよ? もしかして、恋バナ?」

「‼︎」

 

 直球な発言をぶつけられた祈は、あたふたとしてしまう。舞花は、ニンマリとした。

 

「へ〜〜、祈にそんな人居たんだ〜〜? で、誰なのよ?」

「……教えない……‼︎」

 

 顔を真っ赤に染めながら、祈は拒否する。言える訳が無い。まさか、自分の想い人が、兄だなんて……。

 しかし、舞花はクスクスと笑う。

 

「ふ〜〜ん、親友のアタシにも言えないんだ……別に良いよ、大方の予想は付くし………陽さんじゃない?」

「え⁉︎」

 

 舞花の言葉に、祈は何で? と、言った具合で彼女を見つめた。

 

「何で分かったの? って言いたそうだね? 分かるよ〜〜、女だよ、アタシだって……」

「〜〜〜!!!!」

 

 隠していたつもりが、舞花にバレていたなんで……益々、穴があれば入りたい程に、赤面させる祈。

 そんな彼女を舞花は優しく背を叩く。

 

「大丈夫! 誰にも言わないよ? 祈が好きな人が陽さんだって!!」

「ま、舞花‼︎」

 

 突然の舞花の発した言葉に、祈は叫ぶ。

 

「だって祈が、陽さんを見る時って全然違うからね。多分、自覚してないだろうけど、あれは『お兄ちゃん大好き〜』じゃ無くて、『大切な人』オーラ全開だし、さっきの試合で本調子出せなかったのだって、陽さんと美羽さんが仲良さげだったからでしょ?」

 

 秘密を簡単に舞花に見破られた祈だったが、ここまでバレていたら隠す事も出来ない。

 

「う、うん……実はそうなんだ……」

 

 と、白状する祈。

 

「そっかそっか〜‼︎ 大丈夫、私は応援するよ‼︎ 祈が千鶴のラブアタックを華麗に躱してまで、頑なに操を立てていたのも、その為だもんね!』

「ち、千鶴は関係ないでしょ⁉︎」

 

 急に話の中に千鶴が出された事を慌てふためきながら喋り続ける舞花に怒る祈。人の話を聞かないのは、猛とそっくりである。

 

「せんぱ〜い‼︎ なんの話ですか? 千鶴も混ぜて下さ〜い‼︎」

 

 千鶴が2人の間から割り込んで来る。

 

「うん? 何か、誰かが好きなんだ的な会話が聞こえましたけど……もしかして、祈先輩……‼︎」

「もう、違うったら‼︎ て言うか、千鶴‼︎ ドサクサに紛れて、ベタベタくっつかないで‼︎」

「んもう、祈先輩の照れ屋さん♡ でも、そんな先輩も素敵です〜♡」

「離れて〜〜‼︎」

 

 そんなこんなで、大騒ぎになる3人だった。

 

 

 その頃、病室では……。

 

「……あッ、目を開けたぜ!」

 

 猛が、ベッドに横になる陽を指差した。陽はゆっくりと身体を起こす。

 

「……何を騒いでるんだ?」

「お前、覚えて無いのか?」

 

 昇は驚いた様子で見ていた。そして話を聞くに、G−ブレスフォンの通信に出た際、自分が倒れてしまった事、最初はナースコールを押して看護師を呼ぼうと猛が提案したが、昇が静止した事を知った。

 

「マジでビックリしたぜ‼︎ お前が倒れた時はよ‼︎」

「……ああ、ゴメンな……‼︎」

 

 和気藹々と話す猛と、心配をかけた事に素直に謝罪する陽。そして、さっきの事を思い出す陽。

 あれは夢では無い、現実だった。ガオマスター、パワーアニマル達が自分に語り掛けて来たのだ。ふと、自身の左腕にあるG−ブレスフォンを露出させる。よく見れば、ブレスフォン全体が虹色掛かった色を帯びているのが分かる。

 やはり、ガオマスターの言う通り、自分は更なる力を得た事になったのだ。その際、またしても、G−ブレスフォンが激しく鳴り出す。

 陽は、ブレスフォンを見る。恐らく、これは大神達からの……。意を決して、ブレスフォンを起動させた。

 

