帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

60 / 74
quest49 オルグ、宣戦布告‼︎

 鬼ヶ島内では、オルグ達が歓喜の声を上げていた。

 

「遂に、テンマ様はやられたぞ‼︎」

「俺達、オルグの時代が始まったのだ‼︎」

「テンマ様、バンザーイ‼︎」

 

 口々に、テンマを称える言葉を叫ぶオルグ達。彼等は待ち望んでいた。自分達の時代が始まる日を……前回、ガオレンジャーに敗れ去り、鬼ヶ島に隠れ住む事を余儀なくされてからも、再び表舞台に立つ日が来るのを指折り数えて待っていたのだ。

 もう隠れ住む必要は無い、堂々と振る舞えるのだ。それが、オルグ達からすれば嬉しくて仕方が無い……そんな風に和気藹々とするオルグ達を他所に一人、浮かない顔をしているオルグが居た。

 

「おい、見ろよ。ヤバイバの野郎だぜ?」

 

 一人のオルグが、ヤバイバを指差す。そして嘲りに満ちた顔をした。

 

「よくもまァ、デカい態度で此処に入れるよな? テンマ様も、少し甘いんじゃねェか?」

「散々、失敗して後が無くなったばかりか、テンマ様に反逆したんだろう? オルグの恥晒しだぜ」

「おまけに相方は、自分の復活させた恐竜オルグに喰われたってのに、テメェは生き残るなんて……プライド無いのかね?」

 

 そんな大っぴらな罵声が、ヤバイバの耳に突き刺さる。先の戦いで、ツエツエを喪ったヤバイバは鬼ヶ島に帰る他、無かった。

 しかし、彼を待っていたのは仲間達の暖かい言葉では無く、見下し切った冷たい陰口だった。

 ヤバイバ達が、ガオレンジャーへの幾多の敗北、ひいては恐竜オルグを蘇らせて反逆したと言う情報は、野火の如く鬼ヶ島内に広まり、今や、ヤバイバは鬼ヶ島に住むオルグ達全員から、オルゲット以下にも劣る存在へと成り下がっていた。

 しかし、ヤバイバは一言も反論しない。誰に何を言われても、黙々としているしか無いのだ。最初は、殴る蹴ると言った暴行を加えていたオルグ達も最近では、陰口こそ叩けど、手は出して来なくなった。

 

「ハッ‼︎ 面白くねェな、お前はよ‼︎」

「放っとけよ。あんな役立たずの木偶の坊に関わると、碌な事が無いぜ‼︎」

「これじゃ、混血鬼の摩魅以下だな‼︎」

 

 他のオルグ達は、馬鹿笑いしながら徹底的にヤバイバを扱き下ろした。しかし、ヤバイバには目的がある。ガオネメシスは約束したからだ。

 

 

 ー鬼還りの儀は無事に終われば、ツエツエに遭わせてやるー

 

 

 その言葉だけが、ヤバイバを繋ぎ止めていた。ツエツエとの再会、それがヤバイバの目的だ。

 何だかんだ言っても、ツエツエとは長いコンビだ。今更、彼女の居ない世界なんて考えられない。しかし、ツエツエとは二度と、会えないのだ。彼女は死んだ……だが、ガオネメシスなら、ひょっとしたらツエツエを生き返らせる方法を知っているかも知れない。それだけが、彼に残された最後の希望だった。

 ヤバイバは、ブツブツと繰り返す。

 

「これで、ツエツエと会える……ツエツエと会える……」

 

 そう呟きながら、ヤバイバは広間から出て行った。周りのオルグ達は、怪訝な表情を浮かべた。

 

「どうしたんだ、アイツ?」

「さぁな、遂にイカレちまったんじゃねェか?」

「あんなのに構うなよ。それより、これから忙しくなるぜ‼︎」

 

 ヤバイバの異変など取るに足らない、として、オルグ達はゾロゾロと出て行った。

 

 

 ヤバイバは、ガオネメシスに会おうと鬼ヶ島の最深部にある彼の居室を目指していた。鬼還りの儀は完遂した。後は約束通り、ツエツエを生き返らせて貰うだけだ。

 そして、彼の居室の前に着く。扉を開こうとすると……

 

「さァ、当初とは大分、予定は変更したが鬼還りの儀は執行された」

 

 〜うむ、ご苦労……〜

 

