帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest50 それぞれの戦い‼︎

 竜胆市の町では、大変な惨劇が起きていた。

 突如、空に見た事の無い巨大な化け物が現れ「世界の支配者はオルグ」だと宣言したと同時に、空から多量の化け物達が降り注いできたからだ。化け物達は、瞬く間に街を侵略していき、人々を襲い始めた。

 

「ハッハッハッハ‼︎ やっぱり、シャバは良いぜェ‼︎」

 

 オルグの一角にして頭部から上半身がガドリング銃の形をした機関銃オルグが、笑いながら弾を撃ちまくる。

 

「ああ、全くだ‼︎ こちとら、二十年間も鬼ヶ島の中に缶詰めだったんだ‼︎ ストレス解消にゃ、持ってこいだぜ‼︎」

 

 別のオルグ魔人、胴体が手榴弾の形をした手榴弾オルグも、機関銃オルグに便乗して、両手に持つ手榴弾を投擲していく。

 

「うおォォォォ‼︎ 壊す、壊すゥ、壊すゥゥ‼︎」

 

 頭部と両手が砲門となったバズーカオルグが砲弾を連発する。その他にも大多数のオルグ達が、これ見よがしに暴れ回っていた。

 二十年もの間、オルグ達は鬼ヶ島に閉じ込められていた。しかし、彼等は反省の色を一つ、感じさせない。

 二十年間、鬼ヶ島内にて、彼等は破壊衝動を高めつつも自身の爪を研ぎ澄ましていた。そして、我慢の限界に達していた時、オルグ達の王テンマが有象無象のオルグ魔人達に命を下した。

 

 

「鬼還りの儀が行われた時、貴様等の積もり積もった怒りを解き放つ時だ‼︎」

 

 

 その言葉に暴発寸前だった彼等は一旦、怒りを飲み込み、来たる日に向けて待つ事にした。そして、鬼還りの儀が行われた今、遂に自分達の力を遺憾なく発揮される時が来たのだ。

 其処へ人間達が、破壊されたビルの中から隠れていた人間達が這い出てきた。

 

「見ろ‼︎ 人間共が出て来たぞ‼︎」

「人間狩りだ‼︎ オルゲット達、追い詰めろ‼︎」

 

 バズーカオルグは命令を出すと、オルゲット達が襲い掛かって行く。

 

「た、助けてェェ!!!」

「殺されるゥゥ‼︎」

 

 オルゲット達の襲撃に対し、無抵抗な人々は逃げ惑う。しかし、手榴弾オルグは彼等の眼前に手榴弾を投げ、爆発した。瓦礫の山となって、行手を阻まれてしまう。

 爆発に巻き込まれた人々は転倒し、追いついて来たオルゲット達に捕まってしまう。手に持った棍棒で、なす術なく殴打される人々。

 其処へ複数台のパトカーが駆けつけ、中から警棒や拳銃を装備した警官、更に防護服を身に纏った警官も参戦しる。

 一人の警官がスピーカーを手に…

 

「破壊行為を繰り返す犯人達に告ぐ‼︎ 直ちに武装を解除して、大人しく投降しなさい‼︎」

 

 と、オルグ達に威嚇した。市民を避難させながら、オルグ達に相対する警官達。しかし、一般人より強いレベルの警官と、オルグとでは差が違い過ぎる。オルゲット達は構う事なく、進撃して来る。

 

「最後の警告だ‼︎ 投降する意思が無いなら、強行突破する許可は下りている‼︎ 今すぐ、武装を解除しろ‼︎」

 

 そう言いながら、警官達は拳銃の安全装置を外して、オルゲット達に狙いを定める。だが、オルゲット達は歩みを止めない。

 

「クッ…撃て‼︎」

 

 抵抗の意思を感じられ、警官達は拳銃の引き金を引いた。撃ち出された弾丸が、オルゲットの命中する。しかし、オルゲットは少し仰け反っただけで再度、歩き続ける。

 

「馬鹿な⁉︎ 効いて無いのか⁉︎」

「急所だぞ⁉︎」

「撃て! 撃ちまくれ‼︎」

「もう、弾が……‼︎」

 