 〜陽、良かった……意識が返って……。大変なの! シルバー達が、ヤミヤミと戦っているんだけど、苦戦しているのよ‼︎ このままじゃ、やられちゃうわ‼︎〜

 

 それを聞いた陽は、顔を厳しくする。ヤミヤミが動き出したと言う事は、恐らく鬼還りの儀が執行に移った、と言う事だ。

 ならば、一刻の猶予も無い。

 

「分かった‼︎ 直ぐに向かうよ‼︎」

 

 〜ありがとう…‼︎ ガオズロックで貴方を拾うから‼︎〜

 

 それだけ言い残すと、テトムとの通信が切れた。陽は、猛と昇を見る。

 

「行くんだろ?」

 

 昇が尋ねて来る。陽は無言のまま、深く頷いた。猛は、溜息を吐いた。

 

「……ま、しょうがねェよな‼︎ 早く行けよ、コッチは心配すんな」

「良いのか?」

「友達としたら、止めなきゃならないけどな……お前の事だ。止めたって行くんだろ?」

 

 昇の言葉に対し、陽は苦笑する。確かに、今の自分は静止されて「はい、そうですか」と納得する事は出来ない。

 

「だが、無茶はすんなよ! 祈ちゃんを悲しませる様な真似したら、タダじゃ置かねェ!」

「無論、俺達だって同じだ。お前の居ない世界なんて、考えられないからな」

「猛……昇……!」

 

 陽は改めて、二人の親友の偉大さに感動した。二人共、戦士では無いが、陽の事情を察した上で、これ迄と同様に支えで居てくれる。

 孤独の中、戦士として戦い続ける事を覚悟して居た初期の頃と今は違う。苦楽を共に戦ってくれる仲間が居る。立場こそ異なれど、支え続けてくれる友が居る。自分の身を案じながらも、帰りを待ってくれている愛する人が居る……陽には、これ以上に頼もしい事は無い。

 

「分かった……! ちょっと行ってくるよ‼︎」

 

 二人に強く背を押され、陽は私服に着替え病室から飛び出して行く。ヤミヤミから受けた傷の痛みは、もう気にならない。ただ、仲間達の下へ急ぐ、と言う思いだけだ。

 残された猛、昇は呆れ果てた様に顔を見る。

 

「カッコつけて送り出したけどよ……祈ちゃんや舞花に、どやされちまうな……」

「信じるしか無いだろう? 俺達に出来るのは、それしか無い……」

「ああ……、取り敢えず祈ちゃん達への言い訳、考えるか……」

 

 そう言って、二人は座り込んだ。

 

 

 

「クッ……‼︎」

 

 ガオシルバー達は、ヤミヤミ単体に大苦戦を強いられていた。シルバー、グレー、プラチナと果敢に立ち向かったが、ヤミヤミの力は、これ迄に戦って来たオルグ達が可愛く見える程に強かった。

 

「これで分かったろう。貴様等と拙者の間にある絶対的な力の差が! 貴様等が、どう足掻こうとも鬼還りの儀を防ぐ事は出来んのだ‼︎」

 

 ヤミヤミは勝ち誇った様に言い放つ。口惜しいが、彼の言う通りだった。今の自分達には、この圧倒的な戦況をひっくり返す事は出来ない。

 

「グレー……プラチナ……‼︎」

 

 ガオシルバーは後ろに倒れ伏す仲間達に目をやる。最後まで諦めずに果敢に立ち向かった仲間達……しかし、それでも(ヤミヤミ)には手傷を負わせる事は出来なかった。

 情け無い……ヒビ割れたマスクの隙間から覗く大神の顔は、己の不甲斐なさから酷く歪んでいた。

 その様子を見たヤミヤミは、せせら笑う。

 