 ガオネメシスと共に聞いた事のない声がした。一体、誰と話しているのだろうか? ヤバイバは聞き耳を立てる。

 

 〜しかし、貴様も中々に酷な奴よの……あの混血鬼の娘のみならず、デュークオルグの男まで利用するとは……〜

 

「クック……ツエツエを生き返らせてやると嘘の情報をチラつかせたら、すぐ様に食いついて来たよ……」

「⁉︎」

 

 ヤバイバは自身の耳を疑う。扉に顔を押し付ける様に、耳を済ませる。

 

「だが、思ったより上手く行ったよ……万が一、四鬼士がしくじった時の保険として、ツエツエに恐竜オルグの情報を流しておいて正解だった……。ツエツエの事だから、強大な力を持つ恐竜オルグを手にすれば、テンマに反旗を翻す事は計画の範疇だったからな」

 

 〜そして、奴はその力に自ら溺れて無様に死んだ……まさに虫ケラに相応しい最期だった訳だ…〜

 

「ハハハ……違いない……」

 

 ガオネメシスは嘲笑した。ヤバイバは拳を握りしめる。自分は騙されていた事に気付いた。怒りに身を任せて、扉を叩き壊した。

 

「ガオネメシス、テメェ‼︎」

 

 激昂したヤバイバは武器である短刀を手に、部屋の中に雪崩れ込んだ。ネメシスは振り返ると、さして驚いた様子は見せない。

 

「何だ、貴様か? 何の様だ⁉︎」

「約束が違うじゃねェか⁉︎ 鬼還りの儀が行われたら、ツエツエを生き返らせてやると言ったのは、お前だろう⁉︎」

「ん〜? 約束が違う、だと? 何の話だ?」

「とぼけるな⁉︎ それに今の話を、バッチシ聞かせて貰ったぜ‼︎ お前が、四鬼士やツエツエを利用した末に使い殺した事もな‼︎」

 

 ヤバイバの怒声に対し、ガオネメシスは高笑いを上げた。

 

「フン……聞いていたのか? なら……もう隠していても仕方あるまい……。その通り、貴様は俺に利用されたのだよ‼︎」

「……じゃ、ツエツエは?」

「馬鹿め……今更、役立たずのツエツエを蘇らせて何のメリットがある? それに奴は一度、鬼地獄から生き返っているから、二度目は無いさ……恐竜オルグは、ガオレンジャーに倒された際に濃密な邪気を垂れ流して、大地を汚した。それにより、鬼還りの儀が、よりスムーズに執り行われる結果となる……。詰まる所、ツエツエは儀を完遂させる為の前座として、生贄になって貰ったのさ……」

「……テメェ……‼︎」

 

 抜け抜けと、ツエツエを蜥蜴の尻尾切りにしたと言い放つガオネメシスに対し、ヤバイバの怒りは限界に達した。

 少なくとも、ツエツエは最後までオルグの為に動いたのは事実である。テンマや四鬼士に見縊られながらも、彼女は彼女なりに行動していたのだ。それを、このガオネメシスと言う男は、あっさり見限り捨て駒にした、と言うのだから、ヤバイバは到底、許せるものでは無い。

 

「ガオネメシス……‼︎ テメェだけは……テメェだけは、絶対に許さねェ‼︎ ツエツエに仇を討ってやる‼︎ 

 

 ツエツエは間接的に言えば、この男に殺された様な物だ。力を求道する彼女に恐竜オルグの存在を流し、彼女が離反する様に仕向けたのだ。

 その末に、ガオレンジャーに敗北し最期は恐竜オルグの餌食となる事含めて、ガオネメシスの計画だったに違いない。

 短刀を手にしたヤバイバは、ガオネメシスの首元を斬り掛かる。しかし、ネメシスは気怠げに躱し、ヘルライオットでヤバイバの脚を殴打した。その際、机に置かれていたツエツエの杖が音を立てて、床に落ちる。

 

「グッ⁉︎」

「馬鹿め……貴様如きが、ガオネメシスに勝てるとでも思ったのか? だとしたら、ツエツエ同様にめでたい頭をしている……。あの女も恐竜オルグを手中にした後、自身がオルグの支配者になるなどと宣っていたが、あの様な小物は黙々と、テンマや四鬼士達の下で雑務でもこなしていれば良かったのだ……。欲をかいて、力を求めた結果……ご覧の有様だ。だから、ガオレンジャーに負けるのだ……」

