帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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※一週間、遅れた掲載をお許し下さい‼︎
仕事と家庭が多忙を極め、執筆もままならない状況でした‼︎
それでは、新話をどうぞ‼︎


quest55 鬼灯の花の下… 後編

 ヤバイバは、祈を連れて鬼ヶ島内部を走っていた。後ろから付いてくる彼女を、苛々しながら叫ぶ。

 

「さっさとしろよ‼︎ 俺は忙しいんだ‼︎」

 

 何故、彼女と行動を共にしなくてはならないかと言えば……あの後、鬼灯隊は、ガオレンジャーの潜入を知り…

 

『私達は、ガオレンジャーの下へ行く! 言っておくが、魏羅鮫はガオネメシスと対峙する時まで抜くなよ? 今は封印してあるが、もし一度、封印が解ければ、魏羅鮫の邪気が解放されて、お前の手に負えないオルグ魔人となるからな』

 

 と言って聞かせた。祈は、ガオの巫女の力を持つ為、万が一に魏羅鮫が暴走を始めても力を緩和出来る、として、ホムラに連れて行く様に強要されたが、ハッキリ言って足手纏いでしか無い。

 

「……あいつ等、俺にお荷物を押し付けたんじゃねェだろうな……‼︎」

 

 ヤバイバは、彼女達がガオレンジャーと戦う為の口実に、自分は利用されたんじゃ無かろうか、と疑念を抱くが、どうでも良い。

 今の自分には、ガオレンジャーに対する恨み等、小さな事だった。目的は、ガオネメシスに対する復讐……その為の力は得た。

 祈は後ろから、ヤバイバに尋ねる。

 

「あ、あの……」

「ああ⁉︎」

 

 ヤバイバは振り返らずに、返事した。

 

「さっきの話を少し聞いたんだけど……ガオネメシスに、復讐するって……」

「そうだよ! アイツの所為で、ツエツエは……‼︎」

 

 と呪詛を漏らす。その様子に、祈はポツリと言った。

 

「オルグにも、色んな考え方があるんですね……」

「? 何がだ⁉︎」

「オルグって……命を紙屑の様にしか考えていないものだと考えていたけど……貴方の様に、仲間の為に怒れるオルグも居るんだね……」

「⁉︎」

 

 祈の言葉に、ヤバイバは言葉を詰まらせる。確かに人間の(マイナス)から生まれたオルグには、命を軽んじて欲望の赴くままに、暴れ回る者が大半である。寧ろ、オルグにとっては本能とも言える感情だ。

 しかし……ヤバイバは、ツエツエの死を哀しみ彼女の命を粗末に扱った、ガオネメシスやテンマに対して怒りを抱いていた……。

 

「く…くだらねェ事を言ってんじゃ無ェよ‼︎ 俺だって……残忍なオルグなんだ‼︎ お前なんざ用が済めば……どうやって殺してやろうか、って考えてた所だ‼︎」

 

 と、ムキになって怒鳴る。祈は黙り込むが、ヤバイバは複雑な様子だ。

 

「(何なんだ、このガキは……‼︎ 調子狂うぜ……‼︎)」

 

 ヤバイバは、祈に見透かされた様な気がした。確かに、ヤバイバはツエツエに対する想い故、テンマに反旗を翻す決意をした……しかし、それ故に他者を思いやる、と言うオルグならではの残忍さが薄れた、とでも言うのだろうが?

 腐っても、ヤバイバはオルグである。例え、私用でオルグから脱したとは言え、その意思だけは残っている筈だ。

 ならば……この胸中に渦巻くモヤモヤは何だと言うのか?

 

「オルゲットォォッ!!!!」

 

 突然、暗闇からオルゲットが飛び出して来た。オルゲットは祈を捕まえようと飛び掛かる。

 

「キャアッ‼︎」

 

 祈は不意打ちに尻餅付き、抵抗が出来ない。其処へ、ヤバイバは自身のナイフでオルゲットを斬り捨てた。

 オルゲットは泡となって消えていく。ヤバイバは尻餅付く祈を見た。

 

「あの……ありがとう……」

 

 おずおずと、礼を言う祈。それに対して、ヤバイバは…

 

「ケッ‼︎」

 

 と、そっぽを向いて歩き出す。祈も彼の後に続いて、立ちあがろうとするが…

 