 警官達は当たっている筈なのに、ダメージを受けている様子の無いオルゲット達に驚愕する。

 元々、法治国家であり、内乱や戦争とも無縁だった日本警官が、低級にオルゲットでさえも脅威である。

 そうしてる間に、オルゲット達が警官達に接近して来た。  

 

「うわァァ!!?」

「た、退却、退却‼︎」

 

 人間の文明の利器である拳銃を持ってしても、オルグには傷一つ負わせられない。危機を感じた警官達は武器を投げ捨てて、逃げ出し始めた。

 その際、空からヘリコプターが現れ、ロープに伝わって、自衛隊員が降りて来る。

 

「化け物達に構うな‼︎ 怪我人の保護に努めろ‼︎」

 

 隊長と思しき、壮年の男性が叫ぶ。すると、若い隊員達は武器を構えて走り出す。オルゲット達は自衛隊員にも攻撃を仕掛けるが、俄か訓練仕込みの警官と異なり、実戦を想定した訓練を経験している彼等には、大きく梃子摺る結果となった。

 

「しゃらくせェ‼︎ これでも喰らえ‼︎」

 

 機関銃オルグが右腕のマシンガンを乱射した。マシンガンの弾丸が隊員達を撃つが、下に防弾チョッキを着込んでいる為、構わずに全身する。

 

「人間如きが調子に乗りやがって‼︎ これでも喰らいなァ‼︎」

 

 業を煮やしたバズーカオルグが頭部の砲門から、砲弾を撃ち出した。炸裂した砲弾は、隊員達を吹き飛ばしていく。

 

「くそッ‼︎ このままでは埒があかん‼︎ 俺が囮になるから、お前達は先に行け‼︎」

 

 隊長が、若い隊員達に促す。しかし、隊員達は…

 

「従えません!」

 

 と、一人の隊員が叫んだ。

 

「黙れ! 上官命令だぞ‼︎」

 

 隊長は怒鳴る。先のある彼等を死なせたくは無い、この場合は隊長である自分が囮役を引き受けるべきだと言い聞かせた。

 

「何と言われても俺達は隊長と共に行きますよ! 隊長を死なせたら、岳先輩に怒られちゃいます‼︎」

「……チッ……頑固者め! 勝手にしろ‼︎」

「はい、勝手にします‼︎ 行こうぜ、皆‼︎」.

「応‼︎」

 

 若い隊員達は一斉に、隊長に従い走り出す。前方を走る隊長は脳裏に浮かぶ戦友を思い出していた。

 

「(こいつらを見守っていてくれ‼︎ 我が戦友、鷲尾岳よ‼︎)」

 

 彼は航空自衛隊に配備されていた際、鷲尾岳と共に訓練を重ねた戦友だった。今は行方不明になっているが、彼は生きていると信じている。

 この場に居ない友に、思いを馳せながら日本国の守護を誇りとする若き戦士達は、人の浅ましき罪から産み堕とされた(オルグ)達へと向かって行った…。

 

 

 

 その頃、ガオズロックでは…

 

「や、邪馬台国⁉︎」

 

 陽達は驚いた顔をする。その名は日本人ならば、誰でも知っているビッグネームだ。

 邪馬台国……世界的に見れば、紀元前か若しくは、それ以上から栄えていた文明を持った国もある為、割と古くは無いが、日本から見れば最も最古に栄えた国家として知られる。

 女王、卑弥呼によって統治され、同時に彼女は神と交信する巫女でもあった。神の言葉を民衆に伝え、人々を導き国に安定と平穏を齎らしたとされる。

 しかし、未だに邪馬台国が存在したと言う明確な証拠は無く、神の言葉と言う不確かな観点から、邪馬台国は空想上の国家と認識する者も多数、居る。その邪馬台国が実は存在して、かつ、建国したのが、原初の巫女アマテラスだったとは……。

 

「なら……女王、卑弥呼って言うのは?」

「無論、姉アマテラスの事だ。長い年月の中、邪馬台国の真実が誤った形で語り継がれる内に、神の言葉を聴く卑弥呼として後世に、残ったに過ぎんのだ。姉さんからすれば、非常に不名誉な話だが……これも人の歴史が長く続いた影響か……」