 

 ガオネメシスは嘲笑う。確かに、ヤバイバにだけ言えた事では無いが、数多のオルグは、ガオレンジャーの力を過小評価し、己の力に驕る傾向があった。四鬼士の風のゴーゴ、水のヒヤータ、ツエツエ……何れも自身の力を絶対視した結果、ガオレンジャーに付け入られる隙を与えてしまった。人智を超えた力を持つが故、慢心し易い……それが、オルグ全体の最たる弱点とも言えた。

 ガオネメシスは倒れ伏すヤバイバの腹部に蹴りを入れ、仰向けにした。そのまま、彼の腹を踏み付ける。

 

「憎い……貴様等、オルグが……オルグを生み出す人間が……地球の化身を名代に君臨するだけの、パワーアニマルが憎い‼︎

 どいつもこいつも、姉さんの犠牲の上を生きている‼︎ 平和を享受し笑う人間達の声も、破壊を享受し嗤うオルグ達の声も……俺には、姉さんに対する侮辱にしか聞こえない‼︎」

 

 何時しか、ネメシスは個人的な怒りをヤバイバにぶつけ始めた。姉が命を賭して守った世界は所詮、守るに値する物では無い。要するに、姉は犬死にしたも同然だ。

 姉への深い愛情が憎悪へと変わり、抵抗出来ないヤバイバに対して理不尽に当たり散らす。

 

「仲間を生き返らせたい、だと⁉︎ 笑わせるな‼︎ 貴様等、掃き溜めから湧いて出たオルグが、人並みに仲間意識を匂わせるとは……この角は、飾りか⁉︎」

 

 倒れたまま動かないヤバイバの角を右手で掴んだネメシスは、万力の力を込める。すると角に亀裂が入り、ヤバイバは苦しむ。

 

「冷酷なオルグに徹する事も出来ない様な貴様に、オルグの証たる角は不要だろう? だから……こうしてくれる‼︎」

 

 ネメシスは腕を引っ張り上げる。すると、ヤバイバの角は根本から抜けて床を緑色の血が汚した。そうされても、ヤバイバは反抗する気力すら無い。ネメシスは忌々しげにも、舌打ちをした.

 

「ツエツエと言い、お前と言い……こうもあっさりと騙されるとはな……正しく、貴様は『道化』に相応しい男だ……」

 

「あらあらァ? 御冠ですわねェ、ネメシス様ァ♡」

 

 ニーコが厭らしく笑いながら、部屋に入ってきた。

 

「幾ら、テンマ様に先を越されたからってェ、八つ当たりは大人げ無いですよォ? そ・れ・と・も、ヤバイバちゃんに昔の自分を重ねちゃったりしましたァ?」

「……黙れ、ニーコ……! 次、何か抜かしたら、貴様も殺す…‼︎」

「あらァ、怖ァい♡」

 

 ガオネメシスの凄みを利かせた口調に、ニーコは悪びれる様子なく笑った。その際、ヤバイバは意識を取り戻し、ツエツエの杖が目に入る。

 

「つ…ツエツエ…‼︎」

 

 ヤバイバは手を伸ばし、杖を掴もうとする。しかし、それより先にニーコの大鎌が、杖を真っ二つに斬り裂いた。

 

「諦めなさいなァ、ヤバイバちゃん。もう、ツエツエちゃんは居ないのよォ?」

「つ…ツエ…ツエぇ…‼︎」

 

 ヤバイバは絶望に満ちた顔となった。尚も、ニーコは杖を足で踏み付け、グリグリと擦り潰した。残骸と化した杖を掬い上げようと、ヤバイバは手を伸ばすが、ガオネメシスによって腹部にヘルライオットの弾を撃ち込まれ、吹き飛ばされた。見るも哀れな姿に、ニーコはさも愉快そうにクスクス嗤う。

 

「惨めですねェ、ヤバイバちゃん? でも、良かったじゃ無い? ツエツエちゃんと同じ姿になれたんだからァ♡」

 

 今のヤバイバは角をへし折られ、死ぬ間際のツエツエ同様に、オルグとしては最も不名誉な『角無しオルグ』と化していた。

 オルグにとって角は自身の階級を示すのみならず、存在意義でもある。例え、折れてしまったとは言え、生涯に二度と生え変わる事は無い。

 要するに、ヤバイバはオルゲットにすら劣る低俗な鬼となってしまったのだ。打ち拉がれるヤバイバを尻目に、ガオネメシスは命令した。 

 