「……フッ……仲間達を護れなかった己が許せぬ、か? それは弱者の言い訳に過ぎぬ。真の強者には、仲間を護る等とは不必要の物だ……‼︎

 戦い抜き、最後に立っていた方が強者で、倒れた方が弱者……恨むなら、弱い己を恨むしか無い……。

 拙者が貴様等より強く、貴様等が拙者より弱かった……ただ、それだけの事だ……」

「弱いから……か……! 耳に痛い言葉だ……。しかし、弱いからこそ、自分より弱い者達を護ろうと考えれる……壊す事しか知らない、お前達には永遠に分からないだろうがな……」

「ホザけ‼︎」

 

 ガオシルバーの絞り出した精一杯の反論に対し、ヤミヤミは4本の腕に持つ忍刀を振り回しながら、シルバーに迫る。だが、もう今のシルバーには逃げ出す気力も無い。

 

「し…シルバー…‼︎」

 

 ガオグレーは相棒に迫る凶刃に、振り絞る様な声を出すが、自身も身体を動かす事もままならない。

 シルバーは覚悟を決め、目を閉じる。その振り下ろした刃が、シルバーの首元を捉えた…。

 と、その際、撃ち込まれた光の塊が刃に直撃し、真っ二つに吹き飛ばした。

 

「ぬ⁉︎」

 

 突然の出来事に、ヤミヤミは後退し身構える。すると、ガオシルバー達の前に佇む人影が……。

 

「陽⁉︎」

 

 ガオシルバーは、その人物に驚く。ヤミヤミに致命傷を負わされ、負傷した筈の陽が、そこに居たのだ。

 手にはソルサモナードラグーンを持って、ヤミヤミを睨み付けている。

 

「陽、無事だったんか⁉︎」

 

 ガオグレーも、陽の登場に驚く。だが、それ以上に驚いたのは、陽の発するオーラが、これ迄と異なっている様だった。

 ヤミヤミは、陽を見ながら唸る。

 

「フン、死に損ないが……! まだ息があったか?」

 

 忌々しげに吐き棄てるヤミヤミ。だが、陽は澄ました顔で…

 

「トドメも刺されて居ないのに死ねるか。さっきは油断したが……もう負けはしないさ」

 

 と、豪語する陽。ヤミヤミは訝しげに見てくる。

 

「ほう? 随分な自信だな……ならば、今度こそ再起不能に迄、叩き潰してくれよう‼︎」

 

 そう言って、ヤミヤミは再び四本、刀を構える。陽も、G -ブレスフォンに手を伸ばした。

 

「サモン・スピリット・オブ・ジ・アース・ビヨンド‼︎」

 

 いつもとは違う号令を発しながら変身する陽。すると、彼の身体から虹色のオーラが発せられ、光に包まれて行く。

 やがて光が収まると、金色のマスクとガオスーツはそのままに、肩から胸に掛けて煌めく虹色のプロテクター状の鎧と手甲、脛当てを装着している。

 

虹鎧装(こうがいそう)! ガオゴールド・レインボー‼︎」

 

 〜レジェンド・パワーアニマル達の力により覚醒したガオゴールドは、虹の鎧を纏った真の竜戦士へと変身しました‼︎〜

 

「な、なんじゃ⁉︎ あの姿は⁉︎」

 

 ガオグレーは、見た事の無い姿に変身したガオゴールドに目を見張った。シルバーも同様だ。

 プラチナだけは、その姿に驚愕と共に期待を抱いていた。

 

「……あれは恐らく……ガオゴールドの中にある潜在能力が、解放された姿……‼︎」

 

 ガオプラチナは、陽に長らくから目を付けていた。彼には他の戦士と違う力を感じていた、そして、その力が今、解放されたらしい。

 ヤミヤミは、唯ならないガオゴールドの姿に、目を疑う。

 

「今更、何をしようとも所詮は付け焼き刃、拙者の敵では無いわ‼︎」

 

 そう言って、ヤミヤミは素早く移動し、ガオゴールドの眼前に迫る。しかし、ガオゴールドはそれを超える素早さで、ヤミヤミの前から姿を消した。

 

「き、消えた⁉︎ 何処に⁉︎」

 

 ヤミヤミは珍しく取り乱し、姿を消したガオゴールドを探す。

 

「後ろだ」

 