「……何か、邪馬台国とか卑弥呼とか、ぶっ飛んだ話だな……。付いて行けねェ……」

 

 猛は自分達の知らない場所で行われていた非日常に、足を踏み入れた事を驚く事しか出来ない。

 しかし、昇は冷静に…

 

「……陽は、その“ぶっ飛んだ”話が当たり前の世界に関わり続けていた……。つまり、これは夢でも幻でも無い……現実なんだ……」

 

 と、目の前に起こる非日常を受け入れていた。

 

「……昇……お前の、その順応の早さ、たまに尊敬するわ……」

「兄貴は、もっと昇さんを見習いなよ!」

 

 舞花は、厳しく猛を叱る。千鶴は不安そうにしていた。

 

「祈先輩、大丈夫でしょうか? テトムさんから聞いたんですけど、先輩って、そのアマテラスって人の生まれ変わりなんですよね?

 じゃあ、オルグ達が祈先輩に酷い事をするんじゃ…‼︎」

 

 千鶴は攫われてしまった祈の安否が気になって仕方がない様だった。

 

「……多分、直ぐには手を出さない筈よ。奴等の目的は、鬼還りの儀の完遂だから、其れ迄は……人質みたいな風に扱われてる筈……」

 

 テトムは安心させようとして言ったが『多分』と言うのが引っかかってしまう。もしかしたら、テンマが功を焦って、祈に早々に手を出してしまう可能性だって無きにしも非ずだ。

 まして、今や竜胆市はオルグに蹂躙される無法地帯と化し、鬼還りの儀が本格化すれば日本全土、何れは世界全体がオルグに飲み込まれる事態と成るだろう…。

 つまり、事は一刻を争う。

 

「……ガオマスター……僕達は四鬼士の内、三人を倒して、此処まで来た……其れでも、テンマには歯が立たなかった……。

 教えて下さい…‼︎ 邪馬台国には、どうやって行けるのか……‼︎」

「勿論、そのつもりだ……しかし、邪馬台国に行くには、協力者が二人要る……。一人は、ガオフェニックスの加護を受けた鷲尾美羽……そして……」

 

 ガオマスターは外に目をやる。すると空の上に、ガオゴッドが現れた。

 

「荒神様‼︎」

「千年の友‼︎」

 

 ガオゴッドは、ガオマスターを見上げながら呟く、

 

「ガオゴッドよ……時は緊急を要する。遂に恐れていた事態が、起きてしまった……オルグ達は鬼還りの儀を皮切りに、全世界へと進出しようとしている……。今こそ、ガオフェニックスが覚醒する時だ!」

 

 〜その通りだ……ガオゴールド達の頑張りに応えて、先んじてオルグ達の本拠地を見つけ出そうとしたが、奴等は己達の本拠地である鬼ヶ島に結界を張って、姿を隠していたのだ……済まぬ……〜

 

 ガオゴッドは謝罪する。しかし、陽は止めさせる。

 

「それを言うなら、僕達にも責任があります……オルグ達の計略に踊らされて、真実を見抜けなかった……。

 教えて下さい、ガオゴッド‼︎ 最後のパワーアニマル、ガオフェニックスとは何なんですか⁉︎」

 

 陽は痛みを忘れ、ガオゴッドに尋ねた。彼は昔を語る様に話し出す。

 

 〜ガオフェニックスは文字通り、不死鳥……他のパワーアニマルと違い、永遠の生命を司り悠久の中を生き続けるレジェンド・パワーアニマルだ……。お前達が、かつて異世界にて邂逅したガオシェンロン同様、遥か昔、地上のエネルギーから、パワーアニマルを生み出した……。

 詰まる所、ガオフェニックスは全パワーアニマル達の母とも言える存在だ……〜

 

「パワーアニマル達の……母……」

 

 ガオドラゴンやガオライオン達、更に言えばガオゴッド達にとっても、ガオフェニックスは母に当たる存在……ガオフェニックスとは、どんなパワーアニマルなのだろうか?