「もう、こいつに用は無い。片付けておけ‼︎」

「は〜い♡ オルゲット達、捨てちゃって!」

 

 まるで、ゴミでも捨てるかの様に冷淡に言い放つガオネメシスとニーコ。命令を聞いた数人のオルゲット達は動かなくなったヤバイバを担ぎ上げる。

 

「オルゲット、オルゲット‼︎」

 

 部屋の片隅にある穴に、ヤバイバはぞんざいに蹴り捨てられた。力無く、ヤバイバは転がり落ち、オルグリウムの最下層にある排出口から、地上へと落下して行った…。

 

 

「さて……役立たずは始末した……後は、テンマに任せて……我々は鬼地獄へと帰還するぞ‼︎」

「良いんですかァ? その身体、もう保ちませんよォ?」

 

 ニーコは意味深に言った。直後、ネメシスは苦しげに胸を抑える。

 

「構わん……どの道、ガオゴールドとは対峙する事になる……。奴が精神的に弱った時、幾らでもチャンスはあるさ……」

「はァい♡」

 

 そう言って、ガオネメシス達は鬼門を作り出した。しかし、ニーコはガオレッド達の姿が消えているのに気付く。

 

「そう言えば、ガオレッド達が居ませんねェ?」

「ん? テンマが移したよ。鬼還りの儀の生贄とする為にな……」

 

 ガオネメシスは、クックッと含み笑いを浮かべる。

 

 

 

「兄さん! 朝だよ、起きて!」

 

 祈の声がする。朝だから自分を起こす声だ。

 

「今日は、焼きそば作ったんだ‼︎ お母さんの味になってるかな?」

 

 初めて祈が作ったのは養母の得意としていた焼きそばだった。

 

「兄さん……兄さん……兄さん……」

 

 様々な場面の祈がフラッシュバックする。陽は手を伸ばそうとするが……。

 

 

「‼︎」

 

 陽は慌てて飛び起きた。自分が居たのは、ガオズロックの寝室だ。

 

「夢か……痛ッ…‼︎」

 

 全身に走る激痛に陽は顔を顰める。見れば、身体中が包帯で巻かれていた。その際、テトムが入って来た。

 

「まだ動いては駄目よ、陽……貴方、本当に死ぬ所だったんだから……」

 

 起き上がろうとする陽に対し、テトムは窘める。その言葉で、先程のテンマの戦いを思い出した。

 

「そうか……負けたんだ……‼︎」

 

 痛みと共に、悔しさと不甲斐なさが襲って来る。持てる限り全てを賭しても、テンマには及ばなかった。そして……自分は敗北した……その非情な現実を突きつけられる。

 

「貴方の所為じゃ無いわ……テンマの強さを図り損ねた私の……」

「それは、最初からテンマが強いと知っていれば、僕を行かせなかったと言う意味か?」

 

 陽は噛み付く様に、テトムを睨む。テトムは困惑した様に、陽を見た。

 

「所詮、僕はガオレッド達の様な真のガオの戦士にはなれなかった……だから、テンマには逆立ちしても勝てない……そう言いたいのか⁉︎」

「ち、違うわ……。ただ、私は……」

「何が違う⁉︎ テンマに、はっきり言われた‼︎ 僕の掲げる正義は、ガオレンジャーごっこだと‼︎ テトムだって、本当は……‼︎」

 

 パァン……室内に、乾いた音が響いた。いつの間にか、部屋に入って来た美羽が、息を荒げながら陽の前に立っていた。

 瞳には涙を浮かべ、怒りの表情で陽を睨んでいる。

 

「み…美羽…?」

 

 陽も、テトムも呆然とした面持ちで、美羽を見ていた。彼女は肩で息をしており、やがて大粒の涙を流しながら胸ぐらを掴む。

 

「テトムに当たって、どうすんの⁉︎ 負けた事は仕方ない、どうにもならなかった事じゃん⁉︎ 頭冷やしなよ‼︎ ガオレンジャーごっこ? 違うでしょ⁉︎ 陽は、選ばれたからなったんじゃ無い⁉︎」

 