「痛ッ‼︎」

 

 祈は右足に激痛が走る。さっきの奇襲で足を挫いてしまったらしい。ヤバイバは振り返り、舌打ちをした。

 

「何してんだ、鈍臭いガキだな‼︎ 時間が無ェんだぞ⁉︎」

「ゴメン……」

 

 申し訳無さそうに謝る祈。その時、ヤバイバは祈を抱え上げた。

 

「え…⁉︎ 何…⁉︎」

「暴れんじゃ無ェよ‼︎ お前が来なかったら、話にならねェんだ‼︎」

 

 ぶっきらぼうに言いながら、ヤバイバは毒吐く。祈は慌てふためきながらも、ヤバイバに掴まった。

 

「(何をやってるんだ、俺は…⁉︎)」

 

 ヤバイバは内心、困惑していた。どうして、祈を助けようとした? どうして、見捨てなかった? ガオネメシスを倒す為の切り札だからか? それとも……。

 一体、自分はコイツを……どうしたいんだ……? ヤバイバは自問自答を続けながら、歩き続けた……。

 

 

 

 ガオレンジャーと鬼灯隊の戦いも、大きな転換を見せていた。ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンで、ホムラに向かって行く。

 

「オルグ忍法! 陽炎分身‼︎」

 

 灼熱にて六体の分身を作り出したホムラは、うち一体を犠牲にしながらも忍刀を、残りの五人でガオゴールドに襲い掛かる。

 

「避けてみろ‼︎」

 

 四方を塞ぎ、動きを封じたガオゴールドに、忍刀が突き刺さる。しかし、その瞬間、本体のホムラ以外の分身が斬り捨てられた。

 

「⁉︎」

「遅い!」

 

 奇襲を見破られた事に動揺したホムラは、その返しにガオゴールドの放った光弾を躱せず、腹部へと撃ち込まれた。

 ホムラは腹を押さえながらも、忍刀を構える。

 

 ガオグレーは、ミナモとリクを同時に相手していた。ミナモは空気中の水分を塊にして、手に浮かせる。

 

「オルグ忍法! 水弾幕‼︎」

 

 水の弾幕を発生さて、ガオグレーに襲い掛かる。しかし、グレーはグリズリーハンマーを振り回して弾幕を叩き落とす。

 だが、その隙にリクが背後に回り、リクに忍刀を振り下ろした。

 

「グッ⁉︎」

 

 ガオグレーは左腕を斬り付けられて仰反る。リクは、ニィィッと笑う。

 

「フフ……‼︎ 次は右腕? それとも左脚か右脚? 達磨にしてあげる…! フフフ……‼︎」

 

 リクは妖しく笑いながら、グレーに言った。ミナモは、水を忍刀に纏わせる。

 

「それとも、斬首して差し上げる…で、ございます…‼︎」

 

 そう言うと、ミナモは忍刀を伸ばしてガオグレーの首に伸びて来た。だが、グレーはグリズリーハンマーを力強く振り回す。

 すると、柄から鎖が伸びてハンマーが飛んできた。リーチの差で、ミナモを叩き付け、その状態で背後にいたリクごと吹き飛ばした。

 

「熊の剛力……舐めて貰ったら困る……‼︎」

 

 ガオグレーは、力強く勝ち誇る。ミナモは、グレーを睨み付けるが、リクだけは楽しそうだ。

 

 ガオプラチナは、ライとコノハを対峙する。

 

「よっしゃ、サッサ決めるで、コノハ‼︎」

「ああ、ライ‼︎」

 

 互いに息の合った連携プレイを用いた相性の良さで、プラチナを追い詰めに掛かる。プラチナは距離を取りながら、フェニックス・アローで狙い撃つ。しかし、何れも当たらずに躱された。

 

「はん‼︎ 矢なんか百本射たかて当たらへんわ‼︎」

 

 ライは侮蔑する様に言った。その隙に、コノハは両手に風を巻き起こす。

 

「オルグ忍法! 旋風払い‼︎」

 

 強烈な旋風を発生させて、ガオプラチナのバランスを崩させようとした。プラチナも何とか耐えるが、立て続けにライが忍刀に雷を纏わせた。

 

「オルグ忍法! 雷切一閃‼︎」

 