 

 〜陽……そして美羽よ……。お前達を邪馬台国へと導こう……さァ、来るが良い……〜

 

 ガオゴッドは、手をかざす。すると、二人はフッと糸が切れた人形の様に、座り込んだ。

 

「ど、どうしたんだ⁉︎」

 

 猛は驚いた様に二人を見る。すると、二人の身体から半透明になった陽と美羽が出て来た。

 

「だァァァ!!? 幽霊だァ!!?」

 

 猛は二人の姿を見て腰を抜かしながら叫ぶ。昇は呆れた様に、猛を諭す。

 

「多分、二人の魂が抜け出たんだろう? あそこに居るのが、神様みたいな物なら、それくらい容易い筈だ」

「…あ…そ、そうか……でも、お前、随分と的確だな⁉︎」

「冷静な判断を取れているだけだよ、馬鹿兄貴と違ってね?」

 

 舞花は皮肉る。最も、昇もそうだが舞花、千鶴も最早、ツッコミを入れる気すら出ない。ここまで非常識な所まで来れば、何が起こっても驚くまい、と考えたのだ。

 

 陽と美羽は、自分達の抜け殻となった身体が下に倒れているのを見て所謂、幽体離脱をした状態だと分かった。

 痛みも疲労も空腹も感じない。しかし、自分の仮死状態となった身体を眺めるのは、あまり気分の良い物では無い。

 だが今は、そんな事を言っている場合では無い。

 

『ガオマスター、ガオゴッド‼︎ 早く連れて行って下さい‼︎』

 

 事態が事態なだけあり、今は時間が幾ら有っても惜しい。そんな、陽の思いを察したガオマスターは頷く。

 

「分かった……ガオゴッド、連れて行ってくれ! 彼等を邪馬台国に‼︎」

「ガオマスター、貴方は行かないのか?」

 

 大神は尋ねる。すると、ガオマスターは首を振った。

 

「……残念ながら、私は邪馬台国に入る事が出来ない。あそこは、時間の流れが現世とは違う……私は、生と死を捨てて現世に残る道を選んだ。私が邪馬台国の地を、二度と踏めなくなる事を条件に、ガオフェニックスと約束したのだ……。

 そう言った意味では、千年の時を越えて現世に生きる道を選んだ君達も、邪馬台国に入る事すらままならないだろう……あそこは聖域なのだ……」

 

 ガオマスターの言葉の真意は分からない。だが、彼の台詞を察するに、邪馬台国に行く事を拒絶している、若しくは拒絶されている立場にあるのかも知れない。

 

「それに、ガオゴールドとガオプラチナが抜けた今、地球のオルグの侵攻を食い止める者も必要だ。

 それが我々、ガオレンジャーの務めだろう?」

 

 妙に説得力のある台詞に、大神と佐熊は心を動かされる。確かに自分達の役目は、オルグから地球を、地球に住まう人々の命を守る事だ。

 

「そうだな……陽! お前の留守は、俺達が守る‼︎」

 

 大神が力強く言った。陽は頷く。

 

 

『よし、行こう! 邪馬台国へ‼︎』

 

 陽は美羽に呼び掛け、ガオゴッドの中に吸収される。そして、ガオゴッドと共に消滅した。

 

「力丸‼︎ 俺達も行こう‼︎」

「おう‼︎ オルグ達の好き勝手にさせていたら、癪じゃしのォ‼︎」

「お、俺も行くぜ‼︎ 俺達の町を守りてェ‼︎」

 

 大神と佐熊に続いて、猛も立ち上がる。それを、大神が厳しい目で見た。

 

「駄目だ‼︎ これは遊びじゃ無いんだ、此処に居ろ‼︎」

「な、何でだよ‼︎ 町には、俺達の家族も居るんだぞ‼︎」

「だからこそじゃ‼︎ 家族を守る為に、お前さんが命を落とす結果となったら、目も当てられんじゃろうが‼︎」

 

 佐熊も叱責する。言わずもがな、猛達は一般人である。剣道を嗜んでいるとは言え、素人に毛が生えた程度の実力しか無い彼等が、オルグに挑んでも返り討ちに遭うか、辛うじて健闘しても最後は一蹴されるのが関の山だ。

 

「貴方達は、陽の大切な友達よ? だったら、剣を振り上げる戦い方じゃ無くて、自分の身を守る為に隠れるのも戦いの一つよ」

「猛……俺達が付いて行っても足手纏いにしかならない……。第一、俺達に万が一の事があったら、陽の立場はどうなる? 此処に居よう……」

 