 怒りに任せ、陽の胸を叩く。

 

「岳叔父さんが言ってた……『昔、俺達が苦しい戦いを強いられた時も、リーダーとして先陣切った奴が居た』って……‼︎ だから、岳叔父さんも最後まで戦い抜いたんじゃん‼︎

 今の陽は私達のリーダーなんだよ⁉︎ だから、着いて来たんじゃん‼︎

 ……今更、自分は駄目だった、力不足だった、みたいな風に言わないで……今、陽が折れたら……私達、どうすれば良いのよ⁉︎」

 

 美羽は心の丈をぶつける。陽は、ガオレッドの様なリーダーに、先代ガオレンジャーの様なチームにしようと躍起になっていた。

 リーダーとして、仲間の命も大切な人達の命も預かろうとしていた……しかし、それは、陽に重圧として伸し掛かる結果となった。

 

「……僕は……レッドの様な強い戦士にはなれない……皆を守る為に、どんな困難も乗り越えられる強い戦士には……」

 

「それは違うぞ、陽……」

 

 いつしか、入り口付近に同じく包帯を巻いた大神と佐熊が立っていた。

 

「……もし、レッドが此処に居たら、こう言うだろう……。『俺一人では、戦えなかった……』ってな……。それは、ガオレンジャー全員がそうだ。一人で出来る事なんか、たかが知れてる……だが、六人が集まれば、どんな強敵が来ても負ける気がしない……。一度、負けたら次で勝てば良い……俺達は、そう信じて来た……」

「陽よ……ワシは、ガオレッド達に会った事が無いし、どんな人間かも知らん……。だから、ワシは、お前さんをリーダーだと認めた上で、今日まで付いて来たんじゃ……」

 

 仲間達の言葉は、陽の胸に染み渡っていく。そして、最後に美羽は言った。

 

「一人で抱え込まないで……辛い時は私達を頼って……私達は、どんな時だって一緒じゃん……リーダー……‼︎」

 

 それは奇しくも、ガオイエローだった鷲尾岳が、リーダーにしてガオレッドだった獅子走に贈った言葉と全く同じだった……。

 仲間を救う為、仲間の幸せの為に時には無茶をして、我が身を犠牲にしかけた時もあった。

 そんな時、岳は走を叱責しつつも、彼を『リーダー』と言った。誰より、彼をリーダーとして認めていたのは、岳だった。

 美羽もまた、そんな叔父の持っていた熱い想いを胸に秘めている。テトムは陽と美羽の姿を、かつての走と岳に重ねた。

 テトムも涙を流す。世代を経ても、ガオレンジャーとして内に秘めたる信念は一緒であった事、かつて命を賭けて戦い抜いた勇者達の意思は間違いなく絶やされてなかった事を……。

 陽は涙を流しながら、皆を見る。

 

「美羽……大神さん……佐熊さん……テトム……ごめん…、そして……ありがとう……‼︎」

 

 陽は精一杯に伝えれる謝罪と感謝を告げた。自分一人では、此処まで来れなかった。辛い時は支えてくれる仲間が居たから……呼べば応えてくれる仲間が居たから……自分は決して折れなかった。

 

「よォ……そろそろ入って良いかな……?」

 

 大神と佐熊の後ろから声がする。二人が開けると、包帯を巻かれた猛、昇が入って来る。後に舞花と千鶴が居た。

 

「……すまねェ……話ちまったんだ……。陽がやってる事、全部……」

 

 猛は居た堪れなさそうに謝罪した。昇も同様だ。

 

「……あんな場面に出食わしたら、もう誤魔化し切れないし……其れに、もう嘘を吐くのも限界だった……」

「陽さん……ごめん……。実は、兄貴達から聞く前から何となく知ってた……。祈が私達に、何か隠してるって……」

「……私も……思い出しました……。悪い奴に騙されて、祈先輩を斬ろうとした時、助けてくれたのは、お兄さんだったって……」

 

 陽は、とうとう秘密が知られてしまった事に頭を抱えながらも、バレてしまった以上は隠し通す意味が無い、と悟る。

 

「……皆も、ごめん……巻き込んじゃって……」

「お前、さっきから謝ってばっかだな……』

 

 陽の謝罪に対し、猛はおどける様に言った。直後、舞花のローキックが為の脚に炸裂した。

 