 ヤミヤミの背後から、声が聞こえる。振り返り様に、ヤミヤミは忍刀を振り下ろす。だが、その刃はゴールドに徒手で捉えられた。

 

「⁉︎」

「遅過ぎる……欠伸が出そうだ」

 

 ゴールドは見下した様に吐き捨てた。その状態で、ゴールドは脚を突き出してヤミヤミの腹部に蹴りを入れた。不意を突かれ、ヤミヤミはそのまま後方へと吹き飛ばされてしまい、ゴールドの掴んでいた忍刀は根本から折れてしまった。

 

「グ…フ…‼︎」

 

 ヤミヤミは痛みを堪えながら立ち上がる。ガオゴールドは余裕綽綽と言った具合に、刃を投げ捨てる。

 

「諦めろ、勝ち目はないぜ…」

 

 完全に見下した態度を取るガオゴールドに対し、ヤミヤミは初めて怒りを見せた。

 

「……貴様ァ……‼︎ どうやったかは知らんが、多少の力を付けた位で、良い気になるなよ……‼︎」

「……だったら、やってみろよ」

 

 とても、ガオゴールドとは思えない挑発染みた態度に、ヤミヤミは怒りを露わにする。残った三本の刀を右往左往に振り回して反撃するが、それに対しても、ゴールドはヒラリヒラリと躱していく。 

 それ所か、右手に持つソルサモナードラグーンで、ヤミヤミの背部から生えた腕二本を斬り落としてしまった。

 腕を斬られた事で緑色の体液を撒き散らしながら呻くヤミヤミ。

 

「これで分かっただろう? 俺とお前の戦力差が」

「クッ…‼︎」

 

 初めて劣勢に立たされ、苦悶の表情を浮かべるヤミヤミだった…。  

 

 

「おい、あれは本当に陽か?」

 

 ガオグレーは目の前で、ヤミヤミを対し終始、有利に運ぶ戦士が、自分達のよく知るガオゴールドとは大分、違っている事に気付く。

 

「ああ……確かに陽に違い無いが……今迄とは、雰囲気もオーラも違う……若さ故の甘さも殆ど感じられない……‼︎」

 

 ガオシルバーは戦いの長引く中、彼の戦い方を見てきて理解した。内に秘めた潜在能力は自分達から一歩、抜きん出ていたが、戦士としては未熟さの抜けない青さが目立った。

 しかし今、自分達の前で闘う戦士は、そう言った青さや詰めの甘さを感じさせない等と、敵に対して何処までも冷徹で非情な一面が目立った。

 

「……似てる……」

 

 ガオプラチナは呟く。彼女の言葉を聞いた二人は振り返ると、プラチナがゴールドを見ている。

 

「似てる? 誰に……?」

 

 ガオグレーは尋ねる。すると、プラチナは……。

 

「前に、ガオマスターが見せてくれた……かつて、ガオネメシスが堕ちる前の姿、スサノオに……」

 

 シルバーもグレーも理解出来なかったが、プラチナは目の前で戦う男を、かの男と重ねて見ていた。

 歴代の戦士で最初にして最強、人間の醜さを知って自ら最凶へ堕ち果てた戦士が……。

 

 

「お、親方様、押されてるんじゃねェか⁉︎」

 

 動揺しているのは鬼灯隊のコノハも同じだ。自分達にとって無敵と思われていた頭領が、劣勢に立たされているのだから当然だ。

 

「ま、まさか……そんな筈は……‼︎」

 

 ミナモも、ヤミヤミの危機に目を疑っていた。

 

「お、落ち着け! 親方様は気を伺っているのだ‼︎」

 

 ホムラは、浮き足立つ仲間達を落ち着かせようとするが、当人も理解が追いついていない様子だ。  

 

「……あの親方様が軽くあしらわれるやなんて……‼︎」

 

 基本的に冷静なライも、信じられないと言わんばかりだ。だが、リクだけは楽しそうだ。

 

「フフフ……強い。私も戦いたい……フフフ…….」

 

 戦闘狂の一面があるリクからすれば、ヤミヤミ以上の力を持っているガオゴールドには興味津々だった。

 