 テトムと昇の言葉に猛は頭に昇りかけた血が下がって行った。確かに、自分達は陽の親友だ。粋がるままに、オルグ達に挑んで命でも落とせば、陽は深い絶望に苛まれるだろう……。

 

「……兄貴……私達に出来る事は無傷で、陽さんや祈を待つ事だよ? それに……私だって嫌だよ……。兄貴が、殺されるなんて……」

 

 珍しく、弱々しい口調で舞花は言った。今日、起こった事は、まだ十四の彼女には刺激が強過ぎたのだろう。万が一、実兄である猛まで居なくなれば……そんな恐怖が、彼女の本心を曝け出す。

 

「祈先輩の事は心配だけど……彼女の悲しむ姿は私も見たくないです……」

「あァァ! 分かったよ、分かりました‼︎ 此処に居るよ‼︎」

 

 千鶴も、止める言動を取った事で猛は遂に折れた。

 

「その代わり、頼むよ‼︎ 俺達の町、守ってくれよな‼︎」

 

 今の自分に出来るのは町を守る事を彼等に託す事だ。大神は、その言葉に頷く。

 

「では、ガオマスター……陽が居ない今……」

「そうだな。陽が居ないとなれば当然、代行のリーダーが必要だ。そして、それを務めれるのは……大神月麿、君しか居るまい?」

「エッ?」

 

 思っても見ない言葉に大神は首を傾げた。てっきり、経験豊富なガオマスターこそが、陽不在のリーダーを務めると思っていたからだ。

 

「お前さん以外、誰がやるんじゃ? ワシは却下じゃぞ、リーダーなんて器じゃ無いからのォ……」

 

 佐熊は言った。それを言うなら、自分だってリーダーに相応しく無いだろう……ガオレッド達を見捨てて、更にはガオウルフ達も奪われ、責任を陽に全てを丸投げした自分には……。

 

「……シロガネ……貴方が、皆を助けられず逃げてしまった事を悔み続けていた事を私は知ってるわ……。

 ならば今こそ、その償いを果たしなさい! それが、貴方もケジメよ‼︎」

 

 テトムの叱咤に大神は、また逃げ出そうとしていた自分が腹立たしくなった。もう逃げるのは、辞めた筈だった。自身の分身とも言える狼鬼と戦った、あの日から……。

 大神は、陽と初めて邂逅した、あの日の事が脳裏に浮かぶ。出会った当初、彼は戦いを拒み死を恐れる普通の少年だった。

 そんな彼を自分は、危険な戦いから遠ざけたいと言う思いもあったとは言え、平和な日常を壊される事を懸念する少年に対し『臆病』だと、辛辣な言葉を浴びせてしまった。

 しかし、大神は、その事を深く後悔していた。経験の浅く頼りない、と侮っていた少年は、何時しか自分達にとって、無くてはならない存在へと昇華していた。

 だが、それは大神に戦士としての矜恃を失わせ掛けていた。成長する陽を後ろから見守るだけで、何もしない自分……其れでは駄目だ! 大神の心底に眠っていたガオシルバーが叫ぶ。

 大神は顔を上げる。

 

「……分かった……‼︎ 行こう、オルグ達から町を守る為に‼︎」

 

 彼の放った言葉は、佐熊とガオマスターを頷かせた……。

 

 

 その頃、町から離れた場所……何時しか、風のゴーゴと激戦を繰り広げた河原を動く影があった。

 それは、ガオネメシスにより、オルグリウムから放逐されたヤバイバだった。ツノは根本から無くなり、高所から落とされた為、全身に痛ましい傷が目立った。しかし、彼は生きていた。オルグ故、生命力の高い事が功を成したらしいが、ヤバイバは足取りは覚束ない。

 

「…ツエ…ツエ…」

 

 絞り出す様に、今は亡き相棒の名を呼ぶヤバイバ。しかし、それに返してくれる者は居ない。

 ヤバイバは、ツエツエを喪い、居場所までも失った。ガオネメシスは最初から、彼女を蘇らせる気など、さらさら無かったのだ。体良く利用された挙句、紙屑を捨てるかの様に、あっさりと切り捨てられた。