 目にも止まらぬ一閃を放ち、ガオプラチナに斬り捨てる。

 

「クッ…‼︎」

 

 元々、正面からの戦闘に慣れていないガオプラチナには、接近戦と遠距離戦の両方に隙の無い二人は、かなり相性が悪かった。

 

「よっしゃ‼︎ トドメや、コノハ!」

「おう‼︎」

 

 バランスを崩して、ふらついていたプラチナを、ライとコノハは左右から挟み撃ちにして、一気に仕留めようとした。

 しかし、ガオプラチナは諦めてない。フェニックス・アローを構えると翼状の弓が展開した。

 

「な⁉︎」

「……百本でも当たらない……けど、千本以上なら……躱せ無いでしょ‼︎」

 

 そう言って弦を引き絞る。すると、弓から無数の矢が連発して放たれる。二人の前方から、大多数の矢が津波の様に押し寄せて来た。

 

「あ、あかん‼︎ 躱し…‼︎」

 

 ライは何とか躱そうとするが、既に躱すには手遅れだった。ライとコノハは次々と矢に射抜かれて、遂に撃墜されてしまう。

 

「うゥゥ…‼︎ き、汚ェ…ぞ‼︎」

 

 コノハは、毒吐く。しかし、ガオプラチナはしれっとした様子で…

 

「五人掛かりで攻めてくる、アンタ達が余程、汚いじゃん? それに……私達だって遊びで戦ってるんじゃ無い! 勝つ為なら、どんな卑怯な手だって使うよ‼︎」

「……言うやないか……‼︎」

 

 フラつきながら立ち上がりつつも、ライは言った。

 

 

 追い詰めた、と思ったら再び、形勢を逆転されてしまい、鬼灯隊達の顔に焦りが見えた。

 ホムラは、リクを見る。何処か、リクはカクカクと挙動不審な態度を取っていた。

 

「……ま、まずいな……‼︎」

「アハッ…‼︎ 楽しい……戦い……! 楽しい……殺し合い……!」

「リク、落ち着きや‼︎」

 

 ライは慌てた様子で叫ぶ。しかし、リクは益々、壊れた操り人形の如く不安定な動きを見せる。

 

「おい……! これ、入っちまってんじゃねェか?」

「こうなっては……もう、手に負えません…で、ございます……‼︎」

 

 コノハとミナモも、恐る恐ると言った具合だ。

 

「な、何じゃ⁉︎ あの小娘、様子が変じゃぞ⁉︎」

「何? この異常な邪気は……⁉︎」

 

 ガオグレー、ガオプラチナもタダなら無い気配を察して警戒した。その時、リクは滴り落ちる血を右腕と共に上げる。

 

「オルグ忍法…血砂弾(けつさだん)…‼︎」

 

 リクが唱えると、彼女の血を含んだ砂が舞い上がり弾丸の様に、ガオゴールド達に襲い掛かった。

 

「クッ⁉︎」

 

 躱す余裕も無く、砂の弾を受けたガオゴールド達は、全身に負傷を負った。致命傷では無いが、不意打ちを受けた事によって精神的ダメージは大きい。

 

「アハハハハ‼︎ 当たった、当たった‼︎ 血がドピュッて、噴き出した‼︎」

 

 子供の様に、ケタケタと嗤いながらリクははしゃぐ。かなり精神的に不安定らしい。

 その状態で、忍刀を構えたリクは揺れたりしながら、ガオゴールドに突っ込んできた。

 

「アハハハ‼︎ 足りない、足りない‼︎ もっと血を流して‼︎ もっと苦しそうに足掻いて!!! もっと、もっと、もっとォォ‼︎」

 

 完全に壊れたリクは、刀を闇雲に振り回しながら、暴れ回る。ゴールドもソルサモナードラグーンで辛うじて防ぎながらも打開策を見い出そうとするが、リクの不規則な攻撃を読むのは困難だった。

 

「アハッ! アハッ‼︎ アハァッ!!! もっともっともっとォォ!!!」

 

 リクの狂気に侵された剣撃が、二度と三度と繰り出される。しかし、ガオゴールドは僅かに見えた。リクの攻撃の中にある隙を……。

 ゴールドは後退して、距離を取る。攻撃を外したリクは狂った目をゴールドに向ける。最早、正気とは思えない。

 彼女も摩魅同様、人間とオルグのハーフである混血鬼だと言う。相反する二つの血は、その者を此処まで歪めてしまうのか?