「い、痛ェな‼︎ 何するんだよ、舞花⁉︎」

「馬鹿兄貴‼︎ 陽さんの気持ちを考えずに無神経過ぎだよ‼︎」

「……良いんだ……寧ろ、少し気が軽くなったよ……」

 

 二人に対し、フォローに入る陽。と、その刹那、こころが飛び込んで来た。

 

「大変だよ、テトム‼︎」

「こころ、どうしたの⁉︎」

「ガオの泉が…‼︎」

 

 

 

 こころに連れられ、ガオの泉に一同は集結した。陽は美羽に肩を借りて、やって来る。

 すると、ガオの泉は仄暗く濁り、泡立っていた。

 

「ガオの泉が濁っている⁉︎ こんな事、今までに一度も…⁉︎」

 

 テトムも予想だにしていない事態に慌てる。すると、ガオズロック前方にある窓から、野太い声がして来た。

 

 

 〜聞くが良い……平和な日常を享受する事しか出来ぬ、愚かな人間共よ…! 〜

 

 

 それは、テンマだった。しかし、体躯は非常に巨体で、オルグシードで巨大化したオルグ魔人をも遥かに上回る程だった。

 街全体を見下ろす様に、眺めている。

 

「あれは…⁉︎」

「恐らく幻影よ‼︎ 本体は、離れた場所に居る筈‼︎」

 

 テトムは目の前に現れたテンマが、実体では無い事を見抜いた。

 

 

 〜心して聞け、人間共‼︎ 我々、オルグ一族は古来より人間共の築き上げた下らぬ繁栄の影に潜み、生きてきた!

 貴様等は、やれ進歩だ、やれ発展だ、と題目を掲げて破壊、掠奪、戦争などと血みどろの歴史を繰り返して来た!

 全く持って、ご苦労な事だ! 貴様等は自分達の文明を繁栄して来たのではなく、我々、オルグの住み良い状況を創り上げていたに過ぎなかったのだ‼︎ 此処まで言えば、もう分かるだろう? この地球の支配者は、貴様等、人間では無い‼︎ 我々、オルグ一族こそが真の支配者だったのだ‼︎〜

 

 

 テンマは高らかに言い放つ。そして、下界を見ながら話を続けた。

 

 

 〜これからは、このテンマを筆頭にしたオルグ一族が地球を支配し、貴様等は我々の家畜として生きて貰う‼︎

 だが、心配するな……! 余は、貴様等を縛りつけようとはせん‼︎ 寧ろ、自由に振る舞え‼︎ 何故ならば、貴様等の放つ負の感情こそ、我々にとっては上質たる馳走となるのだからな‼︎

 しかし…‼︎ もし、余に歯向かおう等と下らない考えを起こせば……こうなるのだ‼︎〜

 

 

 テンマが、右手を上げる。すると地震が起こったかと思えば、建物を蹴散らしつつ木の根が出現した。更には地面から盛り上がりつつ、禍々しい巨樹が迫り上がってくる。

 

「あれは、オルグドラシル⁉︎」

 

 鬼地獄に群生し、邪気やオルゲットを垂れ流す魔性の巨樹オルグドラシル。それが出現し、竜胆市の真ん中に鎮座したのだ。 

 

 

 〜このオルグドラシルは貴様等、下賤な人間からすれば、有害である邪気を垂れ流す‼︎ 良いか? もし貴様等が余に対し反逆の意思を示せば、このオルグドラシルの根を通じて世界中に邪気を蔓延させ、貴様等の文明を崩壊させてくれるわ‼︎〜

 

 

「クッ……勝手な事を……‼︎」

 

 テンマの身勝手極まり無い発言に、大神は怒りを露わにした。

 

 

 〜さァ‼︎ 今日まで人の影に隠れて、歴史の片隅に追いやられていた我が同胞達よ‼︎ 今こそ、真の支配者は誰であるかを知らしめてやる時だ‼︎

 人間共を喰らい尽くせ‼︎ 暴れろ、鬼の一族達よ‼︎〜

 

 

 テンマは両手を掲げると同時に姿を消した。すると天から、地から有象無象のオルグ達が出現した。オルグ達は地上に降り立つと一斉に暴れ始めた。

 

「ハハハハ‼︎ もう我慢しなくて良いんだってよ‼︎」

「オルグの天下だ‼︎」

「殺せ! 人間共を殺し尽くせ‼︎」

 