 

 

 ガオゴールドとヤミヤミの戦いは、ゴールドの優勢のままだ。しかし、ヤミヤミもまた、忍刀を構えガオゴールドに向ける。

 

「成る程……どうやら、貴様の力は本物らしい……メランが執心するのが分かる……」

「黙れ…!」

「だが……急に得た力を、貴様はまだ使い熟せていない……。何れにしても、貴様は自身の力に振り回されて……その身を滅ぼすだろう……!」

「黙れ‼︎」

 

 語り掛けてくるヤミヤミに対し、ガオゴールドはソルサモナードラグーンを構えて、突進して来る。しかし、ヤミヤミは指で印を結ぶ。

 

「オルグ忍法! 闇乃帳!」

 

 すると、ヤミヤミの身体が漆黒の靄状に分散し、ゴールドの身体を包み込んで行く。

 

「⁉︎」

「それ見た事か……力の使い方を測り損ねたな……」

 

 漆黒の闇の中より響くヤミヤミの声が響く。

 

「良い機会だ、教えてやろう……忍びの本領が発揮されるのは、闇の中だ……。視覚を封じられ、聴覚、嗅覚、触覚さえも暗闇の中では正常な判断が出来なくなる。故に、古来より忍びは常に闇の中での戦いに生きてきた……」

「それが、どうした⁉︎ 隠れてないで出てこい‼︎」

「カカカ……自慢の力で拙者を闇ごと払って見せよ……出来る物ならな……見せてやる! オルグ忍法の真骨頂にして、己を天才と謀った愚弟ドロドロも会得できず事実上、拙者だけが我が物とした忍法を…‼︎

 

 オルグ忍法・真‼︎ 夢幻闇地獄!!!」

 

 すると、ガオゴールドの右脚に激痛が走る。目が慣れて見てみれば、右脚から夥しい血が流れている。

 

「フフフ……前か後ろか、右か左か、はたまた上か下か⁉︎ 四方八方より遅い来る攻撃には、闇の中では対処出来まい‼︎

 この闇の中全体が、拙者の縄張りだ‼︎ 過去に、この技を出して見抜いたのは、メランだけだ‼︎ それ以外は全て、闇に囚われ肉塊と化して死んで行った…‼︎」

「く、くそ⁉︎」

 

 ゴールドは対応しようとするが、いつ仕掛けて来るか分からない為、手出しが出来ない。そうしてる間に、ヤミヤミの繰り出す攻撃により、ゴールドの身体は傷付いていく。

 

「ハハハハ‼︎ どうだ、予測出来ぬ苦痛の恐怖は! これが、オルグ忍者の戦い方よ‼︎ 冥土の土産に覚えておけ!

 可視できる苦痛など、たかが知れている! 不可視の苦痛は度重なれば、敵の心を狂わせる程の恐怖を与えるのだよ!」

 

 ヤミヤミは勝ち誇りながら闇の中で叫ぶ。ガオゴールドは姿が見えないまま、嬲られる様にヤミヤミの姿を追うが、その姿は一向に掴めない。

 と、その際、頭の中に声がした。

 

 〜ガオゴールド……姿の見えぬ敵を目で追っても無駄だ。思考も必要無い、雑念と焦りは心眼を曇らせる……。

 考えるな、感じろ……〜

 

 それは、ガオマスターの声だ。ゴールドは一度、無心となった。

 考えるな、感じろ……言われた通り、闇の中にて動き回るヤミヤミの気配を探る。確かに、気配を感じた。先程まで、掴めなかったヤミヤミの動き、体勢がイメージして来る。既に全身を斬り刻まれ、ズタズタにされながら、本能だけでヤミヤミの動きを追い続ける。

 今、自身の背を斬りつけた。そして、素早く正面に回り込む。恐らく、ヤミヤミは今、自分の目の前に居る。

 忍刀を構えた……その切っ先が、自身の首に狙いを定めている……焦るな、充分に引きつけてからだ……ソルサモナードラグーンを強く握りしめる。そして、ヤミヤミが動いた。

 

「其処だ‼︎」

 

 ソルサモナードラグーンを銃形態にして正面に構え…狙撃した。エネルギー弾の発砲音が闇の中に木霊する。

 

「グォォォ…⁉︎」

 

 苦痛に呻く声がした。手答えあり……すると、闇は払われていき、胸を抑えて蹌踉めく、ヤミヤミの姿があった。

 

「ば、馬鹿な……何故、分かった⁉︎」

 

 決して、破られないと自負があった技が破られた。ガオゴールドは、その隙を逃さない。

 

「これで…終わりだ…!