 

「アハハハハァァ!!!」

 

 遂に狂気の笑いを浮かべながら、リクは突撃してくる。其処へ、ガオゴールドはソルサモナードラグーンを横一直線に構えて、リクが眼前に迫った刹那……

 

「虹陽……竜剣‼︎」

 

 そのまま横に一閃する様に虹色に輝く刃を払う。すると、リクの身体から緑色の血が噴き出た。

 

「アハ……ハハ…ハハ……‼︎」

 

 リクは斬られながらも笑い続け、目を閉じて動かなくなった。

 

「り、リク‼︎」

 

 ホムラは絶命したリクを見て、声を張り上げた。

 

「て、テメェ‼︎」

「ぶち殺したる‼︎」

「コノハ、ライ‼︎ よしなさい、でございます‼︎」

 

 仲間を殺された事で我を忘れたコノハとライは、忍刀を振りかざしながら、ガオゴールドへと向かってくる。

 しかし、先程の読めない動きでは無く急所狙いである事は確定だった為、ガオグレーとガオプラチナはすかさず、反応した。

 

「破邪剛力衝‼︎」

鳳凰烈矢撃(ほうおうれつしげき)‼︎」

 

 グリズリー・ハンマーから放たれる衝撃波と、フェニックス・アローから放たれる煌めく光の矢が、それぞれコノハとライに直撃した。

 

「ぐァッ…‼︎ チックショ……こんな所で、アタイが……‼︎」

「堪忍、ホムラ……ミナモ……‼︎」

 

 二人は爆発する刹那、苦楽を共にして来た二人の仲間達に謝罪を述べながら、倒れ伏し爆炎の中に消えて行った。

 

「……おのれ……‼︎ ライとコノハまで……‼︎」

 

 ホムラは怒りに顔を歪ませる。少なくとも、自分達は個人の実力ならば、デュークオルグと同等……五人で組めば、ヤミヤミ以外のオルグ忍者とも対等に渡り合える強さはあると自負がある。

 その自分達が、手を捻るかの如く倒され、五人中の三人が倒された。

 

「……悪いけど、僕達も引けない理由がある……‼︎ 君達と戦うつもりは無い……どいてくれ‼︎」

 

 ガオゴールドは間接的ながら、二人を見逃そうとする。目的こそ異なるが、彼女達もテンマやガオネメシスに利用された被害者だった。何より、大切に思って来たヤミヤミを理由があったとは言え手に掛け、彼女達から奪ったのは自分達である。殺すのは忍びなかった。

 しかし、ホムラは怒りの目でゴールドを睨む。

 

「私達に同情でもする気か? 貴様は……我々を侮辱するのか‼︎ 私達は、オルグ忍者だ! 戦いの中で死ぬる覚悟は出来ている‼︎ 例え、此処で朽ち果てようとも……敵の情けを受けてまで生き延びようとは思わぬ‼︎」

「死んでいった仲間達や、親方様の意思は私が継いで行く‼︎ 此処を通りたくば……私達を殺して行きなさい、でございます‼︎」

 

 どうあっても退くつもりは無い二人に、ガオグレーはグリズリーハンマーを構える。

 

「ゴールドよ……敵に塩を送る、とは言うが残念ながら、其れを良しとせぬ者もいる……。奴等の気持ちを汲むなら、一思いにトドメを刺してやれ‼︎」

 

 グレーは戦士として、そして大切な仲間を失った者として、彼女達の気持ちが痛い程に分かった。

 しかし……決して譲れない物があった。オルグ忍者としての誇り……それが彼女達の退路を断ち、自ら破滅の道へと誘った。

 ゴールドも、その言葉で覚悟を決める。ソルサモナードラグーンを構えると、刃に光が込められて行く…。

 

「……できれば、君達とは……敵として出会いたく無かったよ……‼︎」

「それは、お互い様だ……! ガオの戦士とオルグ忍者……我々は戦い合う運命なのだ……‼︎

 ミナモ……行くぞ‼︎」

「承知! で、ございます‼︎」

 

 ホムラとミナモは駆け出す。ホムラの忍刀には炎が、ミナモの忍刀には水が纏われる。

 ガオゴールド、グレーも駆け出す。

 