 滑稽……今の自分は、正に滑稽そのものだ。もう抗う気力も、理由も無くし果てていた。そして、そのまま倒れる。

 どうでも良い……そんか自暴自棄な感情が、彼を覆い尽くす。もう、ツエツエとは二度と会えない……だが、死ねば彼女に逢えるだろうか……等と考えながら、目を閉じようとする。

 その際、彼の周りに降り立つ五つの影があった。ヤバイバは、小さく目を開けた。

 

「あ、何や! 生きとるやん⁉︎」

 

 それは、オルグ忍者の生き残りにして、ヤミヤミの死により離散した鬼灯隊の面々だった。最初に話しかけたのは、ライだ。

 

「誰だよ、コイツ⁉︎」

 

 コノハが訝しそうに、ヤバイバを覗き込む。

 

「デュークオルグのヤバイバに違いない、でございます」

 

 ミナモが続ける様に言った。

 

「……死に掛けてる……」

 

 リクが無表情のまま、言った。

 

「テンマから、見捨てられたのか? 私達と同じか……」

 

 ホムラは、ヤバイバの顎を持ち上げながら言った。ヤバイバは弱々しい声で……

 

「……何の用だよ……惨めな俺を嘲笑いに来たのか?」

 

 と、捨て鉢になって言った。ホムラは、つまらなそうに手を離す。

 

「……私達は、テンマに…ひいては、ガオネメシスに騙されていた……」

「?」

 

 唐突に彼女の放った言葉に、ヤバイバは首を傾げる。

 

「私達は親方様より、鬼還りの儀により、オルグの為の楽園を築かれると聞かされ、任務を行なっていた……。 

 だが……鬼還りの儀の“本質”は全く、別の意図があったのだ……」

「……別の……意図……?」

「私達の調べた調査によれば……鬼還りの儀とは、地球そのものを滅ぼし、後には何も残らない事を指す…で、ございました…」

 

 ミナモは淡々と述べた。

 

「要するに…ウチらは嵌められたんや! 馬鹿にし腐って…‼︎」

 

 ライは怒りを滲ませながら毒吐いた。

 

「ああ…‼︎ 特に、あのガオネメシスの野郎だ‼︎ あいつの為に、親方様は……‼︎」

「……‼︎」

 

 コノハは、ヤミヤミの死さえも利用したガオネメシスへの怒りを表明し、リクも無言ながらも怒りを抱いている様だ。

 

「……親方様が命を捨てたのは、人間からオルグの時代を取り返す為だと信じていたからだ……しかし‼︎ これでは、親方様の犠牲となった意味が無い‼︎」

 

 珍しく憤りを見せるホムラ。敬愛する頭領を別の意図で使い殺された事は、どうしても許せないのだろう。

 しかし、ヤバイバは項垂れる。

 

「……ガオネメシスに、どうやって挑むんだ? アイツは強いぞ?」

 

 ヤバイバは自惚れるつもりはないが、自分もデュークオルグとして純粋な戦闘力のみなら、ガオレンジャーと戦えるだけの力は持っている。

 しかし、テンマ、四鬼士、ガオネメシスと言った規格外の強さを持った者には到底、敵わない。

 

「大丈夫だ。ガオネメシスの弱点を調べて、特定する事に成功した」

「ああ、実は奴の身体は……」

 

 ホムラは自分達の調べ上げた調査を、語り始める。ヤバイバは一度は踏み消された反逆の炎が、胸中にてメラメラと燃え上がるのを感じた…。

 

 

 

 竜胆市では、更に凄惨な状況となりつつあった。オルグ達は所狭しと暴れ回り、既に多数のビルが焼き崩れつつある。

 自衛隊員達は逃げ遅れた人達を救助しつつも、オルグへの反抗を続けたが、頼みの銃火器では、オルグに傷一つ負わせられ無い。

 既に突入した際の人数の半分が、オルグ達に倒されてしまい、残されたのは隊長と数名の隊員だけだ。

 

「……クッ……最早、これまでか……‼︎」

 

 隊長は先程の、手榴弾オルグの投げ付けた手榴弾により爆撃で右脚を負傷している。副官を務める隊員は、彼を肩で支えながら、サブマシンガンを片手で乱射した。

 だが、とうとう弾切れとなってしまう。眼前には、オルグ達が立ちはだかった。

 