 

 虹陽…竜剣(こうよう…りゅうけん)‼︎」

 

 振り下ろす刃に続く様に、煌めく虹色の剣風が描かれる。刃は、ヤミヤミの頭部から一気に斬り裂き、やがてヤミヤミの身体に火花が走る。

 

「ば…馬鹿…な…‼︎」

 

 と同時に、ヤミヤミの身体は爆発し火柱が立ち昇る。残された虹の上に昇る日輪の太陽が、ゴールドの身体を眩しいまでに照らした。

 

「や…やった…‼︎」

 

 ガオシルバーは見た。照らす太陽と虹の下に立つ気高き竜の姿を……ガオゴールドは、強敵ヤミヤミを見事に討ち果たしたのだ。

 

「お、親方…様…‼︎」

 

 現実を直視出来ず、ホムラ達は只々、呆然としていた。ヤミヤミが倒される等、誰も予想だにしなかった。

 だが、その爆炎の中から突如、巨大な影が立つ。それは今し方、倒したと思ったヤミヤミだ。彼は見る見る巨大化していき、巨大オルグ魔人として復活した。

 

「フハハハ‼︎ 拙者の体内には、オルグシードを仕込んでおいたのだ‼︎ 万が一、倒された際に発動する様にな‼︎ 鬼還りの儀は、何人たりとも邪魔はさせん‼︎」

 

 そう言って、ヤミヤミは巨大化した忍刀を振り下ろす。刃は公園の木を切り倒して行く。

 ガオゴールドは迷わず、ソルサモナードラグーンを天へ掲げる。

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 撃ち出される三つの宝珠は輝き、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンを召喚する。

 

「幻獣合体‼︎」

 

 ゴールドの号令に合わせて合体していくパワーアニマル達。そして、天から飛来したソウルバードにゴールドが搭乗すると、バードのボディは虹色へと輝いて行く。

 その状態で、合体した精霊王ガオパラディンの体内へと吸収されると共に、ガオパラディンの身体もまた虹色へ染まり始める。 

 すると、頭部に太陽の後光を思わせる六角の冠が現れて、肩部から胸部に掛けて虹を思わせる鎧が装着された。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・レインボークロス‼︎」

 

 〜新たなる力を身に付けたガオゴールドと、ガオパラディンが心を一つにする時、精霊の騎士王は虹の鎧を纏うのです〜

 

「小癪な‼︎ オルグ忍法、闇乃……‼︎」

「グリフカッター‼︎」

 

 先程の戦法を取ろうとするヤミヤミに対し、左腕のグリフカッターで先手を打ち動きを封じるガオパラディン。余りに早い動きに、ヤミヤミは遅れを取る。

 

「ユニコーンランス‼︎」

 

 その状態で、右腕のユニコーンランスを振るい、ヤミヤミの胸部を貫く。不意を突かれたヤミヤミは後退する。

 

「グゥゥ……闇乃……帳‼︎」

 

 再び、身体を闇に変えてガオパラディンを拘束しようと襲い掛かるヤミヤミ。だが突然、ガオパラディンの身体が光り出す。

 すると、状態はガオドラゴンの姿に戻り右翼の下にガオユニコーンを、左翼の下にガオグリフィンが装着されていた。

 

「ガオドラゴン・スピードモード‼︎」

 