「虹陽竜剣‼︎」「灰熊衝波‼︎」

 

「焔一閃‼︎」「激流一刀‼︎」

 

 互いに打ち出された一撃。しかし、鬼灯隊の負傷した身体では、強烈な一撃に耐える事は出来ない。更に二人の攻撃も加わり、倍返しとなってホムラとミナモも襲った。 

 ゴールドとグレーは未だ立っているホムラ、ミナモを見る。

 

「……私達の負けだ……」

 

 ホムラが言った。既に手負いの彼女は息をするのも苦しそうだ。

 

「……私の姉、ヒヤータは詰めの甘さで貴方達に敗れましたが……私も……相当に詰めが……甘かった、でございます……」

 

 ミナモは自虐げに呟く。そして、そのまま倒れた。

 

「血に染めし……刃を添えて……鬼灯の……

 朱花の下にて……我身土に帰す……。

 さらば……だ……ガオ……レンジャー……‼︎」

 

 時世を読み上げ、ホムラも倒れ伏した。溢れ出た緑色の血の海の中に沈んで行った……そして泡となって消えて行く。

 ガオゴールドは、マスクの下で何の高揚感も勝利の余韻を感じていない憂いを帯びた表情を浮かべていた。只々、虚しいだけの……。

 

「ゴールド……‼︎ 哀愁に耽っている場合じゃ無いぞ‼︎ 我々の倒すべき敵は、まだ居る……‼︎」

 

 グレーの叱責を受け、ゴールドは我に帰る。そうだ、真に倒す敵を倒さない限り、この戦いは終わらない。

 ゴールドは仲間達に振り返る。

 

「……行こう……時間を潰した!」

 

 憂いを払い飛ばし、ゴールドは仲間達を促しつつ走り出す。グレー、プラチナも後に続いた。

 しかし、戦場にて一人だけ残されていたリクの骸の指先が、三人の走り去った後、ピクリと動いた事に誰一人と気付かなかった……。    

 

 

 

 鬼の砦内にある、空間に歪みが入る広間……テンマは、すの歪みを見上げていた。部屋の五方には、結晶に封印されたガオレッド達が設置されている。

 結晶から、太めのコードを通じてエネルギーが吸収され益々、歪みが広がりつつある。しかし、テンマは何か違和感を感じていた。

 

「妙だ……エネルギーの配給が滞っている……」

 

 テンマは、本来なら鬼門がもっと広がっている筈なのに、中途半端な大きさで止まっている事に気付く。

 結晶を見渡すと、テンマは何かに気付いた。

 

「ふん……抵抗しているのか……。無駄な事をしおって……今更、抗った所で、鬼還りの儀が阻止出来る訳ではあるまいに……」

 

 ガオレッド達の思わぬ抵抗に対し、テンマは嘲る様に言った。

 既に計画は最終段階に達している。今更、どう足掻こうとも計画に一切、支障はきたさない……この鬼門が完成した時、地上はオルグに埋め尽くされて、このテンマが支配するオルグの世界が完成するのだ。 

 しかし……計画の障りになりそうな者が、このオルグリウムに乗り込んでいる……。ガオゴールド率いる、ガオレンジャー達だ。

 圧倒的な力を見せつけ、一度は牙を抜いた筈だった。しかし、奴等は性懲りも無く、やって来た……。

 

「……良かろう……今度こそ、完膚なきまでに叩き潰してくれる‼︎」

 

 そう言うと、テンマの背中にある掌が展開した。

 

 

 ガオゴールド達は、砦の間近までに迫っていた。あの中に、テンマが居る。奴を倒さなければ、地上の騒ぎが何時迄も続く。

 ゴールドは砦を見上げる。

 

「いよいよだな……‼︎」

 

 思えば長かった。ガオゴールドと戦う事を義務付けられ、何も分からぬまま、自身の納得も了解も出来ぬままに世界を救う戦士となった、あの日……それは全て、この瞬間の為だった。

 

「グレー‼︎」

「ん‼︎」

 

「プラチナ‼︎」

「ええ‼︎」

 