「す、すみません……隊長……‼︎ もう弾が……‼︎」

「……謝るな……俺も、とっくに切れている……‼︎」

 

 そう言って、隊長は自身の持つ特殊拳銃をオルグ達に投げ付ける。しかし、機関銃オルグによって撃ち落とされ、踏み砕かれてしまった、

 

「ハッハッ‼︎ 抵抗してくれたなァ⁉︎ だが、此処までだぜ? さァ、銃殺刑と、洒落込もうか‼︎」

 

 機関銃オルグが両腕の機関銃を隊員達に向ける。急に隊長が、副官を後ろに押した。

 

「た、隊長…⁉︎」

「……やるなら、俺からやれ……‼︎」

「ギャハハハァ‼︎ 泣かせるねェ、部下思いの隊長さんよ‼︎ ならば望み通りに……先ずは部下から殺してやる‼︎」

 

 機関銃オルグは、部下より先に自分の命を差し出そうとした隊長を嘲笑うかの様に、既に負傷し満足に動く事が出来ない部下達を殺そうとした。元より、彼等の任務は竜胆市を制圧し陸の孤島とした状態で、住民を皆殺しにする事である。どちらを先に殺しても、全く影響は無い。

 

「よ、よせ‼︎ 止めてくれ‼︎」

 

 隊長は支えの無くなった状態でふらつきつつ、機関銃オルグの前に立ち塞が老としたが、バランスを崩して、そのまま倒れ込んでしまう。

 機関銃オルグは、残忍に笑いながら両腕の機関銃に力を込めた。

 と、その刹那、機関銃オルグの両腕が爆発した。

 

「があァァァッ!!?」

 

 見ると、機関銃オルグの肘から下が暴発した銃器の様に崩れ、黒煙と共に緑色の体液が噴き出しながら、悶え苦しんでいた。

 すると、隊員達を守る為に降り立つ三人の影……。

 

「が、ガオレンジャー⁉︎」

 

 機関銃オルグを攻撃したのは、ガオシルバーだ。遠方より、ガオハスラーロッドで狙撃し、銃撃を未然に防いだのだ。

 見知らぬ戦士達の登場に、隊長達は慌てる。

 

「き、君達は……⁉︎」

「早く、この場から去れ‼︎ 戦いに巻き込まれたいか⁉︎」

 

 ガオグレーが怒鳴る。そうして、隊長を副官が抱え上げた。

 

「……誰かは存じませんが、感謝します……‼︎」

 

 副官は礼を言いながら、その場から離れていく。他の意識を取り戻した隊員達も同様だ。

 

「……折角の楽しみを邪魔しやがって……‼︎ おーーい‼︎ ガオレンジャーが現れたぜ‼︎」

 

 機関銃オルグは他のオルグ達を集め始める。手榴弾オルグ、バズーカオルグ達が、呼び声に反応してやって来た。

 

「あ〜? コイツらか、俺達、オルグに逆らって犬みてェに嗅ぎ回ってる、ガオレンジャーって野良犬共は?」

「躾のなって無い駄犬は、このバズーカで躾けてやらねェとな‼︎」

 

 手榴弾オルグ、バズーカオルグは、それぞれの得物を携えながら、ガオレンジャー達に迫る。

 しかし、ガオシルバーは、ガオハスラーロッドを構えて彼等を威嚇した。

 

「お前等が、どれだけ暴れようとも、俺達が居る限りは絶対に好きにはさせない‼︎ この町は俺達、ガオレンジャーが守る‼︎」

 

 誇り高く、孤高の中でも尾を見せる事をしない銀狼の力強い咆哮が、オルグ達に向けられた。

 

 

 〜邪馬台国に導かれた陽に代わり、オルグ達との戦いに挑むガオシルバー達‼︎ 果たして、彼等は人々を守れるのでしょうか⁉︎

 そして、鬼灯隊の語る鬼還りの儀の真の意図とは⁉︎




機関銃オルグ、バズーカオルグ、手榴弾オルグは全話で、ヤバイバを馬鹿にしていたオルグです。

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