 その状態で、闇化したヤミヤミの追撃を躱すガオドラゴン。その速さは、闇の浸食を上回り、掻い潜る様だった。

 空中まで昇ると、ガオドラゴンは旋回して闇の塊へと、ミサイルの如く突っ込んで行く。すると、闇は四散していき、其処へガオドラゴンは何度も何度も突撃を繰り返した。

 とうとう、保っていられなくなったヤミヤミは、元の姿へと戻る。しかし、ガオドラゴンの突撃により、かなりのダメージを受けてしまう。

 と、姿を戻したガオパラディンがヤミヤミの前に降り立つ。

 

「……ヌゥゥゥ……かくなる上は……オルグ忍法究極奥義! 鬼霊界封じの術‼︎」

 

 かつて、弟のドロドロが行った生涯に一度しか使えないオルグ忍法の禁じ手を使おうとするが、疲弊したヤミヤミの身体では既に、それを行う事は叶わない。

 ガオパラディンの胸部のガオドラゴンが、口を開ける。

 

「聖霊衝動! レインボープロミネンス‼︎」

 

 放たれるは虹色に輝く美しく雄大な光線。その光線は、ヤミヤミの身体を覆い尽くしていく。

 

「クッ…‼︎ まさか、最後の一手を詰め損なうとは、な……‼︎ 拙者も、ドロドロ同様の、うつけであったか…‼︎

 ……しかし……‼︎ 拙者の命を賭し、鬼還りの儀は完遂となる……貴様は何も……阻めては……‼︎」

 

 最後の断末魔を上げながら四鬼士の三人目、影のヤミヤミは消し炭の如く、崩れ去っていった。

 やがて、光が収まると、ガオパラディンが勝利の咆哮を上げた。

 

 

 

 戦いが終わり、ガオパラディンの足元にガオゴールドが降り立つ。其処へ大神、佐熊、美羽が駆け寄った。

 

「凄いぞ、陽‼︎ 良くやってくれた‼︎」

 

 大神は、ゴールドを称賛した。その言葉に、ゴールドは振り返りつつ前に倒れそうになる。

 其れを美羽が駆け寄り、抱き止めた。

 

「……大丈夫……力を使い果たした……だけだから……‼︎」

「さっきの変身、相当、体力を使う様じゃな……‼︎」

 

 佐熊は疲弊し切った陽を見て直感した。あれは一時のパワーアップは可能だが、ヤミヤミの言った通りに未だ、陽は力を完全には使い熟せていない。その足りない分の力は、陽の体力を消耗する形で補っているが、こう度々と使っていたら、陽の命を削り兼ねない……。

 大神も今回の件で痛感した。陽一人、抜けただけで、ヤミヤミに苦戦を強いられる体たらくでは、テンマやガオネメシスには歯が立たないだろう……。

 

「……ヤミヤミは言っていた……奴の命を賭して、鬼還りの儀は完遂させるって……」

「何と……⁉︎ それじゃ、鬼還りの儀を食い止める事は、もう……」

 

 重苦しい空気が流れた。だが、陽は首を振る。

 

「……ヤマラージャを倒せば……鬼地獄へ乗り込んで、ヤマラージャを倒せば……鬼還りの儀は防げる…‼︎」

 

 陽は疲れ果てて、壁に腰を下ろしながら仲間に伝える。ガオマスターが、レジェンド・パワーアニマルが言った言葉を……。

 と、その時、ガオズロックから、テトムが降りてきた。

 

「陽、大変! 大変よ‼︎」

 

 テトムは青い顔をしながら走って来た。

 

「どうした、テトム⁉︎」

「い、祈ちゃんが……‼︎」

 

 大神の質問に対し、テトムは恐々と答えた……。

 

 

 〜強敵、影のヤミヤミを討ち果たしたガオゴールド‼︎ しかし、鬼還りの儀は刻一刻の迫っており、更に祈の身に何かが起きた様子です‼︎

 果たして、祈の運命は⁉︎〜




ーオリジナルオルグ
 −影のヤミヤミ
 四鬼士の一角にして、オルグ忍軍の頭領。かつて、ガオレンジャー達と戦い追い詰めたデュークオルグ、ドロドロの兄。
 多彩なオルグ忍法に加え、研ぎ澄まされた体術、剣術の使い手。

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