 ゴールドは後ろに立つ二人の仲間達を呼び掛ける。本来なら、シルバーも居てくれる筈だった。しかし、今や三人である。

 だが、砦内に囚われているガオレッド達を助け出せば……形成は逆転する。そんな決意が、ガオレンジャー達を歩み出させた。

 その時、三人の前に降り立つ二人の影……。

 

「グフォフォフォ‼︎ 来たぞ、来たぞ‼︎」

「バヒヒヒィィン‼︎ 来たぜ、来たぜ‼︎」

 

 それは過去に二回、戦ったヘル・デュークオルグ、ゴズとメズだった。

 

「お前達は、ゴズとメズ‼︎ しつこい奴等め‼︎」

 

 幾度と倒した二人組のオルグに対し、ゴールドは苦言を漏らす。

 

「グフォフォフォ‼︎ 俺達は、ヘル・デュークオルグ! 不死身だと言っただろうが‼︎」

「此処で待ち構えていれば、お前達がやってくると思っていたが……待った甲斐があったぜ‼︎」

 

 ゴズは鋭い棘付きの金棒を二本、メズはギザギザの鋸状の大太刀を二本、両手に持って、ニヤリと笑う。

 奴等を倒さなくては、砦には入れない。ガオゴールドは臨戦態勢に入るが……。

 

「ゴールド‼︎ 奴等はワシ等に任せィ‼︎」

 

 グレーが言った。ゴールドは驚いて振り返る。 

 

「何言ってるんですか⁉︎ あいつ等は二人だけで倒せる様な奴じゃ無い‼︎ グレーだって知ってるでしょう?」

 

 前回の戦いでは、グレーも参戦し、シルバーを含めた三人掛かりで挑んだが、それでも圧倒的な勝利には程遠かった。

 しかも、奴等の姿を見る限り、かなりパワーアップしていると見える。

 

「良いから、早く行け‼︎ 祈を助けるんじゃろうが‼︎」

「グレー‼︎」

 

 ゴールドは、グレーの必死な口調に、彼の思いを察する。意を決して、ゴズとメズを通り抜けるように走っていくゴールド。

 

「おっと‼︎ 此処は通さんぜ‼︎」

 

 走って来るゴールドを叩き潰さんと、ゴズは金棒を振り上げたが、プラチナの放つ光の矢が、ゴズの足を射抜いた。

 

「い、イテェ!!?」

 

 ゴズは足を抑えながら、のたうち回る。その隙に、ゴールドは走り去った。

 

「ありがとう、グレー! プラチナ!」

「私達も直ぐに追い掛ける‼︎」

 

 ゴールドの背に向かって、プラチナは叫んだ。ゴズは足を摩りながら、二人の前に立ちはだかった。

 

「やってくれるじゃねェか! なァ、メズの兄弟‼︎」

「おうよ、ゴズの兄弟! 望み通り、テメェ等から血祭りに上げてやろうか‼︎」

 

 メズも目を血走らせながら、睨みつけて来る。グレー、プラチナも臨戦に入る。

 

「さて……とっとと、始めようか‼︎」

 

 ガオグレーは、グリズリーハンマーを構えながら、ゴズとメズに言い放った。

 

 

 

 ゴズとメズを退けた後、ゴールドは単身にて砦の中に入った。内部は不気味な程に静まり返り、気配が感じられない。

 しかし、濃密な邪気が辺り一面を支配し、間違い無くテンマは此処に居ると言う確信があった。

 その時……。

 

『兄さん……』

 

 ふと、祈の声がした。ゴールドは声の方を見ると、祈が立っている。

 

「祈! 無事だったんだな‼︎」

 

 ゴールドは駆け出し、祈の下へ近寄る。しかし、その刹那、祈の姿は消えて、地面から漏れ出た闇の穴に包み込まれた。

 

「し、しまった‼︎ 罠か⁉︎」

 

 しかし気付くのが遅く、ゴールドは闇の中に飲み込まれていく。暫し、闇の中を落ちる様に下がっていくゴールド。

 下を見ると、祈が笑顔で微笑みつつ手を伸ばしているのが見えて、ゴールドは手を伸ばす。

 だが、あと少しと言う所でてがとどかず、ゴールドは地べたに叩きつけられた。

 

「こ、此処は?」

 

 ゴールドが落ちた空間が歪んだ広間だ。五方には水晶が安置され、その中には……。

 

「あれは……ガオレッド達⁉︎」

 