 何れも二本、三本と言った地位の低いオルグ達ばかりだが、人間達からすれば、これ以上に脅威な事は無い。 

 陽達は、その地獄絵図さながらに悔しさを滲ませる。

 

「僕達の守って来た街が……‼︎」

 

 今迄、命懸けでオルグ達と戦い守り抜いた町が、たった一瞬で、オルグ達に陥落してしまった。鬼還りの儀、此処に完遂した瞬間である。

 

「……陽……落ち込んでいる場合では無いぞ……‼︎ こうなった以上、我々に出来る事は一つしか無い……‼︎」

 

 大神は陽を慰めつつも、喝を入れる。

 

「町中に蔓延したオルグ達を倒しても、鬼還りの儀により無尽蔵にオルグ達は攻め入って来るだろう……つまり、外堀を幾ら埋めても無駄だ…‼︎ 本丸に攻め入らなければ……‼︎」

「この場合は奴等の本拠地としている鬼地獄に行くべきじゃが、あれは行こうと思って行ける場所では無い……‼︎」

 

 一度、鬼地獄に生きながらに落ちた佐熊は鬼地獄の事を、良く知っている。しかし、あれは生贄となって封印されただけだ。実際に鬼地獄に行った訳では無い。

 

「なァ……鬼地獄? か、どうか知らないけどよ……」

 

 全く話について来れない風だった猛が、おずおずと言った。

 

「よく漫画なんかの展開だと、敵のアジトにしている船とか秘密基地とか出てくるじゃんよ? そう言った場所を探してみたら良いんじゃ無いか? 後は、あの祈ちゃんを攫った掌の化け物を締め上げて聞くのが、手っ取り早くね?」

 

 猛の、ふとした一言は陽達をポカンとさせた。

 

「そうか……鬼還りの儀を進めたのは、テンマだ……なら、テンマから聞き出せば……! ありがとう、猛‼︎」

「え⁉︎ いや、適当に言っただけだからよ……」

 

 陽に礼を言われながらも嬉しそうにする猛。それを見た昇と舞花は…

 

「コイツは、昔から考えなく核を突くな……」

「馬鹿兄貴の癖にね」

 

 と、褒めてるのか貶してるのか分からない評価をした。

 

「しかし……テンマが何処にいるか分からんぞ? 大体、テンマの所に行けたとしても、今のワシ等では返り討ちに遭うのが関の山じゃ無いか?」

「…確かに…」

 

 佐熊と大神は最もな発言をした。自分達では、テンマに手も足も出なかった。のこのこ奴に挑んでも、情報を聞き出す前にやられてしまうだろう。一同に重い空気が流れた。

 

 

「私に考えがある……」

 

 

 突然、声がした。すると、ガオマスターが立っていた。

 

「ツクヨミ様⁉︎ 何時から、其処に⁉︎」

 

 テトムが驚いた風だった。

 

「それより……済まない、陽……。テンマが前線に出て来たのは計算外だった。力を得たばかりの、お前では、テンマには敵わなかったのは分かっていたが……」

「いえ……僕が不甲斐ない所為で……」

 

 ガオマスターの謝罪に対し、陽は謝る。

 

「ガオマスター、策とは?」

 

 大神が尋ねた。

 

「テンマ、閻魔オルグと言った強敵達と戦うには、失われし都に行く他あるまい。あそこには、全てを凌駕する最強のパワーアニマルが眠っている……」

「最強?」

「そうだ……ガオドラゴン達と同様に、かつて姉さんに力を貸した最後の六聖獣、ガオフェニックスがな…」

「ガオマスター⁉︎ まだ、ガオフェニックスは……⁉︎」

 

 マスターの発言に対し、美羽は驚いた。しかし、テトムが聞いてきた。

 

「失われし都、と言うのは?」

「かつて、姉さんがオルグ達から人々を守る為に築き、人とパワーアニマル達の楽園として生まれた場所……邪馬台国だ」

 

 そう言って、ガオマスターは陽達を見る。彼等の瞳に僅かながら、希望の光が宿った。

 

 

 〜鬼還りの儀が始まり、人類に宣戦布告したオルグ達! テンマを倒し、オルグ達の侵攻を止める鍵は、ガオフェニックスと邪馬台国‼︎

 果たして、陽達はどうするのでしょうか⁉︎〜


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。