 其処に閉じ込められていたのは、ガオレンジャーのリーダーにしてガオレッド/獅子走、サブリーダーにして美羽の叔父のガオイエロー/鷲尾岳、切り込み隊長のガオブルー/鮫津海、力自慢のガオブラック/牛込草太郎、陽の従姉であるガオホワイト/大河冴……何れも、ガオの戦士達だ。

 

 

「ようこそ……我が城へ……。歓迎するぞ、ガオゴールド……‼︎」

 

 突然、響き渡る禍々しい声……ガオゴールドは声の方を見ると、眼前にある玉座に腰を下ろす、オルグの王テンマが居た。

 

「現れたな、テンマ‼︎」

「ククク……態々、祝福に来たのか? オルグが再び、地上の支配者として君臨する記念すべき日を……」

「違う‼︎ 止めに来たんだ‼︎ オルグの支配する世界を阻止する為‼︎」

 

 ゴールドの言葉に対し、テンマは高笑いを上げた。

 

「ハハハハ! 中々、面白き事を言うでは無いか? 貴様一人に何が出来るのだ? 貴様の仲間は、ゴズとメズによって引き離され、頼みのガオレッド達は水晶の牢獄の中……そして、この娘も……」

 

 テンマが自身の横を見る。其処には黒装束の衣装を着た摩魅が居た。

 

「摩魅‼︎」

「無駄だ! 最早、この娘には自分がオルグである、と言う記憶しか無いのだ! ……悲しむ事はない……間も無く、世界はオルグの物となる……オルグに逆らう人間など、全て滅びるのだ‼︎」

「そんな事はさせるものか‼︎」

 

 ガオゴールドは、テンマに言い放つ。その時、テンマは立ち上がった。

 

「ハハハハ……どうやら貴様等、人間の粗末な頭では、理解が出来ぬと見える……。良いだろう……貴様は、このテンマが直々に相手してやろう……。言っておくが、この前の様な半端な力では無い……本気の力を持ってしてな‼︎」

 

 そう言って、テンマは歩み始める。すると、テンマの身体に邪気が吸収されて行く。見る見る間に、テンマの身体は変異して行き、体格も三頭身の寸胴体型から八頭身のマッシブな物へと変わり、頭部から生えるオルグの証たる角も長く伸びた。両肩には掌の形をしたショルダーアーマー状の外骨格が、胸部には両手を閉じたチェストアーマー状の外骨格が形成されていき、背部の巨大な掌は大きく展開した。

 更に頭部から立髪の様な、漆黒のざんばら髪が生えており、まさに鬼と呼ぶに相応しい姿である。

 

「此れが余の真の姿! ハイネス・デューク、テンマ!、波旬の極みだ‼︎

 

 真の姿を現したテンマは修羅怨鬼剣を持つ。全身から凄まじい闘気を発した。

 

「ガオゴールド‼︎ 貴様に知らしめてやろう‼︎ この世界に相応しいのは、オルグの頂点へと昇り詰めた、このテンマだと言う事をな‼︎」

「ならば……僕も示してやるさ‼︎ 命ある所に正義の雄叫びを上げる戦士、ガオレンジャーの力を‼︎」

 

 ガオゴールドが高々に宣言した。自分が敗北する事は許されない。これは世界の運命を賭けた戦い……世界を守る為の孤独な戦いが幕を開けた‼︎

 

 

 

 一方、ガオズロック内では……寝室のベッドの上に寝かされた大神の姿があった。彼は眠る様に死んでいた。すっかり冷たくなり、もう彼は二度と目を覚まさない。

 と、そんな時……彼の上に光り輝くオーブが現れた。

 

 

 〜気高き銀狼よ……まだ貴方は死すべき時ではありません……貴方の力を必要としている者達が居ます……。

 さァ……シロガネ……目を醒ましなさい……〜

 

 

 何処からか、アマテラスの声が聞こえて、そのオーブは大神の骸の中へ入って行った。そして、見る見る間に大神の顔に血色が戻って行く……。




 〜遂に、オルグの王テンマに辿り着くが、仲間達と引き離され孤独な戦いを強いられる事となったガオゴールド!
 しかし、死亡した大神にアマテラスの声と彼に入り込んだオーブは、どの様な奇跡を起こすのでしょうか⁉︎〜

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